小学校学習指導要領(家庭)とその解説における安全の記述分析
山本 紀久子*・山田 好子**
(2009 年 11 月 30 日 受理)
Description Analysis of Safety based the Course of Study for Elementary School (Home Economics) and the Comments
KikukoYAMAMOTO* and YoshikoYAMADA**
(Received November 30 , 2009)
はじめに
近年,社会の国際化や規制緩和の進展,高度情報化を背景に,消費者を取り巻く社会・経済情勢 の変化は大きく,食品の偽装表示問題,製品事故の多発等,その内容も多様化・複雑化している。
平成15年国民生活審議会による報告書『21世紀型の消費者政策の在り方について』1)では,消費者 を保護される者から自立した主体と捉え,「消費者の安全が確保される権利」「消費者教育を受ける 権利」等の消費者の権利の明確化や,消費者政策としての消費者教育の在り方が提示された。平成 16年制定『消費者基本法』2)では,消費者教育を受ける権利が明文化され,それを受けて平成17年 策定『消費者基本計画』3)では,平成19年度までに消費者教育の体系化とそれに基づく消費者教育 の推進方策について検討し一定の結論を得ることとした。その「具体的施策」には「安全の確保」
「必要な情報の提供」「消費者の意見の反映」「消費者教育の推進」等の項目が挙げられた。その後,
消費者教育の基盤整備の観点から平成18年3月『消費者教育の体系化のための調査研究報告書』4)
では,消費者のライフステージ(幼児期,児童期,少年期,成人期)の領域別目標と,「自立した消 費者」を目指し消費者教育の4領域(安全,契約・取引,情報,環境)を設定し,「消費者教育の体 系シート」として整理した。平成19年には,消費者基本計画の追加施策により,『消費者教育の総合 的推進に関する調査研究報告書』5)で,各ライフステージの学習内容が示された。
一方,平成20 年10 月東京都私立高校の文化祭でガスボンベが爆発し,生徒ら15 人がけがをした 事故で,(独)製品評価技術基盤機構は,2台並べたカセットコンロに大型鉄板をのせた使用方法に 問題があった可能性が高いと発表した6)。平成21年1 月鹿児島県立高校では, 調理実習中に気分が 悪いと訴え, 18 人が病院に搬送された7)。ガス器具使用中の酸欠状態または一酸化炭素中毒症状 とみられ, 換気扇は回っていたものの, 窓は閉め切った状態だったという。また,35 年以上前に製
* 茨城大学教育学部家庭科教育研究室(〒310-8512 水戸市文京 2-1-1;Laboratory of Home Economics, College of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512 Japan)
* * 小田原女子短期大学食物栄養学科 (〒250-0045 小田原市城山 4-5-1;Food nourishment Subject, Odawara Women’s Junior College, Odawara 250-0045 Japan)
造された扇風機が経年劣化により発火,2人の犠牲者が出る事故も発生し,老朽化した扇風機やエ アコンを出火原因とする火災がこの10 年間に全国で400 件以上も起き死傷者が出ている。
これらを受けて, 平成18 年12 月『改正消費生活用製品安全法』8)の公布,長期使用製品安全点 検・表示制度が創設され,平成21年4 月施行された。同年9月には消費者庁及び消費者委員会が発 足し, 消費者の安全・安心の確保が位置づけられた。
消費者が安全に関する幅広い情報を得て,学ぶ機会を創出することは,安全を確保するための環 境整備として重要であり,一層の充実が求められる。家庭科は,実践的・体験的な活動を通して学 習することを特徴としているだけに,実習・実験等の具体的操作を伴う活動が重視される。教師は,
それらの活動を安全に行うための適切な指導と十分な配慮が要求されるが,現実には様々な事故が 発生しているのが現状である。
本稿は,消費者安全教育研究の一環として,平成10年と平成20年告示小学校学習指導要領及び解 説(家庭編)における安全に関する記述調査と分析である。さらに,平成20年告示小学校指導要領 及び解説(家庭編)の中に,『消費者教育の体系化のための調査研究報告書』及び『消費者教育の総 合的推進に関する調査研究報告書』に提示された児童期の安全領域目標・学習内容がどの程度取り 入れられているかの照合結果から,小学校家庭科における消費者安全教育を展開していく場合の課 題を明らかにすることにある。
研究方法
1 調査対象
資料としては,平成 10 年9)と平成 20 年10)告示小学校学習指導要領の第8節 家庭(平成 10 年 12 月 14 日文部省告示第 175 号,平成 15 年 12 月文部科学省告示第 173 号・一部改正,平成 20 年3 月 27 日,文部科学省告示第 27 号)及びその解説11)12) 家庭編(平成 11 年5月,平成 16 年5月 一部補訂,平成 20 年 8 月 文部科学省)である。さらに,『消費者教育の体系化のための調査研究 報告書』4)及び『消費者教育の総合的推進に関する調査研究報告書』5)で「消費者教育の体系シー ト」に提示された児童期の安全領域目標・学習内容を用いた。
2 調査方法
調査対象とした小学校学習指導要領の第8節 家庭及びその解説から安全に関する記述を,抽出 し,書写する方法をとった。抽出する記述内容は,児童の行為が,直接的・間接的に児童への危険・
危害等の被害につながる事故を防止するための記述内容に限定し,分析した。
まとめるにあたっては,内容構成の大項目≪ ≫,中項目< >,小項目[ ]とした。小学校学 習指導要領解説で,ア ・・・・等の一部語句を,本文中に太字で「切り方」等とある場合は,【切り 方】と表記するとともに,解説の本文中の具体例等の記述内容を「 」を付けて示すこととする。
そして,太字での記述がなく分かりにくい場合は,『小学校学習指導要領解説 家庭編』の 6 ページ に示されている「小学校家庭科 新旧内容項目一覧」において平成 10 年と平成 20 年の小学校学習 指導要領の内容項目を比較した表にある内容項目の文言を用いた。
さらに,平成 20 年告示小学校学習指導要領及び解説(家庭編)と『消費者教育の体系化のための 調査研究報告書』及び『消費者教育の総合的推進に関する調査研究報告書』の「消費者教育の体系 シート」で提示された児童期の安全領域目標2項目と学習内容5項目を比較・照合し,どの程度学 習内容として取り上げられているか,また,記述が見られない学習内容を明らかにすることである。
結果及び考察
1 平成 10 年文部省告示と平成 20 年文部科学省告示小学校家庭学習指導要領 第8節 家庭におけ る安全に関する記述内容
(1)平成 10 年文部省告示小学校家庭学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関する記 述内容
表1 平成 10 年文部省告示小学校学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関する記述内容
表1に,平成 10 年文部省告示小学校学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関する記 述内容を示す。安全に関する記述は,第1 目標と第2 各学年の目標及び内容の1 目標の(1)~(3) には見られなかった。
2 内容では,≪(3) 生活に役立つ物を製作して活用できるようにする≫の<ウ 製作に必要な用 具の安全な取扱いができること>,≪(5)日常よく使用される食品を用いて簡単な調理ができるよ うにする≫の<カ 調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い及びこんろの安全な取扱いが できること>,の2項目で,実習で扱う用具・器具の安全及び衛生的な取扱いを記述したものであ った。
8項目の内容の中で,≪(3)≫と≪(5)≫の2項目以外の,≪(1) 家庭生活と家族≫,≪(2) 衣服へ の関心≫,≪(4) 食事への関心≫,≪(6) 住まい方への関心≫,≪(7) 物や金銭の使い方と買物≫,
≪(8) 家庭生活の工夫≫の6項目の内容には,安全に関する記述は見られなかった。
第2 各学年の目標及び内容
〔第5学年及び第6学年〕
2 内容
(3) 生活に役立つ物を製作して活用できるようにする。
ウ 製作に必要な用具の安全な取扱いができること。
(5) 日常よく使用される食品を用いて簡単な調理ができるようにする。
カ 調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い及びこんろの安全な取扱いができること。
第3 指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱い
2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。
(2) 実習の指導については,次の事項に配慮すること。
ア 服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと。
イ 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと。
ウ 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること。
第3 指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱いの1 指導計画の作成では,安全に関する記 述は,見られなかった。
≪2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする≫では,<(2) 実習の指導 については,次の事項に配慮する>の[ア 服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと],[イ 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと],[ウ 調理に用いる食品については,
生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること],の3つの配慮事項の全てに安全に関する 記述が見られた。≪2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする≫では,指 導者としての実習での配慮事項の位置付けが重視され,[ウ 生の魚や肉は扱わない]と危険を回避 するための禁止事項を内容としていた。
なお,平成 15 年の一部改正による付け加えられた内容には,安全に関する記述は見られなかった。
(2) 平成 20 年文部科学省告示小学校家庭学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関 する記述内容
表2 平成 20 年文部科学省告示小学校学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関する記述内容 第2 各学年の目標及び内容
〔第5学年及び第6学年〕
2 内容
B 日常の食事と調理の基礎
(3) 調理の基礎について,次の事項を指導する。
オ 調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い及びこんろの安全な取扱いができること。
C 快適な衣服と住まい
(3) 生活に役立つ物の製作について,次の事項を指導する。
ウ 製作に必要な用具の安全な取扱いができること。
第3 指導計画の作成と内容の取扱い
3 実習の指導については,次の事項に配慮するものとする。
(1) 服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと。
(2) 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと。
(3) 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること。
表2に,平成 20 年文部省告示小学校学習指導要領 第2章 第8節 家庭における安全に関する記 述内容を示す。安全に関する記述内容は,第1目標と第2 各学年の目標及び内容の1 目標の(1)
~(3)には見られなかった。
2 内容では,≪B 日常の食事と調理の基礎≫の<(3)調理の基礎について,次の事項を指導する
>の[オ 調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い及びこんろの安全な取扱いができるこ と],及び≪C 快適な衣服と住まい≫の<(3)生活に役立つ物の製作について,次の事項を指導する
>の[ウ 製作に必要な用具の安全な取扱いができること],の2項目で児童を意識した安全に関する 記述内容が見られた。4つの内容の中で,≪A 家庭生活と家族≫と≪D 身近な消費生活と環境≫
には,安全に関する記述は認められなかった。
第3 指導計画の作成と内容の取扱いでは,≪1 指導計画の作成≫と≪2 内容の取扱い≫に,安 全に関する記述は見られなかった。
≪3 実習の指導については,次の事項に配慮するものとする≫では,<(1)服装を整え,用具の 手入れや保管を適切に行うこと>,<(2) 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱 うこと>,<(3)調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意する こと>,の3つの配慮事項で安全に関する記述が見られた。指導者の配慮事項としての位置付けが 重視され,<(3) 生の魚や肉は扱わない>と危険を回避するための禁止事項が記述されていた。
2 平成 10 年文部省告示と平成 20 年文部科学省告示小学校学習指導要領解説 家庭編における安 全に関する記述内容
文末の資料1に,平成 10 年と平成 20 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編における安全 に関する記述内容を示す。安全に関する記述内容は,第2章 家庭科の目標及び内容 第3節 家庭 科の内容と,第3章 指導計画の作成と内容の取扱いの平成 10 年告示の2 内容の取扱いと指導上の 留点,平成 20 年告示の2 内容の取扱いと指導上の配慮事項に見られた。
第2章 第3節 家庭科の内容では,照合しやすいように平成 10 年告示の指導内容・内容の取扱い を示す記号をそのままにして,記述順序を平成 20 年告示の記述内容に合わせた。≪第3 指導計画 の作成と各学年にわかる内容の取扱い≫については,記号が異なるものの,同一項目であることか ら記号をそのままとした。なお,平成 20 年の第3章 2内容の取扱いと指導上の配慮事項で,≪B 日 常の食事と調理の基礎≫の<ウ 食に関する指導については,家庭科の特質に応じて,食育の充実に 資するように配慮すること>の詳細については,第2章で関連する内容に含めて解説しているが,
ここでは,第3章に入れることとする。
(1)平成 10 年文部省告示小学校学習指導要領解説 家庭編における安全に関する記述内容 平成 10 年文部省告示小学校学習指導要領解説 家庭編 第2章 第3節 家庭科の内容の安全に関 する記述は,≪(2)衣服への関心≫,≪(3)生活に役立つ物の製作≫,≪(5)簡単な調理≫,≪(7)
物や金銭の使い方と買物≫の4つの内容に見られ,小学校学習指導要領 第2章 第8節 家庭で 見られなかった≪(2)衣服への関心≫と≪(7)物や金銭の使い方と買物≫にも,安全に関する記述 が見られた。一方,≪(1)家庭生活と家族≫,≪(4)食事への関心≫,≪(6)住まい方への関心≫,
≪(8)家庭生活の工夫≫の内容には,安全に関する記述は見られなかった。
≪(5)簡単な調理≫冒頭では,全体的留意事項として,「調理に用いる食品は,安全・衛生に留意 する必要がある」1件の記述があり,イ【材料の洗い方】2件,【後片付けの仕方】1件,カ【調理 に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い】4件,【こんろの安全な取扱い】2件と計 10 件の安 全に関する記述が見られた。ア【調理計画】,ウ【ゆでたり,いためする調理】,エ【米飯及びみそ 汁の調理】,オ【盛り付けや配膳,楽しい食事】には,見られなかった。10 件中9件が,児童に対 する具体的行動目標形式で,1件は指導者の安全上の配慮や管理上の留意点として,「特に,生の魚 や肉を扱わないようにする」の記述が見られた。内容は,4品目(包丁,まな板,ふきん類,こん ろ)を挙げ,9項目(食品や調理法に応じた洗い方,葉菜類の洗い方,包丁の渡し方・置き場所・
置き方,まな板の使い方,ふきんと台ふきんの区別,こんろの特徴の理解,換気に注意,火傷の防 止,使用前後の器具栓の確認,加熱の仕方と関連させた火力の調整)を明記している。
≪(2)衣服の関心≫のア【日常着の着方を考える】1件,イ【ボタン付けや洗たくができる】1件 と≪(3)生活に役に立つ物の製作≫のウ【製作に必要な用具の安全な取扱い】3件の計5件に安全に 関する記述内容が見られ,いずれも児童に対する具体的行動目標形式で示していた。「体育着や作業 着などの衣服が動きやすさや安全性を考え工夫されていることに気付き・・・」「洗たくする既製服に 付いている表示を調べ,洗たくに役立てる」「・・・危険を伴うので,安全で適切な取り扱い方を製作 を通して身に付けるようにする」「危険防止や安全点検の確認を習慣化できるようにする」「製作の 準備から後始末まで,児童一人一人が責任をもって安全に留意して行うことができるようにする」
などと,児童自身の体験や製作実習を通して安全で適切な取り扱い方を身に付けることを前提とし た記述内容となっている。そして,安全で適切な取り扱い方の具体例として,製作実習に使用する 4品目(針類,はさみ類,アイロン,ミシン)を挙げ,4項目(慎重な針の扱い,はさみの安全な 使い方や手渡し方,火傷や電源に留意した機器の扱い,ミシンの移動や出し入れなど)を明記して いる。
≪(7) 物や金銭の使い方と買物≫のイ【身の回りの物の選び方や買い方を考えた購入】1件では,
「食品についている日付けなどの簡単な表示を見たり」と,安全に関する情報確認や商品の選択・
購入を児童に対する具体的行動目標形式で,を1項目示している。
第3章 2 内容の取り扱いと指導上の留意点の安全に関する記述は,≪(2)実習の指導については,
次の事項に配慮すること≫として,冒頭で「実習では,・・・危険を伴うことがある」「予想される活 動を見通して,安全確認し,学習環境を整えるなど事故防止に十分留意する必要がある」と実習に 対する事故防止の全体的留意事項を記述している。さらに,3つの配慮事項(<ア 服装を整え,用 具の手入れや保管を適切に行うこと>,<イ 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り 扱うこと>,<ウ 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意 すること>)を挙げて実習指導についての配慮事項を示している。
<ア 服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと>では,【服装】3件,【用具の手入れ】
6件,【用具の保管】4件に安全に関する記述が見られた。【用具の手入れ】6件では,「まな板は,
使用後,流し水をかけながら洗い,十分乾燥する」など,いずれも児童に対する具体的行動目標形 式で示している。エプロン,腕カバー,三角巾,こんろ,包丁,はさみ,まな板,ふきん,茶碗,
アイロンなど実習で使用する服装や用具 10 品目の手入れや保管について安全面や衛生面での留意 項目を記述している。特に調理実習用エプロンでは,「清潔で,付いた汚れが分かりやすいものを用 意」とエプロン使用推奨の文意になっていた。
<イ 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと>では,【熱源や用具,機械 など】3件,【調理実習】4件,【製作実習】2件,【機械】1件に安全に関する記述が見られた。指 導者の留意点として,9項目(誤用の無い洗剤管理,調理台の整理・整とん,熱源の適切な点火・
消火の確認,コンロや調理器具の余熱,針の本数の確認,折れ針の始末,アイロンの使用場所や置 き方,重量のあるミシンなどの配置,コードの扱い方など)の事故防止についての具体例を示して いる。
<ウ 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること>で は,5件・5項目(安全や衛生を考えた食材選択,家庭から持参する食材の確認事項,実習時間ま での保管への留意,新鮮卵の確認と加熱調理,生魚や肉の扱い禁止)について安全・衛生面の留意
事項を指導者の留意点として記述している。
(2)平成 20 年文部省告示小学校家庭学習指導要領解説 家庭編における安全に関する記述内容 資料1の右に,平成 20 年文部省告示小学校家庭学習指導要領解説 家庭編における安全に関する 記述内容を示す。
第2章 第3節 家庭科の内容では,≪B 日常の食品と調理の基礎≫,≪C 快適な衣服と住まい
≫と,学習指導要領では見られなかった≪D 身近な消費生活と環境≫の3つの内容に安全に関する 記述が見られる一方,≪A 家庭生活と家族≫には,見られなかった。
≪B 日常の食品と調理の基礎≫の冒頭では,「日常とっている食事を改めて見つめ直し,食事の 役割,食品,栄養,調理などの基礎的事項を関連付けて学習することにより,生涯にわたって健康 で安全な食生活を送るための基礎となる力を養い,日常生活の中で主体的に活用できるようにする ことを意図している」と,生涯にわたる健康で安全な食生活を送るなどの意図1件を記述している。
そして,<(3)調理の基礎>のイ【材料の洗い方】1件,【切り方】1件,【後片付け】1件,
オ【調理に必要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い】3件,【こんろの安全な取扱い】3件の計 10 件の安全に関する記述が見られた。【こんろの安全な取扱い】3件では,5項目(こんろの特徴の 理解,換気に注意し火傷の防止,使用前後の器具栓の確認,加熱の仕方と関連させた火力の調整,
点火前に燃えやすい物を周囲に置いていないかの確認)等の多くの具体的例を挙げていた。
【切り方】の「特に注意をはらって包丁を使い,・・・・包丁の使い方に慣れさせるようにする」1 件以外は,児童に注意喚起を促す,具体的行動目標形式によるものであった。
≪C 快適な衣服と住まい≫では,<(1)衣服の着用と手入れ>のア【衣服の働き】1件と【日 常着の快適な着方を工夫】2件,イ【洗濯できる】1件,<(2)快適な住まい方>のア【清掃の仕 方の工夫】1件,【住まい方の工夫】1件,<(3)生活に役立つ物の製作>のウ【用具の安全な取 扱い】2件の計8件で記述が見られた。そして,安全で適切な取り扱い方の具体例として,4品目
(針類,はさみ類,アイロン,ミシン)を挙げ,4項目(慎重な針の扱い,はさみの安全な使い方 や手渡し方,火傷や電源に留意した機器の扱い,ミシンの移動や出し入れなど)について明記して いる。ア【衣服の働き】では,「保健衛生上の働きとして・・・・ほこりや害虫,けがなどから身体を守 ったりすることが分かり」と,安全に関する知識・理解についての記述が見られた。一方,(3)ウ
【用具の安全な取扱い】の「製作の準備から後始末まで,児童一人一人が責任をもって安全に留意 して行うことができるように配慮する」,【清掃の仕方の工夫】の「住宅用洗剤は使い方の表示をよ く見て使用する必要があるなどにも気付くように」,【住まい方の工夫】の「安全な住まい方として,
暖房機の安全な扱いについて簡単に触れることなど」の計3件で,指導者による安全に関する配慮 事項としての記述が見られた。
≪D 身近な消費生活と環境≫のイ【適切な購入】では,内容の取扱いについては,「食品等に付 けられた日付などの簡単な表示やマークなどを自分の目で確かめ,目的に合った品質のよい物を無 駄なく購入することができるようにする」と,児童の具体的行動目標形式で1件の記述が見られた。
第3章 指導計画の作成と内容の取扱いでは,安全に関する記述は,≪2 第2の内容の取扱いに ついては,次の事項に配慮するものとする≫と≪3 実習の指導については,次の事項に配慮するも のとする≫の「実習での事故防止の全体的配慮事項」とともに,<(1) 服装を整え,用具の手入れ や保管を適切に行うこと>,<(2) 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと。
>,<(3) 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること
>の3つの配慮事項に見られた。
<2 (1)「B 日常の食事と調理の基礎」については,次のとおり取り扱うこと>のウ【食に関す る指導については,家庭科の特質に応じて,食育の充実に資するよう配慮すること】では,指導者 による配慮事項としての記述が見られた。具体的には,「日常の食事を大切にする心,心身の成長や 健康の保持増進の上で望ましい栄養や食事のとり方,食品の品質及び安全性等に関する基礎的知識,
調理の基礎的・基本的な知識及び技能などを総合的にはぐくむ観点から推進することが必要である」,
「食生活を家庭生活の中で総合的に捉えるという家庭科の特性を生かし,家庭や地域との連携を図 りながら健康で安全な食生活を実践するための基礎が培われるように配慮し,食育の充実を図るよ うにすることが大切である」の2件で,食に関するねらいへの配慮事項を記述していた。
<3 実習の指導については,次の事項に配慮するものとする>では,家庭科が実践的・体験的な 活動を通して学習することを再確認するとともに,3つの全体的配慮事項を明示するだけでなく,
「家庭科室全体の用具等の配置や熱源,用具,機械などの扱い方を掲示して注意を促すなど学習環 境を整え事故の予防に十分留意する必要があるの記述内容からは,指導者として家庭科教室環境運 営管理力を意識したものとなっていた。
<(1)服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと>では,【服装】3件,【用具の手入れ】
6件(こんろ,調理用具,油汚れ,包丁,ふきん,まな板の使用後の扱い方,)と衛生的な扱いの配 慮事項を,児童に対する具体的行動目標形式で示している。【用具の保管】5件(茶碗の重ね方,針 類,包丁やはさみ類,アイロン,ミシンなどの安全な保管方法例を安全面や衛生面から配慮事項を 記述)に対して,「安全な保管方法の指導についても徹底する」「常に安全管理に努めるように指導 する」など,指導の徹底を強調する記述になっている。
<(2)事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと>では,【熱源や用具,機 械など】3件,【調理実習】3件,【製作実習】2件,【機械】1件の計9件見られた。指導者の留意 点として,9項目(誤用の無い洗剤管理,調理台の整理・整とん,熱源の適切な点火・消火の確認,
コンロや調理器具の余熱,針の本数の確認,折れ針の始末,アイロンの使用場所や置き方,重量の あるミシンの配置,コードの扱い方)で事故防止の具体例を示すだけでなく,「徹底させる」「十分 留意する」「注意させる」「指導する」「配慮させる」など,文末の記述からも指導者として安全への 配慮と事故防止への徹底が推察できるものであった。
<(3)調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること>
では,4件6項目(安全や衛生を考えた食材選択,家庭から持参する食材の確認,実習時間までの 保管への留意,新鮮卵の確認,卵の加熱調理,生の魚や肉の扱い禁止)の指導者の留意事項が安全・
衛生面から記述されていた。
3 平成 10 年と平成 20 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編の安全に関する記述内容の文字数 とその割合
平成 10 年告示小学校学習指導要領 第8節 家庭科の内容は,≪(1) 家庭生活と家族≫,≪(2) 衣服への関心≫,≪(4) 食事への関心≫,≪(6) 住まい方への関心≫,≪ (7) 物や金銭の使い方と 買物≫,≪(8) 家庭生活の工夫≫の8つの内容が,平成 20 年告示では,≪A 家庭生活と家族≫,
≪B 日常の食品と調理の基礎≫,≪C 快適な衣服と住まい≫,≪D 身近な消費生活と環境≫の 4つの内容となったことから,記述内容を一律に比較できないため,簡単な数値である文字数に着 目し,量的に文字数で数えるスペース分析を行った。
表3 平成 10 年と平成 20 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編の安全に関する記述内容の文字数とその割合
告示年 平成10年 平成20年 割合
1.30― 1.971.38 2.341.10 1.18― 2.001.84 2.95― 1.231.15 1.031.58 1.69 第2章
第3節
(5) 0
40 イ 143 カ 300
(2)ア 67 イ 48
(3)ウ 299
― 0
(7) イ 34
B 120
(3) 52 イ 282 オ 414 C(1)ア 157 イ 53
(3)ウ 353
(2)ア 210
D (1)イ 68
文字数 931 1,709
第3章 2 0
3 130
ア 488
イ 408
ウ 189
2(1)ウ 276
3 384
(1) 601
(2) 469
(3) 194
文字数 1,215 1,648
総文字数 2,146 3,631
―:該当なし, 割合:平成10年と平成20年告示と比較した場合。
表3に,平成 10 年と平成 20 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編における安全に関する記述 内容の文字数とその割合を示す。平成 10 年と平成 20 年の総文字数は,2,146 字から 3,631 と,安 全に関する記述内容が 1,69 倍になっている。第2章 第3節 家庭科の内容は,931 字から 1,709 字 と 1.84 倍に,第3章 2 内容の取扱いと指導上の留意点/配慮事項は,1,215 字から 1,648 字と 1.58 倍と,いずれの項目でも安全に関する記述内容の増加が見られた。
第2章 第3節 家庭科の内容の安全に関する記述内容は,平成 10 年と同様の記述内容が平成 20 年に移行しただけでなく,新しい内容の取扱い項目として,≪B 日常の食事と調理の基礎≫の内容 の構成意図(120 字)に,「生涯にわたって健康で安全な食生活を送るための基礎となる力を養い」
の記述が見られた。≪B 日常の食事と調理の基礎≫(3)イの【材料の洗い方】【後片付け】は,
10 年にも同様の文意で記述が見られたが,【切り方】(92 字)については,「特に注意をはらって包丁 を使い,・・・」と,安全に配慮した包丁の使い方を記述したものになっている。「調理に用いる食品 については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること」については,第3章でも記 述が見られるが,10 年と 20 年の≪(5)≫と≪B≫にも同様の文意が認められた。
≪C 快適な衣服と住まい≫(2)ア【清掃の仕方の工夫】【快適な住まい方の工夫】(210 字)の 3カ所で,「住宅用洗剤は使い方の表示をよく見て使用する必要があること」「換気の仕方を工夫で きる」「暖房機の安全な扱い方」が見られ,10 年告示にはなかった具体例が示されていた。また,
≪C 快適な衣服と住まい≫【衣服の働き】の「保健衛生上の働きとしては,・・・害虫,けがなどか ら身体を守ったり・・・」と,生活活動上の着方における安全性だけでなく,保健衛生上においても危 険・危害について具体例を加えたため 67 字から 157 字と,2.34 倍になっている。
その他,≪D≫(1)イ【適切な購入】では,「食品についている日付けなどの簡単な表示を見たり」
だけでなく,「マークなどを自分の目で確かめ,目的に合った品質のよい品物ができるようにする」
と,34 字から 68 字と 2.00 倍の記述で,より実践的な具体例が見られた。
3章 ≪2 内容の取り扱いと指導上の留意点≫では,2の(1)のウ【食物に関する指導について は,家庭科の特質に応じて,食育の充実に資するよう配慮すること】の記述内容(276 字)が平成 20 年のものに加えられ,2件(「食品の品質及び安全性等に関する基礎的な知識,・・・」,「家庭や地 域との連携を図りながら健康で安全な食生活を実践するための基礎・・・」)に,家庭科の特質に応じ た安全に関連する記述が見られた。
≪3 実習での事故防止の全体的配慮事項≫では,130 字から 384 字と,2.95 倍に,家庭科の特徴 である実践的・体験的な活動を通した学習であること,実習を安全かつ効果的に進めるための服装,
熱源・用具・機械や調理に用いる食品など,実習での事故防止の全体的な配慮事項を再確認した記 述になっている。
<アと(1) 服装を整え,用具の手入れや保管を適切に行うこと>では,488 字から 601 字と【服 装】,【用具の手入れ】,【用具の保管】について 16 品目を挙げ,安全面や衛生面から具体例を記述し ている。特に平成 20 年では,「常に安全管理に努めるように指導する」などの「指導する」3件,
「工夫をさせる」「収納させる」1件,「安全な保管方法の指導についても徹底する」1件と,文末 に変化が見られ,安全面への指導上の配慮に重点を置いていることが窺える。
<イと(2) 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと>では,【調理実習】,
【製作実習】,【機械】について,408 字から 469 字と事故防止の具体例を中心に,「指導する」3件,
「注意させる」「徹底させる」「配慮させる」「工夫させる」など,の文末の変化からも指導者として の事故防止の留意事項を明示しているだけでなく,「取扱いを誤ると危険を伴うものがあるので,常 に安全管理と事故の防止に努めることが大切であることを理解させ」と扱い方との関係を示して事 故防止の問題提起をしている。
<ウと(3) 調理に用いる食品については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意する こと>では,189 字から 194 字と,安全や衛生を考えた食材選択,家庭から持参食材の確認事項,
実習時間までの保管への留意,新鮮卵の確認と加熱調理,生魚や肉の禁止では,扱いだけでなく衛 生面での管理が難しいこと,家庭からの持参食材は実習前に指導者が確認することを加えた詳細な 記述となっている。
4 消費者教育の体系化で提示された児童期における消費者教育の目標に対応する安全の学習内容
『消費者教育の体系化のための調査研究報告書』及び『消費者教育の総合的推進に関する調査報 告書』に記述された安全領域の消費者教育の全体目標3つは,<①商品(食品を含む)の安全性等 に関する情報を確認し,生命・健康への影響を配慮して,商品を選択できる><②商品による事故・
危害に適切な対処ができる><③安全に暮らせる社会を目指し,消費者の安全を確保するために協 力して取り組むことができる>からなっている。
児童期の安全領域の2つの目標には,学習内容5項目が設定されている。目標①「商品を安全に 扱うための基本的なきまりを守ることができる。また,身の回りの商品の安全に関するマークや品 質表示に気づくことができる」に関する学習内容は3項目(<1 製品には正しい使用方法があるこ とや,正しい使い方をしなければ危険であることを理解する><2 食品の安全に興味をもつ><3 安全や品質を示すマーク(SGマークなど),食品表示等の存在に興味をもつ>),目標②「身の回
りの商品の被害を身近な人に説明できる」に関する学習内容は2項目(<1生活におけるトラブル に遭遇した場合,身近な人に相談する習慣を身につける ><2 安全性に問題がある商品を購入・
摂取した場合に,対象商品や身体の状況などを説明する力を身につける>)から構成されている。
表4 平成 20 年告示小学校学習指導要領 家庭及びその解説における児童期安全領域の学習内容の記述状況 児童期における安全領域の目標に対応する学習内容 小学校学習指導要領 家庭
目 標
①
1 製品には正しい使用方法があることや,正しい 使い方をしなければ危険であることを理解する。
第2章第3節B(3)オ,C(3)ウ
第2章第3節B(3)イ,オ,C(3)ウ,第 3 章2,3(2) 2 食品の安全に興味をもつ。 第 3 章 3(3)
第 3 章 2(1)ウ,3(3) 3 安全や品質を示すマーク(SGマークなど),
食品表示等の存在に興味をもつ。
― 第2章第3節 C(1)イ,D(1)イ 目
標
②
1 生活においてトラブルに遭遇した場合,身近 な人に相談する習慣を身につける。
-
-
2 安全性に問題がある商品を購入・摂取した場合に,対象 商品や身体の状況などを説明する力を身につける。
-
-
備考:上部;小学校学習指導要領 家庭の記載内容,下部;小学校学習指導要領解説 家庭編の記載内容
ここでは,『消費者教育の体系化のための調査研究報告書』及び『消費者教育の総合的推進に関す る調査研究報告書』の「消費者教育体系シート」で提示された児童期における消費者教育の目標と 学習内容が,平成 20 年告示小学校学習指導要領及び解説 家庭編にどの程度の学習内容が取り上げ られているか,同時に記述が見られない不足している学習内容は何であるかを照合することとする。
表4に,平成 20 年告示小学校学習指導要領 家庭及びその解説における児童期安全領域の学習内 容の記述状況を示す。結果については,学習内容に関する表記が見られる場合は,学習指導要領の 該当箇所の記号を学習指導要領とその解説とを上部,下部に分け,明記するとともに,関連する表 記の記述が見られない場合は,-で示した。
目標①の<1製品には正しい使用方法があることや,正しい使い方をしなければ危険であること を理解する>では,学習指導要領の第2章第3節,B(3)オの「調理に必要な用具や食器,こんろ」
と C(3)ウの【用具の安全な取扱い】に,実習に必要な用具・器具の取扱いが見られる。解説では,
C(3)ウとオ【調理に必要な用具や食器】の「安全と衛生に注意して適切に取り扱うとともに,こん ろの安全な取扱いができるようにする」,イ【切り方】の「注意をはらって包丁を使い」とともに,
第3 2 内容の取扱いの≪イ 事故の防止に留意して,熱源や用具,機械などを取り扱うこと≫に,
一部の文言が該当した。
目標①の<2 食品の安全に興味をもつ>は,学習指導要領の2 内容には,見られないものの,
第3章 3 実習の指導については,次の事項に配慮するものとする,の(3)<ウ 調理に用いる食品 については,生の魚や肉は扱わないなど,安全・衛生に留意すること>に安全に関する記述が見られ た。解説では,これに加え,第3章 2 内容の取扱いと指導上の配慮事項の<ウ 食に関する指導 については,家庭科の特質に応じて,食育の充実に資するよう配慮すること>の「食品の品質及び 安全性等に関する基礎的な知識」に見られる。しかし,「興味をもつ」とは,児童による行動目標と して示す場合,どのような行動と捉えるかを判断することは難しいといえる。
目標①の<3 安全や品質を示すマーク(SGマークなど),食品表示等の存在に興味をもつ>は,
学習指導要領には,記述は見られなかった。解説では,第2章 第3節 C(1)衣服の着用と手入れの イ【洗濯できる】で D(1)【物や金銭の使い方と買物】と関連させ,「既製服に付いている表示を調 べた後,洗濯の学習を行ったり・・・」の記述が見られる。関連させると記述のある D(1)イ【適切な 購入】には,「食品等に付けられた日付などの簡単な表示やマークなどを自分の目で確かめ目的に合 った品質のよい物を無駄なく購入することができるようにする」と表示やマークの記述が見られた が,目標①の2と同様,「興味をもつ」をどう捉えるかによる。
目標②「身の回りの商品の被害を身近な人に説明できる」の<1 生活におけるトラブルに遭遇し た場合,身近な人に相談する習慣を身につける>及び<2 安全性に問題がある商品を購入・摂取 した場合に,対象商品や身体の状況などを説明する能力を身につける>については,学習指導要領 及びその解説には記述が見られなかった。児童自身が実習において安全に用具・機械などを取り扱 う記述は見られるが,トラブルに遭遇した場合や安全性に問題がある商品を購入した場合の対処法 などに関する学習内容は見られなかった。
平成 20 年告示学習指導要領の第3章 指導計画の作成と内容の取扱いでは,学習指導に当たって 特に留意するものとして,<言語活動の充実>を新たに取り上げられた。家庭科では,「衣食住など 生活の中の様々な言葉を実感を伴って理解する学習活動や,自分の生活における課題を解決するた めの言葉や図表などを用いて生活をよりよくする方法を考えたり,説明したりするなどの学習活動 が充実するよう配慮」とあり,「製作や調理などにおける体験を通して生活の中の様々な言葉を実感 を伴って」や「観察や実習の際のレポート作成や考察,思考したことを発表したりする」など,実 践的・体験的な活動を通しての言語活動の充実を記述している。一方,児童期のおける消費者教育 の目標に対応する学習内容(安全)は,学校だけでなく,家庭,地域などにおける児童期の消費者 教育を提示したものであり,学校教育においても,家庭科以外にも社会科,理科,体育,道徳,総 合的な学習の時間などが挙げられる。そのことを前提としながらも児童にとって「身の回りの商品 の被害」はいつ遭遇するかわからない。家庭科では,仮に模擬学習としても被害者,設置者,生産 者,販売者などの立場からの授業実践が考えられよう。
おわりに
消費者安全教育研究の一環として、小学校学習指導要領及び解説(家庭編)における安全に関す る記述調査と分析、さらに、『消費者教育の総合的推進に関する調査研究報告書』等における児童期の 安全領域の目標・学習内容と照合した結果、以下の知見を得た。
1)平成 10 年と平成 20 年告示小学校学習指導要領 第8節 家庭を比較・照合すると、内容構成が 平成 20 年では8から4の内容になっているものの、安全に関する記述は、2 内容の【調理に必 要な用具や食器の安全で衛生的な取扱い】及び【製作に必要な用具とこんろの安全な取扱い】と、
第3 指導計画の作成と内容の取扱いの≪実習指導への配慮事項≫に見られた。3つの配慮事項は、
①服装を整え、用具の手入れや保管、②熱源や用具、機械などを事故防止に留意して取り扱う、
③事故防止に留意し調理食品は生の魚や肉は扱わないで、特に「生の魚や肉は扱わない」と危険
を回避するための禁止事項が明示されていた。全体としては、平成 10 年と平成 20 年では、安全 に関する記述は、記号、記述順序が異なるものの、同一記述内容で変更は見られなかった。
2)平成 10 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編では、家庭科の内容の安全に関する記述は、≪
(3)生活に役立つ物の製作≫、≪(5)簡単な調理≫、と学習指導要領になかった≪(2)衣服への関 心≫、≪(7)物や金銭の使い方と買物≫の4つの内容に見られた。平成 20 年解説では、≪B 日常 の食品と調理の基礎≫、≪C 快適な衣服と住まい≫と学習指導要領になかった、≪D 身近な消費 生活と環境≫の3つの内容に安全に関する記述が見られた。
3)平成 10 年の第2章 第3節 家庭科の内容では、安全に関する記述は 16 件見られた。安全に関 する情報確認として簡単な表示1件の他に、実習で使用する8品目(包丁、まな板、ふきん類、
こんろ、針類、はさみ類、アイロン、ミシン)とともに、安全に関する内容(食品や調理法に応 じた洗い方、葉菜類の洗い方、包丁の渡し方・置き方、まな板の使い方、ふきんと台ふきんの区 別、こんろの安全な使い方、器具栓や火力の調整、慎重な針の扱い、はさみの安全な使い方や渡 し方、火傷や電源に留意した機器の扱い、ミシンの移動や出し入れ)を挙げている。第3章 2 内 容の取扱いと指導上の留意点では、冒頭で実習に対する事故防止の全体的配慮事項を挙げ、3つ の配慮事項の中で 28 件示している。家庭科の内容では、学習活動で予想される危険・危害に対し て、児童の具体的行動目標形式で安全に関する記述内容が見られる一方、第3章 2 内容の取扱 いと指導上の留意点では、指導者の安全上や管理上の留意事項として記述され、<ア 服装を整え、
用具の手入れや保管を適切に行うこと>の【用具の手入れ】以外は、概ね指導者による配慮事項 としての位置付けが重視されていた。学習活動で予想され危険・危害等の被害に繋がる事故防止 及び安全に関する記述内容の多くに児童の具体的行動目標形式による表記が見られた。
4)平成 20 年の第2章 第3節 家庭科の内容では、安全に関する記述は 18 件見られた。≪B 日常 の食品と調理の基礎≫の冒頭では、生涯にわたる健康で安全な食生活を送る目的の記述が見られ る。学習活動で予想される危険に対して、児童の具体的行動目標形式で安全に対する記述内容が あるものの、それに対する指導者の安全上の配慮事項や管理上の留意事項として記述され、指導 者による配慮事項としての位置付けが重視されていることがわかる。さらに、第3章 2内容の取 扱いと指導上の留意点≫では、2の(1)のウ【食物に関する指導については、家庭科の特質に 応じて、食育の充実に資するよう配慮すること】の記述内容が加えられ、3つの配慮事項の中で 31 件の具体的事故防止例を示すだけでなく、「徹底させる」「十分留意する」「注意する」など、
指導者として安全への配慮と事故防止への徹底が文末に強調されていることからも窺える。
5)平成 10 年と平成 20 年告示解説 家庭編では、学習活動で予想される危険・危害とそれに対する 配慮事項について、具体例を挙げて詳細に記述されていることが分かった。さらに、安全に関す る記述内容の多くは、指導者の安全上の配慮や管理上の留意点であり、児童である学習者への指 導の記述は、第2章の【用具の手入れ】に多く見られるものの、児童に対する指導内容としてで はなく、指導者による配慮事項としての位置付けが重視されていることが分かった。
6)平成 10 年と比較して、平成 20 年告示小学校学習指導要領解説 家庭編の安全に関する記述内容 の総文字数は、2,146 字から 3,631 字と 1,69 倍になった。≪第2章 第3節 家庭科の内容≫。の 文字数は 1.84 倍、≪第3章 2 内容の取扱いと指導上の留意点/配慮事項≫は 1.58 倍と、いずれ も安全に関する記述の増加が見られた。第2章 第3節≪B健康で安全な食生活の目的≫120 字、
≪C(2)ア 安全な住まい方≫210 字、第3章≪2(1)ウ 家庭科の特質に応じた食育の充実≫606 字 では、平成10 年では新たな安全に関する記述が見られた。また、第3章≪3実習指導の配慮事 項≫では、2.95 倍と安全に関する記述が冒頭に多く見られた。具体的には、家庭科が実践的・体 験的活動であることを再確認後、「家庭科室全体の用具等の配置や熱源、用具、機械などの扱い方 を掲示して注意を促すなど学習環境を整え事故の予防に十分留意する必要がある」と、指導者と して家庭科教室環境運営管理力を意識したものとなっている。
7)「消費者教育体系シート」で提示された児童期における消費者教育の目標と学習内容を、平成 20 年告示小学校学習指導要領及び解説 家庭編と照合した結果、目標①<1 製品の正しい使用方 法と危険の理解>、<2 食品の安全>に関する学習内容は、学習指導要領及び解説に記述が見ら れるものの、目標①<3 安全や品質マーク、食品表示等の存在>は、学習指導要領にはなく、解 説の記述のみであった。さらに、目標①の2と3の「興味をもつ」とは、どのような行動と捉え るかを具体的に示す必要があろう。目標②<1 生活におけるトラブルに遭遇した場合、身近な人 に相談する習慣を身につける>及び<2 安全性に問題がある商品を購入・摂取した場合に、対象 商品や身体の状況などを説明する能力を身につける>は、学習指導要領及び解説では、児童が安 全に用具・機械などを取り扱う記述はあるものの、トラブルに遭遇した場合や安全に問題がある 商品購入の場合の対処法などの内容は認められなかった。
8)平成 20 年告示小学校学習指導要領≪第3章 指導計画の作成と内容の取扱い≫では、【言語活動 の充実】が設けられた。家庭科授業では、消費者の立場だけでなく、生産者・販売者・設置者等 の視点からの教材開発を提案する。例えば「消費者教育体系シート」目標①の1では、ミシンや ガスこんろなどの取扱い説明書づくり、目標①の2、3では、品質表示の情報分析、安全マーク 調べ、オリジナル安全マークづくり、料理のレシピづくり、食品のパッケージ・品質表示づくり、
エプロン等の繊維製品品質ラベル・タグづくりなどを家庭科学習過程へ導入、目標②の仮に安全 に問題のある商品購入などを模擬学習する場の導入、消費者トラブルの劇化・寸劇、シナリオづ くり、さらに教室・学校・地域における危険・注意・警告標識(安全確認、感電注意、整理整頓、
機械の周囲はいつもキレイに等の安全指導標識・衛生指導標識探しや足もと注意、高温注意など の表示マーク探し・設置などである。目標②の1、2では、トラブルの遭遇や安全に問題がある 商品購入などをシミュレーションすることを模擬学習と位置づけ、5H1Wを意識した解説書づ くり、寸劇・劇化などの積極的導入である。
注
1)内閣府国民生活局編『21 世紀型の消費者政策の在り方について』(国民生活審議会、平成 15 年7月 30 日)p.9-11,2003.
2)『消費者基本法』(昭和 45 年5月 30 日法律第 78 号、最終改正平成 21 年6月 5 日法律第 49 号)2004.
3)閣議決定『消費者基本計画』(平成 17 年4月8日)2005.
4)消費者教育支援センター『消費者教育体系化のための調査研究報告書』(平成 18 年3月)2006.
5)(株)三菱総合研究所『消費者教育の総合的推進に関する調査研究報告書』(平成 19 年3月)2007.
6)(独)製品評価技術基盤機構『カセットこんろ爆発事故防止について』(平成 20 年 10 月7日)2008.
7)経済産業省『鹿児島県における一酸化炭素中毒について』(平成 21 年1月 27 日)2009.
8)『消費生活用製品安全法』(昭和 48 年法律第 31 号,改正平成 18 年 12 月6日法律第 104 号)2006.
9)文部省『文部省告示小学校学習指導要領』,大蔵省印刷局,1998.
10)文部省『小学校学習指導要領解説 家庭編』,開隆堂出版株式会社,1999.
11)文部科学省『文部科学省告示小学校学習指導要領』,東京書籍株式会社,2008.
12)文部科学省『文部科学省告示小学校学習指導要領解説 家庭編』,株式会社東洋館出版社,2008.