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       ー ドイツ民法第一二九七条乃至第一三〇二条の研究ー

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研究ノート

   フェルレープニスの機能仰

       ー ドイツ民法第一二九七条乃至第一三〇二条の研究ー

       佐  藤  良  雄

一︑はしがき

二︑法的性質

三︑一般的効果︵以上二四号︶

四︑成立ーその一ー︵二五号︶

五︑成立ーそのニー

六︑解消に伴う諸問題ーその一ー︵以上二六号︶

七︑解消に伴う諸問題−そのニー︵本号︶

  フェルレープニスの機能固

‑131‑

(2)

      七︑解消に伴う諸問題−そのニー

田 前述の如く︑一般には︑重大な理由なきフェルレープニスの解除︵一二九八条︶および解除の誘致︵一二九九

条︶にさいしては︑財産的損害だけしか賠償されない︒しかし︑一三〇〇条により当事岩間に同棲ないし同衾

 ︵Fy呂自尽︶が生じ︑かつそのときまでに︑女が︑無辱︵unbescholte︶であったときだけ︑女の側に︑非財産的

損害についての金銭による相当な賠償の請求が許されている︒なお︑原則として︑この請求権は︑譲渡できず︑ま

た相続をしない︵本条第二項︶︒この請求権は︑︷}LOSt{oSQSpM訃とも呼ばれ︑その賠償金は︑}{Ua9にと

も呼ばれている︒この規定に関する主たる問題点は︑二つに大別できる︒第一は︑﹁無辱性﹂兄nbescholtenheit)

の意味に関する問題であり︑第二は︑本一三〇〇条の規定が︑いわゆるボン基本法第三条二項の男女平等の規定

に反しないかどうかの問題である︒なお︑本条の請求権が発生するためには︑そのほか法的に有効なフェルレー

プニスの存在すること︑フェルレープュスが重大な理由なく解除され或は解除を誘致されたことなどを要するこ

とは勿論である︒ところで︑rieiwohnungの意義およびその時期に関して若干の問題があることにも注意して

おこう︒Stutzは︑姙娠の必要がないことを述べるのみであるが︑I)lttenbergerはこの点につきかなり詳細に論

じている︒すなわち︑まづ有効なフェルレープニスの存在と︑その重大な理由なき解除又はその誘致が必要であ

り︑さらに当事者がフェルレープニスを継続中に︵したがってフェルレープュス成立以前の同衾は︑本請求権を生じな

い︶︑双方合意のうえで︵一方的な強制の場合は︑本条でなく八四七条の不法行為責任を生ずるに過ぎない︶︑同衾したこ

とが必要である︒しかし︑男が女の抵抗を排除したとか︑女を誘惑したということは必要でなく︑また女の姙娠

‑132‑

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の有無も無関係である︒そして︑この同衾︵F{w粂呂品︸は︑﹁自然な︑性器の結合﹂︵。dienatufgemasseVerei‑

mgungderGeschlechtsteile"︶がおこなわれたときに完成する︒﹁精子の注入﹂︵。.immissioseminis"︶までは必要でな

い︒他方において︑たとえ性欲の満足をめざしたものであっても︑単なる﹁同衾︵交接︶類似の行為﹂︵。beischlafs‑

ahnlicheHandlung︶には︑Beiwoh呂品は存在しない︒次に、∽t呂dFい牡の所説を紹介しておこう︒まづ︑

法的に有効なフェルレープニスの存在︑重大な理由なき解除又は解除の誘致が必要であり︑また女がBeiwohnung

を許したこと︵すなわち女の意思の存在︶も同様に必要である︒そして︑Beiwoh呂品の概念は︑﹁性器の結合﹂

 ︵。VereinigungderGeschlechtsteile"︶を要件としており︑﹁精子の注入﹂︵。immissioseminis"︶は要件としていな

い︒また︑女の姙娠も必要でなく︑同様に男による誘惑も必要でない︒いかなる動機によって女が体を許したか

も問うところではない︒ところで︑このBeiwor呂品は︑フェルレープニスの継続中に許されることを要し︑

フェルレープニスの成立以前のそれは︑本条の請求権を発生させない︒

㈲ さて︑第一の︑﹁無辱性﹂の意義について︑問題は要するに︑本条の﹁無辱性﹂が﹁処女性﹂と同義かどう

かの点に帰着する︒無辱性の意義に関し︑いくつかの論者の所説を紹介しておこう︒Stutzは︑﹁それ︵無辱のフ

ェルロープテ︶は︑寡婦又は離婚した妻であることも可能であり︑また処女である必要もない﹂と述べている︒

ここではその根拠は必ずしも明らかにされていないが︑Uittenbergerの場合は︑その性的交渉が法的又は道徳

一133一

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的に禁止されたものか否かを基準としており︑次のように言う︒彼女が︑法的に或は道徳的に禁ぜられた性的交

渉を行なったときに︑彼女は性的に汚れたことになる︒このことから︑一方において︑性的無辱は︑処女性と同

義ではないという結論になる︒けだし︑処女性は法的にも道徳的にも禁じられていない性的交渉たとえば婚姻に

よっても毀損されうるからである︒それゆえにまた︑寡婦又は離婚した女も︑本条による請求をなしうるのであ

る︒それに反し︑フェルレープニス中の同衾は︑汚辱を生じ︑第二のフェルレープニスにおける請求権を失わせ

る︒他方において︑単に同衾の実行のみでなく︑他の猥せつな行為の着手又は許容︑たとえば人又は動物との反

自然的な淫行も汚辱となりうる︒さらに︑犯罪又は反道徳的な行為がなされ︑それによって処女性の喪失︵die

Defloratio昌がもたらされた場合も︑汚辱は生じない︒結局は︑個々の場合に︑汚辱の有無は裁判官の判断に任

ねられるのであり︑よく似た事情のもとでも異なった結論の出されることもありうるのである︒なお︑女が誘惑

した側であるという事実は︑女の汚辱性の重要な徴憑にはなるが︑徴憑以上のものではなく︑この事実だけで︑

男は本条の賠償義務を免れるものではない︒ところで︑ここで問題なのは︑相手方たる男との同衾以前の女の行

為であり︑女が相手方たる男との同衾以後に第三の男と性的交渉をおこなっても︑このことは︑女の請求権に何

らの影響も与えない︒けだし︑相手方たる男との同衾の時までは︑無辱性が存在したからである︒

 ところで︑この点に関する判例は︑ほぼ三種に区別することができよう︒単に一般的に無辱性の概念につき述

べるもの︑以前の夫やフェルロープテなどと性関係をもった女は︑第二のスェルレープニスについては︑ちは

134

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や﹁無辱﹂と言えなくなるかを問題とするもの︑さらに︑フェルレlプニスの当の相手方と︑フェルレlプニス

以前に性関係をもった女は︑このフェルレlプニスについて︑もはや﹁無辱﹂といえなくなるかを問題とするも

のである︒

 一般的に無辱性の概念について述べるものとして︑一九〇八年三月一六日ライヒ裁判所判︵決恚をあげておこう︒

この事件では︑結局X女がフェルレlプニス以前に他の男と性関係があったことが認められなかったのである

が︑判旨の中で本条の﹁無辱性﹂の意義について言及された︒すなわち一九〇八年判決は︑X女のY男に対する

一三〇〇条に基づく慰藉料請求事件であり︑Y男から上告したものである︒控訴審は︑X女が無辱であったこと

をみとめた︒これに対してY男は︑X女がY男と関係する以前に︑他の男或は他の男達に身を任せたと主張した

が︑確実な証拠を有さなかったので︑その点についてX女の宣誓を要求したものらしい︒しかし控訴審はこの宣

誓要求をみとめなかった︒Y男の上告理由は︑一三〇〇条違背のほか︑控訴審がY男の宣誓要求をみとめなかっ

た点についての訴訟手続上の違背に対する非難も含んでいた︒Y男によれば︑たとえその性関係が他人に知られ

ていなくても︑女が他の男と性関係を結んだ場合には一三〇〇条の意味においては︑女は無辱とみなされるべき

ではない︒そして︑無辱性の欠如の立証のためには宣誓要求が許されるべきである︒これに対し︑本上告審判決

は結局Y男の上告を棄却したものであるが︑まづ︑一三○○条の解釈については︑本条のいう無辱性は︑法的名

誉の毀損なきことと解すべきであり︑婚姻外の性交が第三者との間で生じた場合︑一般に無辱性は失われると解

すべきだとする︒しかしこのことからは︑X女に対するY男の前記宣誓要求が正当であるとの結論は出てこな

い︒宣誓要求は︑挙証者が立証しえない事情について相手方を訊問するための手段を提供すべきものではない

一一135‑

(6)

し︑婚姻事件の場合と同様︑一三〇〇条の事件についても︑女が他の男と性関係をもったかについての宣誓要求

が認められないことは︑ライヒ裁判所判決の確定するところである︒

 ︵1︶J.W.。1908。b.304;Warn.Rspr.。08。S.382

 さて︑以前の夫やフェルロープテなどとの性関係についての先例としては︑一九三五年一一月四日ライヒ裁判

所判決︑一九四二年一一月四日ライヒ裁判所判決がその主要なものである︒一九三五年判決は︑フェルレープニ

ス以前に︑他男とのフェルレープニス中になされた性関係について︑無辱性を失わせないと判示し︑一九四二年

判決は︑離婚した女について︑無辱性をみとめたものである︒そのさい︑一九三五年判決は︑その性関係が第三

者に知られたかどうかを重視し︑また一九四二年判決は︑性的名誉の毀損を重視した︒

 ところが︑近年になって︑主として下級審の判決によって︑第一のフェルレープニス中の性関係が第三者に知

られたかどうかは問題でなく︑いずれにせよ︑女はもはや無辱性を失うという見解が強まってきた︒関係をかく

しおおせた女が︑関係を第三者に知られた女より有利な立場に立てるのは不当だというのである︒さらに︑第三

者にかくしている限り︑何回もフェルレープニスをおこない︑そのたびに何回でも慰藉料をとれるということに

なるのは不当だともいう︒この立場に立つ判例としては︑多くのものがあるが︑ここでは︑一九五四年二月一〇

日コブレンツ上級地方裁判所決定︑一九五七年一二月六日セレ上級地方裁判所決定︑および一九六三年一〇月二

二日デュセルドルフ地方裁判所判決を紹介しておこう︒なお︑以下の判決は︑一三〇〇条による損害賠償請求事

件であり︑その限りで︑多かれ少なかれ︑当事者間に性関係が生じていることは自明である︒ドイツ民法の条文

そのものが︑フェルレープニス概念の対象に︑かような性関係の存する男女関係を含ませていたことは︑それと

一一136−

(7)

して重要であり︑この点からも既に︑フェルレープニスなる概念が︑いわゆる単純婚約と同義ではないことは明

らかである︒したがってその意味では︑ここで各判決について事実関係を紹介することは︑本稿の本来の課題に

とってさして重要ではないとも言えよう︒しかし︑単に性関係のある男女関係といっても︑その内容は種々であ

り︑したがって︑一三〇〇条の適用さるべきフェルレープニスとして︑いかなる範囲の男女関係が登場している

かをみることは︑フェルレープニスなる概念の機能範囲を知る上で甚だ意味深いと言わねばならない︒

 一九三五年一一月四日ライヒ裁判所判決の事実関係は先に紹介したことがある︵本誌二六号二〇二頁︶︒X女がY

男に対し︑一三〇〇条︑八二五条︑八四七条による損害賠償を求めた事件であり︑X女とY男の間には性関係が

生じ︑子供も儲けている︒X女の右請求に対し︑Y男はフェルレープニスの不成立︑解除につき重大な理由を有

することなどのほか︑X女が以前のフェルロープテと既に一定の性関係をもっていたので︑もはや﹁無辱﹂では

なかったことを主張して争ったものである︒X女の請求を斥けた控訴審の判決は︑本上告審で破棄差戻された︒

控訴審がX女の一三〇〇条にもとづく請求を斥けた理由は︑X女が本件フェルレープニス以前に︑以前のフェル

ロープテに﹁親密な関係﹂︵尿がrg呂訃r可︶を許しているので︑もはや無辱ではないという点にあった︒そ

の親密な関係というのは︑﹁性交﹂︵︒Geschlechtsverkehr"︶には至らなかったが﹁非道徳的な接触﹂︵も回︷ttFhe

Annaherung"︸とでも言うようなものであった︵判文はその具体的事実をかなり詳細に描写している︶︒これに対し︑

上告理由は二つの点で反対した︒第一は︑右のような事実によっては︑X女が焦辱性を失ったとは言えないとい

う点である︒これに対し判決は︑無辱性を失うためには︑自発的意識的な同衾までは必ずしも必要ではないが︑

右の事実だけで性的純潔を失うとするのはゆきすぎであり︑右の事実によって︑X女が非道徳的な性向に根ざし

137

(8)

た淫奔な行動及び性的な堕落を明らかにしたということが︑明瞭にみとめられなければならず︑その点で控訴審

は審理が不尽であるとする︒上告理由の第二の主張は︑X女の前フェルロープテとの関係は︑第三者には知られ

ていなかったという点にあった︒判決はこの点においても上告を支持した︒判決によれば︑汚辱性は︑必ずし

も︑女の非道徳的な生活が︑広く一般に知られていることを要件としないが︑第三者からみても︑女の道徳的価

値の善き評価が傷つけられたことを要するのである︒そして︑いかなる範囲にフェルロープテの道徳的な過誤が

知られたことが意味をもつかは︑個々のケースの事実関係によるのである︒たとえば種々な男達との女の度重な

る激しい性的な乱行が明らかであるときは︑第三者にそれが知られたという証拠は必要でない︒これに反して︑

ときたまの︑あまり重大でない性的な過失が問題となっているとき︑とくに性交に至らない場合の如きは︑第三

者にそれが知られていなければ︑なお汚辱ありとはみなされないのである︒

 一九四二年一一月四日ライヒ裁判所判決の事実関係についても︑既に紹介したことがある︵本誌二六号二〇九

頁︶︒既婚のX女が独身のY男と知り合い性関係を生じ︑X女の離婚後︑Y男の不当なフェルレープニスの解除

を理由に︑財産的損害賠償と︑一三〇〇条による精神的損害賠償を求めたものである︒Y男は︑解除に重大な理

由のあること︑フェルレープニスの無効︑さらに一三〇〇条による請求については︑X女はY男との姦通関係に

よって︑もはや無辱ではなかったことを主張した︒第一審はX女の請求をみとめ︑控訴審は︑X女の精神的損害

賠償請求のみをみとめ︑両者から上告されたが︑本上告審は︑結局上告を棄却したものである︒一三〇〇条に関

する本件の問題点は︑むしろ次項の︑当の相手方とのフェルレlプニス以前の性関係にあるのだが︑判旨は︑離

婚した女の無辱性にも触れているので︑ここでも紹介しておきたい︒すなわち︑判決は︑当の相手方とのフェル

一一138‑

(9)

レープニス以前の性関係の存在を︑当の相手方は女の汚辱性の根拠として主張しうるかについて判断するにさい

して︑その前提として︑次のように述べている︒﹁無辱性は︑処女性と同義ではない︒すなわち︑おそらく︑無

辱性︵なる語︶の下には︑性的名誉の毀損が理解されるべきである︒⁝⁝それゆえBGB一三〇〇条による請求

は︑無辱の離婚した妻にもみとめられる﹂と︒

 さて判例理論の転回を示す近時の下級審判決のうち︑一九五四年二月一〇日コブレンツ上級地方裁判所決定

は︑要するに︑秘められた性関係も︑汚辱を生ぜしめうること︑すなわち︑性的名誉の放棄について世間が知る

ことは必要でないことを判示したものである︒なお︑一三〇〇条が基本法に反しないことも判示している︵後

述︶︒抗告申立人X女は︑Y男に対し︑二二〇〇マルクの支払を求め︑そのうち︑性関係からの非財産的な損害

賠償は二〇〇〇マルクであった︒第一審地方裁判所は︑X女の請求を斥けた︒本決定も︑同様にX女の請求を斥

けた︒本決定によれば︑本件は︑X女が︑フェルロープテ以外の者と性関係をもった場合であり︑その相手方

は︑以前のフェルレープニスの相手方でもなく︑また以前の夫というわけでもないようである︒本裁判所は︑無

辱性の概念については︑次のように理解していた︒すなわち︑フェルロープテがもしその事件が知られたら彼女

の性的名誉を世間的に汚すようなやり方で︑自発的に傷つけるだけで充分である︒事件が世間に知れなかったた

めに︑彼女の評判が全く傷つかなかったかどうかは︑どちらでもよいことである︒

 一九五七年一二月六日セレ上級地方裁判所決定は︑現在二三才のX女が︑Y男との性関係以前に︑すでに一六

才のときに︑若い農夫Iと性関係をもち︑さらに後に︑若い農夫Gとも同様の関係をもったという事件である︒し

かし︑X女は︑彼女とI及びGとの﹁親密な関係﹂が︑外部に知られていなかったので︑自らを無辱と考えた︒そ

‑139‑

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してY男に対し一三〇〇条に基づく慰藉料四〇〇〇マルクを請求した︒第一審他方裁判所は︑X女がもはや無辱

ではなかったとし請求を斥けた︒本決定も同様であった︒本決定は︑無辱性という概念は︑傷つけられていない

名誉という状態の名称であり︑したがって本条の場合は︑性的名誉の非侵害を意味するとし︑かかる性的名誉の

非侵害性の喪失が知られたかどうかは︑何ら結論を左右しないとした︒言うまでもなく︑本決定の特色は︑かか

る喪失が第三者に知られる必要がないという点にあるが︑本決定は︑この点について︑第一に︑従来の学説・判

例が︑無辱性の語義・語源から出発しようとしたことを批判し︑第二に︑右の︵第三者に知られるという︶要件を

加えると︑こうかつなフェルロープテに利益を与えることになることを問題とする︒すなわち︑無辱性が処女性

と同義ではないことには異論がない︵けだし︑一三〇〇条は︑寡婦や離婚した妻にも適用があるからである︶︒しかし︑

フェルロープテの行為が第三者に知られなくても無辱性が失われるかについては争いかおり︑従来の判例や通説

は︑広い範囲には知られることを要しないが︑無辱性の語義からして︑何らかの第三者に知られることを要する

としてきた︒しかし︑この見解には従いえない︒語源による無辱性の概念の解釈は危険である︒けだし︑全ての

言葉が︑数世紀の間︑最初の意味を持ちつづけるものではないからである︒一三〇〇条の立法過程をみても︑立

法者が︑無辱性の起源的な意味を念頭にしていたとはみとめられないのである︒さらに︑性的名誉の非侵害性の

喪失をかくそうと努めたフェルロープテは慰藉料請求権をみとめられるのに対し︑かかる隠蔽を欲しなかった者

は右請求権を拒まれることになり︑かかる結果は︑こうかつで︑ひそかに不品行をなした女に対して利得をもた

らすことになる︒

 さらに一九六三年一〇月二二日デュセルドルフ地方裁判所判決も同旨のものである︒本件は︑X女が以前のフ

一一140‑−

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ェルロープテとの間に持った性関係によって︑無辱性を失ったかどうかが問題となった事例である︒すなわち︑

X女とY男は︑一九六二年二月に知り合った︒X女はそのさい︑彼女がフェルローベンしていたことがあり︑そ

の以前のフェルローブテと性関係があったことを語し︑Y男にも同衾を許した︒当事者は同年の秋にフェルロー

ベンし︑性関係をもった︒一九六三年三月一七日の手紙によって︑Y男はフェルレープュスを解消した︒その理

由として︑Y男は︑彼女が︑気に入らなくなったら他の好きな娘を探してよいとすすめていたことなどを挙げて

いる︒しかし︑X女は︑Y男の解除に理由がないこと︑右のすすめはただふざけて言ったに過ぎないことなどを

主張し︑相当額の慰藉料を請求して本訴に及んだ︒さらに︑一九六二年二月半ば︑X女はY男の子を懐胎してい

る︒Y男は︑X女が︑その以前のフェルロープテとの性関係により︑無辱でなかったと主張した︒本判決は︑X

女の請求を斥けた︒本件の場合︑問題点は二つあったと言ってよい︒第一は︑以前の性関係の相手方が当時のフ

ェルロープテであったという点である︒単なる男との性関係でなく︑フェルロープテとのそれでも︑無辱性を失

わせるか︒第二に︑その以前の性関係が︑第三者に知られていたことを要するかという点である︒判決は︑各々

の点について答えている︒第一の点については︑本判決によれば︑婚姻外の性交は︑たとえ︑彼らがすでにフェ

ルローベンしていたとしても︑道徳的な過誤である︒また第二の点については︑無辱性の喪失は同衾の客観的な

事実のみに係っており︑女の道徳的な過失が知れたか否かは問題ではないと判示する︒

‑141‑

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 次に︑当の相手方たる男との︑フェルレープニス以前の性関係が︑無辱性を失わせるかについては︑一九〇二

年六月一九日ライヒ裁判所判決︑一九二〇年一月八日ライヒ裁判所判決︑一九四二年一一月四日ライヒ裁判所判

決などが知られている︒また近時の下級審判決としては︑一九五三年九月二五日ミュンヘン域方裁判所判決︑一

九五八年四月一六日ニュルンベルク上級地方裁判所決定かあるので紹介しておこう︒

 一九〇二年六月一九日ライヒ裁判所判決は︑当の相手方たる男とのフェルレープニス以前の性関係が︑女の無

辱性を失わせるかについての重要な先例である︒本件は︑X女のY男に対する一三〇〇条に基づく慰藉料請求事

件である︒本件で問題となっているX女とY男のフェルレープニスは︑右当事者間の二度目のフェルレープニス

であること︑この二度目のX女とY男のフェルレlプニス以前に当事者間には﹁性的に親密な関係﹂を生じ︑婚

姻外の子を生じていることは明らかである︒控訴審は︑これらの事実は︑第二のラェルレープニスから無辱性を

奪い︑本条の適用を許さないとした︒これに対して本上告審判決は︑その性関係が当の相手方たる男との間に生

じた場合は︑その男から女の汚辱性を主張することはできないとする︒

 次に一九二〇年一月八日ライヒ裁判所判決の事実については︑既に紹介したことがあるが︵本誌二四号一三八

頁︶︑未成年のあいだに法定代理人の同意をえてY男とフェルレープニスをなし︑フェルレープニスの期間中に

‑142 一一

(13)

Y男に同衾を許したというものであり︑その後Y男から盗みの不当な非難をうけたとして︑X女から解除をなし︑

一二九九条と一三〇〇条により︑五〇〇〇マルクの支払を求めたものである︒第一審はX女の請求をみとめ︑控

訴審もY男の控訴を棄却し︑本上告審もY男の上告を棄却したものであるが︑本上告審において︑Y男は︑Y男

とX女の性的関係はフェルレープニス以前から生じており︑したがってX女はフェルレlプニス当時無辱ではな

かったことなどを主張した︒既にこのことは︑控訴審においてもY男から主張されており︑控訴審判決は︑これ

に対し︑X女がフェルレープニス以前にすでにY男と性的関係を結んでいたとしても︑このことは︑X女の請求

を妨げないと判示している︒これについて本ライヒ裁判所判決も︑前記一九〇二年ライヒ裁判所判決を引用し

て︑右控訴審判決の見解を支持した︵本判決のこの点に関する判旨は簡単であり︑右引用のほかは︑とくに理由は述べて

いない︶︒

 一九四二年一一月四日ライヒ裁判所判決の事実関係も既に繰返し述べた︵本誌二六号二〇九頁︑本誌本号前掲︶︒

本判決の論点は多岐に及び︑そのうち︑既婚者のなしたフェルレープニスの効力に関するものは︑さきに紹介

し︑また一三〇〇条に関する論旨のうち︑離婚した女の無辱性に関するものも既に紹介した︒ここでは︑Y男と

のフェルレープニス以前のY男との性関係が︑X女に汚辱性をもたらすかについての論旨を紹介する︒判旨によ

れば︑無辱性とは処女性と同義ではなく︑性的名誉の毀損と理解すべきであり︑従って本条による請求権は︑離

婚した女にも帰属しうる︒しかし本件の場合︑X女は︑婚姻中に︑しかも三児の母でありながら︑Y男と姦通的

な関係をつづけ︑またY男と長期にわたり同棲し︑彼女自身の婚姻を無視してフェルレープニスをなしたことに

よって︑彼女の性的名誉を失ったのである︒ところで︑ここで重要なことは︑Y男自身が︑X女の汚辱性を本条

‑143‑

(14)

による請求を防禦するために主張できるかという点である︒そして︑若し原控訴審判決が︑これを否定的に解し

ているならば︑それは正当である︒けだし︑Y男は︑自分自身の行為によって︑X女の汚辱性を共に生み出した

ものだからである︒

 ところで︑近時の下級審判決たる一九五三年九月二五日ミュンヘン地方裁判所判決は︑右の一九四二年一一月

四日ライヒ裁判所判決に対立する見解を示し︑注目すべきものである︒本件はY女がX男に対する反訴として︑

本条による慰藉料を請求したものであるが︑Y女は︑離婚した婦人であり︑すでにその婚姻中にX男と性関係を

生じ︑離婚後にフェルレープニスをなした︒Y女の請求に対し︑本判決は︑次のように判示して︑これを斥け

た︒本判決も︑寡婦又は離婚した婦人が︑本条による請求権を主張しうること︑さらに無辱性が彼自身との交渉

によって失われた場合に︑相手方の男は︑女の無辱性に対する疑いを云々すべきでないことは︑前掲一九〇二年

ライヒ裁判所判決や一九二〇年ライヒ裁判所判決に従ってみとめる︒しかし︑前掲一九四二年一一月四日判決

が︑既存の婚姻の離婚以前に︑後のフェルロープテと性関係を結んだ男について︑この彼自身によってもたらさ

れた汚辱性を引き合いに出せないと判示したことには︑賛成できないと述べる︒すなわち︑このような場合に

は︑かかる男が︑このような抗弁を許されるかではなく︑かかる女が︑本条にもとづく請求権を有するかが問題

なのである︒しかして︑本条は性的名誉の保護に奉仕するものであり︑それゆえ︑相互的な愛情と︑ごく近い将

来の婚姻の成立に対する信頼にもとづき︑男に身を任せた女によってのみ本条の請求はなされうるのである︒こ

れに反し︑婚姻の破壊をもたらした既婚の女については︑このような保護はなされるべきではない︒ほぼ以上の

ような理由から︑本判決はY女の請求を斥けたのであった︒

一一144‑

(15)

 さて︑下級審判決による理論の転回は︑右の判決に止るものではないようである︒次の一九五八年四月一六日

ニュルンベルク上級地方裁判所決定も︑ほぼ同様の見解を示している︒この事件は︑一九四三年から一九五六年ま

でY男とフェルレープニスをつづけてきたとするX女が︑Y男に対し四〇〇〇マルクの慰藉料を求めたものであ

る︒この事件の場合︑X女とY男は︑Y男の婚姻中︑一九三八年から一九四三年までの五年間︑姦通関係をつづ

けており︑一九四三年にY男が離婚した後一九五六年まで一三年間︑同棲しつつフェルレープニスの状態をつづ

けてきた︒しかもこの一三年間の同棲中に一回もX女は婚姻成立の時期について考えたことがなかった︒これに

対し本判決は︑まづ︑原則としてY男は彼自身によってもたされた︵五年間の姦通関係にょる︶X女の汚辱性を︑

主張できないとする︒しかし︑本件の如き事情のもとでは︑例外として︑Y男は彼自身によってもたらされたX

女の汚辱を主張しうるとして︑結局X女に慰籍料請求権なしとしたのである︒         ︵未完︶

一145一

参照

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