DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.37.4 41 全員分の苗字・苗字・苗字: ランニングタイトル●●●●●●●●●●●●●●●
宮崎 真・阿部匡樹・山田祐樹 ほか編著
日常と非日常からみるこころと脳の科学
コロナ社,2017
「こころ」って何ですか?そんな問いかけをされたら, いったいどのように答えたらよいだろうか。心理学の古 典的な知見や,有名な理論を教科書的に説明しても,そ れが「こころ」とどうつながるのかはすぐには理解でき ないだろう。かといって脳の働きから詳しく説明したと しても,質問者の期待する答えとはほど遠いにちがいな い。実際,本書のまえがきにも書かれているように,自 分自身の実感なしに「こころ」を理解することは難しい。 自身のリアルな経験,体験と照らし合わせて事象を捉 え,それを客観的に見つめ直すことで初めて,「こころ」 の持つ不思議な特性に気づくことができるのかもしれな い。 本書は,まさしくそういった身の回りのエピソードを 切り口として,「こころ」と「脳」の基本的な理解を目 指した意欲的な著作である。心理学や神経科学における 定番の知見や最新の知見を,誰しもが身に覚えのあるよ うな日常的な体験や,特殊な状況下で生じる非日常的な 体験に結びつけて紹介することで,より身近なレベルで 理解することを可能としている。取り上げられるテーマ は,知覚,認知,運動,学習,性格,脳など多岐にわた り,トピックごとに6ページ程度でコンパクトにまとめ られているため,読む者を飽きさせない。学生や初学者 向けの入門書的な内容でありながら,専門的な解説も多 く盛り込まれており,大学院生以上の研究者にも自信を 持っておすすめできる一冊となっている。 詳しい内容を見ていこう。本書は,独立した 27のト ピックから構成されている。各トピックでは,「事故の 瞬間に周りがスローモーションに感じる」,「天井のしみ が人の顔に見える」,「他人から触られるとくすぐったい のに,自分で触るとくすぐったくない」,「限定品に魅了 される」といった,さまざまな体験にまつわる事象が題 材として取り上げられ,その背後にある心理学的・神経 科学的メカニズムが,豊富な研究知見とともにわかりや すく解説されている。特に重要な知見については,実験 の詳細な内容が図やイラストを交えて丁寧に説明されて おり,直感的に理解しやすい形になっている。また本書 の終盤では,脳構造画像解析や脳情報デコーディングと いった最先端の技術を用いた研究の成果と,最近注目の 統合情報理論や人工知能についての詳しい解説がトピッ クとして取り上げられ,最新の動向を広く知ることがで きる。それまでのトピックにくらべると少し難しめの内 容となっているが,我々の主観的な体験を支える脳の仕 組みを知るうえで大切な要素であり,欠かせない話題と 言えるだろう。さらに末尾には,24ページにもわたる 用語集が収録され,この分野になじみのない読者にも理 解がしやすいような工夫が施されている。引用文献や参 考資料に加え,主な脳部位の位置と構造を図解したキー ワード脳部位マップも掲載されており,まさに痒いとこ ろにまで手が届く構成となっている。 個人的に興味をひかれたのは,トピック 13の「しっ ぺ返しの応酬はエスカレートする」である。ここでは, 倍返しのような過剰な報復が生じる仕組みについて,神 経科学的な観点から検証した一連の研究が紹介されてい る。内容をかいつまんで説明すると,脳は自身の運動行 為によって生じる感覚信号を常に予測し,その予測に沿 う感覚信号を選択的に弱めている(この「感覚減弱」に ついては別のトピックで詳しく解説されている)。これ が自身の運動出力を過小評価することにつながり,相手 と同じ力で返しているつもりでも,実際にはより強い力 The Japanese Journal of Psychonomic Science2018, Vol. 37, No. 1, 41–42
書 評
42 基礎心理学研究 第37巻 第1号 で「しっぺ返し」してしまうため,反撃を繰り返すたび に力がどんどんエスカレートしていくというのだ。実際 にこの仮説は,巧みな実験操作によって明確に裏づけら れている。具体的な実験内容の説明はここでは省くとし て,本書ではこのように,身近な事象が科学的に次々と 解き明かされていく過程を味わうことができる。こうし た過程を楽しめることこそが,本書の大きな魅力のひと つではないかと思う。 本書では,総勢21名の執筆者が分担して各トピック の解説にあたっている。注目すべきは,その執筆者の多 くが研究の第一線で活躍中の若い研究者であることだ。 実際に,本書で取り上げられるトピックの多くで,執筆 者自身の研究成果が中心的な役割を担っている。専門的 で高度な内容が含まれているにもかかわらず,面白くわ かりやすい解説が成立している背景には,執筆者らの研 究への深い理解と強い熱意があることが伺い知れる。そ れぞれの個性が発揮されつつ,全体としてまとまりのあ る内容に仕上げられていることもまた,見事のひと言に 尽きる。この点については,おそらく編者らの大変な努 力のたまものでもあろう。 本書のトピックは,先に述べたとおりそれぞれ独立し た内容となっている。しかし,読み進めていくと,他の トピックと同様の知見が出てきたり,実は共通するメカ ニズムが背後に隠れていたりと,ゆるやかなつながりが あることがわかってくる。一見すると無関係で,ばらば らな点のように思えた個別の事象が,次第に結びつき 合って複雑な模様を織りなしていく様は,我々の体験が 「こころ」というひとつの大きなシステムの中で作り出 されることを,改めて思い起こさせてくれる。そういっ た基本に立ち戻れるという意味でも,本書は一読の価値 があるだろう。 (九州大学大学院人間環境学研究院 山本健太郎)