• 検索結果がありません。

Microsoft Word - 玽�-慖倱�紕覆.docx

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "Microsoft Word - 玽ç�³-慖倱å�¦ç´•è¦†.docx"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

IT 人材向け自律的キャリア支援に関する研究

―キャリア自律行動因子に着目して―

白石雅義

, 大西克実

† 概要:IT 業界に特化した問題として、キャリア形成を目的としたスキル開発行動が、数年後の現場技術のスタンダー ドとしての陳腐化する問題や、転職の機会に際し、家庭の事情や希望の職種に巡り合えない現状の方が多く、それが 自律キャリアの形成の障害となる事が多い。先行研究より導き出されたキャリア形成の行動因子三つの観点とクラス ター分類に着目し、個別行動因子を元に被験者をそれぞれのクラスターに分類しキャリア形成支援を実施する事で、 クラスター間の移動が発生するメカニズムを掘り下げて研究を進めた。また研究を重ねていく中で、画一的な自律キ ャリアに関する支援方法についても検討も行った。研究の結果、キャリア形成を思考する人材を、行動に移させる為 の心の初動を与え、被験者にキャリア形成を自律的に行わせる方向へ進める、志向への切り替えが重要であると結論 に至った。 キーワード:自律的キャリア支援、IT 人材、キャリア思考、キャリア志向、転職の障壁

Research on Autonomous Career Support for IT Human Resources

: Focusing on Autonomous Behavioral Factors of Careers

SHIRAISHI, Masayoshi

, OONISHI Katsumi

Keywords: Autonomous Career Support, IT human resources, Career thinking, Career Intention, Barriers of Career Change

1.はじめに

「自律的キャリア」をどう定義するかの問いについて、 本来は経営学や教育学をはじめ倫理学や心理学などの広域 な分野を横断して存在する概念であるが故、容易な定義付 けを行う事が出来ない。そもそも何故、人的資源管理の概 念の領域において、「自律的キャリア」という言葉に焦点が 当っているのすら、明確ではない現状がある[1]。そして、 自律的キャリアの重要性や必要性を訴えながらも、結局の ところそれ(=自律的キャリア)の定義をどう定め、どうい った影響がもたらされるのかについて十分な検証がなされ ておらず、明確な確証が出ていない指摘まで展開されてい る[2]。ところが最近になって、自律的キャリアを「個人主 導な、個人が経験する仕事経験全体」とする新しい考え[3] が登場した。時代が移り、個人が主導で仕事の経験を重ね る事で従来の従属性に囚われずキャリアを歩みだす[4]、気 付きを得た人材が増え、今日ではSNS を駆使して、退職や 転職に関するエントリをアウトプットする IT 人材が増え てきている。その観点を踏まえた上で、IT 業界にフォーカ スした「キャリアの自律実現を目指す」ための方法論を検 討し始めた事が本研究のスタートラインである。 †大阪市立大学大学院 創造都市研究科

†Graduate School of Greativecities, OSAKA City University

IT 業界の、特に SES と称される「システムエンジニアの能 力を契約の対象とする業務委託契約」するといった雇用形 態やそれに類似する契約を結んだ上で、キャリアを重ねて いるIT 業界のエンジニアに向けて、自律的キャリアに関す る支援の実施元は、ほぼ全ての場面で所属する企業から従 属する個人に向けた「会社への従属前提のキャリア支援」 である。言い換えると、企業はIT 人材の流出を抑える術と しての「自律キャリア支援」を実施していると考えても過 言ではない。これは、企業が利益追従のプロセスで生じる 活動行為であると言えるが、企業に従属するIT 人材が与え られた自律的なキャリア支援であると盲目的に信じ込む事 で「自律キャリア形成」のヒントとして誤認しようとして しまっている現状が私の周りで散見できる。 本研究は IT 業界でのキャリア形成に関して著者への質問 があった事が発端となる。IT 人材である周りの親しい同業 種から、キャリア形成について個人への質問として相次い だ。アドバイスを行う事でIT 人材としてキャリア形成にお ける一定の転機となるきっかけを与える事ができたが、そ の後「何故私に質問をし、どういう答えを望んでいてどの 様に将来のキャリア形成を考え、どの様に考えているのだ ろうか」について考察を重ねる事で、IT 人材の同業者間に

(2)

おける個人から個人に向けた自律キャリア形成の支援に、 どの様な障壁があり、それをどう解決すべきか、解決策を 模索する事とした動機が生じた。IT 人材に向けて「個人か ら個人」とした相談に対応する試行数を増やしどの様な相 談にどう対応すれば「自律キャリアの形成」の支援が行え るか検討を重ねる行為が本研究の中心となる。更には、ど の様な支援行為が「自分ではない第三者でも支援行為が可 能となるか」を実現するための様式化実装を検討し、それ を汎用化できないかにまで検討を重ねる事とした。

2.先行研究

2.1.類似する先行研究 企業から企業内に属する人材に向けた自律キャリア論 及びそのキャリア支援について、参考となる論文資料はこ れまでに研究が進んできた中で潤沢に資料が存在する。し かし個人(相談する側)が個人(相談される側)に向けてとす る、とりわけIT 業界に特化した自律キャリアの支援に関す る同様の論文資料は発見には至らなかった。だが、”自律的 キャリア、支援”と言うキーワードで検索する事で、本研究 への関連資料を発見した。それを先行研究として以下に述 べる。 2.1.1.経営の視点と個人の視点を統合したキャリア 自律概念[5] 2003 年 3 月に発表された、広告業界や製薬業界、出版業 界から化粧品業界及び、本研究の業界となる、IT 業界も含 めた日系、外資を問わない14 社から、1 社当たり 100 人か ら200 人とし、全体で 2400 人近い企業内人材を対象とし た、80 問にも及ぶ詳細な自律キャリアに関するアンケート を実施し、その中でキャリアの自律行動因子毎のクラスタ ーに分類し個別キャリア行動因子同士の因果関係の掘り下 げや企業からの政策的な自律キャリア推進要素がどの様に 分類可能であるかをまとめた調査文献資料となっている。 本研究において、このキャリア行動因子を用い独自のクラ スター分類を行うための中心要素として位置付けている。 2.1.2. 2014・2015 年度 IT 人材キャリア形成研究会 - JUAS [6],[7] キャリア形成やスキル武装が絶えず流動する IT 業界に おいて IT 人材としてどの様にキャリアを形成すべきなの か、企業はどの様なキャリア形成をIT 人材に育成として展 開すべきなのかについて研究した内容を公開した資料であ る。本研究の背景を探る点において、自身の見えないIT 業 界全体の問題提起を辿る為の資料として位置付けている。

3.本研究の手法

3.1.キャリア形成の行動因子の定義 高橋氏の研究[5]において、自律的なキャリア行動の因子 を集計し、分類分けを行っていた。その解析結果から、本 研究ではその行動を強化する三つの因子をキャリア形成の 行動因子として、以下に定義付けを行う。 3.1.1.主体的なジョブデザイン行動 価値観やポリシーを持った仕事への取組みや、社会やビ ジネスの潮流に対する自主性と社内に向けたチーム力構築 への積極参加やそれへの工夫等の行為を示すもので、本研 究においてはIT 業界における、技術職・経営職を問わない 自律的な職業・キャリア設計に関する行動も指す。 3.1.2.ネットワーキング行動 人脈形成に常に取り組み、自分を取り巻くネットワーク に自身のニーズを理解し、それに応じ、今抱えている問題 意識や考えについて社内外を問わずシェアする行動を指す。 本研究においても IT 業界における社内外を問わない勉強 会への参加及び人脈を形成する行動も指す。 3.1.3.スキル開発行動 自身の業界におけるニーズに向けてどの様なスキルを 開発すべきかアクションプランを持ち、そのための自己投 資を指す。本研究においてはIT 業界における、現職で役立 つ/役立たないを問わない、スキルアップを目指す行動も指 す。 3.2.IT 人材のクラスター分類定義 IT 人材(以後被験者)からの自律キャリア形成に関する 悩みをヒアリングした後、高橋氏の研究結果のクラスター 分類を用いて、被験者を以下のいずれかのクラスターに振 り分けを行う。また、クラスターに分類される被験者にお いて、行動因子の傾向が類似していないか、並行して分類 分けを行う。 表1:クラスター分類 図 1 :クラスター分類マップ

(3)

3.3. 改善すべき行動因子の抽出と被験者へのシェア クラスターに分類された被験者に対してキャリア支援 を実施し、会話の中から「主体的なジョブデザイニング」 「ネットワーキング行動」「スキル開発行動」の個別行動因 子における、改善すべき行動因子について分析し、被験者 へ行動因子改善を狙った提案を共有する。 3.4. 被験者のクラスター分類変化の確認 被験者への提案の共有後、再度ヒアリングを実施し、そ のアウトプットから行動因子の改善がなされた場合をクラ スター間移動が発生したとし、改善がなされなかった場合 をクラスター変更が発生しなかったとし、どのクラスター に分類する被験者がどの様に変化があるか、その傾向を掴 む事とした。 3.5.高橋氏との研究手法の相違について 高橋氏の研究との相違点について以下三点を述べる。 1. 高橋氏らの研究の被験者は、出版社・薬事業界・化粧 品業界等幅広い業界でキャリア自律を実現しよう、若 しくはしている企業内人材を対象とし、本研究ではIT 業界(SES がメイン)にフォーカスを絞り込んでいる。 2. どの様なキャリア自律の行動因子があるかについて 調査を進めていた高橋氏の研究に対し、個別の支援内 容を行動因子に掘り下げて考察を重ねている。 3. どの様なキャリア自律の行動因子があるかについて 調査を進めていた高橋氏の研究に対し、個別の支援内 容を行動因子に掘り下げて考察を重ねている。

4.支援前後のクラスター分類状況

4.1.支援前クラスター分類 4.1.1.支援実施時のクラスター分布状況 調査実施期間:2016年1月~2018年12月 被験者数:39人 その他: IT業界で5~20年程のキャリアを有し 非経営層の技術職者 図 2 :クラスター分布状況 4.2.支援後のクラスター分類移動状況 4.2.1.自律キャリア支援後のクラスター移動 被験者への自律キャリアの支援を実施した所、クラスタ ー間の移動が生じた。結果は表4の通りであった。 表2:支援後のクラスター移動内訳 4.2.2.支援実施結果:クラスターA クラスターAに属する被験者は、社内に向けた自律キャ リアを積極的に行ってきたが、技術者としての閉塞感、こ れから先のエンジニアとしての伸び代及び経済的な豊かさ の面において不安を抱えていた。実際に支援を行う前は、 企業内でのキャリア形成に注目していた。主体的なジョブ デザイン行動において、積極的に周りと関わり、社内外を 問わず、ネットワーキング行動も積極的に行っていた。た だ、スキル開発行動の面において、社外勉強会の存在を知 らず勉強会によって新たな知見を見知り、社外活動の存在 を知る等により社外を問わないキャリア形成行動に思考が 向くまでに至り、クラスターBへの移動が生じた。 4.2.3.支援実施結果:クラスターB クラスターBに属する被験者は、社内外問わず自律キャ リアを積極的に行いつつも、この先どうキャリアを重ねて いけば良いであろうかに関する支援を求めていた。「主体的 なジョブデザイン行動」「ネットワーキング行動」「スキル 開発行動」の三要素全てに積極的な活動を行っていたが、 被験者の二人に共通する相談内容としては、より良い精神 的・経済的な実現を望む内容であった。それでいて、IT 市 場における自分の価値については、一定の見識を持ってい る事を、支援を通じていく中で感じた。彼らに支援した具 体的な内容として、一歩を踏み出す為のきっかけとして SNS 等に挙げられた転職エントリの紹介や啓蒙のきっかけ を与える書籍の紹介を行った。その結果として、やはり自 分で自分のキャリアを形成するしかないという思考に至り、 結果としてクラスターBにとどまる結果となった。 4.2.4.支援実施結果:クラスターC クラスターCに属する被験者は、所属中の会社に属した ままのキャリア形成は望むがその実現方法の具体策を打ち 出せずにいるまま、クラスターB同様漠然とした将来の不 安に関する支援を求めていた。社内に向けた「主体的なジ ョブデザイン行動」は盛んで、ビジネス繋がりとしての会 社間における「ネットワーキング行動」は積極的に実施し

(4)

ているものの、「スキル開発行動」において、今社内で有す るスキルのままで社外に出た時に、通用するか否かについ て強く不安を抱える状況にあった。「今あるスキルは数年先 に通用しない」と説明し、スキルセットが刷新されても流 されない中心にあるべきスキルについて支援となる説明を 重ねては見たが、それをどう持つべきか、被験者自身への 気付きに繋がることが無く、結果としてクラスターCのま まとなった。 4.2.5.支援実施結果:クラスターD 本研究で一番多く分類されたクラスターDに所属する 被験者は、三因子「主体的なジョブデザイン行動」「ネット ワーキング行動」「スキル開発行動」において、自律キャリ ア形成を思案はするが、行動に移せずにいる状況でそれを どう実現したら良いかわからないという状況下で支援を求 めてきた。「キャリア設計の見直し」「人脈を築く」「新技術 への独学」のどの分野にも、具体的な実現策に気付けず、 結果「思案はするが、行動に移せない」という状況下にと どまっていた。ただ、全く自律キャリア行動を行っていな いということではなく、一部においては過去に行動に至っ た事もあったのだが、様々な環境因子において、ことごと くがクラスター移動を妨げる結果につながっていた。彼ら には、クラスターB同様キャリア形成への気付きとして「既 にキャリア行動に移した人の紹介」「啓蒙に繋がる書籍の紹 介」「社外勉強会への参加を促し」を実施した。結果として 半分は思考が行動にシフトし、3 つの行動因子それぞれに おいて主体的な行動を行う様になりクラスターBへの移動 が生じた。しかし残りの半数は、全ての被験者への気付き を与えるきっかけには繋がったが、思考のままで行動に至 るまでには実現せずクラスターDのまま移動する事はなか った。 4.2.6.支援実施結果:クラスターE 社内での今まで以上のキャリア形成を望むクラスター Eに属する被験者は、クラスターD同様三つの行動因子に 対して、実現方法に悩み込む状況下で支援を求めてきた。 会社から提案されたキャリア形成を受動的に享受するクラ スターCとは異なり、キャリア形成を自分らしく実現した いという思考は持ちつつも具体的な実現策の時点で停滞を 余儀なくしている状況に陥っていた彼らにも、クラスター B・D 同様キャリア形成への気付きとして、自身とは考え方 の異なるIT エンジニアとしての行動例を紹介する事で、半 分はクラスターBへの移動が生じ、残りの半数は、それで も現状に敢えて甘んじたいという結論から、クラスターE のままとなる結果に至った。 4.2.7.支援実施結果:クラスターF 自律キャリア行動因子のどの要素に対しても、あくまで も受動的で、きっかけがあれば環境改善の為の転職を望み たいと、漠然とした悩みをもつクラスターFに所属する被 験者への支援も実施してみた。Fに所属する全員に共通す る事として、内的な要素ではなく病気や職場の雰囲気や給 与面といった勤務環境を原因とするキャリア形成活動を妨 げる外的要因を原因として、あくまでも仕事を自分で選ぶ 事と言う、自身の考えを優先するが所以に、どの様な自律 キャリア形成の行動因子の角度からを持ってしても、支援 を行おうとしても受け入れられず、クラスターFにとどま らざるを得ない支援結果となった。

5. クラスター分類の変化に関する考察

5.1.クラスター間差異の考察 被験者への自律キャリア支援後のクラスター分類移動 がおおよそで半数に別れ、かつ母体数の多いクラスターD 及びEに着目する。被験者は今より変化を望むが、その一 歩が踏み出せないでいる人が圧倒的に多く、具体的にどう 行動すれば良いか見出せてない点は共通している。「主体的 なジョブデザイン行動」「ネットワーキング行動」「スキル 開発行動」の三要素に対して具体的な行動の例として、「キ ャリア設計の見直し」「人脈を築く」「新技術への独学」等 を提示した所、ほぼ全ての被験者に気付きを与える事とな った。それらを実際行動にうつしている被験者が所属する クラスターとしてA・Bが該当するが、彼らとクラスター D・Eに分類した被験者の差異について、考察を重ねた所、 以下の項目を導き出す事が出来た。 以上から「思考」を「志向」に転嫁させる支援がクラスタ ー移動を誘引する要素であると考察する。しかしこれでは、 IT 業界に特化した自律キャリア支援と呼ぶものとは言え ない。そこで今一歩、後章にて深く考察する事とする。 5.2.思考から志向が生じたクラスター移動 志向が生じたプロセスについて考察する。著者は「内面 で完結してしまう思考から、行動に移し実践したいと願う 志向へ」と変化した支援活動の実施をもって、クラスター 移動が生じたD・Eの被験者へ現状を聞き出し、「主体的な ジョブデザイニング」「ネットワーキング行動」「スキル開 発行動」において、直面すべき問題を探り、どの領域で自 身を伸ばすべきなのか提案し、伝えて気付きを与えた上で、

(5)

「思考から志向」に転嫁する促しを続けていた。特に、ス キル流動性の高いIT 業界において、全ての IT 人材に「現 状のスキルを将来に持ち越せない業界である」事を被験者 に伝えた事で、クラスター流動を生じさせた全員に強い気 付きとして伝わった。 5.3.IT 業界に特化した自律キャリア支援の検討 高橋氏らとの研究の違いについて考察する。高橋氏は、 多種多様な企業に属する人材が、どの様なキャリア行動因 子をもってクラスター分類を行えるかについて、まとめて いる研究である。本研究は、IT業界の人材におけるキャ リア行動因子の各要素に対して、支援を行うべき要素を抽 出して被験者のクラスター分類と移動にまで至る経緯に着 目した『「思考」が「志向」に』と言うだけなら、要素的に は異業種でも同じ事が言える。しかし支援を行っていく中 で、全員には当てはまらなかったものの、IT 業界に特化し た個別行動因子を志向に変化させる要素として、以下の二 つを研究成果として得た。 1. 転職が新しいキャリア形成の転機になるか否かは、転 職後でないとわからない部分であり、異業種でも同様 の事を言える部分はあるが、今持っているスキルセッ トが転職先でそのまま適用出来る場面や機会は、他業 種に比べて圧倒的に少ない現実がある。 2. 家庭を持つ IT 人材に、所謂”家庭の事情”が生じたが ゆえに、IT 人材流動の妨げになる問題に遭遇した。転 職行動により、持っているスキルセットが給与面での 好条件を生むには厳しい現実がある業界である点から、 それに起因する人材流動が起こらなかった場面も存在 した。 さらにここで IT 業界に特化した自律キャリア支援につい て考察をまとめた。 1. 本研究において、IT 業界でキャリア 5~20 年弱の現 場の、SES 界隈を活躍の場とする IT 人材を対象とし たが、著者を含めた支援を行う側の人材が最も行うべ き支援は、全ての世代の被験者に共通して、転職も視 野に入れた現状からの脱却を図る提案であり、今をど うしたいか、どうあるべきかを被験者に問わせる点に おいて、著者も含めた支援を行う側の個人が支援注力 の際の最重点項目であると結果に至った。 2. IT 業界特有の技術へ適応する力を持つ必要性につい ての提案は、どのクラスターに所属していても、一定 の気付きとして効果のある要素であると言える。 3. 企業ではない、個人としての支援における問題として、 働き先の斡旋やそれに紐づく給与提示が行えない等、 個人で支援するにはどうしようもない部分もあった。 4. 社内に向けて志向に至ったが故に技術的なキャリアを 捨て、マネジメント職へキャリアを進めようと志向す る被験者も居た。技術者へのキャリア形成の支援には 至らなかったが、キャリア形成の支援の面では効果が あったと言える。

6.支援行動の手順化

被験者に支援を行った側の考察として 39 人を対象とす る自律キャリア支援を行っている中で、どの様に支援して も思考が志向に至らない被験者を残す結果を得た。著者に はない支援スキルを持つ他の個人が支援を行う事で、本研 究でなし得なかった志向に至る気付きを与える要素も存在 するのではないかと結論付けた。それを踏まえ、本研究で 得た知見を元に、IT 業界に特化した自律キャリア支援につ いて、内面で完結する恐れのある思考から、行動に移し実 践したいと願う様になる志向へ転嫁を促す支援を行う側の 支援行動の順序について、フェーズ毎に取りまとめ、以下 に示す手順としてまとめた。 上記手順におけるメリットを以下に述べておく。 支援を行う側に、特に強く求めるスキルや素養を追加で検 討した。それを以下に述べておく。

(6)

上記を手順化する検討を行った際に、「個人が個人に向けた 支援」を行う行為には「IT 業界の今」について広い認識と 視野を持ち、更にはその状態を継続して保ち続ける必要が ある事に本研究で気付きがあった点ても言及しておく。

7.自律キャリアの支援の技法研究における今

後の課題

本研究において、自律キャリアの支援は『「思考」が「志 向」に変わるプロセスの中、どうやって伝えるべき相手に 気付きを与るかを探り当てる技法』という結論に至った。 IT 業界に特化した悩みとして、流動的なスキル要求の現場 に対しての支援は適切に行えるが、個人から個人へ限定し た場合、新しい職場の提案や、より豊かになるための給与 向上に関する具体的な提案を行う事が出来なかった。社外 活動への参加や3~40 代などの節目におけるキャリアの棚 卸しといった行動は、すでに自らの自律キャリアの実現に 対して「ポジティブである個人」にとっては良い成果が生 じたが、「そうでない個人」を支援する場面では、今一つ効 果が得られた結果に結びつかなかった。また、個別行動因 子別にどの行動因子がより気付きを与える要素となったか、 等の詳細な考察が十分に行えず、個別クラスター分けにお ける明確な定義付け等においても、被験者数の少なさから は、一定の傾向を掴むには十分とは言えない。上記シチュ エーションにおいて、効果が得られる自律キャリア支援に 関する様式化の適用や実施は、被験者数が少なく、検討を まとめるに至る時間が不足している等の理由から、効果検 証が行えてない状況に至ってしまった。また、クラスター 別として本研究では属性分けを行ったが、世代別や、プロ グラマーやインフラエンジニアといった、より詳細なIT 業 界の分野別の差異及び未婚や既婚などといった家族属性に ついても被験者数の少なさから傾向を導き出せないでいる 結果となった。本研究では以上の点に踏み込めていない点 が課題として残る。

8.おわりに

冒頭でも述べた様に、企業からの提案としての自律キャ リアを支援する行動は企業が人材を囲い込む術の一端とし ての施策として存在している事は否めない。日本の様々な 業界における人材不足は、IT 業界においては更に深刻な 問題でもある。その中でキャリア形成をより自律的に行え るエンジニアの育成は急務であると言うより他の言葉が見 当たらない。しかし現状は、未だに企業に依存し従属して いる事に自覚を持たない人材も多く、何故不遇の環境で働 いているのかを疑問にも思わず、ただただ不平不満を列挙 しているだけの状況が散見して取れる。本研究において、 被験者との話し込みを続けていく中で、適切な支援は行え たが、『「思考」を「志向」にとする、精神的なインプット /アウトプットの働きかけ』だけでは無く、IT 業界の背景 を踏まえた個人の自律キャリアの問題を掘り下げる必要が ある。現状で個人や専門家が自律キャリアを目指す人材へ の支援に関する先行文献等の情報が皆無に等しいIT 業界 において、SES 業界の人材をメインとした、ニッチな悩み の存在を確認出来た。また、給与、勤務地に勤務条件に関 する懸念によって35 歳以上の男性転職・起業希望者のう ち25%がいわゆる「嫁ブロック」を経験[8]する現状や 850 万円以上の収入を得ている人の割合は、技術専門職より一 般管理職の方が多い[9]事も、自律キャリアの形成を阻害 する要因として、本研究との関連性は高い。これら現実に 対して、とりわけIT 業界全体における人材の自律キャリ アの形成における支援方法の検討を行っていく事が、将来 に渡っての日本のIT 業界における大きな課題であると言 えるが、そこは後陣の研究に委ねる事とする。最後に、本 研究が個人から個人への自律キャリアの支援に関する研究 が進んでいない状況に対して、企業からの支援ではなく、 個人が企業と対等に渡り合う様になった時代に向けて、個 人が個人としてキャリアを最大化させるための、提言とし て一石を投じるものとなり、さらなる深慮を伴う研究が進 む事を強く望む。

参考文献

[1] 平野光俊. 組織モードの変容と自律型キャリア発達. : 神戸 大学ディスカッション・ ペーパー, 2003. [2] 堀内泰利・岡田昌毅. キャリア自律が組織コミットメントに 与える影響. : 産業・組織心理学研究, 2009. [3] 島田歌. 「キャリア自律」ミドルにおける有効性-有効性の 条件をミドルの語りから探る. : Works review, 2008. [4] 宮島裕. 自律的キャリアの課題についての一考察. : 目白大 学リポジトリ, 2012. [5] 高橋 俊介. 自律的キャリア形成の実態と課題 経営の視点と 個人の視点を統合したキャリア自律概念. : 慶應義塾大学総 合政策学部, 2003. [6] “2014 年度 IT 人材キャリア形成研究会”(オンライン) 2015 年4 月 23 日. 入手先<http://www.juas.or.jp/cms/media/2017/02/14_jinzai.pdf >. (参照: 2018 年 9 月 20 日). [7] “2015 年度 IT 人材キャリア形成研究会”(オンライン) 2016 年4 月 21 日. 入手先<http://www.juas.or.jp/cms/media/2017/01/15_jinzai.pdf >. (参照: 2018 年 9 月 20 日). [8] “「嫁ブロック」を引き起こす 3 つの要素。話し合いで解決す るポイントとは?”(オンライン) 2017 年 11 月 8 日. 入手先<https://mynavi-ms.jp/magazine/detail/000348.html>. (参照: 2018 年 11 月 28 日). [9] “「コードで食っていく」は何歳まで可能か?エンジニア 300 人調査で見えた理想と現実”(オンライン) 2016 年 3 月 18 日. 入手先<https://type.jp/et/feature/929>. (参照: 2018 年 11 月 29 日).

参照

関連したドキュメント

※IGF コード 5.5.1 5.5.2 燃料管. 機関区域の囲壁の内部のすべての燃料管は、 9.6

なお、政令第121条第1項第3号、同項第6号及び第3項の規定による避難上有効なバルコ ニー等の「避難上有効な」の判断基準は、 「建築物の防火避難規定の解説 2016/

(※)Microsoft Edge については、2020 年 1 月 15 日以降に Microsoft 社が提供しているメジャーバージョンが 79 以降の Microsoft Edge を対象としています。2020 年 1

地方自治法施行令第 167 条の 16 及び大崎市契約規則第 35 条により,落札者は,契約締結までに請負代金の 100 分の

③ 新産業ビジョン岸和田本編の 24 ページ、25 ページについて、説明文の最終段落に経営 者の年齢別に分析した説明があり、本件が今回の新ビジョンの中で謳うデジタル化の

当社グループにおきましては、コロナ禍において取り組んでまいりましたコスト削減を継続するとともに、収益

この資料には、当社または当社グループ(以下、TDKグループといいます。)に関する業績見通し、計

7.法第 25 条第 10 項の規定により準用する第 24 条の2第4項に定めた施設設置管理