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チェンマイ大学における協働実践

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Academic year: 2022

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実践報告

チェンマイ大学における協働実践

コンジット サランヤー

要 旨

SENDプログラムは2011年から始まったが、チェンマイ大学がSENDプログラムの 受け入れを開始したのは2013年だった。このSENDプログラムにおける協働により、

SEND 実習生もチェンマイ大学タイ人教師も学習者も様々なことを学ぶことができた。

本稿はこのプログラムにおけるチェンマイ大学でのさまざまな協働実践の成果につい て論じる。

キーワード

協働 対等 対話 創造 互恵性

1.チェンマイ大学のSENDプログラム参加

SENDプログラムは2011年から始まったが、チェンマイ大学が協定校として参加した のは2013年からである。本学側が大学院レベルの立場であるため、多少無理はあるが、

チェンマイ大学日本研究センターの修士課程と早稲田大学日本語教育研究科・日本語教育 研究センターとの協働プロジェクトである。

実は、タイ教育省の規則によれば、学部生に教えられるのは学士を持つ者以上で、大学 院生に教えられるのは修士を持つ者以上という制限がある。教育実習生を受け入れること は学習者に同世代の日本人との交流が与えられるという利点はあるが、メンターになる現 職教師としては負担が大きい。それでも、当センターがこのプログラムに参加した理由は 早稲田大の実習生へ模擬授業現場を提供する代わりに、日本研究センターとしては修士課 程の学生に半年の留学先の確保ができるというメリットがあるからである。

このプログラムを実行する前に両大学の情報を共有し、お互いの状況を考慮した。その 結果、実習内容の大きな枠組みが作れた。

SEND 短期実習生はプログラム担当者の担当する学部生の授業で一部の内容を担当す るTAとして受け入れた。例えば、4年生の文法でモダリティの使い方、1年生の通訳で日 本語のアクセントとイントネーションの指導を担当してもらった。そして、大学院生の調 査法の授業では調査相手となり、日本文学導入の授業では日本文学を紹介して日本の若者 という観点から分析し議論を交わした。そのほか、学内スピーチコンテストの学生を対象 とする課外活動として、アクセントとイントネーションの指導を行い、コンテストへは特 別審査員として参加した。

一方、SEND長期実習生(以下SJTA)については、2015年初めて受け入れた。学部生 実践報告

チェンマイ大学における協働実践

コンジット サランヤー

要 旨

SENDプログラムは2011年から始まったが、チェンマイ大学がSENDプログラムの 受け入れを開始したのは2013年だった。このSENDプログラムにおける協働により、

SEND 実習生もチェンマイ大学タイ人教師も学習者も様々なことを学ぶことができた。

本稿はこのプログラムにおけるチェンマイ大学でのさまざまな協働実践の成果につい て論じる。

キーワード

協働 対等 対話 創造 互恵性

1.チェンマイ大学のSENDプログラム参加

SENDプログラムは2011年から始まったが、チェンマイ大学が協定校として参加した のは2013年からである。本学側が大学院レベルの立場であるため、多少無理はあるが、

チェンマイ大学日本研究センターの修士課程と早稲田大学日本語教育研究科・日本語教育 研究センターとの協働プロジェクトである。

実は、タイ教育省の規則によれば、学部生に教えられるのは学士を持つ者以上で、大学 院生に教えられるのは修士を持つ者以上という制限がある。教育実習生を受け入れること は学習者に同世代の日本人との交流が与えられるという利点はあるが、メンターになる現 職教師としては負担が大きい。それでも、当センターがこのプログラムに参加した理由は 早稲田大の実習生へ模擬授業現場を提供する代わりに、日本研究センターとしては修士課 程の学生に半年の留学先の確保ができるというメリットがあるからである。

このプログラムを実行する前に両大学の情報を共有し、お互いの状況を考慮した。その 結果、実習内容の大きな枠組みが作れた。

SEND 短期実習生はプログラム担当者の担当する学部生の授業で一部の内容を担当す るTAとして受け入れた。例えば、4年生の文法でモダリティの使い方、1年生の通訳で日 本語のアクセントとイントネーションの指導を担当してもらった。そして、大学院生の調 査法の授業では調査相手となり、日本文学導入の授業では日本文学を紹介して日本の若者 という観点から分析し議論を交わした。そのほか、学内スピーチコンテストの学生を対象 とする課外活動として、アクセントとイントネーションの指導を行い、コンテストへは特 別審査員として参加した。

一方、SEND長期実習生(以下SJTA)については、2015年初めて受け入れた。学部生

特集:SENDプログラムの「実践報告」

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とは異なり、学部生を対象に教える場合、大学院生であるSJTAは若手の日本語母語話者 教師に相当する。したがって、SJTAの希望とそれぞれの科目担当のタイ人教師(以下NNT) と日本人教師(以下NT)の意思により様々な形のテームティーチング(以下TT)で授業 が可能となった。さらに、チェンマイ大学の教員同様に授業を行う以外に、学生サポート、

学術サービス・ネットワーク作り、研究、事務的な仕事も義務づけた。SJTA は学部生の 文化活動に参加したり、チェンマイ市内の高校で日本語ボランティア教師をしたり、セン ターの図書館サービスの書籍整理の手伝いという事務的な仕事もしたりする。研究に関し ては、早稲田大への週報と、実習生自身の修論もあるので、週報に基づいて研究テーマを 探る程度に留めた。

2.チェンマイ大学と早稲田大学との「協働」

「協働」とは様々な定義があるが、筆者としては他人と共有する目標を達成させるために 努力することだと考える。まず、相手を同じ人間だという「対等」の立場で尊重し、必ず 異なる意見や価値観を持っていることを認める。お互いの考えていることを把握するため には顔を合わせて「対話」し、共通点と相違点を明らかにする。お互いが力を合わせてお 互いを支援すれば、その共通目標を達成させる新たなアイディアが「創造」されると信じ る。その「協働」の「互恵性」によって次の「協働」につながり、異なる相手との「協働」

も可能になり、「協働」のネットワークも広がると考えている。他人と合わせられて共生で きる人間のネットワークが広がれば社会貢献にもなるという信念を持っている。この考え 方に基づいて、早稲田大学からの実習生を受け入れた。その結果、このプログラムの関係 者の間に次のような「協働」ができた。次は大学間の「協働」とNNTの現職教師二人と SJTAの「協働」を取り上げて論じる。

2.1 大学間の「協働」

チェンマイ大学は、他大学からの長期実習生受け入れの経験は 10 年近くあるが、早稲 田大学からは初めてである。上述のように実習開始前の段階からの実習生との相談、派遣 機関との相談を行い、実習プログラムの計画を具体的に立てるのも今回が初めてである。

SJTA は長期としての実習開始前に、実習志望を明確に示し、短期実習生と交流し現場の 状況を確認した。その後、プログラム担当教員と対話し、実習内容について検討した。そ して、プログラム担当教員が、学内の教員・学習者・学部の職員など他の関係者へ協力依 頼の交渉を行い、また実習生自身からも依頼した。関係者間でお互いの立場を理解するた めに何回もメールでのやり取りや面会を重ねて、できるだけそれぞれの関係者のニーズに 合わせるよう努力した。その結果、次節に示したように、チェンマイ大学にとって新たな 実習生の受け入れの形ができた。これは筆者としてはチェンマイ大学と早稲田大学との「協 働」における「対等・対話・創造」の一つだと考える。

2.2 筆者とSJTAの「協働」

長期実習生の研修内容について、具体的に述べる。SJTAは筆者担当の3年生と4年生

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の文法の授業で実習を行った。短期実習生と一緒に 4 年生のモダリティの授業では、

Facebook やツイッターなどの生教材を使って文法を導入したり、かわいい絵を描いて導 入したりした。また、大学事情を紹介するブログを使って文法項目を練習させたり、テス トの問題にしたりした。経験が浅いため、クラスコントロール・話すスピード・話す量な どで、不慣れゆえの弱点はあったが、作成した教材と、試みたアイディアは素晴らしかっ た。筆者は身近なFacebookがこのように指導場面で使えるのかと感動した。学生との年 齢差が大きいNNT教師にはあまり思いつかないことだ。学生と同年代のNTだからこそ、

この面白い発想ができたと思う。SJTA と現職教師は「メンティ」と「メンター」の関係 に近いが、メンターでもメンティからヒントをもらうことはある。こうした実践は、タイ 人学習者からも評判が良く、彼らの学習記録を見ると、SJTA の授業は普段の担当教師の 授業と一味違うので、また受け入れて欲しいと書いてあった。

このような成果があり、更にはSJTA自身も実習希望があったため、3年生の文法授業 では、彼女がオノマトペを教える時間帯を作った。10分間10回の授業をコースデザイン から評価まで自分で考えてもらった。筆者の役割は、事前にプレゼンテーションを見て、

学習者の立場からコメントし、授業が終わったら気楽な反省会で対話することである。

SJTA は、コメントと反省を踏まえて次回の授業を改善するという流れをコース終了まで 繰り返した。こうして我々は、毎日の顔合わせ、挨拶、そして、週2回以上の授業の反省 についての「対話」を行った。クイズのパワーポイントの作成、学生の興味のあるテーマ や教材選びなどは筆者にも参考になった。反対に、SJTA が失敗したと語ったことは、筆 者自身も注意すべき点でもあるだろう。時には、SJTA の教案に賛成できないこともあっ たが、結果的には学生の受けが良かったこともあって、若者の好みを知ることができた。

そして、ユニークで楽しい「よう、らしい、みたい」と「オノマトペ」の教材も形として 残った。

2.3 現職教師NNT2とSJTAの「協働」

SJTAは、副専攻日本語初級の授業でも実習した。同じく毎回10分での実習だが、内容 は「語彙導入」「漢字導入」など様々だ。その授業を担当するNNT2は授業が続くので、

筆者ほどSJTAとの対話はできなかったが、毎回授業が終わったら簡単な反省点について 話し合ったと言う。NNT2としては、SJTAからいろいろなアイディアのヒントをもらっ たようである。NNT2は文学博士で、言語教育の教授法については、日々実践的に学んで いる。そこで、日本語教育専攻の SJTA から自分の授業に対するコメントを聞き、SJTA のクラス活動のアイディアも見たかった、と彼女は筆者のインタビューに答えている。こ うした両者間のやりとりを踏まえた新たな試みの結果、「漢字は復習を重ねて導入すると良 い」「好き嫌いという文法項目の実習では、BINGO ゲームを使うと学生が盛りあがった」

という成功事例が得られたという。また、「今まで語彙の導入はしなかったが、文法説明に 入る前にSJTAが語彙導入をしたので、それを参考にしてそれ以降は語彙導入を入れるよ うにした」という授業の改善も行ったとも述べた。NNT2は、SJTAを自分の「メンター」

として考えているようだ。他にもNNT2は、「SJTAが出るクラスの学生は積極的に日本 語を話そうとしている様子も見られた」「今回の受け入れがとても勉強になり、自分の成長

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にもつながるため、来年度ぜひ続けて欲しい」との意見も述べた。筆者とSJTAとの「協 働」と違って、教材のように具体的な形が残る「創造」ではないが、授業のやり方の変更、

学習者の積極的な態度など抽象的なものが「創造」されたと言える。

3.チェンマイ大学にとっての「協働」の成果

上述のような「協働」により、早稲田大学の長期実習生SJTAは、コースデザイン、シ ラバス作成、教案作成、教育実習、テスト作成、採点、成績の付けかた、学生からのフィー ドバックによる反省という、教員として一つの科目におけるすべての過程を体験できた。

一方、チェンマイ大学の教員は学習者の興味を引く新たな「オノマトペの教材」などの「創 造」ができた。加えて、SJTA の実習について、会議以外であまり話す機会がなかった筆 者と、新任NNT2が連絡しあったり、インタビューしたりするきっかけになった。また、

SJTA の記録した週報を通して、筆者は他の授業の様子、第三者からの授業へのフィード バックを知ることもできた。カリキュラム運営の改善や教師の成長のため、現職教師は協 働を目指してお互いの授業に参加すべきだが、時間の余裕がないためこれまで行われるこ とはなかった。今回はSJTAがいたからこそ、このような理想的な協働ができたのである。

SJTA も、自分の週報を振り返ることにより、自分の修論のテーマも見えてきたという。

将来、彼女がチェンマイ大学の日本語教育に関わる場合、引き続き協力したいと筆者と NNT2は同様に考えている。

このような「協働」の成功は2013年に初めて大学院の実習生とチームティーチングを 行った経験が背景にあると思う。実習生の感想文からは、実習生は授業以外には様々な悩 みがあることがわかった。責任ある一人の教師として、しかも慣れない海外の環境で生活 している者としては、どんなことでも気兼ねなく発言できる居場所が欲しいのではないか と考えた。これは、筆者自身の海外経験を踏まえての判断である。そこで今回、SJTA に はすぐ顔合わせを行い、筆者をはじめ関係者と「対話」できる環境を作った。食事会を重 ねた気楽な反省会を行ったり、タイの文化紹介をしたりした。SJTA もこちらの希望に応 えていろいろと努力した。毎日出勤して、反省会ではいろいろ語り、食事会や旅行の誘い も適当に断ったり参加したりした。筆者に頼りすぎず、独力でも冒険を試みた。

チェンマイ大学にとっては、上述のように実習コースを創ったこと、同じ事務所にスペー スを提供する「場の共有」、反省会による「プロセスの共有」というプロセスにより、今ま でなかった教材など様々なものが「創造」されたという成果が得られた。

4.SENDにおける「協働」とその意義

SENDプロジェクトの協定校は10機関である。本稿で論じた「協働実践」は一部だっ た。協働する相手が変われば同じ結果になるかどうかの保証はない。ただし、今回の協働 を踏まえて、同じ目標に向けて、お互いを尊重し、理解し合う努力をすれば、その目標を 達成できる新たな「協働」と新たな「創造」が生み出されるだろう。これはこのプログラ ムの意義だと考えられる。お互いを「対等」として位置づけ、情報共有のための「対話」

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があり、最終的に新たなものが「創造」されたというプロセスが今回の「協働」実践の成 功につながったと考えられる。

参考文献

池田玲子・舘岡洋子(2007)『ピア・ラーニング入門―創造的な学びのデザインのために』ひつじ書

ウォーカー泉・齋藤享子・浜崎譲(他)2015SENDプログラムの現状と課題―シンガポール国立 大学の場合―」『早稲田日本語教育学』18pp. 39-45

榎原美香・サランヤー コンジット(Saranya Kongjit)・吉田直子(2015)「チェンマイ大学日本語 学科実践報告―実習生とのティーム・ティーチングから―」『日本語講座年報 2013-2014』大阪 大学外国語学部外国語学科日本語専攻(p. 42-50

(こんじっと さらんやー チェンマイ大学人文学部)

参照

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