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小児耳 2015; 36(1):58 64 原 著 発達により ABR が正常化した Cornelia de Lange 症候群の一例 追川陽子 1), 大上麻由里 1,2), 塚原桃子 1), 関口美也子 1), 大上研二 1) 1) 東海大学耳鼻咽喉科 2) 寒川病院耳鼻咽喉科 Cornelia

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― 58 ― (58) 東海大学医学部付属病院耳鼻咽喉科(〒2591193 神奈川県伊勢原市下糟屋143) ― 58 ― (58) 小児耳 2015; 36(1): 5864

発達により ABR が正常化した

Cornelia de Lange 症候群の一例

追 川 陽 子

1)

,大上麻由里

1,2)

,塚 原 桃 子

1)

,関口美也子

1)

,大 上 研 二

1) 1) 東海大学耳鼻咽喉科 2) 寒川病院耳鼻咽喉科

Cornelia de Lange 症候群は,小児科医 Cornelia de Lange が初めて報告し,特異的顔貌や 四肢の小奇形,精神発達遅滞,成長障害などを呈する先天性の多発奇形症候群である。耳鼻 咽喉科領域としては難聴を合併することが知られているがその報告例はまだ少ない。今回我 々は生後 1 カ月で当科を受診し,後に本症候群の診断が確定した男児の経時的な聴力の評価 を行うことができたので報告する。本症例は月齢を重ねるごとに聴力の改善を認め ABR は 4 歳 1 カ月時に閾値,潜時ともに正常化していた。本症候群の難聴は伝音難聴ならびに感音 難聴をきたす複数の要因を伴うため,適切な聴力の評価と難聴の原因精査を行うことが診療 方針の決定や聴力の予後の推定に重要であると考えられた。

キーワードCornelia de Lange 症候群,ABR の正常化,難聴,小児

は じ め に 1933 年 に オ ラ ン ダ の 小 児 科 医 Cornelia de Lange1)が症例報告を行ったとして Cornelia de Lange 症候群と呼ばれてきたが,それ以前の 1916年に,Brachmann2)がすでに小児剖検例を 報告していたため,Brachmann de Lange 症候 群とも呼ばれている。 本症候群は先天性の多発奇形症候群で特徴的 な顔貌(小頭症,アーチ状の濃い眉毛,両側眉 癒合,長くカールした睫毛,上向きの鼻孔,薄 い上唇,口角下垂,小顎,耳介低位など)をも ち,そのほかにも四肢の小奇形,泌尿器奇形, 胃食道逆流,先天性心疾患を認めることがあ る。胎生期から出生後にかけての成長障害,精 神運動発達遅滞を伴うが,症例によって重症度 の幅は広い。男女差はなく発生頻度は 1 万~ 10万人に 1 人とされている3) 耳鼻咽喉科領域としては,難聴,外耳道狭 窄,滲出性中耳炎,口蓋裂,小顎症などを合併 することが知られているが47),本症候群の聴 力の評価に関する報告は本邦ではまだ少ない。 今回発達とともに聴性脳幹反応(Auditory brainstem response  ABR ) が 正 常 化 し た Cornelia de Lange 症候群の一例を経験したの で,若干の文献的考察を加え報告する。 症 例 呈 示 [症例]初診時 1 カ月男児 現 病 歴  在 胎 38 週 1 日 で 出 生 。 出 生 時 体 重 2444グラム。妊娠時の母体の異常なし。出生 時の合併症なし。新生児仮死なし。出生時新生

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― 59 ― (59) 図 4 カ月時の聴性脳幹反応(ABR)結果 ― 59 ― (59) 児聴覚スクリーニング未施行。母親が患児の音 に対する反応が鈍いとの気づきから,生後 1 カ 月時に当科外来を受診した。 家族歴特記すべきことなし。 身体所見両側外耳道は狭く,鼓膜の確認は困 難であった。 経 過  1 カ 月 時 に は 結 合 音 耳 音 響 放 射 (DPOAEdistortion product otoacoustic

emi-sions  Otodynamics 社 製 ILO 290-USB 使

用,音圧レベルは F1, F2 ともに70dBSPL)で は右 refer,左 pass であった。2 カ月時に再度 行った DPOAE では右 pass,左 refer であり, 自 動 聴 性 脳 幹 反 応 検 査 ( AABR  automated auditory brainstem responseBio-Logic Sys-tems 社 製 Navigator Pro 使 用, 音 圧 レ ベ ル は 35 dBnHL)では右 refer,左は泣いて結果を得 ることができなかった。 3 カ月時に ABR(NEC 社製 SYNAX2100使 用)を睡眠剤(トリクロホスナトリウム60 mg/ kg)の内服の上,睡眠下にてクリック音刺激 で施行したところ,閾値は右70 dBnHL,左80 dBnHL であったため,4 カ月時に小児難聴外 来を受診した。聴性行動反応検査(BOAbe-havioral observation audiometry ) で は 太 鼓 音 で反応を認めたが,再度行った ABR では閾値 は 右 70 dBnHL , 左 70 dBnHL で あ っ た ( 図 1)。両側中等度難聴が疑われたため,小児難聴 外来で引き続き経過をみる方針となった。 その一方で,同時期に受けた 4 カ月健診で低 身長,低体重,高口蓋,小陰嚢を認めたことか らまずは染色体異常が疑われたが,当院小児科 で検査の結果,明らかな染色体異常を認めなか った。 聴力評価のために 8 カ月時に行った ABR で は閾値は右70 dBnHL,左60 dBnHL,視覚強 化 式 聴 力 検 査 ( Visual Reinforcement

audio-metryVRA)8)では70~90 dB の聴力閾値で (図2A),両側中等度難聴が疑われ 8 カ月時よ り補聴器の試聴を開始した。補聴器をいやがら ずに装用し,母親による観察では物音に対する 反応に改善がみられるとのことであった。しか し 1 歳時の VRA では 8 カ月時と比較して閾値 の改善を認めたため(図 2B),ABR の閾値は 右 50 dBnHL , 左 60 dBnHL で あ っ た が ( 図 3),補聴器の装用をいったん中止した。その後 は補聴器を装用しなくても日常生活における音 へ の 反 応 も 良 く な り , VRA で は 500 Hz, 1 KHz, 2 KHz の 聴 力 閾 値 が 20 dB ~ 35 dB を 示 すようになった。4 歳 1 カ月時には ABR が正 常化したことを確認できた(図 4)。 また患児は小児専門病院でも定期的な診察を 受けていたが,5 歳すぎに Cornelia de Lange 症候群の診断が確定した。5 歳 7 カ月時の遊戯 聴力検査(play audiometry)では聴力閾値(4

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― 60 ― (60) 図 視覚強化式聴力検査(VRA)の結果 A8 カ月時 B1 歳時 図 1 歳時の聴性脳幹反応(ABR)結果 ― 60 ― (60) 小児耳 2015; 36(1) 追川陽子,他 4 名 分法)は右18.8 dB 左12.5 dB であった(図 5)。 考 察 Cornelia de Lange 症候群は特徴的な顔貌や 四肢の小奇形,精神発達遅滞,成長障害などを 認める先天性の奇形症候群である。本症候群で は こ れ ま で に 5 つ の 原 因 遺 伝 子 ( NIPBL, SMC1A, SMC3, RAD21, HDAC8)の変異が報 告されており,これらは細胞分裂や遺伝子の転 写調節において重要な働きをするコヒーシンと 呼ばれるタンパク質複合体やコヒーシンを制御

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― 61 ― (61) 図 4 歳 1 カ月時の聴性脳幹反応(ABR)結果 図 遊戯聴力検査(play audiometry)の結果 ― 61 ― (61) これらの遺伝子の変異が本症候群の病態である と考えられているが,近年では変異している遺 伝子の種類や本症候群の60に認める NIPBL 遺伝子の変異の種類によって表現型が異なると いう報告もなされている10,11)。本症例では遺伝 子検査は他院で行われたので本稿で詳細を述べ ることはできないが,母親によると表現型が軽 度であったことと,遺伝子検査を施行した時点 では本症候群の既知の原因遺伝子の変異は認め なかったことから 5 歳をすぎて臨床所見から Cornelia de Lange 症候群と確定診断されたと のことであった。 本症候群の耳鼻咽喉科領域に関する記述とし ては,SataloŠ RT ら12)が45例の検討を行い,

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― 62 ― (62) 表 聴性脳幹反応(ABR)における潜時と閾値の推移 月 齢 波潜時(ms) 波潜時(ms) 波間潜時(ms) 閾値(dBnHL) 3 カ月 右2.68 左2.52 右7.20 左7.32 右4.52 左4.8 右70 左80 (平均値 1.80±0.18) (平均値 6.63±0.32) (平均値 4.83±0.28) 4 カ月 右2.24 左2.48 右6.80 左7.00 右4.56 左4.52 右70 左70 (平均値 1.64±0.08) (平均値 6.51±0.24) (平均値 4.86±0.16) 8 カ月 右2.56 左2.16 右6.80 左6.76 右4.24 左4.60 右70 左60 (平均値 1.77±0.01) (平均値 6.29±0.16) (平均値 4.52±0.15) 1 歳 右1.80 左2.12 右6.20 左6.52 右4.40 左4.40 右50 左60 (平均値 1.70±0.12) (平均値 6.09±0.06) (平均値 4.38±0.11) 4 歳 1 カ月 右1.64 左1.64 右5.68 左5.84 右4.04 左4.20 右20 左15 (平均値 1.60±0.09) (平均値 5.76±0.34) (平均値 4.16±0.30) 注) ( )内は平均値と標準偏差を示す。 ― 62 ― (62) 小児耳 2015; 36(1) 追川陽子,他 4 名 59に口蓋裂や高口蓋,50に滲出性中耳炎, 30に外耳道狭窄を合併したとしている。本 邦での 7 例の検討でも同様の傾向で滲出性中耳 炎に対しては75にチューブ留置術を行って いる6)。難聴に関しては伝音難聴および感音難 聴を合併し,その頻度は SataloŠ ら12)は84, Marchisio ら13)は 80  , Kaga ら14)は 80  と 報 告しておりいずれも高い。生後39日で死亡し た本症候群の女児の側頭骨病理所見では中耳の 間葉組織,耳小骨奇形,顔面神経管の欠損,短 蝸牛,半規管の異常が報告されている15)。また Kaga14)らは本症候群の小児13例に ABR と行 動聴力検査を行い,特に重度の精神遅滞を伴う 場合は ABR が聴力評価を行う上で必要不可欠 な検査であると考察している。 本症例の 3 カ月時の ABR では波潜時の著 明な延長と閾値の上昇(右耳70 dBnHL,左耳 80 dBnHL)を認めたが(表 1)波間潜時 は平均値と比較するとどの月齢でもほぼ正常で あった。脳幹の聴覚伝導路の髄鞘化の完成には 出生後 1~2 年は必要であり,~波すべて の潜時が成人とほぼ同等になるのは 1~2 歳頃 とされる16)。本症例でも波間潜時は 3 カ 月時に比べて 4 歳 1 カ月時には短縮しており 脳幹の聴覚伝導路の完成を反映していると思わ れた。その一方で本症例では 3 カ月時の波潜 時は平均値と比べて著明な延長を認めるととも に 4 カ月,8 カ月,1 歳時にかけて徐々に短縮 し 4 歳 1 カ月時には潜時閾値ともに正常化し た。このことから閾値上昇の主な原因として 波潜時の延長をきたす要因すなわち伝音成分 (外耳,中耳)と感音成分(蝸牛あるいは蝸牛 神経)の両者が関与していると考えられた17) 本症例では初診時から著明な外耳道狭窄を認 めたが,徐々に改善し 1 歳 7 カ月時にはかな り改善した。外耳道狭窄と聴力との関係につい て小笠原らが聴力正常者10例を対象に 3 種類 の耳栓(穴なし,直径 1 mm の穴,直径 3 mm の 穴 ) を 用 い て 純 音 聴 力 検 査 を 施 行 し て い る18)。その報告によると ABR 波形に反映する 2 kHz ならびに 4 kHz の気導聴力は穴なしでそ れ ぞ れ 35 dB, 40 dB , 直 径 1 mm の 穴 で 26.5 dB, 30.5 dB,直径 3 mm の穴で18 dB, 21.5 dB であった。一概に比較することは困難である が,本症例の場合外耳道狭窄のみで ABR の閾 値の上昇を説明することは難しいと思われた。 ま た 中 耳 の 病 変 に 関 し て は Takahara & Sando19)は新生児の中耳腔内の間葉組織の発生 頻度は19で健常児は 1 歳までに吸収される が,先天性奇形や染色体異常を伴う症例では残 存する頻度が高く吸収されるのに 4~5 歳まで かかるとしている。本症例では著明な外耳道狭 窄を認め 4 カ月時には鼓膜の一部を確認するこ とができたがその後も外耳道狭窄のために鼓膜 所見を正確に把握することは困難であった。1 歳 4 カ月時の鼓膜所見では視診上は明らかな中 耳貯留液の存在を疑う所見はなかった。新生児 期の中耳腔内の間葉組織はアブミ骨や上鼓室に

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― 63 ― (63) ― 63 ― (63) 存在していることが多い20)とされ,このような 中耳間葉組織や貯留液が生後しばらく存在して いた可能性はあったと思われる。補聴器装用を 開始する前に積極的に CT などの画像検索を行 うべきであったことは反省点である。 また健常児では在胎20~23週で内耳が完成 し,蝸牛神経も出生時には髄鞘化が完成してい る20)といわれている。しかし本症候群では胎児 期からの成長障害が特徴であり,蝸牛神経の髄 鞘化の遅れがあった可能性も完全には否定でき ず,ABR の波潜時の延長の要因のひとつと してあげられると思われた。小児の場合 ABR が改善あるいは正常化した例は他にも散見され るが17,21),その要因は各症例でさまざまであり その機序については今後も検討することが必要 である。 今回は本症候群と診断される前に患児の診療 にたずさわることとなったが,本症候群の難聴 は伝音難聴ならびに感音難聴をきたす複数の要 因を伴うため,月齢にあわせて適切に聴力の評 価を行い,難聴の原因精査を行うことが診療方 針の決定や聴力の予後の推定に重要であると考 えられた。 ま と め 発達にともない ABR の正常化を認めた Cor-nelia de Lange 症候群の一例を報告した。 本症例では波潜時の延長をきたす複数の要 因(外耳道狭窄,中耳病変,蝸牛神経の髄鞘化 の遅延)の改善が ABR の正常化に関係すると 考えられた。 本症候群の難聴は伝音難聴ならびに感音難聴 をきたすさまざまな要因を伴うため,月齢にあ わせて適切に聴力の評価を行い,難聴の原因精 査を行うことが診療方針の決定や聴力の予後の 推定に重要であると考えられた。 文 献

1) C De Lange: Sur un type nouveau de degeneres-cence (Typus Amstelodamensis). Arch Med Enf 1933; 36: 713719.

2) Brachmann W: Ein Fall von symmetrischer

Monodaktylie durch Ulnadefekt, mit symmetrischer Flughautbidung in den ellenbeugen, sowie anderen Abnormitaten (Zweghaftogkeit, Halsrippen, Be-haarung). Jarb Kinder Phys Erzie 1916; 84: 225235. 3 ) 三 宅 芙 由 , 和 田 啓 仁  ク ロ マ チ ン 異 常 症 (CHARGE 症 候 群 , Cornelia de Lange 症 候 群 , Co‹n-Siris 症候群).小児内科 2013; 45(6): 1053 1055.

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― 64 ― (64) ― 64 ― (64) 小児耳 2015; 36(1) 追川陽子,他 4 名 ンドブック.第1 版.加我君孝 編,金原出版 1998: 9298.

21) Kaga M, Ohuchi M, Kaga K, et al.: Normalization of poor auditory brainstem response in infants and children. Brain Dev 1984; 6(5): 58466.

原稿受理 2015年 2 月19日

別刷請求先

〒2591193 神奈川県伊勢原市下糟屋143

東海大学医学部付属病院耳鼻咽喉科 追川陽子

Normalization of auditory brainstem response in infant with

Cornelia de Lange syndrome

Yoko Oikawa1), Mayuri Okami1,2), Momoko Tsukahara1),

Miyako Sekiguchi1), Kenji Okami1)

1) Department of Otolaryngology, Tokai University School of Medicine 2) Department of Otolaryngology, Samukawa Hospital

Cornelia de Lange syndrome is a congenital disease that was ˆrst described by the Dutch pediatrician Cornelia de Lange. This syndrome is a multiple malformation disorder characterized by speciˆc facial features, abnormalities of the limbs, mental retardation, and growth delay. It is also known to involve hearing impairment, but reports are scarce. We report the case of a 1-month-old infant suŠering from this syndrome who was suspected of having a moderate hearing loss. His hear-ing has improved durhear-ing the follow-up examination. When he was 4 years and 1 month old, his audi-tory brain stem response showed a normal threshold and latencies on both sides. Otolaryngological and audiological examinations are important in the treatment and prognoses of children with this syndrome who have sensorineural or conductive hearing loss.

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