原 著 241
マドンナリリー(
Lilium candidum L.)の開花に及ぼす球周および
球根低温処理の影響と二度切り栽培の可能性
河原林和一郎
a*
静岡大学農学部 422-8529 静岡市駿河区大谷Influence of Circumference and Cold Treatment of Bulb on Flowering, and Possibility of Double
Harvesting of Lilium candidum L.
Waichiro Kawarabayashi
a*
Faculty of Agriculture, Shizuoka University, Shizuoka 422-8529
Abstract
In Madonna lily (Lilium candidum L.), the influence of the bulb size (circumference), temperature and length of cold treatment, and culture temperature on flowering was studied and the possibility of double harvesting was investigated. The minimum bulb size of Madonna lily for readiness to flower was about 5 cm in circumference. The bulb circumference yielding a high flowering rate and good flowering quality, with an about 80-cm plant height and around five flowers, was 10 cm or more for seasonal flowering and 20 cm or more for forced flowering at 4°C for 10 weeks. Furthermore, in the case of forcing, the possibility of producing a flowering bulb of a smaller size by carrying out two-stage cold treatment was recognized. Cold treatment of bulbs promoted shoot emergence and stem elongation, and 10-week cold treatment was sufficient for vernalization to flowering. The flowering rate with the 10°C, 10-week treatment was higher than that with the 2°C, 10-week treatment, but it was further improved by the addition of 2°C, 5-week treatment to 10°C, 5-week treatment. The marked requirement of chilling of a bulb for flowering at a 25°C cultivation temperature was suggested, and with cultivation at high temperatures, such as a constant 25°C or 35°C (day)/25°C (night), the abortion of flower buds and floral abnormalities occurred. Moreover, bulbs showing forced flowering within the year flowered again on receiving natural chilling and those flowering in January also did so with appropriate cold treatment. Therefore, on implementing forced culture at these flowering times, it was confirmed that flowers of Madonna lily could be double-harvested.
Key Words:abortion, commercial horticultural crops, flowering bulb, temperature on cultivation, vernalization temperature キーワード:アボーション,バーナリゼーション温度,開花球,栽培温度,生産(営利)園芸作物
緒 言
前報(河原林,2015)では,西洋において古くから親し まれているマドンナリリーの園芸生産を目的に,その栽培 試験を開始し,種子の発芽と発芽種子から得られた実生苗 の球根生育に及ぼす温度の影響や球根の生育過程を調査し た結果について報告した.一方,園芸生産を経営的に安定 させるためには,長期間継続的に出荷できる栽培法・作型 の開発が望まれる.多くの花卉では,育種による品種育成 以上に開花調節技術の開発によって,多様な作型を利用し た長期出荷が可能となっている(小西,2000).ユリにお いても,季咲き栽培の他に,球根の成熟促進あるいは休眠 打破法としての温湯処理,休眠打破やバーナリゼーション あるいは花茎生育伸長促進法としての低温処理,開花促進 あるいはバーナリゼーション効果の補足としての日長処理 (Roh・Wilkins, 1977a, 1977b),さらには発芽抑制法として の氷温貯蔵(高野,2006)などの各技術を組み合わせて開 花を調節する多様な促成栽培や抑制栽培の作型を利用した 周年生産が行われている. この促成栽培を含む各種作型に応用されるユリの開花調 節技術に関して,多くの研究がなされてきた(Beattie・ White, 1993; 小西ら,1988; Miller, 1993).しかし,マドン ナリリーの場合,Herklotz・Wehr(1969)の生育習性や球 根肥大の様相に関する報告,Rivieré(1978)の開花に対す る低温要求性や低温処理後の促成栽培時の成長点の組織学 的観察に関する報告などを除くと,開花調節に関連した試 験研究的な報告は見られない.そこで,我が国におけるマ ドンナリリーの切り花や鉢花生産の実用化をめざして本研 doi: 10.2503/hrj.14.241 2014 年 9 月 1 日 受付.2015 年 1 月 31 日 受理. 本研究の一部は園芸学会平成 18 年度秋季大会,19 年度秋季大 会および20 年度秋季大会で発表した.* Corresponding author. E-mail: [email protected]
究を行った.まず,それぞれの球根の種や品種には,開花 に必要な最小限の球根の大きさ・球重が存在するとも示唆 されており(Rees, 1966),開花や実用的な商品としての花 数確保に必要なマドンナリリーの球根の大きさ(球周)と, 作型開発にとって重要な開花調節技術の基礎となる球根低 温処理の温度と期間が生育・開花に及ぼす影響について検 討を行った. また,ユリ花芽の分化・発達の異常や停止に関する研究 は多く,その発生要因として,温度,光,養水分や成長調 節物質などのレベルの異常やアンバランスが挙げられてい る(Miller, 1993; Beattie・White, 1993).本報では,その原 生地がマケドニアから小アジア南端部を経て地中海東部沿 岸地域と推察される(Stearn, 1969; Turrill, 1954; Woodcock・ Coutts, 1935)マドンナリリーの花芽の分化・発達への高 温の影響を考慮して,栽培温度についても検討した. さらに,ユリでは生産(種苗)コストの低減や入手球根 不足時の作型への対応などを目的として,採花後の球根(切 り下球)を再利用して開花させる二度切り栽培も行われて いる.本栽培試験において,季咲き,促成いずれの場合も, 開花前後の茎基部で新球からの発芽がしばしば観察され た.この新球の伸長茎から2 番花を安定して開花させるこ とができれば,栽培コストの低減となり,生産の実用化に もつながると考えられる.そこで,マドンナリリーの二度 切り栽培の可能性について調査した.
材料および方法
1.定植球根の球周が開花に及ぼす影響 本栽培試験は,すべて静岡大学農学部附属地域フィール ド科学教育研究センターの藤枝フィールド(静岡県藤枝市) において行った. 1)季咲き栽培 2003 年 7 月~ 2004 年 2 月開始のりん片挿しで得られた 球根335 球を 2004 年 10 月 18 日に取り出し,根を除去後, 球周を測定した.10 月 22 ~ 23 日,各球根(球周 2.5 ~ 12.5 cm)を球根上の用土の厚みが 1 ~ 2 cm 程度になるよ うな深さで径15 cm 鉢に植え,無加温ガラス室(サイドを 開放し,5 月~ 10 月上旬は 8:00 ~ 16:00 までの 8 時間を 遮光70%の寒冷紗で被覆)に搬入した.鉢用土は化成肥 料(LM1 号(タケダ園芸(株)),N : P : K = 10 : 10 : 10)を 2 g・L-1添加した山土 : プラグミクス 360 = 1 : 1 の配合土と し,灌水は適宜行った.開花日を調査し,第1 花開花時に 草丈,茎径,蕾を含む花数および花径を測定した.なお, アボーション花や短小化した雌蕊,退化し数が減少した雄 蕊,幅が狭くなった花被片などを有する奇形花を異常花と して判定した.異常花と判定された花(蕾)数の和が花茎 の花(蕾)数総数の20%以上となったものを不良花茎と した. 2)促成栽培 2002 年 11 月~ 2003 年 4 月開始のりん片挿し由来子球 の無加温ガラス室での鉢栽培によって得られた二作養成球 根を2005 年 7 月 21 日に取り出した.根を除去し,球周測 定後,約1/4 容量の水を含むバーミキュライトを用土と す る 径7.5 cm 鉢 に 各 1 球, 合 計 271 球 根( 球 周 12.5 ~ 25.0 cm)を入れて,7 月 24 日から 65 日間低温処理(4°C 設定)した.処理中は用土が乾燥しないように,適宜,水 を噴霧した.9 月 27 日,処理球根を球根上の用土の厚み が1 ~ 2 cm 程度になるような深さで径 15 cm 鉢に移植後, 直ちにガラス室に搬入し,11 月 12 日から加温(最低温度 15°C 設定)を開始した.なお,試験期間中のガラス室内 の最低温度の平均は10 月上旬から下旬にかけて 17.6°C から13.9°C,11 月上旬 11.5°C,加温開始の 11 月中旬以降 15°C 前後を推移し,10 月 28 日から 11 月上旬の間には 10°C 未満の日が 4 日(9.0,9.0,8.5,7.0°C)あった.また, 11 月上旬の最高温度の平均は 29.4°C で,最高・最低温度 の日較差は期間中最も大きくなった.鉢用土,灌水,開花 調査は季咲き栽培と同様に行い,また,鉢土表面への茎軸 部位の出現を確認し出茎日とした. 2.球根の低温処理が出葉と出茎に及ぼす影響 2002 年 8 月~ 2003 年 6 月のりん片挿しで得られた子球 をサイドを開放した無加温ガラス室で鉢栽培し,球根を養 成した.2004 年 8 月 15 ~ 20 日に養成球根を取り出して根 を除去し,球周10 ~ 18 cm(平均 13.0 cm)の球根を球根 上の用土が1 cm 程度になるように径 9 cm 鉢に植え付けた. 試験開始まで,球根を植え付けた鉢を倉庫において管理し た.鉢用土はバーミキュライト単用とした.8 月 21 日に鉢 を2°C 冷蔵庫,6°C および 10°C 暗黒のインキュベーター に搬入し,5,7.5,10 および 12.5 週間の低温処理を行った. 低温処理における用土の湿度管理は1.2)と同様に行った. また,低温処理を行わない無処理区を設けた.無処理区の 鉢および低温処理終了後の鉢は,いずれも18°C・16 時間 日長・15,000 lx 設定のインキュベーターに搬入し,30 日間 栽培した.なお,インキュベーターの温度・日長の設定に ついては,テッポウユリの生育や開花に好適な条件(松川, 1988; Roh・Wilkins, 1977a, 1977b; Smith・Langhans, 1962)を 参考にした.供試数は2°C・12.5 週区では 13 球,10°C・ 12.5 週区では 12 球とし,これ以外の区ではすべて 14 球と した.低温処理終了時の出葉している低出葉枚数と栽培30 日目の出茎球根数,茎長,葉数を調査した.7.5 週間以上 の各低温処理区については処理終了時に最長の低出葉につ いて葉長も測定した.栽培期間中,適宜潅水を行った. 3.球根の低温処理が促成栽培における開花に及ぼす影響 サイド開放の無加温ガラス室での鉢栽培で養成した 2004 年 12 月りん片挿し由来球根(球周 10 ~ 18 cm,平均 13.2 cm)を 2006 年 8 月 9 日に取り出し,2.と同様にし て8 月 15 日から 2°C,6°C,10°C の低温処理を行った. 低温処理区は,6°C あるいは 10°C の 5 週間処理(9 月 19 日出庫),2°C,6°C あるいは 10°C の 10 週間処理(10 月 24 日出庫),さらに,6°C あるいは 10°C で前半 5 週間処理後,後半5 週間を 2°C とする 10 週間処理(10 月 24 日 出庫)の7 区を設定し,5 週間処理区は各 11 球,10 週間 処理区は各20 ~ 22 球を供試した.低温処理終了後,球根 を1.1)と同様の深さで径 15 cm 鉢に移植して,直ちにガ ラス室に搬入し,11 月 1 日から加温(最低温度 15°C 設定) を開始した.鉢用土の作成,灌水,出茎および開花調査(4 月19 日終了)は 1.2)の促成栽培と同様に行った.また, 10 週間処理区については,2°C,6°C,10°C および 6°C 後 2°C,10°C 後 2°C 処理区の球根で得られた開花率を球周 10 ~ 12.5 cm(各温度処理区 9,8,9,9,9 球),12.5 ~ 15 cm(各温度処理区 6,9,9,8,9 球),15 ~ 18 cm(各 温度処理区5,3,3,5,4 球)の球周別にまとめ比較した. 4.球根の低温(2°C)処理期間と栽培温度が茎の伸長と 開花に及ぼす影響 2004 年 10 月 20 日に,りん片挿し由来の養成球根(平 均球周9.8 cm)を 1.1)と同様の深さで径 15 cm 鉢に移植し, サイドを開放した無加温ガラス室で栽培した.2005 年 10 月22 日,ガラス室から鉢を搬出して直ちに(0 週)ある いは低温処理後に,15°C あるいは 25°C の 16 時間日長・ 15,000 lx 設定のインキュベーターに搬入し栽培を継続し た.低温処理は2°C で 5 週間および 10 週間とし,25°C 栽 培では15 週間の処理も加えた.各区 13 ~ 16 球(鉢)を 供試した.鉢用土の作成やインキュベーター内も含めた灌 水などの栽培管理,出茎および開花調査は1.と同様に行 い,出蕾についても調査した.また,蕾を含む花数3 個以 下の花茎を寡少花茎,異常花と判定された花(蕾)数の和 が花(蕾)数総数の20%以上となる花茎を不良花茎とした. 寡少花茎と不良花茎を除く開花茎については第1 花開花時 に草丈,茎径,蕾を含む花数,花径を測定した.調査は 2006 年 9 月 21 日に打ち切った. 5.栽培温度が花芽の発達と開花に及ぼす影響 2007 年 11 月 3 ~ 9 日,りん片挿し由来の養成球根(平 均球周20.9 cm)を 1.1)と同様の深さで径 15 cm 鉢に植え 付け,サイド開放の無加温ガラス室で栽培した.2008 年 4 月11 日,実体顕微鏡での観察によって,伸長中の茎先端 成長点における第1 花芽が,雌蕊形成段階にあることを確 認した(第1 図 C,D).2008 年 4 月 18 日,先端部が丸み を帯びて膨らみ着蕾が推測される茎(第1 図 A,B)が 1 本伸長した鉢を選定し,16 時間日長・15,000 lx 設定のイ ンキュベーターに搬入した.インキュベーターを明期/暗 期それぞれで35 / 25°C,30 / 20°C および 25 / 15°C に 設定した3 区を設け,各区 11 ~ 14 鉢を供試した.鉢用土 の作成やインキュベーター内も含めた栽培管理は1.と同 様に行い,生育開花調査は4.と同様とした. 6.二度切り栽培試験 1)試験 1(2006 年二度切り採花) 2005 年 9 月 27 日,低温処理球根(4°C・9.5 週間,平均 球周19.5 cm)を 1 球ずつ 1.1)と同様の深さで径 15 cm 鉢 に植え付け,加温ガラス室(最低温度15°C 設定)におい て促成栽培を行った.12 月 18 日~ 24 日(21 鉢,平均 12 月22 日:12 月区)および 12 月 28 日~ 2006 年 1 月 14 日(22 鉢,平均1 月 7 日:1 月区)に,葉を着生した茎基部 5 cm 程度を残し採花した開花鉢を,それぞれ12 月 27 日と 1 月 17 日に加温ガラス室から搬出し,戸外の自然低温下で栽 培管理した.2 月 27 日,両搬出日の鉢を再度最低夜温 15°C に加温したガラス室に搬入して栽培を継続し,2 月 末二度切り栽培開始球根における自然低温遭遇期間の開花 への影響を検討した.なお,12 月 27 日~ 1 月 16 日,1 月 17 ~ 31 日,2 月 1 ~ 15 日,2 月 16 日~ 27 日の戸外の平 均気温はそれぞれ5.9°C,6.3°C,6.4°C,10.3°C と推移した. 2)試験 2(2007 年二度切り採花) 2006 年 9 月 13 日~ 10 月 26 日,低温処理球根(2°C・10 ~14 週間,平均球周 14.3 cm)を 1 球ずつ 1.1)と同様の 深さで径15 cm 鉢に植え付け,加温ガラス室(最低温度 15°C 設定)において促成栽培を行った.12 月 22 日~ 2007 年 2 月 20 日(平均 1 月 25 日:冷蔵区,1 月 29 日: 無処理区)にかけて試験1 と同様にして採花した株の鉢を 供試し,2 月下旬促成栽培終了球根を用いた二度切り栽培 での低温処理の効果を検討した.冷蔵区では,2 月 23 日 に前述の加温ガラス室から搬出し,10°C で 5 週間処理後, 2°C で 5 週間処理する低温処理を実施して(34 鉢),5 月 4 日にサイドを開放した無加温ガラス室へ搬入した.無処 理区として,2 月 23 日に前述の加温ガラス室から直ちに サイドを解放した無加温ガラス室に移動し栽培する区を設 けた(22 鉢). 2)試験 3(2008 年二度切り採花) 2007 年 9 月 18 日に低温処理球根(2°C・10 週間,平均 球周17.0 cm)を 1 球ずつ 1.1)と同様の深さで径 15 cm 鉢 に植え付け,加温ガラス室(最低温度15°C 設定)におい て促成栽培を行った.12 月 3 日~ 2008 年 1 月 2 日にかけ て試験1 と同様にして採花した株の 15 鉢を 1 月 4 日に加 温ガラス室から直ちにサイドを開放した無加温ガラス室に 第1 図 2008 年インキュベーター栽培試験供試球根 (A) 茎が伸長し着蕾が推測される供試球根(4 月 18 日) (B) 茎先端部が肥大し着蕾が推測される供試球根(4 月 18 日) (C) 伸長茎先端部で形成された花蕾(未展開葉除去, 4 月 11 日) (D) 花蕾内の第 1 花芽分化状態(外花被原基除去,中央 部で雌蕊の形成開始,4 月 11 日)
移動して,1 月初旬促成栽培終了球根を直ちに二度切り栽 培に供試し,その開花を調査した. 各栽培試験において,鉢用土の作成,灌水などの栽培管 理は1.と,また,生育開花調査は 4.と同様に行った.
結 果
1.定植球根の球周が開花に及ぼす影響 1)季咲き栽培 第1 表に見られるように,球周 5 cm 未満球根では 122 球中8 球の 6.6%しか開花しなかったのに対し,5 ~ 7.5 cm では83 球中 60%の球根で開花が見られた.さらに,7.5 cm 以上になると90%以上の球根が開花し,不良花茎の発生 は3%程度であった.また,小球で,開花が遅れ,茎が細 くなる傾向も見られた.しかし,草丈,花数,花径につい ては有意差が認められなかった.球周10.0 ~ 12.5 cm の球 根では37 球中 35 球が開花し開花率 94.6%となり,草丈 77.8 cm,花数 5 個以上の切り花が得られた. 2)促成栽培 供試球根全体でまとめた出茎の経時変化を第2 図に示し た.出茎は栽培開始3 週目の 10 月中旬から見られた.栽 培5 週間を経過した 10 月末までに最終出茎総数(171 本) の55.6%が出茎しており,7 週間後の 11 月中旬には 90% 出茎に達した.一方,11 月上旬になると,速やかに伸長 していた茎の先端付近が黄白色化してくるものも見られ た.これらの茎先端部は,次第に褐変が進み枯死した(第 3 図 A).このような茎先端の枯死した株は,10 月末まで に出茎した株で多く生じ,95 本の茎の 70.5%(67 本)で, 茎の先端部位が枯死した(第2 図).出茎の様相を球周別 に見ると,大球ほど出茎する球根が多く,出茎自体も早く なり,球周17.5 cm 以上の球根における 50%出茎日は 10 月末までだったのに対し,球周15 cm 未満の球根では 11 月14 日であった(第 2 表).一方,最も出茎の早かった球 周22.5 cm 以上の球根における茎の先端枯死率は 75%と最 も高くなり,球周17.5 ~ 22.5 cm の球根においても約半数 の株で茎の先端部位が枯死したのに対し,球周15 cm 未満 の球根では伸長した茎の先端枯死率は0%であった.生育 途中で先端部枯死の見られなかった茎については,球周に かかわらず,その大部分が出茎から4 ~ 5 週間で出蕾し, その後,約1 か月余で正常に開花した.このため,球周に より出茎時期が異なるにもかかわらず結果的に到花日には 第1 表 定植球根の球周が季咲き栽培における開花に及ぼす影響 球周 (cm) 供試数 (球) 開花 (球(%)) 不良花茎z (球(%)y) 到花日数x (日) 草丈w (cm) 茎径v (mm) 花数 (個) 花径 (cm) 2.5 ~ 5.0 122 8(6.6) 1(12.5) 230au 66.7 4.2a 3.4 8.6 5.0 ~ 7.5 83 50(60.2) 4(8.0) 224b 73.1 4.7ab 4.5 9.0 7.5 ~ 10.0 93 84(90.3) 3(3.6) 222c 75.7 4.9ab 4.9 8.6 10.0 ~ 12.5 37 35(94.6) 1(2.7) 219d 77.8 5.2b 5.2 8.9 有意性t ― ― ** n.s. * n.s. n.s. z 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が花茎総花数の 20%以上となった花茎 y(不良花茎球数/開花球数) × 100 x 定植から第 1 花開花までの日数 w 鉢土表面から最上位蕾先端までの長さ v 茎長(= 鉢土表面から最上位葉までの長さ)の中央部位での太さu 同列内の異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
t 分散分析あるいは Kruskal Wallis H-test により,** は 1%水準,* は 5%水準で有意差あり,n.s. は 5%水準で有意差なしを示す
第2 図 促成栽培xにおける出茎数とその茎先端枯死数の経 時変化 z 当該栽培日に出茎したもので,その後の伸長生育中 に先端部位が枯死した茎の数 y 11 月 12 日から 15°C 設定の加温開始 x 7 月 24 日から 4°C で 65 日間処理し,9 月 27 日に定植 第3 図 促成栽培試験における(A)茎先端枯死株(12 月 14 日)と(B)切り花(12 月 23 日)
球周による差が見られなくなり,平均開花日は1 月 7 ~ 16 日となった.なお,球周 15 cm 以上の球根では年内の 開花も見られ(第3 図 B),その割合は開花個体全体の 27%であった(データ省略).開花個体の草丈,茎径,花 数は,それぞれ53.1 ~ 83.2 cm,4.5 ~ 5.9 mm,3.4 ~ 6.8 個の範囲にあり,大球ほど大きくなる傾向が見られ,球周 20 cm 以上の球根では草丈 75 cm,花数 5 個以上の切り花 が得られた. 2.球根の低温処理が出葉と出茎に及ぼす影響 低温処理の温度と期間が球根からの出葉(低出葉と茎出 葉)と出茎に及ぼす影響についてまとめた結果を第3 表に 示した.処理終了時には無処理区以外のすべての球根で低 出葉が出葉しており,10°C 処理区での葉枚数がやや多い ものの,低温処理の温度や期間による有意差はなく,最も 低温・短期間の2°C・5 週間処理区においても 5.1 枚の出 葉が見られた.低温処理終了時の低出葉の長さを調査した 7.5 週間以上の低温処理各区では,低出葉の長さには処理 の期間よりも温度の影響が大きかった.6°C および 10°C では,いずれの処理期間でも低出葉の最大長は20 cm を超 え,多くの葉が倒伏していた.インキュベーターにおける 第2 表 定植球根の球周が促成栽培における出茎と開花に及ぼす影響 球周 (cm) 供試数 (球) 出茎 (球) 50%出茎日 (月・日) 先端枯死茎率 (%)z 開花 (球(%)y) 不良花茎x (球(%)w) 到花日数v (日) 草丈u (cm) 茎径u (mm) 花数 (個) 花径 (cm)
12.5 ~ 15.0 55 10at 11・14 0 9(90.0) 0(0) 91 53.1a 4.5a 3.4a 8.5
15.0 ~ 17.5 70 41a 11・7 24.4 31(100) 0(0) 90 65.0ab 4.8ab 4.1a 8.5
17.5 ~ 20.0 74 54b 10・31 46.3 28(96.6) 0(0) 85 74.2b 5.2bc 4.5ab 8.7 20.0 ~ 22.5 52 46b 10・31 52.2 20(83.3) 1(5.0) 82 75.5b 5.6c 5.7bc 8.8 22.5 ~ 25.0 20 20b 10・27 75.0 5(100) 0(0) 86 83.2b 5.9c 6.8c 8.6 有意性s * ― ― ― ― n.s. * * * n.s. z (茎先端枯死球数/出茎球数) × 100 y (開花球数/茎生存球数) × 100 x 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が総花数の 20%以上となった花茎 w (不良花茎球数/開花球数) × 100 v 定植から第 1 花開花までの日数 u 第 1 表参照
t 同列内の異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
s 分散分析あるいは Kruskal Wallis H-test により 5%水準で,* は有意差あり,n.s. は有意差なしを示す
第3 表 低温処理の温度と期間が球根からの出葉と出茎に及ぼす影響z 低温処理 供試数(球) 低温処理終了時 栽培開始30 日後 温度(°C) 期間(週) 葉数(枚) 最長葉長y(cm) 出茎(球) 茎長x(cm) 葉数w(枚) 2 5 14 5.1 ― 0a ― 9.5a 7.5 14 5.1 7.4av 0a ― 14.4ab 10 14 5.7 9.7a 0a ― 13.7ab 12.5 13 7.8 11.7ab 8bc 1.5a 28.7bc 6 5 14 6.0 ― 0a ― 8.1a 7.5 14 6.1 23.1c 0a ― 15.4ab
10 14 7.7 20.9bc 6ab 0.6a 21.8abc
12.5 14 5.8 24.1c 14c 3.4ab 34.1c
10 5 14 8.6 ― 0a ― 9.6a
7.5 14 7.1 22.7c 0a ― 11.6a
10 14 8.5 22.9c 5ab 0.8a 24.2abc
12.5 12 9.5 24.8c 11c 4.8b 34.2c 無処理 14 ― ― 0a ― 9.6a 有意性u n.s. ** * ** * z サイド開放の無加温ガラス室で養成し 8 月 15 ~ 20 日に取り出した球根(球周 10 ~ 18 cm,平均 13 cm)を 8 月 21 日から各 試験期間の低温処理し,処理終了後直ちに,18°C・15,000 lx・16 時間日長に設定したインキュベーター内で栽培 y 各低温処理終了時に出葉していた低出葉中で最長葉の平均,5 週間処理区については未測定 x 葉を除き肉眼で確認できる鉢土表面から茎部位先端までの長さ w 栽培 30 日後の出葉した低出葉と茎出葉の合計
v 同列内の異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
栽培開始30 日後での観察では,2°C での 12.5 週間処理な らびに6°C,10°C での 10,12.5 週間処理の各区で出茎が 認められ,6°C と 10°C の低温処理で出茎は明らかに速や かであった(第3 表,第 4 図).栽培開始 30 日後における 低出葉を含む葉数は,無処理球の9.6 枚に対し,6°C ある いは10°C の 12.5 週間処理球では約 34 枚に増加した(第 3 表).この顕著な葉数増加の傾向は,伸長した茎の茎出 葉の展開によるものであった(第4 図). 3.球根の低温処理が促成栽培における開花に及ぼす影響 10 週間の低温処理終了時の球根の出葉状況を第 5 図に 示した.6°C や 10°C の 10 週間処理での葉の倒伏は,処理 後半5 週間を 2°C とすることで,前半 6°C 区では完全に, 前半10°C 区でもほぼ抑制できた.6°C および 10°C での 5 週間処理球根の出茎は他区より遅く,栽培157 ~ 171 日目 頃(10°C で 2 月下旬,6°C で 3 月上旬)から漸く認めら れるようになり(第4 表,第 6 図),4 月 19 日の調査打 ち切り時点においても,出茎するものが見られた.2°C, 6°C,10°C の 10 週間処理球根では,いずれの処理温度で も加温ガラス室での栽培開始後38 ~ 59 日過ぎの 12 月に は出茎が見られ,最終出茎率の25%から 75%に到達する 出茎期間は7 ~ 14 日であった.その出茎率と開花率につ いては,2°C,6°C 処理球根のそれぞれ 50.0%と 45.0%, 52.4%と 42.9%に対し,10°C 処理球根は 94.4%と 85.0% であった.さらに,前半6°C あるいは 10°C で 5 週間処理 した後,後半5 週間を 2°C とした球根の出茎率と開花率は, それぞれ77.3%と 72.7%,100%と 100%になった(第 4 表). 第4 図 低温処理の温度と期間が球根からの出葉と茎の伸長に及ぼす影響z(栽培30 日y) z 無加温ガラス室において,2002 年 8 月~ 2003 年 6 月のりん片挿しで得られた子球を 2003 年 1 月以降に順次鉢上げし, 一作あるいは二作養成した球根(球周10.0 ~ 18.0 cm;平均 13.0 cm)を 2004 年 8 月 15 ~ 20 日に取り出し,供試した. 根を除去した球根を径9 cm 鉢に植え付けた後,低温処理を行った.処理終了後,18°C・16 時間日長・15,000 lx に設定 したインキュベーター内に搬入して栽培 y 5 週間処理および 7.5 週間処理については,各温度区とも 2°C 10 週間処理区と同様,低出葉のみの出葉であり,図を省略 第5 図 低温処理z終了時の出葉状況y z 2°C・大型冷蔵庫および 6°C・10°C 設定インキュベーターを使用し,暗黒で処理 y 6°C および 10°C の 5 週間処理については,2°C 10 週間処理区の状況と同様であり,図を省略
開花率が25%から 75%に到達した期間について見ると, 2°C・10 週間処理で 42 日,6°C および 10°C の各 10 週間 処理で14 日,6°C あるいは 10°C で 5 週間処理後に 2°C で 5 週間処理した各区では,それぞれ 18 日と 28 日であった (第4 表).また,花径以外の草丈,花数などの形質や到花 日数に処理間の有意差は認められなかった(第4 表,第 6 図).2,6,10°C で 10 週間処理した各区ならびに 6°C あ るいは10°C で 5 週間処理後,2°C で 5 週間処理した両区 の開花個体全体の平均は,到花日数110 日,草丈 57.8 cm, 茎 径4.7 mm,花数 3.3 個,花径 9.1 cm であった.また, これらの10 週間処理球根の開花率を球周別に見てみると, 球周が小さくなるにつれ,開花率への処理の影響がより大 きくなる傾向が見られた(第7 図).球周 15 cm 以上球根 の場合,2°C・10 週間処理球根では開花率が 80%となっ 第6 図 低温処理の温度と期間が開花に及ぼす影響z(1 月 24 日y) z 15°C 設定の加温ガラス室内で径 15 cm 鉢を用いて栽培 y 5 週間処理球根では栽培開始 127 日目,10 週間処理球根では栽培開始 92 日目に相当 第4 表 低温処理の温度と期間が促成栽培における開花に及ぼす影響z 処理 供試数 (球) 出茎 日数y (日) 出茎率 (%) 出茎 期間x (日) 開花 (球(%)) 開花 期間x (日) 不良 花茎w (球(%)v) 到花 日数u (日) 草丈t (cm) 茎径t (mm) 花数 (個) 花径 (cm) 6°C 5 週間 11 171as 27.3 ― ― ― ― ― ― ― ― ― 10°C 5 週間 11 157a 81.8 ― ― ― ― ― ― ― ― ― 2°C 10 週間 20 59b 50.0 14 9(45.0) 42 1(11.1) 118 53.8 4.6 3.0 8.3a 6°C 10 週間 21 59b 52.4 7 9(42.9) 14 0(0) 106 61.4 4.6 3.4 9.0ab 6°C 5 週間 2°C 5 週間 22 45b 77.3 7 16(72.7) 18 2(12.5) 106 53.7 4.7 3.5 9.2ab 10°C 10 週間 20 38b 94.4 7 17(85.0) 14 0(0) 110 60.1 4.6 2.9 9.7b 10°C 5 週間 2°C 5 週間 22 45b 100 14 22(100) 28 0(0) 111 59.1 4.8 3.6 9.1ab 有意性r ** ― ― ― ― ― n.s. n.s. n.s. n.s. ** z 4 月 19 日で測定調査を打ち切り y 定植から出茎までの日数 x 出茎あるいは開花の 25%から 75%までの日数,6°C および 10°C の 5 週間処理区の出茎期間は 4 月 19 日の調査打ち切り時点でも出 茎が継続していたため省略 w 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が総花数の 20%以上となった花茎 v (不良花茎球数/開花球数) × 100 u 定植から第 1 花開花までの日数 t 第 1 表参照
s 異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
たが,他の処理区の球根はすべて開花した.一方,球周10 ~12.5 cm の球根では,2°C,6°C,10°C 処理区の各開花 率は,22.2,37.5,66.7%となり,処理温度が低いほど低 下した.さらに,6°C あるいは 10°C・10 週間の処理と比 較して,それぞれ6°C あるいは 10°C の 5 週間処理に 2°C の5 週間処理を組み合わせることで,その開花率は 55.5% と100%まで向上した. 4.球根の低温(2°C)処理期間と栽培温度が茎の伸長と 開花に及ぼす影響 2°C 処理の期間とその後の栽培温度が茎の伸長と開花に 及ぼす影響について調査した結果を第5 表に示した.栽培 温度15°C の場合,低温処理の有無,期間にかかわらず, 球根からの茎の伸長が見られ,出茎率は93%程度となっ た.一方,出茎後に出蕾する茎の割合は,0 週間,5 週間 処理で各58.3%,53.3%,10 週間処理は 92.9%であった. 出蕾後はほぼ開花に至るものの,0 週間処理では,開花し た7本の花茎中3本が寡少花茎あるいは不良花茎となった. 出蕾・開花は低温処理によって早められ,到花日数は0 週 間処理の290 日に対し 10 週間処理で 115 日と大幅に短縮 された.正常に開花した花茎の開花形質については,低温 処理期間が長くなるにつれて草丈が低く葉数が少なくなる 傾向が見られた以外,有意差は認められなかった.一方, 栽培温度25°C の場合,0 週間処理球根での茎の伸長は見 られず,5 週間処理区でも出茎率は 14.3%と低かった.10 週間処理した球根の53.3%では茎の伸長が見られたが,そ の半数は出蕾したものの開花に至らなかった.また,15 週間処理した球根の80%が茎を伸長し,その約 1/3 で開花 したもののすべて寡少花茎あるいは不良花茎であった. 5.栽培温度が花芽の発達と開花に及ぼす影響 花芽分化時期以降の栽培温度が開花に及ぼす影響につい て調査した結果を第6 表に示した.35(明期)/ 25(暗期) °C 栽培では,開花に至る茎の割合が 28.6%と少なくなった. また,開花茎1 本に形成される花(蕾)数は多いものの, すべて花被片が奇形化して細く開きの悪い異常花となるた め,その花径は4.4 cm と明らかに小さかった.一方,30 / 第7 図 低温処理の温度と期間および処理球根の球周が促成 栽培における開花率に及ぼす影響z z 無加温ガラス室において,2004 年 12 月のりん片挿し で得られた子球を2005 年 4 月に径 9 cm 鉢に鉢上げし, さらに10 月に径 15 cm 鉢へ鉢替えして養成した球根 (球周10.0 ~ 18.0 cm)を 2006 年 8 月に取り出し,供試 した.10 月 24 日の低温処理終了後,直ちに径 15 cm 鉢に植え付けてガラス室に搬入・栽培し,2007 年 4 月 19 日まで調査した.ガラス室の加温は 11 月 1 日から 最低温度15°C に設定して行った y 供試球根数 第5 表 茎の伸長と開花に及ぼす低温(2°C)処理期間と栽培温度の影響 栽培 温度 (°C) 処理 期間 (週) 供試数 (球) 出茎 (球(%)) 出蕾 (球(%)z) 開花 (球(%)y) 寡少 花茎x (球) 不良 花茎w (球) 到花 日数v (日) 開花形質u 草丈 (cm) 葉数t (枚) 茎径 (mm) 花数 (個) 花径 (cm)
15 0 13 12(92.3) 7(58.3) 7(58.3) 1 2 290as 94.8a 133.3a 5.6 6.3 9.2
5 16 15(93.8) 8(53.3) 7(46.7) 1 0 175b 84.1ab 58.3b 5.7 6.3 8.5 10 15 14(93.3)13(92.9)11(78.6) 0 1 115c 65.9b 64.9b 5.1 5.0 8.7 25 0 13 0 (0) ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 5 14 2(14.3) 0 (0) ― ― ― ― ― ― ― ― ― 10 15 8(53.3) 4(50.0) 0 (0) ― ― ― ― ― ― ― ― 15 15 12(80.0) 9(75.0) 3(20.0) 1 2 62c ― ― ― ― ― 有意性r ― ― ― ― ― ** * ** n.s. n.s. n.s. z (出蕾茎数/出茎本数) × 100 y (開花茎数/出茎本数) × 100 x 花(蕾)数 3 個以下の花茎 w 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が総花数の 20%以上となった花茎 v 処理終了後インキュベーター内への搬入・栽培開始から第 1 花開花までの日数 u 寡少花茎と不良花茎を除く t 低出葉と茎出葉の合計
s 同列内の異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
20°C,25 / 15°C 栽培で生育した茎はすべて開花し,35 / 25°C と比較し異常花数が少なかった.また,寡少花茎と不 良花茎を含むすべての開花球根の到花日数,草丈について は栽培温度による差が認められなかった. 6.二度切り栽培試験 二度切り栽培試験1(2006 年採花),試験 2(2007 年採花) および試験3(2008 年採花)の供試鉢の前歴とその栽培結 果を,それぞれ第7 表と第 8 表に示した.二度切り栽培の 各試験区では,81.0 ~ 97.1%の出茎が見られ,試験 1 の処 理区間内,試験2 の処理区間内の出茎する鉢数および茎数 に,それぞれ有意差はなかった.試験1 の 1 月 17 日に搬 出して自然低温に遭遇させた鉢(1 月区)では,出茎から 開花に至る茎数が23 本中 10 本であり,その不良花茎は 6 本となった.一方,12 月 27 日に搬出して自然低温に遭遇 させた鉢(12 月区)では,出茎した 18 本の茎中 13 本で 開花し,そのうち寡少花茎と不良花茎は合わせて3 本で あった.また,12 月 27 日搬出鉢(12 月区)と比較し,1 月17 日搬出鉢(1 月区)では到花日数が長くなった.試 験2 の 1 月下旬に採花した後に低温処理しなかった鉢(無 処理区)では,採花後に10°C で 5 週間処理後 2°C で 5 週 間の低温処理をした鉢(冷蔵区)と比較し,開花に明らか な差が認められた.すなわち,前者では開花茎の数が少な く,出茎した30 茎中 3 本しか開花せず,そのうち 2 本は 不良花茎であった(第8 表,第 8 図).試験 2 の低温処理 鉢(第8 図)と試験 3 の 12 月中旬に採花し,低温処理せ ず直ちに二度切り栽培した鉢で出茎した茎では,それぞれ 45 本中 42 本,14 本中 13 本と 90%以上が開花した.その うち,前者では寡少花茎および不良花茎が各2 本と 4 本, 後者では不良花茎が2 本となった.また,試験 1.,2.で 開花茎の多い12 月区,冷蔵区および試験 3.の開花は, それぞれ6 月 1 日,7 月 1 日および 6 月 8 日であり,草丈 90 cm 以上,健全な花数 5.8 個以上の開花茎が得られた. 第6 表 花芽の発達と開花に及ぼす栽培温度の影響 栽培温度 明期/ 暗期 (°C) 供試茎数 (本) 開花茎 (本(%)z) 花数y (個) 異常花数x (個(%)w) 寡少花茎v (本) 不良花茎u (本) 到花日数t (日) 開花形質s 草丈 (cm) 茎径 (mm) 花径 (cm)
35/25 14 4(28.6) 9.5ar 9.5a(100) 0 4 30 75.3 6.9a 4.4a
30/20 11 11(100) 6.1b 1.7b(28.4) 0 6 29 79.3 5.5b 8.2b 25/15 13 13(100) 6.8ab 1.5b(21.3) 1 3 32 82.3 6.2ab 8.2b 有意性q ― * * ― ― n.s. n.s. * ** z (開花茎数/供試茎数) × 100 y 開花茎当たりの花(蕾)数 x 開花茎当たりのアボーション花蕾あるいは奇形花数 w (異常花数/花数) × 100 v 花(蕾)数 3 個以下の花茎 u 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が総花数の 20%以上の花茎 t インキュベーター内への搬入・栽培開始から第 1 花開花までの日数 s 寡少花茎と不良花茎を含む開花茎
r 同列内の異なる英文字間には Scheffe’s F test あるいは Mann-Whitney U-test with Bonferroni correction により有意差あり
q 分散分析あるいは Kruskal Wallis H-test により,** は 1%水準,* は 5%水準で有意差あり,n.s. は 5%水準で有意差なしを示す
第7 表 二度切り栽培試験供試鉢の前歴 試験区 供試数 (鉢) 促成栽培 二度切り栽培試験 定植球根球周 (cm) 平均開花日z (月・日) 搬出日y (月・日) 低温処理 搬入日 (月・日) 試験1 (2006 年採花) 12 月区 21 19.7 12・22 12・27 戸外(自然低温) 2・27x 1 月区 22 19.3 1・7 1・17 戸外(自然低温) 2・27x 試験2 (2007 年採花) 無処理区 22 14.3 1・29 2・23 無し 2・23w 冷蔵区 34 14.3 1・25 2・23 冷蔵(10°C・5w →2°C・5w) 5・4 w 試験3 (2008 年採花) 15 17.0 12・17 1・4 無し 1・4w z 葉を着生した茎基部 5 cm 程度を残し採花 y 15°C に設定した促成栽培加温ガラス室からの搬出日 x 15°C に設定した加温ガラス室への搬入 w サイドを開放した無加温ガラス室への搬入
考 察
植物体は幼期を終了して花熟状態となるために一定の齢 (通常は大きさ)に到達する必要があり,また一般的に, 催花後の花芽の発達・完成(すなわち最終的に花数に反映 さ れ る ) も 植 物 体 の 大 き さ と 関 係 す る( リ ュ ン ガ ー, 1978).試験 1.1)の開花率を見ると,球周 5 cm 未満の球 根ではほとんど開花が見られなかったのに対し,球周5 ~ 7.5 cm の球根では 60%の開花率が得られ,球周 7.5 ~ 12.5 cm の球根では開花率が 90%を超えている(第 1 表). このことから,マドンナリリーでは球周5 cm 程度に肥大 する頃には,球根は花芽の誘導・発達に必要な生理状態に 達しており,さらに開花に好適な条件が整うと開花に至る と考えられる.一方,園芸植物の切り花や鉢花の良品生産 のためには,植え付ける植物体の大きさと到花日数や花数 などの開花との関係を知ることが重要である.ユリにおい ても,テッポウユリを中心に球根の大きさ(球重や球周) が開花に及ぼす影響についての報告がなされている(De Hertogh ら,1969,1976; Kohl, 1967; Langhans・Weiler, 1967; Roh・Choi, 1981).例えば De Hertogh ら(1969)の実験に おいて,テッポウユリの促成鉢花栽培で花数5 輪を確保す るために,‘Ace’では球周 17 cm の球根で十分であるが, ‘Nellie White’では球周 20 cm 以上の球根が必要であった. 我が国における‘ひのもと’を主としたテッポウユリの切 り花栽培の場合,年内出荷をめざす作型に使用する球根の 大きさは,L サイズ(球周 22 cm 以上)あるいは M サイ ズ(球周19 ~ 22 cm)となる(小林,1993).また,オリ エンタル系ユリの栽培において,5 ~ 6 輪の開花株を得る 第8 図 促成栽培開花後の低温処理が二度切り栽培での開花に及ぼす影響(試験 2z) z 15°C 設定で加温した促成ガラス室で採花(A)後の 2 月 23 日に搬出し,所定の処理を実施後,サイドを解放した無加温 ガラス室へ搬入して,二度切り栽培を実施 (B)無処理区(搬出直後の 2 月 23 日に搬入) (C)冷蔵区(低温処理終了後の 5 月 4 日に搬入) 第8 表 二度切り栽培における出茎と開花 試験区 出茎 (鉢(%)) 茎数 (本)z 開花 (本)z 寡少 花茎y (本) 不良 花茎x (本) 到花 日数w (日) 開花日 (月・日) 開花形質v 草丈 (cm) 茎径 (mm) 花数 (個) 花径 (cm) 試験1 (2006 年採花) 12 月区 17(81.0) 1 月区 19(86.4) 1823 1310 10 62 94114 6/216/1 109.2117.3 6.56.8 6.38.3 9.48.8 有意性u n.s. n.s. n.s. ― ― ** ― n.s. n.s. ** n.s 試験2 (2007 年採花) 無処理区 21(95.5) 30 3 0 2 145 7/18 113.0 8.5 15 9.8 冷蔵区 33(97.1) 45 42 2 4 58 7/1 90.2 5.5 5.8 9.2 有意性 n.s. n.s. ** ― ― ― ― ― ― ― ― 試験3 (2008 年採花) 14(93.3) 14 13 0 2 128 6/8 92.4 6.6 8.5 9.2 z 試験区の合計本数 y 花(蕾)数 3 個以下の花茎 x 異常花(アボーション花蕾と奇形花)数が総花数の 20%以上の花茎 w 二度切り栽培開始(ガラス室への搬入)日から第 1 花平均開花日までの日数 v 寡少花茎と不良花茎を除くために,一部品種で球周20 ~ 22 cm の球根を必要とするが, 多くの品種では球周16 ~ 18 cm の球根で各作型に対応で きるとされている(高野,2006).マドンナリリーの場合, その花は小花柄が短く穂状花序に近く,同じ白花横向き咲 きで花径14 ~ 15 cm のテッポウユリと比較し,花径 8 ~ 10 cm と小輪である.このため,テッポウユリの切り花は 花数3 輪前後のものが好まれるのに対し,マドンナリリー では5 ~ 6 輪以上の花数が望ましいと予想される.開花に 及ぼす球周の影響を検討した1.1)の結果を見ると,球 周10 ~ 12.5 cm の球根では約 95%が開花し,茎も太くなり, 花数の平均は5.2 輪となっている(第 1 表).従って,開 花率や茎の太さなどの形質も併せて考慮すると,マドンナ リリーの季咲き栽培における実用的な開花サイズとして は,球周10 cm 以上の球根を確保する必要があろう.また, 1.2)の結果から,4°C・65 日間の低温処理球根を 9 月に 定植して年末からの出荷をめざす促成栽培での球根は,球 周20 cm 以上の球根となるであろう(第 2 表).なお,促 成栽培における開花に及ぼす低温処理の影響を検討した 3.の結果に見られるように,促成栽培では,低温処理の 開花率への影響は小球ほど大きくなる(第7 図)ことから, より適切な低温処理を行うことによって,促成栽培用の開 花球サイズを小さくできる可能性がある. テッポウユリ,ハイブリッドを含むオリエンタル系ユリ やオニユリの影響の強いアジアティック系ユリなどのユリ では,春の茎伸長とともに花芽を分化するものが多い (Baranova, 1972; 今 西,2006; 大 川,1989; Ohkawa ら, 1990).すなわち,これらのユリは花芽分化を誘導するた めに一定の低温遭遇を必要とする球根バーナリゼーション 型植物である.一方,タカサゴユリの生態的形質を有する シンテッポウユリ(竹田,1993),低温遭遇量の不十分なテッ ポウユリ(Weiler・Langhans, 1968b, 1972)やカノコユリ(大 川,1977; Weiler, 1973)においては,低温によるバーナリ ゼーション効果とともに,長日による花芽分化と開花の促 進も報告されている.しかし,その効果は低温を補足する ものとして見なされている.従って,開花調節を行い,安 定して開花させるためには,栽培するユリについてバーナ リゼーション効果を示す低温の範囲や遭遇期間を明らかに することは,非常に重要である.マドンナリリーの場合, 自然状態では,新球の花芽分化は茎伸長開始後の春に認め られ,茎先端の成長点はその花芽分化まで葉原基の分化を 継続した.また,晩夏から早春にかけて低出葉の地上への 新葉展開も常に観察され,明確な休眠時期は見られなかっ た(河原林,2015).さらに,8 月に掘り上げて直ちに定 植し,18°C に設定したインキュベーターで栽培した第 3 表の無低温処理球根で9.6 枚の低出葉が出葉している結果 とも併せて考えると,マドンナリリーは,バーナリゼーショ ン型植物であるが,カノコユリなどの冬休眠型のユリとは 異なり,質的休眠の打破に低温を必要としないといえる. 一方で,低温処理は花芽分化を誘導するとともに球根から の茎の伸長も促進している.すなわち,マドンナリリーの 場合,どのような条件においても成長しない質的休眠に導 入されていないため,その打破のための低温処理は必要と しない.しかし,茎の伸長などに関しては要件によって成 長が認められる量的休眠であり,低温はその打破に効果を 示すと考えられる.このように,休眠打破後の出茎と催花 に低温が有効に作用する点では,夏休眠型のテッポウユリ と同様の結果となっている.低温を受けていないテッポウ ユリ‘Ace’の球根は,最低温度 21.1°C で栽培を続けると 2 年後も開花しないのに対して,18.3°C では 70%開花し, 15.5°C になると 100%開花した(Langhans・Weiler, 1967; Weiler・Langhans, 1968a).ただし,これらの開花温度での 到花日数は200 ~ 300 日,開花個体の葉数は 200 枚以上と なっている.本報のマドンナリリーの無低温処理球は,栽 培温度25°C では出葉しても全く抽苔・開花せず,一方, 15°C では茎を伸長し,到花日数 290 日であったが半数以 上で開花した(第5 表).また,開花個体の葉数は 133 枚 であった.この結果からも,マドンナリリーの生育反応は, 質的休眠打破後の出茎と催花に低温が有効に作用し,バー ナリゼーション効果の上限温度の存在が報告されたテッポ ウユリのものと似ているといえる. 促成栽培における低温処理の温度と期間の影響について 見ると,アジアティック系ユリに関しては,在来スカシユ リで5 ~ 8°C,エンチャントメント型スカシユリで 8 ~ 10°C の 6 ~ 8 週 間 処 理 が 到 花 日 数 を 短 縮 し( 鈴 木, 1974),一般に 5°C を中心とした 2 ~ 8°C・8 週間程度の 処理が標準となっている.オリエンタル系ユリでは,アカ カノコユリで花芽分化の最適温度5°C における 55 日以上 の処理で到花日数は最短となり(大川,1977),ヤマユリ やサクユリ(竹田・長沢,1992),‘カサブランカ’(福田・ 田中,1993)でも 5°C での処理期間が長くなるほど到花 日数は短縮されている.テッポウユリ‘ひのもと’では 10°C で到花日数や葉数が少なく開花促進効果は最も高く なり,6 ~ 8 週間処理で低温に十分感応していた(鈴木, 1975).テッポウユリ‘Ace’の 1.7°C 処理球根でも 6 週間 で低温要求量は満たされるが,さらに処理期間が長くなる ほど開花は促進されている(Weiler・Langhans, 1968a).本 報におけるマドンナリリーの場合,2°C よりも 10°C の方 が,出茎が早く開花率も向上し,開花期間も短く(第3 表, 第4 表),低温処理の温度として適しており,また,処理 期間については,5 週間では不十分で 10 週間程度は必要 と考えられた(第3 表,第 4 表,第 5 表).一方,10°C・ 10 週間処理においても小球では開花率が低下しており, この開花率低下を防ぐためには,処理後半の低温を2°C とすることが有効であった(第7 図).8 ~ 13°C はユリの 発根誘導や催芽に有効な温度範囲であり(高野,2006), 作型によってはプレルーティング処理や催芽処理の温度と して用いられている.3.の結果(第 7 図)においても, 小球根における10°C・5 週間処理が同様の催芽や発根を
誘導し球根内成長点の分裂活性を高める効果を示すことに よって,処理された小球根は,その後の2°C・5 週間処理 の低温を,より有効なバーナリゼーション温度として感応 で き る 状 態 と な っ て い た 可 能 性 が 考 え ら れ る. な お, 10°C・5 週間後に 2°C・5 週間処理を組み合わせた区の開 花期間がやや長くなっている(第4 表)が,これはこの区 の小球根での開花率が高くなっていることによると考えら れる.すなわち,小球根でやや開花が遅くなる傾向が見ら れている(第1 表)ことの影響が出たのであろう.一方で Rivieré(1978) は, 開 花 直 後 に 掘 り 上 げ た 球 周 16 ~ 18 cm のマドンナリリー球根をポットに植え付け戸外に置 き,10 月 15 日から 2°C で 10 日間処理後,15°C 一定のファ イトトロンで3 週間,さらに 22°C 一定のファイトトロン で栽培し翌年2 月 27 日に開花させている.この Rivieré (1978)の促成試験の低温処理期間については,15°C がバー ナリゼーション温度として作用したと見なし加えても約5 週間であり,本報の結果では開花誘導に不十分な期間で あった.このような結果の差異は,供試球根の大きさ・充 実度や管理条件などの環境要因の変動によって生じた可能 性が考えられるが,この点については,試験を重ねて明確 にする必要がある. ユリ栽培では,生産コストの低減や入手球根数の不安定 な作型での球根確保を目的として,採花後の切り下球を利 用した二度切り栽培も行われている.松川ら(1977)は,テッ ポウユリ促成球の二度切り栽培試験において,11 月採花・ 出荷の切り下球を用いた二度切り栽培では,実用上問題な く切り花収穫が可能であるが,12 月に採花した切り下球 を用いて1 月から栽培を開始する作型では球根露出や GA3 処理が必要となり,2 月に採花した切り下球を用いて 3 月 に栽培を開始する作型では二度切り栽培は不可能であると している.同様に,6.の二度切り栽培試験(第 7 表,第 8 表)でも,12 月開花球(試験 1.12 月区と試験 3)から 伸長する茎の開花割合は32 本中 26 本で開花茎の異常花数 も少なく,1 月開花球(試験 1.1 月区と試験 2.無処理区) から伸長する茎の開花割合は53 本中 13 本であった.この ことから,開花時期による新球の成熟度や低温感受性の差 異については不明であるが,マドンナリリーの年内促成開 花の切り下球が,戸外あるいはサイドを開放した無加温ガ ラス室での栽培期間中の自然低温遭遇によって,花芽の分 化・発達に必要な低温要求量を満たしており,一方,1 月 以降に採花した株の切り下球は低温要求量を十分に満たし ていなかったことは明らかである.従って,マドンナリリー においてもテッポウユリ同様,年内促成開花球を利用すれ ば二度切り栽培は実用的に可能であると考えられる.また, 1 ~ 2 月開花球においても,適切な低温処理を行うことに よって6 月下旬~ 7 月上旬に二度切りできる(第 7 表,第 8 表,試験 2.冷蔵区). ユリ花芽の分化・発達に及ぼす栽培温度の影響について 見 る と, テ ッ ポ ウ ユ リ や ア ジ ア テ ィ ッ ク 系 ユ リ で は, 26.6°C と 15.5°C(Smith・Langhans, 1962),25°C ならびに 30°C と 20°C(松川・柏木,1969),23°C(昼)/ 18°C(夜) と18°C / 13°C( 鈴 木,1974),26°C / 24°C と 16°C / 13°C(Roh, 1990)とを比較すると,いずれも低温側条件 で花数が多くなり,高温ほど花芽の発達異常やアボーショ ン発生のために花数が減少している.同様に,4.,5. のイ ンキュベーター栽培試験(第5 表,第 6 表)では,25°C より15°C,35°C(明)/ 25°C(暗)より 25°C / 15°C で 蕾の生育,開花は順調に進み,アボーション花蕾や奇形花 などの異常花の発生は減少しており,前述のテッポウユリ やアジアティック系ユリの試験と同様の結果を得た.従っ て,マドンナリリーでも,高温で花芽の発達が阻害される と考えられる.また,5.の結果(第 6 表)は,茎の先端 に蕾が形成され,第1 花の花芽が雌蕊分化程度に発達した 段階でも,高温が花蕾の発育に影響を及ぼすことを示して いる.テッポウユリでも,出蕾前後10 日間の低日照(鈴木, 1975),花蕾長が 4 インチ以下の頃のエチレン(Rhoads ら, 1973),発蕾後,特に花蕾長が 2 cm 前後(雌蕊形成)の頃 の7 ~ 9°C の低温遭遇(松川ら,1970)によってアボーショ ン,奇形花の発生や花蕾の萎凋・落下が多くなることが報 告されている.このように,ユリの花芽の分化・発達,特 に雌蕊形成期頃までは環境要因に対する感受性が強く,そ の影響が大きいと考えられ(小林,2006; 高山,2006),マ ドンナリリーでも,このような生育段階の栽培管理におい ては,高温などの各種環境要因の影響についての注意が必 要であろう. また,1.2)では,日中の気温が高く,さらに加温開始 前の10 月末から 11 月上旬の夜温が低下した時期に速やか に伸長中であった茎の先端の多くは,その後やがて枯死し ている(第2 図).その症状は,高湿度,カルシウム不足 や水分収支のアンバランスなどの要因によって発生すると される葉焼け症にも類似している.1.2)の急激な夜温低 下に遭遇した時期は,栽培開始して35 日を経過した頃で あった.年内開花をめざす栽培において,根を除去して植 え付けた供試球根は,茎の急速な成長に対応した発根量を 確保できず水分収支のアンバランスを生じることで,葉焼 け症状を発生した可能性も考えられる.従って,実際栽培 を想定して根を切除せずに球根を定植し,その影響を確認 する必要があろう.一方,地上へ10 数 cm 伸長した茎の 先端の葉に覆われ膨らみ始めた蕾では第1 花が雌蕊分化段 階にあることが示されている(第1 図),このような花芽 発達段階の花蕾は,前述のテッポウユリと同様に,急激な 温度変化の影響を受け枯死しやすいと考えられる.従って, 1.2)で見られた葉焼け症状に似た茎先端の枯死自体は, 夜温低下により直接的に花芽の発達が阻害され,花蕾の萎 凋・枯死が発生したことによる可能性もある,いずれにせ よ,水分収支のアンバランスによる葉焼け症状の激化ある いは夜温低下などの環境要因による直接的な花芽発達阻害 の可能性なども含めて,茎先端枯死の発生要因の解明とそ
の防止策を確立することは,マドンナリリー切り花・鉢花 の安定生産にとって重要である. 一方,アジアティック系ユリ‘Red Carpet’,‘Conneticut Lemonglow’における出蕾時期までの高温による蕾の炭水 化物含量の低下とブラスティング発生の増加(Roh, 1990) やテッポウユリ‘Nellie White’では炭水化物含量が低下 するとエチレン感受性が高まり,STS 処理はエテホン処理 によって誘導されるブラスティング発生を抑制すること (Mason・Miller, 1991) も 報 告 さ れ て い る. ま た,Van Meeteren・Slootweg(1986) は, ア ジ ア テ ィ ッ ク 系 ユ リ ‘Enchantment’において,暗黒 1 日前の STS 処理はエチレ ン発生を抑制し,暗黒処理により誘導される落蕾の防止に 有効であることを報告している.本報の4.で,2°C 処理 期間が15 週間と長くなると,栽培温度 25°C の高温条件 下でも開花に至る個体が得られたが,これらはすべて寡少 花茎あるいは不良花茎であった(第5 表).マドンナリリー のエチレン感受性は明らかではないが,インキュベーター 人工照明での庫内栽培条件下においては低炭水化物含量に よってエチレンの生成・感受性が増加していたことも推測 される.従って,適切で十分な低温処理やエチレン生成・ 作用の抑制剤処理あるいはそれらの併用が,マドンナリ リーのアボーションや奇形花発生の防止に有効な手段とな るかもしれない. 本研究の結果から,バーナリゼーション型球根であるマ ドンナリリーにおける季咲き栽培や二度切りを含む促成栽 培に関する基礎的なデータが得られた.しかし,周年生産 を可能とするためには,8 月から 10 月中旬頃までの開花 を目的とした高温時期の栽培技術の確立が必要である.さ らに,前報(河原林,2015)の種子繁殖や生育習性に関す るデータに加えて,りん片繁殖,生育に適した土壌や栄養 などの栽培管理,収穫後の鮮度保持や貯蔵に関する試験 データを集積することでマドンナリリーの実用的な園芸生 産技術の確立が期待できるであろう.
摘 要
マドンナリリーを我が国の生産園芸品目の一つとするこ とを目的に研究を行った.本報では,球根の大きさ(球周), 低温処理の温度と期間および栽培温度が開花に及ぼす影響 を検討するとともに,二度切り栽培の可能性を調査し,以 下の結果を得た.マドンナリリーでは,球周約5 cm 以上で 開花可能な球根の大きさとなり,開花率が高く,草丈 80 cm 程度,花数 5 輪以上を確保できる実用的な開花球根 の大きさは,季咲き栽培では少なくとも球周10 cm 以上, 4°C・65 日間処理球根の 9 月定植促成栽培では球周 20 cm 以上となった.さらに,促成栽培では,低温処理法を工夫 することで実用的な開花球根の大きさを小さくできる可能 性が認められた.球根の低温処理は出茎と茎の伸長を促進 し,25°C 栽培条件下での開花には,球根の十分な低温遭遇 の必要性が示唆された.開花のための2,6,10°C での低温 処理期間は5 週間では不十分であり,10 週間は必要であっ た.開花率は,10°C・10 週間処理で 2°C・10 週間処理より 高くなったが,10°C・5 週間後に 2°C・5 週間を組み合わせ ることによって,さらに向上した.25°C 一定あるいは 35°C (昼)/25°C(夜)などの高温下での栽培では,花芽の分化・ 発達が異常となりアボーションや奇形花が発生した.一方, 促成栽培により年内に開花させた株の切り下球では自然低 温遭遇によって,また1 月に開花させた株の切り下球でも, 10°C で 5 週間後 2°C で 5 週間の低温処理を行うことによっ て開花が見られ,これらの開花時期の促成栽培作型からの 二度切り栽培は可能であることが確認できた.引用文献
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