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生餡・練餡の冷凍保存性

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Academic year: 2021

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(1)

1.はじめに

餡は我が国独特の食品で,和菓子には欠くこと のできない主要な原料素材である。生餡は小豆や インゲン豆,ソラ豆などを煮詰め,よく煮汁を 切ってすり潰し,水で沈殿物を除去して水分を取 ることにより製造されている。原料である豆の細 胞内に存在する貯蔵デンプンは,糊化開始前に周 囲のタンパク質の熱凝固により,これに取り囲ま れた状態で熱を受けるため,デンプン粒は膨張す るものの崩壊することはなく,同時に細胞間の熱 可溶性ペクチンの溶解に伴って餡粒子が形成され

1)。さらに,生餡に砂糖を加えてよく練り,生 餡に含まれる水分と加えた糖質を置換させること で練餡となる2)。これまでに,原料となる豆の品 種や産地の違い,加熱時間や加熱温度などの加工 処理工程の違いなどが製餡性に与える影響につい て研究が行われ,それらが餡の品質に及ぼす影響 が明らかとされてきている1)3)4)。さらに,餡粒 子の構造や,その主成分であるデンプン粒子の構 造,糊化特性と製餡性の関連についても研究が行 われている5)〜7)。また,保存温度と菌の繁殖に 関する研究も行われており,30−35℃に置くと菌 の増殖が最も著しいことが報告されている8)

生餡・練餡の冷凍保存性

渡辺 克美

・唐 漢軍

**

・光永 俊郎

***

近畿大学農学部食品栄養学科

**丸中音株式会社

***近畿大学名誉教授

Freeze-storage of raw and kneaded bean jams

Katsumi WATANABE

, Hanjun TANG

**

 and Toshio MITSUNAGA

***

**

***

Synopsis

Raw and kneaded bean jams were stored at room temperature (25℃) and in a refrigerator (4℃) and freezers (−20℃ 

and −80℃).  The drip amount eluted from the kneaded bean jams stored in the freezers was larger than that from the  jams stored at room temperature and in the refrigerator, while the drip from the stored raw bean jams did not vary with  the  storage  temperatures.    On  the  other  hand,  the  sugar  amount  extracted  from  the  raw  bean  jam  stored  at  room  temperature was extremely large in comparison with that of the raw bean jams stored at the other temperatures.  In  addition, growth of bacteria was observed in the raw bean jam stored at room temperature.  The sugar amount from the  stored kneaded bean jams did not vary with the storage temperatures.  Scanning electron microscopic observation of the  stored bean jams revealed that the wrinkles on the surface of raw bean jam particles were diminished by the storage.  The  stored raw bean jam particles were shrunk.  However, we observed no changes in the shape of kneaded bean jam particles  caused by the storage.  These results suggested that freezing could be used to maintain the quality of raw bean jams, but  the freezing-technique was not required to maintain the kneaded bean jams.  

Key words: freeze-storage, kneaded bean jam, raw bean jam, 

(2)

生餡は水分含量が 60−65%(w/w)と高く,

その品質は菌の繁殖などのために劣化しやす く8),数日間しかもたない。そのため,生餡や練 餡を長期間にわたって保存するため,冷凍保存法 が用いられるようになっている。しかし,冷凍保 存した場合には品質の劣化が生じる。さらに,凍 結速度が遅いと食品中に生じる氷結晶が大きなも のとなり,凍結による変性が著しものとなり,牛 肉や魚では解凍後のドリップ量も多く,変色など も著しいものとなることが報告されている9)10)。 ところが,冷凍保存が生餡や練餡の品質に与える 影響については未だ報告されていない。そこで本 研究では,生餡と練餡を常温,冷蔵庫,冷凍庫中 に保存し,冷凍保存が生餡と練餡の品質に与える 影響を,餡からの水分の流出量と餡の主成分であ

る糖質分1)5)6)の流出量を測定し,また,餡粒子

の形状を走査型顕微鏡で観察することにより調べ た。

2.実験方法

1)実験材料

橋本食糧工業(株)製の北海道産の小豆を原料 とした生餡および練餡を実験の材料として使用し た。

2)生餡,練餡の保存

生餡,練餡をそれぞれ 10g ずつに小分けして 冷凍保存用のフリーザーバックに入れ,密封パッ ク器で密封した後,餡の入ったバックを室温(常 温,25℃),或いは,冷蔵庫(4℃),家庭用の冷 凍庫(−20℃),業務用の冷凍庫(−80℃)中に 直接入れ,各温度で保存した。それぞれの温度で 一定期間保存した餡を,分析用の試料として用い た。

3)水分量の測定

保存前の生餡,練餡,および一定期間保存した 後の生餡,練餡から,それぞれ 1g ずつをとり 105℃に設定した乾熱機を用い,常圧加熱乾燥法 で水分量の測定を行った。

4)水分流出量の測定

あらかじめ重量を測定したろ紙の上に,試料 10g をうすく平らにした均一な状態で置き,その

まま,湿度を 100%に保ったデシケーター中に入 れて放置した。3 時間放置した後,ろ紙重量を再 び測定し,ろ紙重量の増加量を試料からの水分の 流出量とした。

5)糖質分流出量の測定

試料 10g を 100ml の蒸留水中で 30 分間振とう し,ガラスフィルターで吸引ろ過をした。得られ たろ液を適当な濃度に希釈した後,フェノール/

硫酸法で希釈した溶液中の全糖質量を測定した。

標準溶液としてグルコース溶液を用い,流出した 糖質分の量をグルコース量として求めた。

6)走査型電子顕微鏡による観察

各温度に保存した試料を直ちに液体窒素中で凍 結した。凍結した試料は凍結真空乾燥機 FRD-80 型(イワキガラス株式会社)を用いて凍結真空乾 燥させた。その後,真空蒸着法(285 秒作動)で 金コーティングの処理を行い,走査型電子顕微鏡 JSM-5400 型 LV(日本電子株式会社)を用い,

加速電圧 10−20kV で,餡試料の表面構造の観察 を行った。

7)生菌数の測定

試料 1g を 10ml の滅菌水に懸濁した。その懸 濁液を適時希釈した後,希釈液の 1mL をシャー レ中の日水の普通寒天培地(日水製薬株式会社)

上に塗布した。シャーレをパラフィルムで封した 後,37℃で 7 日間培養し,生菌数の測定を行った。

3.実験結果

新鮮な生餡の水分量は 1g あたり 0.65−0.69g で あり,その水分含量は 65−69%(w/w)となり,

既報値1)4)とほぼ同じであった。また,長期保存 した生餡の水分量も 1g あたり 0.59−0.74g の範囲 であり,保存期間中に蒸発や凍結脱水によるフ リーザーバックからの外部への水分の流失がな かったことが明らかとなった。保存中の試料を入 れたフリーザーバックの密封性は完全に保たれて いたといえる。また,練餡についても保存前の水 分量は 1g あたり 0.37−0.54g であり,水分含量は 37−54%(w/w)となり,ほぼ既報値2)と同じ であった。保存した練餡の水分量も 1g あたり 0.35−0.51g の範囲であり,保存中のフリーザー

(3)

バックの密封性は完全に保たれていた。

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1

0 20 40 60 80 100 120

Storage period (days)

Drip amount (g/g)

Fig. 1   Changes of drip amount from raw bean jams  stored at room temperature ; 25 ℃ ( ■ ), in a  refrigerator ; 4 ℃ ( ○ ), in freezers ;  − 20 ℃ 

(△) and − 80℃ (×).  Each value is the mean  of triplicate experiments.  

0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16

0 20 40 60 80 100 120

Storage period (days)

Drip amount (g/g)

Fig. 2   Changes  of  drip  amount  from  kneaded  bean  jams stored at room temperature ; 25℃ (■),  in a refrigerator ; 4℃ (○), in freezers ; − 20℃ 

(△) and − 80℃ (×).  Each value is the mean  of triplicate experiments.  

長期間保存した生餡,練餡からの水分流出量 を,それぞれ Fig. 1,Fig. 2 に示した。新鮮な生 餡からの水分の流出量は生餡 1g あたりおよそ 0.02g であった。これに対し,室温(25℃),冷蔵 庫(4℃),冷凍庫(−20℃,−80℃)で保存した 生餡からの水分流出量には,保存前の生餡との間 で大きな変化はみられなかった(Fig. 1)。一方,

練餡の場合には,保存前の水分流出量は練餡 1g あたり 0.034g であるのに対し,長期保存による 水分流出量の増加傾向がみられた。凍結した状態

(−20℃,−80℃)で保存した場合に,水分流出 量が増える傾向を示した(Fig. 2)。

次に,保存した生餡,練餡からの糖質分の流出 量を測定した。生餡の場合には,保存前の糖質流 出量は 1g あたり 0.85mg であるのに対し,室温 で保存した生餡では著しい糖質流出量の増加がみ られた(Fig. 3)。一方,練餡の場合は,保存前の 糖質分の流出量が 1g あたり 340mg であるのに対

し,バラツキはあるものの,長期保存による流出 量の増加傾向はみられなかった(Fig. 4)。

0 20 40 60 80 100 120

0 20 40 60 80 100 120

Storage period (days)

Sugar amount (mg/g)

Fig. 3   Changes of sugar amount extracted from raw  bean jams stored at room temperature ; 25 ℃ 

(■), in a refrigerator ; 4℃ (○), in freezers ; 

− 20℃ (△) and  − 80℃ (×).  Each value is  the mean of triplicate experiments.  

Fig. 4   Changes  of  sugar  amount  extracted  from  kneaded bean jams stored at room temperature 

; 25 ℃ ( ■ ), in a refrigerator ; 4 ℃ ( ○ ), in  freezers ; − 20℃ (△) and − 80℃ (×).  Each  value is the mean of triplicate experiments.  

0 50 100 150 200 250 300 350 400

0 20 40 60 80 100 120

Storage period (days)

Sugar amount (mg/g)

さらに,保存した生餡,練餡を走査型電子顕微 鏡で観察したところ,既に報告されているように

5),保存前の生餡の表面には一様に網目状の皺が 認められた(Fig. 5A)。一方,保存した生餡で は,餡粒子表面の網目状になった太い皺が幾分少 なくなり,餡粒子そのものも多少縮み,角張って いるようにみえた(Fig. 5B 〜 D)。他方,練餡の 場合には,保存前の練餡(Fig. 6A)と保存した 練餡(Fig. 6B 〜 D)との間で形状的な違いはみ とめられなかった。

また,食品の腐敗や変質の一つの要因である菌 の繁殖8)について測定したところ,室温(25℃)

に保存した生餡では著しい菌の増殖がみられた

(Table 1)。他方,低温に保存した場合には菌の 増殖はほとんどみとめられなかった。また,練餡

(4)

の場合には,室温での保存においても菌の増殖は ほとんどみられなかった(Table 2)。これは練餡 に加えられた糖や、それに伴う水分量の低下によ るものと考えられる。

Fig. 5   Scanning  electron  micrographs  of  raw  bean  jams.    Control (fresh  raw  bean  jam) ; (A),  raw bean jams stored at room temperature ;  25℃ (B), in a refrigerator ; 4℃ (C), and in a  freezer ;  − 80℃ (D) for 120 days.  Each bar  shows 50 μ m.  

(A) (B)

(C) (D)

Fig. 6   Scanning  electron  micrographs  of  kneaded  bean jams.  Control (fresh kneaded bean jam) 

; (A),  kneaded  bean  jams  stored  at  room  temperature ; 25℃ (B), in a refrigerator ; 4℃ 

(C), and in a freezer ;  − 80 ℃ (D) for 120  days.  Each bar shows 50 μ m.  

(A) (B)

(C) (D)

4.考察

餡は和菓子の素材としては欠くことのできない ものである。これまでに,豆の品種や加工処理が 餡の品質に与える影響については報告されている

1)〜7),冷凍保存が生餡や練餡の品質に与える

影響については未だ報告されていない。そこで,

本論文では生餡,練餡を室温(常温,25℃),冷 蔵庫(4℃),冷凍庫(−20℃,−80℃)中に保存 し,生餡と練餡の冷凍保存性について研究を行っ た。

生餡,練餡の水分含量は保存した後も変化して いなかった。保存実験中のフリーザーバックの密 封性は完全なものであり,実験系外部との間での 水の出入りがなかったことが明らかとなった。保 存した生餡からの水分流出量には,保存前の生餡 と比べ,変化はみられなかった(Fig. 1)。また,

保存した生餡の構造を走査型電子顕微鏡で観察し たところ,大きな変化はみとめられなかった

(Fig. 5)。これらの結果から,長期保存で生餡か らの水分流出量に変化がみられなかったのは,保 存後も生餡の餡粒子構造が崩れることなく,生餡 に特有な保水性の高い性質1)4)が保たれていたた めと考えられる。他方,練餡の場合には,凍結保 存を行なうことによる水分流出量の増加がみられ た(Fig. 2)。練餡の場合には,生餡のようには その保水性が高くないため,牛肉や魚の場合のよ うに10),凍結保存を行なうことにより餡粒子間 の水分が流出したのではないかと考えられる。

次に,糖質分の流出量をみると,室温(25℃)

に放置しておいた生餡では長期保存による著しい 流出量の増加がみられた(Fig. 3)。菌の繁殖な どにより生餡の変性が生じるといわれている8)。 食品中での菌の繁殖は 20−35℃の常温において 活発なものであり,保存した生餡での菌の繁殖を 調 べ た 結 果 も 同 様 の も の と な っ て い た  Table 1   Growth of micro-organisms in the raw bean jams stored at various temperatures

        Micro-organism number (colonies/g)

Period (days) 0 28 56 84

Temperature

 RT(25℃) Tr. 303 3773 4115

 Refrigerator(4℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

 Freezer(‑20℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

 Freezer(‑80℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

  Each value is the mean of triplicate experiments.  Tr.=trace; RT=room temperature.

(5)

(Table 1)。一方,低温で保存した生餡や,練餡 の場合には長期保存による菌の増殖はほとんどみ られず(Tables 1,2),また,保存による糖質分 の流出量増加もみられなかった(Figs. 3,4)。

以上の結果より,生餡の場合には菌などの繁殖 による品質の劣化,変性を抑制するために,冷凍 保存は必要なものであると考えられる。しかし一 方,練餡の場合には必ずしも冷凍保存は必要では なく,室温においても比較的日持ちがよく,その 保存性は高いものと考えられる。

5.要約

生餡,練餡の冷凍保存性について検討した。練 餡を冷凍保存すると,練餡から出るドリップ量が 増加する傾向を示した。一方,生餡ではこのよう な増加はみられなかった。走査型電子顕微鏡で観 察したところ,餡粒子には冷凍保存による大きな 形状の変化はみられなかった。また,保存した餡 からの糖質分の流出を調べたところ,常温に置い ておいた生餡からは多量の糖質分が流出すること が明らかとなった。さらに,常温に置いた生餡で は菌の繁殖が著しいものであった。これらの結果 から,生餡の場合には,その品質保持のために冷 凍保存は必要なものであると考えられる。しか し,練餡の場合には必ずしも必要ではなく,室温 においても保存性は高いものと考えられる。

6.謝辞

本研究を行うにあたり,生餡と練餡およびフ リーザーバックを提供していただきました橋本食 糧工業(株)に対しまして,深謝いたします。

7.文献

1) 小林理恵子・道川恭子・土部正幸・渡辺篤二  

(1992)インゲン類を原料とする餡の性状の比 較.日食工誌,39,657-662.

2) 安倍章蔵(1994)練り餡および粒餡の品質向 上と自動制御に基づく製造技術の改善.日食 工誌,41,157-164.

3) 平春枝・田中弘美・斎藤昌義・原正紀・市川 信雄・細谷恵理(1989)北海道産小豆の品質 と 品 種・ 生 産 地 間 差 異. 日 食 工 誌,36,

812-826.

4) 道川恭子・小林理恵子・渡辺篤二(1992)大 白花を原料とする餡の特性−特に大手亡との 比較.日食工誌,39,663-670.

5) 小林理恵子・道川恭子・渡辺篤二(1992)イ ンゲン類の餡粒子およびこれより分離したデ ンプン粒の光学および走査型電子顕微鏡によ る観察.日食工誌,39,671-677.

6) 藤村知子・釘宮正往(1993)小豆の子葉細胞 内デンプンの糊化.日食工誌,40,490-495.

7) Hsieh,H.M.,B.G.  Swanson,and  T.A. 

Lumpkin. (1999) Starch  gelatinization  and  microstructure of azuki an granules prepared  from  whole,abraded,or  ground  beans. 

Lebensmittel-Wssenschaft  und-Technologie,  32: 469-480.

8) Agata,N.,M. Ohta,and K. Yokoyama. (2002) 

Production  of    emetic  toxin 

(cereulide) in  various  foods.  Inter.  J.  Food  Microbiol.,73: 23-27.

9) Calvelo,A. (1981) Recent studies on meat  f r e e z i n g . I n D e v e l o p m e n t   i n   M e a t  Science-2 ,ed.  Ralston,  L.  ,Applied  Sci. 

Publishers (London),pp.125-158.

10) 山本愛二郎・上野三郎・満田久輝(1983)氷    Table 2  Growth of micro-organisms in the kneaded bean jams stored at various temperatures

        Micro-organism number (colonies/g)

Period (days) 0 28 56 84

Temperature

 RT(25℃) Tr. 7 3 Tr.

 Refrigerator(4℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

 Freezer(‑20℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

 Freezer(‑80℃) Tr. Tr. Tr. Tr.

    Each value is the mean of triplicate experiments.  Tr.=trace; RT=room temperature. 

(6)

結カプセル形成法ならびにプログラムフリー ジング法による酵素,微生物,各種食品材料 等の凍結変性防止に関する研究(第 2 報).

環境科学総合研究所年報,3,105-112.

Fig. 4   Changes  of  sugar  amount  extracted  from  kneaded bean jams stored at room temperature 
Fig. 6   Scanning  electron  micrographs  of  kneaded  bean jams.  Control (fresh kneaded bean jam) 

参照

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