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透紙: 紙媒体の表現を拡張するシステムの提案

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(1)

透紙

:

紙媒体の表現を拡張するシステムの提案

杉山 圭

情報アーキテクチャ学科 1014161

指導教員 塚田 浩二

提出日 2018 年 1 月 29 日

SukaShi: Proposal of System to Extend Expression of

Paper Medium

by

Kei SUGIYAMA

BA Thesis at Future University Hakodate, 2018 Advisor: Prof. Koji TSUKADA

Department of Media Architecture Future University Hakodate

(2)

low cost and portability; however, it can provide only limited variety of expressions because of the lack of dynamic expression. To solve the limitation, we propose an interactive backlight, “SukaShi”, which can expand visual expressions of paper medium by adjusting lighting patterns and physical filters with textures. We explain the concept, implementation, evaluation result, and discussion of the system.

Keywords: Paper Medium, Backlight, Physical Filter, Visual Expression

概 要: 紙媒体は電子ペーパー等のメディアが普及しつつある現在も数多く利用されている.紙媒 体にはコストの安さや扱いやすさなどの利点があるが,静的な表現しかできないため,表現の多様 性に欠けている.そこで本研究では,紙媒体の表現力を拡張するシステム「透紙」を提案する.具 体的には,発光面をインタラクティブに変化させることが可能なバックライトと様々なテクスチャ や模様のフィルターを用いて,紙媒体を背面から照らしその模様やテクスチャを透過させる.紙媒 体の種類/フィルターの種類/バックライトの発光パターンの組み合わせ方や,それらと紙媒体と の距離の変化によって紙媒体への光による多様な表現力の付与とその活用を目指す.本論文では, 「透紙」の概要,プロトタイプの制作及び評価実験の結果と考察を示す. キーワード: 紙媒体, バックライト, フィルター, 表現拡張

(3)

目 次

1章 序論 3 1.1 背景 . . . . 3 1.2 研究目標 . . . . 3 1.3 論文構成 . . . . 3 第2章 関連研究 4 2.1 光による表現拡張の研究 . . . . 4 2.2 紙媒体を用いた表現の研究 . . . . 4 2.3 本研究の特徴 . . . . 4 第3章 透紙 5 3.1 システム概要 . . . . 5 3.2 システム構成 . . . . 5 3.2.1 フィルター . . . . 6 3.2.2 バックライト . . . . 6 3.2.3 筐体 . . . . 6 第4章 実装 7 4.1 フィルター . . . . 7 4.2 バックライト . . . . 9 4.2.1 バックライト本体. . . . 9 4.2.2 バックライト制御アプリケーション . . . 10 4.3 筐体 . . . 10 4.3.1 筐体外装. . . 10 4.3.2 フィルター/バックライト固定ユニット . . . 11 4.3.3 モーター部 . . . 125章 評価実験 14 5.1 予備実験 . . . 14 5.1.1 紙媒体とバックライトの適正距離 . . . 14 5.1.2 紙媒体とフィルターの距離による変化 . . . 14 5.2 ユーザー評価実験 . . . 15 5.2.1 目的 . . . 15 5.2.2 手法 . . . 15 5.2.3 結果 . . . 19

(4)

5.2.4 考察 . . . 19 5.2.5 特化型コンテンツによる影響 . . . 20 5.2.6 考察のまとめ . . . 216章 議論 22 6.1 本システムの有用性 . . . 22 6.2 本システムの応用例 . . . 227章 結論と今後の展開 24 7.1 まとめ . . . 24 7.2 今後の展望 . . . 24

(5)

図 目 次

3.1 「透紙」の概要 . . . . 5 4.1 フィルターと取り外し用の突起 この突起を筐体の溝に差し込むことでフィ ルターを固定する . . . . 7 4.2 フィルターとその投影例 . . . . 8 4.3 バックライト . . . . 9 4.4 アプリケーション画面 . . . 10 4.5 筐体の外観 . . . 11 4.6 フィルター交換の様子 . . . 11 4.7 フィルター/バックライト固定ユニット . . . 12 4.8 筐体背面とダイヤル . . . 13 4.9 送りねじによる前後移動の機構 . . . 13 4.10 モーター部 ダイヤル部に外付けで固定しており,着脱可能である . . . 13 5.1 各グループの中心となる紙媒体 . . . 16 5.2 提示コンテンツ グループ1写真 . . . 17 5.3 評価項目の形容詞対 . . . 18 5.4 スケッチ/白色バックライトにおけるフィルターごとの比較 . . . 20 5.5 白色バックライトの平均値と暖色バックライトの平均値の比較 . . . 20 5.6 3つの紙媒体における白色バックライトと特化型コンテンツの比較 . . . 21 6.1 円柱型ランプシェードとしての応用例 図4.2(a)の織物フィルターのテクス チャをOHPシートに印刷したものをフィルターとして用いた . . . 23 A.1 フィルターとその投影例1 . . . 28 A.2 フィルターとその投影例2 . . . 29 A.3 フィルターとその投影例3 . . . 30 A.4 提示コンテンツ グループ2ポスター . . . 31 A.5 提示コンテンツの例 グループ3 スケッチ . . . 32 A.6 提示コンテンツの例 グループ4 書道 . . . 33

(6)

表 目 次

5.1 紙媒体とバックライトの適正距離 . . . 15 5.2 紙媒体とフィルターの距離による変化. . . 15 5.3 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ1(写真). . . 19 A.1 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ2(ポスター) . . . 34 A.2 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ3(スケッチ) . . . 34 A.3 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ4(書道). . . 35

(7)

1

序論

本章では,本研究の背景と目的,本論文の構成について述べる.

1.1

背景

紙媒体は古くから利用されており,電子ペーパー[1]や薄型ディスプレイ等のメディア が普及しつつある現在も未だ数多く利用されている.ITによる情報記録材料が出現する 中でも,再生産可能な安価で安定供給可能な紙の優位性を超えるメディアは今後も現れな いだろうという分析[2]もあり,今後も広く利用されていくと考えられる.紙媒体にはコ ストの安さや扱いやすさ,紙自体の質感があるといった利点があるが,1枚の紙媒体では 静的な単一の表現しかできないため,表現の多様性に欠けている.紙媒体の表現拡張とし て,本の表紙などでエンボス加工や印刷によって凹凸や艶を加えるといった加工が用いら れることがあるが,これらは非可逆的であり元の状態に戻すことが困難である.

1.2

研究目標

本研究では,紙媒体を直接加工することなく表現を拡張するシステム「 透紙す か し 」を提案す る.テクスチャや模様をもつ透明な板を,発光面をインタラクティブに変化させることが できるバックライトで照らし,そのテクスチャや模様を任意の紙媒体へ透過させることで 紙媒体の表現力を拡張し,多様な表現を可能とすることを目指す.

1.3

論文構成

ここでは本論文の構成を示す.第2章「関連研究」では,本研究と関連のある研究とし て「光による表現拡張の研究」「紙媒体を用いた表現の研究」について紹介する.第3章 「透紙」では,本研究で提案するシステムの概要について述べる.第4章「実装」では,提 案システム「透紙」を構成するフィルターとバックライト,筐体のプロトタイプの実装に ついて述べる.第5章「評価実験」では本研究のシステムを用いることで紙媒体にどのよ うな効果を与えられるかを調査し,考察する.第6章「議論」では,5章の内容を踏まえ, 本研究のシステムの有用性と課題について述べる.第7章「結論と今後の展望」では,本 研究のまとめと今後の展望について述べる.

(8)

2

関連研究

本研究に関連する研究事例として,「光による表現拡張の研究」「紙媒体を用いた表現の 研究」との2つの領域から説明する.

2.1

光による表現拡張の研究

AugmentedBacklight[3]は,液晶ディスプレイの光表現を拡張するシステムである.透 過液晶ディスプレイに映した静止画像の背後から,木漏れ日や水面のきらめき,稲妻のエ フェクトといった光源コンテンツをプロジェクターで投影することにより,実世界の光を 想起させるような表現を行うことを目指している.Sparklry[4]はジュエリーのきらめきを 拡張するシステムである.LED の光を微小のスリットを施した遮光紙で制御し,ジュエ リーパーツ上で反射させることにより繊細なきらめきを生み出すことを目指している.ま た,液晶ディスプレイのバックライトに用いられる技術としてデジタルディミング[5]が ある.バックライトの光を局所的に調光することでコントラストを高めたり,明暗の差を 大きくすることが可能である.

2.2

紙媒体を用いた表現の研究

HideOut[6]は,プロジェクターを用いた絵本拡張システムである.絵本には赤外線に反 応する目に見えないマーカーが印刷されており,それを読み取り絵柄に合わせた映像を絵 本の上に投影する.白色LEDプレートと和紙造形の組み合わせによる照明入り額絵[7]で は,凹凸や折り目を付けた和紙をLED で背面から照らし,繊維の透けやLED 消灯時と の表情の変化により額絵をデザインしている.障子を用いたインタラクティブシステムの 開発[8]では,障子にプロジェクタで映像を投影し,開け閉めに合わせて映像が動くイン タラクティブなシステムを提案している.また,グロス/マット加工やフィルムを貼るラ ミネート加工[9]など,紙媒体表面への様々な加工方法が存在する.

2.3

本研究の特徴

このように,光による表現拡張や紙媒体を用いた表現の研究は数多く行われている.し かし,プロジェクターで投影するたの広い空間が必要であったり,紙媒体を直接加工する ため非可逆的で元の状態へ戻すのは困難であったりする.本研究では,フォトフレームの ように扱うことができ,紙媒体を直接加工することなく表現を拡張するシステムを構築 する.

(9)

3

透紙

本章では,本研究で提案するシステム「透紙」の概要と構成を説明する.

3.1

システム概要

本研究で提案するシステム「透紙」は,紙媒体の表現力を拡張するシステムである.テ クスチャや模様をもつ透明な板(フィルター)を,発光面をインタラクティブに変化させ ることができるバックライトで照らし,そのテクスチャや模様を任意の紙媒体へ透過させ ることで紙媒体の表現力を拡張することを目指す(図3.1).その際,紙媒体の絵柄やフィ ルターの種類,バックライトの発光パターンの3つの要素の組み合わせ方や,3つの間の 距離によって多様な表現を生み出す可能性がある. 図3.1: 「透紙」の概要

3.2

システム構成

「透紙」は,光の透過を調整するフィルターと,発光パターンを多様に変更することが できるLEDマトリクスによるバックライト,これらを組み込んでフォトフレームのよう に扱うための筐体の3つから構成される.

(10)

3.2.1

フィルター

フィルターは凹凸のあるテクスチャや模様をもつ透明な板である.バックライトと紙媒 体の間に入れ,光を透過させることで,紙媒体にテクスチャの影を浮かび上がらせたり, 部分的に遮光したりする役割を持つ.フィルターは複数種類制作し,交換することで紙媒 体に付与する効果を変えられる.

3.2.2

バックライト

バックライトは,フィルターの持つテクスチャや模様を透過させたり,明暗や色をコント ロールする役割を持つ.バックライトの種類としてエッジライト方式と直下型方式がある が,本研究ではLEDの個別制御が可能で高い輝度を確保できる点から,フルカラーLED マトリクスによる直下型方式を用いる.また,マイコン/アプリケーションを用いて制御 し,発光色/発光強度/点滅パターンなどを個別にインタラクティブに変更することを可 能にする.組み合わせる紙媒体の図柄に合わせて任意の発光色やパターンを作ったり,部 分的に強調したりするなどの様々な表現が可能である.

3.2.3

筐体

筐体は,前面に任意の紙媒体を固定し,内部にフィルターとバックライトを組み込み, フォトフレームのように扱うためのものである.紙媒体とフィルター,バックライトのそれ ぞれの間の距離も表現に影響があると考えられるため,内部に固定したフィルターとバッ クライトを前後に動かすことで紙媒体との距離の調節を可能にする.この距離調節は手動 で行うだけでなく,モーターを用いてマイコンから制御することも可能である.

(11)

4

実装

本章では,第3章で述べた「フィルター」「バックライト及び制御アプリケーション」「筐 体」の実装について述べる.

4.1

フィルター

フィルターは透明な板の表面に凹凸のあるテクスチャや模様を印刷して実装した.ベー スとなる板は薄型でたわみにくい素材である必要があったため,2mm厚の透明アクリル 板を用いた.そしてそのアクリル板に,UVプリンタ1を用いてテクスチャや模様を印刷し た.また,ベースとなる板の左右に突起をつけ(図4.1),後述の筐体の溝に差し込むこと で付け外しを容易に行えるようにした.フィルターを取り換えることによって紙媒体に付 与する効果を変えるため,フィルターは10種類制作した.制作したフィルターとその投 影例の一部を図4.2に示し,他のフィルターとその投影例を付録の図A.1∼A.3に示す. 図4.1: フィルターと取り外し用の突起 この突起を筐体の溝に差し込むことでフィルター を固定する 1紫外線で硬化するインクを用いるプリンター.印刷と同時にインクが硬化するため,様々な素材に印刷す ることが可能である.CMYKの4色に加えて,白と透明のインクが扱える.

(12)

(a) 織物フィルター

(b) 和紙フィルター

(c) 特化型フィルター(夜景写真の強調)

(13)

4.2

バックライト

バックライトはフルカラーLEDテープとマイコンからなるバックライト本体と,それ

を制御するパソコン上のアプリケーションから構成される.

4.2.1

バックライト本体

バックライトはフルカラーLEDテープ,マイコン(Arduino Pro Mini)から構成され

る.まず,フルカラーLEDテープをLEDマトリクスのようにLED部分が等間隔に並ぶ

ようアクリル板に貼り付けた.LEDの数は横9個×縦 6個である(図4.3).そして,フ ルカラーLEDテープをArduino Pro Miniに接続した.Arduino Pro Miniはパソコンと

USBケーブルで接続し,電源の供給及びシリアル通信を行った.シリアル通信によってパ

ソコン上のアプリケーションと連動し,フルカラーLEDテープを制御する.また,フル

カラーLEDテープの電源は,パソコンのUSBポートからArduino経由で給電される電

力では不足であったため,5V6.2AのACアダプタを用いて給電した.

(14)

4.2.2

バックライト制御アプリケーション

本アプリケーションは,シリアル通信によってArduino Pro Miniと連動し,フルカラー

LEDテープを制御する.本アプリケーションの機能として,バックライトの発光パターン の作成/パターンの保存及び読み込みがある.利用の流れとして,まず,R/G/Bの3 つのスライダー(図4.4左下)を操作して任意の色を選ぶ.次に,横9個×縦 6個に並ぶ マス(図4.4上部)を選択すると,フルカラーLEDテープの対応した点が選択した色に発 光する.ファイル名を入力し,saveボタン(図4.4右下)を押すことで現在の発光パター ンを保存することができ,saveボタンの下のloadボタンを押すことで保存したパターン を読み込むことができる. 図4.4: アプリケーション画面

4.3

筐体

筐体はフォトフレーム型の箱であり,前面に任意の紙媒体,内部にフィルターとバック ライトを組み込むことができる.筐体外装,フィルター/バックライト固定ユニット,モー ター部の3つに分けて述べる.

4.3.1

筐体外装

素材は加工が容易な2mm厚のアクリル板を用い,バックライトの光が筐体本体から透 けないように黒色のものを用いた.アクリル板をレーザーカッターで加工し,幅210mm ×高さ 160mm×奥行き 60mmの箱型に組んだ(図4.5).箱の上面はマグネットで固定し

(15)

て付け外しをできるようにし,そこから紙媒体やフィルターの交換,バックライトの付け

外しを行えるようにした4.6.前面はフォトフレームのように穴が開いており,上部から

紙媒体を入れられる.筐体底部には取り外し可能な板を設け,そこにブレッドボードを貼 り付けArduino Pro Miniや電源のDCジャックを搭載した.そして,筐体側面の下部に

穴を設け,ブレッドボードを付けた板の着脱やUSBケーブル/ACアダプタの接続を行 えるよう設計した. 図 4.5: 筐体の外観 図4.6: フィルター交換の様子

4.3.2

フィルター/バックライト固定ユニット

フィルター/バックライトを固定するために,筐体内部の溝のあるユニットを設けた. このユニットは左右2つで1組となっており,フィルター固定用とバックライト固定用の

(16)

2組がある(図4.7).ユニットの左右の溝に,前述のフィルター/バックライトの左右の 突起を差し込むことで,フィルター/バックライトを固定することができる.また,これ らのユニットを前後に動かすことで前面に固定した紙媒体とフィルター/バックライトの 間の距離を調節できるよう設計した.具体的には,送りねじの機構を用いることで,ねじ の回転から各ユニットを前後に可動させる.送りねじは2組のユニットそれぞれの左右に 計4本取り付け,タイミングベルトによってねじの回転を同期させることで,各ユニット の左右が同期して動くよう実装した.送りねじは背面に設置した2つのダイヤルから手動 で回転させる(図4.8,4.9)ほか,後述のモーターによってマイコンから制御することも 可能である.

4.3.3

モーター部

フィルター/バックライト固定ユニットをマイコン制御で自動的に動かすために,ステッ ピングモーター(28BYJ48)を組み込んだ.ステッピングモーターは前述の2つのダイヤル それぞれに取り付け,送りねじを回転させる.それぞれモータードライバ基板(ULN2003) を経由してArduino Pro Miniに接続した.電源としてバックライトのフルカラーLED

テープと共通の5V6.2AのACアダプタを用いた.ステッピングモーターはダブルクリッ

プを用いてダイヤル部に外付けで固定し,着脱によって送りねじの回転を手動/自動のど

ちらで行うかを切り替えられる(図??)

(17)

図4.8: 筐体背面とダイヤル

図4.9: 送りねじによる前後移動の機構

(a)モーターなし (b) モーターあり

(18)

5

評価実験

本章では,本システムの適正な投影距離等を探る予備実験と,ユーザー評価実験の目的 /手法/結果及び考察について述べる.

5.1

予備実験

本システムの予備実験として「紙媒体とバックライトの適正距離」「紙媒体とフィルター の距離による変化」を調査した.

5.1.1

紙媒体とバックライトの適正距離

バックライトはLEDが一定間隔で並んでおり,光が紙媒体にドット状に透けてしまう が,LED からの距離が遠くなるほど照らされる範囲が広くなるため,紙媒体とバックラ イトの距離を離すことで均一な発光面を作ることができると考え,紙媒体とバックライト の適正距離を調査した. 紙媒体は0.1mm 厚の半光沢紙に,レーザープリンターで夜景の写真を印刷したものを 用いた.バックライトはすべての点を白色に発光させ,フィルターは使用しなかった.紙 媒体とバックライトの距離が最も近い状態から徐々に距離を大きくしていき,発光面の均 一さを調査した.なお,筐体の構造の制約により,紙媒体とバックライトが最も近いとき の距離は8mm,最も遠いときの距離は40mmであった.結果を表5.1に示す.紙媒体と バックライトの距離が最も近い8mmのときははっきりとドット状に見えたが,15mmの ときはほぼ均一な発光面となった.15mmより離したとき,15mmのときと比べて大きな 変化は見られなかった.

5.1.2

紙媒体とフィルターの距離による変化

紙媒体とフィルターの距離がテクスチャや模様の映り方に影響を及ぼすと考え,距離に よる変化を調査した. 紙媒体とバックライトの発光は前の実験と同一条件とした.フィルターは図4.1(a)の織 物フィルターを用いた.紙媒体とバックライト間の距離は前述の実験から15mmとし,紙 とフィルターの距離が最も近い状態から徐々に距離を大きくしていき,フィルターのテク スチャの映り方を調査した.なお,前述の実験と同様に筐体の構造の制約により,紙媒体 とフィルターが最も近い時の距離は0mm,最も遠い時の距離は9mmであった.結果を表 5.2に示す.紙媒体とフィルターが最も近い0mmのときはフィルターのテクスチャがごく 僅かに映り,1.5mmのときに最もはっきりと映った.最も遠い9mmのときはフィルター

(19)

のテクスチャが映ったことを認識できなかった. 表5.1: 紙媒体とバックライトの適正距離 表5.2: 紙媒体とフィルターの距離による変化

5.2

ユーザー評価実験

5.2.1

目的

本実験の目的は,本システムが紙媒体に与える効果を,ユーザーの主観的な印象を通し て調査することである.

5.2.2

手法

本実験では,セマンティック・ディファレンシャル法(SD法)[10]を用いた印象評価を 行った.紙媒体と,それらにフィルター/バックライトを組み合わせたもの(以下,提示 コンテンツとする)を1種類ずつ提示し,それを質問用紙を用いて評価してもらった.提 示コンテンツは4種類の紙媒体を中心とした4グループ(図5.1)計35種を用意した.グ ループ1を図5.2に,グループ2∼4を付録の図A.4∼A.6に示す.なお,紙媒体は0.1mm 厚の半光沢紙を用いた.評価項目として,図5.3で示した反対の意味を持つ形容詞の対を 両端とした7段階尺度を用意し,評価項目以外に感じたことがあれば自由に記述しても らった.また,グループごとに,各提示コンテンツに「気に入った順」の順位をつけても らった.なお,実験は蛍光灯をつけた窓のない明るい部屋で行い,提示した紙媒体と被験

(20)

者の間の距離は約60cmとしたが,自由に近づいて見たり遠ざかって見たりしてもよいと 教示した.被験者は男性10名,女性6名の計16名であった.

(a)グループ1写真 (b) グループ2ポスター

(c) グループ3スケッチ (d) グループ4書道

(21)

(a) 1-1なし/なし (b) 1-2なし/白色 (c) 1-3布目/白色 (d) 1-4布目/暖色 (e) 1-5縞鋼板/白色 (f) 1-6縞鋼板/暖色 (g) 1-7和紙/白色 (h) 1-8和紙/暖色 (i) 1-9特化型(夜景の強調)/ラン ダム 図5.2: 提示コンテンツ グループ1 写真 各画像のキャプションは「フィルターの種類/バックライトの発光色」を示す

(22)
(23)

5.2.3

結果

各提示コンテンツにおける各評価項目と順位について説明する.評価項目は7段階尺度 のうち左端を7,右端を1として数値化したうえで平均値を求めた.例えば「美しい-醜い」 の項目において,値が中央の4よりも大きいほど「美しい」,小さいほど「醜い」傾向と なる.また,「順位」は値が小さいほど高い順位であることを表す.グループ1の結果を表 5.3に,グループ2∼4の結果を付録の表A.1∼A.3に示す. 表 5.3: 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ1(写真)

5.2.4

考察

本システムを用いることによる紙媒体の持つ印象の変化を「フィルターによる影響」「バッ クライトによる影響」「特化型による影響」の3つの観点から考察する. フィルターによる影響 フィルターの違いによる印象への影響について考察するために,紙媒体/バックライト の条件を統一して比較する.4種類のフィルター(なし/布目/縞鋼板/和紙)における, スケッチ/白色バックライトの提示コンテンツの評価結果のうち,特徴の見られた項目の グラフを図5.4に示す.「明るい-暗い」の項目においては,どのフィルターにおいてもフィ ルターなしの場合よりも暗い傾向があった.布目/和紙フィルターにおいてはフィルター なしの時と比べて美しい,良い,自然な,柔らかい といった傾向があった.また,縞鋼 板フィルターにおいては,フィルターなしの場合と比べて醜い,悪い,不自然なといった 傾向が大きかった.このことから,フィルターと紙媒体の相性によっては印象を損ねてし まう場合もあると考えらる.

(24)

図5.4: スケッチ/白色バックライトにおけるフィルターごとの比較 バックライトによる影響 バックライトの色による印象への影響について考察する.白色バックライトを用いたコ ンテンツすべての平均と暖色バックライトを用いたコンテンツすべての平均を比較し,特 徴の見られた項目のグラフを図5.5に示す.白色バックライトは暖色バックライトを用い たものよりも派手,明るい,強い,固い,寒い,新しい,激しいといった傾向があり,バッ クライトの発光色による印象への影響が見られた. 図 5.5: 白色バックライトの平均値と暖色バックライトの平均値の比較

5.2.5

特化型コンテンツによる影響

特化型コンテンツによる印象への影響について考察する.写真/ポスター/スケッチの 紙媒体に白色バックライトのみを組み合わせた提示コンテンツと,これらの紙媒体に特化 型フィルター/絵柄に合わせたバックライトを用いた特化型コンテンツを比較し,特徴の 見られた項目のグラフを5.6に示す.特化型コンテンツはいずれも白色バックライトを組 み合わせた紙媒体よりも美しい,良い,おもしろい,派手な,新しいといった傾向が大き

(25)

く見られ,順位が高かった.また,特化型コンテンツは写真においては自然な,ポスター /スケッチにおいては不自然なといった傾向が見られた. 図5.6: 3つの紙媒体における白色バックライトと特化型コンテンツの比較

5.2.6

考察のまとめ

本システムを用いることで紙媒体の持つ印象を多様に変化させられていることから,本 システムは紙媒体に多様な表現力を付与できていると考えられる.特にフィルターの違い よる印象の変化が大きかった.しかし,紙媒体の絵柄とフィルターの相性によっては印象 を損ねてしまう場合もあった.また,特化型フィルターはユーザーの好み順位が高く,良 い影響が見られた.なお,実験で用いた紙媒体はすべて同じ素材であったため,紙媒体の 素材の違いによる印象の変化は検証できなかった.

(26)

6

議論

本章では,本システムの有用性と応用例について述べる.

6.1

本システムの有用性

本研究では,フィルター/バックライトによって紙媒体を直接加工することなく表現を 拡張する手法を提案した.実験結果より,様々なフィルター/バックライトとその変更に よって紙媒体の印象を多様に変化させられることが分かった.フィルター/バックライト が紙媒体の絵柄に適していない場合は印象を損ねてしまうことがあったが,本システムの フィルター/バックライトは容易に変更することができるため,多様なフィルター/バッ クライトの組み合せを試し,自分の求める印象を与えられる組み合わせを模索するといっ た使い方ができると考えられる.

6.2

本システムの応用例

本研究でははがきサイズの紙媒体を用い,筐体はフォトフレームほどの小型のものであっ たが,本システムを大型化することで大型の写真やポスター展示に活用できると考えられ る.しかし,大型になると紙媒体やフィルターの交換が困難になる上,多様なフィルター の制作やバックライトのLEDの数が増えることによるコストの増加が課題となる.他に は,紙媒体の光を曲げられるといった特性から,平面以外での活用を考えられる.例えば, 円柱型のランプシェードとしての応用例(図6.1)などがあると考えられる.しかし,フィ ルターも円柱型にする必要があり,のテクスチャや模様の映り方に大きく影響する紙媒体 とフィルターの距離を変化させるのが困難である点が課題となる.

(27)

図6.1: 円柱型ランプシェードとしての応用例 図4.2(a)の織物フィルターのテクスチャを

(28)

7

結論と今後の展開

本章では,本研究のまとめと今後の展望について示す.

7.1

まとめ

本研究では,紙媒体の表現力を拡張するシステム「透紙」を提案した.テクスチャや模様 をもつ透明なフィルターを,発光面をインタラクティブに変化させることができるバック ライトで照らし,そのテクスチャや模様を任意の紙媒体へ透過させることで紙媒体の表現 力を拡張することを目指した.本稿では,まず,フィルターとバックライト及びこれらと 紙媒体を組み込んでフォトフレームのように扱うためのプロトタイプを実装した.予備実 験の結果,紙媒体とフィルターの距離がテクスチャや模様の映り方に大きく影響すること を確認できた.ユーザー評価の結果,本システムを用いることで紙媒体の印象を大きく変 え,フィルター/バックライトの変更によって多様な印象を付与できることを確認できた.

7.2

今後の展望

本研究で用いた紙媒体は,図5.1で示したように絵柄の性質が異なるものであったが, 紙媒体自体はいずれも0.1mm厚の半光沢紙であった.今後は様々な質感の紙媒体を用い, 紙媒体自体が持つ質感が表現にどのような影響を及ぼすかを検証する.また,ユーザー評 価により特化型フィルターは紙媒体に良い印象を与えることが確認できたが,紙媒体の絵 柄に合わせて制作する必要があるため,絵柄に合わせたフィルターを容易に制作できるシ ステムの構築を目指す.

(29)

謝辞

本研究を行うにあたり,提案や実装,論文執筆,研究に必要な物品の手配や学会参加の 引率等様々なご指導・ご協力をいただきました指導教員の塚田浩二先生と特任研究員の沖 真帆さんに感謝いたします.また,多くの手助けや意見を下さいました塚田研究室の皆様 に感謝いたします.

(30)

対外発表

杉山圭,沖真帆,塚田浩二:透紙:紙媒体の質感を拡張する表現手法の提案, エンタテインメントコンピューティングシンポジウム2017論文集, pp.441-443.

杉山圭,沖真帆,塚田浩二:透紙:紙媒体の質感を拡張する表現手法の提案,

(31)

参考文献

[1] 凸版印刷.「電子ペーパー」http://www.toppan.co.jp/denshipaper/,(2017.01.09ア クセス).

[2] 尾鍋 史彦, 石井 健三,江前 敏晴,野中 道敬,藤井 里絵,表 尚弘,紙メディア,日本印 刷学会誌45巻 5号, pp.315-333, 2008.

[3] Maho Oki, Koji Tsukada, and Itiro Siio, AugmentedBacklight: expansion of LCD backlights using lighting methods in the real world, Proceedings of HCI2013, pp.209-216, 2013.

[4] Maho Oki and Koji Tsukada, Sparklry: Designing“Sparkle”of Interactive Jewelry, Proceedings of TEI2017, pp.647-651, 2017.

[5] Hanfeng Chen, Junho Sung, Taehyeunn Ha, Yungjun Park and Changwan Hong, Backlight Local Dimming Algorithm for High Contrast LCD-TV, Proceedings of ASID06, Vol.1, pp.168-171 2006.

[6] Kari D.D. Willis, Takaaki Shiratori, Moshe Mahler, HideOut:Mobile Plojector In-teraction with Tangible Objects and Surfaces, Proceedings of TEI2013, pp.331-338, 2013. [7] 清水 忠男, 白色LEDプレートと和紙造形の組み合わせによる照明入り額絵, デザイ ン学研究作品集 Vol. 21(2015) No. 1, pp.1 2-1 7, 2015. [8] 中原 由美,水野 慎士,障子を用いたインタラクティブシステムの開発,情報処理学会 インタラクション2017論文集, pp.771-773, 2017. [9] 小林 健作,ポストプレスの動向 ─材料から見た表面加工─, 日本印刷学会誌 45巻2 号, pp.83-88, 2008. [10] 市原 茂,セマンティック・ディファレンシャル法(SD法)の可能性と今後の課題,総 説(感性情報処理・官能評価部会)45巻 5号, pp.263-269, 2009.

(32)

付録

(a) 布目フィルター

(b)縞鋼板フィルター

(33)

(a)木目フィルター(透明)

(b) 木目フィルター(茶色)

(c)和紙フィルター

(34)

(a)集中線フィルター

(b) 特化型フィルター(文字の強調)

(c)特化型フィルター(影の強調)

(35)

(a) 2-1なし/なし (b) 2-2なし/白色 (c) 2-3布目/白色 (d) 2-4布目/暖色 (e) 2-5縞鋼板/白色 (f) 2-6縞鋼板/暖色 (g) 2-7和紙/白色 (h) 2-8和紙/暖色 (i) 2-9特化型(文字の強調)/文字 部分のみ発光 図A.4: 提示コンテンツ グループ2ポスター 各画像のキャプションは「フィルターの種類/バックライトの発光色」を示す

(36)

(a) 3-1なし/なし (b) 3-2なし/白色 (c) 3-3布目/白色 (d) 3-4布目/暖色 (e) 3-5縞鋼板/白色 (f) 3-6縞鋼板/暖色 (g) 3-7和紙/白色 (h) 3-8和紙/暖色 (i) 3-9特化型(影の強調)/絵柄に 合わせた発光 図A.5: 提示コンテンツの例 グループ3 スケッチ 各画像のキャプションは「フィルターの種類/バックライトの発光色」を示す

(37)

(a) 4-1なし/なし (b) 4-2なし/白色 (c) 4-3布目/白色 (d) 4-4布目/暖色 (e) 4-5縞鋼板/白色 (f) 4-6縞鋼板/暖色 (g) 4-7和紙/白色 (h) 4-8和紙/暖色 図A.6: 提示コンテンツの例 グループ4 書道 各画像のキャプションは「フィルターの種類/バックライトの発光色」を示す

(38)

表A.1: 各提示コンテンツにおける評価結果の平均値 グループ2(ポスター)

(39)

表 目 次 5.1 紙媒体とバックライトの適正距離 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 5.2 紙媒体とフィルターの距離による変化
図 4.2: フィルターとその投影例
図 4.3: バックライト
図 4.7: フィルター/バックライト固定ユニット
+7

参照

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