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自家不和合性を制御しているSハプロタイプに着目して育成したF1大和マナ品種

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Academic year: 2021

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Copyright 近畿作物・育種研究会(The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan) 73

1.はじめに

  奈 良 県 の 在 来 品 種 と 位 置 づ け ら れ て い る 大 和 マ ナ (Brassica rapa L. Oleifera Group)はツケナの一種で(青葉

1964),奈良県は大和の伝統野菜と認定して,生産・販売 支援に力を注いでいる.大和マナは,青菜独特のえぐみが 少なく,生食や加熱など様々な料理法に適用できる長所を 有するが,揃いが悪い点や収穫後の日持ちが悪いなどの欠 点を有している.それらの欠点を克服するには自家不和合 性を利用した F1品種の育成が有効であると考えられる. アブラナ科植物の自家不和合性は胞子体的に機能する 1 遺 伝子座の S ハプロタイプにより制御され,基本的に雌ずい と花粉が同一の S ハプロタイプを表現型として共有する場 合に不和合となる(Bateman 1955).まず,大和マナ等の S ハプロタイプを網羅的に解析して,品種・系統間の遺伝 的関係を明らかにした(浅尾ら 2008,2009).次に,自家 不和合性を利用した F1品種の作出には不可欠である S ハ プロタイプをホモに持つ幾つかの純系親系統を作出した. 採種効率を考えると,自殖が進むことで生じる自殖弱勢を 防ぐことができる 3 元交配が 2 元交配より有利であるが, 3 元交配で F1品種を育成するには,多くの純系親系統を 用いた組み合わせ検定が必要となる.そこで,育種当初か ら S ハプロタイプを同定しておけば,育成すべき純系親系 統数を最小限にとどめることができる.さらに,同定した S ハプロタイプの塩基配列に基づき設計したプライマーを 用いた PCR によって,蕾受粉後の S ハプロタイプをホモ に持つ個体の識別が可能となる.S ハプロタイプに着目し て,ダイコンの葉に類似した,葉身部に不規則な楕円形を した頭葉と翼葉を有するという大和マナの草姿の特徴を損 なわず,揃いが良くて収穫後の外葉が黄化しにくい F1大 和マナ品種を育成した(浅尾ら 2011).  なお,本研究は,JST,奈良県地域結集型研究開発プロ グラム「古都奈良の新世紀植物機能活用技術の開発」の一 環として実施し,奈良県農業総合センター,ナント種苗株 式会社,奈良先端科学技術大学院大学および奈良女子大学 が共同で F1大和マナ品種(‘夏なら菜’・‘冬なら菜’)を 品種登録した. 2.大和マナ 6 系統が有していたS ハプロタイプ  在来種として多様性に富んでいた大和マナは昭和 40 年 代以降に,農業総合センター,種苗会社および民間育種家 によって集団栽培され採種されてきた.第 1 図に示した各 採種地(天理市,田原本町,大和高田市,橿原市,宇陀市,

自家不和合性を制御している

S ハプロタイプに

着目して育成した F

1

大和マナ品種

浅尾浩史

奈良県農業総合センター(〒 634 − 0813 奈良県橿原市四条町 88) 要旨:大和の伝統野菜の一つである大和マナは,揃いが悪い点や収穫後の外葉が黄化しやすいなどの欠点を 有している.そこで,それらの欠点を克服するために,自家不和合性を制御している S ハプロタイプに着目 して F1品種の育成に取り組んだ.3 元交配によって,高温期の栽培に適する‘夏なら菜’と低温期の栽培に 適する‘冬なら菜’の F1品種の育成に成功した.両品種とも草姿と生育の揃いがよく,黄化しにくい特徴 を有していた.また,育種当初から S ハプロタイプに着目することによって,3 元交配による F1育種にかか る年限を短縮することができた. キーワード:自家不和合性,F1,大和マナ 2012 年 4 月 6 日受理 連絡責任者:浅尾浩史([email protected]) 作物研究 57:73 − 76(2012)

総 説

第 1 図 各大和マナ系統の採種地.

(2)

74 五條市)では人為的に生殖的隔離がなされ,S ハプロタイ プの構成が変化してきたと考えられる.  農総セ系 61 個体,ナント系 50 個体,フカセ系 30 個体, 大和農園系 30 個体,五條系 30 個体および高田系 30 個体 の葉組織から DNA を抽出し,クラス ISLG 対立遺伝子 (Nishio et al.1996, Sakamoto et al. 1998)とクラス IISP11 対 立遺伝子(Shiba et al. 2002)を PCR で増幅させ,増幅断片 の塩基配列を決定した.その結果,27 種類のクラス I と 4種類のクラス IIS ハプロタイプの計 31 種類を同定した (第 1 表).

3.純系親系統の育成

 ナント種苗において集団栽培されている‘大和真菜’か ら , 大和マナの特徴を有する草姿で旺盛な生育を示す 11 個体(YM1 ∼ 11)を選抜し,S ハプロタイプを同定した後, 2004 年 3 月に蕾受粉を行なった.同年 5 月に採種して, 同年 9 月に播種した各系統 200 個体の中から,形質(葉の 形,草丈,節間長,生育の早さ,葉色および黄化程度など) が優良で,S ハプロタイプをホモに持つ S1 個体(自殖第 1 代)を 6 個体ずつ選抜した.なお,S1 個体が S ハプロタ イプをホモに持つかヘテロに持つかは,適当なプライマー を用いた PCR によって決定した(第 2 図).同時に,3 元 交配に用いる純系親系統を育成するために,異なる S ハプ ロタイプを持ち,形態的にはほとんど同じである個体も選 抜した.2005 年,2006 年および 2007 年に同様な作業を行 い,S4 の純系親系統を得た.2008 年に 5 種類の S ハプロ タイプ(S26,S28,S60,S71,S72)を有する 10 系統の S4 の 純系親系統を , 組み合わせ交配検定に用いた.

4.F

1

大和マナ品種の育成

 高温期の栽培に適する品種を育成するために,S ハプロ タイプは異なるが形態的に類似している YM4-1-1-2(S71/ S71)と YM4-9-10-7(S72/ S72)を交配した後代を胚珠親とし, 組み合わせ能力が高かった YM10-13-3-3(S26/ S26)を花 粉親として F1品種‘夏なら菜’を作出した.‘夏なら菜’ は S ハプロタイプヘテロ個体(S26/ S71あるいは S26/ S72) で構成されていた(第 3 図).また,低温期の栽培に適す る品種を育成するために,S ハプロタイプは異なるが形態 的に類似している YM6-7A-3-8(S28/ S28)と YM6-7B-4-10 (S26/ S26)を交配した後代を胚珠親とし,組み合わせ能力 が高かった YM10-8-4-10(S71/ S71)を花粉親として F1品 種‘冬なら菜’を作出した.‘冬なら菜’は S ハプロタイ プヘテロ個体(S26/ S71あるいは S28/ S71)で構成されてい た(第 3 図).2011 年 9 月 13 日に ‘夏なら菜’(第 21048 号) が,同年 10 月 5 日に‘冬なら菜’(第 21156 号)がそれぞ 作物研究 57 号(2012) 第 1 表 各大和マナ系統が持つと推定されたS ハプロタイプ 第 2 図 YM4 系統の自殖後代の PCR によるS ハプロタ イプのホモ・ヘテロの判別. M:1 kb マーカー,C:YM4 系統(‘大和真菜’から選抜 した系統(S71/S72)),1,8,10,11,12:S71のホモ 個体,2,9:S72のホモ個体 5’-GATGCGAGACTCCAATAACA-3’,5’-ATCCAAGGGTT CAGACCAAA-3’,5’-CCGTGTTTTATTTTAAGAGAAAGA GCT-3’の 3 種類のプライマーを用いて PCR を行い,PCR 産物を 1.5%アガロースゲルで電気泳動した.PCR は, 94 ℃・1 min の 熱 変 性 後,94 ℃・30 sec の 熱 変 性, 60℃・30 sec のアニーリング,72℃・1 min の伸長反応 を 40 サイクル行い,最後に 72℃・7 min で反応させた. 第 3 図 S ハプロタイプに着目した 3 元交配による F1 大和マナ品種の育成.

(3)

75 れ品種登録された.両品種の育成経過は第 2 表に示した通 りである.

5.‘夏なら菜’・‘冬なら菜’の特徴

 F1大和マナ品種の葉の形態を固定種である‘大和真菜’ と比較すると,‘夏なら菜’の葉は倒卵型で葉柄は短かく, ‘冬なら菜’の葉はへら型で葉幅と葉柄は長くて立性度が 高かった(第 4 図).大和マナの周年栽培を想定すると, 夏季の高温期に時間をかけてゆっくりと生育させて収穫適 期を拡大することや,冬季の低温期に生育を早めて栽培時 期を短縮することが重要である.今回,高温期の栽培に適 する‘夏なら菜’と,低温期の栽培に適する‘冬なら菜’ を同時に育成したことで,大和マナの作期拡大に貢献でき るであろう.また,F1品種の草丈と株重の変動係数が,‘大 和真菜’よりも小さく,生育の揃いが良いことが示された. さらに,F1品種の貯蔵期間中の黄化程度が,固定種であ る‘大和真菜’と比較して店頭レベルで優れていると推定 されることから,育成した F1品種は,‘大和真菜’が改良 された優良な品種であると考えられる.これらの品種はナ ント種苗㈱から販売されている.

6.引用文献

青葉 高(1964)本邦そ菜在来品種の地理的分布と分類に 関する研究(第 4 報)ツケナ在来種の分類と地理的分布 について.園学雑 32:65 − 72. 浅尾浩史・奥山恵里・矢野健太郎・西本登志・北條雅也・ 越智康治・梶田季生・高山誠司(2008)採種地が異なる 大和マナ(Brassica rapa L. Oleifera Group)の S ハプロ タイプの推定.園学研 7(4):505 − 510. 浅尾浩史・奥山恵里・矢野健太郎・西本登志・北條雅也・ 高山誠司(2009)S ハプロタイプに基づく Brassica rapa L. Oleifera Group に属するツケナの遺伝的関係.近畿中国 四国農研 14:41 − 46. 浅尾浩史・西本登志・越智康治・梶田季生・高山誠司(2011) S ハプロタイプに着目して育成した F1大和マナ品種(‘夏 なら菜’と‘冬なら菜’).近畿中国四国農研 19:15 − 19. Bateman, A. J.(1955)Self-incompatibility systems in

angiosperms. III. Cruciferae. Heredity 9:53 − 68.

Nishio, T., M. Kusaba, K. Sakamoto and K. Hinata(1996) Registration of S alleles in Brassica campestris L. by the restriction fragment size of SLGs. Theor. Appl. Genet. 92: 388 − 394.

Sakamoto, K., M. Kusuba and T. Nishio(1998)Polymorphism of S-locus glycoprotein gene(SLG)and S-locus related gene (SLR1)in Raphanus sativus L. and self-incompatible ornamental plants in the Brassicaceae. Mol. Gen. Genet. 258: 397 − 403.

Shiba, H., M. Iwano, T. Entani, K. Ishimoto, H. Shimosato, F. Che, Y. Satta, A. Ito, Y. Takada, M. Watanabe, A. Isogai and S. Takayama(2002)The dominance of alleles controlling self-incompatibility in Brassica pollen is regulated at the RNA level.Plant Cell 14:491 − 504.

自家不和合性を制御している S ハプロタイプに着目して育成した F1大和マナ品種 第 2 表 F1大和マナ品種の育成経過

第 4 図 各品種の草姿(播種後 56 日目).

(4)

76

Breeding of F

1

Varieties of Yamato-mana Based on the S-haplotype which Controls

Self-incompatibility

Hiroshi Asao

Nara Prefectural Agricultural Experiment Station(Kashihara, Nara 630 − 0813)

Summary: Yamato-mana (Brassica rapa L. Oleifera Group), a traditional vegetable of Yamato, has some weak points: its growth is not uniform, and its outer leaves are liable to turn yellow after harvest. To overcome these disadvantages, we bred F1 cultivars by use of the S haplotype, which controls self-incompatibility. By three-way crossing, we succeeded in the

breeding of‘Natsunarana’, which is suited for cultivation during the high-temperature season, and‘Fuyunarana’, which is suited for the cultivation in the low-temperature season. Both cultivars were characterized by their uniform plant shapes; moreover, they were somewhat effective in preventing the yellowing of leaves than conventional cultivars. The period required for breeding of F1 cultivars by three-way crossing was reduced by use of the S haplotype from the beginning of

breeding.

Key words: self-incompatibility, F1, Yamato-mana

Journal of Crop Research 57 : 73 − 76(2012) Correspondence : Hiroshi Asao([email protected]) 作物研究 57 号(2012)

参照

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