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NAIST-IS-MT0751044

修士論文

2.4GHz

W-LAN

のための電子レンジ干渉除去手法

に関する研究

高畑 裕美

2008年 8 月 20 日 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報システム学専攻

(2)

本論文は奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に 修士 (工学) 授与の要件として提出した修士論文である。 高畑 裕美 審査委員: 岡田 実 教授 (主指導教員) 関 浩之 教授 (副指導教員) 原 孝雄 准教授 (副指導教員) 齋藤 将人 助教 (副指導教員)

(3)

2.4GHz

W-LAN

のための電子レンジ干渉除去手法

に関する研究

高畑 裕美

内容梗概

本論文では,ISM(Industrial, Sientific and Medical) 帯である 2.4GHz 帯を用い て通信を行う IEEE802.11b/gW-LAN が同じ周波数を用いている電子レンジから 受ける干渉を軽減するため,電子レンジ干渉波の相関特性を用いた干渉キャンセ ラを提案し,その特性を評価する.2.4GHz 帯を用いる W-LAN は,免許不要で価 格も比較的安く,利用しやすい条件が伴っていることから,急速に普及が進んで いる.しかし,2.4GHz 帯は,電子レンジや医療用温熱治療機器が利用する ISM (Industry Scientific and Medical)帯の一つであり,これらの ISM 機器からの干渉 が問題となる.W-LAN の信頼性を高めるためには,これらの ISM 機器からの干 渉に対する耐性を有する必要がある. そこで本研究では ISM 機器に代表される電子レンジ干渉波による,IEEE802.11g W-LANで用いられる OFDM 伝送方式での通信性能の劣化の改善という課題を 解決することを目指し,新たな方式を提案する.ここでは,電子レンジ干渉波が W-LAN信号に比べて狭帯域であり,高い時間相関性を有することを用いて干渉 信号を除去する新たなアルゴリズムを提案する.電子レンジ干渉波の実測値を干 渉源として用いて計算機シミュレーションを行い,干渉除去手法の有効性を評価 した.その結果,W-LAN が電子レンジ干渉により受ける誤り率特性の劣化を除 去前に比べて BER で最大 19.7 %, PER で 40.5 %改善できることを明らかにした. 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 情報システム学専攻 修士論文, NAIST-IS-MT0751044, 2008年 8 月 20 日.

(4)

キーワード

(5)

Reduction of Microwave Oven Interference for

2.4GHz band W-LAN

Hiromi Takahata

Abstract

This paper proposes a microwave oven interference canceller for IEEE 802.11g (Wireless Local Area Network) at 2.4GHz band. Since microwave oven and W-LAN standardized by IEEE 802.11b/g use the same 2.4 GHz band, which is known as an ISM (Industrial, Scientific and Medical) band, interference from microwave oven could degrade the performance of the W-LAN. The proposed interference canceller is based on an adaptive comb filter in order to reduce the narrow-band interference. Computer simulation result shows that the proposed canceller is capable of reducing the interference.

Keywords:

IEEE802.11b/g, ISM device, Microwave Oven Interference, OFDM

Master’s Thesis, Department of Information Systems, Graduate School of Information

(6)

目 次

第 1 章 序論 1 1.1. 研究の背景 . . . . 1 1.2. 関連研究 . . . . 3 1.3. 研究目的 . . . . 5 1.4. 論文の構成 . . . . 6 第 2 章 電子レンジ干渉信号の性質 7 2.1. ISM機器と W-LAN . . . . 7 2.2. 電子レンジ概要 . . . . 8 2.3. 電子レンジ干渉波の発生概要 . . . . 9 2.4. 干渉波の分析 . . . . 9 2.5. パルス間相関特性 . . . . 28 第 3 章 干渉除去 32 3.1. 周期性を利用した除去手法 . . . . 32 3.2. 干渉除去方式の基本概念 . . . . 32 3.3. 遅延時間検証 . . . . 34 3.4. 忘却係数検証 . . . . 34 3.5. 干渉除去特性 . . . . 36 3.6. 無線 LAN システム用電子レンジ干渉波除去 . . . . 37 3.7. 短時間相関遅延による干渉除去方式 . . . . 38 3.7.1 干渉波除去特性 . . . . 38 第 4 章 W-LAN 信号との信号重畳からの除去 41 4.1. 干渉波信号と無線 LAN 信号の重畳信号からの干渉除去 . . . . 41

(7)

4.1.1 OFDM(Orthognal Frequency Division Multiplex: 直交周波 数分割多重) 伝送方式の利点 . . . . 41 4.1.2 シミュレーションでの OFDM 伝送方式の諸元 . . . . 42 4.2. 干渉除去評価結果 . . . . 42 第 5 章 結論 50 謝辞 52 参考文献 55

(8)

図 目 次

2.1 干渉波測定の構成 . . . . 9 2.2 電子レンジ不稼働時の電波波形の図 (シャープ製) 電力レベル比較 11 2.3 距離による干渉波の瞬時電力特性比較図 (シャープ製 中心周波数 2.447GHz) . . . . 12 2.4 機能による干渉波発生の有無 (シャープ製 中心周波数 2.447GHz) . 13 2.5 測定中心周波数の違いによる干渉波形状の差違 (シャープ製) . . . 15 2.6 測定中心周波数の違いによる干渉波形状の差違 (東芝製) . . . . 15 2.7 シャープ製と東芝製の干渉波周期の様子 . . . . 16 2.8 三菱製の干渉波周期の様子 (時間間隔 0.5ms) . . . . 16 2.9 松下製の干渉波周期の様子 (時間間隔 70ms) . . . . 17 2.10 松下製の干渉波周期の様子 (時間間隔 0.5ms) . . . . 17 2.11 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (シャー プ製) Vector Signal Analyzer(VSA) . . . . 19

2.12 電子レンジ不稼働時の干渉波の時間および周波数スペクトル (シャー プ製) Vector Signal Analyzer(VSA) . . . . 20

2.13 電子レンジ稼働時の干渉波発生立ち上がり時の時間および周波数 スペクトル (シャープ製) Vector Signal Analyzer(VSA) . . . . 21

2.14 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (東芝 製) Vector Signal Analyzer(VSA) . . . . 22

2.15 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (三菱 製) Vector Signal Analyzer(VSA) . . . . 23

2.16 松下製電子レンジの干渉波信号のスペクトログラム (中心周波数 2.412GHz Vector Signal Analyzer図) . . . . 24

(9)

2.17 シャープ製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数

2.447GHz Vector Signal Analyzer図) . . . . 25

2.18 東芝製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数 2.467GHz Vector Signal Analyzer図) . . . . 26

2.19 三菱製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数 2.412GHz Vector Signal Analyzer図) . . . . 27

2.20 シャープ製電子レンジ干渉波の周波数成分分布図 . . . . 29 2.21 東芝製電子レンジ干渉波の周波数成分分布図 . . . . 30 2.22 電子レンジ干渉波の実部と虚部の信号位相比較図 . . . . 31 3.1 干渉除去フロー図 . . . . 32 3.2 干渉除去結果 忘却系数 0.9 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz) . . 35 3.3 干渉除去結果 忘却系数 0.8 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz) . . 35 3.4 干渉除去結果 忘却系数 0.7 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz) . . 36 3.5 干渉除去結果 忘却系数 0.8 遅延時間 16.64ms (東芝製, 中心周波数 2.447GHz) . . . . 37 3.6 干渉除去結果 (キャンセル無しとキャンセル有りシャープ製 遅延 間隔 16 サンプル) . . . . 39 3.7 W-LAN信号重畳の干渉除去構成図 . . . . 40 4.1 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 シャープ製 中心周波数 2.447GHz . . . . 43 4.2 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 シャープ製 中心周波数 2.457GHz . . . . 44 4.3 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 東芝製 中心周波数 2.447GHz 44 4.4 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 東芝製 中心周波数 2.457GHz 45 4.5 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 東芝製 中心周波数 2.472GHz 45 4.6 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 三菱製 中心周波数 2.412GHz 46 4.7 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 三菱製 中心周波数 2.442GHz 46 4.8 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 三菱製 中心周波数 2.442GHz 47

(10)

4.9 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 松下製 中心周波数 2.462GHz 47 4.10 W-LANに適用した場合の干渉除去効果 松下製 中心周波数 2.472GHz 48

(11)

表 目 次

2.1 測定諸元 . . . . 10 4.1 OFDM Parameters . . . . 48 4.2 伝送誤り率特性で示す干渉除去結果 (シャープ製 2.457GHz) . . . 49

(12)

1

章 序論

1.1.

研究の背景

一度携帯電話を利用し始めると1日たりとも携帯電話が手放せない.そんなは ずはない大丈夫だ, とどこか否定しながらも落ち着かない.しかし, 否定する感情 を持つことこそ携帯電話が浸透している証拠であるという.携帯電話のない生活 には戻れないのではないか・・・これは現代の多くの日本人が一度は危惧する感情 であるといえよう.これに似た感覚が W-LAN 利用者にも広まりつつあるらしい. 日本の都市部では W-LAN 対応の公共スポットが拡大し, インターネット通信無 料のビジネスホテルが広まり, 出張中の連絡手段に困る事は少なくなった.この ようにインターネット利用により地図情報, レストラン, 駐車場情報, 観光スポッ ト, あらゆる情報が入手出来る事から, 今や旅のお供は「インターネット」となっ ている.このことは外に限った事ではない.インターネットの利用者の最大利用 コンテンツは「メール」である.家庭内でも W-LAN は大活躍であり, 居間で, 茶 の間で, 台所で, 老若男女問わずインターネットでメールを開くのは日常的な様子 になってきている. これほどインターネットの利用が浸透した背景には W-LAN が不可欠であった. いつでもどこでも誰とでものユビキタス世界を担う W-LAN 技術の役割は大変に 大きい. 日本におけるインターネットユーザ数は現在, 8,811 万人を超えて, 今後もその 利用者数は増加するものと予想されている [1].また, インターネットにアクセス する手段であるパーソナルコンピュータは, インターネットの需要増に伴い, その 需要が増加している インターネットの普及と共に, パーソナルコンピュータの性能は急激に高まって

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いる.演算性能は向上して CPU は小型化しメモリは大容量化し, 多種の機能を具 備することが可能になってきている.簡単な書類作成や計算ソフト以外にもディ ジタル画像編集機能, 音楽編集機能などさまざまなことへの利用が可能になった. 更に専門の技能がなくても扱えるようにインターフェースが向上したうえ, 激し い価格競争で低価格化が進み購入しやすくなっている.高等学校の教育科目にも 「情報」の科目が加わり, パーソナルコンピュータはもはや特別な機械ではなく, 「道具」として普通に使われるものとなった. パーソナルコンピュータの性能向上に伴い, インターネットの利用形態が, 従 来の電子メールや Web ブラウジングだけではなく, オーディオやビデオストリー ム, ビデオオンデマンドといったマルチメディアサービスに移行してきている.そ のため, インターネットアクセスは「ユビキタスでより高速かつ大容量」が要求 されるようになってきており, アクセス回線が電話線を用いたダイアルアップや ADSL (Asynchronous Digital Subscriber Lines)から光ファイバ回線に移り変って きている.

また, パーソナルコンピュータのモバイル化に伴い, 無線によるインターネッ トアクセスに対する要求も高まってきている.特に IEEE 802.11b/g/n1に基づく

W-LANは広範に用いられるようになってきている.現在, 新しく販売されてい るほぼ全てのノート型 PC は W-LAN インタフェースが装備されるようになって きており, また, PDA (Personal Digital Assistance) や携帯電話などの携帯端末に も W-LAN が搭載されるようになった. 家庭内に目を向けるとディジタル家電に代表される各種家電機器の高機能化 が著しく, 近年の住宅ハウスメーカーではディスプレイ付きインターフォンに データ通信機能を装備し, 居間のテレビとインターフォンの接続, 更に外出先 でも確認できるよう携帯電話への情報伝送など, 様々な「ホームネットワーク 構築」に力をいれている.家電機器をネットワークで繋いだホームネットワー クシステムが標準仕様となるかのごとく関心が高まりつつあり, これらホーム ネットワークの構成にも W-LAN は欠かせない技術として取り入れられている 1IEEE 802.11

とは, IEEE - 米国電気電子学会 (The Institute of Electrical and Electronic Engineers)の中で LAN 技術の標準を策定している 802 委員会が 1998 年 7 月に標準仕様として 定めた W-LAN 仕様のこと.

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(http://biz.natioanl.jp/Ebox/kahs/index.html). さらに, W-LAN はオフィスや家庭内のインターネットアクセス手段としてだ けではなく, 空港, 駅などの公共施設におけるホットスポットサービスのアクセス 手段としても幅広く用いられるようになってきている. 一方, IEEE 802.11b/gW-LAN は, 2.4GHz 帯の周波数を用いて通信を行ってい る.この周波数はもともと, 電子レンジ, 温熱治療機器や各種産業用機器など通信 以外の電磁波利用のために割り当てられた ISM(Industrial, Scientific and Medical) 帯の一つであり, これらの ISM 機器からの干渉を受けることになる.特にホーム ネットワークが普及しつつある現在, 2.4GHz 帯の電磁波を発生する電子レンジが 問題である [2].本論文では, 電子レンジからの干渉が W-LAN に与える影響およ び干渉の軽減手法について検討を行う.

1.2.

関連研究

電子レンジが発生させる干渉波の性質および, その W-LAN に与える影響につ いて様々な検討が行われている.文献 [2] では, 電子レンジが干渉波を発生させる 構造を詳しく述べ, 電子レンジ干渉波の振幅確率分布や交叉率分布などの振幅に 関する統計分布や発生頻度分布, 継続時間分布など時間領域における統計分布の 測定, その特性が検証されている.電子レンジに大きく分けてトランス型とイン バータ型の 2 タイプがあり, それぞれで干渉波の特性が違う. 文献 [2] では, それぞ れの方式において通信システムに与える影響を検討するために必要な統計データ の測定結果が報告されている.ただし, この文献 [2] は 1994 年の報告であり, 対象 周波数を PHS 通信で用いる 1.9GHz を対象としたものであり, 2.4GHz での ISM 機器への対応に適応することは出来ない. 文献 [3] では, 電子レンジ干渉波特性について詳しく研究されており, その瞬時 電力特性, 発生形状, 含まれる周波数成分, 周期性などの検証と評価がされている. 更に得られた知見を基に干渉波信号の雑音モデル生成がなされており, 電子レン ジ干渉波の特性がよく表されている.ここでは, 電子レンジ干渉信号波形がバー スト形であることに着目して, 周波数拡散における拡散符号を変更することで干

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渉の影響を削減している.しかし, この手法では伝送信号の形式を変更する必要 があり IEEE802.11b/g W-LAN に適用することが難しい. 文献 [4] では, 1.9GHz にとどまらず, 2.5GHz まで考慮した研究が述べられて いる.ここでは電子レンジ干渉波の特性として, その干渉波レベルはマグネトロ ンの発振周波数に近づくほど高くなることや 1.9GHz, 2.5GHz それぞれの通信シ ステムの受信特性に及ぼす影響の評価がなされている.ここでは, QPSK(四位相 偏移変調 : Quandrature Phase Shift Keying) 方式と DS-SS(スペクトラム直接拡 散 : Direct Sequence Spread Spectrum) 方式での誤り率特性が大きく劣化する ことが報告されている.また, ここでは TDMA(時分割多元接続 : Time Division Multiple Access)方式での劣化改善方法として, 一番劣化が弱いチャネルを判定し た後, 干渉波の周期性を利用し, 干渉発生の間隙に通信を行うという方法が提案さ れている.だが, 所望チャネルを導出するための事前学習が必要性であることや, 現在の主流である IEEE802.11g に準拠した W-LAN ではその物理層プロトコルと して OFDM(直交周波数分割多重 : Orthogonal Frecency Division Multiplexing) 方式が採用されていることから, 提案方式をそのまま適用することはできない. また文献 [5] ではより劣化改善の研究を進め, IEEE802.11b における電子レンジ 干渉波による伝送誤り率劣化が検討されている.ここでは電子レンジ雑音モデル を用いて IEEE802.11b に採用されている DS-SS(スペクトラム直接拡散) 方式の場 合での, 通信システム劣化について検証した結果が述べられている.これも現在 OFDM伝送方式へのそのままの適応は難しいといえる. 文献 [6] では, DS-SS 伝送方式での電子レンジ干渉波への対策として, 適応フィ ルタの検討がなされている.この適応フィルタの構成はサンプル間隔に一致した 遅延信号に最適化したタップ係数を与えて作られたものとなっており, 適応フィ ルタに用いるタップ数を7と固定した場合の BER 特性を示すシミュレーション がなされている.さらに, トランス型電子レンジとインバータ型電子レンジそれ ぞれで適応フィルタを用いたシミュレーションが検討され, 提案フィルタそのま まではトランス型での劣化抑圧効果は見られるがインバータ型での劣化抑圧効果 はあまり見られないこと, そのため, サンプリングレートを変更し, タップ時間長 を短くすることでインバータ型に対しても劣化抑圧効果があると報告されている.

(16)

しかし, タップ係数の導出など事前学習が必要な点などに課題が残る.このため, 同筆者らは文献 [7] で DS-SS 伝送方式でのトランス型に特化した適応フィルタの 生成手法と劣化抑圧の検討, 文献 [8] でインバータ型に特化した適応フィルタの生 成手法と劣化抑圧の検討を報告している.だがこれも DS-SS 方式への対策が述べ られているのみである. 次に文献 [9] では, 「干渉問題」への取り組みとして, パーソナルコンピュータ からの干渉波が, OFDM 伝送方式の W-LAN へ及ぼす伝送劣化についての報告が なされている.拡散スペクトラムクロックシステムを持つ PC が発生させる, 周 波数掃引されたベースクロックの高調波を干渉波と想定し, IEEE802.11a に採用 されている OFDM 伝送方式による W-LAN 通信への干渉による伝送の劣化率の 検証が述べられている.OFDM 伝送時の干渉による劣化特性に取り組んだ例と いえるが, 電子レンジ干渉波が OFDM 伝送に及ぼす干渉の劣化特性にそのまま適 用することはできない.

1.3.

研究目的

以上述べたように, 現在主流となりつつある OFDM 伝送方式を用いた IEEE 802.11g W-LANに対する電子レンジ干渉波の除去についての検討は十分になさ れていない.しかし, 今後, 家庭内での W-LAN の利用が増えることから, 電子レ ンジ干渉対策について検討を行う必要がある.

そこで本研究では IEEE802.11g W-LAN で用いられる OFDM 伝送方式での通 信性能改善という課題を解決することを目指し, 新たな方式を提案する.はじめ に, 電子レンジからの干渉波形が電源周波数に同期した周期波形となっているこ とに着目し, IEEE802.11g の物理層プロトコルを変更することなく, 干渉除去を 行う方法を提案する.提案方式では, 受信信号を電源周期分だけ遅延させて, もと の受信信号から干渉除去することにより, 電源周波数に同期した信号成分だけを 除去する.だが, この方法では除去しきれない大きなノイズが残るなど問題があ ることがわかっている.そのため次に短時間遅延を用いた方式を提案する.この 提案方式では, 受信信号をごく短時間間隔で取り出し, その遅延信号を用いて干渉

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除去する.この時間は OFDM 伝送方式のガードインターバル時間内であり, この 遅延が OFDM 伝送に影響を与えることはないため, 現在の IEEE 802.11g のプロ トコルを変更する必要はない. 提案方式の評価を行うため, 実際の電子レンジからの干渉波を測定し, 測定し た干渉波を用いて計算機シミュレーションを行った.被測定電子レンジとして国 内の 4 メーカーの製品を用意し, 電子レンジを実際に動作させて, 動作時の電子レ ンジから発生する電磁波の波形を観測した.観測した波形を W-LAN 信号に加算 し, ビット誤り率やパケット誤り率特性を計算機シミュレーションを行って導出 した.その結果, 提案方式が電子レンジ干渉に対して有効であることを明らかに する.

1.4.

論文の構成

本論文では, まず第 2 章で電子レンジ, およびその干渉波について述べる.次に 第 3 章では提案の除去手法に先立って, 干渉波自身から自己相関特性を利用し, 重 み係数を用いて除去に用いるレプリカ信号を生成する手法の説明と除去効果を示 す.加えて, 短時間遅延で生成されたレプリカ信号を用いた除去手法の説明と除 去効果も示す.第 4 章では, 干渉波の信号に OFDM 伝送方式の W-LAN 信号を重 畳させた実環境に近い信号モデルを用いて, 干渉波除去手法の提案とシミュレー ションによる有効性を検証結果を述べ, 最後に第 5 章で結論とする.

(18)

2

章 電子レンジ干渉信号の性質

2.1. ISM

機器と

W-LAN

国際電気通信連合は,半導体製造装置等の各種電波利用産業用機器や医療用 機器、電子レンジ等、主として通信以外の目的で電波を利用する用途のために ISM(Industry Scientific and Medical)帯域を定めている1. 日本国内では 2.4∼2.5GHz

と 5.725∼5.875GHz の 2 つの帯域が ISM 帯域として設定されている. この ISM 帯域は、工業用, 科学用, 医療用, 家庭用, または類似の目的のために 無線周波エネルギーを発生し, 及び/または局所的に利用するように設計された ISM機器の為の帯域であり、通信用途の帯域ではないが小電力,小エリアで伝送 速度 10MHz 以下での無線通信の利用は認められていた.2001 年に総務省がこの 基準を緩めたことにより,2.4GHz 帯の利用が拡大出来ることなった.2.4GHz 帯 域はまた重要な通信に対して割り当てられていることが少ないため、基準緩和以 降は小型無線機器の開発、製造として市場性が広がった. 更に、この 2.4GHz 帯 域は国際的に共通するものであり,これを利用した小型無線機器などは国際展開 において有利という見込みもある. 現在,技術基準適合証明を受けた製品は小電力無線として無線局免許状なしに 使用することが可能である為,コードレス電話,Bluetooth 無線,W-LAN 等が 次々に ISM 帯域で実用化され,W-LAN 通信装置とその利用は急速に拡大した.

一方, 5.725∼5.875GHz は ETC(Electronic Toll Collection System) に用いられ ている.

このように従来は非通信用,または小電力に定められていた ISM 帯域であった

1

国際電気通信連合国際電気通信連合 ITU : International Telecommunication Union

国際連合の専門機関の一つである. 無線通信と電気通信分野において各国間の標準化と規制を確 立することを目的としている

(19)

が,近年は W-LAN に使われることが多くなり,ISM 機器との干渉が問題となっ ている.

2.2.

電子レンジ概要

まず電子レンジがどのように干渉波を発するか,その構造について述べる.電 子レンジは, 電磁波により水や水分を含んだ食品などを加熱する調理器具であり, 日本国内ではシャープ社が 1962 年に業務用として発売を開始したのが初めてであ る.電子レンジの構成は,マグネトロンという真空管の一種に,500W ∼ 600W の電力を供給し, 発振されるマイクロ波で水分子を波動させ,加熱を行うもので ある.この時発振されるマイクロ波の周波数に, 国際規格で定められた ISM 帯の うち 2.4GHz ± 50MHz 周波数帯が用いられている. このため, 電子レンジは ISM 機器であるとも言える. 電子レンジは, マグネトロンを動作させるために供給される高電圧の生成法の 違いにより, 「トランス型」と「インバータ型」に分別できる. トランス型電子レ ンジは 50Hz または 60Hz の商用交流電源を直接, 昇圧トランスに加えて 4kv 程度 に昇圧してマグネトロンに供給する構造である. 商用交流電源の 1 周期のうち, マ グネトロンのアノードがカソードに対して正の一定レベルを超える電圧の間のみ 高周波信号が発信される. このため, 電源周波数に同期した間欠発振となる. 一方, インバータ型電子レンジではまず商用交流を全波整流したあと 30∼50kHz 程度の周波数でスイッチングし, スイッチングした電圧を トランス昇圧し, マグ ネトロンに供給する構造である. そのため, 発信はスイッチング周波数に対応し て高速にオン, オフを繰り返すことになる. インバータ型は 50Hz と 60Hz 両方の 商用交流に対応できる. またスイッチング次のデューティー比を変化させること で負荷に応じた発信出力の細かい制御が可能という利点を有している [10]. 以下では, トランス型電子レンジ 3 台 (シャープ社製, 東芝社製, 三菱社製), イ ンバータ型電子レンジ (松下社製)1 台からの干渉波について測定を行い, その波 形を示す.

(20)

2.3.

電子レンジ干渉波の発生概要

はじめに, 電子レンジから発せられる干渉波の性質を特定する為, 実際の電子レ ンジからの干渉波について以下の図 2.1 のように測定を行った. 測定の諸元を表 2.1に示す. まず, 測定器の Agilent Technologies 89600S Vector Signal Analyzer に 2.4GHz 帯 W-LAN 用 1/2 λスリーブアンテナを接続し, 稼働中と非稼働中の電 子レンジ付近の漏洩電波 (干渉波) の測定を行った. 図 2.1 干渉波測定の構成

2.4.

干渉波の分析

時間波形スペクトル特性 W-LAN帯域の周波数である 2.4GHz 帯と重なると推測している, 電子レンジ干 渉波の信号を測定した. まず, 電子レンジ前面 15cm の位置にアンテナを設置して 実測を行った.この時の時間波形スペクトル図を 2.2 に示す.−110dB 付近の平坦 な線は電子レンジ不稼働時である. 周期的に山成りに現れている線が稼働時のス ペクトルである. 図の示す通り、電子レンジを稼働させると干渉波が最大−60dB の強さで現れている様子がよく分かる. このように、電子レンジを稼働させると 干渉波が現れることが確認できた.

(21)

表 2.1 測定諸元 アンテナ 1/2λスリーブアンテナ 中心周波数 2.447GHz, 2.467GHz サンプリング周波数 38.4MHz 計測時間 200ms 備考 電子レンジ稼動中の内容物は 陶器製の容器に室温の水を約 150cc 商用交流周波数 60Hz 測定機器 Agilent Technologies 89600S Vector Signal Analyzer 使用電子レンジ インバータ型 松下製 95 年製造 NE-C2 型番 シャープ製 2004 年製造 RE-S160W トランス型 東芝製 98 年製造 ER- FX1(H) 三菱製 電子レンジからの干渉波発生方向と距離測定 次に電子レンジ干渉波はどの程度の距離まで干渉波が及ぶのか、どの方向から 干渉波が発生しているのかなどを測定した. まず電子レンジから 15cm, 1m, 3m の位置にアンテナを置き, それぞれ干渉波 の電力レベルを測定した結果を図 2.3 に示す.15cm で平均的に−93dB 程度の干 渉波が確認できるが, 1m で−103dB 程度に減少している. 3m 離れた距離でも −105dB に下がっており, 15cm の場所と比べると瞬時電力特性はおよそ 1/10 の 減少であり, 1m 距離を取るだけで干渉波はかなり弱くなっていることがわかる. 尚, 干渉波発生の方向について確かめるため, 電子レンジ右側面, 左側面, 上部, 背面で測定し, その干渉波は差違を確かめたが特に差違は見られ無かった. この ため, 今後の検証はすべて電子レンジ前面 15cm 位置にアンテナを置いて採取し た信号で行うものとする.

(22)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 Interference(dB) Time(s) on off 図 2.2 電子レンジ不稼働時の電波波形の図 (シャープ製) 電力レベル比較 電子レンジ稼動モードによる干渉波の違い 電子レンジには複数の機能があるため, 「あたためモード」「トーストモード」 「オーブンモード」の 3 タイプでの干渉波の発現の有無を確認した.図 2.4 に示す. 結果ではあたためモードの時には約−55dB 相当の干渉波の発現が見られるが, そ の他のモードの時は電子レンジ不稼働の場合と同じ自然雑音のみであり, 干渉波 は見られなかった. これは, トーストモードやオーブンモードの時は庫内の発熱体を熱してできる 熱風を利用した機能であり, あたためモードに用いる機能, つまりマグネトロンが 不稼働の時にマイクロ波の発振が無い為と考えられる.干渉波の発生はあたため モードの場合のみであるとわかる.

(23)

-115 -110 -105 -100 -95 -90 0.2 0.205 0.21 0.215 0.22 0.225 0.23 0.235 0.24 0.245 0.25 Interference(dB) Time(s) 15cm 1m 3m 図 2.3 距離による干渉波の瞬時電力特性比較図 (シャープ製 中心周波数 2.447GHz)

(24)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 Interference(dB) Time(s) atatame toaster oven 図 2.4 機能による干渉波発生の有無 (シャープ製 中心周波数 2.447GHz)

(25)

干渉波の中心周波数 干渉波の測定中心周波数の測定を行い, ISM 帯域の 13 チャネル分 (2.412GHz∼2.484GHz) について, 各チャネルの干渉波の形状を確認した.図 2.5, 2.6 で示す. 図中の凡例 であるが, sh2412 は周波数 2.412GHz であるとあらわす. 他も同様とする. このよ うに, チャネルの違いにより干渉波にさまざまな形状が見られる.干渉波の持つ 周波数成分と, 測定する中心周波数が近い場合は, きれいな尖形を持つ放物線を 描くが, そうでない場合はパルスの頂上が平坦になったり, 両端に” 角” のように 尖った形がみられたりする. 一般にきれいな尖形の形状を描く時, その信号の成 分である周波数と測定器で設定した周波数が近いといえる. このため図の形状か ら干渉波が持つ周波数成分に近いチャネルを推定することができる. 図 2.5 からシャープ製では 2.447GHz 以上 2.457GHz の間にノイズの中心周波数 が存在すると推測できる. 東芝では 2.452GHz で幅広く, 瞬時電力特性も高い形状 となるが, 2.457GHz 付近で弱くなる. ところが 2.472GHz 付近で再び頭頂の平ら な 2.452GHz 近い形状に戻る. これは東芝製電子レンジ干渉波に含まれる成分が 大きく 2 種類存在することを示している. このことは後出の図 2.14 からも裏付け られることとなる. 干渉波発生周期 次に干渉波の大きな特徴である周期性を詳細する. 図 2.7 でわかるように シャー プ社製, 東芝社製は 1/60Hz, そして三菱製は 1/50Hz となっている. 今回, 前者 2 メーカーは西日本で, 三菱製は東日本で採取を行った. 電子レンジ干渉波が商用 周波数に同期した間欠発振であることが顕著に現れている. 一方ところが同じ西日本で採取した松下製電子レンジの干渉波の周期は 1/120Hz であり, 瞬時電力特性が密に上下している. 図 2.9 では山が塗り潰されたように見 える. この図の一部を拡大したものを図 2.10 に示す. この図より, 約 22KHz の周 期でオンオフが繰り返されていることが分かる. この松下製電子レンジの干渉波 では一度整流してからスイッチングするというインバータ型の特徴がよく現れて いる.

(26)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0.1 0.105 0.11 0.115 0.12 0.125 0.13 0.135 0.14 0.145 0.15 Interference(dB) Time(s) sh2412 sh2442 sh2452 sh2457 図 2.5 測定中心周波数の違いによる干渉波形状の差違 (シャープ製) -120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0.1 0.105 0.11 0.115 0.12 0.125 0.13 0.135 0.14 0.145 0.15 Interference(dB) Time(s) to2412 to2442 to2452 to2457 to2472 図 2.6 測定中心周波数の違いによる干渉波形状の差違 (東芝製)

(27)

10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 Interference(w) Time(s) "s2.447-sh-1.txt" "s2.447-to-1.txt" 図 2.7 シャープ製と東芝製の干渉波周期の様子 図 2.8 三菱製の干渉波周期の様子 (時間間隔 0.5ms)

(28)

図 2.9 松下製の干渉波周期の様子 (時間間隔 70ms)

(29)

Vector Signal Analyzer測定器による干渉波分析

これまでの時間波形スペクトル図から得られた知見をもとにして更に干渉波の 特性を詳細に調べる為, Vector Signal Analyzer(VSA) 測定器を用いて干渉波の分 析を行った. 干渉波発生中の様子を図 2.11 に示す. 図中のAのグラフは干渉波の 瞬時電力特性対時間を表したスペクトラム図で, 横軸は周波数, 縦軸は瞬時電力特 性 (dBm) を示す.次にBのグラフは時間対周波数のスペクトラム図である.縦軸 で時間, 横軸で周波数を示す.そのスペクトル強度を濃淡で表している. CとD のグラフは干渉信号実部と虚部の電力対時間を表したものである.縦軸が瞬時電 力特性, 横軸が時間を示す.このグラフからは, 干渉波発生時は瞬時電力特性が上 がっていることを示している. A, C, Dのグラフはその時間幅が 0.8ms であることに対し, Bのグラフは時間 幅がおよそ 40ms である.つまりBのグラフでは 40ms 間の干渉波が持つ周波数 の成分特性を知ることが出来る. ここでは, Aのグラフから干渉波のピーク時に鋭く尖る形状を持つこと, Cと Dからはその瞬時電力特性, Bのグラフからは干渉波の周期性やその周期間隔が 確認できる. これらはすべて前節までの結果を裏付けたものとなっている. 念のため, 電子レンジ不稼働時の VSA の測定結果を図 2.12 に示す. 電子レンジ の不稼働時には何の電波も検知されないことが分かる. 稼働時の図と不稼働時の 図を比べると, 特定の周波数部分で干渉波の発生により電力値が大きく変化して いる様子がよく確認出来る. これはまた, 干渉波の発生立ち上がり途中の図も示している. 干渉波が含む周 波数成分が多数になり, その瞬時電力特性も上がって行く様子が見られる. 各メーカーで干渉波の形状に違いがあるため, 以下順に図示する. 東芝製電子レンジと三菱製電子レンジの干渉波をそれぞれ図 2.14, 図 2.15 に示 す. 東芝製電子レンジの干渉波は複数の周波数が混じり合い, その中でも, 特に 2 種の周波数成分が強いことが拡大された図 2.18 から窺える. 三菱製はその周波数 形状の”山”が一つであり, 一定していることが図 2.19 から分かる. 次にインバータ型の松下製電子レンジの VSA による分析の拡大図 2.17 を示す. これもグラフBの拡大である. この図からも分かるように松下製電子レンジのみ

(30)

図 2.11 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (シャープ 製) Vector Signal Analyzer(VSA)

(31)

図 2.12 電子レンジ不稼働時の干渉波の時間および周波数スペクトル (シャープ 製) Vector Signal Analyzer(VSA)

(32)

図 2.13 電子レンジ稼働時の干渉波発生立ち上がり時の時間および周波数スペク トル (シャープ製) Vector Signal Analyzer(VSA)

(33)

図 2.14 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (東芝製) Vector Signal Analyzer(VSA)

(34)

図 2.15 電子レンジ稼働途中の干渉波の時間および周波数スペクトル (三菱製) Vector Signal Analyzer(VSA)

他とは違う形状を持つ. その周期は他よりも狭く, ノイズ発生時に広帯域に周波 数を含むものの発生途中もある程度の幅が見られる. これは微細なスイッチング により, その帯域が狭帯域に止まらないことを示している. 他のメーカーの干渉 波発生ピーク時の VSA 拡大図を図 2.17sim 図 2.19 に示す. 他メーカーの干渉波 も同様の特性となっていることが分かる. 干渉波特性のまとめ 以上の結果から, 電子レンジからの干渉波は方位を問わず発現, 距離が離れる とその瞬時電力特性は著しく減少するが 3m の距離でも観測できること, また干 渉波は特定の機能が稼動する時に発生する, ということがわかった.そして発現 は周期性をもつこと, 更にその発現形態はトランス型の場合はノイズの立ち上が り時には多くの周波数成分を含むこと, 発生してすぐ収束して限定された周波数 にまとまり, そして立下り時に再び広い周波数成分を含む形になることがわかっ

(35)

図 2.16 松下製電子レンジの干渉波信号のスペクトログラム (中心周波数 2.412GHz Vector Signal Analyzer図)

(36)

図 2.17 シャープ製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数 2.447GHz Vector Signal Analyzer図)

た.インバータ型の場合は, ノイズの立ち上がり, 立下り時に一度多くの周波数成 分を含むが, 発生途中に含まれる周波数帯域も広めであり, スイッチングにより微 細な発振が含まれ, その電圧が一定ではない, などの知見が得られた. インバータ型, トランス型とも電子レンジは商用交流に同期していることがわ かり, また周波数分布の概形の広がりなどを確認した結果を述べた. 図 2.7 から は松下製, 東芝製電子レンジの干渉波の周期が約 16ms であること, 三菱製は約 20ms,松下製は 8ms であることが分かった. これらの測定から干渉波は商用交流 に依存する周期を持ち, 干渉波のノイズレベル値は−40dBm ∼ −110dBm であ り, インバータ型, トランス型の違いで干渉波の特性に差異があることを検証する 結果となった.

(37)

図 2.18 東芝製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数 2.467GHz Vector Signal Analyzer図)

(38)

図 2.19 三菱製電子レンジの干渉波のスペクトログラム (中心周波数 2.412GHz Vector Signal Analyzer図)

(39)

2.5.

パルス間相関特性

次に, 干渉波の周期性をによるパルス間の相関特性を見るため, 自己相関の検 討を行う. 時刻 k における等価低域表現による干渉信号のサンプル値を Xk = Ik+ jQk (2.1) と表す. ここで Ik, Qkはそれぞれ, 干渉信号の同相および直交成分である. このと き m サンプル離れた信号の積の期待値を R(m; k) = E[Xk+mXk∗] (2.2) とおき, 時刻 k における自己相関関数と定義する. 前節での結果をふまえ, 干 渉信号の周期は Tp = 1/fp(= 1/60 ' 16.7ms) とおく. サンプリング周波数 fs = 38.4M Hz であるので, 干渉信号の周期は D = Tp/(1/fs) = 640, 000サンプル分に 相当する. 干渉信号1周期分の遅延に相当する相関 R(k) = R(D; k) について解析する. rkをフーリエ変換した結果を図 2.20 および図 2.21 に示す. これらの図から rkの周波数成分は直流付近に集中している. このことはパルス間 の相関が高いことを示している. 干渉波の周波数成分の分析 次に, 干渉波をフーリエ変換し, 含まれる周波数成分の分析を行った.シャープ 製では 0 地点を中心とした狭帯域にあらわれることがわかった.東芝製ではシャー プ製ほど狭くなく, 様々であり広帯域に及んでいることがわかる.これは周波数 成分が複数含まれていることを示す. 次に Ikと Ik+Dの波形の差を比較した. その結果を図 2.22 に示す. この結果より, 波形はほぼ同じ周波数の正弦波となっているが, 位相が徐々にずれていることが

(40)
(41)

図 2.21 東芝製電子レンジ干渉波の周波数成分分布図

わかる. これから, 前のパルス波形を単純に減算しただけでは, 干渉除去を効果的 に行うことはできないことが予想される. 次章では, 前後のパルスの振幅位相差 を適応制御することで, 干渉除去を行う方法を提案する.

(42)
(43)

3

章 干渉除去

3.1.

周期性を利用した除去手法

前節では電子レンジ稼動時の干渉波について計測データを元に解析を行い, 干 渉波の強さ, 頻出度合, 周波数成分など様々な性質を得た. この結果より, 干渉波 の周期性特性と各周期の相関関係の高さから, 周期性を利用した忘却係数重畳に よる干渉除去手法を提案する.

3.2.

干渉除去方式の基本概念

まず, 干渉除去方式の基本概念を以下の図 3.1 で示す. 等価低域表現受信信号を rkとする. サンプリング周波数を fsとする. 図 3.1 干渉除去フロー図 遅延時間 TD = D/fsだけ遅延した受信信号 dk = rk−D を用いて, 電子レンジか らの干渉を除去する.

(44)

dk に重み係数 hkをかけて rkから減することで出力信号は ek = rk− hkdk と表 される. 忘却係数で重み付けした誤差電力 Jkは次式で表されるものとする. Jk = 1 1− α l=0 | ek−l|2· αl (3.1) = 1 1− α l=0 | rk− hkdk−l|2 ·αl (3.2) ここで α は忘却系数である. Jkを最小にする hkδjk/δhk = 0 (3.3) を満足させることから次式を満足する. 0 = l=0 αl(rk−l− hkdk−l)d∗k−l (3.4) hkについて解くと, hk = ∑ l=0α lr k−l· d∗k−l l=0αl· | dk−l |2 = Nk Dk が得られる. ただし, Nk = l=0 αlrk−l· d∗k−l (3.5) Dk = l=0 αl | dk−l|2 (3.6) Nkおよび Dkは次式のように漸化式で書くことができる。 以上の結果から, hkの値が求まる. Nk= rkd∗k+ αNk−1 (3.7)

(45)

Dk=| dk |2 +αDk−1 (3.8) hk = Nk Dk (3.9)

3.3.

遅延時間検証

前節で導いた式により干渉除去を行うために干渉波の周期時間を計り,遅延時 間を定める必要がある.このため,ノイズの立ち上がり,立下りが曖昧であること から,周期時間を 3 つ想定し,それぞれ検証した.周期時間をおよそ 17.16ms(サ ンプル数にして 66 万サンプル),16.64ms(64 万サンプル),16.12ms(62 万サンプ ル) としてシミュレーションを行った.結果を図 3.2, 3.7, 3.4 に示す. この結果, 17.16msと 16.12ms では干渉除去結果に徐々にずれが出ることがわかった. このため,遅延時間は 16.64ms(64 万サンプル) を今後用いるものと定めた.

3.4.

忘却係数検証

次に,忘却係数の最適値を定めた.忘却係数とは過去の観測結果の同定デー タに及ぼす影響を小さくするための係数である.忘却係数を用いずに干渉除去を 行った場合,過去の結果が和算され誤差を引き起こす場合がある.忘却係数を 0.9, 0.8, 0.7の 3 数値で試算した結果を以下に示す. このように,忘却範囲が 0.9 の場合は影響が長引き,思うほど干渉除去効果が 得られない.次に忘却係数を 0.8 とすると適正に収束し,減算効果が現れ始めた. さらに係数を下げて 0.7 で行うと,0.8 とほぼ変わらない結果となった.本研究で は忘却係数を 0.8 と定めた. これは過去の観測結果に影響されすぎることなく,た だし近似の度合いを下げない方が良いことを理由とする.

(46)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 Interference(dB) Time(s) normal simple-add alpha09-multi 図 3.2 干渉除去結果 忘却系数 0.9 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz) -120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 Interference(dB) Time(s) normal simple-add alpha08-multi 図 3.3 干渉除去結果 忘却系数 0.8 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz)

(47)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 Interference(dB) Time(s) normal simple-add alpha07-multi 図 3.4 干渉除去結果 忘却系数 0.7 (シャープ製, 中心周波数 2.447GHz)

3.5.

干渉除去特性

前節で得られた知見を元にして, 遅延時間を 16.64ms,忘却係数を 0.8 として干 渉除去シミュレーションを行った.ここで得られた干渉除去特性を述べる. 結果は 図 3.7 に示す. 線 normal は干渉除去処理を行う前の干渉波形である. 線 simple-add は周期に従って単純な干渉除去処理を行った結果である. 線 alpha-multi は, 干渉 除去処理をする値に, 誤差電力が最小となるよう忘却係数を加えて生成した「重 み係数 (h)」を乗算した値を, 周期を利用して干渉除去を行った結果である. 1周期前の値と現在の値を単純干渉除去した場合, 却ってノイズ電力が高くなっ てしまった結果が図 3.7 中の線 simple-add である. これは誤差値が和算されて積 み重なり, 元の値より大きくなったと推測できる. 以上から, 誤差の値を和算する際に小さくする為に忘却係数 0.8 を用いて遅延 時間 16.64ms の一定値を与え, 干渉除去計算を行った. これにより元の値を大きく 下回るおよそ 15dB 程度の干渉除去効果が得られた. シャープ製電子レンジ, 東芝 製電子レンジいずれにおいても同程度の除去効果が得られている.

(48)

-120 -110 -100 -90 -80 -70 -60 -50 0.05 0.06 0.07 0.08 0.09 0.1 0.11 0.12 0.13 0.14 0.15 Interference(dB) Time(s) normal simple-add alpha08-multi 図 3.5 干渉除去結果 忘却系数 0.8 遅延時間 16.64ms (東芝製, 中心周波数 2.447GHz)

3.6.

無線

LAN

システム用電子レンジ干渉波除去

前節の基本構成では無線 LAN パケットが入力されると現在のパケットに加え て, D 時間経過後, 同じバーストが遅れて出力されることになる。そのままでは, 同じパケットが 2 回出力されることになり, かえって干渉が増加することになる。 そこで, 1 度受信したパケットを遅延信号から除去をすることで, この問題を解決 する手法を提案する. 図 3.6 に提案する無線 LAN 用電子レンジ雑音干渉波除去方式の構成を示す. 図 において無線 LAN 送信機からの送信信号 skは伝搬路による拡散位相変動により, cskとなる. ここで c は, 伝搬路による複素包絡線変動である. ここに電子レンジ からの干渉, mkが加わる. 受信信号は rk = csk+ mk (3.10) とかける. rkから後述する無線 LAN 信号の受信レプリカ信号を ˆc ˆskを干渉除

(49)

去した信号を ˆ mk = rk− ˆcˆsk (3.11) とする. ここで,W-LAN 受信信号のレプリカが十分な精度であれば, ˆmk ' mk と見なすことができる. ˆ mkを D だけ遅延させた信号 dk = ˆmk−Dを用いて干渉除去を行う. 基本構成と 同様に式 (3.7) および (3.8) に代入して, hkを導入し, ek= rk− hkdk を求める. ek は干渉除去が動作していれば ek =∼ cskとなる. ekを無線 LAN 復調器に入力し, 復調結果を再度無線 LAN 変調器に入力することで送信信号レプリカ ˆskを求める. ekと ˆsk より伝搬路変動を次式で推定する. ˆ c = E[ek/ ˆSk]' 1 N N−1 l=0 ek sk (3.12) これより先ほど用いた受信信号レプリカ ˆc· ˆskを求めることができる.

3.7.

短時間相関遅延による干渉除去方式

電子レンジ干渉波の周期を利用せず, 短時間シンボルでの除去方式も試みた. 今 回は IEEE802.11g を想定して, 通信方式の OFDM を根拠にシンボル数を定めた. OFDMのガードインターバル (4 章 1.1. 参照) は 0.8µs であるため, およそ相当す る時間数となる 30 サンプル (0.78µs 相当) 以下を用いることにし, 今回は 16 サン プルで行った干渉除去シミュレーション結果を図 3.6 に示す. このとおり, 周期性 を用いた場合よりずっと干渉除去の効果が高いことが分かった.

3.7.1

干渉波除去特性

1周期を利用するものよりも干渉除去効果は大きく, 最高値では−110dBw (−80dBm) との干渉除去結果が得られた. これは干渉波が発生していない時点 の瞬時電力特性に相当し, かなりの干渉除去効果があると言える. しかし, ノイズ の立ち上がり, 立下りの広帯域に広がる干渉波だけは周期を利用している場合と

(50)

10-12 10-11 10-10 10-9 10-8 10-7 10-6 10-5 0.06 0.065 0.07 0.075 0.08 0.085 Interference(w) Time(s) w/o cansel w cansel(16p) 図 3.6 干渉除去結果 (キャンセル無しとキャンセル有りシャープ製 遅延間隔 16 サンプル) ほぼ変わらない干渉除去効果しか得られなかった. 今後これが W-LAN 信号の誤 り劣化の大きな要因となるか慎重に検討する必要がある.

(51)
(52)

4

W-LAN

信号との信号重畳か

らの除去

4.1.

干渉波信号と無線

LAN

信号の重畳信号からの干渉

除去

前章で電子レンジから発生する干渉波の除去手法の検証を試み, 干渉除去効果 が得られた. ここで実際の干渉状況を想定して, 無線 LAN 信号+電子レンジ干渉 信号から電子レンジ干渉信号を除去する手法を提案する. ここでは最近主流であ る OFDM 伝送方式を用いた無線 LAN を用いることとする.

4.1.1 OFDM(Orthognal Frequency Division Multiplex:

交周波数分割多重

)

伝送方式の利点

はじめに,OFDM 伝送方式について述べる.OFDM は従来のシングルキャリ アの伝送方式と比べ,シンボル長を長くすることで隣接するシンボルに干渉を及 ぼし合う符号間干渉 (ISI:Inter Symbol Interference) の全体に占める割合を小さく し,遅延波の影響を少なくしている. また,ガードインターバルを設けることで,ガードインターバル長以下の遅延 時間の場合,符号間干渉波が完全に除去可能である.周波数領域で遅延波の影響 を見ると,帯域全体の特性が平坦でなくなる周波数選択性フェージングが生じる. OFDMでは,多数の狭帯域なキャリアを用いた伝送を行うマルチキャリア化によ り,周波数選択性フェージングへの耐性を高めている.さらに OFDM は直交関数 系を使って搬送波間隔を最小にしているため,シングルキャリアとほとんど変わ

(53)

らない周波数利用率を確保することができる方式である.このように良い性質を もつ伝送方式であるため,地上ディジタル放送,衛星通信,携帯電話に代表され るような IEEE802.11a や IEEE802.11g の伝送方式に採用となり重用されている. 本研究ではガードインターバル長が 0.8µs であることを鑑み,遅延時間を 0.8µs としてシミュレーションを行った.

4.1.2

シミュレーションでの

OFDM

伝送方式の諸元

本研究で用いた OFDM 伝送方式の諸元を述べる.その伝送レートは最高 6Mbps, サブキャリア数 52(パイロット信号=4), 変調方式は BPSK, 誤り訂正方式は畳み 込み符号として行った. この主要諸元を以下の表 4.1 に示す. 次に W-LAN 信号が重畳された場合の除去手法の構成を以下に述べる. まず無 線信号 s が伝送されている途中でフェージングによる信号減衰 c と電子レンジか らの干渉信号 m が加わり, 受信直後の信号は ˆs· c + m となる. この後伝播路推定 により c を求めることができるため, ˆs + cを導くことができ, ˆs· c + m − ˆs + c で 電子レンジ干渉信号 m に分離することが出来る. この分離された信号 m で前章 の干渉除去手法を用いて干渉波を除去することが出来る. 提案の構成では, 遅延した受信信号から W-LAN 信号が除去されているため, 2 回同じパケットが出力されるという問題は生じない.

4.2.

干渉除去評価結果

W-LAN信号に電子レンジ干渉波を重畳させ,除去手法を取り入れた場合と除 去手法無しの場合の伝送誤り率をシミュレーションによって導出し,その誤り率 を求めた.前項に基づき, 干渉除去係数は 16 サンプル, 忘却係数は 0.9,C/I(dB) は−30dB ∼ 10dB として干渉除去シミュレーションを行った結果を述べる. 例えば,C/I(dB) が−20dB で除去手法が無い場合,BER は 0.23 の誤り率で あったが除去手法を用いた場合は 0.353 に改善した.また同じ条件でのパケット 伝送誤り率 (以下 PER) で比較すると,前者は 0.516 の誤り率であることに対し,

(54)

図 4.1 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 シャープ製 中心周波数 2.447GHz 後者は 0.111 まで改善できた.C/I(dB) が 0db∼ −30dB までは,BER およびパ ケット伝送誤り率の両方で,大幅な改善が得られ,最大値は C/I(dB) が−10dB での BER, PER 誤り率比較において,その劣化率が 0.197 から 0.405 へと減少す る改善効果が得られた.本提案手法は改善効果も高く,また改善効果が安定して 続くという知見も得られた.この結果の検証として, 他のシミュレーション結果 を以下に図示する. いずれのメーカーであっても前章で示した干渉波の中心周波 数に近いほど, 除去効果が高いことを示せた.

(55)

図 4.2 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 シャープ製 中心周波数 2.457GHz

(56)

図 4.4 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 東芝製 中心周波数 2.457GHz

(57)

図 4.6 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 三菱製 中心周波数 2.412GHz

(58)

図 4.8 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 三菱製 中心周波数 2.442GHz

(59)

図 4.10 W-LAN に適用した場合の干渉除去効果 松下製 中心周波数 2.472GHz 表 4.1 OFDM Parameters 伝送レート 6Mbps サブキャリア数 52 パイロットサブキャリア:4 サブキャリア変調方式 BPSK 誤り訂正方式 畳み込み符号化 符号化率 R=1/2 IEEE802.11gに準拠 OFDMシンボル長 4.0µs ガード· インターバル 0.8µs サンプルレート 38.4MHz

(60)

表 4.2 伝送誤り率特性で示す干渉除去結果 (シャープ製 2.457GHz) C/I(dB) BER BER PER PER BER差 PER差

(with) (without) (with) (without)

-50 0.499 0.498 0.100 0.100 0.000 0.000 -40 0.186 0.276 0.837 0.597 0.900 -0.240 -30 0.680 0.261 0.202 0.554 0.193 0.352 -20 0.350 0.232 0.111 0.516 0.197 0.405 -10 0.240 0.189 0.730 0.472 0.165 0.399 0 0.070 0.109 0.740 0.411 0.102 0.337 10 0.310 0.220 0.350 0.353 -0.090 0.030 20 0.003 0.000 0.032 0.000 0.000 -0.320

(61)

5

章 結論

電子レンジ稼動時の漏洩電波が W-LAN 通信時の干渉波となる際の除去手法を提 案し, その性能評価実験を行った. まず干渉波特性の詳細を実測によって調べ, 干 渉波のエネルギー, 出現周波数帯域, 商用交流に同期した周期性などを確認した. メーカーによる干渉波の出現周期の違い, 帯域幅の違いなどの詳細も得ることで きた. 次に, 採取した干渉波信号データから干渉波の詳細な性質特定を行い, 相関 関係を導出した. そして干渉波の周期性を利用した干渉除去手法を提案し, 干渉除去効果を解析 的に予測した. 更に誤差電力が最小となるような重み係数を用いた拡張型干渉除 去手法を提案した.実際の電子レンジ干渉雑音を用いて提案干渉除去方式の数値 計算を行った. その結果, 一定の周期性を持つ干渉波に対して, その周期を利用して予測干渉波 を干渉除去するという提案手法が有効であることがわかった. また, 周期性のあ る干渉波であればメーカーによる干渉波の性質の違いが見られても, パラメータ の調整のみで提案手法が適用可能であることを示した. 更に, IEEE802.11b を想 定した W-LAN システム用干渉除去手法を考案し, その有効性をシミュレーショ ンによる検証を行った. OFDMによる伝送時には,その干渉波が加わった時の PER の最大値はシャー プ製電子レンジの場合, 0.554 であることに対して提案手法による干渉除去の後 は,最大値で 0.352 まで伝送性能が改善され,高い改善効果が得られた.BER で も 0.351 から 0.232 まで劣化を改善することが出来, 本手法は,W-LAN の通信誤 り率劣化を大きく防ぐことができることを示した. 東芝製電子レンジでは, PER で最大 0.418 から 0.274 に, BER で 0.179 から 0.067 への劣化改善が得られた. 三 菱製電子レンジでは, PER で最大 0.432 から 0.131 に, BER で 0.189 から 0.051 へ

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の劣化改善が得られた. 松下製電子レンジでは, PER では改善は見られず, BER で 0.261 から 0.195 への僅かな劣化改善が得られた. このようにいずれの場合でも改善効果はに差はあるが, 劣化改善の効果が得ら れる結果となった. より改善効果が高いものはトランス型電子レンジ 3 台の干渉 除去評価であり, インバータ型電子レンジでは改善効果はかなり弱く, 場合によっ ては劣化を高めてしまう結果も出た. 今後は, インバータ型での改善効果を高めることと, メーカーによる干渉波特 性の差に追随できる除去手法への改良、実装に向けて計算量の減量や構成の強化 を進めていきたい. また, IEEE802.11b は拡散直接方式の伝送方式を用いている ことを受け, 他の通信方式での干渉除去の検証を考えている.

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謝辞

本研究を行うにあたり,本学情報科学研究科 岡田 実 教授には研究の機会を与 えて下さったうえ、終始暖かく見守って頂き, 熱心な御指導,御鞭撻を賜りまし たことをここに厚く御礼申し上げます.また副指導教員として常に研究の進み具 合を気にかけて頂き,様々な御助言,御教示を賜りました 本学情報科学研究科 関 浩之 教授に心から御礼申し上げます. 本学情報科学研究科 原 孝雄 准教授には副指導教員として貴重なご意見を頂き, 日頃の研究姿勢やプレゼンテーションのアドバイスなど,ご指導賜りましたこと 心から感謝致します. 研究のために数々の貴重なご意見,ご協力を頂いた本学情報科学研究科の 齋藤 将人 助教,宮本 龍介 助教に深く感謝致します. 本研究をすすめるにあたり,度々のご意見,ご協力を頂いた株式会社ルネサス テクノロジの 野上 博志 博士と大久保 隆志氏に深く感謝致します. またゼミなどでの熱心な討論や意見,不慣れな通信分野に途方に暮れる私に的 確な助言を下さった情報コミュニケーション講座の皆様に感謝します.ことにパ ソコンの前にとどまらず,時節に応じた様々な事で研究生活を笑わせてくださり, 社会人&学生という二重生活の中でここまで研究を続けることが出来たのは皆様 の惜しみない協力と励ましのお蔭と感謝の念にたえません. 更に本研究活動に理解を示し激励を下さった本学科学技術研究調査センター 久 保 浩三 教授をはじめ同センターの皆様,学長特別顧問の 山本 平一 名誉教授に 深く感謝申し上げます.

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「いつも忙しそうだね. 今は何をやっているの?」 度々, 暖かい励ましを頂くことがありました. いつも嬉しく思いつつ, 先日は 「今は修士論文を書いています. 」そう返事をしました. その後ふと, 修士論文を書く機会は二度と無く, それもほんの短い間しかないのだ と気づき, このわずかな”時”をとても愛おしく感じました. 手元の学生証を眺めつつ, この貴重な機会を与えて頂いた事と, いつも励ましの言 葉をかけて下さった本学情報科学研究科および本学関係者の皆様に心から感謝を 申し上げます. 多くの方々からご協力頂き,本論文をまとめ上げることが出来ました.ここに深 く感謝の意を表し,厚く御礼申し上げます.

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業績一覧

[1] 高畑 裕美, 岡田 実 “2.5GHz 帯無線 LAN における電子レンジ干渉の周期性 を利用した除去手法”, 電子情報通信学会技術研究報告,SISB2008-10, pp.53-57,2008年 6 月

[2] Hiromi Takahata, Minoru Okada ”Reduction of microwave oven interference

for 2.4Ghz band W-LAN,” 2008 International Worlshop on Smart Info-Media Systems in Bangkok(SISB 2008) (submission)

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参考文献

[1] 総務省 情報通信統計データベース 情報通信白書 平成 20 年度版

[2] 山中 幸雄, 篠塚 隆 “電子レンジ妨害波の統計パラメータの測定”, 電子情報通 信学会技術研究報告 EMCJ, 環境電磁工学,Vol.94(229),pp.25-32,1994 年 9 月 [3] Sakda Unaong,Shinichi Miyamoto,Norihiro Morinaga, “Emisuppression technique for ISM-band WLANs using multicode transmission and emi ob-servation channel,”IEICE Transactions on Communications, Vol.E83-B(3), pp.532-540, 2000年 3 月

[4] Shinichi Miyamoto,Yukio Yamanaka,Takashi Shinozuka,Norihiko Mori-naga,“A study on the effect of microwave oven interference to the perfor-mance of digital radio communications systems,” The transactions of the Institute of Electronics, Information and Communication Engineers,Vol.J-79-B-2, pp.835-844, 1996年 11 月 [5] 竹内 壮央, 松本 泰, 杉浦 行, 山中 幸雄 “電子レンジ妨害波による 2.4GHz 帯無線 LAN システムの回線劣化の検討”, 電子情報通信学会技術研究報告 EMCJ,環境電磁工学, Vol.102(488), pp.45-52, 2002 年 11 月 [6] 中塚 真庸, 松本泰, 藤井 勝巳, 杉浦 行 “無線 LAN における電子レンジ干渉 の適応フィルタによる抑圧” 電子情報通信学会技術研究報告 EMCJ, 環境電 磁工学, Vol.103(440), pp.21-26, 2003 年 11 月 [7] 松本泰, 杉浦行 “B-4-85 適応フィルタを用いた無線 LAN への電子レンジ干 渉の抑圧”, 電子情報通信学会総合大会講演論文集, 2003 年通信, pp.452-522, 2003年 3 月

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[8] 松本 泰, 杉浦 行 “B-4-49 無線 LAN における電子レンジ干渉の適応フィルタ による抑圧: インバータ電源方式電子レンジの干渉波に対する抑圧効果”2003 年電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集, pp.357, 2003 年 9 月 [9] 清水 俊樹, 松本 泰, 藤井 勝巳, 杉浦 行 “IEEE802.11a 方式無線 LAN への拡 散スペクトラムクロックシステムからの電磁干渉の検討” 電子情報通信学会 技術研究報告 EMCJ, 環境電磁工学, Vol.105, pp.65-70, 2005 年 6 月

[10] Masanobu Nakatsuka, Yasushi Matsumoto, Katsumi Fujii, Akira Sugiura, ”Adaptive cancellation of microwave oven interference in WLANlinks” IE-ICE technical report Electromagnetic compatibility, Vol.103, pp.21-26, 2003 年 11 月

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