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Ⅱ 論 説・総 説・解 説

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Academic year: 2021

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― 22 ―

Ⅱ 論 説・総 説・解 説

1  はじめに

 本年度の生活文化研究会の大会(11月16日)で講演す る機会が与えられました。筆者が長く研究してきた「繊 維集合体の染色」に基づいて、 「絞り染め」のメカニズム について解説してみようと思い立ちました。絞り染めに ついては、以前執筆する機会がありました

1 )

が、その後 の研究の結果も加えてみたかったことが動機かも知れま せん。本研究会が新潟県に密接に関わっていますので、

新潟県の繊維産業から話を起こすことにします。明治初 期の主要織物産地は、綿織物で見附、亀田、加茂、吉田、

葛塚、沼垂、長岡、村松、水原、絹織物で十日町、栃尾、

五泉、山辺里、見附などの地名が記載されています。ま た、麻織物では小千谷縮布が特産物です

2 )

。現在の織物 産地としては、化合繊織物である見附、栃尾産地、絹織 物およびニットの五泉産地、絹織物の十日町産地となっ ています

3 )

。1500年の歴史を有し、伝統的地場産業であ る新潟県繊維工業(織布業、ニット業、撚糸業、染色整 理業など)は県の主力産業でしたが、昭和42年から国の 構造改善事業に、その後昭和49年からの新構造改善事業 に参画してきました。これは、過剰設備からくる構造的 不況、輸出依存体質による対米貿易摩擦、そして発展途 上国からの追い上げにより生産規模の縮小を続けてきた ものです。さらに昭和60年のプラザ合意以後の急激な円 高により、革命的構造変革が求められたのです

4 )

。戦後 の合繊織物は、東レ、帝人といった原糸メーカーによる 系列生産が進められ、織物業者は原糸メーカーより加工 賃が支払われるチョップ制が展開されてきました

5 )

。そ の後、海外ではできない、日本独自の高付加価値素材、

商品の開発と生産できる体制および対応力づくりが求め られ、平成13年、五泉産地地場産業振興アクションプラ ンがつくられました

6 )

。平成17年の工業統計によれば、

新潟県の繊維および繊維製品の出荷額は、 1 ,287億円で 全国第11位でした

7 )

。「きもののまち」十日町(十日町織 物協同組合青年部会のホームページ)、その一部の きも

    【連  載】

私の染色学(第 3 回)

―布に模様をつける―

佐々木 博 昭

ささきひろあき 新潟県立大学

のギャラリーなどを見ながら読んでいただければありが たく思います。

2  天平の三纈

 石崎

8 )

によれば、纈とは、結束する、結びふさぐ、結 び閉じるなどの意味をもったもので、いわゆる、防染す ることを意味しています。すなわち染色をすることに よって模様をつくるためには、まずある部分を、なんら かの方法によって、染料が染着するのを防ぐことが必要 であるという考えです。 4 世紀後半には渡来したともい われる﨟纈(ろうけち)、夾纈(きょうけち)、纐纈(こ うけち)のいわゆる天平の三纈が防染技術のルーツとさ れ、それぞれロウ防染、板締め染め、絞り染めに対応し ます

9 )

 﨟纈は、加熱融解したロウ(蠟)を布上に型押しまた は手描きするものとされ、現代のロウケツ染めがパラ フィンをはじめ何種類かのロウを単独あるいは 2 ~ 3 種 類混合して使用しているのに対し、﨟纈は蜜ロウのみを 使用しているとされています

9 )

。図 1 にイメージ図を示 しましたが、ロウを置くことによって染まらない部分を つくり、後でロウを落とすことにより模様がつくられま

す。

 夾纈は、板締(いたじめ)と同じとされ

10)

、同じ文様 を彫り抜いた薄板 2 枚の間に、折りたたんだ布をはさみ、

糸で縛り不動なものにした上で、染料または抜染剤をか けて染める方法といわれています

11)

。例えば、図 2 のよ うに折りたたんだ布(中央四角)を板(三角形)で挟み、

縛った後で染めるものです。

 

図 1  ロウケツ染のイメージ

(2)

― 22 ― ― 23 ―  纐纈は、布帛を糸でくくって浸染をする模様染として は最も古いといわれています

12)

。また、布の一部をつま み糸でそれを巻きしめる、あるいは文様を縫い取り、糸 を引きしめたりしてその部分のみが染まらないようにし て染める方法で、正倉院の宝物として幡や几褥(きじょ く)などにのこっているといわれています。三纈中夾纈 は、その技法について推定の域を出ていないといわれ

9 )

、 纐纈のみ平安時代以後もさかんに行われ

13)

、辻ヶ花染め として室町時代の中ごろから江戸時代の初めにかけて発 展したといわれています

14)

 

3  纐纈(絞り染め)

 布の一部をつまみ糸でそれを巻きしめる絞りと染模様 を図 3 に示しました。左の図(a)で、糸で巻きしめられ た部分が染まらずに白く、その外側の部分が染められ右

のような模様(b)になります。

 図 1 、 2 で示したように、染まらないようにするため ロウで覆ったり、板で挟んであるいはビニールで包んで しまうことで布と染液が接触しないことから染まらない とすれば理解しやすいことです。しかしながら、絞り染 めの場合は布を括って、糸で巻き締めることにより染ま らない部分をつくることになります。このことに私は素 朴な疑問を持ちました。その理由を以下に述べます。私 たちが普通使っている布は、糸により構成され、糸は多 くの繊維によって構成されています。普通の繊維と呼ば れるものは、直径が数十μmといわれ、髪の毛の70~100 μmと比べるとわかりやすいでしょう

15)

。すなわち、糸 は繊維集合体で、布は糸の集合体ということになります。

したがって、糸は繊維と繊維の隙間を持っており、布は 糸と糸の隙間を有していると考えられます。図 4 に綿金 巾 の 顕 微 鏡 写 真 を 示 し ま し た が、 糸 と 糸 の 隙 間 は

0 . 1 mm程度です。一方、糸の隙間は、適当な方法がな いのでナイロン 6 の糸を水銀圧入法で見積もったとこ ろ、数μm~100μmの分布があり、数十μm前後にピー クがありました

16)

。さらにp-アミノアゾベンゼンのよ うなモデル染料の大きさは、 0 . 7 × 1 . 5 nmです。 1 m の千分の一がmmで、その千分の一がμm、その千分の 一がnmですから、たとえ布がかなり締め付けられても 染料分子に比べて、糸や布といった繊維集合体には1000 倍以上の隙間が用意されていると考えます。それでは、

このような多孔質の繊維集合体の中を染料が入っていく 様子は、どのようになっているでしょうか。私はこのよ うな繊維集合体の染色に関して、布を重ねた積層体の染 色を検討しました

7 )

。一方からのみ染料が入るステンレ

ス製のホルダー (図 5 ) を作製しました。

積層布の上に(a)のようなリングをのせて(b)のよう に固定するようにしてあります。このようなホルダーを 用いて、積層にした布中の染料の分布を調べました。そ の結果は図 6 に示すように、一番外側で染液と接触する 布は濃く染まり、中に入るほど薄くなるという、いわゆ る縦軸が濃度で横軸が距離という濃度分布が得られるこ とになります。このような濃度分布は、特殊なホルダー がなくても、ガラス管に布を巻いても得ることができま す

18)

。積層布中の染料の濃度分布は、ナイロン 6 布とp

-アミノアゾベンゼンという組み合わせで行ったとこ ろ、40℃で22時間染料溶液に浸漬すると 6 枚の布まで染 まり、距離では 0 .55mmとなりました

19)

。また、羊毛布

図 2  板締め染め

(a)        (b)

図 3  絞りと染模様

図 4  綿金巾の顕微鏡写真

(a)       (b)  積層布 図 5  積層布とホルダー

図 6  積層布中の染料の濃度分布

(3)

― 24 ― とOrange  7 の組み合わせでは、60℃、pH  4 . 2 、24 時間で 3 層までで 1 mmとなりました

20)

。通常の染色で は、このような長い時間染めることはありませんから、

染料に対しかなり大きな隙間があったとしても糸や布の 重なりがあれば、染料が入る距離はわずかであるといえ ます。

 これらの結果から、濃度分布曲線と理論式が一致し、

繊維集合体中の染料の浸透は拡散理論で取り扱うことが でき、集合体を平板や円柱として近似できれば、繊維集 合体の染料の見かけの拡散係数が求められることがわか りました

17)

。拡散のイメージを図 7 に示しました。この ような結論から、絞り染めをするためには、毛管現象で はなく繊維集合体中の隙間の水溶液中を染料が拡散によ り入っていくことになるので、染める前に被染物は濡ら す必要があります。また、ゆっくり入るとしても通常よ

り短時間染色を心がけたいものです。

4  三纈以降

 夾纈は、板に模様を陰刻したものを用いて防染する方 法であるとするなら、彫刻の技術と生地を折りたたんで 挟み込む技術の両技術が必要で、高度な技法と日数が必 要であるとされています

21)

。そのため、石崎は夾纈より 簡単である型紙が用いられるようになり、型染めに変化 したと考えています。型紙とは、和紙をたて・よこ方向 に多層貼り合わせ、柿シブを塗った型地紙に、彫刻刀や 突き彫り用の道具を用いて模様を彫り抜いたものです

22)

。現在では、和紙以外に合成紙も用いられています。

学生実験で用いた型紙を図 8 に示しました。

 型紙を使用するにも、のりを置くことによる防染ある いは色のりを置くことによる捺染があります。

 防染の場合、布に染料の吸着あるいは固着を防止する 処理で、適当な防染剤を混和したのりを布に置き、地染 めを行って模様を表す方法です

23)

。友禅染めの防染のり として、次のような例があげられています

24)

。すなわち、

「糯米粉と小紋糠を 4:6 の割合で混ぜ、水でこねて団子 にし蒸すか茹でるかする。これに食塩を 1 %程度と湯を 加えて練り合わせ、さらに消石灰を水に加えておいた上 澄み液を少量加えてよく練る。防染効果を強化するため に亜鉛末をごく少量加えることもある。」とされていま す。

 一方、色のりを置く捺染を型紙捺染といいますが、伝 統的捺染法として型紙友禅、江戸小紋に代表されます

22)

。 模様の数に相当する型紙を用意しなければなりません が、前面に紗(紗目のあらい平織り構造の布)を張って 耐久性を向上させる場合もあります。型紙捺染とともに 孔版印捺方式によって行われる捺染法にスクリーン捺染 があります。これは、わくに張った繊維または金属線条 で構成された紗の下に形成した模様型を通じて被染布に 色のりを与え模様を形成していきます。

 大規模な捺染機としては、自動スクリーン捺染機の他 に銅のローラーに刻んだ模様にのりをつけて布に模様を つけるローラー捺染機があります

26)

。いずれにしても、

色のりを置いた後適当な方法で染料を布に固着させ、水 洗、乾燥の処理を行って模様染めが出来上ります。これ までが古くから近代までの模様染めとなりますが、この 間の様々な技法については、別の機会に譲りたいと思い ます。

5  最近の模様染め 

 染色加工業における加工工程は水洗、乾燥といった多 くの水とエネルギーを使用する工程が不可欠であり、終 了後も排水処理が必要な業種でした。福井県にあるセー レン㈱は、1970年以降自社で開発したプリンターを用い、

織物のインクジェット方式によるプリントを実用化した といわれています

27)

。すなわち、コンピュータで作った デザインデータを「ビスコデザインCAD」に取り込み、

「ビスコテックスCAM」で布地に染めて最終製品にする システムです。このような紙印刷用に使用されていた高 解像インクジェットプリントの布への適用は、80年代の 終り頃より本格的な応用が進んできたといわれています

28)

。電気エネルギーの消費量、水資源使用量、温暖化ガ スの排出量などを低減するためと小ロット多品種生産の ため、従来のスクリーン捺染システムからインクジェッ ト捺染システムへの移行が進んだのです

28)

。このように、

IT技術を利用し、デザインをデジタル化するインク ジェットシステムですが、2004年時での短所が柴田によ

図 7  繊維集合対中の染料の拡散モデル

図 8  型紙と模様

(4)

― 24 ― ― 25 ― り整理されています

29)

。すなわち、「装置が高価」「生産 性が低い」「インクが不明で高価」「ユーザーの染色工場 が任意の色を作れない」 「見本品と有版捺染での本番加工 との色合わせが困難」「製品品位が劣る(色濃度、ザラツ キ性)」です。したがって、インクジェット捺染用前処理 剤、使用される染料、天然染料の応用、機能性インクの 開発などの研究がなされているようです

30)

。インク ジェットプリント方式の開発から20数年が経過しそれな りの成果が出てきているが、まだ未解決技術が存在する、

という指摘

31)

もみられます。それでも、私にはこの方式 が模様染めの主流になるのは間違いなさそうに思えま す。

参考文献

1 )佐々木博昭、家庭科教育、67巻 5 号pp67-72(1993)

2 )土田邦彦、新潟県織物史―明治・大正・昭和期の展 開―、野島出版、p 3 (1990)

3 )http://www.seni-search.jp/japan_products.html,   http://www.fashonbiznavi.org/fbIndustry/textile/habitat

4 )呑海信雄、佐々木博昭、鹿田純雄、県立新潟女子短 期大学研究紀要、No.36、p23(1999)

5 )文献 2 )土田邦彦、p181、p185 

6 )佐々木博昭、和泉洋子、呑海信雄、県立新潟女子短 期大学研究紀要、No.40、p 4 (2003)

7 ) (独)中小企業基盤整備機構、全国繊維産地概況調 査、平成19年度、p94

8 )石崎忠司、きものの染色技法、衣生活研究会、p13

(1980)

9 )木村光雄、染色工業、36、453(1988)

10)新村出編、広辞苑、岩波書店、p567(1981)

11)日本学術振興会染色加工第120委員会編、染色事典、

朝倉書店、89(1982)

12)文献10)新村出編、p735(1981)

13)文献11)日本学術振興会染色加工第120委員会編、

p109(1982)

14)武部猛、「捺染技術のすべて」、繊維社、p24(1979)

15))信州大学繊維学部編、はじめて学ぶ繊維、日刊工業 新聞社、p13(2011)

16)H.Sasaki,H.Morikawa,T.Miyaguchi,and H.Araki, TextileResearchJournal,62,657(1992)

17)佐々木博昭、博士学位論文(お茶の水女子大学)

(1993)

18)佐々木博昭、木藤半平、丁子敬子、唐沢幹雄、繊維 学会誌、40、T-512(1984)

19)H.Sasaki, Y. Honma, H. Kido, N. Choji, M. 

Karasawa,Sen-IGakkaishi,45,107(1989)

20)H.Sasaki, H. Morikawa, and H. Ito, Textile  ResearchJournal,69,944(1999)

21)文献 8 )石崎忠司、p19

22)文献11)日本学術振興会染色加工第120委員会編、

p61(1982)

23)文献11)日本学術振興会染色加工第120委員会編、

p320(1982)

24)木村光雄、染色工業、36、547(1988)

25)文献11)日本学術振興会染色加工第120委員会編、

p177(1982)

26)矢部章彦、林雅子、新版染色概説、光生館、p11

(1981)

27)堀照夫、奥林里子、繊維と工業、

70、P-579(2014)

28)小林文夫、繊維と工業、50、P-302(1994)

29)柴 田 明 宏、KONICAMINOLTATECHNOLOGY REPORT,Vol. 6 ,23(2009)

30)濱田州博、繊維と工業、70、P-394(2014)

31)松尾秀明、佐藤忠孝、森本國宏、繊維製品消費科学

会誌、54、550(2013)

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