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茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係
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Title
食物アレルギーに対する学校での対応と情報収集システ
ムの構築
Author(s)
佐久間, 瑞恵; 市川, 幸子; 柏, 光佐子; 石原, 研治
Citation
茨城大学教育学部紀要. 教育科学, 61: 299-317
Issue Date
2012
URL
http://hdl.handle.net/10109/3194
Rights
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食物アレルギーに対する学校での対応と
情報収集システムの構築
佐久間 瑞恵 *・市川 幸子 **・柏 光佐子 ***・石原 研治 **** (2011 年 11 月 25 日受理)
Understanding of Food Allergy in Elementary School
Mizue SAKUMA*,Sachiko ICHIKAWA**,Misako KASHIWA***and Kenji ISHIHARA****
(Received November 25,2011) はじめに 近年,生活環境や食生活の変化に伴い,何らかのアレルギー疾患を持つ人が増加している。その 一種である食物アレルギーは,アレルゲンとなる食物を摂取,または接触することによって皮膚, 呼吸器,粘膜,消化器に症状が現れ,アナフィラキシーショックを起こす場合もある。食物アレル ギーのほとんどは幼少期に発症し成長とともに寛解していく傾向にあるが,アレルゲンによっては 寛解せずに成人まで継続することもある。平成19年に文部科学省が発表した「アレルギー疾患に 関する調査研究報告書1)」では,平成16年6月末の時点で小学生の食物アレルギーの有病率が2.8% であることが報告されている。喘息の有病率は6.8%,アレルギー性皮膚炎の有病率は6.3%,アレ ルギー性鼻炎の有病率は8.8%であるのと比べれば高い数値ではないが,アナフィラキシーショッ クを引き起こす可能性を考えると注意が必要な疾患であると考えられる。 近年,小学校において食物アレルギーを持つ児童が給食で原因食物を摂取してしまい,アレルギー を発症する事故2,3)が発生したと報告されている(表1,2)。2006年には,全国の小中学校で発生し た食物アレルギーが原因の事故は年間で250件以上発生していることが明らかになっている4)。栄 養教諭だけでなく養護教諭,学級担任など様々な教職員が児童の食に関係している中,なぜこのよ うな事故が発生してしまっているのか疑問に感じた。文部科学省からアレルギー疾患の対応の指針 となる「学校のアレルギー疾患に関する取り組みガイドライン5)」が発表されたが,法律の上では 学校管理下でのアレルギー対応に関する明確なものは定められていない。しかしながら,学校保健 株式会社ノジマ (茨城大学教育学部養護教諭養成課程卒業生).
水戸市立見川小学校(〒 310-0912 茨城県水戸市見川 2-96-3; Migawa Elementary School, Mito 310-0912, Japan). 水戸市立緑岡小学校(〒 310-0913 茨城県水戸市見川町 2563; Midorioka Elementary School, Mito 310-0913, Japan). 茨城大学教育学部教育保健教室(〒 310-8512 水戸市文京 2-1-1; Faculty of Education, Ibaraki University, Mito 310-8512, Japan).
* ** *** ****
安全法第9条において,養護教諭やその他の職員は相互に連携し,児童生徒等の心身の状態を健康 相談や日常的な観察によって把握し,必要に応じて指導・対応を行うことが示されている。このこ とから,学校生活の中では,事故を起こさないような管理や対応がより重要なものとなってきてい る。アレルギー疾患に対する取り組みのポイントとして,[1]各疾患の特徴をよく知ること,[2]個々 の児童生徒の症状等の特徴をよく把握すること,[3]症状が給食に変化しうる事を理解して日頃か らの緊急時の対応への準備を行っておくことの3点が挙げられる5)。これはガイドラインに示され た一つの指針であるため,各学校が必ずこのポイントに沿ってアレルギーに関する取り組みを行っ ているというわけではない。 そこで,本研究では児童と関わる機会の多い担任をはじめとする教職員が食物アレルギーについ てどのような意識を持っているか調査し,事故防止につなげることを考察する。また,学校ではど のように食物アレルギーを持つ児童の情報を収集し,対応を行っているかその実態を明らかにした 上で,新たな情報収集システムの提案をする。 表1. 平成20年12月 小学校(単独調理校)における給食での食物アレルギー対応に係る事故2)
表2. 平成22年2月 学校給食による乳アレルギー事故3) 方法 (1)質問紙調査 2010年11月に県内の小学校に勤める学級担任である教職員159名を対象に質問紙調査を実施 した。未記入事項を除いた有効回答枚数は88枚(55.3%)であった。調査目的は,[1]食物アレ ルギーについてどれほどの認知があるのか,[2]学級担任がクラスにいる食物アレルギーを持つ児 童について把握しているか,[3]食物アレルギーを持つ児童について学級担任は誰とどのような情 報の交換を行っているか,および[4]学級担任が食物アレルギーのどのような情報を誰に求めるの か把握することである。 調査内容は以下の通りである。[1]現在受け持つクラスでの食物アレルギーを持つ児童の有無,[2] 食物アレルギーを持つ児童に対して給食で対応を行っているか,[3]食物アレルギーを持つ児童に
対して給食で行っている対応の内容,[4]児童が持つアレルギーの原因食物,[5]食物アレルギーや 食物アレルギーを持つ児童について情報交換,[6]食物アレルギーの原因と考えられる食物,[7]食 物アレルギーを発症した時の症状,[8]「アナフィラキシー」という言葉の認知,[9]食物アレルギー についてもっと詳しい情報を得たいと思うか,[10]給食事故についての認識。 これらの質問に対する回答間に関連性があるかどうかについては 検定を行い統計解析した。 結果 (1)質問紙調査の対象 県内9校の小学校に勤めている学級担任である教職員159人に「食物アレルギーに対する意識 調査」を行い88人からアンケートを回収した(回収率55.3%)。本アンケートの実施・回収は,県 内の限局的なものとして行った。これを一般化することは難しいと考えられるが,県内の公立小学 校に関する傾向を探るためのものとしては十分と判断した。また,回収率が半数を超えているため 本研究ではこのアンケートに基づく結果を対象の回答と判断した。 (2)現在受け持つクラスでの食物アレルギーを持つ児童の有無 クラスに食物アレルギーを持つ児童がいるかどうかについて担任が把握しているかどうかを知る ことを目的として,「現在受け持っているクラスで食物アレルギーを持つ児童はいますか。」とい う質問を行った。表3に示すように,クラスに食物アレルギーを持つ児童がいると答えた担任は 52.3%であり,いないと答えた担任が45.5%であった。90%以上の担任が,クラスに食物アレルギー を持つ児童がいるかいないかを把握していた。しかしながら,わからないと答えた担任が1.1%と 少なからずいた。 表3. 食物アレルギーを持つ児童がクラスにいる割合(n=88) (3)食物アレルギーを持つ児童に対して給食で対応を行っているか 食物アレルギーを持つ児童に対して給食での対応を行っているかどうか担任が把握しているかど うかを知ることを目的として,「現在,食物アレルギーを持つ児童に対して給食で対応を行ってい
ますか。」という質問を(2)で「クラスにいる」と回答した担任(46名)に対して行った。その結果, 表4に示すように,食物アレルギーを持つ児童に対して,給食で対応を行っていると答えた担任は 71.7%であり,行っていないと答えた担任は28.3%であった。分からないと答えた担任はいなかっ た。 表4. 食物アレルギーを持つ児童への給食対応の割合(n=46) (4)食物アレルギーを持つ児童に対して給食で行っている対応の内容 (3)で「対応を行っている」と回答した33人に対し,「食物アレルギーを持つ児童に対して給 食で行っているものがどんなものか当てはまるものに○をつけてください【複数回答可】。選択肢: a 除去食を実施している b 弁当を持参している c その他」という質問を行った。その 結果,除去食を実施していると回答した人が60.6%という結果となり,半数以上は除去食を実施 していることが分かった。その他が36.4%であった。その他を選んだ人に具体的にはどのような ことを行って対応を行っているのかを回答してもらい,回答のあったものだけを以下の表5にまと めた。 図1. 行われている給食対応の割合(n=33)
表5. その他の対応(n=13) (5)児童が持つアレルギーの原因食物 食物アレルギーを持つ児童のアレルゲンがどのようなものか学級担任が把握しているかどうか を知ることを目的として(2)で「クラスにいる」と回答した担任(46名)に対して,「その児 童が持つアレルギーの原因食物を以下の中から選んで○をつけてください。【複数回答可】選択肢: a 卵 b 牛乳 c そば d エビ・カニ等の甲殻類 e 魚類 f 大豆 g 小麦・ 米などの穀類 h 果物 i 分からない j その他」という質問を行った。その結果,図2 に示すように,最も多かった食物は卵で37.0%であった。次いで甲殻類が28.3%,牛乳が23.9%, 果物が19.6%となった。その他のアレルゲンとして,ピーナッツなどのナッツ類や山芋が挙げら れた。原因食物が多種にわたり,特定出来ていないといった回答もあったが,回答してもらった中 で,担任が食物アレルギーを持つ児童の原因食物が「分からない」といった回答はなかった。 図2. 食物アレルギーを持つ児童のアレルゲンの割合(n=46) また,(2)で「クラスにいる」と回答した担任(46名)に対して,「他の児童に食物アレルギー
を持つ児童について(その食物が食べられない理由などについて)説明したことはありますか。」 という質問を行った。その結果,表6に示すように,「説明をしたことがある」と答えた担任は 45.7%,「説明したことはない」と答えた担任は54.3%であった。説明を行った理由として,「クラ スの児童が食物アレルギーを持つ児童に対して『なぜ食べないのか』という疑問を持ち,その疑問 を解消するため」に行ったといった回答が多かった。「給食当番が間違って配膳しないように」や「子 どもたちに知ってもらうことでアレルギーの原因となる食物が給食で出た時にみんなで教えあうこ とが出来るように」といった回答も見られた。これは,クラスの児童に食物アレルギーを知っても らうことで,児童の間で助け合うことが出来るように,といった意図が読み取れる。一方,説明を 行っていない理由として,「すでに全員が知っているため」,「本人が周囲の子へ話してある為」,「食 事の制限が特に必要ないので」,あるいは「プライバシーに関わるので」といった回答が得られた。 表6. 食物アレルギーを持つ児童について クラスで説明をしたと回答した担任の割合(n=46) (6)食物アレルギーや食物アレルギーを持つ児童について情報交換 食物アレルギーに関して教職員間で情報交換をしているかどうかを明らかにする目的で,(2)で 「クラスにいる」と回答した担任(46名)に対して,「食物アレルギーや食物アレルギーを持つ児 童について情報交換を行うことはありますか。」という質問を行った。その結果,表7に示すように, 「情報交換をしたことがある」と回答した担任が93.5%,情報交換をしたことがないと答えた学級 は4.3%であった。ほとんどの学級担任が他教職員と食物アレルギーもしくは食物アレルギーを持 つ児童について情報交換を行っていることが分かった。しかしながら「情報交換を行ったことがな い」と回答した人もおり,教職員間での共通理解が十分になされていない可能性を示唆しているこ とが分かる。情報交換をしたことがないと回答した2人の理由として,「機会がない」および「必 要がない」という回答がそれぞれ1人ずつであった。 表7. 食物アレルギーを持つ児童について 教職員間で情報交換をしたことがある担任の割合 (n=46)
次いで,表7において,「情報交換をしたことがある」と回答した担任(43名)に対して,「情報 交換を行う相手として当てはまるものすべてに○をつけてください。【複数回答可】選択肢:a 学 校長 b 教頭 c 教務主任 d 養護教諭 e 栄養教諭 f 他クラス担任 g 調理 員 h 保護者 i その他」という質問を行った。その結果,図3に示すように,情報交換を行 う相手として,最も多かったのが「栄養教諭(76.7%)」であり,次いで「養護教諭(72.1%)」であった。 「他クラス担任(27.9%)」,「教頭(25.6%)」,「校長(23.3%)」,「教務主任(20.9%)」,「調理員(11.6%)」 といった回答もあったが,半数に満たない結果となった。このことから,「食」に関して専門知識 を持つ栄養教諭と,疾病等に関して専門知識を持つ養護教諭と情報を交換する機会が多いというこ とが分かる。中には全員と情報交換を行っているといった回答も見られた。保護者との情報交換を 行っているという回答は三番目に位置付けているが,55.8%にとどまっている。 図3. 食物アレルギーに関する情報の交換を行う相手の割合(n=43) さらに,表7において,「情報交換をしたことがある」と回答した担任(43名)に対して,「情 報交換をする内容について,当てはまるものすべてに○をつけてください。選択肢:a アレルギー の発生機序 b 原因食物 c 発症した時の症状 d 発症した時の対応 e アナフィラ キシーショックについて f コンタミネーションについて g エピペン®の使用方法 h その他」という質問を行った。その結果,図4に示すように,学級担任が交換する食物アレルギー に関する情報として最も多く挙げられたのが「原因食物(82.5%)」であった。このことから,食 物アレルギーを持つ児童の食物アレルゲンについてはほとんどの教職員が情報交換していることが 分かる。次いで,「発症した時の対応(45.0%)」,「発症した時の症状(35.0%)」という結果となっ た。「アナフィラキシー」については20.0%であったがアナフィラキシー症状緩和に使用される可 能性のある「エピペン®」についての情報交換はなされていなかった。その他の回答として,「給
食での対応」や「献立の確認」など給食に関すること,「保護者への対応」など保護者に関する回 答が得られた。 図4. 交換する情報の内容とその割合(n=43) (7)食物アレルギーの原因と考えられる食物 (2)で,「現在受け持っているクラスで食物アレルギーを持つ児童はいますか。」という質問に対 して,「クラスにいない」,「わからない」あるいは無回答であった担任がどの程度食物アレルゲンの 知識を持っているかを知ることを目的として,「食物アレルギーの原因と考えられる食物を下記から 選んで回答してください。【複数回答可】選択肢:a 卵 b 牛乳 c そば d エビ・カニ などの甲殻類 e 魚類f 大豆 g 小麦・米などの穀類 h 果物 i 分からない j その他」という質問を行った。その結果,図5に示すように,三大アレルゲンの一つである「卵」 が最も多く83.4%,次いで,アナフィラキシーを発現させる可能性が高い「そば」が81.0%,「甲殻類」 が78.6%という結果となった。卵と同じく三大アレルゲンである「牛乳」も76.2%といいう結果と なり認識が高かった。「果物」や「大豆」は半数に至らない結果となりその認知度は「卵」や「そば」 と大きく差があった。
図5. 原因食物だと考えられるものの割合(n=42) また,選択した食物がどうしてアレルゲンだと思ったか質問した結果,「過去に食物アレルギー を持つ児童を受け持ったことがある」と回答した人が78.6%と最も高かった。過去に食物アレル ギーを持つ児童との接触が教職員の食物アレルギーのアレルゲンに関する知識に少なからず影響を 与えることが分かった。次いで,「新聞やニュースで知った」という回答が57.1%という結果とな り,メディアからの情報が半数以上の教職員に影響を与えていることが分かった。しかしながら,「研 修で知った」が最も低く,26.2%に留まった。その他の回答として,「自分の子どもが罹患している」 「自分が罹患している」といった体験によるものや,「食品の成分表示から」といったものが挙げら れた。 図6. 食物がアレルゲンと知ったきっかけ(n=42)
(8)食物アレルギーを発症した時の症状 「食物アレルギーを発症した時の症状として知っているものを下記から選んですべてに○をつけ てください。選択肢:a じんましん b 全身または局所的なかゆみ c 皮膚や目の赤み(発 赤) d むくみ e 吐き気 f 嘔吐 g 腹痛 h 下痢 i くしゃみ,鼻水 j 唇 の腫れ k せき l ゼーゼーといった呼吸音(喘鳴) m 呼吸困難 n 呼吸停止 o 頭痛 p その他」という質問を全員に行った。その結果,図7に示すように,「じんましん」 が93.2%,次いで「全身,または局所のかゆみ」が87.5%,「呼吸困難」が77.3%であった。 図7. 食物アレルギーの症状の認識の割合(n=88) (9)「アナフィラキシー」という言葉の認知 「アナフィラキシー」の認知度を全員に質問した結果,表8に示すように,アナフィラキシーを 「知っている」と回答した人は85.2%であり,その認知度は高いと言える。
表8. アナフィラキシーを知っている担任の割合(n=88) なお,(2)で現在クラスにアレルギーを持つ児童の有無と本質問に関連性は見られなかった。 アナフィラキシーを「知っている」と回答した担任75名に対してその情報減を質問した結果, 図8で示すように,「新聞やニュースで知った」といった回答が60.0%と最も多かった。前述した ように,アナフィラキシーは食物アレルギーによるものだけではなく,ハチ毒や薬物によっても発 症する可能性がある。特にハチ毒によるアナフィラキシーは,近年,新聞やニュースで大きく取り 上げられることが多いので,このような結果になったと考えられる。次いで,「養護教諭等教職員 を通じて知った」という回答が多く,49.3%であった。このことから,アナフィラキシーの情報を 他の教職員から得る機会がある教職員が半数近くいることが分かる。 図8. アナフィラキシー知ったきっかけの割合(n=75) (10)食物アレルギーについてもっと詳しい情報を得たいと思うか アンケートを回答した88名全員にこの質問を回答してもらった。この質問は,担任である教職 員が食物アレルギーについてもっと情報を得たいと思うかどうかを知ることを目的とした。その結 果,表9で示すように,食物アレルギーについてもっと詳しく情報を「知りたいと思う」と回答し た人が90.9%,「知りたいと思わない」と回答した人が9.1%であった。なお,(2)で現在クラス にアレルギーを持つ児童の有無と本質問に関連性は見られなかった。
表9. 食物アレルギーについて知りたいと(n=88) 次いで,食物アレルギーについて「知りたいと思う」と回答した80人に対して誰から情報を得 たいと思うのかを質問した。有効回答数は78人(97.5%)であった。その結果,図9に示すように, 「養護教諭」が62.8%と最も多い結果となり,多くの教職員が食物アレルギーに関する知識の提供 を養護教諭に求めていることが明らかになった。また,半数近くの教職員が給食や食育など食に関 する事柄で中心的な役割を果たす「栄養教諭(43.6%)」から情報を得たいという結果も明らかになっ た。さらに,3人に1人程度の教職員が「保護者(33.3%)」に情報を求めているという結果が得ら れた。 図9. 食物アレルギーに関する情報を得たいと思う相手の割合(n=78) さらに,どのような情報を得たいと思うのかを質問した結果,図10に示すように,「発症した 時の対応」が82.9%で最も多かった。次いで,「発症した時の症状」が54.3%であった。項目とし て挙げられるものの中では,エピペンの使用に関することが最も少なく12.9%であった。
図10. 得たいと思う情報の割合 n=70 (11)給食事故についての認識 以下のような質問を全員に対して行った。「2010年2月にある小学校で発生した給食事故です。 このような事故が発生していたこと知っていますか。知っていると答えた方はどこでこのニュース を知ったか当てはまるものに○をつけてください。」 --- 乳アレルギーを持つ小学4年生の児童に誤って乳を含む給食(ラクトアイス)が提供されました。 児童はすべて喫食し,給食終了後に口の周りに発疹が現れ,児童が担任に申し出ました。その後, 上半身に発疹が出たためアレルギー用の薬を服用し,かかりつけ病院の指示により早退して自宅で 健康観察を行いました。帰宅後,夕方には発疹が治まりました。 通常の献立で使用しているアイスクリームには乳が含まれているため,乳アレルギーの児童に対 して学校が代替食を提供していました。提供している代替食について,乳が含まれていないことを 確認して発注・提供しなければならないところ,担当職員のミスにより,製品に乳が含まれている ことを見落として提供してしまったことで事故が起きたと考えられています。当該小学校では,乳 アレルギーの児童が7名在籍していました。7名のうち3名は代替食,4名はこのラクトアイスを 喫食し,発症したのはこの児童1名だけでした。 --- この質問は,食物アレルギーに関する事故の認知度,およびその情報元を知る目的で行った。 その結果,この事故を「知っている」と回答した人は6.8%,「知らない」と回答した人は93.2% であった。
表10. 給食事故の認知度(n=88) また,どこでその情報を得たか複数回答してもらったところ,「新聞やニュースで知った」といっ た人が6人中4人であり,「テレビで知った」という人が6人中3人,「雑誌から知った」という 人は1人であった。 さらに,事故の概要を読んで教職員の先生方がどのように感じたかを知ることを目的として,感 じたこと・気付いたことを記入してもらった。その結果,表11に示すように,「連携を大事にする」, 「もっと共通理解を図る」,「もっと意識を高めたい」ということを感じた人が多かった。このこと から,教職員間でもっと食物アレルギー管理に関する意識を高める必要があると感じている人が多 いということが分かる。しかしながら,「食物アレルギー対応の限界」や「食物アレルギーに関す る情報を全て把握することは難しい」といった意見も見られる結果となった。 表11 自由記述の内訳(n=87)
考察 食物アレルギーはアレルゲンとなる食物を摂取,または接触することによって皮膚,呼吸器,粘 膜,消化器に症状が現れる疾患である6)。食物アレルギーはアナフィラキシーショックを引き起こ し最悪の場合命を落とすこともある。食物アレルギーは乳幼児期から発症することが多く,卵や牛 乳が原因である場合が多い。ほとんどの場合は小学校に上がる前後で症状が改善される場合が多い が,小学校入学後から青少年期に掛けて新たに食物アレルギーを発症する場合も決して少なくはな く,そばや甲殻類といった食物が原因のアレルギーは症状が改善することは,卵や牛乳に比べると 低い。こういった観点から,食物アレルギーは小学校でも十分に注意するべき疾患であると考えら れる。しかしながら,2006年には全国の小中学校で発生した食物アレルギーが原因の事故は年間 で250件以上発生していることが明らかになった4)。学校管理下の中,様々な教職員が児童に目を 向けている中で,なぜこのような事故が発生してしまっているのだろうか。学校保健安全法第9条 において,養護教諭やその他の職員は相互に連携し,児童生徒等の心身の状態を健康相談や日常的 な観察によって把握し,必要に応じて指導・対応を行うことが示されている。このことから,本研 究では学校での食物アレルギーに対する対応と教職員間での情報共有に着目し,新たな情報収集シ ステムの提案を行うことを目的とした。 本研究結果から,クラスに食物アレルギーを持つ児童がいるかどうかについて「分からない」と 解答した学級があった(表3)ことから,児童の食物アレルギーに対する意識が徹底されていない 可能性が示唆される。学校管理下で食物アレルギー症状を発症してしまう可能性もあるので,食物 アレルギーを持つ児童がクラスに在籍しているかについては把握する必要があると考える。一方, 9割以上の学級担任が教職員間で食物アレルギーを持つ児童に関する情報の交換を行ったことがあ ると回答した(表7)。情報の交換を行う機会がないという回答もあったが,学級担任のほとんど が教職員間で情報の共有をする姿勢を示していることが分かる。また,学級担任が情報交換を行う 相手として最も高い結果となったのが栄養教諭と養護教諭であった(図3)。養護教諭と栄養教諭 が食物アレルギーを持つ児童の情報の収集や対応について中心的な役割を果たしており,必然的に 養護教諭や栄養教諭から情報を得ることが多いということが考えられる。しかしながら,児童の保 護者と情報の交換を行うと答えた学級担任が半数程度であった(図3)ことにも注目すべきであ る。保護者は児童の病状を一番に理解している立場であり,保護者と情報の交換を行うことで養護 教諭や栄養教諭からの専門的知識に加え,児童の特性に沿った食物アレルギーの知識を得ることが 出来ると考えられる。小学校では入学前の就学時健診等により保護者と教職員が情報の共有をする 機会を設けている場合があるが,学校規模や学級運営上の多忙によっては,入学後については家庭 訪問等を除いて学級担任が保護者と情報の共有を図る機会を得ることは困難になってしまう場合も ある。こういった状況の場合,必ず保護者と情報の共有を行う養護教諭と学級担任のつながりが重 要であると考えられる。栄養教諭も学級担任と情報の交換を行う立場として重要であるが,他校と の兼任勤務の場合があり,学校によっては栄養教諭が配置されていない場合もある。従って,養護 教諭・保護者・学級担任の関係が重要である。以上のことから,学級担任と保護者が直接情報の共 有を行うことが望ましい形であるが,学校環境によって臨機応変に情報収集の流れを組まなければ ならない。養護教諭は,その上で,食物アレルギーを持つ児童に関する保護者からの情報を漏れる
ことなく学級担任に伝える重要な立場である。質問紙調査から明らかになった,現在の教職員間で の情報交換のシステムを図11にまとめた。 図11. 食物アレルギーや食物アレルギーを持つ児童に関する情報収集の流れ 図9から,学級担任が食物アレルギーに関する情報を得たいと思う相手の割合として養護教諭が 最も高く,次いで医師が高い数値を示している。発症した時の対応や症状について知りたいと考え る学級担任が多い(図10)ことからこのような結果になったと考える。アナフィラキシーを起こ したことがある児童またはエピペン®を使用する児童の主治医が,児童本人,保護者,担任や養 護教諭等の学校関係者に発症時の対応等を直接説明することが望ましいとされている7)。しかしな がら,医師と学校教職員が食物アレルギーに関して直接情報のやり取りを行うことはほとんどない。 授業づくりや学級運営などから多忙を極める教員が多く,医師のような専門家と情報の交換を行う 時間を確保することは困難である場合が多い。それゆえ,学校内で最も身近に専門的知識を提供で きる養護教諭の存在は重要である。このことから,養護教諭は学校において医師と同等の知識を求 められていると考えられる。児童の主治医と直接連絡を取ることは困難かもしれないが,養護教諭 は学校医と連絡を取ることが出来るポジションにいる。加えて学校関係者から,医師と同等の知識 量を求められている事を受け止めた上で,食物アレルギーに関する知識を学校医等から学ぶ事は少 なからず必要ではないかと考える。したがって養護教諭は,これらを踏まえた上で医師との連携を 強化し,医師と栄養教諭,学級担任のつながりを今後作っていく必要があると考える。このことを 以下の図12にまとめた。
図12. 情報収集システムの改善点 赤線が改善点を示す。 謝辞 本稿をまとめるにあって,ご協力くだった先生方や学生の皆様に心より感謝の気持ちを申し上げ ます。本研究は,茨城大学教育学部研究費特別配分の助成を受けて実施しました。 注 1) アレルギー疾患に関する調査研究報告書 . アレルギー疾患に関する調査研究委員会 .(http://www.mext. go.jp/b_menu/houdou/19/04/07041301/002.pdf). 2) 小学校(単独調理校)における給食での食物アレルギー対応に係る事故について . (http://www.city.sendai.jp/soumu/kouhou/houdou/08/1219kyusyokujiko.pdf). 3) 学校給食による食物アレルギー事故について . (http://www.city.yokohama.jp/ne/news/press/201002/images/php8rxLZR.pdf). 4) 今 井 孝 成 .「 学 校 給 食 に お い て 発 症 し た 食 物 ア レ ル ギ ー の 全 国 調 査 」.『 日 本 小 児 学 会 雑 誌 』.110 (11):1545-1549.2006.
5) 文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課監修 .『学校のアレルギー疾患に関する取り組みガイドラ イン』.(財)日本学校保健会 .2008.
6) 海老沢元宏 .「厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手引き 2008」.『食物アレルギーの診療 の手引き 2008』検討委員会 .2008.