Real-time PCR 法を用いた血液培養からの MRSA 迅速診断法の検討
1)京都府立医科大学附属病院臨床検査部,2)京都府立医科大学感染制御・検査医学教室
木村 武史
1)小森 敏明
1)廣瀬 有里
1)倉橋 智子
1)山田 幸司
1)京谷 憲子
1)湯浅 宗一
1)藤田 直久
2)(平成 21 年 9 月 24 日受付)
(平成 21 年 12 月 28 日受理)
Key words : MRSA, real-time PCR, blood culture
要 旨
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は院内および市中感 染型の感染症を引き起こす薬剤耐性菌として問題となるが,特に血流感染症は患者の予後の悪化や医療コス トの増大を招く点で臨床的に重要である.MRSA の正確かつ迅速な検出が不可欠であるが,培養法を含む 従来の検査法では感度や培養時間など種々の問題点があった.我々は real-time PCR 法を用い検体から直接 MRSA が検出可能な BD GeneOhm MRSA Detection Kit(日本 BD)について基礎的検討を行ってきたが,
今回血液培養ボトルから直接 MRSA を検出した場合の検討を行った.本法の原理上の特徴は MRSA の mecAではなく staphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)上の配列を標的として測定することに ある.陽性血液培養ボトルのうち鏡検で集塊状のグラム陽性球菌が認められた 138 例について培養法と比較 した検討では感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率はそれぞれ 100%,97.3%,90%,100% と極めて良 好な結果であり,陽性当日中の MRSA 判定が可能である.methicillin-susceptible S. aureus(MSSA)では 27 例中 3 例偽陽性が認められ,mecAを欠いた SCCmec!orfX領域を検出している可能性が示唆された.ま た同時に検討した直接コアグラーゼ試験は対費用効果に優れ,本法との併用で MSSA 判定も可能となり早 期に標的治療が可能となる.MRSA 血流感染症の迅速診断は患者の予後の向上,医療費の削減をもたらす と期待されるが,本法はより適切な診断と治療に貢献できると思われる.
〔感染症誌 84:199〜205,2010〕
序 文
メ チ シ リ ン 耐 性 黄 色 ブ ド ウ 球 菌(methicillin- resistant Staphylococcus aureus; MRSA)は最も検出 率の高い薬剤耐性菌のひとつであり,1961 年に英国 で最初に分離されて以来,分子的進化を遂げながら世 界中に蔓延してきた1).皮膚軟部組織感染症などの起 炎菌としてのみならず易感染者への院内感染の原因菌 として問題となるが,なかでも血流感染症は患者の予 後の悪化のみならず,治療期間延長に伴う医療コスト の増大を招く点で臨床的に重要である.さらに近年,
入院歴などのリスク因子を持たない人が市中で感染す
る市中感染型 MRSA(community-associated MRSA ; CA-MRSA)が注目されてきている2).米国では市中 で優勢な USA300 株が院内に浸透し,従来の院内感 染型 MRSA と置き換わるような状況にある3).USA 300 は欧州や日本などからも検出されており4),易感 染者の多い院内で流行すればより深刻な事態を招くこ とも予想される.MRSA をめぐる状況は,新たな局 面を迎えつつある.
これらの MRSA 感染症,特に血流感染症に対する 早期の診断と治療のためには,MRSA の正確かつ迅 速な検出が不可欠である.しかし従来の標準的な培養 法で MRSA を検出するには,血液培養陽性からコロ ニー形成に 1 日,同定・薬剤感受性検査にさらに 1 日 と少なくとも 2 日間が必要であった.血液培養からよ り迅速に MRSA を検出するための方法として,これ 原 著
別刷請求先:(〒602―8566)京都市上京区河原町通広小路上 ル梶井町 465
京都府立医科大学附属病院臨床検査部 木村 武史
Fig. 1 MRSA chromosomalregion targeted by MRSA- specificprimers.
Left-arrow:primersspecificto SCCmecright-extremity sequences
Right-arrow:primerspecificto S.aureusorfXsequences Center arrow: fluorescent-labeled molecular beacon probeshybridizing to MRSA-specificamplicons まで直接コアグラーゼ試験,直接セフォキシチン感受
性試験,直接 PBP(penicillin-binding protein)2 ラ テックス凝集検査,特定の薬剤を培地に組み合わせた 選択培地によるスクリーニング検査法,さらには分子 診断法として PNA-FISH(peptide nucleic acidin situ hybridization)法やメチシリン耐性遺伝子であるmecA を標的にした PCR(polymerase chain reaction)法 などが検討,開発されてきた.しかし検査法により,
感度や特異度が低い,培養陽性当日中の判定が困難で ある,特別の装備や技術が必要である,高コストであ る,あ る い は 検 体 中 にmecAを 保 有 し て い る coagulase-negative staphylococci(MRCNS)と methi- cillin-susceptibleS. aureus(MSSA)が混 在 し て い る 場合に偽陽性が起きる可能性がある,などの様々な問 題点が指摘されている5)〜7).
MRSA のメチシリン(β―ラクタム)耐性を担う遺 伝子であるmecAを含む外来性のカセ ッ ト DNA は staphylococcal cassette chromosome mec(SCCmec)
と呼ばれ,SCCmec型は I 型から V 型(最近では VII 型まで報告がある)に分類される2).SCCmecの MSSA への挿入が限られた回数起こり,それぞれの MRSA クローンになることが解明されている8).また,SCCmec 中のmec遺伝子複合体より右側のorfX 3ʼ末端までの 領域,および隣接するorfXの一部から構成される接 合 部 領 域 は SCCmec right extremity junction
(MREJ)と呼ばれるが,近年,MREJ の種々の配列
(MREJ types i-vii)に特異的なプライマーを用いた 新しい real-time PCR 法が開発された7).
我々はその方法を基に検体から直接 MRSA の検出 が可能な BD GeneOhm MRSA Detection Kit(日本 BD,以下 GO-MRSA 法)について基礎的検討を報告 してきたが9),今回,本法を用いて血液培養ボトル検 体から直接 MRSA を検出した場合の臨床的有用性の 検討を行った.
方 法 1.測定原理
GO-MRSA 法は,MREJ に含まれる SCCmecの右側 に位置する特異的な複数の配列および隣接するorfX 上のS. aureusに特異的な配列を multiplex real-time PCR 法で増幅し,標的特異的な蛍光プローブ(モレ キュラービーコン)で MRSA の増幅 DNA を検出す る(Fig. 1).さらに増幅阻害の確認のため,内部コ ントロール(IC)の DNA 断片も同時に増幅される.
所用時間は DNA 抽出処理も含めて約 2 時間である.
2.DNA 抽出
DNA 抽出には BD GeneOhm Lysis Kit(日本 BD)
を用いた.菌液および培養液等のサンプル 100µL を sample buffer tube に注入して撹拌した後,全量を ly-
sis tube に移し,5 分間ボルテックスで撹拌して DNA を抽出する.PCR インヒビター不活化のため 95℃ で 2 分間加温後,4℃ に保持し前処理試料とする.PCR サンプルチューブに master mix 25µL を入れた後,前 処理試料を 2.8µL 注入し,陰性・陽性コントロールと 共に PCR 増幅過程に進む.なお増幅装置には smart cycler unit(Cepheid,CA,USA)を用いた.
3.血液培養ボトルでの基礎的検討
当 院 で 使 用 し て い る 血 液 培 養 ボ ト ル は BacT! ALERT FA(好気用),FN(嫌気用),PF(小児用)
(Biomerieux)で,いずれも培養液中に抗菌薬吸着剤 として活性炭粒子が含まれている.活性炭粒子は PCR 増幅過程において基質を吸着することで増幅阻害の原 因のひとつとなることが予想される.そこで菌無添加 のボトル培養液を遠心なしの原液,1,000rpm,10min 遠心,3,000rpm,5min 遠心,3,000rpm スピンダウン,
5,000rpm スピンダウン,10,000rpm スピンダウンの 各条件で遠心した後の上清をそれぞれ GO-MRSA 法 で測定し,内部コントロールの増幅阻害の有無を検討 した.次に MRSA 標準菌株(ATCC43300)をボトル に添加し,培養陽性になった時点で培養液を最適遠心 条件で処理し,実際に MRSA 判定が可能か検討した.
4.血液培養ボトル検体の検討
対象は 2007 年 11 月から 2009 年 4 月の期間におけ る当院入院患者の血液培養ボトル陽性検体のうち,鏡 検で「集塊状のグラム陽性球菌」が認められた 138 例
(患者重複なし)とした.なお検体の内訳は静脈血 97 例,動脈血 10 例,血管カテーテル血 15 例,胸水 4 例,
その他の体腔穿刺液 9 例,手術材料 3 例である.
対象検体について,ボトルから培養液をマイクロ チューブに 1mL 抜き取り 10,000rpm(8500G)スピン ダウンした後の上清を試料として GO-MRSA 法で測 定し,培養法を基準として感度・特異度を求めた.培 養法の同定には PS ラテックス(栄研化学),VITEK 2(Biomerieux)を用いた.また薬剤感受性試験は栄 研プレート(栄研化学)を用い,Clinical and Labora- tory Standards Institute(CLSI)に準拠した微量液
Table 1 GO-MRSA diagnosticperformance versusculture results(n= 138)
NPV (%) PPV
(%) SP (%) S (%) Samplestested by culture ofGPC in cluster
GO-MRSA
Micrococcus MSCNS
MRCNS MSSA
MRSA
100 90 97.3 100 0
0 0
3 27
Positive
1 19
64 24
0 Negative
S:sensitivity,SP:specificity,PPV:positive predictive value,NPV:negative predictive value GPC:gram-positive cocci
Table 2 Number and percentage of positive results from directtube coagulase test(n= 71)
Positive results(%)
Isolates
1:10 saline dilution of supernatant incubation (h) Icubation
supernatant(h)
24 4
24 4
28 (97) 24 (83)
28 (97) 18 (62)
S.aureus(n= 29)
0 0
0 0
CNS (n= 42)
体希釈法で行った.
5.直接コアグラーゼ・セフォキシチン試験 Real-time PCR 法以外の種々の MRSA 迅速検出法 のなかで最も簡便で安価な方法である直接コアグラー ゼ 試 験 と 直 接 cefoxitin(CFX)感 受 性 試 験 を GO- MRSA 法と同時に実施し,コストも含め総合的に検 討した.対象は先に検討した 138 例のうち 2008 年 9 月から 2009 年 4 月の期間における 71 例である.
直接コアグラーゼ試験はボトル培養液を 10,000rpm スピンダウンした後の上清を検体とし,American So- ciety for Microbiology(ASM)が定める手順で実施 した.ウサギプラズマ(栄研化学)の生食溶解液 0.5 mL に検体 2 滴を滴下し 35℃ で 4 時間培養し,部分 的にでも凝固が認められれば陽性と判定した.陰性の 場合はさらに 25℃ で培養し,24 時間後に最終判定し た.またボトル培養液中に含まれる抗凝固剤 sodium polyanethol sulfonate(SPS)の影響を回避するため,
予め上清を生理食塩水で 10 倍希釈した試料も同時に 検査した.
直接 CFX 試験はルーチン検査用に培養液をそのま ま画線塗抹した血液寒天培地(栄研化学)に CFX KB ディスク(BD)を置いた場合と,上清をミューラー ヒントン(MH)寒天培地(栄研化学)に塗布してディ スクを置いた場合で実施した.35℃ で 24 時間培養後 に完全発育阻止直径を測定し,暫定的に CLSI 基準で 感受性を判定した.
結 果 1.基礎的検討
培養液中の活性炭粒子の影響については,遠心なし,
1,000rpm,10min 遠心,3,000rpm スピンダウン,5,000 rpm スピンダウンの条件では増幅阻害のため測定不 可であ っ た.3,000rpm,5min 遠 心,10,000rpm ス ピ ンダウンの条件では増幅阻害は回避できたが,より短 時間で処理するため 10,000rpm(8500G)スピンダウ ンを最適遠心条件とした.
MRSA 標準菌株を添加したボトルの培養陽性時の 菌量は 107CFU!mL であり,スピンダウン操作で上清 中の菌量は 10−1程度減少した.しかし,我々の検討で は本法の検出感度は 810CFU!mL で9),スピンダウン 操作でも問題なく測定可能であることが確認された.
2.感度・特異度
培養法を基準とした血液培養ボトル陽性検体 138 例
(内 訳 は MRSA(n=27),MSSA(n=27),MRCNS
(n=64),MSCNS(n=19),Micrococcus(n=1))の 検討では,感度 100%,特異度 97.3%,陽性的中率 90%,
陰性的中率 100% と良好な成績であった(Table 1).
偽陰性はみられなかったが偽陽性と思われる株が MSSA で 3 例認められたため,より詳細な検討を行っ た.いずれも VITEK2 による同定はS. aureus,CHRO- Magar MRSA(関東化学)および PBP2 (デンカ生 研)は陰性で CFX ディスク法は感受性を示した.ま た 内 2 株 に つ い て は BD diagnostics-GeneOhm 社
(Quebec,Canada)に依頼して遺伝子解析を行った 結果,両株にmecAは存在せず,MREJ の配列はそれ ぞれ type i と type ii であり,SCCmecの構造を有す るがmecA領域の欠損した MSSA 株であると同定さ れた.
3.直接コアグラーゼ・セフォキシチン試験 直 接 コ ア グ ラ ー ゼ 試 験 で は 4 時 間 判 定 時 のS.
aureus株(n=29)の陽性率は上清で 62%,希釈液で
83% であり,24 時間判定時ではいずれも 97% であっ た.また CNS 株(n=42)に陽性は認められなかっ た(Table 2).
直接 CFX 試験での感受性一致率は,MSSA 株(n=
14)では血液寒天培地で 79%,MH 培地で 100% を 示し,MRSA 株(n=15)ではいずれも 100% であっ た.また MSCNS 株(n=10)では血液寒天培地で 60%,
MH 培地で 90% を示し,MRCNS 株(n=32)ではい ずれも 97% であった.
考 察
MRSA 血流感染症を早期に診断し,的確な治療と 院内感染対策を実施するためには,MRSA 検出法に 迅速性とともに高い感度,特異度が要求される.今回 の培養法を対象とした血液培養ボトル検体 138 例での 検討では,GO-MRSA 法の感度,特異度,陽性的中率,
陰 性 的 中 率 は そ れ ぞ れ 100%,97.3%,90%,100%
と良好な成績を示したが,これ ら は 我 々 が 行 っ た mecA遺伝子を対象にしたS. aureus臨床分離株の基礎 的検討における成績とほぼ同様であった9).本法はも ともと鼻腔スワブから直接 MRSA を検出するために 開発された測定キットであるが,mecA領域ではなく SCCmecの MREJ 領域の配列を標的として MRSA を 検出するのが測定原理上の最大の特徴であり7),この 原理を用いた商業ベースの測定キットとしては世界初 の も の で あ る.こ れ に よ り 鼻 腔 の よ う に,例 え ば MSSA と MRCNS が混在しているような検体で偽陽 性を示すことなく,MRSA のみを検出することが原 理的に可能となった.
鼻腔のような皮膚・粘膜スワブ検体での検討では特 異度と比較して感度がやや低い傾向が見られるが,
我々が検討した血液培養ボトル検体では偽陰性は認め られなかった.鼻腔スワブ検体では検出限界以下の菌 量,DNase や種々の増幅阻害物質の存在などが偽陰 性の原因となるが,血液培養検体ではこれらの影響が 少ないためであると考えられる.血液培養ボトル中の 活性炭粒子を遠心操作で除去すれば特に問題ないと思 われる.ただし,本法のような PCR 法の原理的限界 のひとつに,新規の標的配列は認識できないという問 題がある.本法は SCCmectype I,II,III,IVa,IVb,
IVc,V を認識できるとされるが,バリアントや新規 の SCCmecをもつ MRSA は検出できない可能性があ る.Francois らは多様な multilocus sequence typing
(MLST)プロファイルを持つ MRSA 株について本法 で検討し,SCCmec type III,IV,V の非定型株が検 出できなかったと報告しており10),地域による分子疫 学的な特徴が検出率に影響を与えることが示唆され る.
一方,MSSA 株において 3 例偽陽性がみられたが,
うち 2 例での遺伝子解析の結果では,mecAを欠いた SCCmecを保持している株と同定された.MREJ typ- ing は type i と type ii を示し,異なる株であった.偽 陽性の原因のひとつに,SCCmecの部分的離脱が考え られる11).Huletsky らは欧米を中心とした MSSA 株 の解析で 4.6% に偽陽性を認め,その原因としてmecA 領域の一部欠損を伴う SCCmecフラグメントの存在も し く はmecAを 含 ま な い SCC の 存 在 を 指 摘 し て い る7).またこれらの偽陽性 MSSA 株が同じ患者の検体
から MRSA 株と同時に分離された例も報告されてい るが7),mecAの欠損がin vivoで生ずるのかin vitroで 生ずるのか不明である.今回の血液培養ボトル検体で 検 討 し た MSSA 株 の 偽 陽 性 率 は 11.1% と Huletsky らの報告の約 2 倍であった.現在の日本における院内 感 染 型 MRSA が New York!Japan(ST5!SCCmecII)
とほぼ単一のクローンなのに対し,欧米ではさまざま なクローンが存在し,MREJ の検出率に差が生ずるこ とも考えられるが,まだ検査株数は少なくさらなる検 討が必要である.
以上,GO-MRSA 法は測定原理上の問題点や限界が あるものの,本法によって血液培養ボトルから MRSA を陽性当日中にほぼ確定できることが確認された.た だし,本法は MRSA のみの検出のため,次の課題は いかに迅速に MSSA を判定するかが臨床的にも重要 になってくる.そのための方法として,我々は特別な 設備や技術が不要で安価な直接コアグラーゼ試験と直 接 CFX 試験を併用して検討した.
コアグラーゼ試験はルーチン検査において現在でも
S. aureusの標準的な同定法であるが,培養陽性となっ
た血液培養ボトルから培養液を直接用いることでより 迅速に判定が可能となる.これまで報告された直接法 の成績をみると特異度こそ 99〜100% であるが,感度 については 24 時間判定で 92〜100%,4 時間判定で 62〜100% であった5)12)13).今回の検討でも特異度は 100% であったが感度は 24 時間,4 時間判定でそれぞ れ 97%,62% であった.特に 4 時間判定時では感度 が低く,ばらつきも大きくなった.その原因としては,
抗凝固剤 SPS のキャリーオーバー,弱い凝固ゲル判 定の困難さ,ウサギプラズマの品質ロット間差などが 考えられた.Varettas らは SPS の濃度が 0.0008% 以 上でプラズマ凝固に影響がでるとし,事前に培養液を 生理食塩水で 10 倍希釈することでその影響を回避で きると報告している13).今回同様の方法で検討した結 果,4 時間判定で 83% と感度が上昇した.また今回 の検討では認められなかったが,菌株に由来する要因 としてコアグラーゼ陰性を示すS. aureus非定型株や 逆にS. intermediusなど CNS の中でコアグラーゼ陽 性を示す菌種の存在がある.DND-DNA hybridization で確定したS. aureusの 7% でコアグラーゼ陰性を示 したという報告もあり,これらが偽陰性,偽陽性の潜 在的原因になりうることを念頭に入れておく必要があ る.
次 に 直 接 CFX 試 験 で は,CLSI 基 準(≦21mm : MRSA,≧22mm : MSSA)で暫定的に判定した場合,
MH 培地に直接ディスクを置いた場合の判定一致率は 100% であったが,血液寒天培地では MSSA 判定一 致率は 79% であった.Bennett らの血液寒天培地で
Fig. 2 AnnualMRSA/MSSA ratio ofnosocomialS.au reusbacteremia ata university hospital.
Table 3 Performance ofthree rapid methodsidentifying MRSA/ MSSA directly from blood culture (n= 71)
DTCT+ DCDT GO-MRSA+ DTCT
GO-MRSA Method
MRSA MSSA
MRSA Targetorganism
24 4
2 Processing time (h)
93.3 78.6
100 Sensitivity (%)
100 100
98.2 Specificity (%)
100 100
93.8 PPV (%)
98.2 95
100 NPV (%)
230 3,850
3,770 Costpertest(\)
DTCT:directtube coagulase test(saline dilution),DCDT:directcefoxitin disk dif- fusion test(MH agar)
の 検 討 で も 判 定 基 準 を≦17mm : MRSA,≧21mm : MSSA と設定した場合ではそれぞれ 100% の一致率 を示したが,中間(18〜20mm)に分類される株の 15%
は MSSA であった14).培養液をそのまま血液寒天培 地に塗布した場合,活性炭粒子等の影響で耐性傾向の 判定となるが,スピンダウン後の上清を塗布した MH 培地を用いることで 24 時間後には MRSA!MSSA の 判定ができる.
これらの成績より,GO-MRSA 法,直接コアグラー ゼ試験(生食希釈法),直接 CFX 試験(MH 培地)を 組み合わせることで血液培養ボトル陽性から 24 時間 の時点で 97% 以上,4 時間の時点でも約 80% の確率 で MRSA と MSSA の判定が可能であることが示され た(Table 3).
S. aureus血流感染症における患者の予後および早期 診断,治療の臨床的意義については従来から数多く議 論されてきた.最近の 31 の文献を用いたメタアナリ シスをはじめ幾つ か の 検 討 で は,MRSA 菌 血 症 は MSSA 菌血症より有意に死亡率が高く,入院期間も 延長すると報告されている15)16).ただ Cosgrove らに よる検討では入院期間は有意に延長するものの死亡率 では両者に有意差はなく,その場合,血液培養陽性後 早期の vancomycin(VCM)による経験的治療の開始 が指摘されている17).いずれにせよこれらの検討から は MRSA 菌血症の予後悪化を招く最大の因子は適切 な初期治療の遅れであることが示唆される.この初期 治療の遅れについて,Lodise らはS. aureus菌血症治 療における早期と遅延治療のブレークポイントは菌血 症発症後 44.75 時間であり,早期治療の遅れは死亡率 の上昇と入院期間の延長をもたらすと報告してい る18).当院のデータでも血液培養陽性から 48 時間以 内に抗 MRSA 薬で治療を開始した群より 48 時間以降 に開始した群のほうが有意に死亡率が上昇してい た19).この様な初期治療の遅れを防ぐためにも,血液 培養で集塊状のグラム陽性球菌が検出され感染症が推 定される場合,MRSA を想定し,経験的治療として
VCM 等の抗 MRSA 薬による治療が開始されること が重要となる.ただし MSSA 菌血症にもかかわらず VCM を投与し続けた場合,cefazoline(CEZ)投与と 比較して,菌血症治療失敗のリスクが有意に高まると いう報告もある20).さらに CEZ などによる標的治療 に切り替えることでより適切な抗菌薬使用につながる だけでなく,医療費の削減も可能となる.菌血症の治 療として 1 日当り投与量を VCM 1g×2,CEZ 1g×4 と想定した場合,薬価はそれぞれ 13,644 円,1,904 円 となり,CEZ に変更すれば 1 日あたり 12,000 円程度 のコスト削減が可能となる.日本の血液培養で検出さ
れるS. aureusに占める MRSA の割合は近年やや低下
傾向にあるが,当院の血液培養でも最も多く検出され る菌種は依然としてS. aureusであるものの,MRSA の割合は 2006 年以降漸次低下し 2008 年には 36% ま で 低 下 し た(Fig. 2).こ の こ と は 以 前 に も 増 し て MRSA と MSSA の迅速判定が重要になっていること を意味している.
近年,MRSA の迅速検査法は分子診断法を中心に 飛躍的に進歩したが,感度,特異度,迅速性,簡便性,
コストの全てを十分に満足させる検査法は未だ存在し ない.しかし幾つかの検査法を組み合わせることで一 定の基準をクリアすることは可能であり,今回検討し た GO-MRSA 法と直接コアグラーゼ法,直接 CFX 法 によって血液培養ボトルから迅速(24 時間以内)に
MRSA および MSSA を判定できることが示された.
MRSA 感染症,特に血流感染症の迅速診断は,患者 の予後の向上,最適な抗菌薬選択による薬剤耐性圧力 の緩和,適切な感染管理の実行,そしてそれらに伴う 医療費の削減に多大な効果をもたらすものと期待され る.本法はこれらの課題の解決に貢献できると思われ る.
文 献
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Evaluation of MRSA Rapid Detection by Real-Time PCR Directly from Positive Blood Cultures Takeshi KIMURA1), Toshiaki KOMORI1), Yuri HIROSE1), Satoko KURAHASHI1),
Yukiji YAMADA1), Noriko KYOTANI1), Soh-ichi YUASA1)& Naohisa FUJITA2)
1)Department of Clinical Laboratory and2)Department of Infection Control and Laboratory Medicine, Kyoto Prefectural University of Medicine
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA), a well-known causative multidrug-resistant pathogen responsible for nosocomial and community-acquired infections, particularly in blood stream infection, often proves difficult and expensive to treat. Despite the need for rapid, accurate MRSA detection for treatment and infection control, conventional testing including culture, have sensitivity and turn-around time (TAT) problems. We evaluated BD GeneOhm MRSA Detection Kit rapid detection performance directly from posi- tive blood culture using real-time PCR. The kit recognizes, a specific part of the staphylococcal cassette chromosome mec (SCCmec) gene, not a mecA gene. Compared to conventional culture in 138 samples with gram stains showing gram-positive cocci (GPC) clusters, the kitʼs sensitivity was 100%, specificity 97.3%, positive predictive value 90% and negative predictive value 100%. Three of the 27 MSSA isolates found was false-positive, indicating that the kit detected SCCmec!orfX region sequences lacking mecA. Coupled with direct tube coagulase testing to rapidly differentiate MRSA from methicillin-susceptible S. aureus (MSSA) could provide optimum treatment through appropriate antibiotic use. The kit thus appears to be useful in rapidly diagnosing MRSA from blood culture, improving the prognosis and reducing medical cost.