報
告
卒 後 教 育
に
お
け る
呼 吸 介助 手 技
の
教 授
に
つい て
*斉藤 昭彦
D伊橋 光
二D伊藤
直
栄
1)明尾
恵
’)八
幡 純
治
2>,
要旨 肺理学療法の現 職者講 習 会にお け る受講者の呼 吸 介 助 手 技を質的に評 価し同手技の教授にっ いて検 討 した。 その結 果,
講 習 会 終 了時におい て は 全受 講者と も高 得点を獲得して お り,
お お む ね満足すべ き教 授 結果を得る こ と がで き た。 評 価項目 を詳 細に検討す る と 「介助部 位」,
「介 助方向」r
「タ イミソグ 」 とい っ た呼 吸 介 助 手 技に特 有 な要素の指導はもと よ り,
すべ て の徒手的手技に共通する 「タッチ」の指導が重要であっ た。 徒 手的妓術の基本は,
「痛み・
不 快 感 」を与え ない用 手 接 触であ り, そのため には指導者が受講者の 手 技を体験し な が ら教 授する こと が不可欠である。 キー
ワー
ド 卒 後 教 育,
呼 吸 介 助 手 技,
徒 手 的 技 術 は じめに 我々 は日本理 学 療 法 士 協会の現職 者 講 習 会におい て,
「肺理学 療 法の実 際 」をテー
マ とし て肺理学 療 法の卒 後 教 育を行っ て いる。 本 講 習 会で は,
講 習 会 終 了 後 直ちに 臨床で活用で きる水準まで徹底 して技術教育する こと を 目的として 12名の少 人 数の受 講 者に対 して3
名の講 師 が 指導に当たっ ている。
講 習期 間は6
日間であり,
全 講 習期間の3
分の 2以上の時間 を実 技 指 導に当て,
講 師 自 らがモデル と なっ て受講者の手技を体験 しっ つ 技 術の善 し悪 し を受 講者にその 都度フ ィー
ドバ ッ ク しな が ら指 導 して いる。 講習会で は肺理学 療法の基本手技であ る呼吸 介助 手技 を 主 体に して指 導 して い る。 呼 吸 介 助 手 技は主と して換* Instructien of the manual breathing assist technique in
しhe continuing education
D
信 州 大 学 医 療技術短期大学部Akihiko Saito
,
RPT,
Keuji Ihashi,
RPT,
Naoei Ito,
RPT,
Megumi AkeQ
,
RPT :Dept,
of Physical Therapy,
School of Atlied Medical Sciences
,
Shinshu University 2) 国立 療 養 所 城 山病 院Junji Yahata
,
RPT :Matsumoto Jyouyama Hospita1,
Natjonal Sanatorium (受 付日1990年1月4日/受理日 199 年6月19日) 気 量 改 善を目的と し
,
両 手を胸郭に トー
タル コ ンタ ク ト さ せ,
他動 的に患者の 努力無 しに呼吸 を介助 する手 技で あり,
重度の慢性 閉塞性肺疾 患や胸腹部 外科手術 直後の 肺理学療 法に も広く用い るこ と が できるT−
% こ の手 技 の修得は難し く学生 教育はも とよ り理学 療法 士の現 職 者 教育において も教授 法の難し さ を痛 感して い る。 本論では肺理学療法の基本手技である呼吸 介 助手技に 注 目し,
講 習会前後に お け る受講者の技 術を質的に評 価 し,
受 講 者の呼 吸 介 助 手 技の習熟度を 基 に卒後 教 育にお ける呼 吸 介 助 手技の教 授にっ い て検討することを目的と する。 方 法 昭和63
年 度に行わ れ た第 76回日本理学 療 法 士 協 会 主 催の現職 者講 習会を対象と した。 受講者 12名の内 訳は 男性10
名,
女 性2名であり,
臨床 経 験は平 均6 ±3
年 であっ た。 講師3
名が そ れ ぞ れの受 講 者の呼 吸 介 助 手 技 を ブライン ドで講習会開始 時お よ び終 了 時で質 的に評 価 し た。 評価 内容は,
1)呼吸介 助 部 位の適 否一
呼 吸 介助 する 際,
介助部位は適 当かどうか,
2) 呼 吸介助の方 向牲一
492 理学 療 法 学 第 17巻 第 5号 得 点 10 9 8 7 6 5 4 3 2 ユ 0
膾
■
圏
.
隠
.
耳
醒
驪
評 瀦 A}
翼
§
評 価9−
B鬮
言緬 者c
123456789101112 受 講 者 図1 開 始 時 評 価 得 監・
19
8 7 6 5 4 3 2 1 0驪
言価 者A
罷三
9
評価 者B驪鰯
評儲 c 123456789101112 受 講 者 図2 終 了 時 評 価 呼 吸 介 助 する方 向は胸 郭の運 動 学 的・
生理学 的な動 きに 追従 して い る か ど う か, 3
) 呼 吸 介 助の タ イ ミングー
受 講 者の呼 吸 介 助が被 呼 吸 介 助 者の呼 吸 相に一
致して い る か ど う か,
4) 痛み・
不 快 感の有 無一
呼吸介 助さ れる際,
痛み,
不快感 を 感ず る か ど うか,
5)タッ チの柔ら か さ一
胸 郭に触れ られ たi
時に堅さ な どの違 和 感を感じないか ど う か,
の 5項 目と した。 各 評 価 項 目と も良 (臨 床で十 分 活 用 可 能 :2点 ),
uJ (臨 床で活 用 可能であ る が,
改 善が期 待さ れ る :1点),
不 可 (臨床で活 用で き ない : 0 点)の3
段階と し,
評価者 1 名にっ き上記 5 項目の合30 28 26 24 22 20 得 18 16
14
点 12 10 8 6 42
0 123456789101112 受 講 者驪
鬮
躪
嬲
部 位 痛みな ど タイミング 方 向 性 タッ チ 図 3 開 始時評 価 30 28 26 24 22 得20
18 16 14 点 12 10 8 6 4 2 0睡観
ms
位擡三
コ
痛み な ど驪嬲
タ イ ミング競
方 離1
嬲
タ・チ 123456789101 ↓ 12 受 講 者 図4
終 了 時 評 価 計 10 点で評価し た。 開始時評 価は講習会第一
日 の午 後 1時 問 半の呼 吸 介 助 手技指導 後と し,
終 了 時 評 価は第 5日目の午 後 と した。
受講者の評 価 順 序の 決定 および評 価結 果につ い て は第; 者に よっ て厳 格に管理 さ れ た。
結 果 図 1およ び図2は開 始 時 および終 了 時 評 価に お い て評 価 者 A,
B,
C の 3名が,
12名の受 講 者に対してそれぞ れ10
点 満 点中何点をっ け た か を示 して い る。 横 軸が各494 理学 療 法学 第 17巻 第5号 表
1
評 価 項 目別 得 点 率 (% ) 評 価 項 目 開始時評 価 終了 時評 価 用 手 接 触の 柔 らか さ 用 手 接 触 部位の 適 否 呼吸介 助 の 方 向性 呼 吸 介 助の タ イ ミング 痛み。
不 快 感の 有 無39
±2447 ±1833
±2865
±2043 ±31 93±1393 ±1193
±1197 ± 682 ±8
と他の項 目と比 較 すると得 点 率が低い。5
項 目を総 合 す る と開始時の得点 率は44
±18
% で あ り,
終了時評価で は92
± 3% であ る。 ま た,
開 始 時 評価で は得点 率のば らっ き が多 く終 了 時 評 価で は減 少 してい る。
考 察 TOTAL 44±18 92±3
タッチ 介 助 部 位 方 向 性一
開始時一一
一
終了時 痛み不快 感 100 100 タ イ ミ ング 図5
評価項 目別得 点 率 受講者で あ り縦軸が得点を示して いる。 開 始 時 評 価にお いて は各 評価者間で比較的 ばらつ きが見られ る が終了 時 評 価で はば らつ きが な くな って いる。12
名の受講者の講 習会開始 時の総合 得 点 を図3
に示 す。3
名の評 価者の合計30
点が満点である。 最 小 得 点 は受 講 者 番号 11の 6点,
得 点 率20% であ り,
最高 得点 は受 講 者 番 号5の 22点,
得 点 率 73%であっ た.
一
方,
講 習 会終了 時の総合得 点を図4に示 す。
全 受 講 者と も高得点を獲得して おり,
最 低が受 講 者 番 号12の26
点 得 点 率87
% であり,
最 高が受 講 者 番号 6お よ び9
の 29点,
得点率97
% で あっ た。 次に,
各 評 価 項 目別の得点 率 を 表 1に示 す。 開 始 時 評 価におい て は,
用手 接 触の柔 らか さ が39
±24
%,
呼 吸 介 助の方 向性が33± 28% と得点 率が低 く,一
方,
呼吸 介 助の タイ ミング で は,
65± 20% と5
項目の うちで は 比 較 的得 点 率が高 くなっ て い る。
終 了時評価で は,
用手 接 触の柔ら か さ,
用手 接 触 部 位の適 否,
呼 吸 介助の方 向 性に お い ては, 93% と同程度の得点率で あり,
呼吸 介 助の タイミングでは97± 6% と開始 時評 価同様得 点率 が高い。 しか し な が ら,
痛み・
不快感で は,82
± 8% 開始時評価に お け る得点率のばらっ き が , 終r
時評 価 において減少し た要因 と して次の 二点が考え られ る。
ま ず 第一
点は,
主観 的評 価ゆえに評 価 者間におい て評 価 尺 度が微 妙に異な ること,
す なわち評 価 者 側の要 因が挙げ られ る。 第二点は, 呼 吸介助 手技の未熟さ か ら,
同一
受 講者において三者の異なっ た胸郭の形 状お よ び動きに対 して必 ずしも同一
の呼 吸 介 助が な さ れ な かっ た可 能 性, すな わ ち,
種々 の胸 郭の形 状お よび動きに柔 軟に対応 す る技術を持ち合わ せ て ない とい う受講 者側の要 因であ る。 第…・
の 要因であ る評価 者の評 価尺度の違い は5日間で大 き く変化するとは考え に くく,
むし ろ第二の要因で あ る 受 講 者の技術 的な差異が ば らっ きの要 因と考え られ る。 開 始 時お よび終了時の得 点率をレー
ダー
チ ャー
トに 示 ず (図5)。
開 始 時 評 価で は各評価項目の うち, タ イミ ン グの項 目の みが,
得 点 率50% を越えて い る他はすべ て 50% 以F
と なっ て いる。 こ の ことは,
呼 吸 介 助 手 技 の要 素のなかでは 「タ イ ミング」 すなわ ち,
呼 吸 相に追 従 する こと が比 較 的早 期より修 得し やすい要 素であると い え る。一
方,
終 了 時評 価では各 項 目と も開 始 時 評 価より得 点 率が か な り高く なっ ており,
講 習会の成 果が満足 すべ き もの であることを示 して いる。 各 評 価項目に注目すると,
「介 助 部 位」,
「介助 方 向」,
「タ イ ミング」 とい っ た項 目は呼 吸 介助 手技に特有な要 素で あ るが,
「タッ チ 」 は,
すべて の徒 手 的手技に共通 する要 素であ り,
呼 吸 介助 手技のベー
スに な るもの と考 えられる。 また,
呼 吸 介 助手技は,
「呼吸 介助部位」,
「タッ チ」 といっ たstatic な要 素お よ び 「呼 吸 介 助の方 向性 」,
「タ イ ミング」 とい ったdynamic
な要 素が満た さ れ た と き は じ めて被呼吸介肋者の呼1吸を妨げ ること な く,
呼吸を介助す ること がで き るの で あり,
これ ら4つ の要索が一
っ で も不 完 全で あ る と,
被呼吸介 助 者に痛 み・
不快感を与え る結果となる。 し た がっ
て, 終 了 時 評 価におい て,
痛み・
不 快 感の評 価 項 目が他の評 価 項 目よ り もわ ずかに低い得 点 率で あっ た と考えられる。 とこ ろ で,
呼吸介助手技の習熟度に より・
一
回 換 気 量,
機能 的残気量な どの ス パ イロ グラム上に異なっ
た効 果を及ぼ す こ と が明ら かで あ る5) 。 呼吸介助手 技は生 命維 持 に関わ る呼 吸 機 能に対 して行うものであり
,
痛み や不 快 感 を与え るよ うであれ ば臨 床で活 用 する こと がで き ない。 実 際,
臨 床において,
技 術の未 熟 な理 学 療 法 士が患者か ら拒 否さ れ る場面に しばしば 遭 遇 する。 このような 傾 向 は,
未熟 な手 技に耐 え る余 裕の ない重篤な患 者に おい て 顕著で あ る。 ま た,
呼吸介助手技の修 得の 程度は治療効果はも とよ り,
リス ク管理上か ら も重 要で あ る。 重篤な呼吸不全 患 者の胸 郭に何 らかの操 作を加え,
治 療 効 果を得るには か な りの熟 練を必 要とするし,
高 齢 者や ス テ ロ イ ド大量投 与 患 者において は粗 雑な胸 郭 操 作によ り容易に肋骨骨折 を生 じ さ せ る危 険性が あ る。 患 者を治 療し よ う とする際,
患者の胸郭に触れ た瞬間, すな わ ち最 初の微 妙なタッ チが 重要で あ る。 粗 雑あ るい は圧 迫 感の強い タッ チ は患 者を過 緊 張さ せ,
十 分な治療 が で きな いばか り か悪 影 響さえ及ぼ すこ と も少な く ない。 タッチ の良 否は一
般に臨床経験を重ね ること に よ り向 上 すると考え られるが, 臨床 経 験 が 豊 富な理 学 療 法 士に おい て もタ ッ チ の仕 方か ら指導す るこ と も稀で は な い。
本 講 習 会は, 卒後の 自らの徒手的 技 術,
特に タッチ を大 い に反省す る機会と な っ て いる。
実 際,
講 習会終 了後に 肺理学療法 手技に限らず 理学療 法のあ ら ゆ る徒 手 的 技 術 の導 入がスムー
ズと なっ た とい う受講 者が大半を占め る。 徒 手 的技 術の基本は,
痛み や不快感 を与えない用 手 接 触で あ り,
そのた めには指 導者 自らが モデル と なっ て受 講者の手技を体験し な が ら指導することが 不 可 欠であ る。
参 考 文 献 1) 伊 藤 直 栄 :胸部・
上 腹 部 手 術 後の肺 理 学 療 法,
理学 療 法 学,
11 :284−
286,
1984,
2) 伊 藤直栄,
伊橋光二,
斉藤昭彦 :肺理 学 療 法の実 際,
長 野 県理学 療 法 士 学術 誌,
14:37−
52,
1985,
3>斉藤昭彦,
伊橋光二,
伊藤贏栄:食 道 癌手術 後の理学 療 法,
長 野 県 理 学 療 法士 学術誌,
16:56−
59,
1987,
4)伊 橋 光二,
斉 藤 昭 彦.
八 幡 純 治,
伊藤直栄 :呼吸介助手技 が肺 気量分 画に与え る影 響,
理学 療 法 学,
16〔4);267−
272、
1989.
5)斉 藤昭彦,
伊 橋 光二,
八 幡 純 治,
伊藤直栄 :肺理学 療法手 技の習熟 度に よ る差7 呼 吸 介 助 手 技の場 合一,
長 野 県理学 療 法士 会 学 術 誌,
17:51−・
53,
1988.
496
ff
\-・
ts
rk
"..eg
17ig
eg
5e
<Abstract>
Instruction ef theManual Breathing AssistTechnique inthe
Continuing
EdueationAkihiko SAITO, RPT, Kouji IHASHI, RPT, Naoei ITO, RPT, Megumi AKEO, RPT DopL
of
Rlzysicat11zerapySchoot
{lfAtliedMbdical
Sciences,
Shinshu
University
Junji
YAHATA, RPT'Mdtsumoto
lvoayama
ubspitat,lvhtiohalsanatorium
The purpose of thisstudy was toevaluate theskillful levelof themanual
breathing
assisttechnique and also
to
investigate
theeffect efthe
instructionalmethods inthe continuing edu-cation organized by School of AlliedMedical Sciences,Shinshu University,1988, The nurnberof
the
particlpantswas12
(10
males and 2 females,all PhysicalTherapists),Teaching programconsisted of
6
days,
and2
/
3
hours
of thecourse was used as practicaleducation.Evalua-tion was perforrned
by
3
instructors
at thebeginntng
and atthe
end of the course. Themanual
breathing
assist technique was evaluated by using the subjective evaluation scale.The scale had
5
items. Positien,directionand timing of assist were special elements of themanual breathing assist technique. Assisting feeling
(pain
or discomfort} and touch werecomrnon elements of manual therapy.
Average
score atthe
beginning
or ending ofthe
evaluation was 44 ±・
18% and 92 ± 3%
respectively. There was a significant differencebetween them. Among 5 items,timing of
assist was comparatively easy to
be
rnastered. As compared with this,assisting feelingwaslow score. Because thiselement was an integratedfactorof the other 4 items.
We
concluded that thebase
of the manualbreathing
asssisttechnique
was comfortablelight
touch,and thistouch was necessary forallmanua] techniques as well as the manualbrea-thing assist technique. Inorder to master the manual