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砂浜砕波帯における流れと地形変化

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砂浜砕波帯における流れと地形変化

*(独)港湾空港技術研究所 海洋・水工部 漂砂研究室

栗 山 善 昭

Currents and Morphological Changes in the Surf Zone

on a Sandy Beach

Yoshiaki KURIYAMA,

Littoral Drift Division, Port and Airport Research Institute

1 はじめに 波が沖から浅海域に進行し,その影響が底面 に届くようになると,波が変形し,底質が動き 始める.さらに水深の小さい領域に波が進行す ると,波はもはや波としての形状を維持するこ とができなくなり砕波する.この時,非常に大 きなエネルギーが放出され,その結果として流 れが起こり,底質が激しく動き,大きな地形変 化が生ずる.本稿では,このように激しい物理 現象が生じている波が砕けてから岸までの領域 (砕波帯)における流れと地形変化について述 べる. 2 流れ 2.1 海浜流 海浜流は,海岸近くにおいて主として砕波に よる波の変形の影響を受けて発達する流れであ り,浮遊した土砂を輸送するため,底質移動や 地形変化の主要な外力の一つとなっている. 海浜流は,主として岸に平行な沿岸流と沖向 きの離岸流から構成されており(図 1),平面 2 次元の海浜流は,水深方向に積分された連続式 (式(1))と運動量の釣り合い方程式(式(2))か ら求められる.(式(2)は x 方向の式のみを示し ており,y 方向の式は省略してある). * 〒239-0826 横須賀市長瀬 3-1-1 †E-mail: kuriyama@pari.go.jp 図 1 海浜流の模式図1) 0 = ∂ ∂ + ∂ ∂ + ∂ ∂ y M x M t D x y ρ





+ ∂ ∂ + ∂ ∂ − ∂ ∂ ∂ ∂ + ∂ ∂ ∂ ∂ + ∂ ∂ − = ∂ ∂ + ∂ ∂ + ∂ ∂ bx xy xx y x x y S x S y U D L y x U D L x x gD y UM x UM t M τ η ρ ここで,ρは海水の密度,D= h,h は水深, η は平均水位,t は時間,Mx = ρDU,My = ρDV, U,V はそれぞれ x 方向,y 方向の流速,

L

は水 (1) (2) 47 ながれ 24(2005)47−55. 〔特集〕ながれと地形

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平拡散係数,Sxx,Sxyは radiation stress,τbxは底面 摩擦応力である.また,添字の x,y はそれぞれ x 方向,y 方向の値であることを示す. 海 浜 流 の 駆 動 力 と し て 重 要 な 外 力 で あ る radiation stress(ラディエーション応力)は余剰 運動量流束とも呼ばれ,波による運動量輸送を 2次の項まで考慮して1周期積分することによ って求められる応力である2,3) 2.2 沿岸流 沿岸流は波が斜めから入射することによって 砕波帯内で生ずる岸と平行な流れである.図 2 は斜め入射の規則波によって生じた一様勾配斜 面上の沿岸流の岸沖分布を示したものである. 計算において水平拡散項を考慮しない場合には (細い実線),波浪エネルギー減衰の最も大き い砕波点において流速が最大となり,汀線に近 づくにつれて減衰する.一方,エネルギー減衰 の無い砕波帯外では沿岸流速は 0 である.水平 拡散項を考慮すると(太い実線),水平拡散項 を大きく見積もるにしたがって最大流速の発生 位置が汀線に近づく.実験結果を見ると,一様 勾配斜面上では沿岸流速の最大値は汀線から砕 波帯幅の 0.5∼0.7 倍沖側の位置で生じている. 図 2 一様勾配斜面上の沿岸流速の岸沖分布4).横軸が 砕波帯幅で無次元化した沖方向距離 X,縦軸が水 平拡散項を考慮しない時の砕波点での沿岸流速で 無次元化した沿岸流速 V であり,P は水平拡散項 の相対的な大きさを示す指標を表している.破線 は P を変化させた時の最大流速の発生位置を示 しており,丸印は実験値5)を示している. 図 3 構造物背後の流れ9) なお,規則波のもとでは沿岸流の岸沖分布に 及ぼす水平拡散項の影響は無視し得ないものの (図 2),不規則波のもとでは水平拡散項は無視 できるとの現地観測結果がある6-8) 2.3 構造物背後の流れ 構造物背後においては,波の屈折や回折,さ らには,平均水位の沿岸方向分布により汀線近 傍において構造物背後に回り込む循環流が生じ る(図 3). 3 地形変化 砕波帯での底質移動は,沿岸方向の移動(沿 岸漂砂)と岸沖方向の移動(岸沖方向漂砂)と に大別できる.沿岸漂砂は斜めからの入射波と 沿岸流によって生ずる底質移動で,海岸侵食問 題や港内埋没問題などを引き起こす長期的な地 形変化の原因となる.一方,岸沖方向漂砂は, 荒天時における断面変化などの短期的な地形変 化の原因となる. 3.1 沿岸漂砂による地形変化 沿岸漂砂に不均衡が生ずると地形変化が生ず る.例えば,汀線に直角な構造物(突堤や導流 堤,防波堤)が海浜に建設されると,沿岸流に よる底質移動が構造物によって遮断される.す る と , 構 造 物に 対 し て 底 質が 流 入 し て くる 側 (漂砂の上手側)では,流入土砂量よりも流出 沿岸方向距離 (m) 砂浜砕波帯における流れと地形変化 48

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図 4 突堤周辺の地形変化 図 5 離岸堤周辺の地形変化 土 砂 量 が 小 さく な る た め 土砂 の 堆 積 が 生ず る (図 4).一方,構造物の漂砂下手側では,土砂 の供給量が少なくなったにもかかわらず,下手 への底質移動量は構造物の建設前後で変化しな いため,流入土砂量よりも流出土砂量が大きく なり,侵食が生ずる. 汀線に平行な構造物(離岸堤や潜堤)が海浜 に建設されると,その背後で堆積が生じ,堆積 領域周辺では侵食が生じる(図 5).この地形変 化の原因は,構造物背後の循環流である.前述 したように構造物背後の汀線近傍では構造物背 後に回り込む循環流が生じる.浮遊した底質は, この流れに乗って構造物背後に運ばれてくるも のの,構造物背後では波が小さいため,底質は 浮遊していることができず,そこに落下する. その結果,構造物背後で堆積が生ずる.日本で は,この堆積地形をトンボロと呼んでいる(英 語では,水面上で構造物とつながっている場合 の堆積域を tombolo,つながっていない場合の堆 積域を salient と呼ぶ). 3.2 岸沖漂砂による地形変化 荒天時には,前浜(干潮時の汀線位置から満 潮時の波の遡上位置までの領域)の底質が沖に 図 6 荒天時と静穏時の断面変化 図 7 汀線位置の経時変化10) 図 8 荒天時における前浜の変形(バームの侵食)11) 運 ば れ 沿 岸 砂州 と 呼 ば れ る浅 瀬 が 形 成 され る (図 6).この砂州は inner bar と呼ばれ,その上 で波を砕波させることにより波浪エネルギーを 減衰させ,前浜のさらなる侵食を防いでいる. 荒天時に形成された inner bar の底質は,静穏時 に徐々に岸に戻り,前浜はやがて荒天時前の状 態に戻る. 荒天時の地形変化は短期間で激しいのに対し て,静穏時の地形変化は長期間でゆっくりであ る.茨城県波崎海岸では,荒天時には2∼3日 の間に汀線が 10m∼20m 程度後退するのに対し て,汀線が元の位置に回復するのに2∼3週間 程度要している10)(図 7).図 8 は荒天時におけ る前浜の侵食を示したもので,わずか2日間で D.L.+1.4m の汀線が約 20m 後退するとともに,鉛 直方向には約 80cm の侵食が生じている11) 荒天時における前浜の急激な侵食には,沖へ Berm Inner bar 荒天時 静穏時 岸 沖 汀線の位 置 (m ) 栗山善昭 49

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図 9 岸沖方向流れの鉛直分布12) 図 10 戻り流れの流速の経時変化13) 向かう中層の流れが影響している.砕波帯の流 れは図 1 のような水平方向の分布に加え,鉛直 方向の分布も持っている.図 9 は砕波帯内外の 流れの鉛直分布を示したものであり 12),中層で は沖向きの流れ(戻り流れ)が存在している. 戻り流れは砕波帯外においても存在しているも のの,その大きさは砕波帯内の方が 2∼4 倍程度 大きい.その原因は,砕波で生じたボア(波が 砕けた後,多くの気泡を伴って進行する水塊) によって質量フラックスが増大するためである 12).図 10 は,茨城県波崎海岸における台風時の 水深約 1.5m の地点での戻り流れの観測例である 13).戻り流れの流速は大きい時には 0.6m/s に達 している. 荒天時の波浪によって浮遊した底質は中層の 戻り流れによって沖へ輸送されるため,汀線近 傍では侵食が生ずる.一方,砕波点近傍では戻 り流れの流速が小さくなるため堆積が生ずる. 静穏時の底質の岸向き移動では,底質は戻り流 れの影響を受けずに底面に近いところを移動し ている. 4 最近の話題 4.1 離岸流 離岸流は幅の狭い沖向きの非常に速い流れで あり,遊泳者にとって危険な流れである.1960 年代から 1970 年代にかけて離岸流の理論的研究 や現地観測が行われた後,離岸流に関する研究 はやや下火になっていたものの,最近,海浜に おける安全性が注目され,さらに,ビデオ等に よる観測技術や流れの数値シミュレーション技 術が向上したことにより,離岸流研究が再び盛 んになってきている. 離岸流の流速は,その付け根で1m/s以上,波 が大きいときには2m/s以上になると言われてい る14).ただし,その幅はそれ程広くなく,フロ リダや茨城県阿字ヶ浦海岸で行われた観測結果 15,16)などによると,10∼30m程度である.離岸流 の発生間隔に関しては,発生間隔は砕波帯幅の 1.5∼8倍程度(平均3倍)であることが報告され ている16).ただし,離岸流は空間的に固定され ているものだけでなく,時間とともに移動して いるものもあり,また,2.1で示した海浜流の基 礎方程式からは推定できないものもあり17),離岸 流発生の予測は今のところ非常に難しい. 前述したように,強い離岸流になるとその速 さは秒速2mにも達すると言われ,オーストラリ アでは4mにも達するものがあると言われてい る.水泳男子100m自由形の世界記録はオランダ のファンデンホーデンバンドがシドニーオリン ピックで出した47.84秒,秒速2.1mなので,強い 離岸流は水泳男子100m自由型の世界記録と同じ 速さを持っていることになる.すなわち,強い 離岸流のなかでは世界記録保持者といえどもそ れに逆らって前へ進むことはできない. では,離岸流に捕まってしまったらもはや逃 げることはできないのか?離岸流の幅は10mから せいぜい30mくらいなので,岸に向かって泳が ず,パニックにならずに冷静に横へ泳げば離岸 流から脱出できる可能性がある.ただし,この 方法はあくまでも不幸にして離岸流に捕まって しまった場合の緊急脱出方法なので,常に成功 するとは限らない.したがって,とにかく,離 岸流に捕まらないことが重要である.前述した ように,離岸流の発生場所はなかなか予測がで きないので,離岸流に捕まらないためには,監 沖 沖 砕波点 砂浜砕波帯における流れと地形変化 50

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視員のいない遊泳禁止区域あるいは遊泳禁止の 時間帯には泳がないことが一番である. 4.2 沿岸砂州周辺の沿岸流 2.2 で示したように,従来の運動量の釣り合い 式(式(2))を基にすると,沿岸流は砕波による エネルギー減衰の大きい地点で流速が大きくな る.浅海域に浅瀬(沿岸砂州)がある場合,波 は沿岸砂州の頂部よりも沖側で砕波するため, 従来の知見を基にすると,沿岸流は沿岸砂州頂 部よりも沖側で速くなるはずである.しかしな がら,最近の現地観測によって,必ずしもその ようになっていないことが明らかになってきた 18,19).以下に,その現地観測の方法と結果を述べ る. 茨城県波崎海岸に位置する波崎海洋研究施設 (Hazaki Oceanographycal Research Station, HORS, 図 11)では長さ約 400m の観測桟橋に沿って,休 日を除く1日1回,約 30m 間隔で浮き(フロー ト)によって沿岸流速を観測している.フロー トに対する波や風の影響を小さくするために, 観測用の直径約 20cm のフロートの比重を海水よ りもやや大きくし,それを 1m のロープで目印ブ イに取り付けたものを用いて海面より約 1m 下方 の沿岸流速を測定する(図 12).観測では,桟 橋直下へフロート投入し,目印ブイに取り付け た長さ 30m のロープが張るまでの時間を測定す るとともに,流れの角度を分度器で測定する. 1地点において3回計測を行い,その平均値を 観測値とする.観測桟橋に沿った全地点での計 測に要する時間は約1時間である.沿岸流のほ かには,砕波位置,砕波波高,周期,波向を沿 岸流観測とほぼ同時刻に,目視により観測して いる.さらに,観測桟橋先端では風向・風速を 観測している. フロートによる本観測方法は簡単な方法であ るけれども,本方法によって沿岸流速を精度良 く測定できることは栗山ら8)が電磁流速計による 観測結果と本方法による観測結果とを比較する ことにより確認している.式(3)はフロートによ る沿岸流速の観測値 UFLOATを真の沿岸流速値 に変換する式であり 8),以下の解析では,式(3) によって変換された流速値を用いる. FLOAT U U=0.81 (3) 1987 年から 1990 年までの 4 年間に,HORS に おいて沿岸砂州が存在し,その上で砕波が生じ ていた時の沿岸流速分布の特性を検討した.図 13 は,沿岸砂州の頂部の位置 ybarと沿岸砂州周 辺で最大沿岸流速の発生した位置 ypeakとを比較 したもので,図 14 は,沿岸砂州の頂部から最大 流速発生位置までの距離を示したものである. 従来の知見に反し,検討例の 85%において沿岸 流速の最大値は沿岸砂州頂部よりも岸側で生じ ていた. このような流速分布が生ずる原因としては, 平均水位の沿岸方向勾配と砕波による付加的運 動量輸送が考えられる.Renier ら 20)は,室内実 験結果を基に,砕波による付加的運動量輸送量 は小さく,これだけでは沿岸砂州頂部よりも岸 側での最大流速を再現することができないため, 平均水位の沿岸方向勾配が沿岸砂州頂部よりも 図 11 波崎海洋研究施設の位置 図 12 沿岸流観測用フロート U 栗山善昭 51

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図 13 ybarと ypeakの分布

図 14 沿岸砂州の頂部から最大流速発生位置までの距 離(ypeak-ybar)の分布.最大流速発生位置の方が沿

岸砂州頂部の位置よりも沖にあるときに正の値. 岸側での最大流速の主原因であると考えた.一 方,栗山・中官 21)は,現地では砕波による付加 的運動量輸送量が実験室に比べて相対的に大き いことを戻り流れの実測値を基に示し,現地ス ケールでの砕波による付加的運動量輸送量を考 慮すると沿岸砂州頂部よりも岸側での最大流速 を再現できることを示した(図 15).現地にお いて平均水位の沿岸方向勾配(0.0005 程度でも 沿岸流速に影響する)を測定することは非常に 難しいため,この問題の決着は今のところつい ていない. 4.3 吹送流 吹送流は風が海面に及ぼす応力によって生ず る流れである.砕波帯内の地形変化は砕波帯外 図 15 上段:沿岸流速の実測値(黒三角印)と計算値.太 い実線および細い実線は,それぞれ,砕波による 付加的運動量輸送を考慮した場合としない場合の 計算値を表しており,細い破線はを表している. 中段:有義波高の実測値(白丸印)と計算値(細い 実線)および戻り流れ流速(太い実線)の計算値. 下段:水深. のそれに比べると大きく,砕波帯内の流れに対 しては砕波変形の影響が強いために,浅海域の 底質移動に関する従来の研究では吹送流はそれ ほど注目されてこなかった.しかしながら,砕 波帯外においても風による強い流れ(底面にお いて 50cm/s 以上)が生じており22-24),これが無 視できない地形変化を起こしている可能性のあ ることが示されることにより,浅海域の底質移 動に及ぼす吹送流の重要性が認識されてきてい る. 風による応力は,式(2)に Cd ρaW2sinαw(Cdは 無次元係数,ρaは空気の密度,W は風速,αwは 風向)を加えることによって評価することがで きる.ただし,無次元係数 Cdに与え方について は,0.001∼0.01 のばらつきがある. 4.4 卓越沿岸流の岸沖分布 沿岸流の卓越方向は,長期の地形変化を引き 起こす沿岸漂砂の卓越方向を決定する.汀線近 傍の卓越沿岸流の方向,すなわち,卓越沿岸漂 砂浜砕波帯における流れと地形変化 52

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図 16 沿岸流速の累積値の岸沖分布 (北向きの流れが正) 図 17 各ケースの沿岸流速の累積値の岸沖分布 図 18 各ケースの寄与率の岸沖分布 砂の方向は,従来より,航空写真を用いた汀線 位置の比較などにより検討されてきたけれども, 卓越沿岸流の岸沖分布は不明であった.栗山・ 伊東 25)は,4.2 で示した方法によって 1987 年か ら 2001 年までの 15 年間に HORS で取得された 沿岸流速データを解析することにより,卓越沿 岸流の岸沖分布を検討した. 図 16 は,沿岸流速の累積値の岸沖分布,すな わち,観測開始日に桟橋直下にあった水塊の沿 岸流による移動距離の岸沖分布を示したもので ある.沿岸流の卓越方向は岸沖方向で異なって おり,沖方向距離(汀線からの距離にほぼ等し い)が 115m の地点(以下,P115m 地点と記す) では北に向かう沿岸流が卓越しているのに対し て,P200m 地点より沖側では南に向かう沿岸流 が卓越している. 続いて,沿岸流速の岸沖分布を第1次砕波位 置を基に3つのケース(ケース1:P200m 地点 よ り も岸 側 で砕 波 ;ケ ー ス2 : P200m 地点∼ P300m 地点で砕波;ケース3:P300m 地点より も沖側で砕波)に分類し,それぞれのケースの 沿岸流速の累積値の岸沖分布を求めるとともに (図 17),全ケース合計の沿岸流速の累積値に 対するそれぞれのケースの沿岸流の寄与率 Rn以下の式を基に調べた(図 18). ) /( s1 s2 s3 sn n U U U U R = + + (4) ここで,Rnはケース n の寄与率,Usnはケース n の観測期間最終日における沿岸流速の累積値で ある.さらに,沿岸流の外力となっている波浪 に関して第1次砕波位置での砕波波向の頻度分 布(図 19)も調べた. P115m 地点において北向きに卓越している沿 岸流は,北向きに卓越しているケース1の沿岸 流と同じく北向きであるケース2の沿岸流との 和が南向きであるケース3の沿岸流を上回るこ とによって生じている(図 18).北向き流れの ケース1の寄与率は沖へ向かうほど減少し,逆 に南向き流れのケース3の寄与率は岸より沖の 方が大きい(図 18).さらに,ケース2の沿岸 流の方向が P240m 地点より沖では南向きに変わ る(図 17).そのため,沖へ向かうほど南向き の沿岸流の影響が強まり,P200m より沖では南 向きの沿岸流が卓越した. 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 -10000 -5000 0 5000 10000 ↓ S P115m P190m P285m Along shor e D is tan ce(km ) Time(year) P380m N ↑ 0 5000 10000 -5000 0 5000 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 -10000 -5000 0 P115m P190m P285m P380m Time (year) Alo ngshor e D istanc e (km ) Case 1 N ↑ ↓ S Case 2 Case 3 100 200 300 400 Seaward Distance (m) 0 20 40 60 80 100 C ont ri b ut ion R at e ( % ) Case 3 Case 2 Case 1 栗山善昭 53

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図 19 各ケースの砕波波向(第1次砕波位置)の頻度 分布(南からの入射が正) 図 19 に示されている波向の特性から,HORS 周辺での卓越沿岸流に対する影響の大きいケー ス1とケース3の沿岸流の特徴をまとめると, P200m 地点より岸側で砕波する場合には南から 入 射 す る 波 が多 く , よ っ て, 砕 波 帯 内 であ る P200m 地点よりも岸側で北向きの沿岸流が卓越 した.一方,P300m 地点よりも沖で砕波する場 合には北から入射する波の割合が多く,さらに 観測桟橋全体がほぼ砕波帯内に位置するため, 岸沖方向にほぼ一様な南向きの沿岸流が卓越し た.その結果,P200m 地点よりも岸側で砕波す る場合と P300m 地点よりも沖側で砕波する場合 の沿岸流の岸沖分布を加えると,岸側では北向 きの,沖側では南向きの沿岸流が卓越した. この検討で明らかとなった岸側領域における 沿岸流の卓越方向(北向き)は,過去の研究 26) によって明らかとなっている汀線変化より推定 される沿岸漂砂の向きと一致しており,岸側に おける卓越沿岸流の方向は過去の研究結果と矛 盾しない.一方,長期的な地形変化を引き起こ す沿岸漂砂の卓越方向が岸と沖とで異なる可能 性のあることは田中らの研究 27,28)によって示唆 されていた.この検討結果は,波向によって波 浪特性が異なる場合には,沿岸漂砂の卓越方向 が岸と沖で異なりうることを示したものである. 5 おわりに 戦後進展した砕波帯内の物理現象に関する研 究によって,多くのことが解明されてきた.し かしながら,例えば,離岸流の予測精度は未だ 不十分であり,また,荒天時から静穏時までの 一連の前浜変形を再現する断面変化数値シミュ レーションモデルも構築されていない.残され ている課題はまだまだ多い. 引 用 文 献 1) 合田良実:二訂版 海岸・港湾(彰国社, 1998)140. 2) 堀川清司:海岸工学 −海洋工学への序説 (東京大学出版会,1973)161-163. 3) 首藤伸夫:新体系土木工学 24 海の波の水 理(技報堂,1981)50-53.

4) Longuet-Higgins, M. S.: Longshore current generated by obliquely incident sea waves, 2, J. Geophys. Res., 75-33 (1970) 6790-6801.

5) Galvin, C. J. and Eagleson, P. E.: Experimental study of longshore currents on a planar beach, Tech. Mem. U.S. Army Coast. Eng. Res. Cent., 10 (1965) 1-80.

6) Thornton, E. B. and Guza, R. T.: Surf zone longshore currents and random waves: field data and models, J. Physical Oceanography, 16 (1986) 1165-1178. 7) 合田良実,渡辺則行:沿岸流速公式への不規 則波モデルの導入について,海岸工学論文集, 37 (1990) 210-214. 8) 栗山善昭,加藤一正,尾崎 靖:沿岸流速分 布の類型化と支配要因の検討,海岸工学論文 集,39 (1992) 196-200. 9) 西村仁嗣・丸山康樹・平口博丸:海浜流の数 値計算法について,海岸工学講演会論文集, 31 (1984) 123-127. 10) 加藤一正・柳嶋慎一・村上裕幸・末次広児: 汀線位置の短期変動特性とそのモデル化の試 み,港湾技術研究所報告,26-2 (1987) 63-96. 11) 加藤一正・柳嶋慎一・栗山善昭・磯上知良: 荒天時のバーム地形の侵食 −長周期波に注 目 し た 現 地 観 測 − , 海 岸 工 学 論 文 集 , 36 0 200 400 600 Case 3 Case 2 Case 1 0 200 400 600 -30 -20 -10 0 10 20 30 0 200 400 600 Frequ enc y

Breaking Wave Direction (degree)

砂浜砕波帯における流れと地形変化

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(1989) 354-358.

12) 灘岡和夫・近藤隆道・田中則男:レーザー・ ドップラー流速計による砕波帯内の流速場の 構造の解明,港湾空港技術研究所報告,21-2 (1982) 53-106

13) Kuriyama, Y.: Investigation on cross-shore sediment transport rates and flow parameters in the surf zone using field data, Rep. Port and Harbour Research Institute, Vol.31, No.2, pp.3-58, 1991.

14) 堀川清司:海岸工学 −海洋工学への序説 (東京大学出版会,1973)179-183.

15) Sonu,C.J.: Field observation of nearshore circulation and meandering currents, J. Geophys. Res., 77-18 (1972) 3232-3247. 16) 堀川清司・佐々木民雄・堀田新太郎・桜本 弘:海浜流に関する研究(第2報)−海浜流 の現地観測−,海岸工学講演会講演集,21 (1974) 347-354. 17) 出口一郎,荒木進歩,竹田怜史,吉井 匠, 大利桂子,竹原幸生:浦富海岸で観測された 地形性離岸流の特性とその予測について,海 岸工学論文集,51 (2004) 136-140. 18) 栗山善昭・尾崎 靖:沿岸砂州周辺の沿岸流 速分布,海岸工学論文集,40 (1993) 266-270. 19) Kuriyama, Y.: Hydro- and morpho-dynamics on a

barred beach, Technical Note of the Port and Airport Research Institute, 1028 (2002) 60.

20) Reniers, A.J.H.M., Thornton, E.B. and Lippmann, T.C.: Longshore currents over barred beach, Proc. Coastal Dynamics ’95, (1995) 413-424. 21) 栗山善昭,中官利之:沿岸砂州周辺の戻り流 れ・沿岸流推定モデル,土木学会論文集, 635 (1999) 97-111. 22) 佐藤愼司:強風と高波により発達する沿岸域 の大規模流れに関する研究,海岸工学論文集, 43 (1996) 356-360. 23) 安田孝志,加藤 茂,岩田 宏,佐藤愼司: 砕波帯沖合流れの特性とその成因について, 海岸工学論文集,43 (1996) 366-370. 24) 加藤 茂,山下隆男:上越・大潟海岸で観測 された広域海浜流の再現数値シミュレーショ ン,海岸工学論文集,50 (2003) 391-395. 25) 栗山善昭・伊東啓勝:波崎海洋研究施設で観 測された沿岸流の卓越方向の岸沖分布,海岸 工学論文集,51 (2004) 146-150. 26) 田中則男,小笹博昭,小笠原 昭:海浜変形 調査資料(第1報)−航空写真による汀線変 化の解析(東日本編)−,港湾技研資料, 163 (1973) 95. 27) 田中茂信,佐藤愼司,坂上 悟,二木 渉, 泉 正寿:新潟西海岸における土砂移動の現 地 観測,海岸工学論文集,43 (1996) 546-550. 28) 田中茂信,佐藤愼司,川岸眞一,石川俊之, 山本吉道,浅野 剛:石川海岸における漂砂 機構,海岸工学論文集,44 (1997) 661-665. 栗山善昭 55

図 4 突堤周辺の地形変化  図 5 離岸堤周辺の地形変化  土 砂 量 が 小 さく な る た め 土砂 の 堆 積 が 生ず る (図 4).一方,構造物の漂砂下手側では,土砂 の供給量が少なくなったにもかかわらず,下手 への底質移動量は構造物の建設前後で変化しな いため,流入土砂量よりも流出土砂量が大きく なり,侵食が生ずる.   汀線に平行な構造物(離岸堤や潜堤)が海浜 に建設されると,その背後で堆積が生じ,堆積 領域周辺では侵食が生じる(図 5).この地形変 化の原因は,構造物背後の循環流である
図 9 岸沖方向流れの鉛直分布 12) 図 10 戻り流れの流速の経時変化 13) 向かう中層の流れが影響している.砕波帯の流 れは図 1 のような水平方向の分布に加え,鉛直 方向の分布も持っている.図 9 は砕波帯内外の 流れの鉛直分布を示したものであり 12 ) ,中層で は沖向きの流れ(戻り流れ)が存在している.  戻り流れは砕波帯外においても存在しているも のの,その大きさは砕波帯内の方が 2∼4 倍程度 大きい.その原因は,砕波で生じたボア(波が 砕けた後,多くの気泡を伴って進行する水塊) によっ
図 14 沿岸砂州の頂部から最大流速発生位置までの距 離(y peak -y bar )の分布.最大流速発生位置の方が沿 岸砂州頂部の位置よりも沖にあるときに正の値.  岸側での最大流速の主原因であると考えた.一 方,栗山・中官 21) は,現地では砕波による付加 的運動量輸送量が実験室に比べて相対的に大き いことを戻り流れの実測値を基に示し,現地ス ケールでの砕波による付加的運動量輸送量を考 慮すると沿岸砂州頂部よりも岸側での最大流速 を再現できることを示した(図 15).現地にお いて平均水位の沿岸方向
図 16 沿岸流速の累積値の岸沖分布  (北向きの流れが正) 図 17 各ケースの沿岸流速の累積値の岸沖分布  図 18 各ケースの寄与率の岸沖分布  砂の方向は,従来より,航空写真を用いた汀線 位置の比較などにより検討されてきたけれども,卓越沿岸流の岸沖分布は不明であった.栗山・伊東25)は,4.2 で示した方法によって 1987 年から 2001 年までの 15 年間に HORS で取得された沿岸流速データを解析することにより,卓越沿岸流の岸沖分布を検討した.   図 16 は,沿岸流速の累積値の岸沖分
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参照

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1.4.2 流れの条件を変えるもの

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