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Academic year: 2021

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(1)

離散型生産システムの挙動モデルにおける SPIN を活用した要制御部位の検出手法

高塚 佳代子

宮崎大学工学部教育研究支援技術センター

1.

概要

現在開発中の「モデルに基づく離散型生産システム制御系の系統的設計手法」では、プロセスネットワーク型の中間モ デルで表現された対象システム内に潜在する「制御を要する危険部位」の検出が重要な課題となっている。本稿では、並 列分散システムの動作検証ツールである Spin[1]のシミュレーション機能を活用し、このような「危険部位」を動的に絞 り込む方法について提案する。

2.

背景と目的

本研究室では、離散型生産システムの挙動を表現するためのステートチャートベースのモデル「拡張時間ステートチャ ート」を開発し、そのモデルに基づき制御系を実現するための手法を開発してきた。ここで、対象とするシステムは、例 えば、医薬品の生産バッチプラントのような多品種少量で、変種変量生産のフローショップ型装置群を持つようなシステ ムである。生産要求はバッファリングされ、時間駆動でスケジュールされるが、通常予定通りには処理は進まない。そこ で、この種のシステムでは、計画がくるっても対応できるようにするための方法として、時間駆動で得られたスケジュー リング結果を事象駆動(順序情報)に変換してシステムに与える必要がある。この時、新たな不都合{バッティング、非決 定性}が生じる可能性があるため、それがどこで起こるかを事前に検出しておくための手法の開発が必要となる。この問 題に関し、本研究では、プロセスネットワーク型モデルの構造的特徴に基づいて要制御部位を顕在化させるという方法を 開発してきた。しかし、この方法では、要制御部位を完全に絞り込むことはできないことと、要制御部位であるにもかか わらず検出できないケースも在る、といった問題点がある。以上のことから、本研究の目的は、プロセスネットワーク型 モデルの見かけ上は制御を要する箇所として検出されるが実際には競合が起こらない部分を除外する方法、及び、見かけ からは検出されないような制御を要する箇所を見つける方法を提案することである。以下では、本手法全体の枠組み、及 び、本研究室で既に開発されているプロセスネットワーク型モデルの構造的特徴、即ち「見た目」から「制御を要する可 能性のある箇所」を検出する方法について説明した後、本研究目的について示す。

3.

本制御系実現手法の枠組み

1

が本研究室で開発してきた制御系を実現するための枠組みである。ここでは、2 種類の挙動モデルを採用するが、

その理由は、 「プロセスネットワーク型モデル」は、物質情報の流れを自然に表現できるため、バッティングや 非決定性 が何処で起こり得るか?を顕在化させやすいのに対し、「拡張時間ステートチャート」の方は、明確な階層性・並行性を 持つため、制御系のドライバーを操作するためのプログラムである実行モジュール群への変換がしやすいためである。従 って、まずプロセスネットワーク型モデルで制御を要する箇所をみつけ、その各々の箇所に制御内容を独立に埋め込むこ とが出来るような拡張時間ステートチャートを、プロセスネットワーク型モデルからの変換によって作成し、そこから実 行モジュールをテンプレートを用いた形式的な手順に従って抽出させるという流れを採用する。

入力 プロセス

ネットワーク モデル

実行 モジュール

実行モジュール 変換手法 抽出手法

拡張 時間 ステート チャート

制御則

動作 検証

検証 結果

C

変換手法

動作の 実現

・装置特性

・製造レシピ

・スケジュー リング結果

図 1  挙動モデル「拡張時間ステートチャート」に基づく制御系設計手法 

(2)

4.

「制御を要する可能性のある箇所」をプロセスネットワーク型モデルの構造的特徴から検出可能とするための仕組み

2

で示すように、プロセスネットワークは、並行動作する各プロセスをノードで、メッセージの通信路をアークで表 現し、プロセスがストリーム並列で動作するネットワークのことだが、本研究では、更に、バッティングや 非決定性 が 起こり得る箇所が常に同じ構造的特徴として現れるようにするための記法上の制限を与えた[2]。その制限を与えるため に、まず、通常のプロセスネットワークの概念を具体化するための幾つかの記法や意味付けを次のように与えた。即ち、

プロセスは、「内部プロセス」の集まりであり、それらは選択的に実行され、これらの内部プロセスは更に小さいプロセ スである「操作」のシーケンスとして定義され、アークの根元は、「装置の要求」などのメッセージが出力されるべきタ イミング(具体的には、特定の操作の直前か直後)を表わす位置に付けさせ、一方のアークの先端は、それを受理すべき ノード自身に付けさせるようにし、「メッセージの受理」=「使用を許可」という意味付けをした。以上の取り決めの下 で、バッティングや 非決定性が起こり得る箇所が常に同じ構造的特徴として現れるようにするために、 「XOR 関係にあ る複数のアークの根元、或いは先端は、同一部位に集める」という記述上の制限を与えることとした。

5.

見かけ上は制御を要する箇所として検出されるが 実際には競合が起こらない箇所を検出する方法 

検出方法を形式化するには、汎用性という意味で無理があったため[3]、本研究では、並列離散型システムのための検 証ツール「SPIN」のシミュレーションツールを利用した検出方法を開発した(図

3

参照)。本方法では、検出のためのプロ グラムである「検出用プローブ」を作成するのだが、その処理内容は、システムの実行中に「見かけ上制御を要する箇所」

でのメッセージの発生を監視し(図中(1))、実際に競合が起きたパターンを抽出、及び記録し(図中(3))、実行を続けさせる ために便宜上与えて置いた優先順位に基づいて、競合解消を行わせ(図中(4))、以上を優先順位を変えて繰り返すことで起 こり得る全ての競合パターンを検出する(図中(5)から(1)へ戻り繰り返す)、というものである。以上のような検出用プロー ブをシステムへ埋め込んで網羅的にシミュレーション実行し、最終的に記録されなかったパターン、つまり競合が起きな かったパターンを「除外すべき対象」と判定する。

N2 N1 N3 N2 N4 N3

N5 N4

P N2

N3

・・・・

・・・・

・・・・

[A.1 A.2   A.4]

[B.1 B.2    B.4]

[A.7 A.8  A.11]

[B.7 B.8   B.11]

[A.7 A.8  A.11]

[B.7 B.8   B.11]⑥

m̲sw1 m̲sw2 m̲sw3 m̲sw4 m̲sw5 m̲sw6

Q 検出用プローブ

(2)

p

^

[

o

イベント (3)

観測部発生 (1)

(4) N1

N2

N3

N4

(5)

6.

制御を要するがプロセスネットワーク型モデルの見かけ上からは検出されない箇所を検出する方法

この方法に関し、SPIN を活用した次のような方法を考えた。 まず、モデルの構造からは検出できない潜在的な要制御 部位が「あるかどうか」のチェックは、SPIN でのシミュレーション実行を網羅的に行い、システムが停止するかどうか によって行う。もし、停止した場合は、SPIN が提供する「シミュレーションログ」 により、 停止時の状態変数の値を 参照することが出来るので、「何故停止したか?」の原因を解析することができる。更に、 「原因」が同定できた場合は、

今回見つかった要制御部位が構造的特徴として現れるようにするための修正を、プロセスネットワーク型モデル上へ施す。

もし、原因を同定できなかった場合は、シミュレーションログに表示させる状態変数の種類や数を変更し、再度シミュレ ーションを行う。

7.

プロセスネットワーク型モデルから

PROMELA

への変換

Spin

を利用するためには、Promela で記述されたモデルが必要であるため、本研究では、プロセスネットワーク型モデ

ルから

Promela

への変換手法の開発と、自動変換システムの作成を行った。図

4

は、本研究で開発した変換方法の基本的

な考え方を示したものである。具体的には、データ抽出用テンプレートを用いてプロセスネットワーク型モデルの情報を 抽出し、Promela ソーステンプレートを用いてテキスト形式に集約するというものである。具体的には、プロセスネット

3  「検出用プローブ」を使用した検出方法の概観 

2  プロセスネットワークの例 

(3)

ワーク型モデルの ノード を、ノード名というキーで抽出し、Promela での

PROCESS”

へ変換する(図中①)。また、ノ ードの内部データの部分、即ち、操作の一手順と見なしている部分を、操作名として抽出し、 内部

PROCESS”

へ変換す る(図中②)。更に、メッセージ送信のための アーク は

Promela

での チャネル へ変換するが、アークの先端は、プ ロセス、或いは操作の開始条件や終了条件として抽出し(図中③)、チャネルの

IN

へ変換する。一方、アークの根元は、

ノード或いは操作の開始条件や終了時に出力されるメッセージとして抽出し、チャネルの

OUT

へ変換する(図中④)。本 研究では、以上のような変換を自動的に行わせる変換システムを実装した。

active proctype P&P(){ 

Idle:      if

::fcm?f̲ready̲pi->  

atomic { goto A2; } fi;

A2:      if

::pcm!p̲ready̲f-> 

atomic { psw=on; p̲wsw=f̲wsw; } if

::pcm!p̲complete̲f->

atomic { goto A3; } fi;

fi;

A3:      if

::skip  ->  atomic { skip; } if

::skip  ->  

atomic { goto A4; } fi;

fi;

A4:      if

::pcm!p̲ready̲ci  ->  

atomic { psw=off; } if

::ccm?c̲complete̲p -> 

atomic { goto Idle; } fi;

fi;

}

<P>

<PROCESS>

P&P

</PROCESS>

<IDLE>

<BEGINNING>

fcm?f̲ready̲pi

</BEGINNING>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<NEXT̲P>

A2

</NEXT̲P>

</IDLE>

<INTERNAL̲P>

<INTERNAL̲PROCESS>

A2

</INTERNAL̲PROCESS>

<BEGINNING̲GUARD>

pcm!p̲ready̲f

</BEGINNING̲GUARD>

<PROCESSING>

psw=on p̲wsw=f̲wsw

</PROCESSING>

<INTERNAL̲END>

pcm!p̲complete̲f

</INTERNAL̲END>

<NEXT̲P>

A3

</NEXT̲P>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

</INTERNAL̲P>

</P>

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

パーツフィーダ {A1   、 A2   }

{   A2 , A3,      A4} P&P

搬入コンベア {     A4 , A5  }

プロセス開始条件

工程開始条件 工程終了条件

(1)プロセスネットワーク型モデル

(3)PROMELAソーステンプレート

工程名

処理内容

⑦ 次工程

(2)データ抽出用テンプレート

③ ③

④ ④

8.

検証実験

本研究で開発した手法の検証を行うために、図

5

のような

2

工程のフローショップ型生産システムである

FA

実験装置 を対象として実験を行った。

パーツフィーダ

搬入コンベア

ピック&プレース

押し出しシリンダー

2工程 搬出コンベア

第1工程

ストッパー

ボックス

アームロボット 判別セ ンサー

ターンテー ブル

ストッカー

まず、本研究で開発した変換手法と自動変換システムの妥当性の検証を行った。具体的には、FA 装置のプロセスネッ トワーク型モデル(図

6)を、本研究で開発した変換システムへ入力したところ、変換システムは、データ抽出用テンプレ

ートを用いてプロセスネットワーク型モデルの情報を抽出し、Promela ソーステンプレートを用いてテキスト形式に集約 し、正しい

PROMELA

プログラムを生成した。そして、非決定性が残っている部分に関してはランダムに処理を選択す る

SPIN

のランダムシミュレーション機能を用いて得られた

Promela

プログラムを実行したところ、プロセスネットワー ク型モデルの記述どおりに動作することが確認された。

次に、見かけ上は要制御部位としての構造的特徴を持つが、実際には競合が起こらないような箇所を検出除外する方法 の妥当性について検証した。 即ち、まず、対象システムの構造的特徴上、制御を要する可能性のある箇所、具体的には アームロボット使用要求の競合が発生する可能性のある個所に対し、そこに埋め込むための検出用プローブを作成し、そ れを先に生成した

PROMELA

プログラム中に埋め込んだ(図

7)。そして、SPIN

のシミュレーションモードでシステムを

4  プロセスネットワーク‐Promela 変換システムによる変換例 

5  対象プラント 

(4)

実行し、イベントの発生の競合を監視、検出、記録させた。その結果、例えば図中

P

の部分では、競合する可能性のあ るメッセージ

8

個に関する全ての組み合わせパターン

247

通り中、実際に競合するパターンとしては

39

パターンが抽出 され、それ以外は本来要制御部位ではない箇所であることが判った。 なお、以上の結果は、ハンドトレースによる結果 と一致していたことから、本検出方法は妥当であることが確認できた。

更に、プロセスネットワーク型モデルの構造的特徴として現れない潜在的な要制御部位が提案する手法で検出可能かど うかの実験を行った。具体的には、アームロボット使用の競合に関する要制御部位の一部が顕在化されないようなモデル を使用し、それに関する制御は埋め込まれていないようなシステムの

Promela

プログラムを自動生成させ、それを

SPIN

でシミュレーション実行した。その結果、システムは停止し、SPIN のシミュレーションログから、停止時の状況として、

「ターンテーブル上の加工装置がすべて加工中であるにもかかわらず、アームロボットが搬入コンベア側からのワークを 搬送してしまう」といったデッドロックが発生したことが判った。この内容から、実行停止の原因はアームロボットに対 する制御の不備であることが特定できるため、プロセスネットワーク型モデルを修正し、再び実行を試みたところ、今度 は停止することなく実行された。以上のことから、シミュレーションログから要制御部位の同定と適切な対応の提案が実 行できることが確認できた。

T1 { A8 ,A10   , A11     , A14   }

T2

A8 ,A10   , A11     , A14   }

T3 { A8 ,A10   , A11     , A14   }

T4

A8 ,A10   , A11     , A14   } 搬入コンベア

{ A5 ,  A7  }

{ A6   , A7   , A9   , A10     } { A12   , A14     , A15   ,   A16 }

アームロボット

ターンテーブル 搬出コンベア

ストッカー1 ストッカー2 ストッカー3 ストッカー3

ピック&プレース パーツフィーダ

P

破線: コンベア終端ワークのための加工装置要求 実線①③⑤⑦: 装置上へのワーク搬入のための

アームロボット要求 実線②④⑥⑧: 加工後のワーク搬出のための

アームロボット要求

T1 { A8 ,A10   , A11     , A14   }

T2

A8 ,A10   , A11     , A14   }

T3 { A8 ,A10   , A11     , A14   }

T4

A8 ,A10   , A11     , A14   } 搬入コンベア

{ A5 ,  A7  }

{ A6   , A7   , A9   , A10     } { A12   , A14     , A15   ,   A16 }

アームロボット

」・

p・

^・[・

o timeout

ターンテーブル 搬出コンベア メッセージ

の観測 m̲sw1 m̲sw2 m̲sw8 検出用 プローブ

ストッカー1 ストッカー2 ストッカー3 ストッカー3

ピック&プレース パーツフィーダ

9.

考察とまとめ

以上のことから、プロセスネットワーク型モデルを使用する本制御系設計手法では、支援ツールとして

SPIN

を利用す ることにより、「どのように制御すべきか」以前に認識する必要のある「何処を制御すべきか?」を的確に指摘できる可 能性があることが分かった。

10.

参考文献

[1] Gerard J.Holzman: THE SPIN MODEL CHECKER

[2]

高塚佳代子 冨田重幸: プロセスネットワークに基づく離散事象システムのモデル化手法、第

48

回離散事象システ ム研究会予稿集 (2010)

[3]

高塚佳代子 冨田重幸: 離散型生産システムの挙動モデルにおける要制御部位の検出手法(−SPIN を活用した動的 検出法の提案−) 、第

45

回離散事象システム研究会予稿集予稿集 (2009)

6  プロセスネットワーク型モデルの概観 

7  対象システムへのプローブの埋め込み 

参照

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