腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 12 Evans, Hoar: 腐食速度の電気化学的解析―内部分極曲線の確立まで 液滴モデルは水平においた普通鋼におけるア ノードAとカソードCとの場所的分離を明示し た.以下に紹介するのは液面に垂直に半浸漬し た電解鉄*1および炭素鋼*2において同様の分離 に成功し,内部分極曲線の実測まで進めて腐食 の電気化学的特性の解明に貢献した論文1(以降) 論文とかく)である. 対流・振動をなくしてゆくと0.001N~1.0Nの KCl 水溶液(20.0℃±0.05°)における鉄・鋼の 腐食状況の境界が鋭く水平に形成されるに至っ た*3.すなわち,図1 において最も酸素に近い箇 所にあるC域は侵食をうけない領域で,水線よ り上方にある濡れない部分との識別が困難なほど元の光沢を維持しつづける.腐食域Aは下方に でき,二つの深い腐食翼(W と W′)とともに,切断端面上の weak points に発生して下降する 腐食生成物にゆるくだが覆われて,酸素から遮断されているとした. *1 0.03~0.04%C でその他元素も 0.02%以下,厚さ 0. 28,または 0. 21mm. *2 H 28 は 0. 26%C で厚さ 0. 34mm,H 30 は 0. 34%C で前者にない Ni を 0.13% 含んで 厚さ 0. 31mm, このH 30 のみ再現性に劣った. *3 全部で 607 枚使ったという試験片のうち何枚をこの成功までにかけたのであろうか.以降は通常
3
=
n
で実験し,上記H 30 を除く 3 種の電解鉄と 1 種の炭素鋼 H 28 での重量減のばらつきは 3% 以下であった.French emery No. 1~No. 3 で 24hかけて研磨し,CCl4で2 回洗った,という. 1) U. R. Evans and T. P. Hoar:Proc. Roy. Soc. London., A, 137, 343 (1932).************************************************************************************** 呈色
溶存酸素濃度DO はウィンクラー法によって実測した.20. 0℃-760mmHg の空気と平衡するそ れCSは,純水で6. 13 cc/L,2. 0 g-eq./L 濃度液で 3. 41(KCl),3.19 (NaCl),2. 67 (Na2SO4) cc/L,と 報告している.たとえば,0.1N(g-eq./L,mol/L)KCl 中の腐食量ΔWは当初から試験した約90 hまで一定の勾配で増加して,カソードであったメニスカス近傍の酸素濃度は終始 飽和濃度CS に保たれていたであろう. ところで48h後の測定によると,液底部から採取した 17cc の液中の DO がゼロであったのはと もかく,空気/液-界面に近い上部から採取した 17cc の液中のそれも 3. 62%CSであった.驚くべ きこの低濃度値はFe(OH)2を生成した下部からの液塊の上昇によるものではなかろうか. 腐食の進行にともなうアルカリ(フェノールフタレイン着色部)の分布を示す図2 によると, 48h後時点においてアノード部上端から下方は全域 green で,この層中の DO は低く Fe2+を3 価に 酸化しえない―この液を採取し空気とかきまぜて30 分置くと brown になった.ただし,1~7hと 図 1.非分割試験片(幅 2.5cm,長さ 6.5cm) における「理想的な」分布.腐食域A, W, W′と侵食をうけない域 C.B は ときたま現われる薄い着色域.
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 13 図2.腐食の進行にともなうアルカリ(濁点で示す)の分布. H 30 鋼,0.1 mol/L KCl―少量のフェノールフタレインを添加. Q 1. 腐食量の決定は鉄試片の重量減により,初期重量から試験後重量*1をさし引いた値 (ΔW)を求めた.たとえばΔW/Δt=5mg/48hは平均電流密度ではいくらになるか. A ファラデーの法則 ⋅ΔW ⋅F=iSΔt M n ここに n: 鉄溶出の電子価, 2 eq/mol; M: Fe の式量, 55.85 g/mol; F: ファラデー定数, 0.965E5 C/eq;
i
: 電流密度; S: 表面積. 上式よりiS = I=0.100E-3Aをうる.反応量ΔW =5mgFe は0.895E-4molFeに相当する. 鉄試片の表面積S
Aを液中面積3.5cm×2.5cm×2 とすると電流密度i
は6μA/cm2(0.07mm/年), 図1 の A + W + W′の面積 3.3 cm2×2 とすると 15μA/cm2(0.17mm/年)となる.なお,一部の試 験では使われた(減少した)酸素O2,生成した鉄イオン(Fe2+,Fe3+)および発生した水素H2*2 を分析して,O2減少量の実測値と(Fe2+,Fe3+,H2)の生成・発生量のO2換算値とがよく一致す ることを確かめた*3. *1 12. 5 g/L のクエン酸中で一試片あたり 0. 02A のカソード電流を負荷することにより付着していた 腐食生成物を除去してのち測定. *2 反応に係わった O2/H2の分析量(cc)は 1.77/0. 00,1. 84/0. 07(0.1 N KCl 中で);0. 62/0. 03, 1. 26/0. 06(3. 0 N KCl 中で),のように H2量は検出されても少ない. *3 正味反応を Fe + 0. 5 O2 + 2H+ → Fe2+ + H2O とすると,ΔW = 5 mg Fe の腐食に使われた O2量は 0. 895 E-4×0. 5mol,0℃-1atm の標準状態で 1.00 cc,に相当する. ************************************************************************************** いう初期の色は無色~yellowish であって DO はさほど低くはなかったであろう. カソードで発生するアルカリは下降して1hで水平へ,2hで上方高くまで上昇し,7h以降試 片下端以上,48hには少し縮んで C 域以上,を占めている.アノードで発生し,比重の大きい FeCl2 の下降運動,水酸化物イオンを加えた量的蓄積,はこれに連動し,それ自体である上記液塊の上 昇にも至るのであろう. 1HR 2HR 7HR 48HRYellow Yellow Etched Green
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 14 Q 2. 導電率の低い液中での電極電位の測定は真空管 式電位差計*1(valve electrometer)と絶縁性の向上 とにより可能とした.塩橋の先端役にそれぞれ3 本の細管(tubuli,そのときの試験液を吸引)を図 1 の C 部・A 部ヘ近接させ,電極電位EC・EAを 測定し,EC −EA(縦軸)とI/
σ
(I:Q1 の電流,σ
:試験液の導電率)との関係を求めた(図3).σ
/ 3 A C E k I E − = ⋅ のk3 =0.322cm−1は図3 中右上りの回帰直線の勾 配であるが,その意味は何か. A 同面積の二極が距離dを隔てて対向するモデル (センターニュースNo. 040)では次式が成り立つ. d i E EC − A =ρ
S この式にi=I/S,ρ
S =1/σ
を代入するとσ
σ
) ( / ) / / 1 ( ) / ( A C E I S d d S I E − = ⋅ = ⋅ すなわちk3 =d/Sをうる.論文ではk3はcell factor とよばれ,なるほど幾何学的要素d ,Sのみに依存 し,たとえばS=1cm2とするとd=0.322cmという 「対向距離」がえられる. 論文はこのdの実態を追求するため,試片をC 域 の境界に沿って分割し,A 域との間隔を約 1 mm に保 って0. 01 N KCl 液に図 4 のように浸漬して C 域/A 域―間の直流抵抗*2 をホイートストン・ブ リッジ法で測定した.この時点での抵抗はまだはるかに小さかったので*3,図4 中の破線で示す 水平線に沿う切断を下方から上方へと進め,水線下2 mm まで縮めて,はじめて上記の -1 cm 322 . 0 3 = k に達した.このとき,下方のアノード域の形状・位置の変更はk3値を大きくは変え ないのに対して,上方のC 域のそれはk3値を大きく変えることが判明した.すなわち,カソード 域は酸素の供給が容易なメニスカス近傍に事実上限定されているというわけである. *1 1906 年デーフォレスト(米)により三極管が発明されている.筆者の卒論研究の 1964 年頃も この真空管方式が正規手段であった. *2 (EC −EA)/I=k3ρ
S [Ω] *3 k3 =d/Sを大きくするのに,Sの低減を図る.そのため以降の切断を進めることにした. 図3.EC −EAとI/σ
との関係. 図4. C 域/(A + W + W′)域―の分割, さらに水平破線に沿ってのC 域 の継続的分割.腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 15 Q 3. 内部分極曲線の測定には図5 の分割試片を 用いた.この試片が図4 と異なるのは,上方の カソード側の切断端面をgutta percha(マレー 産ゴム状物質)とパラフィンとの28:72 の混 合物で保護したことである.図3 のEC,EAの 測定に用いたと同じ塩橋先端役の細管(tubuli) も使用したが図には示していない.この試片に おいては,2,3 の試行後「試片の下方では全 面にわたって腐食が進み,上方では全く侵食を うけない」という状況が実現できた*1として いる. 腐食試験と同様*148 時間経過後に,負荷起 電力e. m. f.の大きさを変えては流れる電流I, およびアノード・カソード部のそれぞれの電位 を同時に測定して図6 をえた. e. m. f. = 0 V(図中の交点)の電流がこれま での腐食試験で腐食した鉄量を与えること,ま たこの腐食量がこの分割試片と当初の非分割 試片(図1)とで変わらないとみなせること, を確認した. さて,図6 からえられる二直線の勾配 ) ( 3 E 34 . 2 C =− Ω I d E d ; A =+0.14E3(Ω) I d E d を用いて,Wagner 長さLWを求めよ. A Wagner 長さは次式で表される(センターニュース No. 036). S C P C W r /
ρ
L = , LAW =rAP /ρ
S ここに, C C C C C C P ( / ) d I S E d S I d E d i d E d r ⎟⎟ = = ⋅ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ = A A A A A A P ( / ) d I S E d S I d E d i d E d r ⎟⎟ = = ⋅ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ = まず,カソードがメニスカス部(水線から下方0. 2 cm までの裏表)に限られることより 2 C =2.5cm×0.2cm×2=1.0cm S ,また下方部では全面にわたって腐食されることより 2 2 A =3.3cm ×2=6.6cm S (Q1)とする.ついで,抵抗率ρ
Sはイオンの当量導電率(l∞,25℃) から算出する導電率の逆数として求めた2). *1 液中では分割されている,C 域と A 域とを,外部で電気的に接続した状態で. 2) (社)腐食防食協会編:金属の腐食・防食 Q&A,電気化学入門編,丸善,p. 296(2002). 図5.分割試片 図6.カソード C,アノード A-内部分極曲線. 電解鉄 E31,試験液は 0.05 mol/L KCl 水溶液.腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 16 図7. 平衡溶存酸素濃度CS,平均腐食速度Δ /W Δt,カソード/アノード間電位差EC −EA, d S