1.はじめに NDK60 周年記念ファッションショーにおいてウエ ディングドレスを発表した。その作品制作について報告 する。 NDK日本デザイン協会とはファッションデザインの 総合的研究向上を目的とする協会であり,NDKファッ ションショーはNDKが主催するオートクチュール作品 の発表の場として 1960 年(昭和 35 年)より毎年 1 回 ないし 2 回,欠かさずショーやコンテストを実施してい る1)。 参加者には経験豊富な熟練者が多く貴重な意見をいた だけるだけではなくクオリティーの高い作品を間近に見 ることができる。時に厳しい意見をいただくこともある がそれらは作品制作の完成度を上げるうえで貴重なアド バイスである。私にとってファッションショーにおいて 作品発表を積み重ねることは自らの技術と知識の向上だ けでなくファッション造形授業の指導においても大変役 立っている。 2.ドレス制作 2-1 ドレスデザイン背景 クラシカルで不変なイメージがあるウエディングドレ スだが実は年々トレンドが変化している。 今は繊細なレースやシースルー素材など,透け感のあ るドレスがトレンドである。それは,透明感がありフェ ミニンな印象を与えてくれる。海外ではスカート部分に 透け感のあるドレスが人気だが日本ではデコルテや腕部 分に透け感を活かしたドレスに人気が高い2)。今回はデ コルテだけでなく,足元にもレースの透け感を活かした デザインにした。シルエットはポールポワレの作品より イメージを得,クラシカルでエレガントなスタイルに仕 上げた。 ポールポワレは 19 世紀前半に活躍したデザイナーで 「コルセットの追放運動」で有名である3)。当時,女性 服は人工的に形付けられたSカーブシルエットが美しい とされており,不自然な曲線に極限まで体を沿わせ,女 性にはこれまでのどの時代よりコルセットに束縛されて いた。そこで,ポールポワレはコルセットを使わないハ イウエストのドレスを発表し(図 1)4),女性の自然な体 の曲線をなにより美しいと評価した。これに先駆けて, 1903 年に着物風コート,翌年に大きな袖の直線裁ちド レスなど西洋文化に新しい異国趣味を持ち込んだ。また, トレンドの方向性を敏感に察知し,それまでの女性服の 考え方を大きく変化させる革命を起こした人物である。
レース素材の透け感を活かしたドレス制作
藤 本 和 賀 代
* クラシカルで不変なイメージがあるウエディングドレスだが実は年々トレンドが変化する。今は繊細なレース素材 を使用した透け感のあるウエディングドレスが好まれている。そこで今回,ビーズやスパンコールが散りばめられた 高級なチュールレースを使用しドレス制作に取り組んだ。レース素材は繊細なため扱いに手間がかかり避けられがち だが,高級感と女性らしさを表現するにはこれ以上の素材は無い。ドレスは透け感を活かすため一枚仕立てとし,切 り替えは極力少なくレースの柄を活かす。また,ドレス裾には生地のスカラップを利用した。アクセントとなるウエ ストベルトとブローチにはビジュー,パール,ビーズ,スパンコールを刺繍し華やかさをプラスした。仕上がったウ エディングドレスはNDK創立 60 周年記念ファッションショーにおいて発表した。キーワード:ウエディングドレス,透け感,チュールレース,ファッションショー
図 1 Paul Iribe「ポールポワレのドレスより」2-2 ドレスデザイン概要 制作するウエディングドレス(図 2)にはオフホワイ トのレース素材を使用する。レースが透けるため下にア ンダードレスを着用することにした。アンダードレスも オフホワイトだが艶のあるサテン生地を採用した。 レース地のドレスはハイウエストのストレートシル エットだが歩ける範囲で裾を広げる必要がある。レース の透け感を活かすため,デコルテと足元はレース素材の みとなり,肌が透けて見え,女性らしさが際立つデザイ ンとした。アクセントとなるハイウエストベルトにはビ ジュー,スパンコール,偽パールを刺繍し,豪華さをプ ラスするが色はシルバーとオフホワイトに統一し上品に 仕上げる。 レース素材の布特性を活かす5)ため下記の工夫をし ている。 ・ドレス裾にはレース布端のスカラップを利用 ・ドレスは一枚仕立てとし透け感を活かす ・レースの総柄を活かすためデザインはシンプル ・糸の絡みよって作り出された柄の美しさを活かすため ダーツや切り替えは極力少なく仕立てる 図 2 制作したドレスのデザイン画 2-3 布の選択 イメージに合うよう図 3 に示す布を選択した。レース 地のドレスには 125cm幅で両端がスカラップとなって いるチュールレース①を使用した。総柄でそれぞれ花柄 中央にビーズとスパンコールの刺繍が加えられている。 アンダードレスは②ポリエステルサテンを使用した。艶 がありチュールレースを通しても光沢の美しさが伝わ る。ドレス,アンダードレスの袖ぐり,首ぐりのパイピ ング用布③シルクサテンはアンダードレスサテンと同色 だが外側に着用するシルク地のドレス部分にも巻き付け るため高級なシルク素材を使用した。 布の用尺は仮縫い用シーチング布で必要寸法を見積 もった。 ①チュールレース(ビーズ,スパンコール付き)オフホ ワイト 125cm×250cm ②サテン オフホワイト ポリエステル 100% 138cm×120cm ③シルクサテン オフホワイト 絹 100% 140cm×50cm 図 3 使用布
① ② ③
2-4 パターンメーキング 大人のイメージが強いストレートシルエットで袖ぐ り,首ぐりは極力詰める。女性らしいイメージの布だか らこそ甘すぎないように工夫をした。また,レースの柄 を活かすためデザインはシンプルでシルエットの美しさ を重視する。縫合部分は必要最小限とする為の工夫を凝 らす。 2-4-1 レース地のドレス ドレス裾に布端のスカラップ(エッジ)を利用する為, スカート丈は布幅でとれる 125cm以内にする。またス カート裾幅は脇の柄合わせを考えて裾幅寸法を決める必 要があるが,歩きやすさを考慮すると少なくとも裾周り 寸法は半径 80cm以上に仕上げなければならない。 上身頃では胸のダーツを下方向へ移動し,切り替え部 分においてギャザー処理をする。肩甲骨のダーツは袖ぐ りへ移動し,ゆとりとして処理をする。ドレス上下切り 替え位置は着丈のバランスを考えながらハイウェイに設 定する。本来のウエスト位置より 6.0cm上に切り替え を設定したが後身頃中央の開き止まり位置にもなり,着 脱のしやすさに影響するため,モデルによる試着後に切 り替え位置を再検討することにした6)。 2-4-2 アンダードレス アンダードレスはモデルの体にフィットさせるため最 小限のゆとりで制作する。ウエスト位置は原型の位置よ り 2cm上に設定し,スカート丈は脚が美しく見えるバ ランスを考え約 50cmにした。歩きやすさを考慮し両脇 裾に向けて前後 1.5cm出す。肩のストラップの長さは 胸開き分量のバランスが重要なためモデルによる試着後図 4 レース地のドレスパターン(12 分の 1)
図 5 シーチング組み立て(前)
に決定することにした。また,着脱に必要な開きはコン シールファスナーによる脇開きとする。 2-5 仮縫い・試着・修正 レース地のドレス・アンダードレスは手縫いと粗いミ シン縫いにより出来上り状態に仮組立てを行いモデルに 着用してもらう7)。想定はしていたが布が予定以上に変 形した。レース素材の上にビーズやスパンコールが付く 重みにより,モデルが着用すると着丈が 5cm近く伸び た。その分,横方向に細くなり体にぴったりとフィット した。このことから,下に着用するサテン素材のアン ダードレスは少しのゆとりさえもしわとなり見苦しくな ることが分かり,布の余り分は極力なくすよう修正し た。モデルに歩いてもらうとドレス裾幅寸法に問題は無 かったがアンダードレスで寸法不足を感じたためスカー ト裾のみ少し出すことにした。 ドレスとアンダードレスを重ねて着用した時の肩紐位 置とドレス袖ぐりのバランスが悪い,更にアンダードレ スの胸位置が高くつまった感じがあるなどの問題もあり デコルテ部分で幾つか細かい修正を行った。修正の詳細 内容を次に示す。 (1)レース地のドレス ・ドレス丈を 4cm詰める(裾にスカラップがあるため ウエスト位置よりカットする) ・袖ぐり前バストポイント辺りのカーブ線を 1cm内側 へ移動 ・袖ぐりかま底 1cm上げ,カーブ線を修正する ・ウエストベルト幅は全体のバランスより約 4cmに決 定する (2)アンダードレス ・胸幅は両端 1cm脇側へ移動する ・肩紐の長さを 2.5cm伸ばす ・ウエストダーツ量を後 0.8cm,前 0.5cm詰め細身に する ・アンダードレス裾で両脇 1cm出す 2-6 制作工程 印付けはゆるめに置きじ付けを行った。糸はロックミ シン用(ポリエステル)を使用した。チュールレースの 刺繍には多くのビーズ,スパンコールがついておりミシ ンの押金に当たるため,縫合周辺は丁寧に外した。ミシ ン掛けにおいては 9 番の針を使用し,糸調子は緩く設定 したがそれでもしわがよる場合はハトロン紙を挟むなど 空間をつくり縫製を行った8)。 脇は袋縫い処理をする。2-6-1 で詳述する。 首ぐり,袖ぐりは伸び止めの為,細かい捨ミシンを掛け ておき,シルクサテンでバイヤステープを制作し仕上り 幅 0.6 センチとなるように巻く。 アンダードレスはポリエステルを使用したが肩紐と前 胸元のパイピングテープは同じシルクサテンのバイヤス テープで巻く。後ろ開きの見返しは身頃より続きでと る。見返し端は透けて目立つためロックミシンを掛けず 断ちっぱなしとし,刺繍が重なり目立たないところで布 が浮かないよう数箇所縫い留めた。ドレス裾にはスカ ラップを利用するため脇線の柄合わせには細心の注意を 払った。 図 8 試着修正風景 図 9 後ろ開き(続き見返し) 図 10 スカラップ脇線の柄合わせ
2-6-1 レース素材縫い代端の始末の検討 レース素材端の始末には何通りもの方法がある。例え ばパイピング,袋縫い,三つ折り縫い,ダブルステッ チ,端ミシン,ロックミシン,切りっぱなしなどがある が,レースの厚み,透け感,硬さ,縫製部位などによっ て使い分ける必要がある9)。今回の処理として妥当と思 われる①パイピングテープ,②ロックミシン,③袋縫い の 3 種類の始末を行い,最適な処理を検討した。①パイ ピングテープは丁寧ではあるが透けるため,脇線が目立 ち強調してしまう。また,厚みが出る。②ロックミシン 処理は穴のあるレースは大変掛けにくい。また,せっか くの高級素材を粗悪なイメージにしてしまう。③袋縫い は外から確認したがあまり目立っている様子が無く,ま たレースでも処理しやすかった為,袋縫い処理をするこ とにした。 2-6-2 ウエストベルト制作 ウエストベルトはポリエステルサテン生地に軽く張り のある芯を貼る。チュールを被せ,ビジュー,偽パール, スパンコール,ビーズをバランスよく刺繍をする10)。 間無く埋めることによりボリューム感を持たせる。ベル トは後中心で ホック止めとする。 図 12 刺繍入りハイウエストベルト 2-6-3 ブローチ制作 首繰り後ろ留めブローチはブローチ用土台にウエスト ベルトと同じく,ビジュー,偽パール,スパンコール, ビーズを刺繍し制作した。 図 13 刺繍入りブローチ 2-7 最終フィッティング 最終フィッティングでは前回の修正箇所の確認とトー タルコーディネートの検討を行った。 修正箇所に問題は無かった。また,トータルコーディ ネートとして白のパンプスを履きチュールのグローブを 付けてもらう。髪は一つに束ね,白いバラコサージュを 飾る。イヤリング,ネックレスにはラインストーンジュ エリーを選択した。色を白,シルバーで統一し上品にま とめた。 ①パイピングテープ始末 ②ロックミシン始末 ③袋縫い始末 図 11 レース素材端の始末
3.NDK 60 周年記念ファッションショー出品 ファッションショーは平成 30 年 9 月 14 日大阪ホテ ル阪急インターナショナルにて開催された。この日,出 品された 100 点近い作品は趣向を凝らした力作ばかり である。 筆者も,デザインアップから始まり,布選び,パター ン,縫製,そしてモデルによるフィッティングに何度か の修正を経て完成させた作品を出品した。また,最終 フィッティングからも本番当日まで 2 度,3 度とリハー サルを行い,出るタイミングや時間調整など綿密に調整 した。モデルはランウェイウォークを行い作品が少しで も映えるようなポージングや歩き方を検討した。フィッ ターは着用順,装着小物の間違いが起きないよう何度も 確認を行い本番を迎えた。 今回も,優れた作品を数多く拝見した。生地特性を精 一杯に活かした斬新なデザイン,気の遠くなるような手 の込んだ刺繍で仕上げられたドレス,テキスタイルより 制作に取り組まれた徹底したオリジナルの作品など勉強 することはまだまだ山のようにあると感じている。また 自分の作品に対していただいた貴重なアドバイスはこれ からの作品作りの糧とし,今に満足すること無く更に完 成度の高い作品制作に努力していきたい。 参考文献 1) NDK日本デザイン協会 https://ndk-osaka.jimdo.com/ 2)今のトレンドは? 花嫁さんに人気のウエディングド レス https://howtwo.co.jp/article/1085778 3)ポールポワレ(Paul Poiret)からギャルソンヌルッ クへの変遷 https://antique-jewelry.jp/antique_ episode/jewelry-ej00091.html 4)深井晃子監修,世界服飾史,発行株式会社美術出版 社 P136-139 ,2009 5)大沼淳発行,学校法人文化出版局文化ファッション 体系⑥服飾造形 応用編Ⅰ(高級素材)p100-101 , 2013 6)月居良子,フォーマル&リトルブラックドレス 学 校法人文化出版局文化 p84-85 ,2015 7)大沼淳発行,学校法人文化出版局文化ファッション 体系コーディネートテクニックⅡ(商品知識)p76 -77 ,2010 8)大沼淳発行,学校法人文化出版局文化ファッション 体系⑥ 服飾造形応用編Ⅰ高級素材 p102 ,2014 9)大沼淳発行,学校法人文化出版局文化ファッション 体系⑥ 服飾造形の基礎 p151-154 ,2013 10)沼淳発行,学校法人文化出版局文化ファッション体 系服飾関連専門講座⑧ 手芸 p161-169 ,2014 図 14 NDK ファッションショーリハーサル風景
Wedding dress making with a sense of sheer feeling using lace material
Wakayo Fujimoto