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糖尿病足病変の臨床研究と理学療法介入

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Academic year: 2021

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はじめに  糖尿病は本邦において急激に増加してきた。平成 23 年国民 健康・栄養調査によれば,20 歳以上で糖尿病が強く疑われる 者の割合は,男性は 15.7% , 女性が 7.6%であった1)。国際糖尿 病連合の報告2)では,2011(平成 23)年時点の本邦における 糖尿病患者数は 1,067 万 4,000 人であった。また,世界の糖尿 病人口は 3 億 6,600 万人であったが,2030 年には 5 億 5,200 万 人に達すると予測されている。糖尿病患者はこれまでも増えて きたが,今後も増え続けると予測されている。さらに,糖尿病 患者は,治療を受けていない割合が高い。本邦では糖尿病患者 の 37.6%が未治療である1)。これらの糖尿病患者の増加や未治 療率の高さは,当然の帰結として糖尿病合併症を増加させる。 糖尿病足病変に関する大規模な疫学調査は存在しないが,大 田らは 1980 ∼ 2000 年代にかけて,血管外科への糖尿病足病 変患者の入院数が 10 倍に増加したと報告した3)。切断原因で も,1990 年代に,糖尿病や末梢動脈疾患が 70%を占めていた とされ,現在ではこの比率はさらに上昇しているであろう4)。 社会的背景の変化によって引き起こされる下肢切断は,患者の QOL および医療コストに多大な影響をあたえるため,切断の 回避のために集学的な介入が必要とされている5)。他職種から は糖尿病足病変や下肢創傷の治療や予防に対して理学療法士の 積極的な関与が求められている。 糖尿病足病変の病期による理学療法の違い  糖尿病足病変に対する理学療法士の関わりは,発症予防から 再発予防,切断後のリハビリテーションまで多岐にわたる。か なり長い病期にわたって介入を行う必要がある(図 1)。合併 症の進行していない糖尿病患者においては血糖コントロールを 目的とした運動療法が行われるが,糖尿病神経障害の進行予防 という点で足病変の発症予防としての意義がある。末梢動脈疾 患の間欠性跛行に対しても運動療法が行われている6)。これら は,糖尿病足病変に対する直接的な介入ではないため本稿では 割愛する。糖尿病足病変リスクをもつ症例や潰瘍治癒後の症例 に対しては,発症や再発の予防を目的とした介入が必要とな る。また,切断後の患者では,義肢による歩行の獲得が理学療 法の重要な目的となる。しかし,両側性に発生する糖尿病足病 変においては,非切断肢の足病変発症リスクは高い。このた め,切断後の症例においても予防を目的とした介入が必要とな る。一方で,潰瘍や壊疽などの下肢創傷が存在する症例に対し ては,治癒を目的とした介入が求められる。理学療法士は免荷 (off -loading)を実現することによって下肢創傷の治癒に貢献す ることがひとつの目的である。また,著しく低下する身体機能 や活動性に対する介入も重要である。以上を踏まえて,本稿で は,糖尿病足病変の発症・再発予防,下肢創傷治癒を目的とし た理学療法を中心として記述する。 糖尿病足病変の病態(図 2)  糖尿病足病変は,足部の潰瘍から壊疽へと進行する。創傷の 治癒を妨げるものは,おおまかに虚血と感染である。これらに 対しては,内科的,外科的な様々な治療が行われる。褥瘡と同 様に局所への荷重は大きな治癒阻害要因となる。足底の潰瘍 は,立位,歩行での局所への荷重が悪化要因である。治癒の失 敗は,下肢切断を招くことになり著しい機能的な損失を招く。  下肢創傷の発生には,様々な因子が関与している。第一に,糖 尿病神経障害の存在がある。知覚消失が容易に傷を発生させる だけでなく,自律神経障害による皮膚の発汗異常や運動神経障 害による筋萎縮なども糖尿病足病変の病態に関与する。これら の詳細は関連するそれぞれの介入の項目で述べる。末梢動脈疾 患による虚血も潰瘍形成を引き起こす。糖尿病患者における末 梢動脈疾患は,末梢優位で,多枝病変であることが特徴である。 この 2 つが糖尿病足病変の主要因である。傷が発生しやすいこれ らの状況に外的な因子が加わって創傷が発生する。靴ずれ,足底 胼胝,皮膚・爪病変,熱傷・外傷などが引き金となる外的因子 である。これらの中で,足底胼胝によって引き起こされる潰瘍 は,足底圧上昇,足部変形,関節可動域制限,筋萎縮などが病 態として関与する。末梢動脈疾患による虚血とこれらの運動器 系の因子に対する介入が糖尿病足病変の理学療法の中心となる。 糖尿病足病変に対する理学療法  本項では,糖尿病足病変の発症・再発予防,下肢創傷の治癒 に貢献する理学療法に関して臨床研究を紹介しながら解説する。 1.フットケア教育,定期的なフォローアップ  糖尿病足病変の発症・再発予防を目的として,現在,多くの

糖尿病足病変の臨床研究と理学療法介入

河 辺 信 秀

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専門領域研究部会 内部障害理学療法 特別セッション「教育講演」

Clinical Research and Physical Therapy of a Diabetic Foot

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茅ヶ崎リハビリテーション専門学校理学療法学科 (〒 253‒0083 神奈川県茅ヶ崎市西久保 500)

Nobuhide Kawabe, PT,CDEJ: Chigasaki Rehabilitation College キーワード: 糖尿病足病変,フットケア,理学療法

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施設でフットケアが実施されている。科学的根拠に基づく糖尿 病診療ガイドラインにおいても,チームでの包括的なフット ケア教育が推奨されている7)。特に定期的に足部を観察して, 足病変リスクを評価し,状況を把握することが効果的である。 Patout らは,定期的なフォローアップを含むフットケアプロ グラムを実施し,導入前の 1 年間と比較して,導入後の 1 年間 で有意に,下肢切断,足部潰瘍形成,入院日数などが減少した と報告した8)。糖尿病足病変のリスク評価や足部の観察は,理 学療法士も行うことが可能である。リスクの高い症例では,予 防を目的として定期的に足部を観察することが重要である。 2.靴のフィッテイング指導  発症・再発予防を目的とした介入では,靴のフィッティング を指導することが重要である。靴ずれはその多くが足趾で発生 するため,足趾形状に合わせた靴の先端形状の選択が重要で ある5)。足長や足囲の測定,JIS 規格に基づいた靴のサイズ選 択を指導する。Kästenbauer らは,糖尿病神経障害患者におい て,オックスフォード型の革靴とランニングシューズを用いた 歩行時の最大足底圧を比較した。その結果,ランニングシュー ズでは,母趾,前足部,踵部の足底圧が 29 ∼ 47%低減すると 報告した9)。Perry らの報告でも,ランニングシューズでは靴 下や革靴での歩行と比較して,足趾,前足部の足底圧が軽減し た10)。これらの結果を考慮すると,Hammer/claw toe や関節 可動域制限などが存在して足底圧の上昇が疑われる場合,ラン ニングシューズなどのクッション性の高い靴を選択する必要が あるであろう。 図 1 糖尿病足病変の病期の進行と理学療法 図 2 糖尿病足病変の病態

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3.人工炭酸泉温浴(図 3)  人工炭酸泉温浴は,二酸化炭素濃度が 1,000 ppm 以上の炭酸 泉を人工的に生成し温浴を行う介入方法である。おもに,虚血 や虚血による症状の改善を目的として用いる。通常の温浴より も低い温度(37 ∼ 38℃)で温浴が可能であるため,知覚障害 のある糖尿病患者や末梢動脈疾患患者に対しても熱傷のリスク が低い。人工炭酸泉温浴は,皮膚などの末梢の微小循環を改善 させる効果が高い。松尾らは,37℃の淡水と炭酸泉水で交互に 温浴を行い,皮膚血流量を比較した。その結果,炭酸泉水では 淡水の温浴と比較して,皮膚血流量がほぼ倍になった11)。こ れらは急性効果であるが,長期的に温浴を継続した場合,温 浴を行っていない状況での微小循環の改善もみられる。林ら は,重症下肢虚血患者に対する週 3 回以上,3 ヵ月間の人工炭 酸泉温浴によって,安静時の経皮的酸素分圧が 40.7 mmHg か ら 54.6 mmHg へ改善したと報告した12)。また,Toriyama ら の報告でも,2 ヵ月間の介入で皮膚血流量と経皮的酸素分圧の 改善がみられた13)。温浴直後に皮膚の微小循環が改善するだ けでなく,継続的に循環量が高い状態が保たれるため,虚血症 状の継続した改善が見こめる。これらの虚血の改善は潰瘍の治 癒や悪化の予防にも貢献する。潰瘍が存在し血行再建術を受け た糖尿病,重症下肢虚血患者 78 例に対する RCT では,90 日 間の介入で潰瘍増悪と新規形成の予防率が,人工炭酸泉温浴 実施群 97.1%,対照群 77.8%であり,温浴の実施により悪化 が抑制された14)。潰瘍が存在する重症下肢虚血患者に対する 潰瘍治癒率を比較した RCT では,人工炭酸泉温浴実施群では 43.3%が治癒し,対照群では 20%のみが治癒した15)。通常の 治療に人工炭酸泉温浴を加えることで治癒率が高まることが示 された。潰瘍の治癒のためには,経皮的酸素分圧 40 mmHg 以 上16),皮膚環流圧 30 mmHg 以上17)が必要であるとされてい る。これらが人工炭酸泉温浴を実施する際のひとつの目標値で あると考えられる(表 1)。  人工炭酸泉温浴は,虚血を継続的に改善し,かつ,潰瘍の治 図 3 人工炭酸泉温浴 対象 方法 結果 松尾ら11) 末梢動脈疾患患者 9 例 Fontaine Ⅱ 平均 ABI 0.6 人工炭酸泉温浴と淡水温浴を交互に 2 回 行い,皮膚血流量を計測した. 皮膚血流量(ml/min/100 g) 温浴前   2.6 ± 0.6 淡水浴後  3.0 ± 0.8 炭酸泉浴後 7.5 ± 2.3 淡水浴後  4.3 ± 1.6 炭酸泉浴後 7.1 ± 2.8 林ら12) 重症虚血肢 30 肢 人工炭酸泉温浴を週 3 回以上,3 ヵ月間実 施した.介入前後の tcPO2を比較した. 介入前 40.7 mmHg 介入後 54.6 mmHg Toriyama ら13) 潰瘍,壊疽を合併した 末梢動脈疾患患者 68 例 83 肢 人工炭酸泉温浴を 1 日 2 回,2 ヵ月以上実 施した.介入前後の tcPO2,皮膚血流量, 救肢率を比較した. 皮膚血流量(ml/min/100g) 救肢群  介入前 1.6 ± 0.5 介入後 4.3 ± 1.5 切断群  介入前 1.2 ± 0.3 介入後 4.8 ± 3.5 tcPO2(mmHg) 救肢群  介入前 37 ± 16 介入後 51 ± 15 切断群  介入前 38 ± 13 介入後 57 ± 22 救肢率 83.1% Hayashi ら14) 潰瘍を合併した糖尿病, 重症下肢虚血患者 78 例 人工炭酸泉温浴を少なくとも週 3 回以上, 3 ヵ月実施した介入群 34 例と対照群 36 例 に分けて,介入前後の潰瘍悪化,新規形 成予防率を比較した. 潰瘍増悪および新規形成予防率  介入群 97.1% 対照群 77.8% Hayashi ら15) 虚血性潰瘍・壊疽患者 55 例 人工炭酸泉温浴を 1 日 2 回実施した介入 群 27 例と対照群 28 例に分けて,1 年後の 潰瘍治癒率を比較した. 潰瘍治癒率  介入群 43.3%  対照群 20.0% 表 1 人工炭酸泉温浴の効果に関する研究

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癒にも貢献できる。ただし,創傷のある足部を温水に浸す治療 であるため,感染への配慮や温浴後の創傷の処置は適切に行わ れなければならない。実施の可否の判断も含めて,血管外科医, 形成外科医,皮膚科医などの管理下で行う必要がある。 4.装具療法  糖尿病足病変に対する装具療法の主要な目的は免荷である。 免荷によって,足底圧上昇や胼胝を改善し,足病変の予防や創 傷の治癒を目指す。本項では,装具療法の目的を発症・再発予 防と創傷治癒の 2 つに分けて解説する。 1)糖尿病足病変における足底圧異常  糖尿病足病変における足底圧異常は明確な危険因子である。 Frykberg ら18)や Pham ら19)が行ったコフォート研究では, 神経障害に関する因子に加えて 6 kg/cm2以上の最大足底圧の 存在が,糖尿病患者における潰瘍形成の独立した危険因子であ ると報告された。足底圧上昇により発生する足底胼胝の存在 も,明確な潰瘍形成の危険因子である20)。糖尿病足病変の足 底圧異常を評価する際に用いる指標には主要なものが 2 つあ る。1 つは,ある一定の歩行周期内に局所的に加わる圧の最大 値を計測した最大足底圧である。もう 1 つは,ある一定時間内 に加わった圧を積分して計算する積算圧である。これらの 2 つ は,装具療法の効果判定などでも並行して用いられる場合が多 い。Waaijman ら21)は,最大足底圧と積算圧の 2 つのパラメー ターのどちらが装具療法の評価にふさわしいかを調査した。糖 尿病足病変リスクのある症例に対して,フットウエアを用いて 歩行時の足底圧を計測し,2 つのパラメーターの相関をみた。 その結果,2 つの指標は 0.7 以上の高い相関を示した。しかも, 2 つの指標ともフットウエアの違いによる変動は少なく,各 症例の一歩ごとの値の変動も少なかった。Bus ら22)が行った systematic review は,糖尿病患者の歩行時足底圧を計測した 30 の研究を対象にしている。最大足底圧と積算圧の値につい て 15 の研究で議論されているが,値の違いについて意義のあ る説明がされているのは 5 つのみであった。積算圧を計測する 場合,機器によっては,付属のソフトウエアでの出力が不可能 な場合がある。これらを考えると,積算圧よりも最大足底圧の ほうが簡便なため臨床的には有用な指標であるといえるかもし れない。  上述のパラメーターはいずれも垂直成分の圧を扱ったもので ある。Mueller ら23)は,糖尿病神経障害患者の歩行時足底圧 を水平成分(せん断応力)も含めて計測し,健常者と比較した。 その結果,糖尿病神経障害患者は,前足部における垂直成分で ある最大足底圧と水平成分であるせん断応力がともに健常者よ り上昇していた。臨床での計測場面では,第 5 中足骨頭部の胼 胝や潰瘍などは,垂直成分を評価する足底圧計測機器では圧上 昇が計測されない場合がある。これらの点から今後は,水平成 分を計測する方法も確立する必要がある。  足底圧上昇を引き起こす因子は複数ある。足趾切断などの 足部の部分切断は明確に切断部近位の足底圧を上昇させる24)。 足関節,中足趾節関節の可動域制限も足底圧上昇に関与する が,これらは後述する。足部変形の中で は,Hammer/claw toe が潰瘍形成の独立した危険因子であり25),足底圧を上昇さ せる因子である26)。Hammer/claw toe は,中足骨頭を足底に 突出させるだけでなく,中足骨頭下の皮下の軟部組織を前方に 移動させてしまう。このため,中足骨頭下の軟部組織厚が薄 くなり,前足部圧上昇を招く26)。足底軟部組織の厚みや硬さ は足底圧上昇に影響を及ぼすと考えられるが,Hammer/claw toe の存在しない軽度の糖尿病神経障害患者では,足底軟部組 織の厚みは変化せず硬さのみが強くなるという報告がある27)。 足部潰瘍が存在する症例では,足底面のすべての部位で健常 者より軟部組織厚が減少し,硬さが増していた28)。これらは, 糖尿病足病変のリスクが高い症例では,変形の存在に関係な く,足底の軟部組織の硬さが増している可能性があることを示 唆している。これらも足底圧上昇に影響を及ぼす可能性がある であろう。足部変形の発生要因に関する調査としては,Schie らが,腓骨神経伝導速度と足部変形の間に相関がみられると報 告し,神経障害の存在が足部変形を引き起こしている可能性を 示唆した29)。糖尿病患者では神経障害によって中足骨頭部の intrinsic muscle が健常者より 50%も筋萎縮を引き起こすと報 告されている30)。虫様筋などの intrinsic muscle の萎縮は,中 足趾節関節の過伸展と趾節間関節の過屈曲を招く可能性があ る。これらが糖尿病患者の足部で Hammer/claw toe を引き起 こす要因であるかもしれない。 2)発症・再発予防を目的とした装具療法(表 2)  以上のような足底圧上昇,胼胝形成,足部変形が存在する場 合,予防を目的とした装具療法を行う。潰瘍や壊疽の既往,足 部の部分切断などがみられる場合にも,装具療法は必要であ る。予防を目的とする場合,モールドインソールとコンフォー トタイプの靴を用いる場合が多い。予防的な装具療法の効果に 関する Healy らの systematic review では,最初の下肢創傷発 症に関する研究は含まれておらず,これらの調査は不十分な状 況である31)。潰瘍や壊疽などの既往例に対する再発予防に関 しては報告がなされている。Busch らは,糖尿病靴と患者自 身の靴を用いた 2 群間の潰瘍再発を比較し,9 ヵ月後の再発率 がそれぞれ 15%,60%であったと報告した32)。Uccioli らも糖 尿病靴とモールドインソールによる介入を行い,患者自身の 靴を履く群と 1 年後の再発率を比較した。その結果,介入群 は 27.7%,対照群は 58.3%で再発が認められた33)。装具の使 用率で比較したコフォート研究では,40 ヵ月後の再発率は装 具使用群で 54%,不使用群で 100%となり作成後の日常的な着 用が非常に重要であることが示された34)。以上より,既成の 糖尿病靴とモールドインソールの組み合わせは,再発率を 1/2 ∼ 1/4 にすることが可能であるといえる。潰瘍は足趾に発生す る胼胝によっても誘発されるが,これらにはシリコン製足趾装 具が有効である。Scire ら35)は,足趾に胼胝の認められる症 例に対してシリコン製足趾装具を用いて潰瘍の発生率を比較す る RCT を行った。上述した糖尿病靴とインソールを両群に処 方し,介入群にのみシリコン製足趾装具を用いた。その結果, 3 ヵ月後に,介入群では潰瘍の発生が 1.1%であったのに対し て,対照群では 15.4%であり潰瘍形成が抑制された。一方で, Reiber らは,潰瘍既往例に対して,治療靴を使用する群,既 成のインソールを使用する群,通常の靴を使用する群の 3 群に 分けて比較した結果,再発率が 14 ∼ 17%と差がみられなかっ

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たと報告した36)。装具療法の再発予防効果に関しては,まだ 不明確な点もある。  装具療法による足底圧軽減効果に関しては,ほぼ異論を挟む 必要がない状況である。糖尿病靴,いくつかの素材を用いたイ ンソール,ロッカーソール加工などによって,足底圧は軽減す る。最大足底圧や積算圧のみでなく,足趾や前足部などの局所 の最大圧に関しても,軽減率に差はあるが十分に効果が認め られる31)。我々の研究でも,装具療法によって,最大足底圧, 前足部や踵部の最大圧が 26 ∼ 43%軽減した37)。Bus ら38)は, オーダーメイドで作成されたモールドインソールとフラットな インソールの除圧効果を比較し,モールドインソールが前足部 や踵部での除圧にすぐれていることを示した。さらに,モール ドインソールでは中足部での荷重が多く,アーチ構造が厚分散 に貢献していると考えられる。糖尿病と末梢動脈疾患を合併し た患者での検討でも,モールドインソールは除圧効果が高かっ た39)。シリコン製足趾装具による除圧効果も高く,足趾部に おいて胼胝除去後と同様の足底圧軽減効果が得られる40)。ま た,3 ヵ月間の介入で,皮膚の硬さも軽減する35)。装具療法 では,足底圧軽減を目的にロッカーソール加工を行うことも多 い。His ら41)は同じ糖尿病靴とインソールを用いて,ロッカー ソールの有無で足底圧を比較した。ロッカーソールによって, 最大足底圧および積算圧が前足部において 13 ∼ 24%減少した。 これらの足底圧軽減は,胼胝の改善を促すはずである。我々の 検討では,一定期間の介入で胼胝の改善がみられたが,評価指 標が甘いためエビデンスとしては弱い37)。インソールによる 足部変形の進行予防効果などもエビデンスは不十分である。こ れらの効果を検証することが今後は必要であろう。 3)治癒を目的とした装具療法  創傷の治癒を目指す装具療法では,潰瘍の存在している部位 の局所の圧を軽減することが非常に重要である。Owings らは, 足部潰瘍をもつ症例に対する装具療法の検討で,潰瘍部の足底 圧(107 ∼ 1,192 KPa)を平均で 207 KPa にすることを目指し て介入を行っている42)。また,足部潰瘍既往歴のある症例に 対する装具療法での検討でも,同様に 200 KPa 以下に除圧す ることを目標として実験が実施されている。これらは,潰瘍治 癒のための明確な目標値を証明するデータではないが,多くの 論文でひとつの基準として用いられているのが 200 KPa 以下 である43)。また,最大足底圧を 25%もしくは 50%以下にする といった目標値も提唱されているが,いまだに明確なカットオ フ値は存在しない33)43)。しかし,免荷が治癒に影響すること は明白であるため装具療法は必須である。  様々な種類の創傷治癒を目的とした治療靴が存在する。簡易 に加工しフィッティングを行うことができるインソールを組み こんだものも多くみられる。これらの簡易インソールは圧上昇 部位を繰り抜いて除圧するタイプが多い。トリミングされた周 囲の支持性が低い場合やトリミング自体が大きい場合,創傷部 位が沈みこむ原因となる。創傷部位がトリミング部位に沈みこ むとより強い圧上昇を招いてしまう44)。これらの装具を用い る場合は注意が必要である。また,免荷のために靴底が大きく 切りこんであるタイプの免荷装具では,歩行不安定性の発生は 否めない。歩行補助具の選択も含めて理学療法士が対応を行う 必要がある。 5.関節可動域練習  糖尿病患者において,関節可動域制限は固有に発生する問題 である。McPoil らの報告45)では,自動運動での足関節背屈可 動域は糖尿病神経障害の有無にかかわらず健常者と比較して制 限が認められた。神経障害の認められた群では第一中足趾節関 節伸展可動域も健常者と比較して制限がみられた。D’Ambrogi らの報告では,第一中足趾節関節の他動的可動域が,糖尿病患 者,糖尿病神経障害患者,足部潰瘍患者において健常者よりも 減少していた46)。Zimny らは,足関節,第一中足趾節関節の それぞれの他動的可動域が糖尿病神経障害患者において,糖尿 病患者や健常者と比較して制限されていると報告した47)。こ のように糖尿病,あるいは糖尿病神経障害の存在は,足関節, 第一中足趾節関節の可動域を減少させる。また,糖尿病患者に 対象 方法 結果 Busch ら32) 潰瘍既往歴のある糖尿 病患者 92 例 糖尿病靴を用いた介入群 60 例と患者自身の靴を用いた対 照群 32 例に分けて,9 ヵ月後の潰瘍再発率を調査した. 潰瘍再発率  介入群 15%  対照群 60% Uccioli ら33) 潰瘍既往歴のある糖尿 病患者 69 例 糖尿病靴を用いた介入群 33 例と患者自身の靴を用いた対 照群 36 例に分けて,1 年後の潰瘍再発率を調査した. 潰瘍再発率  介入群 27.7%  対照群 58.3% Chantelau ら34) 潰瘍既往歴のある糖尿 病患者 51 例 全例に糖尿病靴を処方し 40 ヵ月間観察を行った.日中の 60%以上糖尿病靴を使用していた群 37 例と使用しなかっ た群 16 例に分けて潰瘍再発率を比較した. 潰瘍再発率  使用群   54%  未使用群 100% Scire ら35) 潰瘍形成リスクの高く 足趾に胼胝が存在する 糖尿病患者 167 例 モールドインソールと糖尿病靴にシリコン製足趾装具を 組み合わせた介入群 89 例とモールドインソールと糖尿病 靴のみを用いた対照群 78 例に分けて,3 ヵ月後の潰瘍発 生率を調査した. 潰瘍発生率  介入群  1.1%  対照群 15.4% Reiber ら36) 潰瘍既往歴のある糖尿 病患者 400 例 糖尿病靴とコルクインソールを用いた介入 1 群 121 例, 糖尿病靴とウレタンインソールを用いた介入 2 群 119 例, 患者自身の靴を履く対照群 160 例に分類し,2 年後の潰瘍 再発率を比較した. 潰瘍再発率  介入 1 群 15%  介入 2 群 14%  対照群  17% 表 2 装具療法の潰瘍再発予防に関する研究

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おける関節可動域制限の特徴は,関節運動時の stiff ness の上昇 にある。足関節他動運動時の joint stiff ness を計測した研究で は,健常者と比較して 2 倍以上の硬さであった48)。これらから, 糖尿病患者の関節可動域制限では単純に可動範囲が狭くなるだ けではなく,動かせる範囲も「動かしづらい」状態にあると推 測できる。  これらの糖尿病足病変患者における足関節,中足趾節関節の 可動域制限は,足底圧異常を惹起する。Lavery らは,糖尿病 患者 1,666 例の検討で自動運動での足関節背屈可動域が 0°以下 の症例では,最大足底圧が上昇することを示した49)。著者ら の検討では,他動的関節可動域を用いて,足底圧との関連を 検討したが,足関節背屈可動域が 20°未満という軽度の制限で も最大足底圧が上昇した50)。足関節のアンクルロッカーとし ての機能を考慮すると,背屈可動域制限は前足部足底圧を上昇 させると考えられる45)。著者らが健常者を対象に行った検討 では,足関節背屈可動域を 10°に制限すると前足部足底圧が上 昇し,足趾部足底圧が減少した51)。これは足関節背屈制限が, 歩行時の重心の前方移動を阻害し,前足部での踏み切りを誘発 するためであると推測される。一方で,著者らの調査では,最 大足底圧の上昇がみられなかった。したがって,糖尿病患者の 最大足底圧上昇は,関節可動域制限以外の因子の関与も疑われ る。McPoil らは,前足部足底圧の上昇と第一中足趾節関節伸 展制限が関連すると報告した45)。しかし,この報告では,足 関節背屈可動域制限の症例が多く含まれており,前足部足底圧 の上昇はこれらの関与が疑われる。D’Ambrogi らの報告では, 第一中足趾節関節伸展可動域と前足部足底圧の間には相関がな いとされている46)。フォアフットロッカーの役割を考えると 第一中足趾節関節伸展制限は母趾部足底圧を上昇させると推測 される。  関節可動域練習は,糖尿病神経障害患者の可動域を改善す る。Dijis ら52)は,週 2 回,10 週間の関節可動域練習で,距 腿関節,距骨下関節,第一中足趾節関節の可動域が正常域まで 回復したと報告した。一方で,介入終了 1 年後には介入前の可 動域まで減少した。これは継続した介入を行わなければ可動域 を維持できないことを示唆している。関節可動域の改善は,足 底圧の軽減につながると考えられる。関節可動域練習の足底 圧軽減効果をみた研究では,1 ヵ月間のセルフエクササイズを 行った群で歩行時足底圧の軽減がみられた53)。関節可動域の 記述がなく関連性は不明であるが,トレーニングによって足底 圧軽減が得られる可能性を示唆した研究であるといえる。  上記のように糖尿病足病変リスクをもつ症例に対しては,積 極的に関節可動域練習を実施すべきである。一方で,下肢創傷 が存在する症例では慎重な対応が求められる。足底面に潰瘍が 存在する場合,足趾の関節可動域練習は足底腱膜や皮膚を牽引 するため創傷治癒を遅延させるリスクがある。また,足関節 の可動域練習に関しても,長母趾屈筋腱や長趾屈筋腱まで創 傷が達する場合,トレーニングが牽引刺激となる可能性があ る。感染がみられる場合,筋腱に沿って感染が上行する可能性 もある。創傷が存在する場合は,医師との緊密な連携が必要で ある。 6.歩行への介入 1)糖尿病足病変患者の歩行  糖尿病神経障害や足部潰瘍を合併した症例の歩行特性に関 して,Kanade ら54)が調査を行っている。糖尿病神経障害 (DMPN 群)23 例,足底部潰瘍(DFU 群)23 例,足部の部分 切断(PFA 群)16 例,下腿切断(TTA 群)23 例の身体活動 量と歩行時足底圧を比較した。DMPN 群と比較して,DFU 群, PFA 群,TTA 群で 1 日平均歩数,歩行速度,エネルギー消費 が減少していた。これらは下肢創傷症例や切断症例では,歩行 能力や活動量が制限されることを意味する。このように糖尿病 足病変患者は,歩行の質的,量的側面で障害を受ける。また, 糖尿病患者は,健常者より重複歩距離が短くなるとされてお り,歩行時の下肢筋活動が高く,筋収縮の遅延もみられる55)。 これは,歩行時の一歩の距離が短くなることを表しており,歩 行効率の低下を意味する。前述したように免荷装具装着時には 不安定性を考慮しなければならないが,糖尿病患者の歩行能力 自体が低いため不安定性が助長されている可能性がある。 2)歩行練習  上述のごとく糖尿病足病変患者では活動量が減少しており, これらは廃用症候群を招く可能性がある。さらに,糖尿病患者 では,関節可動域制限,筋萎縮,筋力低下,バランス障害など が生じる。これらを改善するための介入が必要である。Allet ら56)は,糖尿病患者に対して運動機能の改善を目的とした理 学療法が効果を発揮しうるか調査するために RCT を実施した。 71 例の糖尿病神経障害患者を対象として,理学療法の実施の 有無で 2 群にわけ,週 2 回の頻度で 60 分の理学療法を 12 週間 実施した。歩行スピード,静的,動的バランス能力,転倒恐怖 感,足関節背屈筋力,股関節屈曲可動域が対照群と比較して介 入群で改善した。介入終了 6 ヵ月後にもこれらの変化は維持さ れたままだった。以上のように糖尿病患者に対しても理学療法 は運動機能を改善する効果が認められる。  一方で,活動量の増加は足部への荷重量の増加となり,積算 圧は確実に増加するはずである。糖尿病足病変は,足部への局 所の荷重が発症に関与する。活動量の増加が,荷重量の増加に つながるならば発症も増加するはずである。Armstrong ら57) は,活動量が足部潰瘍形成に影響を及ぼすかを調査した。25 週 間の調査において,8%の症例で前足部足底における潰瘍が発 生した。潰瘍形成群は,平均 1 日歩数が有意に少なく,潰瘍形 成直前の平均 1 日歩数も増加していなかった。これは,潰瘍形 成において活動量の増加があまり関与していないことを示唆し ており,潰瘍形成と活動量増加の因果関係は明確ではないと考 えられる。しかし,臨床では装具を正しく使用しても歩行量の 増加から足部潰瘍形成に至る場面も経験する。一般的に足病変 リスクの高い症例に対して理学療法を実施する際には,荷重量 が増すことへの配慮は不可欠である。装具療法やフットウエア で免荷を達成することが重要であるが,運動の選択でもメカ ニカルストレスを避けることが求められる。これらを受けて, LeMaster らは,荷重を伴う理学療法と身体活動量増加をめざ した介入によって潰瘍形成に影響が及ぶか調査を行った58)。介 入群には,荷重を伴う下肢筋力強化練習やバランス練習,身体 活動量増加への介入を行った。全例,必要な治療用のフットウ

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エアを提供された。その結果,介入群では身体活動は維持され ていたが,非介入群では 1 日平均歩数,週間平均歩行時間が経 時的に減少した。さらに,12 ヵ月目の足部潰瘍形成が介入群 9 件,非介入群 9 件であり 2 群間に差がなかった。したがって, 足病変リスクが存在する症例でもフットウエアを正しく用いれ ば,荷重を行うトレーニングも不可能ではないと考えられる。 足病変リスクをもつ症例においても,足部を十分に保護し,積 極的に理学療法を行うべきである。ただし,下肢創傷を有する 症例においては,なによりも創傷治癒が優先されるため,活動 量の増加よりも免荷を優先すべきである。下肢創傷へストレス を加えないようにトレーニング内容を組み立てる必要がある。 おわりに  本稿では,糖尿病理学療法における足病変への介入に関して 臨床研究を中心に紹介した。本稿で述べたような理学療法士の 関与は,医師や看護師からも強く求められている。日本糖尿病 学会の診療ガイドラインや下肢救済・足病学会での組織構成の 中に理学療法やリハビリテーションという言葉が含まれてお り,一定以上の役割を期待されている7)。しかし,現時点で糖 尿病足病変への理学療法士の関与はけっして十分な状況ではな い。下肢創傷症例への直接的な関与の機会は少ないかもしれな いが,足病変リスクが存在する症例に対して他疾患を対象とし て理学療法を実施する場面は多くあると考えられる。我々が積 極的にリスクを把握し,介入を行うことで糖尿病や末梢動脈疾 患患者の下肢救済につながると考えている。 文  献 1) 厚生労働省平成 23 年国民健康・栄養調査報告.http://www.mhlw. go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h23-houkoku.html(2013 年 6 月 29 日 引用)

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参照

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