生活支援としてのケアワークとその思考過程について
一一介護過程についての一考察一一
川 崎 昭 博
は じ め に
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年に介護福祉士が国家資格に認定されて2
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年になるo この資格成立前は, ケアワーカーは資格がなく,簡易な研修によって知識や技術を身につけるとい うシステムであった。このような状況のなか,シルパーサービスの急速な進展 に伴い,質を人的に担保する専門職の必要性が議論されるようになり,この議 論が契機となり懸案だった福祉サービスの質の向上と担い手の身分保障という 視点も含めて制度化された。以後,この国家資格は,急激な高齢化と介護需要 の伸びに対して,介護の質の担保とマンパワーの確保ということについて大き な役割を果たしてきた。介護福祉士の国家資格成立時,介護専門職としての知 識や技術は十分蓄積されていたわけではない。1
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年に制定された社会福祉士 及び介護福祉士法において,介護福祉士については「専門的知識及び技術をも って,身体上文は精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障があ るものにつき入浴,排せつ,食事その他介護を行い,並びにその者及びその介 護者に対して介護に関する指導を行うJ(
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年より定義規定が見直しされ 「入浴,排せつ,食事その他介護を」が「心身の状況に応じた介護」に変更) とされた。それは身体面へのADLやIADLを援助する行為を行うことを想定 したもので,介護現場においてケアプランが取り入れられ始める1
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年代半ば まで障害により生活上できないところや困っていることを支援するということ について,介護者の個々の思いで支援が行われ,全人格的な視点で明確な根拠 にもとづいて行われているとは言い難い状況であった。多くの介護施設では, 行動障害があり対応の難しい,どちらかというと職員が対応に困る利用者に対 してのみ処遇計画というかたちで対応していた。わが国における生活支援の実 践では,生活の上で困っていること(お困りのこと)やできないことを取り上 げ支援することで生活上の問題を解決したり軽減したりすることに重点がおか 龍谷大学論集323-れてきた。 高齢化にともない介護需要が増大するなか, 1997年に社会保障制度として介 護保険法が成立し,
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年から介護保険制度が実施されることとなった。その 思想において rノーマライゼーションJr自律支援Jr自己決定の尊重Jr利用 者本位Jr望む生活の支援」といった考え方が介護保険制度等の整備の過程に おいて定着してくるなか,ケアプランにおいて利用者が望むものとして少しで もその生活がよりよい方向へ改善されるようなアプローチがなされるようにな った。措置制度から契約制度へと転換を行うとともに,効率的で効果的なサー ビス提供を行うため,システムとしてケアマネジメントが導入された。その中 心的役割を果たす新たな職として介護支援専門員(ケアマネジャー)が設けら れた。それは,サービス利用者のニーズの把握に基づいてサービスのコーディ ネートを行うものとして位置づけられ,制度上は業務独占の職であった。 介護保険制度では,従来の介護サービスでは不明確であったサービスに対す る説明責任(アカウンタピリティ)が求められ,サービス利用者の望む生活の 実現を支援し「なぜこのようなサービスを必要とするのかJrなぜこのような 支援や方法で行うのか」といった根拠を明確にすることが必要となった。ケア マネジメントにおいては,利用者のニーズ把握の手法としてアセスメントが導 入され支援のためケアプラン(介護サービス計画書)が作成され,それに基づ いてサービスが提供される。在宅での支援であれれば,訪問介護や通所介護等 の各サービス提供事業所はこの介護支援専門員が作成したケアプランを受げ, より具体的に実施のための計画を立てサービスを実施する。また,施設であれ ばケアプランに基づき,各職種の役割分担と連携によりサービスが具体的に提 供される。介護や看護等のサーピを具体的に提供するにあたっても,それぞれ のサービスにおいてアセスメントと支援のための計画が立てられ利用者に説明 がなされる。介護保険以後サービス提供のかたちが確立してくるなか,介護サ ーピスにおいても根拠を明確にし,利用者に支援の方法や内容について説明す ることがあたり前のこととなっているが,ケアワーク(介護)としての理論の 構築においてはまだその過程にある。その理論の構築には,介護実践の場で介 護の過程をどのように組み立て思考していくのかということが非常に重要な意 味をもっ。また,生活支援としてのケアワークについては,その支援の妥当性 についての考え方や専門性といったことについてどのように考えるのかといっ た大きな課題がある。 -324一生活支援としてのケアワークとその思考過程について(川崎)1.研究の方法と目的
介護過程は,1
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年の介護福祉士養成のカリキュラム改定により介護概論に おいて初めて導入された。以後,介護過程は,介護福祉の専門性を具現化する 一つの方法として位置づけられつつある。矢部らは介護保険の導入とカリキュ ラム改正に合わせて改正された介護概論のテキストにおける介護過程の概念に ついての諸説の検討を行っている。思考過程としての介護過程は,多くのテキ ストで共通しているが,介護福祉におりる介護過程の位置づけや介護保険制度 におけるケアマネジメントとの関係性等,それぞれのテキストにおいてばらつ きが見られ統ーした見解がみられないが,その原因として介護福祉の専門性の 不明瞭さをあげ,介護過程の考え方や説明は,それぞれの論者の専門領域や立 場や経験によって異なっていることを指摘している。WHO(
世界保健機関)は,1
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年のICIDH
(国際障害分類:I
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による「機能障 害・能力障害・社会的不利」という階層的な障害のとらえ方から,2
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年にICF
(国際生活機能分類:I
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)
による健康状態と健康関連状況を記述するために統一的 な概念を示し,障害を「生きる」こと全体の中に位置づけ「生きることの困 難」として理解する新しい障害者観や健康観を提起した。 リハビリの分野で積極的に取り入れられていたICF
の考え方が2
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年くら いからケアマネジメントにおいても取り入れられはじめ,研修等が行われるよ うになった。2
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年から介護福祉士国家試験・実技試験免除のための介護技術 講習会が開催されたが,そのテキストにおいてICF
の基本的な考え方を取り 入れた介護過程が示された。介護の現場においてICF
の考えかたを積極的に 取り入れていく方向で動きつつあるが,介護福祉の理論と実践において,このICF
をどのように援用していくかが課題となっている。2
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年から介護福祉 教育における大幅なカリキュラム改革が行われる。そのカリキュラム改革にお いて,介護過程は介護福祉士の専門性を志向する上でも教育の中核をなすもの として取り扱われている。 秋山は,社会福祉における専門性について述べているが,専門職の研究のな かには「専門性J1"専門職性J1"専門職制度」の3
概念が混在していることを指 摘している。そして,その要点の枠組みを6点に分けている。理論においては, 専門職性として「独自の対象・方法・業務の探究」をあげ,専門性として「理 龍谷大学論集 -325一論的体系・学問の相対的独自'性」をあげている。また,実践の方法・技術とし ては,専門職性として「独自の技術習得と開発技術の普遍イ七J,専門性として 「実践・援助の方法・技術の探究」をあげている。介護の専門性について井上 は,科学的な技術に裏付けられた介護実践,予防的介護実践,自立を目指した 介護実践等をあげている。また,一番ケ瀬は,日本学術会議の中で秋山が経済 学者の大塚久雄の言葉をあげ「科学の中に理論的専門性を持ったものと,実践 的専門性を持った 2つの領域がある」と問題提起をしたことをあげている。ま た,介護福祉学については実践が出発点で,実戦的専門d性を持った領域の科学 の展開というものは,問題発見,問題認識,問題解決という展開をし,特にそ れは社会福祉,そして介護の場合には,よりいっそう重要になってくることを 述べている。 介護福祉の専門性については,新たな障害者観やケアマネジメントの考え方 により介護過程において,より具現化される方向で動きつつある。介護過程に ついては論者により幾分違いがある。 ここでは,1)現行のケアマネジメントを中心とするサービス提供の調整過 程から介護サービスの実施までの過程を示し,広義と狭義といった意味で介護 過程をとらえる。
2
)介護過程について主だった論者の考え方を示し,整理す ることで介護過程について更なる概念化を試みる。 3)介護過程について正し く思考をしていくための要件についてICF
を中心に検討を加える。4
)人間 の行動を支える 3つの能力という視点からケアワークにおける客観的妥当性に ついて検討を行う。 これら介護過程をとりまくいくつかの間題について,ケアワークの専門性を 考える視点から生活支援としてのケアワークとその思考過程についての考察を 行う。2
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ケ ア マ ネ ジ メ ン ト を 中 心 と す る 生 活 支 援 と 介 護 過 程2
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年4
月の介護保険制度の導入により,制度としてケアマネジメントシス テムが導入された。図1
はケアマネジメントにおける生活支援と職の関わりに ついてモデル的に示したものである。利用者の望む生活という共通の目標に向 かつて,ケアワーカー(介護職)や看護師,PT
(理学療法士)等がそれぞれ の役割を分担しながら生活課題の解決に努める。 ケアワーカーであれば,心身の状態に応じて,食事・排池・入浴といった日 常生活の基本的活動であるADL
やI
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を支援する。PT
であれば,医師の 326一生活支援としてのケアワークとその思考過程について(JII崎)指示のもと機能訓練等により身体機能の 維持向上に努める。看護師であれば,健 康管理や医学的管理といったことにより 支援を行なう。看護師や
PT
は専門職と 言われているが,それはそれぞれ専門的 知識や技術を発揮するアセスメントや思 考過程をもっているからである。 ケアマネジメントでは,利用者がサー 生活支援直
司
利用者自彊む生活 ピスを受ける場所により,呼び方は異な 図 l ケアマネジメントにおげる るがケアプランが作成される。居宅であ 生活支援と職の関わり るならば「居宅介護サービス計画書J.施設であるならならば「施設介護サー ビス計画書」と呼ばれている。両者の総称が「介護サービス計画書」であり, ケアプランといわれている。ケアマネジメントにおけるケアプランのケアは単 に介護のみをあらわすのではなく r生活を送るうえで必要なこと」の意味で 使われている。 図2
は介護保険制度におげるケアマネジメントと介護過程について,図1
を 具体的な例として示したものである。ケアマネジメントでは,生活課題につい て利用者の多様な側面からアセスメントを行い,自立を前提として r利用者 の望む生活」という目標を明確にしたうえで必要なサービスが組み立てられる。 上段のケアマネジメントでは介護,看護,リハビリ等が生活支援の要素として として組み立てられている。これらの三つのサービスにおいては,利用者の望 む生活の実現に向げ,サービスの特色に応じ相互に調整が行われる。ケアマネ ジメントでは,直接介護等のサービスを実施するわけではない。図2
からもわ かるように,相談,生活課題の設定,アセスメント,ケアプランの作成,実施, モニタリング,評価まで一連の流れのなかで生活に必要なサービスとその内容 について総合的なコーディネートが行われる。 ケアマネジメントの延長線上には,生活支援としてのリハビリや看護,介護 等の具体的実施がある。ケアプラン(介護サービス計画)では,サービスの内 容や時間などがある程度決められる。この計画を効果的に意義あるものとする ためには,生活支援のーっとしての介護サーピスの実施において図2の②に示 す過程によりケアワーカーとして方法(手順)を決め進めていくことになる。 そこには,ケアマネジメントと同様に利用者に対する役割や職としての生活課 題解決の思考過程がある。その過程を区分けすると7
段階(相談今アセスメン 龍 谷 大 学 論 集 ー327-ケアマネジメント 相 リハビリ 看護 m 介 護 一 一-¥l} 介護過程 ケアワーカー(介護職) に よ る 介 護 の 具 体 化 ② 僻 相 評 ケアマネジメントについて、乙こでは設定した生活課題(ニーズ)をさらに明確なものとするた めの二次アセスメン卜が行われることがあるのでこのように記している。また、介書記畠程でも、同 様のことがあるが、ここでは省略をして『介護についてのアセスメント』という標記をしている。 この図にいては、あくまで一つのパターンを示したものである。 図2 介護保険制度におけるケアマネジメントと介護過程 ト今課題(ニーズ)の設定今計画の策定今計画の実施今モニタリング今評価) に分けられ,ケアマネジメント過程と同様に具体的な計画書が作成される。こ こでの課題は,ケアマネジメントにおいて出された生活課題と重なるものであ り,利用者が望む生活を実現していくため,ケアワーカーという職として役割 を果たしていく課題ということになる。 介護を展開する場合の特徴としては,利用者の望む生活の実現に向けて,介 護計画に基づき自己決定を尊重しながら介護の知識や技術をもとに意図的(意 識的)かつ直接的,継続的に関わるところにある。支援者が計画性もなく目的 をもたず,漫然と関わっていても利用者の望む生活の実現にはつながっていか ない。黒揮は,施設支援におけるアセスメントの特徴として2階建てになって いることを示している。それは,あらかじめどのような生活が必要かといった 生活上の一般アセスメントがあり,その上に個別の課題に対応したアセスメン 328一 生活支援としてのケアワークとその思考過程について(川崎)
トが必用であるということである。これは居宅支援においても同様だと考えら れる。支援者は,意図的に関わるが,全ての支援行為について意図的に関わる わけではない。普段の生活をしていく上で必要なことを支援として行うという ことと,必要のある個別の課題については特に意図的に関わるのである。 介護過程について,矢部らも述べているように捉え方や説明については定ま っていないところである。ここでは,介護についてケアマネジメントから実施 までの部分に視点をあて広義と狭義の意味でとらえることとする。図
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におい て,広義にとらえるならば介護過程はケアマネジメントのなかで思考し組み立 てられる介護の部分①とケアワーカーによる介護の直接的展開につながる②の 部分を合わせた一連の流れとしてとらえることができる。また,狭義に捉える ならば,ケアワーカーの介護の直接的展開の具体化の過程である②の部分とと らえることができる。このように,制度からすると介護過程は二つの視点でと らえることができる。ケアマネジャーとケアワーカーを含む専門職は,それぞ れ目的をーにしながら職による専門的役割の違いにより組み立てを行っている。 相互に情報を共有しながら,表裏一体のものとして機能している。アセスメン トから実施といった介護の過程については,介護保険制度以前から介護計画と か個別援助計画といったかたちで一部の介護現場では既に取り組みがなされて いた。制度としてケアプランとの関係性のなかでは,当初は明確に位置づけら れていなかった。介護保険でケアプランが位置づ砂られるなかで,サービス計 画書を専門的な立場でそれぞれ具体的に実施するために必要なものとして,看 護過程やリハビリ過程と同様に介護過程が議論されるようになった。一般的に 介護過程といった場合,狭義の意味で使われることが多い。 ケアプランは生活支援のためのサービス仕様書であるが,介護計画書はケア プランにおげる生活支援としての介護を具体的に実施するための仕様書である。 介護過程は,介護をどのような方法(手順)をもって行なうのか,そのプロセ スを明らかにするものである。従って,制度上,これら二つの視点からトータ ルに介護過程をみていくことが必要となる。3
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介護過程につての概念
介護過程の考え方については論者の視点により違いがある。『必携介護福祉 用語の解説』では,介護過程は「専門的かつ科学的な方法によって介護上の問 題あるいは課題を明確にし,解決あるいは支援するための方法を計画し,実 施・評価するための一連の思考過程」であると説明されている。 龍谷大学論集 -329ーここでは,特徴的な3者の介護過程についての概念記述から介護過程につい てその概念をつかむこととする。 石野は
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介護過程』とはIf'問題解決過程』の介護実践場面における応用で あり,利用者の個別のニーズに合わせた援助を考える過程として活用が意図さ れたものである。この問題解決そのものは,介護実践過程に特有のものではな しごく日常的に私たちが生活の中で意識的あるいはなかば無意識的に用いて いる『思考方法』である。Jr介護過程は利用者の『生活上の課題を明確にし, 解決するための方法を計画し,実施・評価する思考過程』である。介護過程に おいては,介護従事者が利用者の生活上の課題を解決していけば,利用者が望 んでいる状態(ニーズ)がかなえられると考えている。J,また「介護支援専門 員が立てる『介護サービス計画』と介護従事者が立てる『介護計画』とは,計 画の種類が少し違っているが思考のプロセスはまったく同じである」と述べて いる。 高垣は「介護過程とは介護実践が系統的な方法で行なわれる際の『意図的な 活動』であり,一人ひとりの個別の利用者にとってIi'良い生、活~ Ii'よい人生』 と呼び得るようなIi'w
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being~ を目標として,よりよい介護実践を達成さ せるためのプロセスであり,介護を進めていくうえでの手順や経過という意味 でもある」と説明し,介護過程の実践について「一人ひとりの利用者が望む生 き方を実現させていこうとする目的を持って,積極的な介護活動を目指すもの である。利用者に対する介護アセスメントは,介護知識に基づき,なおかつ客 観的であることが必要とされ,課題達成のための根拠を明確にする思考過程が 極めて重要となる。」と述べ,その過程に利用者と介護者の相互関係を中心に すえている。 黒揮は介護過程の基本概念を「介護過程は,老い,病,心身の障害などに起 因して日常生活に支障(困難)を生じている人々への生活支援の一つの領域で ある。 r生活支援における 1つの役割・機能を担い,直接の人間関係を基盤と して行なわれる介護サービス提供の全体像~J と説明している。また,介護過 程を「介護職の有する価値・専門的知識・専門的技術をもって行なわれる生活 支援活動の展開方法」という観点と「人々への生活支援であるから,個人の生 活困難(支障)を社会の仕組みのなかで“いかに"支援していくかという意味 で,人権を中核とする社会的な価値を実現する」という 2つの視点でとらえて いる。また,介護過程は利用者と介護職との関係性において,時間の経過によ る両者の関係性から変容をともなって次第に生活を作り上げていく過程である 330一生活支援としてのケアワークとその思考過程について(JI[崎)と指摘している。 黒津の視点は,他の2者と少し違っている。介護過程を生活支援や社会のし くみ,人権といった広い枠組みのなかで捉えている。ともすると,介護過程を より良い生活の実現のための課題解決を行うためのプロセスにおける技術論や 方法論としてとらえてしまいがちである。黒津が示しているような広い視点、は, 介護やそこに関わる者たちの業務を私たちの生活のなかでどのような位置づけ で捉えなければならないのかといったことを理解するうえで重要な意味をもっ。 これら 3者の記述から,介護過程についての概念をまとめると「日常生活に 支障(困難)を生じている人を対象に一人ひとりの利用者が望む『良い生活』 『よい人生』と呼び得るような r
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.JJの実現を目標とし,社会の仕 組みのなかで,人権を中心とする社会的価値をもとに,よりよい介護実践を目 指して意図的に行う活動であり,私たちが日常行っている問題解決過程の介護 場面での応用である。それは,生活支援において一つの役割や機能を担うもの で,その方法としては,介護職がもっ支援者としてあるべき価値観と知識や技 術をもって客観性を担保しながら実施するものである。それは,介護職と利用 者との直接の人間関係を基盤とし,時間経過による介護職と利用者の相互変容 による生活の創造である。」ということができる。4
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介護過程における思考とクライテリア
介護過程は思考過程であるといわれている。思考過程とは,さまざまな概念 を統合して判断し,さらに判断を結合していく過程である。思考は,思考者が 思考対象に関して何らかの意味合いを得るために頭の中で情報と知識を加工す ることである。思考は,ある情報と別の情報を突き合わせて比べ意味合いを得 る判断の集積であり,どのような思考を行う場合にも,情報を正しくつき合わ せていくには3
つの要件が必要であるといわれている。一つは,ディメンジ ョン(
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Jをそろえること,二つ自は「クライテリア(
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J を設定すること,そU
三つ目は'MECE(
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Jである。 思考過程としての介護過程で最も重要なのはクライテリアである。クライテ リアとは,思考対象を分類する場合の切り口,つまり「分類基準」のことであ る。思考対象をどういう切り口で分けていくかの分類基準を設定することは, その思考対象をどのような構図で分かる=判る=解るのかを決定づけることな る。つまり,分ける」とはどのようなクライテリアを設定するかということ 龍谷大学論集 -331ーと同義語であり,適切なクライテリアさえ設定できれば必然的に思考対象も正 しく分けられ,適切な理解や判断を得ることが可能となる。クライテリアは, 思考の目的によって異なってくる。さまざまな状況ごとに有効なクライテリア を見つげ出すためには,多様なクライテリアの選択肢を頭の中に保有していな ければならない。クライテリアの選択肢の数がどれだ砂多いかで,思考目的を 満足させられることの可能性が広がる。 思考することによって得られたものを思考成果というが,我々が物事を分か るということは思考成果により行っている。それがどのようなものであるかと いうことがわかる「事象の識別(属性の理解を含む)Jとそれがどのような関 係になっているのかが分かる「事象聞の関係'性の把握」である。これら二つの 組み合わせによってそれを分かることができる。「相関関係の把握」は,われ われが思考によって何かを推理したり判断する際に多くの恩恵を与えてくれる。 相関関係にあることの事象の一方の変化により他の一方の事象がどのように変 化するかわかれば,知っている「因果」関係に依拠して人為的に「原因」を発 生させて意図的に「結果」を生じさせることができる。逆に「原因」を消滅さ せることで「結果」を生起せしめないことも意図的に可能になる。 支援者は利用者に対してどうしたら利用者の望むような生活ができるのか, どのようにしたら生活上の支障をなくすことや軽減することができるのか,そ のためにどのような方法や関わりが必要なのか等,利用者の置かれている状況 や心身機能等の情報から考察し組み立てを行なう。支援者にとって利用者の生 活上の課題となるのは,その人の置かれている現実とあるべき望ましい状態と の差である。支援者は,利用者が望んでいる生活と現状とのギャップを支援に おいてどのように埋めていくのかといったことを思考する。 生活支援として介護を展開する場合は,自己決定を尊重しながら利用者の望 む生活の実現という目的のため知識や技術をもとに生活の改善に向け意図的か っ継続的に関わる。意図的に関わるには,どの部分を意図的に行えば生活の支 援につながりかつ利用者の望む生活に近づくかといった道筋と結果が予測され ていなければならない。この作業を行っていくことが,アセスメントである。 支援にあたっては,利用者を正しく理解し,支援の方向性や方法について根拠 を明確に説明できることが求められる。アセスメントにおいては,情報がその ような思考を助けるクライテリアになっていることが望ましい。 石野は,介護アセスメントにおける主要な判断作業での「生活上の課題の判 断」について,次のようなことを述べている。情報を総合して考えるためには, -332一生活支援としてのケアワークとその思考過程について(川崎)
個々の情報が何を意味しているかわからなければ情報相互の関係が読み取れな いので,個々の情報を「解釈する(論理的に意味を理解する )Jという作業が 必要であり,頭の作業として,個々の情報を解釈して,他の情報との関連を突 き止め,パラパラな情報を理解可能な編み目状につなげて,情報全体として利 用者に何が起きているかを解釈する。このことから起きている事実が生活上の 課題かどうかの是非の判断を行う。さらに,介護情報を判断するには,人間の 心や体に関する知識から,社会的・文化的な存在としての人聞に関する知識ま で幅広い知識が必要になる。 利用者から得られた情報から支援の方向性を導き,具体的に実施可能な計画 へ結びつけていくには,思考において情報をどのように意味づけるかといった ことにかかっている。それは,支援者のもつ知識や技術・価値理念・経験等を 基盤とするアセスメント能力に負うところが大きい。 アセスメントにおける項目としての分類基準は多様である。具体的項目とし て,現在の置かれている状況(健康状態・身体状況・心理状況・人間関係・経 済状態・住生活等),問題解決能力(自己決定・参加能力・エンパワメント・ ストレングス等),生活歴(出身地・家族・過去の経験・価値観等),ニーズ (困っていること),現在の対応状況といったことがあげられる。アセスメン トにおけるクライテリアとしては,多くのものが示されている。プロフィール (指名・年齢・性別・要介護度・現在までの状況・家族状況),機能障害(身 体機能・精神機能・感覚機能),生活障害 (ADL・IADL),既往症・健康状態, 社会的状況等といったクライテリアもある。また,アプラハム・マズローが唱 えた人間の欲求段階(生理的欲求・安全の欲求・親和の欲求・自我の欲求・自 己実現の欲求)による区分により,底辺から始まって 1段階目の欲求が満たさ れると,次の欲求を志すといったところに視点を置き生活上のニーズを考える クライテリアもある。悪いところを見つけて治すプランや,スタップサイドで 仕事の方法を確認するような一方的なプランでは,生活を支援するにも自立を 支援するケアに結びつかないとして生活支援型ケアプランとしてお年寄りや家 族と一緒に暮らし方や生活する喜びを作っていくプランとして rしたいこと」 と「できること」を融合させるために,生活・環境・身体・関係・満足(情 緒)・その他という 6つのクライテリアで具体的なプランを立てることを示し ているものもある。これらは,どれも利用者の生活上の課題を明らかにして, どのように関わっていくのかについて考えていくためのものである。クライテ リアとして適切と考えられるのは,分類項目から事象の識別がしやすしかっ 龍谷大学論集
-333-事象聞の関連'性の把握につながっていくことができるものである。
2001年にWHOにおいてICFがICIDHの改訂版として採択された。それ は「人が生きる」ことを包括的・総合的にとらえる見方・考え方を共通にもっ という意味での共通言語である。 ICFでは,生活機能と障害を「心身機能・ 身体構造Jr活動Jr参加」という 3階層からなる構造としてとらえており,ま た,背景因子として「環境因子」と「個人因子」があり,図
3
のような関係と なっている。それぞれの要素は互いに関連しているが独立もしている。この相 互作用的な過程については,多様な視点から研究に応用できるといわれている。 ICFは分類であり,生活機能や障害の「過程」をモデル化するものではなし さまざまな構成概念や領域を位置づける手段を提供する過程の記述に役立つと されている。 ICFの国際生活機能分類(国際障害分類改訂版)では,ある特 定の領域における個人の生活機能は健康状態と背景因子との聞の相互作用ある いは複合的な関係とみなされる。それらの各要素の聞にはダイナミックな相互 関係が存在するため,一つの要素に介入するとその他の一つまたは複数の要素 を変化させる可能性がある。これらの相互関係は特定のものであり,必ずしも 常に予測可能な一対ーの関係ではない。相互作用は双方向性である。すなわち 障害の結果により,健康状態それ自体が変化することすらある。構成要素に関 健康状態 (摸患・外傷・妊錫・高齢など) 4↑
〔環園l宅書庭倒園予乎日汀
図 3 ICFにおける構成要素聞の相互作用 出典:上田敏 'rCFの理解と活用」きょうされん p.35 2005より 「真の『生きることの全体像JJから「客観的次元」を抜粋 -334 生活支援としてのケアワークとその思考過程について(川崎)するデータを別々に収集し,その後にそれらの聞の関連や因果関係について研 究することが重要であるとされている。介護過程を思考過程の視点からとらえ た場合,
ICF
における構成要素聞の相互作用の関係性は思考としての「事象 の識別」と「相関関係」に重なる。 ディメンジョンとは r抽象水準」あるいは「思考対象・思考要素が属する 次元」のことを指す。適切に分けて比べるためには,まず比べようとする事象 や要素が同一抽象水準上,同一次元上になければならない。MECE
とは,互いに重なりあいがなく全体を網羅していることである。思 考対象を正しく「分ける」ための方法論としての極めて有用なテクニックであ り,ある同一次元の複数の要素に,もれなくかっ重複なく部分集合化されてい ることである。しかし,物事の分類においては,数学的論理的なMECE
は厳 密には不可能であるといわれている。各部分の集合の総和が対象範囲の大半を カバーしていること,つまりMECE
的であることが必要である。ICF
は人間の生活機能と障害の分類であり,健康領域と健康関連領域とを 系統的にグループ化している。「思考対象・思考要素が属する次元」としてみ てみると,ICF
では情報を生活機能と障害(心身機能・構造,活動・参加), 背景因子(環境因子,個人因子)に分け整理している。また,各構成要素はさ まざまな領域からなっており,それぞれの領域もカテゴリー化され分類単位と されており,比べようとする事象や要素がレベル分けされ低次レベルから高次 レベルまで集約できるようになっている。ICF
のいくつかの項目では,特に 序列も階層構造もなく,ある枝の同等な一員として配列されている部分がある が,分類はおおむね一連の原則に従って行われている。これらの原則は,レベ ル聞の相互関連性と分類の階層性に関連しているといわれている。適切に分け て比べるためには,まず比べようとしている事象や要素が同一抽象水準上,同 一次元上になければならない。生活支援としての介護を思考するレベルでの情 報となる事象や要素についてみてみると,ICF
の援用は非常に有効なものだ と考えられる。5
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ケアワークにおける客観的妥当性
H . M・パートレツトは,ソーシャル・ワークの実践においての本質的な要 素は「抽象的な価値,知識と理論,および調整活動方策の総体として現れる。 実践者を導くのはこれらの価値と知識であり,実践者たちがかかわっている状 況に影響を与えるのはこれらの調整活動を通してである。専門職を比較する場 龍谷大学論集 -335一合に,それぞれの専門職が独自に結びあった価値,知識,技法をもっているも のとして,考察していくことができる0 ・H ・H ・..それらが,その専門職の強みと 特殊性をもたらす源泉なのである。」と述べている。また,重要な諸点のーっ として「ソーシャル・ワーク自体の経験(実践者の調整活動)から学んだもの がソーシャル・ワークの知識と価値の総体にフィードパックし,絶えず知識と 価値の総体を豊かにしていく」ことをあげてい宮。これらのことは,ケアワー クにおいても同様にいえることである。ケアワークの実践においては,サービ ス利用者に対して介護という生活支援活動(具体的行為)を通して直接的かっ 継続的にかかわっていくところに特徴がある。人聞の行動を支える
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つの能力 として,知識・情報,技術・技能,価値観・態度がある。これらの能力を高め ていくことが専門職としての能力を高めていくことにつながる。図4はケアワ ークにおける知識・技術・価値観と生活支援についてであるが,具体的な生活 支援活動(具体的行為)についてそれぞれの相関関係について示したものであ る。ケアの具体的行為は,支援者のもつ知識と技術が支援者自身の価値観とい うフィルターを通して表出される。表出された行為は,利用者との関わり(実 践)を重ねることで,さらに新たな知識,技術,価値観をもたらす。ケアワー カーは,利用者との関わりといった経験の量に比して知識や技術は増え価値観 が高められていくのである。 ケアワークを専門性や科学的であるといった視点からとらえようとすれば, 介護計画に基づく支援の方向性とその展開について客観的妥当性が問われなげ ればならない。客観的妥当性については,たとえ妥当性があったとしても,そ の妥当性の判断を誰がするのか,また,判断した妥当性について誰がまた妥当 だと判断するのかといった具合に永遠に妥当性の判断がついてまわる。支援の 結果どうなっていくのかについて根拠にもとづいて論理的に説明できることが 必要である。対人援助においては,こうなるといった方程式はなく支援者と利 用者との聞の相互関係のなかで考え組み立てられていく。この組み立てを根拠 に基づいて行っていくことが求められるのである。支援者が個人として組み立 てた介護計画や個人としての介護行為は主観的なものである。この主観的なも のが客観的なものとなるためには,その内容が広く承認されることが必要とな る。介護計画であれば,誰もがその内容が妥当であると認めることであり,行 為としての生活支援活動についても同様である。この妥当性には,妥当である という結果を導き出すための一定の知識,技術,価値観,経験,思考方法とい ったものが必要となる。また,客観性の担保においては,他職種や同職種聞で -336一生活支援としてのケアワークとその思考過程について(川崎)のカンファレンス等により確か めるということもあるが,多数 のケアワーカーが一定の知識や 技術,価値観,同様の思考過程 を身につけるとともに,同じ情 報が与えられたときに多少の差 があるにしても同様の介護過程 が組み立てられ展開されるとい うようなことがなければ第一義 的な客観性は担保できない。 この妥当性については,図
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からも理解できるように各項目のそれぞれの妥 当性といったことがあるが,最も重要なのは価値観の妥当性である。古川は 「社会福祉における援助は,利用者の意志,能力,強さを尊敬し,信頼すると ともに,利用者の生活世界,生活能力や課題解決能力の態様を十分に理解し, そのときどきの状況にもっとも適合した援助活動として展開されなければなら ない。」と述べているが,それは人間の尊厳のあり方といった人権思想(文化) による価値観によって支えられている。ま と め
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-図4 ケアワークにおりる知識・技術・ 価値観と生活支援 生活支援としての「介護の専門d性」を確立していくことは,ケアワーカーに とってのアイデンティティ確立のために必要である。ケアワークにおいては, 何をもって専門性とするのか,また,その妥当性についてどのように考えてい けばいいのかといったことは大きな課題である。 介護過程とその展開は,介護の専門性を具現化するための一つの方法である と考えられている。本研究では,介護過程に関して4
つの課題をとりあげ検討 や考察を行った。 1つは,介護過程については,介護保険というシステムのなかで思考過程と してどこまでの範囲をして介護過程というのかといったことである。ここでは, 広義と狭義といった視点でとらえる試みを行った。介護過程がケアワーカーに とって専門性を具現化するものであるならば,どこまでの範囲を介護過程とみ るのかといったことは重要な問題である。論者によって考え方も異なり暖昧に されているところであるが,介護福祉教育や現場で働いているケアワーカーに とって大きな影響を与える問題である。 2つ目は,介護過程の概念についてで 龍谷大学論集 -337一ある。その概念も論者により違いがある。広義にとらえている論者もあれば狭 義にとらえている論者もある。主だった論者の考え方を整理統合し更なる概念 化を試みた。 3つ目は, ICFについてWHOが示して以後,介護過程におい て援用できるものとして取り扱われてきている。具体的援用について記述した 事例や資料も多く出てきている。介護過程は思考過程であるといわれているが, 思 考 を 正 し く 行 う た め の 条 件 と し て の ク ラ イ テ リ ア ・ デ ィ メ ン シ ョ ン ・ MECEといった3条件の視点から検討を試みた。介護過程における思考過程 としてのクライテリアは多様であるが,正しく思考を行う 3条件という視点で 検討することの必要性があると考えた。