第五章 チタン合金鋳塊の凝固組織の現出 5.1 緒 言
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(2) 表5―1. 鋳塊 Ti64 Ti662. サイズ(mm) 844φ×2250L 750φ×2000L. 表5―2. 鋳塊 Ti64 Ti662. Al 6.42 5.85. 鋳塊の溶製条件. 溶解速度(kg/min.) 23〜16 19.4〜9. 鋳 塊 の 化 学 成 分 (mass%). V 4.14 5.62. Sn 0.016 1.95. Cu 0.003 0.72. Fe 0.134 0.69. 重量(kg) 5600 3970. (鋳塊底部). C 0.005 0.005. N 0.008 0.005. O 0.202 0.16. 鋳塊の金属組織および凝固偏析の観察 は図5―1の模式図に示すように、鋳塊 の縦断面上で、分析用に半円形の試料(a) を鋳塊の頭部(T),中央部(M),底部 (B)から採取した後の広範囲な領域で 行なった。組織観察試料は鋳塊縦断面の. a-1. 上述の分析試料を除いた縦断面各部位の (b)を使用した。1個の試料観察面の大き さは、大きな断面で約300×350〜420 mm で一鋳塊当たり12個である。凝固組織は この領域の中で表層から中心部にかけて. a-2. 変化するので、その状態を観察するのが 目的である。. 図5−1. a-3. 円柱鋳塊縦断面から(b)組織. 観察及び(a)分析試料採取位置の模式図. 100.
(3) 5.2.2. 組織腐食法. 従来、チタン合金の組織現出には腐食液としてクロル液(1〜3ccHF+2〜6ccHNO 3+91〜 97ccH2 O)がよく使われる。これは硝酸が主液で、これにフツ酸を混合した水溶液であ る。しかし、この液では通常のマトリックスの組織観察は出来るが、鋳造組織の凝固組 織の現出は鮮明でなかった。そこで、鋳塊断面の広い領域での観察を目的とする本研究 では、新しい腐食液と腐食条件を検討した。考案した腐食液と腐食条件を表5−3に示 した。新しい腐食液の特徴は、フツ酸濃度を硝酸と同じにしてあることと、偏析部や凝 固線に対しては水量を低めフツ酸濃度を高めていることである。これにより、凝固に伴 う成分変動の違いを利用して微細で鮮明な孔食を作り、線状の偏析の孔食列を凝固線と して観察するものである。凝固マトリックスは腐食液の組成を希薄にしてあるだけなの で、まず偏析部を現出させた後に引き続いて行なうことが出来るのが特徴である。 試料は、予め大型試料表面(1個の観察面約400×300mmあるいは約375×300mm) を機械研削で▽▽▽仕上げして腐食し、さらに機械研削表面を#600の研磨紙で仕上げ をすると腐食像が鮮明になる。. 表5―3. 組織 凝固マトリックス 凝固線などの偏析部. 5.2.3. 新しい腐食液と腐食条件. 腐食液 15ccHNO 3 +15ccHF+700ccH2O 15ccHNO 3 +15ccHF+70ccH 2 O. 腐食条件 室温、5分以上浸漬 室温、5分以内浸漬. 凝固収縮孔の観察法. 凝固の際に収縮孔が生じるが、この分布は凝固形態にも依存するものと考えた。等軸 晶か柱状晶かで発生位置が異なるはずである。そこで凝固組織の現出により得られた凝 固形態が正しいか否かの判定基準として本法も採用した。その分布を調べるためには高 精度自動超音波探傷装置を用いた9)。すなわち、試料を水槽中にセットし、集束探触子 により全面走査し、試料内部からの超音波の反射波を解析して、試料表面下の数mm厚中 の収縮孔を画像化して分布を求めた。超音波探傷装置で検出される収縮孔の大きさは数 μmであった。. 101.
(4) 5.2.4. 成分偏析の定量分析. 成分分析は、図5―1に示したように採取した分析用試料について行なった。広い領 域での分析にはEPMAによる走査像10)で行なった。これは10 mm×10 mmの範囲を測定画 素サイズ40μm×40μmで250点×250点の測定点で測定するものである。対象元素は Al,V,Sn,FeおよびCuである。. 5.3. 5.3.1. 実験結果. 鋳塊縦割断面の金属組織. Ti64合金の鋳塊縦断面全体を観察した凝固組織を図5―2に示す。腐食液は表5−2 の濃度の低い液である。鋳型の底面、側面に接した急冷等軸粒組織(チル層)、等軸粒 組織から溶湯中心に向かって成長した柱状粒組織、中心部分の等軸粒組織が明瞭に観察 される。同様にTi662合金鋳塊についても観察したが、柱状粒組織はTi64の柱状粒組織 ほどは粗大に成長していないが、チル層組織よりも大きかった。 アーク停止時に鋳塊内部の凝固状態の検知のためにアーク停止直前にタングステン W塊(30×30×30mm3、500g)が溶湯プール内へ落下し、停止する。その位置が鋳塊底 面からの凝固層である。図5―2中のW印がその位置を示しているが、アーク停止時の 大鋳塊の溶湯プールは鋳塊高さの約2/3であった。. 5.3.2 鋳 塊 縦 割 断 面 の 凝 固 線 と 凝 固 組 織 次に、鋳塊底部を高濃度腐食液で腐食した拡大写真を Ti64、Ti662合金についてそれ ぞれ図 5 ― 3 (a)、 (b)に示す。 鋳塊断面金属組織の柱状粒組織の成長方向に直交して平行な等間隔の腐食ピット列 が観察される。これらは鋳塊の成分変動がある箇所が選択的に腐食され、線状の凝固界 面の軌跡(凝固線と呼ぶ)として表われたものである。この凝固線の示す凝固組織の特 徴をつぎのようにまとめることが出来る。水冷銅鋳型に接したチル層内に腐食ピットが 並んだ凝固線が鋳塊表面に約20度の傾角で殻状に生成している。腐食ピット列は数mm 間隔で生成して柱状粒組織にも連続して現われている。柱状粒組織内には、腐食ピット 列と共に収縮孔列が平行してでき、柱状粒の成長方向に垂直な線となっている。これは 後述するように凝固時の固液界面の凝固線と考えられる。また、中心部分の等軸粒組織. 102.
(5) 図5―2. Ti64合金. 鋳塊縦断面の凝固組 織 s:表面 c:鋳塊 中心 部. U:鋳塊最頭 L:鋳塊最底部. P:巨大収縮孔、 W:タングステン塊 X:凝固マトリック ス組織から判定した 溶湯プール深さ. 103.
(6) (a) T1. T1. (b). T2. T2. 10mm 図5―3. (a)Ti64、( b) Ti662合 金 の 鋳 塊 底 部 縦 断 面 の 拡 大 写 真. T1‑T1,T2‑T2は そ れ ぞ れ の 写 真 中 に 見 ら れ る 凝 固 線 ト レ ー ス 例 を 示 す 。. 104.
(7) には、柱状粒組織内と異なり腐食ピットおよびミクロな収縮孔の列は見られず粗大化し た収縮孔が不規則な分布をしている。 以上の結果に基ずいて組織試料の凝固組織の特徴と凝固線を模式的にまとめてそ れぞれ図5−4(a)、(b)に示した。凝固線の形成は定常の溶解過程とホットトップ過程 の部分に分けられる。それぞれで供給されるパワーの違いにより、ホットトップが適用 された部分は鋳塊頭部のみの溶解となり、凝固線の傾角は約60度に大きく変化している。 鋳塊中心部では規則的な凝固線は見られない。. 図5―4. (a)鋳 塊 縦 断 面 の 金 属 組 織 と (b) 凝 固 線 図 の 模 式 図. CH:急 冷 等 軸 粒 組 織 ( チ ル 層 ). 105. CO:柱状粒組織. EA:等軸粒組織.
(8) 凝固線が凝固時の固液界面だとすれば、不純物偏析があることが予想される。そこで、 Fe、Cu、Snが添加されたTi662合金について、走査型EPMAを用いて図5―3(b)の一部 でFe,Cuの元素分布を観察し、図5―5に示す。凝固線近傍の平均FeとCu量はそれぞれ 0.68、0.71%レベルである。これからわかるように、FeとCuのミクロ偏析した縞が図5 ―3(b)の腐食孔列に対応している。すなわち、腐食孔はFeとCuが富化した偏析縞に対 応している。また、最終凝固部のFeとCuの富化は等軸晶域と対応しており、約1.02、 0.99%と濃厚な偏析である。. 図5―5. Ti662合 金 鋳 塊 底 部 縦 断 面 の (a)凝 固 組 織 、 (a)中 の 白 枠 部 分 の (b)Fe,(c)Cu. の EPMA写 真 ( 色 輝 度 の 明 る い 部 分 が ミ ク ロ 偏 析 部 分 を 示 す ). 106.
(9) 5.3.3. 鋳塊縦割断面の収縮孔. 高精度超音波探傷装置を用いて観察したTi662合金鋳塊縦断面の収縮孔分布を図5―. 6に示す。柱状粒組織内に収縮孔列が数mm間隔で見られる。この間隔や形態はミクロ偏 析縞および腐食孔列と対応している。収縮孔はチル層内には少なく、柱状粒組織と等軸 粒組織の領域に認められる。柱状粒組織領域には収縮孔の点列と腐食ピット列が同一位 置にあることから、凝固は不連続に進行していることがわかる。中心部分の等軸粒組織 には、柱状粒組織内に見られたような収縮孔の線列は見られず、粗大化した収縮孔が不 規則性に分布している。Ti64合金でも同様な結果であった。微細な収縮孔の代表例を Ti662鋳塊について図5―7に示す。写真の(a)、(b)はそれぞれ柱状粒組織と等軸粒組織 内の収縮孔であり、柱状粒組織内に20μmφ前後の球状あるいは楕円状のものが多く散 見された。また、等軸粒組織の鋳塊中心部にはさらに複雑な形態の収縮孔が球状、楕円 状の孔から円錐状、多面形状さらにドッグボーン状に粗大化し、大きさが100μmに達す る孔が散見された。. 107.
(10) 図5−6. 高精度超音波探傷装置を用いて観察したTi662合金鋳塊縦断面の収縮孔分布. 108.
(11) (a). (b). 図5―7. 5.4. 5.4.1. Ti662合 金 鋳 塊 の (a) 柱 状 粒 組 織 と (b)等 軸 粒 組 織 内 の 収 縮 孔. 考察. VARと 凝 固 現 象. 消耗電極式アーク溶解では、溶湯が水冷鋳型内に連続的に注入され、凝固の進行と溶 湯の供給が同時に起きる。そのバランスは溶解速度と鋳塊の大きさによって変化し、大 鋳塊では溶湯プールも存在する。水冷鋳型に接した冷却速度の大きい領域でのチル晶、 そこから溶湯プールの存在する鋳塊中心部へ向かう柱状晶の形成は、凝固形態として一 般的な現象であるが、今回、大鋳塊のVAR凝固組織で見出された特徴は、柱状晶組織中 に生成する縞状の凝固線で、凝固層が間欠的に形成されることを意味している。アーク により溶け落ちた高温の溶湯プール温度と凝固温度の温度差を過熱度とすると、固液界 面は2000℃の溶湯と1600℃の凝固相が接し温度勾配が大きく、また凝固界面からは凝固 潜熱が放熱される。 凝固の進行が断続的になる理由としては、水冷鋳型からの抜熱が定常的に起きている とすれば、溶湯プールの温度が断続的に変動していることになる。VARでは溶湯プール の大きさが通常の造塊法と比べて小さいから、温度の高い溶湯が断続的に供給されれば. 109.
(12) 溶湯プール温度が不連続的に変動することになる。消耗電極からの溶湯落下状態を観察 することは困難であるが、今回見出された鋳塊中の凝固線は電極からの溶湯落下が不連 続に起きていることを示している。凝固がいったん停止する凝固線で凝固収縮孔や不純 物偏析が起きることは当然予想されることで、実際に収縮孔や腐食ピット列が凝固線に 沿って観察された。それらの孔列は同じ間隔を保ち観察されるが、鉄鋼材などに見られ ている凝固遷移層に相当する固液共存域であると考えている 1 1 )。 鋳塊中心部の等軸晶部分は、アークが停止し新しい溶湯供給がない状態で凝固した領 域であると考えられる。その溶湯の熱対流撹拌があり、溶湯成分の均一化が進行すると 考えられる。また、ホットトップ法は鋳造後期で溶湯供給速度を遅くし、鋳塊内部の温 度勾配を小さくしている。凝固線は温度勾配と直角に生成されるから、図5−4(b) に見られた凝固線傾きの変化はこの温度勾配の変化に対応している。 本実験結果からえられた鋳塊溶製時の凝固過程を模式的に図5―8にまとめて示す。. 図5―8. VAR円 柱 型 鋳 塊 ア ー ク 停 止 (a)前 、 (b)後 の 凝 固 過 程 の 模 式 図. 110.
(13) 5.5. 小括. 実生産規模で溶製した消耗電極式真空アーク溶解製α+βチタン合金Ti‑6Al‑4V、 Ti‑6Al‑6V‑2Snの円柱型大鋳塊の断面組織を腐食法で観察した。腐食液としてはフッ 酸:硝酸:水=1:1:4〜40容の液を用いた。 (1) 鋳塊縦断面のマクロ組織は水冷銅鋳型に接したチル層の等軸粒組織、その内部に 柱状粒組織と中心部に等軸粒組織である。 (2) チル層および柱状粒組織にはその成長方向に直交した腐蝕ピット列と収縮孔が点 在する。これは間欠的な凝固を示す凝固線である。その凝固線の内側が溶湯プールであ り、アーク停止時における溶湯プールが等軸粒域と対応していると考えられる。これか ら、VARで溶湯の供給は断続的に進行することが明らかになった。アーク停止時の大鋳 塊の溶湯プールは鋳塊高さの約2/3であった。 (3) Ti662合金の凝固線にはFe、Cuの偏析が観察された。また、等軸晶域では偏析が大 きく、また凝固収縮孔も粗大であった。. 参考文献: 1)例えば市橋弘行:日本鉄鋼協会チタン材料研究会:日本でチタン材料について何を研 究しているか, 日本鉄鋼協会編,(1989.12.1)、3. 2)H.B.Bomberger and F.H.Froes:Titanium technology,ed by F.H.Froes, Eylon,H.B.Bomberger (1985),25. 3)V.V.Tetyukhin,V.N.Kurapov,Y.P.Denisov,N.T.Dubrovina,A.N.Trubin and V.V. Sarelyev:Titanium and Titanium Alloys ed.By J.C.Williams and a.F.Belov (1982),141(Prenum Press) 4)V.I.Dobatkin,N.F.anoshikin,A.L.Andreev,G.A.Bochvar,M.I.Musatov,B.V.Tetukhin and E.P.Chistjakov:Slitki Titanovykh Splavov(Ingots of Titanium Alloys) (1966), 96.[Moscow] 5)A.Mitchell:ISIJ International,(1992),557. 6)ギュンター・ペツオー:金属エッチング技術(1977)アグネ 7)白石博章、近藤 豊、金井. 章:日本鉄鋼協会チタン材料研究会:日本でチタン材料. について何を研究しているか, 日本鉄鋼協会編,(1989.12.1)、12. 8)N.Fukada,H.Okano,m.Koizumi,T.Fukuyama and a.Kawabe:The Science and Technology. 111.
(14) and Application of Titanium,ed. By R.I.Jaffee and N.E.Promisel,(1988),631. 9)川島擾宏、宇田川建志、八田雅明:非破壊検査,37‑2A(1988),150. 10)I.Taguchi. and. H.Hamada:Analytical. 11)高橋忠義:日本金属学会会報. Sciences,1(1985),144.. 16(1977),823.. 関連論文と学会発表: 1)H.G.Suzuki and H.Hayakawa and D.Eylon: Castability and hot workability of Titanium alloys Titanium’99, Proceeding of the nineth world conference on titanium(1999), 1619. 2)H.Hayakawa,N.Fukada,M.Koizumi and H.Suzuki A new method to produce segregation-free ingot : Titanium’92,Science and Technology,ed by F.H.Froes and I.Caplan, The Minerals,Metals. & Material Society, (1993),2317.. 3)H.Hayakawa,N.Fukada,T.Udagawa,M.Koizumi,H.G.Suzuki and T.Fukuyama Solidification structure and segregation in cast ingots of titanium alloy produced by vacuum arc consumable electrode method ISIJ International, 4)早 川. 31(1991),775.. 浩 、鈴木洋夫、宇田川建志、小泉昌明、深田伸男、福山尚志: 消耗電極式真空アーク溶解製チタン合金鋳塊の凝固特性 材料とプロセス. 2(1989),. 1285.. 112.
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