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日本におけるオリンピック・パラリンピック教育の普及過程に関する研究: 校長のリーダーシップに着目して

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岡田 悠佑

日本におけるオリンピック・パラリンピック教育の

普及過程に関する研究:

校長のリーダーシップに着目して

早稲田大学スポーツ科学学術院 〒359-1192  埼玉県所沢市三ヶ島2-579-15 連絡先 岡田悠佑

Faculty of Sport Sciences, Waseda University 2-579-15 Mikajima, Tokorozawa, Saitama 359-1192 Corresponding author [email protected]

Abstract: The purpose of this study was to clarify the process for the introduction and diffusion of Olympic and Paralympic Education in Japan. To achieve this goal, we analyzed the process of developing the various practices of Olympic and Paralympic Education in a school located far from Tokyo, the host city of the Olympic and Paralympic Games in 2021, from the perspective of the principal’s leadership.

The practice of Olympic and Paralympic Education in elementary school X was developed from “individual practices by specific teachers” to “various practices by all teachers”. In the process of realizing the former, principal A encountered “maintainability” as part of teacher culture and overcame this situation through care and innovative leadership. Also, in the process of realizing the latter practices, principal A conducted innovative and facilitative leadership to overcome “mutual non-interference”. Through these processes, it was considered that principal A had achieved everyone’s understanding of the idea of the “various practices of Olympic and Paralympic Education”.

These findings suggest that for the future diffusion of Olympic and Paralympic Education, it is necessary to grasp the concept step by step, to use the “association” strategy, and to select an appropriate teacher who is responsible for the diffusion process.

Key words : teacher culture, caring leadership, innovative leadership, facilitative leadership

キーワード:教員文化,配慮的リーダーシップ,変革的リーダーシップ,促進的リーダーシップ OKADA Yusuke: A study of the process for integrating “Olympic and Paralympic Education” in Japan: Focusing on the head teacher’s leadership. Japan J. Phys. Educ. Hlth. Sport Sci.

Ⅰ 緒 言 1. 東京大会に向けたオリンピック・パラリンピ ック教育の普及の理念と実現可能性 2015 年 11 月 27 日に閣議決定した「2020 年東 京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競 技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図る ための基本方針」において「…大会開催を契機に、 オリンピック・パラリンピック教育の推進による スポーツの価値や効果の再認識を通じ、国際的な 視野を持って世界の平和に向けて貢献できる人材 を育成する」(内閣,online)と示された.これに よって,第 32 回オリンピック夏季競技大会・第 16 回パラリンピック夏季競技大会(以下「東京 大会」と略す)に向けたオリンピック・パラリン ピック教育(以下「オリ・パラ教育」と略す)の 推進が決定した.さらに,2015 年 2 月から 2016 年 7 月にかけて行われた「オリンピック・パラリ ンピック教育に関する有識者会議」(以下「有識 者会議」と略す)において,オリ・パラ教育とは「オ リンピック・パラリンピックそのものについての 学び」注 1)と「オリンピック・パラリンピックを 通じた学び」注 2)という 2 つの学びで構成された 教育活動であり,以下の 3 点を目的としているこ とが示された. ①スポーツの意義や価値等に対する国民の理 原著論文

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解・関心の向上 ②障害者を含めた多くの国民の,幼少期から高 齢期までの生涯を通じたスポーツへの主体的 な参画(「する」,「見る」,「支える」,「調べる」, 「創る」)の定着・拡大 ③児童生徒をはじめとした若者に対する,これ からの社会に求められる資質・能力等の育成 (有識者会議,2016,p.4) そして,このような目的及び内容のオリ・パラ 教育の普及は,国民の東京大会への機運醸成に 留まらず,「東京大会の有形・無形のレガシーの 創出」(有識者会議,2016,p.1)に貢献する重要 な取り組みとして位置づけられ,「全国的な展開 に向けた取組を進めること」(有識者会議,2016, p.1)の必要性が示された注 3).さらに初等中等教 育段階では,「効果的かつ継続的」(有識者会議, 2016,p.12)なオリ・パラ教育を実現するために 「幅広い教科・科目にわたる学校教育活動全体」(有 識者会議,2016,p.13)で取り組むことの重要性 が示された注 4).つまり,日本における東京大会 に向けたオリ・パラ教育の普及は,全国の各種学 校で様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育 実践の実現を目指している. では,このようなオリ・パラ教育の普及の方向 性は達成可能なのであろうか.この点に関して, 国内外のオリ・パラ教育に関する先行研究は,以 下の通り,その達成が困難であることを示唆して いる.国外のオリ・パラ教育に関する先行研究で は,オリンピック教育と各国の教育課程との統合 が難しいこと(Monnin, 2012; Naul, 2008)や,開 催都市以外の地域におけるオリンピック教育の 実現にはより困難が伴うこと(Chen and Henry, 2017)が指摘されている.また,教育課程に位置 付けても継続的に行われるわけではない,という 指摘もある(Costas, 2016).このような指摘は, 国内の東京大会に向けたオリ・パラ教育に関する 先行研究においても確認できる.具体的には,東 京都周辺の地域以外ではオリ・パラ教育が積極的 に行われていないという指摘(鳥居ほか,2017) や,東京都以外の地域におけるオリ・パラ教育の 普及を目的としたスポーツ庁の推進する「オリン ピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開 事業」(以下「オリ・パラ教育事業」と略す)では, アスリートを学校に招聘して講演や実技指導を行 う体育・スポーツアウトリーチ実践が中心であり, そこには教員の負担の問題等注 5)があることが指 摘されている(宮崎,2019;岡田ほか,2018). さらに,これまで日本で開催されたオリンピック・ パラリンピック競技大会(以下「オリ・パラ大会」 と略す)の際に行われた教育的な取り組みが大会 後には行われなくなったという事実から,オリ・ パラ教育の大会後の継続性に対する危惧も指摘さ れている(Masumoto, 2012;佐野,2018).しか しながら,上述の先行研究では,断片的ではある が東京都以外の地域の学校において様々な教育活 動と関連づけたオリ・パラ教育実践が行われてい ることも指摘されている.具体的には,オリ・パ ラ教育事業に参画した学校において,オリ・パラ 大会に関する調べ学習や異校種との交流活動等が 行われたという指摘(宮崎,2019)や,「体育・ スポーツアウトリーチ」実践を行う際の実践テー マや関連づけた教科の多様化,さらには「オリン ピアン・パラリンピアンを招聘せずにオリ・パラ 教育が行われたことも特筆すべき点4 4 4 4 4 4である」(友 添ほか,2019,p.6:強調は筆者による)という 指摘がある.また,体育関係雑誌におけるオリ・ パラ教育に関する特集記事においても,東京都以 外の地域の学校で様々な教育活動と関連づけたオ リ・パラ教育実践が行われたことが報告されてい る注 6).このようにオリ・パラ教育に関する国内 外の先行研究の知見と日本におけるオリ・パラ教 育の実態にはズレがあり,このズレを埋めるため には,特に開催都市である東京都以外の地域の学 校におけるオリ・パラ教育の普及過程を明らかに することが求められる注 7) 2. 日本におけるオリンピック・パラリンピック 教育の普及過程に関する先行研究の批判的検 討 日本におけるオリ・パラ教育の普及過程に関す る先行研究としては,1998 年に長野県で開催さ

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れた第 18 回オリンピック冬季大会・第 7 回パラ リンピック冬季競技大会(以下「長野大会」と略 す)の際に,長野市内の学校を中心に行われた「一 校一国運動」を対象とした髙木(2013)がある. 「一校一国運動」は,長野大会に向けて国際教育 の推進のために長野大会に出場する選手と交流活 動を行う取り組みであり,児童の「友好を深める」, 「平和への貢献」,「異文化理解の達成」といった 長野大会開催の目的を理解することに寄与したと 評価されている(平井・真田,2001).髙木(2013) によれば,このような「一校一国運動」は,教員 の忙しさ,国際交流の困難さ,そしてオリンピッ ク開催に対する否定的な態度が原因で生じた校長 の「猛烈な反発」(髙木,2013,p.135)という問 題を,関連団体の協力と校長も含む「教師の創造 的意識」(髙木,2013,p.145)によって克服して いくことで実現していった.つまり,学校外から の要求によって実施することになったという意味 で「上位下達型の端緒の一面をもつ『一校一国運 動』が,自律的な営みとして発展してきた過程」(髙 木,2013,p.147)であった.このような髙木(2013) の指摘を踏まえると,東京大会に向けたオリ・パ ラ教育の普及過程は,様々な教育活動と関連づけ たオリ・パラ教育実践の実現に伴う教員の否定的 態度や実践方法の問題を,その担い手である「教 師の創造的意識」によって克服していく過程であ ると言い換えることが可能であろう.実際に,前 述の有識者会議でも「学校教育は,その直接の担 い手である教員によるところが大きい」(有識者 会議,2016,p.15)という認識が示されている通 り「教師の創造的意識」への期待は高く,僅少な がら実際に行われている様々な教育活動と関連づ けたオリ・パラ教育実践が「教員の創意工夫」(友 添ほか,2019,p.10)によるものである,という 指摘もある.しかし,前述の東京大会に向けたオ リ・パラ教育の普及の方向性を踏まえると,髙 木(2013)は,開催都市における交流活動という 実践の実現過程という限定的な検討に留まってお り,さらに,オリ・パラ教育の普及過程で重要な 役割を果たしたとされる「教師の創造的意識」の 内実は十分に検討していない. そこで本研究では,開催都市である東京都以外 の地域の学校におけるオリ・パラ教育の普及過程 を明らかにするうえで,様々な教育活動と関連づ けたオリ・パラ教育実践の実現過程をその担い手 となった教員の視点から詳細に検討することを課 題とする. 3. 校長のリーダーシップへの着目 次に,日本における教育政策の実現過程を検討 した先行研究の検討を通して,本研究の枠組みを 示したい(図 1). オリ・パラ教育に限らず,学校における新た な教育政策の実現は容易ではなく,その過程で は一般的に変化を抑止する動きが生じる(冨田, 2014,p.17).その要因として教育社会学におい て注目されてきたのが「教職に特有の行動(思 考・信念・感情)様式」(永井,1986,p.224)を 意味する「教員文化」である.特に,「教員世界 の閉鎖性・保守性・視野の狭さ,集団主義的共同 歩調(職場内同調圧力),相互不干渉性,権威性 などの特性」(越智・紅林,2010,p.120)が教育 政策の実現を抑止する動きとして明らかにされて きた注 8).しかし,「教員文化」を作りあげるのが 教員であれば,それを変革するのも教員である. このような認識から,1990 年代後半以降,新自 由主義改革を志向した第三の教育改革の学校への 本格的な展開を背景に「教育改革が掲げる理念を 学校関係者がさまざまな形で読み替え,現場の論 理やかれらが重視する価値観と接合しようと試み る姿」(山田,2018,p.129)も検討されるように なってきた注 9) このような教育政策の実現過程は,学校内にお いて教員が教育改革の理念を体現するようになる 第 1 段階とそのような教員の行為が他者に共有さ れて正当性を得る第 2 段階に大別できる(冨田, 2015a).そして,特に前述の通りオリ・パラ教育 の先行研究でも検討されており,本研究の対象と する第 1 段階の実現を促進する要因として,学校 組織の責任者である校長のリーダーシップの機 能が注目されてきた注 10).学校における新たな教 育政策の実現過程において,その担い手である校

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長には目標達成のためのリーダーシップが求めら れるが,それが「停滞している学校の諸活動を活 性化する事にもつながる場合もあるが,逆に学校 内に葛藤をもたらすこともまれではない」(油布, 1996,p.33).そのため,教員集団の秩序を維持 しながら新たな教育政策を実現するという目標を 達成するための校長のリーダーシップのあり方が 検討されてきた.具体的には,「校長のリーダー シップが学校改善,教師個々の行動変容,教育政 策の定着に影響を与える重要な要因である」(露 口,2001,p.21)という前提のもとで,効果的な リーダーシップの探求が行われてきた. 以上を踏まえると,開催都市である東京都以外 の地域の学校における様々な教育活動と関連づけ たオリ・パラ教育実践の実現過程を教員の視点か ら検討する際には,その担い手としての校長がオ リ・パラ教育の普及の理念とそれを「抑止する動 き」としての「教員文化」を「接合」させるため の認識や行為をリーダーシップという視点から分 析することが有効であろう注 11) 4. 目的と意義 本研究の目的は,日本における東京大会に向け たオリ・パラ教育の普及過程を明らかにすること である.そのために,東京都以外の地域の学校に おける様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教 育実践の実現過程を校長のリーダーシップという 視点から検討する. そして,このようにオリ・パラ教育の普及過 程を教員の視点から捉えた「改革の物語」(Craig, 2001)を描く本研究の取り組みは,普及過程にお いて「『現場』で何が起きているのか,何が問題 となっているのか」(諸田・金子,2009,p.540) をより詳細に解明し,日本が目指すオリ・パラ教 育の普及を実現するための具体的な促進方法の提 案につながる知見を提供しうると考えられる注12) Ⅱ 研究方法 1. 調査対象の概要 本研究では,スポーツ庁のオリ・パラ教育事業 に携わる公立 X 小学校に着目した.オリ・パラ 教育事業は,前述の通り,開催都市である東京都 以外の地域におけるオリ・パラ教育の普及を目指 して 2016 年度から始められた.全国の道府県・ 政令市の中からオリ・パラ教育事業への参画を希 望する地域をオリ・パラ教育推進地域(以下「推 進地域」と略す)に指定し,各推進地域において 教育委員会等を中心にオリ・パラ教育に積極的に 取り組む学校(以下「推進校」と略す)を指定し 事業を推進している.推進地域におけるオリ・パ ラ教育事業の 1 年間の具体的な流れは,以下の通 りである(友添ほか,2019).まず,推進地域で は,推進校の担当者に対して,事業概要や実践事 オリンピック・パラリンピック教育の普及の理念 抑止する動きとしての 教員文化 様々な教育活動と関連づけた オリンピック・パラリンピック教育実践 学校 教員

校長

リーダーシップ 教員 教員 教員 図 1 本研究の枠組み

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例,さらにはオリ・パラ教育関連の教材等の情報 提供を行う「地域セミナー」が開催される. そ して,「地域セミナー」を通してオリ・パラ教育 に関わる様々な情報を習得した推進校の担当者 は,自身の所属する学校に戻り,オリ・パラ教育 に関する計画立案及び実践に取り組む.その際, 推進校は,上述したオリ・パラ教育の 3 つの目的 をもとに設定された 5 つのテーマ注 13)から 1 つ以 上のテーマを選択し,そのテーマに即して具体的 な実践を構想及び実現する.それ以外に各推進校 におけるオリ・パラ教育の推進方法に関する規定 はなく,各推進校の裁量に任せられている.さら に,年度末には,各推進校の担当者が再び集まり, 各推進校で行ったオリ・パラ教育実践の成果や課 題について検討を行う「地域ワークショップ」が 行われる. このようなオリ・パラ教育事業における推進校 として,校長が担当者となり 2019 年度に様々な 教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践を実現 したのが公立X小学校である.公立X小学校では, 「III.スポーツを通じたインクルーシブな社会(共 生社会)の構築」と「V.スポーツに対する興味・ 関心の向上,スポーツを楽しむ心の育成」をテー マとして設定し,表 1 の通り,ボッチャやゴール ボール等のパラスポーツに関する実践やピクトグ ラムやオリンピアン・パラリンピアンのエピソー 表 1 公立 X 小学校におけるオリンピック・パラリンピック教育の実践内容 学期 月 対象 関連づけた教育活動 実践内容 1 5 6 年生 図画工作 ・デザインの学習でピクトグラムを作成(運動会で掲示) 6 全学年 特別活動 ・ボッチャクラブ創設(―3 月) 7 教員 校内研修 ・オリ・パラ教育の専門家による講義 ・オリ・パラ教育の実践事例や教材に関する情報提供 ・低・中・高学年ごとにオリ・パラ教育の実施計画を検討 1 回目インタビュー 2 10 全学年 行事(朝会) ・校長 A 氏が東京大会や図書館のオリ・パラコーナーについて紹介 特支学級 授業(体育) ・ボッチャ体験(―3 月) 5 年生 授業(道徳) ・吉田沙保里氏(レスリング)を教材として活用 教員 研修 ・業者による指導のもとボッチャ体験を実施 6 年生 授業(算数) ・サニブラウン氏(陸上)を教材として活用 11 全学年 行事(朝会) ・校長 A 氏が東京大会や図書館のオリ・パラコーナーについて紹介 6 年生 行事(修学旅行) ・東京の博物館でオリ・パラ関連の展示の見学 全学年 行事(朝会) ・A 氏による I’mPOSSIBLE やゴールボールのボールを活用したパラリンピックの価値等に関する講義 3 年生 授業(総合的な学習の時間)・パラスポーツづくりの実践(―2 月) 2 回目インタビュー 2 年生 特別活動 ( 学級活動 ) ・ボッチャのルール紹介 1, 2, 3 年生,特支学級 行事,授業 ( 体育 ) ・ボッチャ日本代表コーチによるボッチャの実技指導 1,3 年生 昼休み ・ゴールボールで交流活動(―1 月) 3 年生 授業(道徳) ・「障害のある子との玉入れ」を教材とした活用 4 年生 授業(道徳) ・佐藤真海氏(パラ陸上)及び「障害がある子との玉入れ」を教材として活用 1 年生 授業 ( 体育 ) ・ゴールボールを実施(―12 月) 12 3 回目インタビュー 3 1 3, 4, 5, 6 年生,特支学級 行事 ・車いすバスケットボール選手による講演及び実技指導 6 年生 授業(道徳) ・香西宏昭氏(車いすバスケ),オリ・パラ大会のボランティア等を教材とした活用(―2 月) 1 年生 授業(生活) ・ボッチャについての調べ学習(―2 月) 2 4 回目インタビュー

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ド等を教材とした実践が行われた注 14).つまり, 公立 X 小学校は,開催都市である東京都以外の 地域にある点,普及の担い手が校長である点,そ して様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育 実践を実現した点から,本研究の検討対象として 適切であると考えた. 2. スクール・ヒストリー分析 本研究では,様々な教育活動と関連づけたオ リ・パラ教育実践の実現過程を,その担い手であ る校長の認識や行為の分析を通して明らかにする ために,ナラティブ・アプローチを採用する.ナ ラティブ・アプローチとは,ある現象に対して 「『語り』と『物語』という視点から眺め直す方法」 (野口,2002,p.20)である.ここで言う「語り」 とは,誰かに向かって何かを語るその内容を意味 し,「物語」とはその「語り」を組み合わせてで きる一貫性のある話を意味する(野口,2002). このような「語り」から「物語」を作り上げてい くナラティブ・アプローチは,混沌とした「現実 を組織化」(野口,2002,p.23)する際に有効な 方法であり,ナラティブ・アプローチによって教 育政策の実現過程をその担い手の視点から捉え直 すことが可能となる(浅井,2019;Craig, 2001; 田中,2011). そこで本研究では,このようなナラティブ・ア プローチの 1 つとして,特に学校教育と関連した 活動を対象とする際に有効である「スクール・ヒ ストリー分析」(天笠,1995)を採用する.スク ール・ヒストリー分析とは,「個々の学校の営み を歴史的・社会的文脈の中に位置づけて,学校や 教職員が周囲の環境をいかにとらえ,意味づけて きたか,その組織や経験に関するデータを集め解 釈する」(天笠,1995,p.52)方法論である注 15) 具体的には,個々の行為とその行為に対する意味 づけに関する「語り」をデータとして収集し,調 査者と被調査者の間で一貫性のある「物語」を作 り出していく.その際,外部環境(人材)や教員 間の関係性に留意しながら,長期間にわたって時 系列でデータを収集することが求められる(天笠, 1995). 3. データ収集の手続き 本研究では,公立 X 小学校の校長 A を対象に 実施したインタビュー調査のデータを用いる.イ ンタビューの経緯は,以下の通りである.まず, 校長 A に対して,本研究の趣旨を説明したうえ で,研究への協力は自由であること,個人情報は 厳守されること等を説明して,文書による同意を 得た.インタビューでは,校長 A が学校でオリ・ パラ教育を実現するために行った行為とその行為 に対する意味づけを中心とした「語り」を求め た.具体的には,様々な教育活動と関連づけたオ リ・パラ教育実践を実現するために,「どのよう な取り組みを行ったのか」と「なぜそのような取 り組みを行ったのか」について時系列で説明を求 めた.さらに,インタビューの中で詳細に語られ なかった「語り」や曖昧な「語り」については, 再度詳細な質問を行った.この作業を繰り返して, 対象者と一貫したスクール・ヒストリーを構成し た.なお,全てのインタビューにおいて,対象者 の承諾を得た後,IC レコーダーに録音し,逐語 記録を作成した.そして,全ての逐語記録につい て,インタビュー対象者に内容及び事実関係の 承認と承諾を得た.インタビューは,公立 X 小 学校の校長室で 2019 年 7 月 24 日(11 分 41 秒), 2019 年 11 月 12 日(94 分 52 秒),2019 年 12 月 9 日(18 分 24 秒),2020 年 2 月 12 日(24 分 35 秒) の 4 回実施した. さらに,本論で詳述するが,校長 A は他の教 員に対して様々な働きかけを行いながらオリ・パ ラ教育の普及に努めていたことから,同僚教員 14 名に対しても質問紙調査を実施した.具体的 には,校長 A へのインタビュー調査で得たデー タからスクール・ヒストリーを作成した後に,各 教員が「自らの実践をどのように実現したのか」, について自由記述で回答を求めた.その際,本研 究では,校長 A の認識や行為に着目したことか ら,校長 A の働きかけとそれ以外を区別しなが ら回答を求めた.なお,これらのデータは,校長 A のスクール・ヒストリー分析の補助線として活 用した. なお,上述の手続きで収集したデータは,回顧

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調査による限定されたデータであるという特徴を 有するため,時間の経過とともに調査対象者によ る経験の意味づけが変化する点や 1 つの事例であ ることで調査対象者に特有のリーダーシップしか 導き出すことができない点が危惧される(山口, 2013).そのため本研究では,前者の経験の意味 づけの時間的な変化に関しては,オリ・パラ教育 の実践が実施された後のなるべく早い段階で複数 回のインタビューを実施することで変化を最小限 にすることに努めた.後者のサンプル数に関して は,これまで検討されてこなかった事例を詳細に 記述することで新たな仮説や分析視角を提示しう ること(ロバート,2011),スクール・ヒストリ ー分析では単一事例の検討が推奨されていること (天笠,1995),そして質的研究ではむしろサンプ ルサイズを大きくすると事例の個別性や具体性の 詳細な検討が難しくなること(大谷,2019)を踏 まえ,本研究では公立 X 小学校の単一事例のデ ータを採用した. Ⅲ 結 果 本章では,公立 X 小学校における様々な教育 活動と関連づけたオリ・パラ教育実践の実現過程 に関するスクール・ヒストリーを作成する.なお, ()内の数字は,何回目のインタビューで得られ たデータか,を示している注 16) 1. オリ・パラ教育事業への参画と「静観」 公立 X 小学校は,2018 年度からオリ・パラ教 育事業の推進校に指定されており,初年度は,3, 4 年生を対象に,ボッチャ選手によるアウトリー チ実践を行った.3,4 年生を対象にしたのは, 2020 年の東京大会の年に 5,6 年生になる学年で あることから継続的に取り組むことが可能であ る,という前校長の狙いがあった.そして,前任 校で教頭として保護者会でパラスポーツ体験を行 う等,オリ・パラ教育の面白さを十分に認識して いた校長 A は,2019 年度に公立 X 小学校に赴任 した際にオリ・パラ教育事業の推進校であること を知り,オリ・パラ教育事業の担当者に自ら立候 補してオリ・パラ教育実践の実現を担うこととな った.しかし,上述の前校長の方針が教員全体で 共有されているわけではなかった.そのため,新 しく赴任してきた校長 A が,4 月に 5 年生の担任 にオリ・パラ教育の実施を打診したところ,「も う総合はやること決まってますので,今から言わ れてもはいりません」(2)と言われてしまった. さらに,他の学年の教員にも放課後の日常的な会 話の中で声掛けをしたが「あの子たちがちゃがち ゃしててできないかも」(1)というような消極的 な返答が続き,校長 A は教員たちがオリ・パラ 教育を「やりたくないんだ」(2)と感じた.さら に,オリ・パラ教育の進め方についても「4 月の 忙しさでみなさんに聞けるような状況になかっ た」(1).このような状況で,校長 A は,教員が「や る気になるまでちょっと様子を見て」(1)おくこ とにした. 2. オリ・パラ教育の実践への「啓蒙」 しかし校長 A は,ただ教員の様子を見ていた わけではない.まず校長 A は,前述の通り,オリ・ パラ教育事業で推進校の担当者を対象に開催され た「地域セミナー」という教員研修に参加した. そこで様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教 育実践の事例等の情報を得る中で,校長 A は「あ っ,こういう風にやってみたいな」(1)と感じ, 元々自分でイメージしていた通り「打ち上げ花火 ではなくて,できることから少しずつ」(1)オ リ・パラ教育実践の実現に取り組んでいく決意を した.しかし,オリ・パラ教育に消極的な教員に 対して「すぐにトップダウンはしちゃいけない」 (1)と考えていたため,学校に戻った校長 A は, まずは地域セミナーで得た情報を元に「何かやる ときにオリ・パラを関連付けてやることが大事だ よ」(3)とオリ・パラ教育の普及の方向性を教員 全体に伝えた.さらに校長 A は,教頭や主任教 員等の教員(以下「学校運営に関わる教員」と略 す)に対して自分の考えを伝えることを試みた. 具体的には,日常的な学校運営に関する話し合い の際に,昨年度の取り組みにおいて講師の招聘を 中心的に行い「一番大変な思い」(1)をした教頭

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や,教務主任,研修主任の教員に対して,今年度 のオリ・パラ教育は「小さな労力で大きな効果を あげるカリキュラムマネジメント的」(1)なやり 方で取り組みたい,ということを伝えた. すると,教務主任の教員が図工でピクトグラム を活用したり,研修主任の教員が算数の授業で陸 上競技のオリンピアンの時速を計算する実践を 「さりげなく」(3)始めた.学校内を巡回する中 で偶然これらの実践を発見した校長 A は,様々 な方法で他の教員に知らせることを試みた.具体 的には,教員向けの校長通信,学校のホームペー ジ,保護者向けの学校だよりで,オリ・パラ教育 の推進校であることや上述の具体的な実践を好事 例として発信した.このような情報発信は,教員 は自分の実践に対して「そんなに自信があるわけ じゃない」(2)から,さらなる「理解と啓蒙」(3) が必要である,という校長 A の考えに基づいて いた.つまり,様々な媒体による情報発信を通し て,オリ・パラ教育は「何かの教材に関わること でちょっと導入にいれるとか.そういうことをや ったらいいんですよ」(3)ということを伝えるこ とで,オリ・パラ教育に取り組めていない教員に 対しては「やってることを教えてあげたことによ ってなんか私もできるかも」(3)と思ってもらい, オリ・パラ教育に取り組んだ教員には「褒められ て嬉しい」(3),「あっこんなふうなところからち ょっとずつでいいんだ」(3)と思ってもらうこと で,様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育 実践の実現を促進しようと試みたのである. 3. 「全体のもの」にするための教員研修の実施 上述の通り,多忙な中でも,教務主任や研修主 任によるオリ・パラ教育実践が実現したが,その 他の教員がオリ・パラ教育に取り組む姿勢は見ら れず「全体のものにはなっていなかった」(2). そこで校長 A は,教員との日常的な会話から多 くの教員がオリ・パラ教育に興味・関心を持てな い理由を検討した.そして,公立 X 小学校が全 教員の合意のもとで推進校になったわけではない こと及びオリ・パラ教育を「大きなもの」(1)と 捉えていることで負担感が強いことの 2 点が原因 であると捉えた.そこで,これらの課題を克服し オリ・パラ教育を「全体のものにする」(2)ため に,校内研修を実施することにした. まず,校長 A は,学校運営に関わる教員に対 してオリ・パラ教育に関する校内研修を実施した い旨を伝えた.具体的には,学校運営に関する会 議で度々オリ・パラ教育を議題にあげたうえで, 夏休みに実施予定の校内研修の内容を決める会議 においてオリ・パラ教育をテーマにしたい旨を伝 えた.このように,学校運営に関わる教員に対 して自分の意見を伝える際にも,校長 A はオリ・ パラ教育に対する「私のこの熱い想いをがんがん いくと嫌になっちゃう」(2)と考え,少しずつ時 間をかけて具体的な提案をしていった.そして, 教員研修の実施に関して学校運営に関わる教員の 同意を得た校長 A は 7 月にオリ・パラ教育をテ ーマにした校内研修を実施した.校内研修の内容 は,外部講師によるオリ・パラ教育の実践事例や 教材等の情報提供を元に,学年ごとで実施可能な オリ・パラ教育の実践の検討を行った.このよう に,校長 A は,全教員を対象にオリ・パラ教育 に関する研修を実施することで,オリ・パラ教育 の学校全体への普及に向けた具体的な一歩を踏み 出した注 17) 4. 自主的な教員研修の実施や模範となる実践の 提示 上述の通り,教員研修を通して全教員に学校全 体の課題としてオリ・パラ教育に取り組むという 意識づけを試みた校長 A は,研修直後は全教員 が「その気になってイメージをふくらました」(2) と感じていた.しかし,夏休みが明けてから教員 と話をしたり授業の様子を見たりする中で,特別 支援学級で「さりげなく」(2)ボッチャを実施し ているのを見ることはあったが,全体的にはオ リ・パラ教育を「意外とやってないぞ」(2)とい う状況であった.そして,様々な教育活動と関連 づけたオリ・パラ教育実践というオリ・パラ教育 の理念が「先生方のイメージに落ちてない」(3) と感じた校長 A は,その原因を改めて分析し,「行 事が 9 月,10 月と目白押し」(2)だから教員は「や

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りたくてもできない」(2)という結論に至った. そこで校長 A は,これまでと同様に校長通信や ホームページを使ったりしながら「ほんとに押し つけがましくないように,ちょっとずつ『最近ど うなってますか?』みたいな感じ」(2)で全体に 声掛けを続ける中で,教員主導の自主的な教員研 修の開催を促したり,朝会で自ら模範となる実践 の提示を行った. 前述の通り,校長 A は,夏休み明けにオリ・ パラ教育への取り組み状況を教員との日常的な会 話を通して確認していた.その中で,1 学期に図 工の授業でオリ・パラ教育に取り組んでいた教務 主任が,「去年ボッチャ(の選手:筆者加筆)を 呼んだんだけど該当学年ではなかったので,実際 は僕は何もやってないしボッチャって言っても僕 は指導できない」(2)と校長 A に対して発言した. この発言を校長 A は「逃さ」(2)ずに,以前か ら「誰かがなんか言ったときに出せるように」(2) 収集していたオリ・パラ教育に関連した情報の中 からボッチャの無料体験会に関するちらしを出し て「これ申し込んでいい?」(2)と投げかけた. そして,教務主任から「いいですよ」(2)と返事 があったことから,すぐに申し込みを行った.そ の際,教務主任に対しては,「日にちだけ決めて」 (2)とだけ伝えて,校長 A が日程調整を行い 2 回 目の教員研修の実施が決定した.しかし,校長 A は研修の準備や当日の運営に関しては「どうして も困ったらやろうかな」(2)と思いつつ,「私が あんまり出てくとなんかトップダウン的になっち ゃうから,わざと何にも言わなかった」(2).そ のため,「当日誰がしきる」(2)かということす ら決まらずに研修当日を迎えた.しかし,結果的 には教務主任が「機転を利かして」(2)チーム分 け等のマネジメントをその場で行い研修は順調に 進んだ.このような教員主導の教員研修の後,校 長 A は教員とのやり取りから「ボッチャの楽しさ を肌で感じ」(2)ることができたと感じた注 18) さらに校長 A は,朝会の時間に児童に向けて 自らパラリンピックについての話をすることを計 画した.元々自ら見本となる実践を教員に対して 示す必要性を感じていた校長 A は,朝会の内容 を計画する段階で「10 月と 11 月はオリ・パラで いきたい」(2)と思っていた.そして,朝会の準 備を具体的に進める中で,教務主任と 3 年生の教 員に対して朝会で自分が話をする内容について相 談した.具体的には,「自分の構想が決まった」(2) 段階で,パラ教育用教材の I’mPOSSIBLE注 19) 見せながら説明を行い意見を求めた.このような 朝会の内容の相談には,朝会の運営を実質的に行 う教務主任に「色々手伝ってもらわなきゃいけな い」(2)という意図と,3 年生の教員に対する「そ の後の道徳につなげてほしい」(2)という意図が あった.そして,このような特定の教員に対する 働きかけは,すぐに効果を発揮する.上記のよう に校長 A は教員への相談を経て朝会で話す内容 を決定し着々と準備を進めていたが,直前で児童 の表彰と生徒指導に関する内容について朝会で優 先的に話をしなければならなくなってしまった. このような事態を前に校長 A は,教頭や教務主 任にオリ・パラについての話の時間を短縮するこ とを提案した.しかし,この提案に対して教務主 任は,これまでの校長の想いを察して時間の調整 を行い,結果的に所定の時間通りにオリ・パラ教 育の実践を示すことができた. 5. 具体的な実践に関する個々の教員への助言 上述の通り,教員の興味・関心を重視しながら も,少しずつ具体的な実践の提示を行い始めた校 長 A は,さらにこれまで避けてきた個々の教員 に対する様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ 教育実践の実現につながる具体的な助言に取り組 むようになる.ここでは,校長の助言が具体的な オリ・パラ教育の実践の実現につながった事例と して,総合的な学習の時間と道徳においてパラス ポーツづくり注 20)の実践を行った 3 年生と,オリ ンピアン・パラリンピアンのエピソードを教材と した道徳の授業を行った 4 年生の教員への助言を 取り上げたい. 前述の通り,公立 X 小学校では,2018 年度に 3,4 年生を対象にボッチャ選手の講演や実技指 導が行われた.3,4 年生を対象とした背景には, 東京大会が開催される 2020 年に 5,6 年生になる

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児童を対象とすることで継続的にオリ・パラ教育 に取り組むことができる,という前校長の意図が あった.しかし,このような前校長の意図は十分 に伝わっておらず,2018 年度に 4 年生の担任を 務め,2019 年度に 3 年生の担任になった教員 B は,「総合では 3 年生がそれ(体育・スポーツア ウトリーチ実践:筆者加筆)をやるっていうふう に去年決まっている」(2)という認識を持ってい た.このような教員 B の認識を把握した校長 A は, 昨年度のような体育・スポーツアウトリーチ実践 だけを単発で行うのではなく様々な教育活動と関 連づけたオリ・パラ教育実践を実現するために助 言を行った.まず校長 A は,3 年生の日常の様子 を見ていて,「エネルギーのある」(2)学年であ ると捉えていた.そして,「1,2 学期からドッジ ボールとかをやってて」(2),児童のエネルギー がクラスの揉め事につながることも多く,それに 対して教員 B が厳しく指導していることも知っ ていた.そこで校長 A は,教員 B に対して,パ ラスポーツづくりの実践を通して全員でできるル ールづくりを体験的に学ぶことで,児童が「いろ んな不得意なところを全部がんがんいくんじゃな くて,少しその子(頻繁に揉める子:筆者加筆) のことを考えるとかっていう発想につながるんじ ゃないか」(2),だからこそ普段の生活の様子と 関連付けながら「そのままやりましょうよ」(2) と度々助言を行った.そして,具体的な教材とし て I’mPOSSIBLE を提示しながら,総合的な学習 の時間におけるパラスポーツづくりの実践が構想 されていった. 4 年生の担任の教員Cは,10 年目前後の教員 を対象とした「中堅教諭等資質向上研修」(以下 「中堅研」と略す)の対象者であり,さらに,市 内で推進している小中一貫教育の合同研修会の授 業者でもあった.そのため,校長 A と「研修を しなければならない時間がたくさん与えられてい る」(2)ことから,日常的に校長室で「話をする っていうシチュエーションがある」(2)という状 況にあった.そして,後者の研修のテーマが「道 徳」であったことから,校長 A は校長室で教員 Cと話をする中で「道徳とかオリパラはどういう 風にやろうと思っている?」(2),「例えばさ,オ リパラなんかもさ,道徳でそういう教材とかない の?」(2)と度々問いかけを行った.すると,教 員Cも研修に向けた具体的な実践を構想する中 で,日常的に目にしていた I’mPOSSIBLE を取り 上げて,「これ(「I’mPOSSIBLE」:筆者注)でや ろうと思ってます」(2)と考えるようになった. このようなやり取りを通して,合同研修会に向け た I’mPOSSIBLE を活用した「道徳」の授業にお けるオリ・パラ教育実践が構想されていった. Ⅳ 考 察 前章の通り,公立 X 小学校では,「特定の教員 による個別の実践」から「全教員による多様な実 践」へと発展しながら様々な教育活動と関連づけ たオリ・パラ教育実践が実現していった.そこで, 本章では,公立 X 小学校において様々な教育活 動と関連づけたオリ・パラ教育実践の実現を達成 した要因として,校長 A の認識や行為に着目し, それらをリーダーシップの視点から解釈する. 1. 配慮的及び変革的リーダーシップによる「意 味づけの部分的共有」 公立 X 小学校では,東京大会がある 2020 年度 まで継続的な取り組みを実現するという意図で, 前年度に 3,4 年生を対象に体育・スポーツアウ トリーチ実践を行っていた.しかし,前校長の意 図は教員に十分に伝わっておらず,2019 年度の オリ・パラ教育の推進の方向性も定まっていなか った.そのため,新しく公立 X 小学校に赴任し た校長 A が,2019 年度にオリ・パラ教育に取り 組むクラス・学年を募集しても,既に決まってい るカリキュラムを変更することに対して消極的な 姿勢を示す教員が多かった.このように,校長 A は,オリ・パラ教育という新しい取り組みを避け る教員の「保守性」と向き合うことになった. それに対して校長 A は,まず「静観」で対応し た.つまり,校長 A は,教員の「保守性」を前に, 意図的に教員に対するオリ・パラ教育への取り組 みの働きかけを回避したのである.その理由とし

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て校長 A は,教員の多忙という現状認識と教員 の関心・意欲を重視して取り組む必要性の 2 点を 挙げた.つまり,教員は「やりたいけどできな い」状況にあると判断し,オリ・パラ教育への教 員の関心・意欲が高まるのを待つことにした.こ のような校長の認識や行為は,教員を信頼しトッ プダウンで教員に指示を出す行為を避けるという 意味で配慮的リーダーシップ注 21)と捉えることが 可能である(西山ほか,2009).他方で,校長 A は,地域セミナーに参加して得た情報を元に様々 な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践の実 現に向けた「啓蒙」を始めた.具体的には,教員 全体に対しては,「何かやるときにオリ・パラを 関連付けてやることが大事だよ」というオリ・パ ラ教育の普及の方向性を示した.さらに,教頭, 教務主任,研修主任等の学校運営に関わる教員に 対しては,学校運営に関する会議の際に「小さな 労力で大きな効果をあげるカリキュラムマネジメ ント的」なやり方でオリ・パラ教育を推進してい く必要性を伝え,「学校運営に関わる教員間での 意思疎通」を試みた.このような校長 A の行為は, オリ・パラ教育の方向性を示し,その必要性につ いて教員への説明を行ったという意味で変革的リ ーダーシップと捉えることが可能である(西山ほ か,2009;吉村ほか,2014).つまり,校長 A は, オリ・パラ教育の実施に対して「保守性」を示し た教員に,配慮的リーダーシップと変革的リーダ ーシップを併用して対処したのである注 22) では,このような校長 A のリーダーシップは, どのように「特定の教員による個別の実践」の実 現に結びついたと考えられるのであろうか.ここ で重要になるのが,新たな教育政策の導入の意図 や効果を全教員が理解することを意味する「意味 づけの共有化」である.「意味づけの共有化」は, 新しい教育政策の実現過程に肯定的な影響を及ぼ す(葛上,1998;清水,2001)一方で,特にオリ・ パラ教育事業のような外生的変革の場合にはその 達成が困難である(佐古・竹崎,2011).校長 A も, 年度初めの多忙な時期に様々な教育活動と関連づ けたオリ・パラ教育実践に取り組むことを個々の 教員に理解してもらうことには無理があると考え ていた.そこで校長 A は,教員全体に対しては 情報提供に止め,学校運営について話し合う場面 でのみオリ・パラ教育の具体的な方向性について 説明を行った.つまり,学校運営に関わる教員と いう特定の教員に限定して意味づけを共有化す る,いわゆる「意味づけの部分的共有化」によっ て,教務主任と研修主任という「特定の教員によ る個別の実践」が実現したと考えられる. 2. 促進的及び変革的リーダーシップによる「意 味づけの共有化」 前述の通り,「特定の教員による個別の実践」 を実現したが,それらが他の教員に影響を及ぼ すことはなく,校長 A は教員の「相互不干渉性」 に向き合うことになった.そこで,「全教員によ る多様な実践」を実現するために,校長 A は教 員研修(校長主導・教員主導)や見本となる実践 の提示を通した情報提供(全体・個別)を行った. つまり,校長 A は,教員の「相互不干渉性」を前に, これまで意図的に回避してきた教員への積極的な 働きかけを少しずつ実行に移したのである. 具体的には,まず校長 A は,教員研修(校長 主導)を開催した.そこでは,全教員に対して 様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践 の実践例に関する情報提供(全体)を行い,公立 X 小学校の目指すオリ・パラ教育の方向性を周知 した.このような教員研修(校長主導)による情 報提供(全体)を通して全教員のオリ・パラ教育 に対する興味・関心の高まりを実感した校長 A は, 夏休み明けに教員研修(校長主導)の成果が実践 につながっていない状況を背景に,これまで消極 的だった情報提供(個別)を特定の教員に対して 積極的に行うようになる.具体的には,教員との 日常的な会話だけでなく,元々オリ・パラ教育に 取り組むことを想定していた 3 年生の教員や,中 堅研に向けて校長 A と日常的に授業について話 し合う必要性がある 4 年生の教員を対象に,様々 な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践に関 する助言を行った.また,個別のオリ・パラ教育 実践を既に実施していた教務主任を中心に教員研 修(教員主導)を実施したり,自ら見本となる実

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践を提示したり,さらにはこれらの取り組みを計 画する過程において情報提供(個別)を行った. このような校長 A の認識や行為は,教員に対し てオリ・パラ教育の方向性を示し,自ら見本とな る実践を提示し,その過程で教員への具体的な助 言を行ったという意味で変革的リーダーシップと 捉えることができる.しかし他方で,校長 A は, 教員研修(教員主導)や助言のように教員の関心・ 意欲を重視し続けた.このような校長 A の認識 や行為は,教員間のコミュニケーションを促し, 教員研修の実施を促すことで教員の学習を支援す る促進的リーダーシップと捉えることが可能であ る(吉村ほか,2014).つまり,校長 A は,教員 の「相互不干渉性」に対して,変革的リーダーシ ップと促進的リーダーシップを併用して対処した のである. では,このような校長 A のリーダーシップは, どのように「全教員による多様な実践」の実現に 結びついたのであろうか.ここで重要になるのが, 校長 A の助言における「関連づけ」と「協働性」 である.校長 A は,情報提供(個別)をする際 に 3 つの「関連づけ」を重視していた.1 つ目は, 得意教科との「関連づけ」である.校長 A は,個々 の教員との日常的な会話の中で,「先生たちの得 意・不得意」を考慮しながらオリ・パラ教育に 関する情報提供(個別)を行った.2 つ目は,ク ラスの課題との「関連づけ」である.校長 A は, 日常的に児童の様子を観察する中で,3 年生は「エ ネルギーのある」学年であると捉えており,児童 のエネルギーがスポーツ場面における揉め事につ ながる場面も確認していた.そこで校長 A は,3 年生の担任の教員 B に対して,「パラスポーツづ くり」を通してみんなが楽しめるルール作りを体 験させることで,日常的な揉め事の解決にもつな がるのではないか,と情報提供(個別)した.3 つ目は,研修課題との「関連づけ」である.校長 A は,中堅研の対象であり,小中合同研修の授業 者でもある 4 年生の担任の教員Cに対して,研修 の課題である道徳において,アスリートのエピソ ードを活用できないか,と情報提供(個別)した. このような校長 A の 3 つの「関連づけ」は「埋 め込み」(冨田,2015b,p.296)の具体的な実践 であると考えられる.ここで言う「埋め込み」と は,普及を担う教員が既存の教育政策の中に新し い教育政策と類似する代替となるものを見つけ, それを資源としながら新しい教育政策の実現を達 成しようとすることを意味し,新しい教育政策の 導入を無理なく達成するうえで重要な機能を果た す(冨田,2015b).つまり,校長 A の「関連づけ」 は,教員を取り巻く状況とオリ・パラ教育の方向 性を結び付ける「埋め込み」であり,その結果,様々 な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践の実 現という方向性の「意味づけの共有化」が図られ たと考えられる. 他方で校長 A は,教員研修(教員主導)を実 現したり,自ら見本となる実践を行うことで,当 初からの教員の関心・意欲を重視する姿勢も維持 していた.このような促進的リーダーシップに基 づく校長 A の行為は,教員の「協働性」の構築 につながり,結果的に普及の担い手の複数化につ ながったと考えられる.前述の通り,教育政策の 実現において教員文化が「抑止する動き」として 機能することは,教員が 1 人で教育政策の実現を 達成することは難しいことを意味している.特に その担い手が校長の場合,その実現を 1 人で達成 しようとすると,上意下達になり,結果的に継続 的な取り組みにならない.そこで重要な役割を果 たすのが他の教員の協力である.特に上述の学校 運営に関わる教員のようなミドルリーダーと校長 の「協働性」の構築が新しい教育政策の実現を促 進する,ということである注 23).本研究では,「特 定の教員による個別の実践」を実現した教務主任 と研修主任が,その後の教員研修(教員主導)や 校長 A による見本となる実践の実施の際に,協 力的な姿勢を示したことが確認できた.つまり, 学校運営に関わる教員間での「協働性」の構築が, 「全教員による多様な実践」の実現を容易にした ということである.そしてこのことは,複数の担 い手が機能したことを意味する.冨田(2015b) が指摘するように,普及の担い手が複数いるこ とが教育政策の実現を促進する.つまり,校長 A と学校運営に関わる教員間での「意味づけの部分

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的共有」が複数の担い手の育成につながり,その ことが「意味づけの共有化」の達成につながって いったと考えられる. Ⅴ まとめ 本研究の目的は,東京大会に向けた日本におけ るオリ・パラ教育の普及過程を明らかにすること であった.そのために,東京都以外の地域の学校 における様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ 教育実践の実現過程を校長のリーダーシップとい う視点から検討した.その結果,以下のようなオ リ・パラ教育の普及過程の一端が明らかになった. 公立 X 小学校におけるオリ・パラ教育実践は, 「特定の教員による個別の実践」から「全教員に よる多様な実践」へと展開しながら実現していっ た.「特定の教員による個別の実践」の普及過程 において,校長 A は,オリ・パラ教育に対する 教員の「保守性」に「静観」,「情報提供(全体)」,「学 校運営に関わる教員間の意思疎通」で対処した. このような校長 A の行為は,全教員に対する配 慮的リーダーシップと学校運営に関わる教員に対 する変革的リーダーシップと解釈でき,これらの リーダーシップの発揮が「意味づけの部分的共有 化」を実現し「特定の教員による個別の実践」が 実現した,と考えられた.さらに,「特定の教員 による個別の実践」から「全教員による多様な実 践」へと展開する過程において,校長 A は,教 員の「相互不干渉性」に「教員研修(校長主導・ 教員主導)」,「見本となる実践の提示」,「情報提 供(個別)」で対処した.このような校長 A の行 為は,自ら見本を提示したり,「関連づけ」に基 づく具体的な助言を行う変革的リーダーシップ と,教員研修(教員主導)による教員の興味・関 心を重視した促進的リーダーシップと解釈でき, これらのリーダーシップによって「意味づけの共 有化」が図られ「全教員による多様な実践」が実 現した,と考えられた. なお本研究の知見は,単一事例を対象にナラテ ィブ・アプローチに基づいて分析した結果である ことから,一般的な知見を提供しうるものではな い.また,校長のリーダーシップに着目したこと から,個々の教員がいかに実践を実現したのか, という点の検討は不十分である.このような本研 究の限界を認識しつつも,東京大会に向けたオ リ・パラ教育の普及が進む中で,上述の結果から, 様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践 の実現に向けて,以下の示唆を得ることが可能で あろう. 1 点目は,様々な教育活動と関連づけたオリ・ パラ教育実践の段階的な実現という前提である. 本研究で示した通り,公立 X 小学校では,「特定 の教員による個別の実践」から「全教員による多 様な実践」へと段階的に様々な教育活動と関連づ けたオリ・パラ教育実践を実現していった.この ことから,学校におけるオリ・パラ教育の普及の 担い手は「緩やか」(冨田,2015b,p.298)に様々 な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践の実 現に努めることが重要であることが示唆される. 同時に,オリ・パラ教育の普及の促進方法を考え る際にも,具体的な促進方法が「特定の教員によ る個別の実践」の実現と「全教員による多様な実 践」の実現のどちらの段階に対して効果的なのか, という点を検討していく必要がある. 2 点目は,担い手としての教員の具体的な働き かけである.校長 A は「関連づけ」を駆使して, 様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践 を実現していた.このような「関連づけ」は,既 にその重要性が指摘されているが,そこでは様々 な教科との「関連づけ」が提案されているのみで ある(宮崎,2019;岡田ほか,2018;東京都教育 委員会,online).つまり,本研究で明らかにした 教員の得意・不得意,クラスの課題,研修課題と いう 3 つの「関連づけ」は,様々な教科との「関 連づけ」を実現するための「現場の知恵」(諸田・ 金子,2009,p.531)と捉えることが可能であろ う.このようなナラティブ・アプローチだからこ そ見出すことができた知見をオリ・パラ教育の普 及の担い手となる教員が活用することで,オリ・ パラ教育の普及の達成可能性が高まると考えられ る.しかし,上述の様々な教育活動と関連づけた オリ・パラ教育実践が段階的に実現することを前

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提とすると,このような「関連づけ」は,「特定 の教員による個別の実践」から「全教員による多 様な実践」への発展段階における小学校に特有の ものである可能性がある.というのも,教員の得 意・不得意は,学級担任制の小学校ならではの「関 連づけ」である可能性が高く,研修課題との「関 連づけ」も,そもそも学校種によって研修制度が 異なるからである.そのため,より教科について の専門性を有する中学校,高等学校,特別支援学 校の教員の効果的な「関連づけ」の方法の検討が 必要となる. 3 点目は,オリ・パラ教育の普及の担い手の選 抜である.本研究では,先行研究の検討を通して, 学校組織の最高責任者である校長が普及の担い手 となる場合を検討した.そして,校長が状況に応 じて発揮したリーダーシップが,様々な教育活動 と関連づけたオリ・パラ教育実践の実現の要因と なったことを明らかにした.しかし,例えば学校 運営についての話し合いの場等で自らの考えを他 の教員に示した「変革的リーダーシップ」の発揮 が管理職以外の教員には困難であるように,学校 運営に関する様々な権限が認められている校長だ からこそ発揮できたものであると考えられる.こ のことから,校長が担い手となることが,オリ・ パラ教育の普及を達成する可能性を高めること が示唆される.実際に本研究の対象とした校長 A も,インタビューの中で度々「校長になったから できる」と述べていた.しかし,校長が普及の担 い手にならない限りオリ・パラ教育の普及が不可 能である,ということを意味するわけではない. 例えば,佐古(1999,2003)や山本ほか(2005) が指摘している通り,学校での授業や公務分掌等 の仕事を実際に行う管理職以外の教員が十分に役 割を自覚して機能しなければ教育政策は実現され ない.そのため,今後は校長以外の教員が普及の 担い手となった場合の様々な教育活動と関連づけ たオリ・パラ教育実践の実現過程の検討が必要と なる.その際,本研究では,スポーツ庁のオリ・ パラ教育事業に参画した推進校を対象としたた め,少なからず教員間でオリ・パラ教育を行うこ とに対する認識は共有されており,そのことがオ リ・パラ教育の普及を比較的容易にした可能性も ある.そのため,オリ・パラ教育に関する事業に 参画しておらず行政等からの支援も受けていない にも関わらず,様々な教育活動と関連づけたオリ・ パラ教育実践を自立的に実現している学校を対象 とした検討も必要であろう.その際,個々の教員 がそれぞれの実践を実現する際の「創造的意識」 の内実の検討も求められる.今後の課題としたい. 注 注 1)「オリンピック・パラリンピックについての学び」 とは,オリ・パラ大会の歴史や選手の体験等について の学びを意味する(有識者会議,2016,p.5).つまり, オリ・パラ大会に関連することを内容として捉える学 習である. 注 2)「オリンピック・パラリンピックを通じた学び」 とは,オリ・パラ大会に関連することについて考える ことを通したスポーツの価値等についての学びを意味 する(有識者会議,2016,p.5).つまり,オリ・パラ 大会に関連することを方法(教材)として捉える学習 である. 注 3)「継続的」という点に関しては,「学習指導要領へ の位置づけ」(有識者会議,2016,p.16)の重要性が 指摘され,実際に 2017 年から 2018 年にかけて改訂さ れた学習指導要領では,「オリンピック・パラリンピ ック」に関連する学習の充実が図られた.具体的に は,「オリンピック・パラリンピックについての学び」 に関しては,これまでの小学校社会科や中学校及び高 等学校の保健体育科における「オリンピック」に関す る記述に「パラリンピック」が加筆された(文部科学 省,2017a,2017b,2018).「オリンピック・パラリン ピックを通じた学び」に関しては,小学校体育科の「指 導計画の作成と内容の取扱い」において「オリンピッ ク・パラリンピックに関する指導として…各種の運動 を通してスポーツの意義や価値等に触れることができ るようにすること」(文部科学省,2017a,p.155)と 加筆された.さらに,新しく教科化された「特別な教 科 道徳」の教科書にスポーツ選手のエピソードが掲 載された(例えば,「みんなの道徳 6 年」(永田ほか, 2018)におけるフィギアスケートの羽生結弦選手のエ ピソード).このように,改訂学習指導要領では,様々 な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実践という理 念の実現のための制度的な整備が行われた. 注 4)有識者会議(2016)では,どのような教科・科目 等と関連づけるか,という点については言及されてい ない.

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注 5)岡田ほか(2018)は,オリ・パラ教育事業において, 特に「体育・スポーツアウトリーチ」実践を実施した 推進校の教員へのアンケート調査を通して,オリ・パ ラ教育の実施上の困難として「事務手続きの手間」と 「よい実践への準備」という教員の負担の問題や,継 続的に実施していくための課題として「よい実践への 準備」,「早期の計画立案」,「予算の確保」,「担当者の 定着」,「教員の抵抗感の払拭」の 5 点を指摘している. また,岡田ほか(2018)と同様にスポーツ庁のオリ・ パラ教育事業を対象に,実践内容,成果及び課題を検 討した宮崎(2019)は,岡田ほか(2018)が明らかに した課題に加えて「用具・施設の不足」という課題を 指摘している. 注 6)オリ・パラ教育事業以外で東京都以外の地域にお いて,様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実 践の事例に関する雑誌記事としては,櫛橋(2017), 森永(2017),徳永(2017),等がある. 注 7)英語圏のオリンピック教育に関する先行研究を整 理した Hwang(2018)は,オリ・パラ教育の課題の 1 つとして,「世界共通のオリンピックの価値やオリン ピック教育の概念が各国の文化的な多様性の中でどの ように受け取られ,どのように関連づけられているの か,ということに対する理解の不足」(Hwang,2018, p.197)を指摘しており,岡田(2020a)もオリ・パラ 教育の理念が日本の教員文化との間でどのように解釈 され,実践されているかを検討することの必要性を指 摘している. 注 8)体育・スポーツ研究で「教員文化」に言及した先 行研究としては,谷口(2014)による部活動と総合型 地域スポーツクラブの連携の阻害要因としての教員の 「変革動向からの回避志向性」(谷口,2014,p.573) の指摘がある. 注 9)国内外の教育改革に関する先行研究を整理した申 (2011)や原田(2016)は,教育改革を背景とした新 たな教育政策の実現過程を教員の視点から検討する必 要性を指摘している.教育社会学の先行研究で対象と された具体的な教育政策としては,教員評価(金子, 2003;苅谷・金子編,2010;苅谷ほか,2009),男女 平等教育(木村,2009),総合的な学習の時間(冨田, 2014),インクルーシブ教育(二羽,2015),「進学校」 制度(冨田,2015b)等がある. 注 10)1990 年代以前の校長のリーダーシップ研究では, 三隅(1984)に代表される行動論的アプローチが主で あったが,1990 年代後半から主体の認識に着目した 解釈論的アプローチが重視されるようになり,「校長 のリーダーシップの類型だけではなく,それが具体的 な場で集団成員とどのような相互作用を引き起こして いるのかをより詳細に検討することが必要」(油布, 1996,p.33)であると指摘されている. 注 11)様々な教育活動と関連づけたオリ・パラ教育実 践の実現過程において,具体的な実践を実現した教員 の「改革の物語」も重要な検討課題である.しかし, オリ・パラ教育の普及過程に関する研究が十分に行わ れていない現段階において,学校組織の最高責任者で ある校長のリーダーシップに着目することは一定の意 義を有すると考える. 注 12)Craig(2001)は,学校改革がどのように推進す るかを意味する「改革についての物語」に対して,そ の改革を教員の経験から捉える「改革の物語」を描く ことの重要性を指摘している. 注 13)オリ・パラ教育事業で設定されたオリ・パラ教 育の 5 つのテーマは,「I.スポーツ及びオリンピック, パラリンピックの意義や歴史に関する学び」,「II.マ ナーとおもてなしの心を備えたボランティアの育成」, 「III.スポーツを通じたインクルーシブな社会(共生 社会)の構築」,「IV.日本の伝統,郷土の文化や世 界の文化の理解,多様性を尊重する態度の育成」,「V. スポーツに対する興味・関心の向上,スポーツを楽し む心の育成」である(スポーツ庁,online). 注 14)公立 X 小学校における,ボッチャやゴールボー ル等のパラスポーツに関する実践や,ピクトグラムや オリンピアン・パラリンピアンのエピソード等を教材 とした図工,算数,道徳の実践は,オリ・パラ教育 の典型的な実践事例である(宮崎,2019;友添ほか, 2019). 注 15)スクール・ヒストリー分析は,より実践へ寄与 しうる知見を得ることを志向しており,体育・スポー ツ関連の先行研究で,その有効性が確認されている(清 水,2001;横山・清水,2005;林田・清水,2019). 注 16)本研究で作成したスクール・ヒストリーでは,4 回目のインタビュー調査で収集したデータは活用され ていない.というのも,4 回目のインタビュー調査で は,主にこれまでのインタビューデータを元にした振 り返りを中心に「語り」から「物語」を作る作業を行 ったからである. 注 17)教員研修(校長主導)に参加した全教員を対象 に実施したアンケート調査では,「オリ・パラ教育に ついての興味・関心の深まり」(3),「様々な教育活動 と関連づけたオリ・パラ教育実践のイメージの習得」 (8)という回答が確認できた(()内は回答者数). 注 18)教員研修(教員主導)に参加した全教員を対象 に実施したアンケート調査では,「オリ・パラ教育へ の意欲の喚起」(2),「オリ・パラ教育に対する理解の 深まり」(3)という回答が確認できた(()内は回答 者数). 注 19)「I’m POSSIBLE」は,国際パラリンピック委員 会の開発を担うアギトス財団により作成されたパラ教 育用教材であり,日本版は日本パラリンピック委員

参照

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