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イノベーションへの情報技術の影響

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愛知淑徳大学論集 一ビジネス学部篇一 創刊号

ネットワーク組織における

イノベーションへの情報技術の影響

一異業種交流グループのイノベーションを促進させる電子メールー

伊 東 俊 彦

Influence of the Infomlation][>chnology to the Innovation in a Network Organization

−E−mail which Promotes the Innovation in a Cross−lndustrial Association Group一

Toshihiko Ito

1.はじめに

 インターネットの発展とともに企業への電子メールの導入が進み、2001年時点で98%(企業 単位)に達したとの報告(1)がある。しかし、そのうち電子メールのユーザー数が従業員の100%

に達している企業は、わずか16%にすぎなかっだり。本研究対象のネットワーク組織でも結成 当初の導入率は15%(全構成員あたり)であった。しかし、結成後1年たたずに90%に、2年 目には100%に達した。

 ネットワーク組織では、異質なものの考え方をもった人材や組織が相互に交流することに よって、イノベーションすなわち新結合が起きやすい(寺本,1986)が、必ずしもイノベーショ ンが起きるわけではない。しかしネットワーク組織の全構成員が電子メールを活用できれば、

イノベーションの生成に大きな影響を与え、かなりの確立でイノベーションが起きるのではな いかということが本研究の問題意識である。本研究の対象であるネットワーク組織は結成当時、

活動がたいへん低調でこのままなくなってしまうのではないかという危機に見舞われていた。

その後、電子メールの活用をとおして協働開発が積極的に進められ、結成後4年ほどの間に新 商品の販売、3件の特許の申請などイノベーションと想定される成果がでた。同組織のイノ ベーションと想定される成果に電子メールが促進剤として大きく寄与したのではないか、とい

う仮説のもとに、それを論じるのが本稿の目的である。

 次章では、本稿に関係する先行研究についてみていく。

(2)

2.本研究に関連する先行研究

2.1イノベーションについて

 イノベーションについて初めて理論化したシュンペーターは、生産物、生産方法や生産手段 などの生産諸要素が非連続的に新結合すること、すなわちイノベーションが経済発展の原動力 であるとした(Schumpeter,1926)。彼は初め、イノベーションの主な担い手は新しい企業やそ の企業を支援する銀行家であると述べた。その後、イノベーションにはかなりの規模の資源が 必要なため、大企業のみがイノベーションを享受できるとした(Schumpeter, 1942)。

 しかし、シュンペーターの説(ibid.)は、現在のイノベーションが生起する場や状況をカバー できていないとする論者が多い。たとえば寺本(1986)は、むしろ組織の規模が小さいベン チャー企業の方がイノベーションに有利であるとしている。また、今井(et aL,1982)・寺本

(1986)は、イノベーションが生起する場が市場か組織かの二分法ではもはや捉えられず、そ の中間組織としてのネットワーク組織や企業間のイノベーションが多くあるとしている。

 イノベーションに関しては多くの研究があり、その視点も多様である。ドラッカーは事業活 動に着目し、イノベーションは顧客を創造する事業活動であるとしている(Drucker,1954)。野 中(1988、1994)は、イノベーションの本質に着目し、暗黙知と形式知のスパイラルがもたら す知識創造こそイノベーションであるとしている。今井(1984)・寺本(1986)は、イノベー ション生成の場や状況に着目し、ネットワーク組織によるイノベーションを中心に論じている。

今井(ibid.)は、イノベーションには2つあるとしている。それらは、目標設定による合理的 な研究開発活動から意図的に生み出されるイノベーションと、試行錯誤の過程から小さな改 良・革新、ランダムな新結合が累積して生み出されるイノベーションである。そしてネット ワーク組織では後者のインクリメンタルなイノベーションが典型的であるとしている。本研究 のスタンスもインクリメンタルなイノベーションを中心とする。

 次節ではネットワーク組織とそこにおけるイノベーションについてみていく。

2.2ネットワーク組織とイノベーション

(1)ネットワーク組織と2つのネットワークについて

 ネットワーク組織とは、ある関係の下に、ある程度まで継続的に連結されている個々の組織 という諸単位からなる統一体である。諸単位が個々の組織であるという意味で、ネットワーク 組織は、まとまった単一組織ではなく、複数の組織の相互連関的な形態であり、単一組織と全 体社会システムとの中間的なレベルの社会システムを構成するものである(寺本,1985)。

 ネットワーク組織における活動に着目すると、そこには定形型ネットワークと創発型ネット ワークの2つのタイプがある(ibid.)。定形型ネットワークは、全体の目標や構成メンバーの役 割と相互の関連性が事前に決定されているタイプである。そのネットワークの連結はタイトで、

中心化された構造をとり、フレキシブルな要素の結合は次第に困難になるシステムである。創 発型ネットワークは、機能的で水平的な結合関係を基盤に、目標、役割、関連性が必要に応じ て、そのつど決定されるという創造的なタスクとプログラム化されない部分をもっている。さ

(3)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響(伊東俊彦)

らにネットワークの連結はルースで、個々の要素が高い自律性を維持しているため、環境変化 に応じて柔軟な結合や組み換えが可能であり、思いもかけなかったような結合・連関が行われ

ることがある(ibid.)。

 次に本研究の対象でもある異業種交流グループのイノベーションについてみていく。

(2)異業種交流グループのイノベーションについて

 異業種交流グループは、異業種企業の交流による新技術・新製品開発などの技術革新を主な 目的とした創造性の実現を図るための組織間の活動を特徴としたネットワーク組織である(寺 本,1985)。ここで本稿のイノベーションの定義を「共同事業を企てることで、新しい事業機会 を開拓したり、共同開発を行うことで新技術開発や新製品開発という革新を実現すること」と する。異業種交流グループは創発型ネットワークを中核としており、それは中央の存在しない 周縁だけで構成されたルースなシステムであり、中央の管理から遠く離れ切り離されているた め、行動における自由さと柔軟さをもちうる。そのため、異業種交流グループはイノベーショ ンがおきやすい組織ともいえる(ibid.)。しかし創発型ネットワークは、時間の経過とともに ルースな結合からタイトな結合へと変化する可能性があり、タイトな結合へと変化すると、イ ノベーションが起きにくくなる。実際の異業種交流グループにはさまざまな種類があり、一概 に創発型ネットワークを十分に備えていると限定できるわけではない。

 寺本(1985)は、異業種交流グループの活動類型には2つあるとし、イノベーションとの関 連を論じている。1つ目の相互交換型においては、参加企業が各々の経営資源を交換すること によって自社の弱みの補強と強みの強化が行われる。2つ目の共同活動型においては、参加企 業が一定の共同事業を企てることで、新しい事業機会を開拓する。また共同活動型では、共同

開発や共同受注のために、各種の情報交換的な活動もあわせて行われている(ibid.)。

 異業種交流グループが相互交換型から共同活動型に進化するのに伴い、ネットワーク特性と しての公式性が高度化され、強化され、資源の交換・結合が密接になればなるほど、価値や行 動様式の共有化が進みより具体的で大きな成果が得られる。その反面、創発型ネットワークの 特性が薄れ、定形型ネットワークの特性へと変質してしまうようになる(ibid.)。すると創発型

ネットワークがもっていたイノベーションを促す機能は次第に弱まるという基本的なジレンマ が存在する。ネットワーク組織の活動が単純な相互交換型にとどまれば創発型ネットワークの 特性が薄れなくはなるが、そこでは共同活動も有効に行われないため、創造的・革新的なイノ ベーションも起こりにくくなるという基本的なジレンマが存在する(ibid.)。

 この解決のために一部の先進的な異業種交流グループでは次のような試みがなされている

(ibid.)。①参加メンバーの増加・減少を通じて一定期間内にある程度構成を変化させる。②サ ブグループを多様化し、時に応じて再編成する。③顧客・市場などの外部情報を広く取り入れ る。④メンバー間の複数グループへの参加を促進する。⑤他の異業種交流グループとの結合・

連関を図る。これらがネットワーク組織に対したえず変異、緊張、危機感などを与えることに よる「ゆらぎ」を発生させ、参加メンバーの主体的行動の多様性を促している。またはネット ワークを絶えず不均衡状態にすることにより、ネットワークを進化させようとしている(ibid.)。

(4)

 寺本(1986)は、京浜工業地帯に存在する中小企業の異業種交流の活動は極めてさかんであ るが、東京北西部の板橋区は、異業種交流の面で立ち遅れが指摘されているとしている。本研 究は、異業種交流が遅れているとされる板橋区に存在する異業種交流グループにおいて、電子 メールの活用によりまさにイノベーションが起きていることを検証するものである。

 次節では、コミュニケーション・メディアと電子メールの先行研究についてみていく。

2.3電子メールについて

(1)コミュニケーション・メディアと電子メールの位置づけ

 組織のコミュニケーションには、対面会議に代表される対話、文書のやりとりである手紙・

書類・メモが利用されている。ITを利用した分野では、電話、 FAX、電子メール、電子掲示板(2)、

テレビ会議などがあげられる。これらは単独使用もあるが、多くは一連のコミュニケーション の中で組み合わせて用いられれることが多い。たとえば詳細な数字情報や図面は電子メールで 先に送り、その後の打ち合わせを電話や対面会議で行ったり、対面会議や電話で始めのとっか かりの話をした上で、その後詳細情報のやりとりを電子メールで行ったりしている(3)。

 その中で、なんといっても対面会議は、暖昧ではっきりしない情報のやりとりや、かけひき の際によく使われる。これは対面会議のもつその場に居合わせて非言語情報(4)まで駆使して 瞬時に行われる相互作用により、曖昧な状況を明確にしていくという効果が高いためである。

 しかし遠隔地とコミュニケーションする場合には、電話とともに電子メールがよく使われる。

これは遠隔地の場合、その場に居合わせることが困難であり、電話を主なコミュニケーション 手段とし、ときどき電子メールを使ったり、その反対に最近は、電子メールを主なコミュニ ケーション手段とし、ときおり電話を使ったりすることがある。

 このように各種のコミュニケーション・メディアが企業組織で利用されるが、電子メールが もっとも使われているという報告もある(5)。その理由として、電子メールは情報交換が瞬時 に行えない(6)欠点をもっているが、それを埋め合わせる利点として、不在でも相手に情報を 送っておける、情報の蓄積機能がある、情報の転送機能や複数箇所への同時送付機能がある、

詳細情報を明確に伝達できるなどの利点があるからである(Sproul&Kiesler,1993)。

(2)メディア・リッチネスと電子メール

 ダフトとレンゲル(Daft&Lenge1,1986)は、コミュニケーションの概念を組織の情報処理 と捉え、組織の情報処理には情報がもつ2つの面への対処があると論じている。すなわち、組 織における情報の量的側面への対処は不確実性(組織の状況について情報が欠乏している程度)

の除去であるのに対し、情報の意味的側面への対処は多義性(組織の状況について曖昧で、複 数の対立する解釈が存在する程度)の除去である。組織がこの2つの異なる状況に対処するに は、異なる情報が要求される。不確実性の除去には、必要とされる(欠乏している)情報の量 を増やせばよいが、多義性の除去には、単純に情報を増やせばよいわけでなく、どのような情 報が要求されているかも一意に決まるものでない。そのため、とにかく情報処理を繰り返して いく中で、多義性の意味そのものを発見したり、多義的な状況の意味を創造したりしていくこ

(5)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響1伊東俊勘

とが必要である,このように何度もの相互作用をとおして多義性を除去するのにふさわしいコ ミュニケーション・メディアとして対話が選択されるとしている(ibid.)。対話は、メディア・

リッチネスがもっとも高いコミュニケーション・メディアであり、文書はそれがもっとも低い コミュニケーション・メディアであると位置づけている(ibid.),

 彼らは、対話、電話、文書などのコミュニケーション・メディアについて述べたが、電子メー ルのメディア・リッチネスは言及しなかったため、その後、電子メールのメディア・リッチネ スに関して両極の議論が起こった。電子メールのメディア・リッチネスが低いとする論者は、

電子メールの即時性の欠如に着目し、対話にくらべてはるかに劣るとしている(たとえば、

Kiesler et al.,1984,若林、1994)。それに対し、電子メールのメディア・リッチネスが低くない とする論者は、それぞれ主張が異なる部分もあるが、電子メールの即時性の欠如はあっても、

対話のように物理的・時間的な束縛から解放される点や、他頻度の情報交換が容易に行えるこ とに着目し、メディア・リッチネスは対面ほど高くはないが、決して低くはないとしている

(たとえば、Ngwenyama&Lee,1997, Walther, 1995,伊東・堀内,2002)。本研究では、電子メー ルのメディア・リッチネスは低くないとする。それとあわせて、電子メールは文字情報や数字 情報も容易に扱えるので、情報の不確実性への対処も容易なコミュニケーション・メディアと みることができる。

 次章では本研究の分析の手順と仮説モデルについて説明する。

3.分析の手順と仮説モデル

3.1分析の手順

 本研究の分析の手順を図1に示す(かっこ内は該当の章・節番号)。

 まず仮説の設定をし、それに基づきモデルを構築する。本研究の事例を説明したのち、その 検証を行い仮説の判定を行う。なお、事例は実際のネットワーク組織に著者も参加して見聞き

した内容に基づき検証するものとする。

(3.2)

明勾 ︵

(5.1)

(5.2)

       図1分析の手類

3.2仮説とモデル

 これまでの先行研究から、ネットワーク組織においてイノベーションを促進する電子メール の仮説とそのモデルを示して説明する。

(6)

(1)仮説

 本研究の仮説は以下のものとする。

・電子メールの活用はネットワーク組織のイノベーションの生成を促進するものである。

(2)仮説モデル

 本研究の仮説から構築したモデルを図2に示す、各要素とその関係について次に述べる。

①モデルの対象範囲

 本研究では、ネットワーク組織として異業種交流グループ(4章に詳述)の事例を取りあげ るため、ネットワーク組織という概念全体に普遍的に適用するものではない。

②創発型ネットワーク

 ネットワーク組織において創発型ネットワークが一定期間継続することがイノベーションの 生成に寄与するものとする(寺本,1985に基づく)。創発型ネットワークの内容は2.2(1)と(2)

で述べたとおりである。

③ジレンマ克服のしくみ

 ネットワーク組織の進化に伴い、創発型ネットワークが主流の状態から定形型ネットワーク が主流の状態に移っていくが、その問題に対処するのがジレンマ克服のしくみ(2.2(2)の5つ の対策)であるとする(寺本,1985に基づく)。

③ジレンマ克服  のしくみ

目2仮誕モチ,し

④電子メール活用

 「電子メール活用」とは、ただ単に電子メールが導入されているのではなく、それが日々使わ れており、組織構成員のほとんどの間のコミュニケーションが問題なくできることとする。ま た、電子メールはメディア・リッチネスが低くないと想定することによって、企業のコミュニ ケーションにおいて、情報の多義性への対処に利用できるものとされる。また電子メールの特 性により、文字情報や数字情報のやりとりによる情報の不確実性への対処も容易にできる、

 仮説モデルに示すように電子メールは、創発型ネットワークがイノベーションの生成に、よ り強く影響するような促進剤として働く。それと同様に、ジレンマ克服のしくみが創発型ネッ トワークに、より有効に働くようにその促進剤としての役割を果たす。

⑤イノベーションの生成

 イノベーションの生成とは、共同事業を企てることで、新しい事業機会を開拓したり、共同

(7)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響(伊東俊彦)

開発を行うことで新技術開発や新製品開発という革新を実現することとする(2.2(2)に基づく)。

 次章では、本研究の事例について説明する。

4.事例の説明 4.1対象組織と活動年度

(1)対象組織について

 本研究の対象組織は、「ものづくりネット板橋の」と呼ばれる東京都板橋区を中心とした小規 模企業20社(結成時)からなる異業種交流グループで2000年3月に結成された。構成員である 各企業は「ものづくり業界」と呼ばれる下請け・孫請けの製造業である。親企業の製造部門が 海外へ転出し、産業の空洞化が進んでいる中で、同グループの中心となる金属加工業では、加 工賃金低下の圧力が増す中で小規模企業の倒産、吸収合併の動きが激しく、同20社がおかれて いる環境も年間売り上げが半減する中で間違えぱ倒産という状態であった。

 そのような状況の打開のため板橋区が呼びかけ、ビジネス開発を共同して行っていく「もの づくりネット板橋(以降「MNI」と略す)」が発足した。このようなネットワーク組織は東京都 大田区や東大阪市など各地にみられるが、それらと比べて小規模な組織といえる。MNI発足時 の会員企業は、資本金1,400万円以下、社員数14名以下(社長を含む)で、平均社員数は5.5人で ある。創業はもっとも古い会社が1947年で、株式会社6社、有限会社14社である。MNIの事務 局は中小企業の支援をビジネスにしている有限会社社長が担当している。同社長は、ビジネス としてMNIの事務作業とコーディネート活動支援事業(8)のプロジェクト全体のマネジメントを 担当し、プロジェクトのメンバーではあるがMNIの正規メンバーではない。またMNIの物理的 な事務所は存在しないため、MNIの例会は、板橋区の関連施設にある会議室をその都度借用し 開催している。分科会の会合も同様である。

 MNIの会員企業は結成時20社(事務局を除く)であったが、2003年12月まで継続しているの はそのうち6割にあたる12社である。同月の会員は18社(うち2社は個人企業、1名は個人会 員)である。同月の平均社員数(社長含む)は5.7人である。MNIはルースなネットワーク組織 という性質上移動が激しく、多いときは22社が参加していたが、1年で退出した会社も数社あ

る。

(2)活動年度について

 MNIは板橋区商工振興課や地域中小企業診断士の支援により、旧通産省の「コーディネート 活動支援事業」を2000年5月に申請し、7月に承認がおりた。8月から「MNIのコーディネー

ト活動支援事業(以降MIC−P(ものづくりネット板橋コーディネート活動プロジェクト)と略す)」

が開始された。MIC−Pは当初、企業経営者と中小企業診断士からなるコーディネータ(5名)、

大学教員、中小企業診断士、シンクタンク社員からなる専門家委員 (6名)、およびコーディ ネートを受ける対象企業のメンバー(MNI会員)で構成された。 MIC−Pは合計4期(第1期〜

第4期まで)実施され、その期間すべてに著者も参加している。次にMNIとMIC−Pの活動年度を 示す。なおMNI 5年度の終了時期は予定である。

(8)

①2(㎜年3月〜2001年3月(MNI初年度)→2㎜年8月〜2001年2月(V皿C−P第1期)

②2001年4月〜2002年3月(MNI 2年度)→2001年8月〜2002年2月(MIC−PaS 2期)

③2002年4月〜2003年3月(MNI 3年度)→2002年8月〜2003年2月(MIC−P第3期)

④2003年4月〜2004年3月(MM 4年度)→2003年8月〜2004年2月(MIC−P第4期)

⑤2004年4月一2005年3月(㎜5年度):5 iNtiMIC−Pはなく㎜単独活動である。

4.2初年度の状況(MIC・P第1期)

(1)MN廃足時

 2㎜年3月にMNIが発足し、「テクノピア2㎜東京(9)」へ共同出展したが成約に結びつくもの はなかった。そのため展示会が終わると、目標として掲げた共同受注をどのように実現するの か方策のない中で活動は停止していた。この時期のMNIのコミュニケーション・メディアは電 話とFAXであった。 MNIの将来へ向けての議論をしようにも月に1回の会合以外に容易な情報 交換の手段をもたないという問題があった。

 2000年8月から、「コーディネート活動支援事業」が開始され外部支援者を含めたMIC−Pの活 動が始まった。しかしMNI会員の中には被害者意識を持つメンバーが何人もいる状態であった。

MIC−Pでは、「共同受注へ向けての活動の具体化」、「情報共有へ向けての活動」、「外へ向けての 情#発信」という活動の3本柱は立てられたが具体的内容がなにも決まらなかった。MNIメン バーからは後ろ向きな発言が多く出た。彼らにとってMIC−Pの活動は他人事なのである。 MNI

というネットワーク組織は機能をほとんど果たしていない状態であった。

{2)メーリングリスト開始以降

 MIC−Pの閉塞状態を打開するため、コーディネータの中心人物と専門家委員だけで、 MICP         表lMNIコミュニケーション・メディア(2003年6月)

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(9)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技街の影響(伊東俊彦)

の方針を議論する目的で、同年9月にメーリングリスト(10}(表1のID17)を強制的に立ち上げ た。参加人数は7人と少なかったが、全員が普段電子メールをよく利用しているため、コー ディネータと専門家委員との間の意見交換という相互作用が進んだ。これにより、毎月のMIC−

Pの会合において彼らがリーダーシップをとれるようになった。この小さな成功からMIC−Pが 始動し出した。MIC−Pの7名による、メーリングリストの利用は対面会議と同様な効果をもた らした。たとえば、メーリングリストにより、MIC−Pの運営方法や今後の方針などについての 積極的な意見交換やアイデア創出に大いに役立った。このような利用のされ方から、同メーリ

ングリストは不確実性の削減だけでなく一部多義性の削減までを含めたメディア・リッチネス が高い範囲まで活用されたものと考えられる。

 その後同年10月にはMNIメンバーの有志から、メーリングリストをMNIの正規メンバーでも 立ち上げようという提案がなされ実行された(表1のID10)。さらに11月にはMIC−P専用のメー

リングリストも開設された(表1のID 9)。しかし、 MNIのメンバーの多くが会社にパソコンを 設置していない(パソコンの設置は6社で、うち電子メール使用可能は3社(事務局を含めて

4社))という問題があった。またメーリングリストを使うためにはまずパソコンの使い方を学 び、その便利さを認識する必要があった。

(3)パソコン教室とホームページ開始以降

 パソコンに慣れるため、MIC−Pのコーディネータが先生となり、自主的なパソコン教室が同 年12月に開かれた。パソコン教室へ参加すると毛嫌いしていたメンバーの多くは、もともとも のづくりの高度なスキルやノウハウがあるためか、意外と習得が速く、またパソコンに興味を もつようになった。さっそく数社が自社用のパソコンを購入した。第1期に4回(3月まで)

開催されたパソコン教室の成果で、MNIとMIC−Pのメーリングリストが本格的に機能しだした。

電子メールとメーリングリスト(以降これらを「メール等」と称する)を使いだすと彼らは、

「相手を煩わせないで結構なことまで情報交換できること」を認識しだした。さらに「複数会 社での工程のやりくり」、「MIC−Pの進め方への議論」、「将来のビジネスへ向けてめ議論」など がメール等で交わされるようになった。まだまだその利用範囲は多義性の削減のレベルまでは いかないが、メンバー間の情報交換にメール等がよく使われるようになった。

 同年12月にようやくホームページ(以降HPと略す。表1のID11)が立ち上がり、MNIのより どころができた。以下はMNI会員からメーリングリストのID 9に送られた年末のメッセージの 内容である。メール等の活用で意識が変わってきていることがわかる。

  毎々お世話になっております。(有)XXXXX山田太郎(仮名)です。

  今年1年間、皆様にはほんとうにお世話になりました。ありがとうございました。

  「ものづくりネット板橋」に参加をしたおかげで、私ひとり・弊社1社ではなかなかでき   ないことを体験できました。

  「テクノピア2000東京」「いたばし産業見本市2000」に出展。会員相互の工場見学会や例会・

  会合後のワイガヤ では皆様との親交を深めることができ、お酒もちょっぴり飲めるよう   になりました。各セミナーでは、多様なお話しが拝聴でき、情報の引き出しの数を増やす

(10)

  ことができました。また、9月には「ものづくりネット板橋」空中分解の危機!があり、

  打ち合せを繰り返し、 悩んだり、かっか したことを思い出します。

  各位がメールアドレスを保有してメーリングリストによる情報交換ができるようになりま   した。そしてホームページの作成〜開設へと継続しています。また、12月にはパソコン教   室が2回開催され、基本から教わることができました。

  感謝!でいっぱいです。

 また見積の情報交換はHPサーバー提供の電子メール(2001年3月からメーリングリストへ移 行)で、それ以外はメーリングリストで、という自主的な使い分けもされている。見積の過程 では定型的なメッセージが交換され、そのプロセスも規定されている。

4.32年度の状況(MIC−P第2期)

 2年度のMIC−Pが2001年8月に再開された。 MNIメンバーの意識は2000年夏の状況とは大き く変わった。『自分たちでもなにかできるぞ。』という意識で発言する者が多くなってきた。

2000年秋までは『共同受注などはできない。』と言っていたのが、『自分たちのできる範囲で共 同していけばよい。』と前向きの発言をするようになってきた。「共同受注」という言葉は「協 働受注」へ変わった。受注に向けてともに働く方向で活動することが目的であって、共同受注 はその手段のひとつ、と認識するようになった。たとえ共同受注ができなくても「仕事の協働」

ができれば、その方がビジネスにより有効ではないか、と考えるようになった。

 MNIのメンバーがこのような柔軟な、かつ共通の認識をもつことに関して、メール等の果た した役割は大きいと想定される。メール等は、対面会議を補完する以上にMNIの活動に強い影 響をもたらしたのである。毎日のように誰かがメール等に意見を送っている。たわいもない 意見もでるようになったが、これはメンバー間のコミュニケーションが抜群に改善されたため である。

 2年度の春(2001年4月)に戻るが、『協働開発により新たな製品を作りたい。』と言い出す 者が出てきた。以下はMNI会員からメーリングリスト(表1のID 9)に送られたものである。

  XXXの斎藤(仮名)です。

  先ほどNHKの番組で私たちと同じ様な活動をしているグループを放送していました。

  道路の白線を引く機械を共同で設計、製作してホームページに載せる。パソコン教室など   は私たちと同じようでした。でも、私たちより「1歩先をいっている」と感じ、何かしな   ければと、ちょっとあせりを覚えました。

  「必要は発明の母」と申します。何でもいいからアイデアを持ち寄って話し合いましょう。

 それに追随する者も何人か出てきて、MNIとしての意識の一体感が強く生まれてきた。協働 開発の分科会が3つでき、分科会では5つの試作品(ll)が生み出された。そのうちの一つである 紫外線検知カード(UVカード)が3年度では商品になって販売されている。

また、HPを活用した仮想的な製品展示会(バーチャル展示会)を2002年1月中旬から3月末ま で開催した。この展示会は予想以上の述べ7,000というHP来訪者をカウントした。こうした活

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ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響(伊東俊彦)

動は、各種の外部雑誌にも紹介され〔12,、それがMNIメンバーの意識変化にポジティブに影響し たと想定される。

 第2期において、一部のメンバーの間ではメディア・リッチネスの比較的高いレベルまで メール等の活用ができるようになってきたと想定される。たとえば、加工を共同作業で行う際 の問題のアイデア出し、展示会のレイアウトの工夫や分科会で開発している試作品を紹介する パンフレット作成(キャッチ文や文章のレイアウト)のための意見交換なども、メール等で迅 速に行われるようになったからである。また、定型的なメッセージはより正確に書くようにな り、メディア・リッチネスの比較的高い領域でも低い領域でもコンテクスト(13)に依存しすぎて メッセージを簡略化しすぎると、うまく伝わらないという学習もできてきていた。

4.43年度の状況(MIC−P第3期)

 3年度の第3期MIC−Pが始まる最初の定例会議(2002年8月)の休憩時間に、 MNI会長はMIC−

Pの専門家委員に向かって次に示すように述べている。

  『2年前の後ろ向きの気持ちは、いまはどのメンバーにも見られないでしょ。みんなが協   働すれば自分たちにもなにかできると考えているんです。実際に4つの分科会では今まで   考えられなかった新しい取り組みがスタートしています。』

リップナックとスタンプス(Lipnack&Stamp⑨,1982)が述べるように、 MNIというネットワー ク組織を存続させているのは構成員に共有されている価値観なのである。3年度は、これまで の集大成として「協働新事業開発」、「協働新製品開発」、「協働受注」、「情報リテラシー」の4 つの目標に取り組んだ。分科会もさらに増え4つが立ち上がり、2年度より高い意識で活動が 進められた。以下はこうした協働開発で作られた総金属製のディスプレイ用水車小屋の開発で

メーリングリストが利用された一例である。

  水車の切り抜き加工が終了しました。

  が、水車自体の重量が結構重たいんです。0.76Kg有ります。数値で表現すると軽そうです   が、持つとチョッと重たい感じです。アルマイト加工をしてしまうとワイヤーでの加工は   出来なくなってしまいますので(通電しない為)、その前にXさん、Yさんに現物を見て頂   き相談に乗って頂きたいと思います。

  よろしくお願いします。

  加工途中の画像はhttp://wwwxxxxxxxx.htm に乗せてあります。

  会社より  佐々木一郎(仮名)

 10月になってMNIから一度に4社が脱退するという危機的なケースが起きた。今までは

『MNIの活動についていけない』とか、『自社にメリットがないから』と脱退する会社が一度に 1社ずつあったが、今回のケースは一度に4社で、脱退した会社が別グループを結成し新しい 活動を始めた。MNIのメンバーたちはその動きを強いて反対せず、ネットワーク組織の発展形 として捉え引きとめはしなかった。MNIのメンバーにはかえって自分たちが価値あるものをこ れから開発していかなければならない、という大きな刺激となった。

(12)

4.54年度の状況(MIC−P第4期)

 4年度の2003年8月から、第4期のMIC−Pが開始された。今期は、「協働開発・協働製作」、

「新規事業化」、「協働受注」の3つの目標に取り組んだ。分科会も5つ設けられ、新規事業開 発へも積極的に取り組んだ。しかし取り組む目標が多いのに比べてMNIのメンバーが少ないこ

とが問題である。会員は17社と1個人であるので、7つのテーマに対して、それぞれ構成員が 6、7名とすると、3つ以上重なって分科会に参加しているものがほとんどである。分科会活 動も大事だが、MIC−P以外の各社の本業ビジネスもあるので、そのバランスに苦しんでいる会 社も多い。しかし、MIC−Pの活動を二の次にしては彼らの将来はないことを強く認識している

ので、悪戦苦闘している状況である。

 4年度の華として、いままで分科会で取り組んでいた「アルミ半田付け駆動装置」の特許を 申請するという快挙を成し遂げることができた。MIC−Pの専門家を含む協働作業でここまでこ ぎつけたのだが、それは分科会だけでなく、分科会とMNIの全体メンバー、さらに他の専門家 との何度にも渡る意見交換の末達成した成果であった。こうした意見交換にメール等が大いに 効果を発揮したと想定される。

4.65年度の状況

 5年度の2004年8月には残念ながらMIC−Pは立ち上がらなかった。これまで4度に渡って承 認されていた支援事業の承認がおりなかったからである。MNIは結成後はじめて支援活動なし で文字通り自律の道を歩まざるを得なくなった。支援補助金は得られず、専門家委員の支援も 得られなくなった。彼らは自分たちだけの力でネットワーク組織を支えていかなければならな くなった。MNIにとっては一大事で、発足以来の危機到来である。しかし、 MNI会長や役員の 面々からは、『いままでおんぶにだっこして、それに甘えてしまった体質から脱皮するよいチャ

ンスと捉えてがんばっていきます。』という覚悟が聞かれた。

 このような厳しい時期であるが、5年度の開始時期に幸先のよい快挙が2つあった。それは これまで分科会で試作品の開発をしてきた消臭器(紫外線ランプとチタン使用)と防犯錠前

(破壊が不可能に近い錠前)の特許申請ができたのである。この2つの主担当者は第4期から MNIの会員となった新しいメンバーである。

5.事例の検証と仮説の判定

5.1事例の検証

 事例の検証は次の手順で進める。仮説モデル(図2)に基づき、まず対象の組織で「イノベー ションの生成」の有無を検証する(1)。次に、対象組織における「創発型ネットワーク」の内 容について検証する(2)。ついで「ジレンマ克服のしくみ」の有無を検証する(3)。さらに「電 子メールの活用」がされていたかどうかを検証し(4)、それが「創発型ネットワーク」による

「イノベーションの生成」を促進したかどうかについて検証する(5)。また「電子メールの活用」

(13)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響(伊東俊彦)

が「ジレンマ克服のしくみ」に働き、「創発型ネットワーク」をより有効にするために促進剤と して働いたのかどうかについて検証する(6)。

(1)イノベーションの生成

 4章で述べたMNIの活動の成果はイノベーションの生成として3.2(2)⑤にあてはまると考え られる。なぜならば、第4期の協働開発による「アルミ半田付け駆動装置」の開発結果として の特許申請、同じく5年度の「消臭器」と「防犯錠前」の協働開発結果としての特許申請をイ ノベーションでないとすると、イノベーションの生成の定義に矛盾するからである。

(2)創発型ネットワーク

 MNIは、異業種交流グループであり、会員企業の経営者から構成されていた。それは強制さ れたビジネスをもつというより、自主的に運営され、会長や役員はいるが、各年度のイベント ごとの役割をそのつど決定していた。また目標も年度目標は方向性のみ決め、各協働開発の フェーズごとに臨機応変に決めていくという対応がとられた。参加も強制せず、退出も自由で あった。現に3年度は一度に4社が退出したが、MNIというネットワーク組織の発展系として 捉え引き止めなかった。このような状況からMNIは水平的なネットワーク組織であり、それは 創発型ネットワークではない、とすると設定に矛盾するため、創発型ネットワークが存在した

と判断できる。

(3)ジレンマ克服のしくみ

 MNIは、3年度になると創発型ネットワークからだんだんと定形型ネットワークへ移る傾向 がみられた。なぜならば新商品を販売するために組織としてより明確なものを求めるように なったからである。しかし、創発型ネットワークがもつ特徴は維持されたと考えられる。なぜ ならば、「ジレンマ克服のしくみ」に述べた5種のうち③を除く4つが行われていると考えられ るからであり、それに関して以下に述べる。

 ①は、MNIのメンバーの増減で達成されているといえるだろう。②は、2年度から分科会を 設けそこで個々の協働開発を進めたことが該当するであろう。もちろん分科会のメンバーは固 定でなく自由に参加・退出できる形式となっている。③は、セミナーを開催したり、企業訪問 をしているが、顧客や市場の情報の取り入れは遅れている。④は、②で述べたように分科会が それぞれ重複したメンバーから構成されていることが該当するであろう。⑤は、脱退した4社 が作ったグループともインフォーマルな関係をもち、仕事の融通や情報交換していることや MIC−Pで外部専門家とのネットワークをもったことが該当するだろう。

 このような状況から、MNIには「ジレンマ克服のしくみ」がないと考えると、設定に矛盾す るので、「ジレンマ克服のしくみ」があり、それが機能していると判断できる。

(4)電子メールの活用

 MNIでは11種類のメールとメーリングリストが使われていた(表1)。2年度には、 MNIの構 成員全員がメール等を使って情報交換をした。またその利用は単純な数字情報などの不確実性 の削減のためのみならず、意味解釈をともなうような多義性の削減の領域まで含んでいた。

MNIのメール等の件数も多さを示している(表1)。またMNIの正会員だけでなく、MIC−Pの外

(14)

部支援者との間でも相互にメール等がよく使われていた。このような状況を電子メールが活用 されている状況ではないとすると設定に矛盾するので、活用されたいたと判断できる。

(5)イノベーションの生成に電子メールが促進剤となったか

 MNIの協働開発の活動には4章で述べたように各所でメール等が使われている。メール等が 使われなくても、イノベーションが生成されたかどうかを判断するのは、当該事例のみなので 困難ではあるが、当初、メール等がなかった状態では活動も低迷し、意識も低く存在すら危う い状態であったことを考えると、その後のメール等の活用がイノベーションの生成を促進しな かったと想定するのは困難である。またメール等以外でMNIのイノベーションの生成に影響を 与えたと考えられるものに対話もあるが、4章で述べたように、一同に会す機会や個別の打ち 合わせもメール等に比べるとたいへん少なかった(一人あたり月に3回程度)。ゆえにMNIでは、

イノベーションの生成に電子メール(メール等)が促進剤となったと判断できる。

(6)ジレンマ克服のしくみに電子メールが促進剤となったか

 (3)で述べた「ジレンマ克服のしくみ」が創発型ネットワークに貢献するのにメール等が影 響を与えなかったと判断することは、前期(5)で述べたと同様な理由で否定されるものと考え られる。よって「ジレンマ克服のしくみ」にも電子メール(メール等)が促進剤となったと判 断できる。

5.2仮説の判定

 5.1の事例検証において、仮説モデル(図2)の各要素とその関係が成り立つかどうかを個別に 事例から検証した(5.1(1)〜(6))。仮説モデルの各要素も要素間の関係も検証した結果当初の 設定どおりであった。そのため、本仮説は肯定されたと判断できる。

 すなわち本事例において、「電子メールの活用はネットワーク組織のイノベーションの生成 を促進するものである」とする仮説が成立した。

6.結論と今後の課題

6.1結論

 本研究は、ネットワーク組織のイノベーションの生成に関して、異業種交流グループの4年 強にわたる調査から検証したものである。ただし同調査は特定の1サンプルに過ぎないため、

これを普遍的な事実とすることはできないが、少なくても、異業種交流グループというネット ワーク組織で電子メール活用がそのイノベーションの促進剤となることが検証できた。

 また、本研究からメール等(電子メールとメーリングリスト)のメディア・リッチネスが低 くないということも確認できた。先行研究で述べたように、本調査対象のような異業種交流グ ループは、創発型ネットワークという特性をもつことからイノベーションが起きやすい環境を 備えているといってよいが、それは必要条件であり、十分条件ではない。5.1の事例の検証でみ てきたように、創発型ネットワークをより活発化しイノベーションの生成にメール等がその促 進剤となったといえる。

(15)

ネットワーク組織におけるイノベーションへの情報技術の影響(伊東俊彦)

6.2インプリケーションと今後の課題

 本研究の範囲は、異業種交流グループに限定しているが、ここで得た結論は多くの同じよう な性質をもつネットワーク組織全般に適用できると考えてよいであろう。,すなわちメール等の 活用はネットワーク組織のイノベーションを促進するために有効であると考えられる。またそ の利用は見積りや注文のような定型的タスクでは、より効率化をもたらすように定型フォー マット化した仕組みを利用したほうがよいし、協働開発のような多様な判断や作業が必要な領 域では、対面会議以上に電子メールの利用頻度を高め、かつより自由な使い方を奨励すべきで あろう。また、ネットワーク組織のメンバーと外部のメンバーとの柔軟性をもった情報交換が できるようにメール等を外部にも開放し、よりオープンなコミュニケーションができることが 望ましい。無料で利用できるメーリングリストはたいへん便利であり、過去のメールの蓄積や 共有情報の保管もできる。こうしたメーリングリストを複数活用することで、公式・非公式の 複数のバーチャルなネットワークが設けられることになる。このことがイノベーションをより 促進させることになるであろう。本研究の対象組織のような小規模なネットワーク組織こそ、

そのようなコミュニケーション・メディアを大いに利用することが要点である。

 課題としては、対象組織に参画することにより単なる観察者では得られない数多くの内部情 報を得ることができたが、反面多くのことを知ることにより、当事者としての思い込みなどに より本質を見逃すということにつながらなかったかどうかが挙げられる。また検証はインタ ビューや実際のメールデータを基に行ったが、定量的なデータによる分析の面が不足し、我田 引水に陥りやすいという問題をはらんでいる。さらに電子メール以外に、MNIの会員企業が廃 業の危機に瀕しているという捨て身の覚悟がイノベーションの生成に影響していたかもしれな いが、それは表面的には強く感じられなかった。今後アンケート調査を実施することにより、

新たな要因が発掘できるかもしれないがそれは今後の課題である。本研究はネットワーク組織 のひとつの事例にすぎないため、事例を増やし、そこから普遍的な知見を見出していくことも 今後の課題である。

 おわりに。本研究にご協力いただいた「ものづくりネット板橋」のみなさまに本紙面を借り て御礼申し上げる。

(1)Eジャパン協議会『企業における電子メールの利用、及びインターネットのビジネス利用に関す  る動向調査2001年3月』によると従業員500人以上の企業と官公庁・自治体の合計301社中、インター  ネット導入は97.9%、LAN導入は937%、電子メール導入は98.3%であった。また従業員に対する  ユーザー数が100%に達している企業は導入企業の16,3%であった。

(2)電子掲示板は、個人または組織が書いた意見をネットワーク上に設けられた掲示板に掲示するこ  とにより、不特定多数の利用者の目にふれるようにするシステムである(松尾,1999)。

(3)このような一連のコミュニケーションにおけるコミュニケーション・メディアの組み合わせに関

(16)

 しては伊東・堀内(2002)のインタビュー調査によっている。

(4)非言語情報とは非言語コミュニケーションにおいて扱われる情報のことで、橋本(1993)はコミュ  ニケーションの場における言葉による刺激を除いたあらゆる刺激を含むものとしている。

(5)企業組織の従業員・経営者合計428人に行った調査(2002年5月〜6月に実施)結果から電子メー  ルを使う頻度が一番多いと答えた者が90%であった。(伊東・堀内,2003)

(6)電子メールの中で、チャットやインスタントメールは瞬時にやりとりできるが、まだ企業組織で  使われるコミュニケーション・メディアとしては少ないケースであろう(伊東・堀内,2002で実施し  たインタビューより)。

(7) ものづくりネット板橋については八木田鶴子『企業診断:2001年5月号』中小企業診断協会,pp.

 36−41,2001、八木田鶴子『企業診断:2003年2月号』中小企業診断協会,pp.102−107,2003参照。

(8)支援事業の正式事業名は、旧通産省の傘下である全国中小企業団体中央会が募集した「コーディ  ネート活動支援事業」である。同事業の詳細に関しては、「高島利尚「コーディネート活動支援のポ  イント」『企業診断』,2001.5,pp.18−23,中小企業診断協会,2001」を参照。

(9)「テクノピア2000東京」は製造技術の総合展示会で出展社数252社、28団体、2000年5月1日〜6  月3日まで東京ビッグサイトで開催された。

(10)メーリングリストは、あらかじめ登録されたメンバーに同時に同じ電子メールを送る機能を中心  にした電子メールの特別な形態と捉えられる。電子メールの同報機能は送り手のひとりひとりが直  接読んでもらいたい複数の相手を特定するのに対して、メーリングリストは、電子掲示板に掲示する  のと同じ感覚でとりあえずメーリングリストのメンバーへ送っておく、という方法である。メーリ  ングリストで読む内容は個人宛のものではなく、多数の者を相手にしているので、もし読む必要がな  い内容であっても、「読まされた」という意識は強くもたないですむ(松尾,1999)。MNIではYahoo  株式会社が提供するYahoo!groupsと呼ばれるメーリングリストを利用したが過去メールがWebで一  覧できるなど便利な機能が無償で提供されている。

(11)協働開発した試作品・製品としては、2年度・3年度継続したものに、UVカードの「空見ちゃ  ん」とネーミングした製品、展示用にパソコン・周辺機器およびディスプレイを内蔵した展示ディ  スプレイ、金属材料のみで共同製作した水車小屋がある。さらにアルミ半田がベテランでなくても  できる半田付け駆動装置や展示用電子ホタルの製作がある。

(12)MNIの紹介雑誌記事は、中村(2003)を参照。日経BP編「メーリングリストを活用すれば,メンバー  全員で情報を交換できる」r日経IT21,2002年4月号』,2002吉田茂司「戦略経営者2002年10月号』TKC,

 pp.38−39,2002、吉村克巳『JMAマネジメントレビュー一 2003年3月号』日本能率協会, pp.40−43,2003、

 吉村克巳『経営者会報2003年5月号』日本実業出版社,pp.32−37,2003

(13)コンテクストはコミュニケーション行動を取り巻くその場の状況と、その場を取り巻く政治的・

 歴史的な背景の2つに大別される(Malinowski,1949)。いずれの場合もコミュニケーション行動にお  いて必須の要素であり、コンテクストが決まらないと、あるいはわからないと、われわれは意味を解  釈できないのである。

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