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図 1 では プライマリーバランスが 11 兆円の赤字であることがわかる この赤字が消えてプライマリーバランスが均衡する姿を想像すると 下の2つの式が成り立つ 経常的歳入 = 経常的歳出 国債発行 = 国債費 国債発行 = 国債費 の式に注目すると 償還費用を賄うために新規に国債を発行しても国債残高

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五十嵐レポート

2017 年 3 月 24 日

(出所)財務省 (注)2016年度政府予算案 (国債費24)

経常的歳入(62)

<税収等>

国債発行(34)

歳入

歳出

経常的歳出(73)

<政策経費> 償還 (14) 利払い (10)

プライマリーバランス

(赤字)

11

(単位:兆円)

やはり財政赤字は放置できない

プライマリーバランス黒字化の意義 日本の財政状況は世界最悪だと言われている。財政状況の良し悪し、つまり健全性の度 合いは何で測ればよいのだろうか。最も一般的なのは「債務残高比率」だろう。具体的に は「債務残高対 GDP 比率」のことだ。その意味は、「返済能力と比較した債務の大きさ」 ということである。債務は大きいことが問題だとは言えない。返済能力が高い人や企業な ら、大きな債務を持っていても構わないだろう。返済能力の大きさは所得の大きさで測る ことができるから、国全体で考えるなら、一国の所得である GDP が大きい国は大きな債務 を持つことができる。したがって、GDP に対する債務残高の大きさの比率が低いほど、財 政状況は健全だと言ってよいのだ。 では「債務残高対 GDP 比率(債務残高/GDP)」を低下させるにはどうすればよいのだ ろうか。図 1 をご覧頂きたい。これは 2016 年度の一般会計予算の姿を示している。 図 1 一般会計予算とプライマリーバランス 財政は、経常的歳入(税収等)が、経常的歳出(政策経費)と国債費(既存国債の償還 と利払い)の合計を賄いきれない分は、新規国債発行をしなければならないという制約を 持つ。つまり常に下記の式が成り立っている。 経常的歳入+国債発行=経常的歳出+国債費 このうち、経常的歳入と経常的歳出の差額がプライマリーバランス(基礎的財政収支) だ。 プライマリーバランス=経常的歳入-経常的歳出

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-22 -20 -18 -16 -14 -12 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 ベースラインケース:中長期的な実質経済成長率は1%弱 経済再生ケース:中長期的な実質経済成長率は2%以上 (兆円) (年度) (注)復旧・復興対策の経費及び財源の金額を除いたベース (出所)内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(2017年1月25日)をもとに作成 3.0兆円 8.3兆円 (黒字化) (15.8兆円) (11.3兆円) 図 1 では、プライマリーバランスが 11 兆円の赤字であることがわかる。この赤字が消え てプライマリーバランスが均衡する姿を想像すると、下の2つの式が成り立つ。 経常的歳入=経常的歳出、国債発行=国債費 「国債発行=国債費」の式に注目すると、償還費用を賄うために新規に国債を発行して も国債残高は不変だが、利払い費を賄うために新規に国債を発行すると、その分だけ国債 残高が増加することがわかる。「利払い費=国債残高×金利」だから、結局、プライマリー バランスが均衡している下では、「国債残高の増加率=金利」となる。 したがって、プライマリーバランスが黒字(国債発行<国債費)になれば、 国債残高の増加率<金利 が成立する。そしてこの条件の下で、かつ「GDP 成長率=金利」という条件を加えると「債 務残高対 GDP 比率(国債残高/GDP)」は低下する。つまり、「プライマリーバランスが 黒字化すれば、GDP が金利程度の成長を実現する限り、債務残高対 GDP 比率が低下し、財 政は健全化する」と言えるのだ。 極めて厳しい財政状況の先行き 次の図2 は、プライマリーバランスに関する内閣府の最新の試算である。 図 2 政府によるプライマリーバランスの見通し 2000 年度から 2015 年度にかけて実質 GDP 成長率の平均は 0.9%なので、ベースラインケ ースとは、まさに「これまでの経済成長が今後も続く」ケースだ。この場合、安倍政権が 掲げる「20 年度にプライマリーバランスを黒字化させる」という目標は、20 年度時点で 11.3 兆円の未達の上、その先もプライマリーバランスの赤字が拡大し続けるという見通しだ。 一方、経済再生ケースでは、20 年度では 8.3 兆円の未達だが、その後はプライマリーバラ ンスの改善が続き、25 年度には黒字化するという見通しになっている。

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さて、これをどう評価するかだが、「経済再生ケース」の想定は非現実的だと言わざる を得ない。このケースでは実質 GDP 成長率は 2%以上、名目 GDP 成長率は 3%台後半を想 定しているが、15 年度までの 15 年間の実績はそれぞれ 0.9%、0.2%だ。 今後、デフレが克服されて名目成長率が実質成長率を上回るようになるとしても、政府 が「もはやデフレという状況ではない」と言い始めた現在でも、16 年度の名目 GDP 成長率 は 1.3%に止まる見込みだ(もっとも、16 年度は実質 GDP 成長率も 1.3%の見込みなので、 GDP デフレーターの上昇率はゼロで、数字の上ではまだデフレは克服されていないが)。 GDP 成長率が、名目、実質とも飛躍的に高まる、それも一時的にではなく持続的にという 想定は、やはり実現不可能だと思われる。 浮上した物価水準の財政理論(FTPL) そうした中で、最近、デフレ克服のために金融政策に代わって「財政政策」を使うとい う理論が注目されている。米国プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授の「物価 水準の財政理論(FTPL)」である。 デフレ克服を目指してきた安倍政権が掲げる 3 本の矢の第 1 が金融政策であり、日銀の 金融緩和政策の目標がデフレの克服(消費者物価の安定的な上昇)だから、デフレ克服は 金融政策の領分だと考えられているわけだ。逆に言えば、デフレは金融的ないし貨幣的現 象だと考えられているのだ。 しかしシムズ理論は、物価水準を決めるのは財政政策だと主張している。要するに、「中 央銀行は金融政策を操作しているが、政府の代理だ。結局、通貨価値を維持できるか否か は、政府の政策、つまり財政政策次第」(慶應義塾大学土居丈朗教授)ということなのだ。 シムズ理論は直感的には理解しづらい理論だが、定式化すると下記の通りである。要す るに、「負債の価値はその支払いに充てられる純収入の総和に他ならない」という「特定 の理論的立場にかかわらず必ず成立する関係」(慶應義塾大学池尾和人教授)を示してい るのだ。 名目国債残高/一般物価水準=現在から将来にわたる実質 PB 黒字の割引現在価値 (PB:プライマリーバランス) 単純化して言えば、上式の左辺は返済しないといけない負債の実質価値であり、右辺は 返済に充てる原資の合計の実質価値である。 そうだとすると、この式は必ず成立するはずだから、①返済に充当する原資の実質価値 が減少するようなことがあれば(右辺の減少)、②返済しなければならない負債の実質価 値も減少するが(左辺の減少)、③負債の名目残高は不変であるから、結果として一般物 価水準を上昇させるメカニズムが働くことになる。 また、将来にわたるプライマリーバランスの黒字の累計が減少すれば、足元で物価が上 昇すると言っているのだから、「物価を上げたければ財政を悪化させればよい」ことにな る。しかも、その悪化は「将来にわたるもの」でなければならない。なぜなら、今期のバ

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ランスが悪化したとしても、それが来期以降に回復してしまうと「式」の右辺は減少しな いからだ。 そこでシムズ教授は、たとえば政府が消費税の増税はしないと宣言した上で、同時に、 結果として悪化する財政を将来の増税や歳出の削減で埋め合わせることもしないと確約す れば、根強いデフレからも脱却できるだろうと提案しているのだ。 財政悪化の放置は危険 私の想像だが、この理論は全く正しいだけに学者受けするのだと思う。「こうした発想 の斬新さは筆者のような研究者にとっては極めて魅力的だ」(日本経済新聞「経済教室」 の塩路悦朗一橋大学教授の論説 3 月 15 日付)という受け止め方なのだ(もっとも塩路教 授は「この提言をいきなり実地に適用するにはリスクがある」とも言っているが)。 しかし同時に、全く現実離れした理論であるというか、少なくとも日本経済に適用可能 な理論だとは到底思えない。式の右辺は「来期以降の将来」を含んでいるから、予想の世 界だ。皆が「財政が悪化し、それを政府が放置する」と予想すれば、足元で物価が上昇す るというのは、「マネーの供給を増やせば、皆が物価上昇予想を持つので、実際に物価が 上昇する」という、今の金融政策の考え方と同じようなものだ。政策で人々の予想をコン トロールするのは極めて困難だというのが、これまでの金融政策の教訓であるはずなのに。 また根本的な疑問も湧いてくる。日本の国債残高は GDP の大きさと比較して世界最大規 模だが、物価水準は一向に上昇しない。それは式の右辺で巨額の黒字が見込まれているよ うなものだと思われるが、プライマリーバランスの黒字化すら展望できていない現状で、 人々が今そんな予想を持っていると言えるのだろうか。もっとも、シムズ理論の式の左辺 はマイナスにはならないから、右辺も当然プラスである。日本のようにプライマリーバラ ンスが赤字の国は、そもそも理論の対象外だということになってしまわないか。 「政府が国債を増発して財政支出を増加させ、しかも将来の増税を否定すれば、民間に とっては恒常的な所得が増大することを意味するから消費が拡大する。消費拡大は物価の 上昇につながり、結果的に国債の実質価値は下落し、政府債務は圧縮される」といった主 張もあるが、財政赤字の拡大が持続的な経済成長につながるかどうかは疑問だ。 もっとも、国債は必ずしも返済する必要はない。借り換えればよいのだ。その場合、結 果として国債残高が増加するが、その増加率が経済成長率よりも低くなければならないこ とがポイントだ。プライマリーバランスが赤字である限り、国債残高は金利以上のペース で増加してしまう。現在は金利が超低水準だからよいが、将来、市場が暴力的に金利を上 昇させてしまう可能性は小さくない。そうなれば財政健全化を進めるのはいっそう困難に なる。そんな日本であるだけに、万が一にも、財政悪化を放置すればデフレ克服につなが るなどといった理屈が勢いづかないことを祈りたい。 (MU投資顧問客員エコノミスト 兼 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング

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MU投資顧問株式会社

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※この資料は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱とタイアップし、同社調査部 の作成した経済レポートを中心に掲載しております。本資料の記載内容の一部を引用 あるいは転載される場合には、必ず「MU投資顧問株式会社 資料より」と明記してく ださい。 ※本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測は、必ずしも当社の見解を示すもの ではありません。内容はあくまでも作成時点におけるものであり、今後予告なしに変 更されることがあります。 ※本資料は情報提供を唯一の目的としており、何らかの行動ないし判断をするものではあ りません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われたもので あり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に不確実性を伴 います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。

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