【 論
文 】
長寿命製品の製品種の変化に伴う廃製品の廃棄挙動に関する検討
―― 地上デジタル化前後のテレビ製品の廃棄挙動を例として ――
髙 橋 一 彰 *,** ・ 平 井 康 宏 ** ・ 酒 井 伸 一 **
【要 旨】 デジタル放送化等の影響も踏まえ日本国内でのテレビの使用・廃棄状況の推計を的確に行う ための手法について検討すべく,使用年数の長期化の影響を考慮した解析を行った。解析はワイブル分 布を用いた使用年数分布について,製品種の区分の有無により 2 つのモデルを設定して比較検討を行っ た。その結果ブラウン管テレビと薄型テレビで使用年数分布を同一としたモデルに比べ,種類によりテ レビの使用年数分布が異なるとしたモデルが保有台数の推移の再現性が高いことがわかった。また後者 のモデルについて,ワイブル分布を用いた使用年数分布から平均使用年数 (出荷から廃棄までの平均年 数) を算出すると,ブラウン管テレビでは 12.8 年だったのに対し,薄型テレビでは 15.1 年と違いがみ られた。近年普及している薄型テレビの使用年数がブラウン管テレビより長く,テレビの使用年数の長 期化が考えられた。 キーワード:テレビ,使用年数,廃棄台数,出荷台数,ワイブル分布1.は じ め に
電気電子機器はわれわれの生活に広く用いられている 中,その使用後に発生する電気電子機器廃棄物 (e-waste) は有害性を有する材料が多く用いられているこ とに加え,その発生量が多いことから,近年廃棄物管理 の課題となっている1)。2020 年における全世界での電気 電子機器廃棄物の発生量は約 5.36 千万 ton に及び,ま た,年あたり 2 百万 ton 増加することが見込まれている。 急速な技術革新と短寿命化が多量の電気電子機器廃棄物 を発生させている要因とされる2)。 また電気電子機器廃棄物の発生量について地域別にみ ると,総量ではアジア地域が 1.60 千万 ton/年と,アメ リカ地域 (1.17 千万 ton/年) やヨーロッパ地域 (1.16 千万 ton/年) と比べ多いが,一人あたりの発生量でみ ると,アジア地域では 3.7 kg/(人・年) と,アメリカ地 域 (12.2 kg/ (人・年)) や ヨ ー ロ ッ パ 地 域 (15.6 kg/ (人・年)) と比べ三分の一以下とされる2)。一人あたり の電気電子機器廃棄物の発生量は一人あたりの GDP と 相関があり,収入が多いことが電気電子機器廃棄物につ ながるとされる3)。2030 年には,途上国における使用済 みパソコンの発生量は 4〜7 億台となり,先進国での発 生量 (2〜3 億台) の倍程度と見込まれている4)ことから も,途上国での電気電子機器廃棄物の発生が急激に増え ることが考えられる。さらに処理費用が安価であること から,先進国から途上国へ電気電子機器廃棄物の輸出も 行われている。OECD 加盟国から非 OECD 加盟国に途 上国で処理する電気電子機器廃棄物の量が年間約 500 万 ton あり,そのうち日本からの輸出量は米国に次いで多 いと試算されている5)。電気電子機器廃棄物の途上国へ の輸出は,名目上リサイクル目的や貧困者への寄付の目 的とされつつ行われた後,環境汚染を引き起こす形での 処分が行われることもある6)。地球規模にて各地でプリ ント基板やブラウン管のリサイクルが行われることで, その処理プロセス中に粉塵や排水を通じて汚染物質が環 境中に放出されているとの指摘もされている7)。 日本では,家電製品の製造業者等や小売業者に,その リサイクルに関する義務・役割を定めた特定家庭用機器 再商品化法 (平成 10 年 6 月 5 日法律第 97 号,以下「家 電リサイクル法」という) が 2001 (平成 13) 年 4 月から 施行されている。この法律は,廃家電製品に含まれる鉄 やアルミ等の資源の有用性や廃棄物最終処分場のひっ迫 原稿受付 2020. 11. 5 原稿受理 2021. 1. 4 * 環境省 ** 京都大学 環境科学センター 連絡先:〒 606-8501 京都府京都市左京区吉田本町 京都大学 環境科学センター 髙橋 一彰 E-mail : [email protected]した残余容量を踏まえ,廃棄物の減量とリサイクルを図 るもので,家庭用エアコン,テレビ,電気冷蔵庫・電気 冷凍庫,電気洗濯機・衣類乾燥機が対象とされている。 家電リサイクル法による回収率 (出荷台数に対する適正 に回収・リサイクルされた台数の割合) が低迷している ことが課題となっている8)中,日本での廃家電製品の処 理状況等を把握・予測する上ではその台数の的確な把 握・推計が必要である。家電リサイクル法の対象のうち テレビについてはデジタル放送化等の動きがあり,廃家 電製品の処理状況等の把握・予測において,この影響を どのように考慮するか検討が求められている。デジタル 放送化に伴う製品種の大幅な変更は世界中のさまざまな 国で起こるものであり,日本が経験したテレビの廃棄挙 動や寿命変化を解析しその手法の一般化に貢献すること は,インド,ブラジル,中国等,今後アナログ放送終了 を迎えると考えられる国9)での対応策の参考となりうる。 家電製品の使用・廃棄台数について,既報ではこれま で,Wang らが採用した販売台数・保有台数・製品寿命 の 3 要素を用いた推定手法 (Sales-Stock-Lifespan モデ ル) で使われる10)など,主にワイブル関数を用いた推計 に関する研究が行われてきた11-14)。さらに,電気電子機 器廃棄物の含有金属の動向について研究を行った既報も みられる15)。また,デジタル放送対応テレビの普及速度 に着目し,製品の使用・廃棄状況を推計する手法が提案 されている16,17)。一方近年,出荷台数の推計が困難と なっている状況がみられる。2009 年から 2011 年の家電 エコポイント制度や地デジ化により購入されたテレビの 買替需要により,2020 年にはテレビ販売台数が 1,000 万 台超になるとも試算されていた18)が,実際には 487 万台 (2019 年) と半分程度となっている。スマートフォンを 用いた動画の視聴との競合等によりテレビ保有台数の減 少19)や使用年数の長期化も示唆される。しかしながら, 消費動向調査におけるテレビの買い替え年数においては, デジタル放送への移行や家電エコポイント制度の影響と みられる一時的な買い替え年数の短縮があったものの, 2016 年以降は 2009 年以前と同様の水準 (9 年前後) に あり20),使用年数の長期化を端的に示す結果とはなって いない。また,他国での事例となるが,スウェーデンで 2011 年から 2013 年に収集された廃テレビ (ブラウン管 テレビ 141 台,薄型テレビ 88 台) の製造年の分布をも とに使用年数を推定した研究では,ブラウン管テレビの 使用年数の中央値が 15 年であったのに対し薄型テレビ のそれは 6 年であり,ブラウン管テレビから薄型テレビ への技術転換により製品使用年数は大幅に短くなったと している21)。廃家電製品の物質フロー分析を対象とした 近年の総説では,家電製品の使用年数は最も重要なパラ メータであり,引き続き研究が必要な分野とされてい る22)。ブラウン管テレビから薄型テレビへの変化に伴い, 製品使用年数がどのように変化したか,あるいは変化し なかったかを明らかにすることが求められる。 このような背景を踏まえ,本稿では日本国内でのテレ ビの使用・廃棄状況の推計を的確に行うための手法につ いて検討すべく,使用年数の長期化の影響を考慮した解 析を行うとともに,結果を踏まえた考察を行った。具体 的には,ブラウン管テレビと薄型テレビで使用年数分布 が同一であるモデルと,種類によりテレビの使用年数分 布が異なるモデルとを用い,モデルの再現性について検 討した。
2.研 究 方 法
2. 1 用語の定義 本論文で用いた用語の定義は以下のとおりである。 出荷:国内における対象製品の新品の出荷。輸入品を含 む。中古品の販売および国外への輸出は含まない。本研 究においては,製造から出荷までのタイムラグは無視し うるとした。 保有台数:国内における対象製品の保有台数。新品,中 古品のどちらも含む。対象製品が本来の用途で使用され ているもの,別用途に転用されているもの,使用されず 退蔵されているもの,すべてを含む。 排出台数:国内において対象製品を所有者が手放した台 数。中古品としての売却・譲渡,家電リサイクル向け回 収への排出,不用品回収業者等による回収などを含む。 廃棄台数:国内において対象製品の最終所有者が対象製 品を手放した台数。排出台数のうち国内で中古品として リユースされる台数を除いた台数。家電リサイクル施設 で処理される台数や,海外で中古品として販売される台 数を含む。 使用年数:製品が出荷されてから国内の最終所有者が廃 棄 す る ま で の 年 数。Murakami ら の 総 説23)に お け るDomestic service lifespan に相当する。
出荷年別使用年数分布:ある特定の年に出荷された 製品の使用年数の分布。Oguchi らの総説24)における
Shipment-based lifespan distribution に相当する。単に 「使用年数分布」と記載した場合は,後述の「廃棄年別 使用年数分布」ではなく「出荷年別使用年数分布」を指 す。本研究では,この分布をワイブル分布で表すことが できるとした。また,製品種類が同じであれば,出荷年 別使用年数分布は出荷年によらず同じであるとした。例 として,2008 年に出荷されたデジタル放送対応薄型テ レビと 2018 年に出荷されたデジタル放送対応薄型テレ
ビの出荷年別使用年数分布は同一であるが,2. 4 のモデ ル B では 2008 年に出荷されたデジタル放送対応薄型テ レビと 2008 年に出荷されたブラウン管型テレビの出荷 年別使用年数分布は異なる。「年別」ではなく「年度別」 としている場合は,「年」を「年度」と読み替えた定義 としている。 出荷年別平均使用年数・ワイブル分布の期待値としての 平均使用年数:出荷年別使用年数分布の期待値。単に 「平均使用年数」と記載した場合は,後述の「廃棄年別 平均使用年数」ではなく「出荷年別平均使用年数」を指 す。 廃棄年別使用年数分布:ある特定の年に廃棄された製 品の 使 用 年 数 の 分 布。Oguchi ら の 総 説24)に お け る
Discard-based lifespan distribution に相当する。この分 布には出荷年の異なる製品が含まれており,出荷台数が 一定でない場合には出荷年別使用年数分布とは一致しな い。 廃棄年別平均使用年数:廃棄年別使用年数分布の期待値。 2. 2 廃棄台数 ブラウン管テレビおよび薄型テレビ (液晶テレビ,プ ラズマテレビ) の各々について家電リサイクル法の対象 と考えられる 10 型以上を対象とし,各年度のテレビの 出荷台数 TS(統計値,1986 年度〜)25)とワイブル分 布を用いた使用年数分布から出荷年度毎の各年度の廃棄 台数 Tを算出し,各年度の廃棄台数 Tはその合計 とした。ワイブル分布の係数 m, tは,2. 3 に示す方法 で設定した。またブラウン管テレビについては,デジタ ル化および家電エコポイント制度の影響を考慮した補正 を併せて行なった。具体的には,家電エコポイント制度 が実施された 2009 年度から 2011 年度までについて,2. 3 に示す各年度の保有台数 THが世帯総数26)に世帯あ たりテレビ保有台数20)を乗じて算定したものと同値とな るよう補正係数 kを定め,式(1) により補正した。な おデジタル化および家電エコポイント制度の影響は出荷 年によって異なる可能性があり,パラメータ ky につい て出荷年により異なる設定が適当と考えられるが,その ための知見が不足していることから,本研究では出荷年 にかかわらず一律に設定した。この設定のもとでは,家 電エコポイント制度実施中に廃棄されるテレビの廃棄年 別使用年数の分布は,制度が実施されなかった場合の分 布と同じままであり,廃棄台数のみが出荷年にかかわら ず一律の割合で増加する。ただし,ky の値によっては 出荷年の古いテレビについて年間廃棄台数が期首の保有 台数を上回る場合があり,この場合の廃棄台数は期首の 保有台数に等しいとし,当該出荷年の翌年以降の保有台 数・廃棄台数ともにゼロとした。 T=∑1986T ( 2 ) TS:x 年度に出荷されたテレビ種類 e の台数 (千台) T:x 年度に出荷されたテレビ種類 e の y 年度に廃 棄される台数 (千台) T :テレビ種類 e の y 年度に廃棄される台数 (千台) m, t:ワイブル分布の形状係数および尺度係数 k :2009 年から 2011 年にかけての廃棄率増加割合 の補正係数 2. 3 保有台数 2019 年度までのテレビの種類ごとの各年度末の保有 台数 THの推定値は,下記の各年度の出荷台数 TS, 各年度の廃棄台数 Tと前年度の保有台数 THとの 関係から求めた。 TH=
TS −T, x=y TH1−T, x<y ( 3 ) TH=∑TH ( 4 ) TH=TH1+TS−T ( 5 ) TH:x 年度に出荷されたテレビ種類 e の y 年度末の 保有台数 (千台) TH :テレビ種類 e の y 年度末の保有台数 (千台) 2020 年度のテレビの世帯あたり保有台数は 2019 年度 と同じと仮定した。2020 年度の出荷台数は,式(5) よ り求めた。テレビの種類別には,新規出荷の終了してい るブラウン管テレビおよび薄型テレビ (画面比 4 : 3) は, 式(5) において TS−0 として推定した。薄型テレビ (画面比 16 : 9) については,テレビ全体とブラウン管テ レビおよび薄型テレビ (画面比 4 : 3) との差とし,出荷 台数は式(5) より求めた。 2. 4 推定モデル 製品種の区分の有無による推計への影響をみるため, T= TS
exp
−
y−xt
−exp
−
y+1−xt
, y≠2009, 2010, 2011
k×TS
exp
−
y−xt
−exp
−
y+1−xt
, y=2009, 2010, 2011 ( 1 )当該区分の有無で下記の 2 モデルを検証対象とし,2019 年度までについて出荷台数を外生変数,保有台数および 廃棄台数を内生変数として設定した。本研究におけるワ イブル分布のパラメータの推定方法は,Oguchi らの総 説24)における手法 4 (出荷台数と保有台数合計をもとに マスバランス式を用いて残存率関数を推定する手法) に 該当する。ただし,ブラウン管テレビについては 2. 2 で 述べたようにデジタル化および家電エコポイント制度の 影響を考慮した補正を組み入れた。 2.4.1 モデル A ・ワイブル分布の係数 m, tおよび補正係数 ky は,保 有台数の予測値と実測値の差の二乗和について,ブラウ ン管テレビ (2004〜2012 年度) における平均および薄 型テレビ (2004〜2019 年度) における平均を各々算出 し,この和が最小となるよう設定した。 2.4.2 モデル B ・ワイブル分布の係数 m, tおよび補正係数 ky は,ブ ラウン管テレビと薄型テレビ (プラズマテレビ・液晶テ レ ビ,画 面 比 16 : 9) に 分 け て,ブ ラ ウ ン 管 テ レ ビ (2004〜2012 年 度) に お け る 平 均 ま た は 薄 型 テ レ ビ (2004〜2019 年度) における平均が最小となるよう各々 設定した。 なお薄型テレビについては,2011 年度のアナログ放 送からデジタル放送への完全移行により,アナログ放送 対応テレビとデジタル放送対応テレビで廃棄の動向が大 きく異なると考えられることも踏まえ,デジタル放送対 応と考えられる液晶テレビ・プラズマテレビ (画面比 16 : 9) とアナログ放送対応と考えられる液晶テレビ・ プラズマテレビ (画面比 4 : 3) に分けて解析を行なった。 薄型テレビ (液晶テレビ,画面比 4 : 3) に関する係数は, ブラウン管テレビについて算出したものと同じとした。
3.結 果 と 考 察
3. 1 係数および保有台数 テレビの使用年数分布を表すワイブル分布の係数は下 記に示す値となった。なお 2. 4 に示したとおり,薄型テ レビ (液晶テレビ,画面比 4 : 3) に関する係数は,ブラ ウン管テレビについて算出したものと同じとした。 ・モデル A: m=3.8, t=14.2, k2009=1.50, k2010=3.43, k2011=4.56 ・モデル B (ブラウン管): m=3.3, t=14.3, k2009=1.53, k2010=3.39, k2011=4.07 (薄型 (画面比 16 : 9)):m=2.6, t=17.0 得られた係数と出荷台数を用いて算定した本論文の保 有台数のモデル推計値と,世帯数および世帯あたり保有 台数を用いて算定した実測値の推移を比較した (図 1)。 この結果,モデル A およびモデル B とも,おおむね再 現性の高いものとして構築することができた。ただし 2017 年度以降の薄型テレビについては,モデル A の実 測値との乖離率 ((推計値−実測値)÷実測値) が年々拡 大する (2017 年度:−1.5 %,2018 年度:−5.3 %,2019 年度:−7.6 %,2020 年度:−7.6 %) とともに,モデル B (2017 年 度:−1.3 %,2018 年 度:−3.5 %,2019 年 度:−3.7 %,2020 年度:−3.7 %) と比較して乖離が大 きくみられた。この理由としては,出荷後約 9.5 年超の 場合はモデル B の薄型テレビよりモデル A のほうが累 積の廃棄率が高くなっており,デジタル放送化および家 電エコポイント制度により多く出荷された 2008〜2011 年度の出荷分のうち廃棄済みである台数がモデル B よ りもモデル A のほうがより多く,モデル A では保有台 数がより少なく推計されたためと考えられる。 なお,2. 3 に示した方法で 2020 年度の出荷台数を求 めた結果,モデル A は 9,106 千台,モデル B では 5,178 図 1 保有台数の推移千台となった。2019 年度の出荷台数 (4,847 千台) と比 較すると,モデル A では約 1.9 倍となり,2019 年度ま での結果とは不連続な急激な上昇を示した。 3. 2 出荷年別平均使用年数および廃棄年別平均使用年数 製品種による違いをみるため,モデル B について, ワイブル分布の期待値 (t×Γ(1+1/m)) として出荷年 別平均使用年数を算出すると,ブラウン管テレビでは 12.8 年だったのに対し,薄型テレビでは 15.1 年と違い がみられた。近年普及している薄型テレビの使用年数が ブラウン管テレビより長いことから,近年におけるテレ ビの使用年数が長期化していると考えられた。 なお消費動向調査20)では買い替え前に使用していた製 品の「使用年数」(本研究での使用年数の定義とは異な り,以前の製品を購入してから,その製品を買い替えに よって処分するまでの年数を指し,処分には中古品とし て国内リユースされる場合も含む。以後,買い替え年数 と呼ぶ) について調べているが,この結果ではその長期 化はみられていない。本モデルでは廃棄について買い替 えの有無による区別ができないので単純には比較できな いが,本研究での推計における廃棄年度別平均使用年数 の推移をみた結果 (図 2),その長期化の傾向はみられ ない。 本推計と消費動向調査を比較すると,本推計における 廃棄年度別平均使用年数は,消費動向調査での買い替え 年数に比べ全般に長い傾向にある。この理由の一つとし ては,製品のライフスパンの定義は調査・文献によって 異なることが指摘されているとおり23,24),消費動向調査 での集計対象は買い替え前に使用していた製品のみであ るのに対し,本推計ではそれ以外も含まれることがあげ られる。後者には長期間使われずに退蔵されていた製品 が前者に比べ多いと考えられ,これにより前述の傾向を 示していると予想される。 また,消費動向調査の買い替え年数は,デジタル化お よび家電エコポイント制度が完了する 2011 年度から 2012 年度,2013 年度に大きく減少し,2014 年度から 2016 年度にかけ元の水準に回復,その後横ばいとなっ ている。さらに,消費動向調査の買い替え年数は 2009 年度において,それまでよりも長くなっていることを踏 まえると,デジタル化および家電エコポイント制度に よって出荷年が古い製品の廃棄がより促されることで 2012 年度以降には古い製品が少なくなっている中,比 較的新しい製品のみが廃棄されることで買い替え年数が 減少したと考えられる。一方,本推計 (モデル B) では, 2009 年度,2010 年度には,廃棄年度別平均使用年数に 大きな変化はみられず,2011 年度,2012 年度に大きく 減少し,その後緩やかに回復すると推定された。本推計 では,いったん廃棄される製品の使用年数が減少した後 に増加に転じるという傾向を再現しており,出荷年度別 平均使用年数が長期化しつつある場合でも,短期的には 買い替え年数が以前の水準よりも長くならないケースが あることを示した。つまり,消費動向調査における買い 替え年数が地デジ化以前に比べて長期化していないこと は,ブラウン管テレビに比べ薄型テレビの出荷年別平均 使用年数が長いことと必ずしも矛盾するものではないこ とが示された。一方,本推計では,廃棄年度別使用年数 減少後の回復はやや遅く,消費動向調査の買い替え年数 は 2016 年度には以前の水準に戻っているところ,本推 計では以前の水準に戻っていない。これは,2009 年度 から 2011 年度までの廃棄台数の増加を表した式(1) に おいて,製造年の古い製品の廃棄がより促されるモデル となっているために,消費動向調査における傾向と違い 図 2 廃棄年度別平均使用年数の推移 (消費動向調査の買い替え年数との比較)
がみられたと考えられる。既に家電エコポイント制度が 実施されてから 10 年近く経過しておりデータ入手には 制約があるため,複雑なモデル化は困難であるが,実施 期間中の各年に一つのパラメータを用いた簡約なモデル 化としては,式(1) の他に,1) 製造年によらず制度実 施年における保有台数の一定比率 ky が通常の廃棄台数 に加算されるとするモデル,2) 製造年によらず通常で あれば ky 年かけて廃棄される台数が 1 年間で廃棄され るとするモデル等が考えられる。これらのモデル化の違 いによる影響の検討は今後の課題である。 また,家電リサイクル施設における使用済み家電のサ ンプル調査27)から求めた平均使用年数 (以後,サンプル 平均と呼ぶ) と,本推計の廃棄年度別平均使用年数を比 較した (図 3)。経年的な推移に着目すると,薄型テレ ビについては,本推計 (モデル B),サンプル平均とも に一貫して増加傾向にある点で一致した。なお,本推計 の廃棄年別平均使用年数はサンプル平均に比べ,短い傾 向にあり,このような傾向は Huang ら28)でも指摘され ている。その一因として,中古品として海外輸出される テレビは,廃棄される製品の中では相対的に使用年数が 短いと想定されるところ,本推計の廃棄年度別平均使用 年数にはこの中古輸出が含まれるのに対し,家電リサイ クル施設でのサンプル平均には含まれていないことが考 えられた。 ブラウン管テレビについては,サンプル平均では 2010 年以降増加傾向にあるのに対し,本推計の廃棄年 度別平均使用年数では 2011 年,2012 年にかけて減少し た後,増加傾向に転じると推定された。この傾向の違い は,前述のとおり,式(1)において,2009 年度から 2011 年度にかけて製造年が古い製品の廃棄がより促されるモ デルとなっているためと考えられた。 本推計の廃棄年度別平均使用年数は,ブラウン管テレ ビのほうが薄型テレビよりも長く,これはサンプル平均 においても同様であった。市場に出回りはじめ,出荷台 数が増加傾向にある製品においては,廃棄されたテレビ の廃棄年別使用年数分布に対して出荷台数の補正をせず にワイブル分布を当てはめる場合は,その年数が出荷台 数の補正をした場合に比べ短くなる。薄型テレビは普及 途上にあるため,出荷年別平均使用年数はブラウン管テ レビよりも長いにもかかわらず,廃棄年度別平均使用年 数やサンプル平均はブラウン管テレビよりも短くなった と解釈できる。リサイクル施設や廃棄物処理施設等へ搬 入された廃製品の製造年 (出荷年) の分布をもとに使用 年数を推定する方法は,Oguchi らの総説29)での手法 1 に該当し,当該地域における出荷年別の出荷台数も必要 となることが明記されている。しかし,既報21,30)では, 出荷や廃棄台数の変動が大きい中で,それを考慮せず普 及途上の状況での廃棄台数から使用年数分布を推定する 事例がみられるが,実態とは大きく異なる懸念がある点, 留意が必要といえる。1. で紹介したスウェーデンにお けるブラウン管テレビと薄型テレビの使用年数分布の推 定21)においては,出荷台数による補正はされておらず, 廃製品の製造から廃棄 (調査実施時期) までの年数の分 布をそのまま使用年数分布としており,推定手法を誤用 している可能性が極めて高い。この推定結果を引用して 他国でのブラウン管テレビ・薄型テレビの廃棄台数予測 をした論文15)もあり,これらの再検証が必要であろう。 3. 3 廃棄台数 2.の方法により算定したテレビの廃棄台数について, 環境省が行なった廃棄台数の推計値との比較を表 1 に示 す。モデル A および B とも,2011 年度まではおおむね 図 3 廃棄年度別平均使用年数の推移 (使用済み家電のサンプル調査との比較)
似た値となっている。一方,2012 年度以降では,モデ ル A について大きな隔たりがみられた。また,モデル B についてはブラウン管テレビの廃棄台数は環境省推計 値27)とおおむね近似しているが,薄型テレビの廃棄台数 は過大となっている。この理由として,本論文のモデル では保有台数に使用中の製品だけでなく退蔵品も含めて いるが,モデルパラメータの推定に際しては,消費動向 調査の世帯あたり保有数量をもとに保有台数の観測値を 設定していることから,本モデルが本来想定する保有台 数に比べ少ない台数に対してパラメータを推定し,製品 寿命を短く,廃棄台数を多く見積もっていることが考え られる。消費動向調査では,使用できないものは保有数 量から除かれており,また使用できるものであっても, 退蔵されている製品の場合は,当該製品を保有している ことを回答者が失念しており,これを含まない台数が回 答される可能性も考えられる。この課題の改善には,既 報31,32)にある消費者へのアンケート調査も踏まえ,保有 台数の調査に際し,使用頻度や故障の有無等についても 併せて調査することにより,世帯内に存在する対象製品 の捕捉漏れを防ぐことが有用と考えられる。また,退蔵 過程や中古品としての売買をモデル内で明示的に扱うこ とにより,消費動向調査や環境省の使用済み家電フロー 推計と比較しやすくなると考えられる。一方,環境省推 計値は,「消費者」「小売業者」「引越業者」「建設解体事 業者」「リユースショップ」に対するアンケート調査に 基づき設定した比率から全体の排出台数を推計したもの である。このような調査手法について,精度向上の限界 を示唆されている点33)も考慮が必要である。 なお 2006 年の山末らの既往論文11)では,デジタル放 送化により,2020 年には液晶テレビの廃棄台数がブラ ウン管テレビを上回ると推計されたが,実際は約 5 年早 く上回っており,より大きい影響がみられている。この 差の要因の一つとして,山末らの論文発表後に導入され た家電エコポイント制度の影響が考えられる。家電エコ ポイント制度は,デジタル放送対応テレビの購入者に対 し,商品・サービスに交換できるポイントを発行する仕 組みであり,当初は,リサイクルを行なった場合に発行 するポイントが追加されていた。既報22)ではデポジット 制度や中古品の買い取り等による経済的なインセンティ ブが廃棄行動や電気電子機器廃棄物のフローに与える影 響を今後の研究課題としてあげているが,このような政 策の影響についても,今後の廃棄物管理に係る対策を検 討,評価する上で注目される。本推定では事後的にその 効果を検証する手法を示したが,事前に評価する手法を 提示することはできておらず,今後の課題である。
4.ま と め
日本国内でのテレビの使用・廃棄の動向を的確に把握 すべく,使用年数の長期化の影響を考慮した解析を行う とともに,結果を踏まえた考察を行なった。その結果, ブラウン管テレビと薄型テレビで使用年数分布を同一と したモデル (モデル A) に比べ,種類によりテレビの 使用年数分布が異なるとしたモデル (モデル B) が,保 有台数の推移の再現性が高いことがわかった。またモデ ル B について,ワイブル分布を用いた平均使用年数 (出荷から国内最終所有者が廃棄するまでの平均年数) を算出すると,ブラウン管テレビでは 12.8 年だったの に対し,薄型テレビでは 15.1 年と違いがみられた。近 年普及している薄型テレビの使用年数がブラウン管テレ ビより長いことから,近年におけるテレビの使用年数が 長期化していると考えられた。 【謝 辞】 本論文は一つの研究結果であり,個人的な見解を 含むものである。筆者の所属する組織の見解とは関 係のないことをお断りしておく。 参 考 文 献1 ) J. D. M. Saphores, H. Nixon, O. A. Ogunseitan and A. A. Shapiro : How Much E-waste Is There in US Basements and Attics? Results from a National Survey,
表 1 廃棄台数の比較 単位:千台 2010 年度 2011 年度 2012 年度 2013 年度 2014 年度 2015 年度 2016 年度 2017 年度 2018 年度 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 薄型 ブラウン管 モデル A 推計 27,840 20,643 3,946 4,691 4,859 5,888 6,288 7,380 7,970 モデル B 推計 718 27,354 1,085 19,609 1,553 3,328 2,099 2,694 2,701 2,536 3,337 2,203 3,984 1,732 4,617 1,526 5,216 999 28,071 20,694 4,881 4,793 5,237 5,540 5,715 6,143 6,215 環境省 推計 660 21,220 810 16,000 760 3,590 1,020 2,930 1,130 2,360 1,640 3,140 2,490 1,830 2,610 1,280 3,830 1,400 21,880 16,810 4,350 3,950 3,490 4,780 4,320 3,890 5,230 注) 環境省統計において 2015 年度以降については推計方法を見直しているため,2014 年度以前の値と単純な比較はできない点に留 意が必要である
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How Specification Changes for a Long-life Product Effect the Disposal Trend :
Case Study on Televisions with Transition to Digital Broadcasting
Kazuaki Takahashi*,**, Yasuhiro Hirai** and Shin-ichi Sakai**
* Japan Ministry of the Environment
** Environment Preservation Research Center, Kyoto University
† Correspondence should be addressed to Kazuaki Takahashi :
Environment Preservation Research Center, Kyoto University (Yoshidahonmachi, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501 Japan)
Abstract
In order to understand trends surrounding the use and disposal of televisions in Japan, we have analyzed the impact of a major shift from CRT TVs to flat-screen TVs taking into consideration digitalization of TV broadcasting. Two models were compared : the lifespan distributions for CRT and flat-screen TVs were the same in the first model and lifespan distribution differed by type in the other model. Compared to the former model, results showed that the latter model better reflects recent trends with regard to units being used. In the latter model, as calculated under Weibull distribution, the average lifespans from shipment to disposal differ between CRT TVs at 12.8 years and flat-screen TVs at 15.1 years. Based on the fact that flat-screen TVs, which have become widespread in recent years, have a longer lifespan than CRT TVs, it may indicate that the overall lifespan of TVs has increased with this shift.