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地域完結型看護を基軸に据えた看護基礎教育の成果 -学生による1年次および4年次の自己評価の大学間比較から-

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群馬保健学研究 41:1-8,2020

地域完結型看護を基軸に据えた看護基礎教育の成果

-学生による1年次および4年次の自己評価の大学間比較から-

金 泉 志保美

1)

, 京 田 亜由美

1)

, 恩 幣 宏 美

1)

坂 入 和 也

2)

,牛久保 美津子

1) (2020 年9月 30 日受付,2021 年1月 15 日受理) 要旨:本研究は,看護基礎教育において地域完結型看護を基軸に据えた教育的取り組みを強化 した A 大学の学生と,比較対象として同一県内にあり本取り組みの強化はしていない B 大学・ C 大学の学生間で,地域完結型看護の理解と実践についての自己評価を比較検討することで, A 大学における4年間の教育成果と他大学を含めた今後の看護基礎教育の課題を明らかにす ることを目的とした。A,B,C 大学に 2015 年度に入学した看護学生計 252 名を対象に,地域 での暮らしを見据えた看護の理解と実践に関する自己評価を4件法で問う無記名自記式質問紙 調査を行った。理解(15 項目)については 1 年次および4年次,実践(12 項目)については 4 年次に調査し,回答を「できる」とそれ以外の2群で比較しχ2検定および残差分析を行った。 理解については 1 年次に有意差のみられなかった 11 項目のうちの6項目において,また,実 践については4項目において,4年次に「できる」と回答した者の割合は,A 大学が有意に高かっ た。3大学いずれも,「生活スキル」と「外来に訪れた対象者の生活を理解した看護」の自己 評価が低かった。A 大学における4年間の地域完結型看護を基軸に据えた看護基礎教育は成 果があった。生活スキルの向上と外来患者の生活を理解した看護実践に対する教育を充実させ ることが今後の課題である。 キーワード:地域完結型看護,看護基礎教育,理解,実践,自己評価 1) 群馬大学大学院保健学研究科 2) 前群馬大学大学院保健学研究科 Ⅰ はじめに  少子超高齢社会の我が国においては,地域包括ケア システムの構築が推進されており1),これまでの病院 完結型の医療・ケアから,地域完結型の医療・ケアへ と転換がはかられている。人々が,住み慣れた場所で 最期まで自分らしい生活を送るために,地域での暮ら しや看取りまでを見据えた看護が提供できる看護人材 の育成は喫緊の課題であり2),看護基礎教育において も,従来の病院中心の看護教育から,地域完結型の看 護教育への転換が求められている。  A 大学では 2015 年度の入学生から,地域完結型看 護を基軸に据えた看護基礎教育,すなわち,これまで の病院・施設中心の看護ではなく,人々の本来の生活 の場である地域・在宅を見据えた看護が提供できる人 材育成のための教育に取り組んできた3)4)。看護の 対象者を「患者」ではなく地域の「生活者」として捉 えることを重視して,地域での暮らしや看取りまでを 見据えた看護を実践できる能力を養う教育プログラム であり,(1)看護の対象者を 「患者」 ではなく,地域 での 「生活者」 と捉えた看護の実践,(2)一人一人の 暮らしや生き方の尊重・理解,(3)対象者が自分らし い療養生活を送れるような情報提供,意思決定支援, 退院支援の理解と実践,(4)多職種との協働の実践な どを卒業時の到達目標としている3)。その目標の達成 に向け,1年次から4年次までのすべての専門教育科 目において,積み上げ方式による教育に全看護学専門

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看護専門領域の講義・演習において,「生活者」を意 識した模擬事例展開や生活の場を想定しての実技演 習を取り入れることなどにより,地域完結型看護の視 点を組み入れ,段階的な授業展開を行うこと,臨地実 習においては,実習施設の指導者とも協働しながら, 地域完結型看護の視点を意識した実習指導に取り組 み,指導記録を分析・共有しながら指導事例を積み重 ねていくことなどを通して,地域完結型看護を基軸に 据えた教育的取り組みを強化してきた。  看護基礎教育において,1年次などの早い段階から 地域包括ケアを見据えた教育を取り入れることの重 要性は指摘されているが,実際に1年次から取り組む 地域完結型看護を基盤に据えた教育の成果を明らか にした報告はみられない。よって,地域完結型看護を 基軸に据えた教育の成果を明らかにすることは,地域 包括ケア時代の看護基礎教育を検討する上での貴重 な資料となり得ると考える。そのため,我々はまず, 本教育の開始年度および4年後の在籍学生を対象に, 地域完結型看護の理解度と実践度に関する学生の自 己評価を調査した5)。結果,開始年度の A 大学の4 年生および4年間本教育を受けた4年生の卒業時点 での自己評価の比較では,理解度・実践度ともに,4 年後の学生が有意に高かった5)。さらに,本教育に暴 露されていない他大学の学生との比較により,A 大 学の教育成果をより明確に把握する必要があると考 え,縦断的調査と大学間評価を行った。本研究の目的 は,看護基礎教育において地域完結型看護を基軸に据 えた教育的取り組みを強化した A 大学の学生と,同 一県内にあり本取り組みの強化はしていない B 大学・ C 大学の学生を対象とした調査を基に,地域完結型看 護の理解と実践についての学生の自己評価を大学間 で比較検討することで,A 大学における4年間の教 育成果と今後の看護基礎教育の課題を明らかにする ことである。 Ⅱ 対象と方法 1.調査対象  A 大学,B 大学, および C 大学に 2015 年度に入学 した看護学生計 252 名を対象とした。比較対象とし て,A 大学と同一県内に所在する医療系大学を,私 立大学から一校(B 大学),公立大学から一校(C 大学) 選択した。 2.調査方法  無記名の質問票による留め置き法とした。対象学生 および卒業時の 2018 年 10 ~ 11 月(在籍数計 230 名) の2時点で,縦断的に調査を行った。調査内容のうち 「理解」については1年次および4年次に,「実践」に ついては4年次に調査した。 3.調査内容 1)地域での暮らしを見据えた看護に関する「理解」  調査内容は,看護の対象者を「患者」ではなく「生 活者」としてとらえることができる,医療機関等の施 設に入院・入所している対象者の退院・退所後の「生 活」を考慮した看護の特徴が理解できる,外来受診者 の「生活」を考慮した看護の特徴が理解できる等から なる 15 項目で構成された(質問項目は U1~15 の番号 で示す)。回答は,できない,あまりできない,少し できる,できるの4件法であり,学生の自己評価を求 めた。 2)地域での暮らしを見据えた看護に関する「実践」  調査内容は,生活スキルを獲得することができる, 医療機関等の施設に入院・入所している対象者の退 院・退所後の「生活」を考慮した看護が実践できる, 外来に訪れた対象者の「生活」を考慮した看護が実践 できる等からなる 12 項目で構成された(質問項目は P1~12 の番号で示す)。回答は,できない,あまりで きない,少しできる,できるの4件法であり,学生の 自己評価を求めた。 4.分析方法  回答を,「できる」とそれ以外に分け,3大学間の 回答割合を比較するためにχ2検定および残差分析を 行った。χ2検定の結果有意差を認めた場合,調整済 み残差により,どの大学の「できる」の回答割合が高 い(あるいは低い)のかを確認した。また,ベース ラインの調整として,4年次の回答割合の比較の際 には,1年次に有意差のあった項目については除外し た。統計処理は IBM SPSS ver25.0 for Windows を用 い,有意水準は5% とした。 5.倫理的配慮  各大学において対象学年の学生が一同に集まる場 にて,研究対象者全員に本研究の目的と趣旨,研究へ の協力は自由意志であり,研究協力を断っても成績に 一切関係しないこと,プライバシーの保護,および 研究結果の公表について,口頭および文書にて説明 し,参加同意欄に〇を付した質問票の投函をもって同 意を得たとみなした。質問票の投函は,説明後に研究

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3 者が退室してから行ってもらい,学生の成績管理に関 係しない事務職員に回収箱の管理を依頼した。本研究 は,群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員 会の承認を得た(承認番号 2017-236)。 Ⅲ 結果  調査対象数(在籍数)1年次 252 名,4年次 230 名 に対し,有効回答は1年次 182 名(回答率 72.2%), 4年次 163 名(70.9%)であった。対象大学ごとの有 効回答数・有効回答率を表1に示した。1年次は A 大 学 75 名(92.6%),B 大 学 31 名(34.8%),C 大 学 76 名(92.7%)であり,4年次は A 大学 64 名(86.5%), B 大学 39 名(50.6%),C 大学 60 名(75.9%)であった。  なお,本論文のデータのうち,A 大学の4年次のデー タ(n=64)については,先の報告5)の 2018 年度調 査と同一のデータである。 1. 1年次の「理解」に関する「できる」の回答割合 比較(表2)  1年次の調査結果における,対象大学毎の「できる」

表1 調査回答数

在籍数 有効回答数 有効回答率 在籍数 有効回答数 有効回答率 A大学       B大学       C大学       合計       1年次 4年次 表1 調査回答数 表2 A大学,B大学,C大学の1年次の「できる」の回答割合比較 項目 人 % 人 % 人 % p 理解 できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       ▽ * できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ * できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ *** できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ * できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       C大学             A大学 B大学 A大学n=75, B・C大学n=107 U5)地域で暮らす人々の社会生活・家庭生活、地域の生活環境などに即した看護 の特徴が理解できる U10)対象者が自分らしい生活を送るための在宅療養支援および支援体制整備に ついて理解できる U1)看護の対象者を「患者」ではなく「生活者]としてとらえることができる U2)医療機関等の施設に入院・入所している対象者の退院・退所後の「生活」を   考慮した看護の特徴が理解できる U3)外来に訪れた対象者の「生活」を考慮した看護の特徴が理解できる U4)在宅療養者の「生活」を考慮した看護の特徴が理解できる U6)一人一人の暮らしや生き方を理解するように努めることができる U7)対象者が自分らしい生活を送るための情報提供について理解できる U8)対象者が自分らしい生活を送るための意思決定支援について理解できる U9)対象者が自分らしい生活を送るための退院調整・退院支援について理解できる    U11)多職種と協働する必要性を理解できる U13)在宅療養者を支援するチームを構成する職種、役割や専門性を理解できる U14)在宅療養生活支援における多職種間の連携・協働のあり方を 理解できる U15)在宅療養者の支援チームにおける看護の役割を理解できる U12)地域を基盤にした医療保健福祉のサービスやシステムを活用する必要性を 理解できる 表2 A 大学,B 大学,C 大学の 1 年次の 「できる」 の回答割合比較

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検定の結果,U6,U9,U11,U12 の4項目において, 「できる」の回答割合には大学間で有意差があったが, その他の項目には有意差は見られなかった。 2. 4年次の「理解」および「実践」に関する「できる」 の回答割合比較(表3)  4年次の調査結果における,対象大学毎の「できる」 とそれ以外の回答数および割合を表3に示した。χ 2 検定の結果,「理解」では 6 項目(1年次の調査で有 意差のあった 4 項目を除いた項目数),「実践」では 4 項目において,大学間で「できる」の回答割合に有意 差があった。  残差分析の結果,「理解」の項目では,「できる」の 回答割合は,U2)医療機関等の施設に入院・入所し ている対象者の退院・退所後の「生活」を考慮した看 護の特徴が理解できるは A 大学が有意に高く(調整 済み残差 2.8。以下同じ。),B 大学が有意に低かった (-3.2)。U3)外来に訪れた対象者の「生活」を考慮し た看護の特徴が理解できるは,A 大学が有意に高く (3.0), U5)地域で暮らす人々の社会生活・家族生活, 地域の生活環境などに即した看護の特徴が理解でき るは,A大学が有意に高く(2.5),B大学が有意に低 く(-3.2),U7)対象者が自分らしい生活を送るため の情報提供について理解できるは,B大学が有意に低 く(-2.5),U8)対象者が自分らしい生活を送るため の意思決定支援について理解できるはA大学が有意 に高く(2.5),B大学が有意に低く(-2.6),U10)対 象者が自分らしい生活を送るための在宅療養支援お よび支援体制整備について理解できるは,A大学が有 意に高かった(2.5)。  「実践」の項目では,P9)指導を受けながら,対象 者が自分らしい生活を送るための情報提供ができる (A大学 3.4,C 大学 -2.5),P10) 指導を受けながら, 対象者が自分らしい生活を送れるように意思決定支 援ができる(A 大学 3.1,C 大学 -2.1),P11) 指導を 受けながら,対象者が自分らしい生活を送るための退 院調整・退院支援を実践できる(A 大学 3.5,C 大学 -2.6),P12) 指導を受けながら,対象者が自分らしい 生活を送れるように在宅療養支援および支援体制整 備を実践できる(A 大学 2.9,C 大学 -2.6)の4項目 において,いずれもA大学が有意に高く,C大学が有 意に低かった。 1. B 大学,C 大学との比較からみた A 大学におけ る教育の成果  地域での暮らしを見据えた看護に関する「理解」と 「実践」についての自己評価を大学間で比較した。「理 解」については,1年次にも調査を行っているが,15 項目のうち4項目において,「できる」と回答した者 の割合には大学間で有意な差があった。そのため,こ れらの4項目を除外し,1年次に回答に有意差のな かった残りの 11 項目について,4年次の調査結果を 比較したところ,6項目において有意差が見られ,う ち5項目については,「できる」と回答した者の割合 は A 大学が有意に高かった。このことから,A大学 における,全看護分野において地域完結型看護の視点 を組み入れ,強化し,段階的な授業展開を行うという 1年次からの積み上げ式による地域完結型看護を基 軸に据えた教育の成果により,これら5項目に関する 学生の理解を高めることができたと推察できる。  5項目の内容をみると,医療機関等の施設に入院・ 入所している対象者の退院・退所後の「生活」を考慮 した看護の特徴が理解できる,外来に訪れた対象者の 「生活」を考慮した看護の特徴が理解できるなど,対 象者の生活を考慮した看護に関する内容であった。ま た,対象者が自分らしい生活を送るための意思決定支 援について理解できる,対象者が自分らしい生活を送 るための在宅療養支援および支援体制整備について 理解できるという,対象者の生き方やその人らしさの 理解に関する内容であった。このように,入院・入所 中の対象者,外来受診者,在宅療養者に対して,「生活」 を考慮した看護の特徴の理解について「できる」の回 答割合がB大学・C大学に比べて有意に高かったこと から,A 大学の学生は,あらゆる場における対象者 への「生活」を考慮した看護の特徴が理解できていた と考えられる。A 大学の地域完結型看護を基軸に据 えた教育では,看護の対象者を「患者」ではなく地域 の「生活者」として捉えることを重視し,「全ての人々 が適切な時に適切な場所で適切な医療やケアを受け ながら自分らしい療養生活を送れるよう看護を実践 する」ことのできる人材育成を目指すものであり3)4), この教育による成果だと考えられた。  「実践」については, 12 項目中4項目において「で きる」の割合がA大学で有意に高かった。その4項 目は,「対象者が自分らしい生活を送ることができる」 ための情報提供,意思決定支援,退院調整・退院支 援,在宅療養支援および支援体制の整備という退院支 援で必要な内容であり,今後,臨床で退院支援を実践

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5 表3 A大学,B大学,C大学の4年次の「できる」の回答割合比較 項目 人 % 人 % 人 % p 理解 できる       できない~ 少しできる       できる   ▲   ▽   ** できない~ 少しできる       できる   ▲     * できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる   ▲   ▽   ** できない~ 少しできる       できる       ** できない~ 少しできる       できる     ▽   * できない~ 少しできる       できる   ▲   ▽   * できない~ 少しできる       できる       ** できない~ 少しできる       できる   ▲     * できない~ 少しできる       できる       * できない~ 少しできる       できる       * できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       実践 できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる       できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ ** できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ ** できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ ** できない~ 少しできる       できる   ▲     ▽ ** できない~ 少しできる       χ検定 p<0.05  **p<0.01  ***p<0.001 U2)医療機関等の施設に入院・入所している対象者の退院・退所後の「生活」を   考慮した看護の特徴が理解できる  A大学n=64, B・C大学n=99 A大学 B大学 U1)看護の対象者を「患者」ではなく「生活者]としてとらえることができる  C大学 U3)外来に訪れた対象者の「生活」を考慮した看護の特徴が理解できる  U4)在宅療養者の「生活」を考慮した看護の特徴が理解できる  U5)地域で暮らす人々の社会生活・家庭生活、地域の生活環境などに即した看護 の特徴が理解できる  U6)一人一人の暮らしや生き方を理解するように努めることができる  U7)対象者が自分らしい生活を送るための情報提供について理解できる  U8)対象者が自分らしい生活を送るための意思決定支援について理解できる  U9)対象者が自分らしい生活を送るための退院調整・退院支援について理解できる  U10)対象者が自分らしい生活を送るための在宅療養支援および支援体制整備に ついて理解できる  U11)多職種と協働する必要性を理解できる  U12)地域を基盤にした医療保健福祉のサービスやシステムを活用する必要性を 理解できる  U13)在宅療養者を支援するチームを構成する職種、役割や専門性を理解できる  U14)在宅療養生活支援における多職種間の連携・協働のあり方を 理解できる  U15)在宅療養者の支援チームにおける看護の役割を理解できる  P1)生活スキルを獲得することができる  P2)医療機関等の施設に入院・入所している対象者の退院・退所後の「生活」を 考慮した看護が実践できる  P3)外来に訪れた対象者の「生活」を考慮した看護が実践できる  P4)在宅療養者の「生活」を考慮した看護が実践できる  P5)地域で暮らす人々の社会生活・家族生活、地域の生活環境などに即した 看護が実践できる  P6)一人一人の暮らしや生き方を尊重・理解した上で、個別性の高い支援を実践 できる  P7)指導を受けながら多職種との協働を実践できる  P8)指導を受けながら、地域の医療保健福祉のサービスやシステムを活用できる  残差分析:▲ 調整済み残差>1.96  ▽ 調整済み残差<-1.96  P12)指導を受けながら、対象者が自分らしい生活を送れるように在宅療養支援 および支援体制整備を実践できる  P9)指導を受けながら、対象者が自分らしい生活を送るための情報提供ができる  P10)指導を受けながら、対象者が自分らしい生活を送れるように意思決定支援が できる  P11)指導を受けながら、対象者が自分らしい生活を送るための退院調整・退院 支援を実践できる  表3 A 大学,B 大学,C 大学の4年次の 「できる」 の回答割合比較

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大学の地域完結型看護を基軸に据えた教育では,臨地 実習で,学生に対して対象者一人一人を尊重した個別 性のある支援を創造するための助言を行うなど,退院 に向けた調整・指導に関する実習指導に取り組んでお り6),退院支援に関する実践向上への教育の成果であ ると考えられた。また,この項目は対象者が自分らし い生活を送るための実践であり,「理解」で高まった 「対象者の生活を考慮した看護」の内容と共通してお り,「理解」に基づいた「実践」につながったと示唆 される。看護学の実習では,講義や演習を通して修得 した知識や技術を実際のクライエントに提供してい る7)。A 大学は1・2年次に講義・演習を中心に知 識や技術の修得を目指し,3年次から本格的な実習で 看護実践を行う。よって,本研究結果からも,1・2 年次での講義・演習での知識・技術による「理解」を 基に,3・4年次での「実践」という積み上げ式の教 育成果が出ていると考えられる。 2.地域完結型看護に対する教育の今後の課題  本研究結果より,「実践」において特に,生活ス キ ル の 獲 得 は A 大 学 26.6%,B 大 学 15.4%,C 大 学 18.3%,外来に訪れた対象者の「生活」 を考慮した看 護実践は A 大学 31.3%,B 大学 25.6%,C 大学 23.3% と, 「できる」の回答割合が低かったことから,これらに 対する教育を強化する必要がある。生活スキルとは, 「コミュニケーションスキル」「礼儀・マナースキル」 「家事・暮らしスキル」「健康管理スキル」「問題解決 スキル」の5つのスキルから構成される8)。生活スキ ルは短期間での獲得が難しいため,A 大学では学生 による生活スキルの自己評価を基に,4年間でのオフ キャンパスラーニングで達成するように教育してい る。しかし,本研究結果から,生活スキルの向上には 至っていなかったため,教育における積極的な介入を 検討する必要がある。また,外来に訪れた対象者の「生 活」を考慮した看護が実践できるに関する自己評価が 低かったが,これは外来に訪れた対象者の「生活」が 把握できていないことが考えられた。多くの看護系大 学は外来実習を行っているが,一般的に病棟実習より も時間数は少なく,見学実習が多い。一方で,外来で 1週間の実習を行い,その際,外来患者を担当するこ とで,外来看護の理解に加え,治療初期の患者からベ テランの患者まで多様な患者がいて,それぞれに多様 な課題があることを理解できている9)。よって,外来 に訪れた対象者の「生活」が理解できるためには,さ らに踏み込んだ外来実習の検討が必要だと考える。 ずに無記名式調査を行っているため,学生個々の1年 次から4年次への変化を評価することができていな い。特に,B 大学については有効回答率が 34.8% およ び 50.6% であったことから,1年次と4年次の対象者 が重なっていない可能性も否定できない。また,B 大 学,C 大学を対照群として比較を行っているが,今回 取り組んだ地域完結型看護を基軸に据えた看護教育 以外の側面での教育内容の統制はできていないため, 結果の解釈には限界があると考える。今後は学生の自 己評価に加え,実習指導者から地域完結型看護を基軸 に据えた教育を受講した実習生の評価を得ることや, 就職先のプリセプターや管理者による評価を得るな ど,総合的で縦断的な検討が必要である。 Ⅴ 結論  看護基礎教育において地域完結型看護を基軸に据 えた教育的取り組みを強化した A 大学の学生は,同 一県内にある B 大学・C 大学の学生と比較して,地 域完結型看護の理解と実践についての自己評価が高 く,A 大学における4年間の教育成果があった。今 後は,A 大学および他大学を含め,学生自身の生活 スキルの向上と外来患者の生活を理解した看護実践 に対する教育を充実させることが課題である。 文献 1) 厚 生 労 働 省. 地 域 包 括 ケ ア シ ス テ ム.https://www. mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/ kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/(2020 年 3 月 22 日検索) 2)公益社団法人日本看護協会.2015.2025 年に向けた看 護の挑戦 看護の将来ビジョン~いのち・暮らし・尊厳 をまもり支える看護~. http://www.nurse.or.jp/home/ about/vision/pdf/vision-4C.pdf (2020 年3月 22 日検索) 3)神田清子,堀越政孝,佐藤由美他.地域包括ケアに根 差した在宅ケアマインドを育てる看護教育.看護展望  2016;41(10):25-30. 4)神田清子 , 牛久保美津子 , 堀越政孝他 . 在宅ケアマイン ドを育てる看護基礎教育―課題解決型高度医療人材育成 プログラム事業「群馬一丸で育てる地域完結型看護リー ダー」. 群馬保健学紀要 2017;37:121-126. 5)恩幣宏美,金泉志保美,京田亜由美他.地域完結型 看護を基軸に据えた看護基礎教育の実施前後における 学 生 の 理 解 度 と 実 践 度 の 評 価.THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL 2020;70(1):13-20. 6)國清恭子,金泉志保美,辻村弘美他.第Ⅳ章地域完結 型看護の実習指導モデルの提示 2.実習指導モデル. 牛久保美津子,編.地域完結型看護をめざした看護教育  地域包括ケア時代の実習指導.東京:メヂカルフレンド 社,2019:132-160.

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7 7)舟島なをみ.看護学教育における授業展開 質の高 い講義・演習・実習の実現に向けて.東京:医学書院, 2013:173-174. 8)恩幣宏美,神田清子.第Ⅱ章地域完結型看護をベース にした看護教育への転換 2.1年次から養成する在宅 ケアマインド教育の実際.牛久保美津子,編.地域完結 型看護をめざした看護教育 地域包括ケア時代の実習指 導.東京:メヂカルフレンド社,2019;25-26. 9)飯岡由紀子,高田幸江.病棟実習と外来実習を組み合 わせた臨地実習成人看護学実習(慢性期)の構築.聖路 加看護大学紀要 2014;40:112-117.

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centered on community-based integrated nursing: Comparison

of self-evaluation among 1

st

- and 4

th

-year students between

universities

Shiomi Kanaizumi

1)

, Ayumi Kyota

1)

, Hiromi Onbe

1)

Kazuya Sakairi

2)

, Mitsuko Ushikubo

1)

Abstract: This study aimed to evaluate the outcome of undergraduate nursing education centered on community-based integrated nursing by comparing the level of understanding and practice of community-based integrated nursing between students with (University A) and without (Universities B and C) reinforcement of such educational initiatives, and to discuss future challenges facing undergraduate nursing education. A self-administered four-point evaluation survey was conducted on students newly enrolled in Universities A, B, and C in 2015. A survey consisting of 15 items on “understanding” was implemented at the end of the 1st and 4th year, and a survey consisting of 12 items on “practice” was implemented at the end of the 4th year. Data were analyzed using the chi-square test, as well as residual analysis. Regarding “understanding,” of the 11 items with no significant differences among 1st-year students, the proportion of 4th-year students who responded that they were competent was significantly higher in University A in six items. Regarding “practice”, the proportion of 4th-year students who responded that they were competent was significantly higher in University A in four items. Self-evaluation of “life skills” and “outpatient nursing” was low for all respondents. The results suggest a beneficial outcome of education centered on community-based integrated nursing. An improved curriculum designed to foster life skills and outpatient nursing practice will be required in the future.

Key words: community-based integrated nursing, undergraduate nursing education, understanding, practice, self-evaluation

1) Gunma University Graduate School of Health Sciences 2) Former Gunma University Graduate School of Health Sciences

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