犯罪被害者を支援する人の共感疲労と共感性
――質問紙調査を通して――
Compassion Fatigue and Empathy among Victim Support Workers
— With Use of Questionnaire Study —
福 島 円
Madoka FUKUSHIMA
(日本女子大学 人間社会学部) 要 約 近年、犯罪被害者支援の広がりとともに、トラウマの被害者と関わる援助者が受ける心身面の影響が 論じられてきており、それを説明した概念の一つに共感疲労がある。本研究では、全国被害者支援ネッ トワーク加盟組織で活動する支援員 30 人を対象に、支援者の特徴や活動形態を踏まえた共感疲労の実態、 共感疲労と共感性との関連について探ることを目的とした。その結果、支援者の共感疲労は注意を要す るレベルではなく、理由として、ボランティア相談員が多く活動量の調整ができること、幼児期の個人 的トラウマ体験が少なかったことが挙げられた。また低い共感疲労が必ずしも高い共感満足につながる わけではないと考えられた。最後に共感疲労と共感性の関連の結果から、共感満足を覚えられず共感疲 労やバーンアウトに至っている状態では、援助が必要な被害者に対して不安な感情や冷淡さ(個人的苦 痛もしくは感情的冷淡さ)を抱いている可能性が示唆された。[Abstract]
In recent days, practices of the victim support have spread. Compassion fatigue is one of the construct describing “the cost of caring” trauma workers suffer. This study explored compassion fatigue among victim support workers, in light of features of their activities. Besides, the relation between compassion fatigue and empathy was also considered. The sample consisted of 30 care workers of organizations, affiliated with the National Network for Victim Support. The results showed that the average score of compassion fatigue didn’t reach the level of high risk. As reasons, it was considered amount of activities among workers was limited, and workers didn’t experience much trauma in childhood. Additionally, it was suggested that low compassion fatigue didn’t necessarily directly connect in high compassion satisfaction. Finally, compassion satisfaction was found to be positively correlated with personal distress, as were compassion fatigue and burnout with emotional coldness.
Ⅰ.問題と目的
日本の犯罪被害者及びその遺族は、長い間社会の中で孤立し放置されてきた。遺族の声に応え る形で 1992 年に東京医科歯科大学犯罪被害者相談室が創設され、それをきっかけにして、1998
年 5 月に 8 組織をもって全国被害者支援ネットワークが設立された。現在加盟組織は 2009 年 7 月時点で各都道府県 47 組織まで増加しており、2005 年に犯罪被害者等基本法が施行され、被害 者の権利が認められ犯罪被害者支援は広がりつつある。 そうした動きと並行して、犯罪被害者、被虐待児、天災や戦災の被害といった、トラウマの被 害者と関わる支援者自身が受ける心身面の影響も、議論されるようになってきている。これは Figley(1983)によって“ケアの代償(cost of caring)”と呼ばれ、初めて二次的外傷性ストレス (secondary traumatic stress)として概念化された。二次的外傷性ストレスとは,重要な他者が経 験した外傷性の出来事について知ることによって生じる、自然の結果としての行動や情緒−すな わちトラウマに遭ったり苦しんでいる人を援助すること、もしくは援助したいと思うことから生 じるストレスである(Figley, 1983)。しかしこの言葉は、PTSD を直に連想させるとして、それ と同義であるが、より受け入れられやすい共感疲労(compassion fatigue)の概念が用いられる ようになった(Figley, 1995)。共感疲労は、支援者がトラウマ体験をした人に共感的に関わり続 けることによって身体的・情緒的に疲弊した状態と定義されている。一方で Stamm(2002)は、 援助者が仕事を続けられるのは、ケアに代償だけでなく報酬もあるためであるとして、共感満足 (compassion satisfaction)の概念を提唱した。 Figley(1999)は、なぜ共感疲労に陥るのかについて、援助者がトラウマを負った人を援助す る上で、共感性が最も重要な資質であるためであるとしている。トラウマに遭った人に共感する 過程はトラウマ経験の理解を助けるが、この過程で支援者も同じようにトラウマに遭う。よって、 共感疲労と共感性の関連を探ることは、共感疲労の理解を促進すると考えられる。
Stamm & Figley(1996)は、共感疲労の様々な状況を包括的に検証し、自分の状態を客観的に 知るための、共感満足、バーンアウト、共感疲労の 3 下位尺度からなる Compassion Satisfaciton and Fatigue Test を開発した。Stamm(2002)によれば、このテストは様々な調査研究で用いら れているが、統計的妥当性についての確認が十分でない。日本においては、藤岡(2008)が先駆 的な研究を行い、児童養護施設職員を対象に、このテストを用いて調査をしている。それによる と、施設職員の共感疲労の平均得点は、リスクが比較的高いという結果が得られ、施設職員の疲 労感の深刻さを示した。他に、支援者の受ける影響を二次受傷と総称し、警察官(上田, 2006) や被害者支援の支援者(大澤, 2003)を対象にした調査はあるが、共感疲労について、被害者支 援に携わる支援者を対象にした調査はない。現在広がりつつある被害者支援の活動形態を踏まえ た、共感疲労の実態について検討する必要があると思われる。 そこで、本研究では、被害者支援に携わる支援者の活動形態を踏まえた共感疲労の実態を明ら かにし、及び共感疲労と共感性との関連について探ることを目的とした。 Ⅱ.方法 1.調査時期: 2005 年 8 月∼ 11 月 2.調査対象者: 全国被害者支援ネットワークに加盟する組織で活動する支援員を対象とした。
調査の対象者は、全国の被害者支援センターのうち、12 組織の支援者 31 名である。全国被害 者支援ネットワークのホームページ上にリンクがなかった組織、及び相談電話以外の連絡先が明 記されていなかった組織を除いた 29 組織に協力を依頼し、12 組織から了承を得た。見本として 送付した部数も含めた全配布数は 82 部、回収数は 31 部であった(回収率 36.6%)。回答に空欄 の 多 か っ た 1 名 を 除 く 3 0 名 を 分 析 対 象 と し た ( 有 効 回 答 率 9 6 . 8 % )。 年 齢 は 平 均 5 6 . 2 歳 (SD:11.9、range:24 ∼ 72 歳)で、性別の内訳は男性 4 名(13.3%)、女性 26 名(86.7%)であり、 女性が圧倒的多数を占めていた。 3.手続き: 全国被害者支援ネットワークに加盟する各支援組織に、調査への協力を依頼し、まず事務局に 調査の主旨、守秘義務等を説明した文書、及び質問紙の見本を送付した上で、了承の得られた組 織に可能人数を尋ね、その部数を送付した。支援者への配布は事務局に依頼したが、協力の可否 は各支援者の判断に委ね、各自記入した質問紙を郵送により返却してもらった。 4.調査内容および使用尺度: 1)フェイスシート: デモグラフィック特性として、年齢、性別、子どもの有無、最終学歴、援助者としての経験年 数、援助職に関連した資格、現在の勤務形態について尋ねた。 次に所属先での勤務状態を調べるために、所属先での経験年数、1 ヶ月の勤務日数、1 日の勤 務時間、援助形態、1 回の面接時間、1 週間の相談延べ時間数、1 週間のトラウマ相談延べ回 数・相談延べ時間数、過去 1 年間のトラウマ相談面接延べ回数、前年度(2004 年度)の職場内 外の研修の参加日数、過去・現在に行った専門的セルフケアについて尋ねた。トラウマ相談とは、 何らかのトラウマ(外傷体験)を受けた人を対象にした、またはトラウマに関連していると支援 者が判断した相談を全て含み、トラウマの種類は問わないこととした。 2)対人援助職のための共感満足/共感疲労自己診断(CSFT):
こ れ は 、 Stamm & Figley( 1996) が 開 発 し た 援 助 者 の セ ル フ チ ェ ッ ク テ ス ト ( The Compassion Satisfaction/Fatigue Test; 以下 CSFT)の小西 & 金田(2003)による日本語訳であり、 共感満足(26 項目)、共感疲労(23 項目)、バーンアウト(17 項目)の 3 下位尺度、全 66 項目 からなる。この 1 週間に該当した頻度について「0.まったくない」∼「5.頻繁に」の 6 段階で 評定を行い、それぞれの下位尺度得点を算出する。各尺度の得点は、共感満足尺度が 0 ∼ 130 点、 共感疲労尺度が 0 ∼ 115 点、バーンアウト尺度が 0 ∼ 85 点の範囲を取る。Stamm & Figley (1996)はこの質問紙がまだ研究中であり、集計結果が確証情報ではないとしつつ、各尺度の評
価得点を示している(図 4 ∼ 6 参照)。 3)バーンアウト尺度:
『日本語版バーンアウト尺度』を用いた。これは、Maslach ら(1996)の Maslach Bournout Inventory などから久保(1998)が作成したもので、情緒的消耗感(5 項目)、脱人格化(6 項目)、 個人的達成感(6 項目)の 3 下位尺度、全 17 項目からなる。「1.ない」∼「5.いつもある」の 5 段階で評定を行い、得点基準はなく、得点の高低により相対的に評価される。
4)共感性尺度:
『多次元的共感尺度』を用いた。これは Davis(1983)の対人的反応性指標(Interpersonal Reactivity Index)から桜井(1988)が作成したもので、視点取得、共感的配慮、空想、個人的苦 痛の 4 下位尺度、各 7 項目全 28 項目からなる。
また、『情動性共感性尺度』も用いた。これは、Mehrabian & Epstein (1972)の情動的共感性 尺度(Questionnaire Measure of Emotional Empathy)から加藤&高木(1980)が作成したもので、 感情的暖かさ(10 項目)、感情的冷淡さ(10 項目)、感情的被影響性(5 項目)の 3 下位尺度、 全 25 項目からなる。 本研究では、この多次元的共感性尺度と情動的共感性尺度を合わせて共感性尺度とし、桜井 (1988)にならって、「1.全く当てはまらない」∼「4.当てはまる」の 4 段階で評定を行った。 Ⅲ.結果 1.援助者としての基本属性 支援者の年齢は平均 56.2 歳(SD:11.9、range:24 歳∼ 72 歳)で、年代別に見ると、20 代が 2 名(6.6%)、30 代が 1 名(3.3%)、40 代が 1 名(3.3%)、50 代が 10 名(30.3%)、60 代が 14 名 (46.7%)、70 代が 1 名(3.3%)と、50 ∼ 60 代が約 80 %を占め、特に 60 代が 50 %近くに達して おり、子育てを終え定年を迎えた世代が多かった。援助者としての臨床経験年数は、平均 10.4 年(SD:10.4、range:半年∼ 39 年、無回答が 5 名)であった。5 年未満が 8 名(26.7%)、5 ∼ 10 年未満が 9 名(30.0%)、10 ∼ 15 年未満が 2 名(6.7%)、20 ∼ 25 年未満が 3 名(10.0%)、30 ∼ 35 年未満が 2 名(6.7%)、35 年以上が 1 名(3.3%)であった。 援助職に関連した資格は、「臨床心理士」4 名(13.3%)、「保育士」2 名(6.7%)、「教師」7 名 (23.3%)、「特になし」13 名(43.3%)であった。その他の資格を持つ者が 11 名(36.7%)で、具 体的には、犯罪被害者支援員、(外国人に対する)日本語教師、保護司、社会福祉主任専任用資 格、CAP スペシャリスト(子どもの暴力防止)、民間カウンセラー、認定心理士、認定カウンセ 2 2 2 10 10 10 4 4 55 12 12 12 10 10 10 3 3 0 2 4 6 8 10 12 14 N=30 (人) 図 1 現在の勤務形態
ラー、産業カウンセラー、心理相談員であった。 現在の勤務形態を複数回答可で尋ねた結果、「常勤」2 名(6.7%)、「一つの非常勤(週 1,2 日)」 10 名(33.3%)、「一つの非常勤(週 3 日以上)」4 名(13.3%)、「複数の非常勤」5 名(16.6%)、 「ボランティア」12 名(40.0%)、「複数のボランティア」10 名(33.3%)であった(図 1 参照)。 「その他」3 名(10.0%)で、具体的には自治体での相談員、大学院の心理臨床センター(院生ス タッフ)、嘱託員であった。常勤勤務者が少なく、非常勤勤務者が 19 名(63.3%)と、全体の 6 割近くを占めた。またボランティアのみを挙げた人は 11 名(36.6%)であり、3 割以上の対象者 は現在の勤務先はなかった。 2.被害者支援センターでの勤務状況 所属先での経験年数は、平均 2.7 年(SD:1.7、range:半年∼ 7 年)であった。1 ヶ月あたりの勤 務日数は、平均 6.6 日 (SD:5.2、range:2 ∼ 20 日)であった。週 1 回の勤務に満たない人が半数 近くいた一方で、月の半分以上を活動に費やしている人が 10 %おり、支援者によって勤務日数 にばらつきがあることが示された。1 日あたりの勤務時間は、平均 5.2 時間 (SD:1.6、range:2 ∼ 8 時間)であった。 所属先での援助形態(複数選択)は、「電話相談」(28 名、93.3%)が圧倒的に多く、「個人面 接」(10 名、33.3%)を挙げた人全員も、複数回答で電話相談も挙げていた。「その他」では、事 務局での関わり、情報提供、各種機関との連絡調整が挙げられ、また直接支援として、公判傍聴、 付き添い、親族支援、子どもの世話、生活援助等、裁判傍聴(代理、付添)などが挙げられた (図 2 参照)。 1 回に行う面接時間は、「10 分以内」1 名(3.3%)、「15 分程度」1 名(3.3%)、「30 分程度」2 名 (6.7%)、「50 ∼ 60 分程度」9 名(30.0%)であった。無回答であった人が 17 名おり、1 回の面接 時間が一定でなく、回答できなかったためと思われる。1 週間の相談延べ時間数は、平均 7.8 時 間(SD:13.27、range:40 分∼ 48 時間、無回答 18 名)であった。1 週間のトラウマ相談延べ回数 は、平均 3.4 回(SD:3.2、range:1 ∼ 8.5 回、無回答 22 名)であった。1 週間のトラウマ相談延べ 時間数は、平均 3.6 時間(SD:2.4、range:1 ∼ 7 時間、無回答 23 名)であった。過去 1 年間のト ラウマ相談面接延べ回数は、平均 25.8 回(SD:26.3、range: 1 ∼ 70 回、無回答 22 名)であった。 10 10 10 1 1 28 28 28 1 1 00 11 11 11 0 5 10 15 20 25 30 (人) N=28 図 2 援助形態
昨年度(2004 年度)の職場内外の研修の参加日数は、平均 17.1 日(SD:9.8、range: 0 ∼ 40 日、 無回答 5 名)であった。 過去・現在に行った専門的セルフケア(複数選択)は、「職場内勉強会」、「ワークショップや セミナーへの参加」、「専門書・文献を読む」、「職場内カンファレンス」の順で多かった。最も少 ないのは、「大学・大学院への進学」であり、「学会の年次大会」、「職場外の継続したグループス ーパービジョン」も少なかった。「その他」で挙げられたのは、全国ネットワーク研修であった (図 3 参照)。 3.CSFT の得点分布(各被験者の注意度)と信頼性係数(α係数) 各尺度の平均得点は、それぞれ、共感満足は 2.7(SD:0.7)、共感疲労は 0.9(SD:0.3)で、バ ーンアウトは 1.2(SD:0.4)であった。
回答に 1 項目でも空欄のあったものを除き、Stamm & Figley(1996)の評価得点基準に従って、 CSFT 尺度の注意度を算出した結果、共感満足度 (有効回答数 24 名)は「特優」は 0 名、「優」 1 名(4.2%)、「良」6 名 (25.0%)、「可」6 名(25.0%)、「劣」11 名(45.8%)であった(図 4 参照)。 共感疲労注意度(有効回答数 24 名)は、「注意不要」18 名(75.0%)、「注意ほぼ不要」4 名 (16.7%)、「注意」1 名(4.2%)、「要注意」1 名(4.2%)、「特に要注意」0 名であった(図 5 参照)。 バーンアウトの注意度(有効回答数 27 名)は、「注意不要」26 名(96.3%)、「注意」1 名(3.7%)、 「要注意」、「特に要注意」はともにいなかった(図 6 参照)。 共感満足度は、「劣」と評定される人が半数近くいた。共感疲労注意度は、90 %以上の人が 「注意不要」・「注意ほぼ不要」であったが、「注意」・「要注意」の人が 2 名(8.3%)いた。バ ーンアウト注意度は、95 %以上が「注意不要」「注意ほぼ不要」であり、「注意」は 1 名(3.7%) いた。共感疲労、バーンアウトともに「注意」以上に該当した人の割合は少ないが、同時に高い 共感満足を経験している人もわずかであることが分かる。 3 下位尺度の信頼性係数を算出した結果、共感満足が.92、共感疲労が.73、バーンアウトが.73 14 14 14 21 21 21 4 4 9 9 5 5 20 20 20 9 9 17 17 17 1 1 111 0 5 10 15 20 25 (人) N=25 図 3.過去・現在に行った専門的セルフケア
11 11 11 6 6 666 1 1 0 0 0 2 4 6 8 10 12 (人) (得点) N=24 図 4.CSFT における共感満足度の得点分布 18 18 18 4 4 1 1 111 00 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 (人) (得点) N=24 図 5 CSFT における共感疲労注意度の得点分布 26 26 26 1 1 00 000 0 5 10 15 20 25 30 (人) (得点) N=27 図 6 CSFT におけるバーンアウト注意度の得点分布
であった。 4.CSFT と他尺度の相関 CSFT の下位尺度の合計得点と、日本語版バーンアウト尺度、共感性尺度の下位尺度の合計得 点間の Spearman 順位相関係数を算出した結果、共感満足は、個人的達成感と 1 %水準で有意な 正の相関が、個人的苦痛と 1 %水準で有意な負の相関が示された。共感疲労は脱人格化と 5 %水 準で有意な正の相関が、感情的冷淡さと 5 %水準で有意な正の相関が示された。バーンアウトは、 共感的配慮と 5 %水準で有意な負の相関が、感情的冷淡さと 5 %水準で有意な正の相関が示され た(表 1 参照)。 Ⅳ.考察 1.支援者の勤務状況 まず、支援者の被害者支援センターにおける勤務状況について考える。 (1)援助形態 支援者の援助形態は電話相談が最も多く、様々な理由で支援を受けられない被害者に対応した、 相談の窓口的機能を果たしていると考えられる。しかし一方で、電話相談は実際に対面して対応 する面接相談とは異なり、構造上の無防備さを指摘した報告もある(春日, 2001)。被害者の生命 の安全に関連した難しい判断を迫られる状況もあり、電話相談による特有のストレスがあると考 えられ、今後検討していく必要がある。 また、その他の援助形態として、裁判傍聴(代理、付添)、各種機関との連絡調整、親族支援、 生活援助などが挙げられ、援助形態は多岐にわたっており、被害者支援の業務は被害者の心理的 援助にとどまらず、具体的なニーズに合わせた幅広いサービスが求められる領域であると言える。 実際の支援では、被害者支援センターのみの単独支援ではなく、警察や司法、医療など、関係機 関と連携して支援を行っているのが被害者支援活動の特徴であろう。 共感満足 共感疲労 情緒的消耗感 -0.388 0.403 0.324 脱人格化 -0.386 0.481* 0.078 個人的達成感 0.592** -0.120 -0.393 空想 -0.122 -0.047 -0.067 共感的関心 0.342 -0.220 -0.410* 視点取得 0.377 -0.202 -0.244 個人的苦痛 -0.476** 0.183 0.364 0.142 -0.009 0.058 -0.218 0.549* 0.459* 感情的被影響性 0.333 0.250 0.057 バ ー ン ア ウ ト 尺 度 共 感 性 尺 度 *p<.05 **p<.01 CSFT バーンアウト 感情的暖かさ 感情的冷淡さ 表 1.CSFT と他尺度の Spearman 順位相関係数
(2)トラウマ相談の割合
次に、支援者が扱う相談のうちトラウマ相談の占める割合について検討する。これまで担当ケ ース数を始めとする「暴露」の問題は、共感疲労や代理トラウマに寄与する要因の一つとして挙げ られている(Pearlman & MacIan, 1995; Kassam- Adams, 1999; Chrestman, 1999; Iliffe & Steed, 2000)。また、相談業務におけるトラウマ相談の割合が高いことも共感疲労や代理トラウマの発 症率の高さに影響を及ぼすという指摘もある(Price, 1998)。 本研究では、暴露量及びトラウマ相談の割合の測定にあたり、嶋 ら(2003)を参考にし、「1 週間の相談延べ時間数」、「1 週間のトラウマ相談延べ回数」、「1 週間のトラウマ相談延べ時間数」、 「過去 1 年間のトラウマ面接延べ回数」を暴露量の指標とした。各設問の無回答が 17 ∼ 23 名お り、電話相談に従事する者は特に、電話の件数や時間数が一定しないため答えづらかったと思わ れる。また、本研究におけるトラウマ相談とは、トラウマの種類は問わず、何らかのトラウマ (外傷体験)を受けた人を対象にした、またはトラウマに関連していると支援者が判断した相談 を全て含むこととしたため、その定義自体に曖昧さがあったかもしれない。よって暴露量の結果 は、正確性の面で議論の余地があるであろう。しかし厳密に暴露量を測定することにも難しい面 はあり、嶋 ら(2003)や本研究のように実際に暴露量の測定を試み、支援者の就業状態を少し でも客観的に把握することは意義があると考えられる。以上を踏まえて本研究の調査結果を検討 する。1 週間の平均相談時間(7.8 時間)のうちトラウマ相談時間(3.4 時間)が占める割合は約 43 %であり、半数近くがトラウマ相談を扱っていた。嶋 ら(2003)の結果では、精神科に勤 務する医療心理職の同割合は 10 %以下であり、被害者支援員が相談の中でトラウマに関わる内 容を多く扱っていることが示された。この結果から、被害者支援が犯罪被害を中心にトラウマを 抱えた人たちの支援であるという業務の特徴が確認されたと考える。ただし、暴露量としては、 医療心理職の 1 週間の相談は 16 時間であり、本研究の被害者支援員よりも医療心理職の方が 2 倍以上多い。活動頻度や時間の問題については、共感疲労に関連する要因として後述する。 (3)研修参加状況 最後に支援者の研修参加状況について検討する。前年度の職場内外の研修参加日数は平均 17.2 日であり、支援者は月に 1 度以上は研修に参加していた。専門的セルフケアで多かったのは、 「職場内の研修会や勉強会」、「ワークショップや専門書を読む」であり、職場内の研修の機会は ある程度保証されていることが示された。しかし、「学会の年次大会の参加」や「大学・大学院 への進学」を挙げた者は少数であり、大半は被害者支援のための専門教育を受けていなかった。 これらは支援者の経済的な事情なども考えられるが、実際の支援に際しては、法律や精神保健の 知識が求められることもあり、今後も研修を積極的に受けられる体制の整備が望まれるだろう。 2.CSFT の信頼性・妥当性の検討 本研究における CSFT の各下位尺度の信頼性係数(a 係数)は、共感満足 =.92、共感疲労 =.73、 バーンアウト =.73 であった。Stamm(2002)の調査で得られた信頼性係数(共感満足 =.87、共 感疲労 =.90、バーンアウト =.87)には及ばないものの、全下位尺度において.7 を超えたことから、 一定の信頼性が得られたと言える。
次に、共感疲労と近接概念であるとされるバーンアウトとの関係を検討する。今後の共感疲労 研究の妥当性検討の一助とするため、日本語版バーンアウト尺度下位尺度との相関を調べた。 CSFT 各下位尺度の合計得点と、日本語版バーンアウト尺度の各下位尺度の合計得点間の相関係 数を算出した結果、共感満足は個人的達成感と有意な正の相関が、共感疲労は脱人格化と有意な 正の相関がみられた(表 1 参照)。 共感満足は「援助の対象(患者やクライエント)から新たなことを学ぶことができ、この仕事 に満足している」と定義されており、個人的達成感は「仕事における達成感、充実感」と定義さ れている。これらは両者とも仕事にどのくらい満足しているか、達成感や充実感が得られている かに関わるものであり、両者の定義は類似している。質問項目としても、共感満足では「46.援 助者としての自分の仕事が好きである。」、個人的達成感では「13.今の仕事に、心から喜びを感 じることがある」と共通しているものがあることがわかる。以上のことから、2 つの尺度に有意 な正の相関があったことは、尺度の一定の妥当性が確かめられたと言えるだろう。 共感疲労は「援助の対象に共感を提供し続けることによる共感する力の枯渇の程度」と定義さ れており、脱人格化は「クライエントとの関係を含む職場の対人関係やヒューマンサービスとい う職業に対するネガティブな感情や行動傾向」と定義されている。バーンアウトの概念では脱人 格化は、情緒的消耗感が生じたことによって情緒的資源を使い果たしてしまい、さらなる消耗感 を防ぐために情緒的資源を節約する自己防衛反応の一つとされている(久保, 2004)。トラウマの 被害者を援助していて共感疲労もしくは PTSD 症状が生じ、脱人格化のような行動傾向が起こる 危険性が示唆される。藤岡(2008)の指摘する共感疲労と解離との関連についても、さらなる検 討が必要であろう。 以上、共感満足と個人的達成感、共感疲労と脱人格化に相関があったのは、定義から見ても妥 当な結果である。ただ、CSFT のバーンアウトと、日本語版バーンアウト尺度において主症状で あるとされる情緒的消耗感との相関がなかったのは意外な結果であった。CSFT のバーンアウト で扱われている症状が、従来言われてきたバーンアウトの定義に合致するものであるのか、この 妥当性については今後さらに検討する必要があるだろう。 3.共感疲労の実態と関連要因の検討 CSFT において、各下位尺度の平均得点は全て注意を要するレベルではなかった。これは、支 援者が共感疲労や代理トラウマを経験するが、専門家による治療が必要な深刻なものではないと いう先行研究(Chrestman, 1999; Elliot & Guy, 1993; Pearlman & MacIan, 1995)と一致するもの である。この結果について、いくつかの要因を検討する。 (1)活動時間及び頻度 まず、対象者の多くがボランティア相談員であり、被害者支援センターに月 10 日以上勤務す る人は 5 名(16.7%)であったことが挙げられる。嶋崎ら(2003)との比較において、支援者の 相談時間としては医療心理職よりも少なかったことは上述したが、トラウマ相談の割合が半数を 占めているにせよ、実質的な暴露量が限られていたことが、深刻な影響を及ぼさなかった理由の 一つだと思われる。二次受傷を調査した大澤(2003)は、「ボランティア相談員」は活動量が制
約されていることが二次受傷を緩和するという指摘(Ortlepp & Freidman, 2002)を引用してい る。同時に、単に絶対的な活動量が少ないだけではなく、ボランティアは自らその活動や種類を 調整できることにも一因として考えられる。Pearlman & MacIan(1995)は、自分の働き方を自 分で調整できる専門家は、共感疲労や代理トラウマの症状が少ないことを報告している。これら の結果から、暴露の度合い及び仕事に対する統制感が共感疲労に影響している可能性が考えられ る。つまり、ボランティアで関わる支援者は、活動頻度や内容を自分で調整することができるこ とで、共感疲労への耐性が高いのではないだろうか。 しかし一方で、ボランティア相談員は、専門家と比較すると活動をやめることも比較的簡単で ある。支援者の離職率の高さが指摘されており(大澤, 2003)、本結果には表れなかったが、支援 組織を離れている人の存在を暗数として含めて考えると、被害者支援組織の中で、顕在化してい ない共感疲労の影響も考慮すべきであろう。 (2)対象者自身の個人的トラウマ体験 次に、過去にトラウマ体験を持つ専門家は、トラウマ体験がない専門家よりも共感疲労の影響 を受けやすいという知見(Kassam-Adams, 1999)に基づいて、共感疲労尺度の中の「20.大人に なってから、トラウマとなる出来事を直接体験した」と、「21.子どもの頃、トラウマとなる出来 事を直接体験した」の 2 項目について、嶋 ら(2003)との比較を行う(表 2 参照)。本研究の 対象者を被害者支援群として、嶋 ら(2003)の調査した DV 相談員と医療心理職(医療 CP 群) とを比較すると、項目 20 の成人後の外傷体験に関しては、被害者支援群と 2 群との差異は認め られないが、項目 21 の子どもの頃の外傷体験に関しては顕著に支援員の外傷体験が少ない。質 問項目からトラウマ体験の内容を特定することは難しいが、少なくとも本研究の対象者の幼少期 トラウマ体験が少ないことは示される。支援員の幼少期のトラウマ体験が少ないことも、共感疲 労が少なかったことの一因かもしれない。Figley(1999)は、バーンアウトの前駆状態としての 共感疲労に注目し、支援者の共感疲労が進むのは、支援者自身のトラウマ体験が、クライエント との面接や関わりで再燃することを指摘している。さらに藤岡(2005)は、共感疲労には、支援 者自身のトラウマが前面に出ている「トラウマ・ベースの共感疲労」と、トラウマは後方に隠れ、 むしろ軽度のストレスが感じられる「ストレス・ベースの共感疲労」があると提案し、「トラウ マ・ベースの共感疲労」の方がより深刻なバーンアウトへとつながりやすい共感疲労であると指 摘している。共感疲労はトラウマに遭った人を援助する時の、ケアによって生じる自然な結果で あるとされるが(Figley, 1999)、今後この二つの共感疲労を分けて考える必要があるかもしれな い。 DV相談員群 46.4% 56.6% 39.6% 60.4% 医療 CP群 42.3% 57.7% 23.1% 76.9% 本研究 被害者支援員群 29.9% 63.3% 23.3% 73.3% 嶋 ら (2003) 子どもの頃の外傷体験 成人後の外傷体験 体験あり 体験なし 体験あり 体験なし 表 2 CSFT 項目 20,21 について嶋 ら(2003)との比較
(3)共感満足との関連から
最後に、CSFT の得点結果について先行研究との比較を行い、共感満足との関連から共感疲労 について考える。Stamm(2002)は、Figley(1995)、Stamm & Figley(1996)、Rudolph ら (1997)、Ortlepp(1998)、Higson- Smith(1997)の調査をレビューし、ヘルスケア提供者、アメ リカ合衆国の援助者、トレーニング中の援助者、インターネットを通してテストを提出した出身 国不明の専門家、銀行強盗のための事情聴取者として訓練を受けた銀行員、南アフリカの様々な メンタルヘルス援助者、カナダのレイプ被害ワーカーの計 374 名の CSFT 結果をまとめてメタ分 析をしている。また、Collins & Long (2003)はアイルランドのテロリストによる爆撃に遭った 被害者を援助するトラウマ回復チームに派遣された 13 名のヘルスケアワーカーを対象に、派遣 から 1 年後に CSFT を実施している。以上 2 つの研究の尺度結果と本研究で得られた支援者の得 点を比較する(表 3 参照)。 全尺度において、本研究の支援者の注意度は、先行研究と比較して低かった。共感疲労が少な かった理由について、活動頻度や暴露量が少ないこと、幼児期のトラウマ体験が少ないことが挙 げられたことは上述した通りだが、2 つの調査結果と比較して共感疲労やバーンアウトが少ない だけでなく、共感満足も低かった。支援者は、共感疲労やバーンアウトに陥っているわけではな いが、支援活動を通して有意義な時間を過ごしたりそこから満足感を得たりすることができてい るとも思えていないようである。被害者との関わりが思っていたよりも少なく、支援者が満足感 を得るのが難しい状況である可能性が考えられる。また、主な援助形態である「電話相談」では、 多くの電話が匿名の相談であり、その後のフォローアップが事実上難しいため、支援者が自分の 活動が役立っていると感じられた機会が乏しく、支援者として動機を保ち続けることが困難にな ると考えられる。Stamm(2002)の一連の調査の中で、ある人が共感疲労を経験するリスクが高 いのに、同時に高い共感満足を経験していることが示唆され、自分の活動が被害者の利益になっ ていると信じられれば、たとえ共感疲労やバーンアウトに陥る危険度が高くても、共感満足を高 く維持できるとしている。さらに警察官における二次受傷の調査(上田, 2006)では、二次受傷 を強く経験した者ほど、被害者に対応することで生きがい感や成長感といった前向きな感情も強 く感じていた。共感疲労や二次受傷の問題が、ただ単に支援者の負担を減らせばいいというもの ではないと言える。共感的な関わりの結果として、支援者は、共感満足と同時に共感疲労を経験 する。疲労感を強く感じることは危険なことだが、仕事を継続させる動機につながる満足感と隣 り合わせではある。共感疲労を低め、共感満足を高めるという介入だけではなく、いかに両者の バランスを取りながら支援を継続させるかといった視点の導入が必要であると思われる。 共感満足 共感疲労 Stamm (2002) 92 .1 28 .78 24 .18 Collins & Long
(2003) 80 .15 34 .46 (注意) 26 .69 本研究 被害者支援員 70 .5 21 .71 (注意不要) 20 .48 バーンアウト (注意ほぼ不要) (良) (可) (可) (注意不要) (注意不要) (注意不要) 表 3 CSFT について Stamm(2002)、Collins & Long (2003)との比較
4.CSFT と共感性尺度との関連 CSFT の下位尺度の合計得点と、共感性尺度の下位尺度の合計得点間の相関係数を算出した結 果(表 1 参照)、共感満足は個人的苦痛と負の相関があった。個人的苦痛は、「援助が必要な場面 で動揺する程度」であり、情動的援助を求めている人がいる場面で不安や不快な感情を持ちやす いという“自己指向的”性格傾向を表す(Davis, 1983)。こうした性格傾向と共感満足が負の相 関関係を示したという結果は、援助できる仕事から喜びを得ることができにくい状態であると、 自分に注意が向かってしまい他者に共感的な関心をもつ余裕がなく、不安や不快感を覚えてしま っている可能性が示唆される。 共感疲労は感情的冷淡さと正の相関があった。項目を検討すると、「14.私は友人が悩み事を 話し始めると、話をそらしたくなる」など、情動的援助を必要とする場面で冷淡な気持ちになる 傾向を示していると言える。この傾向と共感疲労に正の相関があったということは、共感する力 が枯渇してしまった状態であると、援助を必要としている人に対して冷淡な気持ちになっている 可能性が示唆される。 バーンアウトは共感的配慮と負の相関が、感情的冷淡さと正の相関があった。共感的配慮は 「他者に対して同情や配慮をする程度」と定義され、不運な他者に対する同調や関心という“他 者指向”感情を査定する(Davis, 1983)。感情的冷淡さは上述した通りだが、労働量や組織の問 題、士気の低下などがあり、身体・情緒・心理的疲労の状態にあると、他者指向的に同調や関心 の感覚を抱けなかったり、援助を必要としている人に対して冷淡な気持ちになりやすい可能性が 示唆される。 以上の点をまとめると、共感満足は援助場面における不安や不快な気持ちになる自己指向的な 感情を示す個人的苦痛と負の相関があり、共感疲労は援助場面における冷淡さを示す感情的冷淡 さと正の相関があり、バーンアウトは感情的冷淡さと正の相関、他者に対する同情や配慮を示す 他者指向的な共感的配慮と負の相関があった。CSFT の下位尺度が共感の認知的側面を測定する 視点取得尺度と相関がなかったのは興味深い。共感満足や共感疲労の共感性には、感情的な部分 に関連しており、認知的な視点で相手を冷静にとらえながら共感するということは含まれていな いのかもしれない。 Ⅴ.まとめと今後の課題 本研究では、支援者の共感疲労と共感性との関連について質問紙を用いて調査を行った。対象 者の少なさという限界はあるが、日本に研究例の少ないこの領域についての予備的な研究として の位置づけはできると思われる。考察で述べたように、共感疲労と共感満足との、いわば援助者 が受ける影響の否定面と肯定面の両面について、満足感を高めて疲労を低めるという介入だけで なく、支援内容やケースの特徴など、その両面に介在すると考えられる変数の検討、及び両者の バランスをとるための支援の在り方など実践的介入についての検討が必要であると考えられる。 今後対象者を増やし、CSFT 各下位尺度の上位群、下位群による共感性尺度得点の違い、多変量 解析を用いた結果、共感疲労と共感満足の併存関係などについて探っていく必要があるだろう。
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