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小学2年生の文章記憶に及ぼす自己選択精緻化の効 果

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小学2年生の文章記憶に及ぼす自己選択精緻化の効

著者 豊田 弘司, 巽 智子

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 37‑41

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル The Self‑choice Elaboration Effects on Memory of Text in Second Graders

URL http://hdl.handle.net/10105/74

(2)

1.はじめに

学校教育における教室場面においては、教師は子ど もたちに対して学習すべき概念を提供する。子どもは、

その学習すべき概念に関する教師の説明や自らの学習 活動によって、その学習すべき概念を身につけていく。

言い換えれば、子どもたちが教師の説明に含まれる情 報や、自らの学習活動により得た情報を、学習すべき 概念に付加することによって学習が成立している。し たがって、学習すべき概念に対してどのような情報を 付加するのか、あるいはどのように付加するのかを考 慮することが、学校教育における学習を促進するため には重要な課題である。豊田(1987)は、記銘語(こ こでいう学習すべき概念)に対して情報を付加するこ とを精緻化(elaboration)として定義しているが、上 述した課題の解明には、精緻化研究で明らかになった

知見の貢献が期待できる。

豊田(1998)によれば、初期の精緻化研究では、学 習すべき概念に対して付加される情報(精緻化情報)

は、実験者によって提供されてきた。このタイプの精 緻化は、実験者呈示精緻化(experimenter-provided  elaboration)と呼ばれている。しかし、実験者によっ て提供される精緻化情報よりも、被験者が自ら生成し た精緻化情報の方が有効であるという研究が示される ようになってきた。Pressley,  McDaniel,  Turnure, Wood,  &  Ahmad(1987)は、記銘文(ex.「空腹の男 が車に乗った」)に対する精緻的質問(ex.「何故、そ の男はそのような行動をしたのか?」)に被験者自身 が答を生成する条件(精緻的質問条件)が、実験者が 答に対応する文を呈示する条件(実験者呈示条件)よ りも、記銘語(ex.「空腹の」)の再生率が高くなるこ とを見いだした。この現象は自己生成精緻化効果もし 豊 田 弘 司

(奈良教育大学心理学教室)

巽 智子

(奈良市立佐保川小学校)

The Self-choice Elaboration Effects on Memory of Text in Second Graders

Hiroshi TOYOTA

(Department of Psychology, Nara University of Education) Tomoko TATSUMI

(Sahogawa Elementary School, Nara)

Abstract: The present study compared the effectiveness of three types of elaboration: self-generated, self-choice and experimenter-provided elaboration, on incidental memory of text in second graders. The second graders lis- tened to a fantasic story and then: in the self-generated elaboration condition, answered "why" question about a particular topic in the story; in the self-choice elaboration condition, chose more appropriate one of the alternative answers to the question; in the ex-perimenter-provided elaboration condition, judged the appropriateness of each of two answers.  This was followed by unexpected free recall and cued recall tests.  In free recall test, there were no differeneces of performance as a function of the level of a subject's academic performance and types of elabo- ration. Whereas in cued recall, self-choice elaboration led to better performance than other two elaborations for good achievers  in  academic performance,   but the differences of performance  among  three  conditions  were  not found  for  poor  achievers.    The  results  were  interpreted  as  showing  that  the  effect  of  self-choice  elaboration  on incidental memory of text was determined by the level of a subject's academic performance in this grade. 

Keywords: 自己選択精緻化self-choice elaboration, 学業成績academic performance, 文章記憶memory of text

(3)

くは精緻的質問の効果と呼ばれ、同様の手続きを 用 い た 数 多 く の 研 究 に よ っ て 追 証 さ れ て き た

(Pressley,Symons,McDaniel,  Snyder,  &  Turnure, 1988;  Wood,Pressley,&  Winne,  1990;  Woloshyn, Pressley, & Schneider, W. 1992)。

このように、自己生成精緻化の有効性は高いが、被 験者自身が精緻的質問に対する適切な答を生成できな い場合があり、その場合にはかえって再生率が低下す るという問題がある。この問題に対応するために、

Toyota & Tsujimura(2000)は、精緻的質問に対する2 つの答の選択肢から適切な答を選択させる自己選択精 緻化(self-choice  elaboration)を考案した。この自己 選択精緻化では、適切な選択肢を選択するという被験 者自身の自発的な符号化が含まれる。それ故、自己選 択精緻化は実験者呈示精緻化よりも有効であり、自己 生成精緻化と同じ程度の効果をもつことはいくつかの 研究(豊田・辻村,  2001;  豊田・高岡,  2001;豊田, 2002)によって明らかにされている。

ただし、これまでの自己選択精緻化の有効性は、実 験室的な研究によって明らかにされたものであった。

もし、自己選択精緻化が学習にとって有効であるなら ば、学校の教室場面における学習教材に対してもその 適用可能性が検討されるべきである。特に、言語理解 が大きく反映される国語教材の学習に対する検討は必 要であろう。

そこで、本研究の目的は、小学2年生を対象として、

国語の文章の読み聞かせの学習事態において、自己選 択精緻化の有効性を自己生成精緻化及び実験者呈示精 緻化との比較において検討することである。2年生を 対象としたのは、この学年では、精緻的質問に対する 答の生成が難しく、自己生成精緻化の効果はあまり期 待できないが、選択肢が提供されていれば、それを有 効に利用できるので、自己選択精緻化の有効性を検証 するには適した学年であると考えたからである。また、

自己生成精緻化と実験者呈示精緻化の比較を行った、

Wood,  Willoughby,  Bolger,  Younger,  &  Kaspar

(1993)では、小学5年生における学業成績の水準に よって生成及び呈示の効果が異なることが示されてい る。そこで、本研究においても、学業成績の水準によ る3つの精緻化の有効性の違いを検討する。

2.方  法

2.1.実験計画

学業成績の水準(上位、下位)×精緻化型(生成、

選択、呈示)の要因計画である。前者が被験者間要因、

後者が被験者内要因である。

2.2.被験者

奈良市内の公立小学校に在籍する小学2年生30名

(男15、女15)であり、平均年齢は7歳8か月(7歳

3か月〜8歳2か月)であった。

2.3.材  料

被験者に読み聞かせる文章としては小学2年生の教 科書(光村図書出版)から「くまの子ウーフ」を用い た。この文章は、「ウーフ」という主人公の熊に関す る物語であり、ウーフ以外に登場する人物は、「ウー フのお父さん」、「ウーフのお母さん」、「めんどりさん」

及び「きつねのツネタ」である。そして、物語全体は、

15のユニットから構成されている。この15のユニット を5つずつに分けて、それぞれに3つの精緻化型を対 応させ、3つの方向づけ課題リストを作成した。した がって、各リストは各精緻化型に対応するユニットが 5つずつから構成されていることになる。そして、こ れらのリストは表紙をつけたB6判の小冊子にされた。

各精緻化型に対応する小冊子のページの例は、図1に 示されている。

文章の内容(例「ウーフの おかあさんは かた手で たまごを わりました。」)を書記再生してもらうため の自由再生テスト用紙はB5判であり、罫線が印刷さ れたものであった。また、ユニットごとのキーワード

図1 精緻化条件に対応するページ例

(4)

を書記再生させる手がかり再生テスト用紙もB5判で、

キーワード部分が空欄になっているものであり(例

「ウーフの おかあさんは ( )たまごをわりまし た。」)、15文がランダムに印刷されていた。

2.4.手 続

実験は、偶発記憶手続を用いて集団的に実施された。

2.4.1.方向づけ課題

実験者はまず被験者全員に小冊子を配布し、表紙に 名前と生年月日を記入させ、これから行う実験の内容 を黒板に例を示しながら説明した。被験者全員が実験 の内容を理解したことを確認し、それから被験者に対 して上述した「くまの子ウーフ」の物語を読み聞かせ ていった。そして、物語の各ユニットの最後まで読ん だところで、被験者に小冊子をめくらせ、該当するペ ージに対する反応を求めた。すなわち、生成条件に対 応するページでは、図1の最上欄に示したように、精 緻的質問の下に( )が記入されているので、そこに 質問に対する答を記入させた。選択条件では精緻的質 問に対する答の2つの選択肢から適切な方に○印を記 入するように求めた。そして、呈示条件においては質 問に対する答が2つ記入してあり、それぞれについて それが答として適切である場合には○、適切でない場 合には̲を記入するように求めた。どの条件のページ においても被験者に許される反応時間は20秒であっ た。

2.4.2.自由再生テスト

方向づけ課題終了後、上述した自由再生テスト用紙 を配布して、読み聞かされた内容に関する想起内容に 関する書記自由再生を求めた。このテストの実施時間 は5分間であった。

2.4.3.手がかり再生テスト

自由再生テスト終了後、すぐに手がかり再生テスト 用紙を配布し、各手がかり文の空欄にキーワードを書 記再生するように求めた。被験者は印刷されている15 の手がかり文の空欄にキーワードを記入していった。

手がかり再生テストに要した時間は5分間であった。

3.結  果

方向づけ課題において用いられた小冊子をチェック したところ、課題内容を誤解している反応はみられな かった。それ故、全員が課題内容を理解して適切な反 応をしていることがわかった。また、実験終了後に記 銘の意図を持った者に挙手を求めたが該当者はなく、

全員が記銘の意図を持たなかったことが確認された。

学業成績の違いによる分析を行うために、1学期の 国語と算数における成績の合計素点から、学業成績の 上位群11名(男4、女7)及び下位群11名(男6、女 5)を抽出した。上位群の学業成績の合計素点の平均 は92.71(SD:2.83)、下位群のそれは75.35(SD:5.46)

表1 平均自由再生率

表2 平均手がかり再生率

であり、両群の平均値間の検定は有意であった(F

(1,20)=79.69, p<.001)。 3.1

自由再生率

自由再生テストでは文章内容の再生を求めたが、15 のユニットごとに再生内容をカウントしていった。そ こでは部分的な文字の違いはあっても、ユニットにお ける意味内容を保持している場合は正再生とみなし た。精緻化型ごとの平均自由再生率は表1に示されて いる。この再生率を角変換して分散分析を行ったとこ ろ、学業成績の主効果(F(1,20)=.01)、精緻化型の主効

果(F(2,40)=.69)及び両者の交互作用(F(2,40)=.14)も

有意でなかった。

3.2.手がかり再生率

表2には、平均手がかり再生率が示されている。

この再生率を角変換して、分散分析を行った結果、学 業成績の主効果(F(1,20)=9.80,  p<.001)のみが有意で あり、学業成績上位群が下位群よりも手がかり再生率 が高かった。ただし、本研究の目的は、学業成績の違 いによって自己選択精緻化の有効性が異なるか否かを 検討することであったので、群ごとに精緻化型を被験 者内要因とする1要因分散分析を行った。その結果、

下位群では精緻化型の主効果(F(2,30)=.01)は有意で なかったが、上位群では精緻化型の主効果(F(2,30)

=3.82,  p<.05)が有意であった。LSDによる下位検定 を行ったところ、選択条件が生成(p<.10)及び呈示

(p<.05)条件よりも手がかり再生率が高く、生成条件 と呈示条件間に有意差はなかった。

4.考  察

自由再生率においては、いずれの精緻化型において もその率は極めて低く床効果の可能性が考えられ、精 緻化型による違いは見いだせなかった。

一方、キーワードとそれが含まれるユニットとの連 合の強度が反映される手がかり再生率においては学業 成績による精緻化の有効性の違いが明らかになった。

すなわち、上位群では選択>生成=呈示、下位群では

(5)

選択=生成=呈示という関係が示された。

Hashtroudi,  Parker,  DeLisi,  &  Wyatt(1983)によ れば、検索には記銘情報(学習すべき概念)を認知構 造に統合するための手がかりになる精緻化情報の生成 とその手がかりによって記銘情報を認知構造に統合す るという2つの過程が存在する。それ故、小学2年生 が精緻化情報を生成したとしても、記銘情報が認知構 造に統合されない場合もある。しかし、精緻化情報の 生成が記銘情報の統合を促すことは確かである。

小学5年生を対象としたWood  et  al.(1993)では、

上位群においてのみ生成>呈示という関係が見いださ れ、学業成績の水準によって自己生成精緻化の有効性 が規定されることを示したが、本研究では、学業成績 の上位群と下位群ともに生成=呈示であった。この結 果の不一致は、小学2年生の知識が小学5年生のそれ に比べて豊富ではなく、文章内容を認知構造へ統合す るための有効な精緻化情報を生成できなかった可能性 が示唆される。

しかし、自己選択精緻化と実験者呈示精緻化の有効 性の比較に関しては、上位群では選択>呈示、下位群 では選択=呈示という関係が見いだされた。この結果 は、学業成績の水準が、自己選択精緻化の有効性も規 定する要因であることを示したのである。

本研究の選択条件では2つの答から適切な方を選択 させ、呈示条件は2つの答それぞれにその適切性を判 断させたが、答として呈示される情報は同じである。

したがって、上述したHashtroudi  et  al.(1983)によ る記銘情報を認知構造へ統合するための前提条件とな る手がかりは同じである。しかし、選択>呈示という 関係が生じることは、2つの選択肢から選択するとい う活動によって、ただ単に2つの情報の適切性を判断 する場合よりも記銘情報の認知構造への統合が促進さ れるのである。したがって、選択するという活動が、

認知構造への統合を促進する援助として機能している 可能性がある。上位群の被験者は、選択肢から統合へ の手がかり(適切精緻化)を選択するという活動(援 助)によってその手がかりを利用し、記銘情報を認知 構造へうまく統合できる発達水準にあり、下位群は呈 示された情報から選択するという活動(援助)を与え られても、手がかりとして利用する発達水準に到達し ていないと考えられよう。

最後に、本研究は、先行研究(豊田・辻村,2000;  豊 田・高岡,  2001;豊田,  2002)によって明らかにされ てきた自己選択精緻化の有効性を国語の文章の読み聞 かせという学習事態で検討し、文章内容の学習という 目標を設定した場合の教育現場への適用可能性を探る 試みであった。学業成績の上位群のみではあるが、自 己選択精緻化が有効であったことは、効果的な教授法 としての可能性を示したものといえよう。もちろん、

小学2年生においては、自己生成精緻化のような自発

的な符号化が必要である。しかし、それがまだ十分に できない段階の子どもにとっては、自己選択精緻化を 利用することの効果が期待できるのである。

5.引用文献

Hashtroudi, S., Parker, E. S., DeLisi, L.E., & Wyatt, R.

J.  1983      On  elaboration  and  alcohol. Journal  of Verbal  Learning  and  Verbal  Behavior, 22,  164- 173.

かんざわとしこ作 「くまの子ウーフ」小学校国語

「こくご二上 たんぽぽ」 2000 光村図書出版 Pressley,  M.,  McDaniel,  M.  A.,  Turnure,  J.  E.,  Wood,

E., & Ahmad, M. 1987 Generation and precision of  elaboration:  Effects  of  Intentional  and Incidental  Learning. Journal  of  Experimental Psychology:  Learning,  Memory,  and  Cognition, 13, 291-300.

Pressley, M., Symons, S., McDaniel, M. A., Snyder, B.

L., & Turnure, J. E. 1988   Elaborative interroga- tion  facilitates  acquisition  of  confusing  facts.

Journal of Educational Psychology, 80, 268-278.

豊田弘司 1987 記憶における精緻化(elaboration)

研究の展望 心理学評論, 30, 402-422.

豊田弘司 1998 記憶に及ぼす自己生成精緻化の効果 に関する研究の展望 心理学評論 41, 257-274.

豊田弘司 2002 単語の偶発記憶に及ぼす精緻化型の 効果−自己生成、自己選択及び実験者呈示精緻化 の比較− 奈良教育大学紀要, 51, 183-189.

豊田弘司・高岡昌子 2001  偶発記憶に及ぼす自己選択 精緻化の効果 奈良教育大学紀要, 50,213-219. 

Toyota,  H.  &  Tsujimura,  M.  2000  The  self-choice elaboration  effects  on  incidental  memory  of Japanese  historical  facts.Perceptual  and  Motor Skills,91,69-78.

豊田弘司・辻村美佐子 2000 歴史学習に及ぼす自己 生成精緻化及び自己選択精緻化の効果 奈良教育 大学紀要, 49, 143-148.

Woloshyn,  V.,  Pressley,  M.,  &  Schneider,  W.  1992 Elaborative  interrogation  and  prior  knowledge effects  on  learning  of  facts.   Journal  of Educational Psychology, 84, 115-124.

Wood,  E.,  Pressley,  M.,  &  Winne,  P.  R.  1990 Elaborative  interrogation  effects  on  children's learning  of  factual  content.  Journal  of Educational Psychology, 82, 741-748.

Wood,  E.,  Willoughby,  T.,  Bolger,  A.,  Younger,  J.,  &

Kaspar,  V.  1993  Effectiveness  of  elaboration strategies  for  grade  school  children  as  a  func- tion  of  academic  achievement. Journal  of

(6)

Experimental Child Psychology, 56, 240-253.

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