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司法と支援の連携 国際比較と地域での回復支援の観点から

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はじめに

本稿では、公開シンポジウム「治療的司法・ 正義の実践」において筆者が行った指定討論を もとに、日本での「治療的司法・正義」に関わる 実践、特に司法と支援の連携についての課題の 一端を提起することを試みる。検討にあたって は、⑴オーストラリアにおける司法と支援の連 携の現状との比較、⑵地域における回復支援に 関わる支援機関の課題、という2つの論点を挙 げた。以下、近年の日本における犯罪行為者に 対する司法と支援の連携による対応状況を確認 したうえで、これら2点について順に述べる。

日本における司法と支援の連携状況

日本における司法と支援の関係についてみて みると、少年司法や更生保護領域では、刑事司 法機関に所属する専門職が非行・犯罪をした者 を処遇するなかで、従前から支援的な関わりも なされてきた。具体的には、家庭裁判所調査官 による調査活動を通じた少年との教育的・福祉 的な関わり、保護観察官や保護司による保護観 察における補導援護などである。これらの支援 の実施主体は、刑事司法機関に所属する者であ り、それらが司法的機能とともに支援の機能を 果たしてきた。刑事司法機関内部における福祉 的機能の在り方を問題としたのが司法福祉の原 点であったといえる。 近年、刑事司法機関が外部の支援機関との積 極的な連携を模索することによって、上記のよ うな伝統的な司法と支援の関係は変化してきて いる。この動きの嚆矢となったのは、高齢また は障がいがあって矯正施設に収容され釈放後に 支援を必要とする者を福祉サービスやその他の 社会資源の利用へと誘導する試みであった。具 体的には、2000年代後半から更生保護施設の一 部に社会福祉専門職が配置されたのをはじめ、 刑務所等に社会福祉士・精神保健福祉士が配置 されたほか、保護観察所に担当官が置かれた。 法と心理,2018,18,1,21-28 特集 「治療的司法・正義」の実践と理論

司法と支援の連携

国際比較と地域での回復支援の観点から

水藤昌彦

(1) 本稿は、シンポジウム報告を受けて、日本における「治療的司法・正義」に関わる実践、特に司法 と支援の連携についての課題の一端を提起することを試みたものである。オーストラリアにおける 司法と支援の連携の現状との比較として、⑴更生支援と問題解決型裁判所、⑵強制的介入にあたっ ての権利擁護、⑶矯正保護の分野における障がい者政策、⑷専門領域の形成と専門職養成、⑸社会 状況との関係、について概観し、今後の実践にとって参考にできると思われる点を示した。また、 地域における回復支援に関わる支援機関の課題として、目的整理、支援機関による犯罪行為者への 支援経験の少なさと罪名によるラベリング、支援機関の権力性、利用可能な社会資源の各問題を指 摘した。今後、社会安全のための統制や監視の手段として支援機関が利用されることなく、支援者 としての役割を適切に果たしながら連携を推進していくためには、シンポジウムで提起した「治療 的司法・正義の実践が、専門職支配による新たな社会統制の仕組みとならないためには何が求めら れるのか」という点に加えて、ここに示した事項を含めた、広範な課題について更なる議論を重ね ていくことが必要である。 キーワード 治療的司法・正義、刑事司法、支援、連携、オーストラリア ⑴ 山口県立大学社会福祉学部・教授・司法福祉学

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特に各都道府県に地域生活定着支援センター (以下、定着支援センターという)が開設されたこ とは、司法と支援の連携を促進するうえで大き な影響を与えた。 定着支援センターは、都道府県による「地域 生活定着促進事業」を実施するための機関であ る。同事業では、高齢または障がいがあり、矯 正施設からの釈放後に帰住地・身元引受人がな い矯正施設被収容者が支援を受けることを希望 する場合、保護観察所による依頼にもとづいて 帰住予定地での福祉サービス利用に向けたアセ スメント・調整などを行う。また、定着支援セ ンターは、支援対象者が矯正施設から釈放され た後も、地域の医療や福祉サービス利用等の支 援を一定期間継続する(2)。何らかの支援が必要 であると思われる矯正施設からの釈放者は、高 齢者・障がい者に限定されるものではないが、 刑事政策上、高齢あるいは障がいのある受刑者 の累犯の問題が注目されたこと(3)、ならびに高 齢者と障がい者に対しては、これらの属性に対 応する福祉サービス制度が現に存在しているこ とから、支援体制の整備が進みやすかったので あろう。 2010年代に入ってからは、被疑者・被告人段 階にある人に対する介入や支援も活発化してき ている。主なものとして、弁護士と社会福祉士 等の連携による更生支援、勾留中の被疑者のう ちで起訴猶予処分による釈放が見込まれる者を 主な対象とした検察庁による介入・支援の2つ がある(4)。これら被疑者・被告人段階の取り組 みでは、対象者は高齢者や障がい者に限定され ていない。 矯正施設からの釈放時支援、被疑者・被告人 段階の支援のいずれにおいても、何らかの支援 を必要とする犯罪行為者に対して、刑事司法機 関との接触をきっかけとして社会福祉サービス やその他社会資源の利用を促そうとするメカニ ズムは共通している。 山田報告(5)において紹介された事例では、特 別支援学校への通学歴があったが、卒業後は継 続的な支援等にはつながっていなかった人が、 犯罪に当たる行為をしたことで刑事司法手続の 過程のなかで弁護人や検察官によって支援の必 要性が発見され、援助への導入が図られている。 このように、それまで見逃されてきた対人援助 上の支援ニーズが刑事司法手続を通じて顕在化 し、司法から支援へとつながる流れが形作られ てきたことは、新たな治療的司法・正義の実践 の場の登場であると評価できるだろう。 なお、中村報告(6)では、刑事司法機関と接触 した人に限らず、家族間暴力、虐待をした人に 対して、処罰を越え、支援ニーズへ対応しよう とする試みが紹介されている。これは、必ずし も刑事司法との接触を契機とはしておらず、被 疑者・被告人段階における福祉による支援との 連携に比べると、さらに広範囲な対象への治療 的司法・正義の実践だといえる。

オーストラリアにおける司法と支援の

連携の現状との比較

日本での司法と支援の連携の今後を考えるた めに、海外の状況を確認する。ここでは、オー ストラリア・ビクトリア州における現状を題材 ⑵ 定着支援センターによる支援の詳細については、森久智 江ほか「地域生活定着支援センター全国調査結果につい て」刑事立法研究会編『「司法と福祉の連携」の展開と 課題』(現代人文社、2018 年)433-477 頁。 ⑶ 2008 年に策定された『犯罪に強い社会の実現のための 行動計画 2008』では、高齢・障害のある刑務所出所者 に対して、福祉と連携して対応するという施策が初めて 登場し、2012 年から 2014 年にかけて政府が策定した各 種の犯罪対策では、高齢・障害のある累犯者の問題が常 に言及されている。 ⑷ この点についての詳細は、水藤昌彦「障害者福祉と刑事 司法の連携─障害のある犯罪行為者への地域生活支援の 国際比較─」社会保障研究 2 巻 4 号(2018 年)525 頁以 下を参照されたい。 ⑸ 山田恵太「障害のある人の刑事弁護─事例報告を中心に」 法と心理 18 巻 1 号(2018 年)3-5 頁。 ⑹ 中村正「「治療的司法・正義」の議論のために─ケアとジャ スティスの統合をとおした問題解決のための理論・実践・ 制度─」法と心理 18 巻 1 号(2018 年)6-13 頁。

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として、参考になると思われる点についての比 較を試みる。 更生支援と問題解決型裁判所 ビクトリア州においては、更生支援計画は Justice Planという名称で量刑法に規定されて いる(7)。裁判官が量刑を決定するにあたって、 被告人に知的障害があり、社会内矯正命令の言 渡しを検討している場合、裁判所は州政府の障 害サービス部局に対して被告人の再犯の防止に 資すると考えられる福祉サービスの利用計画を 提出するように命じることができる(8)。計画の 作成にあたっては、被告人および家族等の関係 者に聞き取り調査が行われ、その他の記録類も 合わせて検討したうえで、本人が犯罪行為に至 るまでの経緯、障害と犯罪行為の関係、障害福 祉をはじめとするサービスのこれまでの利用状 況などのアセスメントが行なわれる。アセスメ ントの結果は文書化され、Justice Planに添付 される。 被告人に社会内矯正命令を宣告することを裁 判 官 が 選 択 し、 な お か つ 提 出 さ れ たJustice Planの内容を適切であると認めれば、計画書の 記載事項が社会内矯正命令の遵守事項の一部と される。そして、命令の期間が終了するまでの あいだ、保護観察官が社会内矯正命令の執行状 況全般を監督し、並行して州政府障害サービス ⑺ Justice Plan についての詳細は、水藤昌彦「犯罪行為 者処遇における刑事司法と福祉の連携のあり方について の国際比較─オーストラリアとの比較において─」犯罪 社会学研究 39 号(2014 年)38 頁以下を参照。 ⑻ 被告人に知的障害があるのではないかと疑われるが、正 式な障害認定がなされていない場合には、更生支援計画 の作成に先立って裁判所は障害の有無のアセスメントを 州政府に命じる。 ⑼ NJC については、森久智江「報告 4 犯罪からの社会復 帰に必要なものを考える:オーストラリアの場合」イン クルーシブ社会研究 17 号(2017 年)51 頁以下に詳細な 現地調査報告と分析がなされている。 ⑽ 指宿 信「「治療的司法」の今とこれから─日本におけ る更生支援型刑事司法を考える─」法と心理 18 巻 1 号 (2018 年)14-20 頁。 部局の担当職員がJustice Planの実施を通じて 対象者を支援する。保護観察所と州政府障害サ ービス部局の両者は必要に応じて連絡を取り合 い、Justice Planが適切に実施されていない、 支援者との連絡が途絶えたなどの状況があれば、 保護観察官によって裁判所に遵守事項違反によ る命令取消の申立がなされる。 Justice Planは、知的障がいのある被告人に 対象が限定された、裁判後に判決の一部として 実施される司法と支援の連携である。これ以外 にも、ビクトリア州ではさまざまな属性、犯罪 種を対象者とした問題解決型裁判所が設置され ている。被告人の属性としては、先住民族の出 身者、精神保健上のニーズがある者、犯罪の種 類としては、薬物事犯、家族間暴力事犯に特化 した裁判所等が設置されてきている。これらの 裁判所では、それぞれの対象者属性や犯罪種特 性に配慮した裁判が行われているほか、刑事手 続からのダイバージョンにも積極的である。こ れに加えて、近年では「近隣司法センター」 Neighbourhood Justice Centre(NJC)とよばれ る、コミュニティにおける修復的司法実践を推 進する裁判所も運用されている(9)。これら各種 の問題解決型裁判所は、指宿報告(10)において 紹介された治療的司法・正義概念のオーストラ リアにおける実践の具体的な姿であるといえる。 山田報告では、弁護士と社会福祉士等の連携 による更生支援計画の作成、刑事裁判での証拠 としての活用の実際、およびこうした実践の判 決への影響が紹介されている。これと類似した 形態の活動は2000年代に入ってから一部の社会 福祉士、弁護士等によって実践されてきてお り(11)、この動きは徐々に全国的に広がりはじ めている(12)。これらの活動は「更生支援」と呼 ばれる場合もある。日本における更生支援計画 の作成や裁判への活用は、あくまでも弁護活動 の一部として任意に行われているものであり、 法的な根拠を持たない。そのため、更生支援計 画書が作成されるか否かは弁護人がその必要を 認識するかどうかに依拠しており、計画書が作 成されたとしても、それが裁判で証拠として採 用されるためには検察官による同意、そして何 よりも裁判官による決定が必要となる。そのた

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め、更生支援が実施されるかどうかは、まさに ケースバイケースの状況にある。 その点、更生支援が法定化されているビクト リア州においては、ある程度の一貫性をもって 支援が実施されている。ただし、ここでも裁判 所が必要を認識しなければ手続は開始されない ため、最初の段階で被告人の支援ニーズを認識 する役割を弁護人が負うのか、それとも裁判官 が負うのかという違いがあるとはいえ、支援対 象者をどのようにして発見するのかという問題 は共通して存在している。対人援助の専門家で はない法曹が、被告人の障がいや支援ニーズを どの程度まで正確に把握できるかについては疑 問の余地があり、これは今後の日本における実 践を考えるうえでも更に検討すべき課題である。 なお、Justice Planの対象は知的障がい者に限 定されているため、発達障がい、後天性脳損傷 などといったその他の障がいへの対応が十分で はないことも指摘されているが、その意味では、 日本の更生支援は自発的な活動であるがゆえに 対象者の限定がないという利点も存在する。 強制的介入にあたっての権利擁護 上記のJustice Plan、あるいは各種の問題解 決型裁判所を通じた司法と支援の連携では、前 者であれば遵守事項違反による命令の取消、後 者であれば通常の刑事司法手続に戻されるとい うかたちでの不利益処分を威嚇として、支援を 受けることへの強制性がある。そこで、対象者 の権利を擁護するための仕組が整備されている。 ここでは、Justice Planに関連するものだけ を簡単に述べると、①障害福祉サービス全般の 提供内容についての不服申立制度、②拘束的・ 強制的な支援内容についての不服申立制度の二 つがある。特に②に関連しては、拘束や強制を 伴う介入を最小限にとどめ、これらの実施状況 を監督するための専門部署が州政府障害サービ ス部局内に設置され、事業者を支援するととも に監督している。そして、①②ともに州政府障 害サービス部局内での決定に不服がある場合は、 独立した州行政審判所に対して審査申立をする ことができる。Justice Planによる支援も通常 の障害福祉サービスと同様、これらの監督や不 服申立、第三者機関による審査の対象である。 支援の内容の適切性を確保するためには、上 記の現行制度のみで足りるものではないであろ う。しかし、少なくとも独立した第三者による チェック機能を含めて、支援の適切性を確認し、 必要に応じて是正する仕組みは、その確保に向 けた検討が日本における更生支援でも求められ ているのではないか。 矯正・保護の分野における障がい者政策 矯正施設の被収容者および保護観察対象者に 障がいがある場合、どのように処遇されるべき であるかを示したDisability Frameworkという 指針が存在する。2007年、3年間にわたっての 指針が初めて策定され、その後も2010年、2013 年と3年ごとに更新され、現在は2016年から 2019年まで4年間の指針が運用されている。 最新版の内容をみると、障がいのある被収容 者や保護観察対象者には独自の複雑化した支援 ニーズが存在していることを認め、矯正・保護 制度内では障がいのない者と同等なアクセス権 の保障と権利擁護が図られなければならないと 明示している(13)。そのうえで、4つの中心原 則として、①対象者の個別ニーズに応じた処遇、 ②関係機関との連携強化、③職員による処遇能 力の向上、④多様性の保護・促進と差別禁止を ⑾ この詳細については、内田扶喜子・谷村慎介・原田和明・ 水藤昌彦『罪を犯した知的障がいのある人の弁護と支援』 (現代人文社、2011 年)、および一般社団法人東京 TS ネッ ト編・堀江まゆみ・水藤昌彦監修『更正支援計画をつく る─罪に問われた障害のある人への支援』(現代人文社, 2016 年)を参照されたい。 ⑿ 例えば、更生支援活動を目的として、東京都に一般社団 法人東京 TS ネットがある https://tokyo-ts.net/(最 終アクセス日 2018 年 2 月 1 日)ほか、山口県では一般 社団法人触法高齢者・障害者支援センターが 2016 年に 設立され、活動している。これらの他にも、社会福祉士 と弁護士が個別事案で連携したり、一部の地域生活定着 支援センターが弁護士会と連携したりしているほか、社 団法人日本社会福祉士会によるモデル推進事業なども実 施されている。社団法人日本社会福祉士会『平成 25 年 度セーフティネット支援対策等事業費補助金社会福祉推 進事業 被疑者・被告人への福祉的支援に関する弁護士・ 社会福祉士の連携モデル推進事業報告書』(2014 年)。

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掲げ、また、到達目標を示し、処遇内容、職員 教育、連携の各領域での具体的な計画を定めて いる(14) 近年の日本における司法と支援の連携は、矯 正施設、保護観察所、検察庁、弁護士といった ように、矯正施設からの釈放時支援、被疑者・ 被告人段階の支援のいずれにおいても、刑事司 法に関わる者から支援者に対して関与が依頼さ れるという形が中心であり、いわば刑事司法機 関の主導による(15)。しかし、刑事司法機関に よる対応・処遇に関連して、援助が必要である と考えられる者との関わりにあたってどのよう な原則に依拠するのかは必ずしも明確にされて はいない。再犯防止という目的は述べられるが、 障がい者への合理的配慮や権利擁護の視点から、 刑事司法機関による対応・処遇をどう考えるか という議論も今後はより必要になるだろう。 専門領域の形成と専門職養成 日本と比較すれば、オーストラリアでは司法 と支援の連携に関する制度が、ある程度まで整 備されてきている状況にある。そして、支援に 必要とされる知見を蓄積し、専門職の養成に資 するような研究や教育がなされるようになって いる。例えば、障がいのある犯罪行為者の支援 については、Forensic Disabilityという名称で 専門領域化を進める動きがある。また、大学院 において知的障がいと犯罪行為に特化した講義 科目が開設されている(16)ほか、支援の理論化 も試みられている(17)。それに加えて、法と対 人援助に関連する知識や技能を併せ持った人材 養成の必要性も認識されるようになり、最近で はソーシャルワークと法学の2つの学位を同時 に取得する課程も開設されている(18) 日本では司法と支援が交差する領域で働く専 門職の養成につながるような教育研究は、それ ほど盛んであるとはいえない。単発の研修会が 中心であり、大学等では系統立てた教育は行わ れていない。その意味で、「法と心理学会」の存 在は大変貴重であるが、今後、より広い対人援 助領域と法の連携に関する研究を進めることが 必要だろう。現に矯正施設、保護観察所、検察 庁、定着支援センターなどに勤務する対人援助 専門職が急増してきている現状を考えると、専 門職養成は急務の課題となっている。 特にソーシャルワーク領域における教育は立 ち遅れている。2009年に社会福祉士養成課程の カリキュラムが改正され、国家試験受験資格取 得のための指定科目として新たに「更生保護制 度」が加えられた。しかし、想定される教育内 容は制度紹介が中心となっており、しかも更生 保護に内容が偏重しているため、司法と支援の 連携の理論、具体的な支援方法などについて学 べるようなものになっていない。また、こうし た教育を支えるための研究も蓄積されていると は言い難い。従って、日本における研究教育の 今後の方向性を検討するにあたっては、諸外国 における状況は大いに参考になるだろう(19) 社会状況 最後に社会の状況に目を向けると、オースト ⒄ 一例として、C・マシュー・フライズ(水藤昌彦訳)「知 的障害のある犯罪行為者のための『相乗モデル』による 更生支援」生島浩編著『触法障害者の地域生活支援─そ の実践と課題』(金剛出版、2017 年)198-222 頁。 ⒅ ソーシャルワークと法学のダブルディグリー・プログラ ムは北米圏が先進しており、数多くの高等教育機関が提 供している。 ⒆ 法学領域における、支援との連携の在り方に関する教育 研究の問題もあるが、ここではその点については触れな い。

⒀ Department of Justice & Regulation(2015) Corrections Victoria Disability Framework 2016-2019. at p.3. ⒁ Ibid., pp.6-10. ⒂ すでに支援者が関わっている人が刑事司法の対象となり、 その支援者が関与を継続した場合には、支援から司法へ アプローチするという方向性もあり得る。しかし、これ らは数としては多くない。 ⒃ メルボルン大学には大学院において Introduction to Forensic Disability が 開 講 さ れ て い る。https:// handbook.unimelb.edu.au/2018/subjects/ crim90012(最終アクセス 2018 年 5 月 1 日)。

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ラリア全体では個人の安全に対する懸念の高ま りがみられ、社会秩序の維持を目的とした再犯 防止が強調されてきている。ビクトリア州でも、 近年、仮釈放者による重大再犯が発生し、仮釈 放制度全体に対する大規模な再評価が実施され た結果、運用の厳格化がみられる。また、大規 模な刑事施設の建設も続いており、人口10万人 あたりの被拘禁者率は1977年以降一貫して増加 傾向にある(20)。このように、厳罰化が進行し、 拘禁刑が多用されている一方で、司法と支援の 連携を推進する各種の制度が整備され、それを 支えるための教育研究が進められてきていると いう状況がある(21)

地域における回復支援の課題

地域における回復支援に関わっている支援機 関からみた課題として、以下の4点が指摘でき る。 第1に回復支援の目的整理の問題がある。先 述したように、近年の日本における司法と支援 の連携の特徴は、刑事司法制度の外部に存在す る福祉などの支援機関が活発に関与するように なった点にある。支援機関は、利用者や患者の 福利の向上を目的として活動している。一方、 刑事政策には、犯罪行為者本人に対する処遇だ けではなく、社会の安全を確保するという目的 が存在する。したがって、支援機関による犯罪 行為者への回復支援の目的を考えるにあたって は、支援を受ける本人の福利の向上という従来 からの目的に対して、刑事政策が求める社会防 衛の目的をどう捉えるかが問題となる。 支援を受ける本人の福利の向上と、社会防衛 という目的の違いは、関与にあたって、本人を 中心に置くのか、犯罪を中心に置くのかという 考え方の相違を生む。Table 1は、両者の違い を整理したものである。中心となる関心事が社 会であるのか、あるいは本人であるのかによっ て、問題の捉え方の基準、関与にあたっての方 法、期限設定の仕方、行動の原理、着目する点 に違いがある。 ただし、刑事司法機関は常に犯罪を中心とし た考え方をとり、支援機関は本人を中心とした 考え方のみをとるというように両者が明確に二 分されている訳ではない。犯罪行為者への「支 援」では、支援者は葛藤しながら両者のあいだ を揺れ動いている。なぜなら、支援機関も社会 のなかで活動している以上、社会が中心的な関 心事となる「犯罪を中心とした考え方」を無視す ることはできないからである。 第2に支援機関による犯罪行為者への支援経 験の少なさと罪名によるラベリングの問題があ る。司法と支援の連携が実際に行われるように なってから一定の時間が経過しているとはいえ、 犯罪行為者と関わった経験がある支援機関はま だまだ少ない。相談支援事業所を対象とした 2012年の調査では、矯正施設から釈放された人

⒇ Sentencing Advisory Council(2018)Victoriaʼs I m p r i s o n m e n t R a t e s . h t t p s : / / w w w . sentencingcouncil.vic.gov.au/statistics/ sentencing-statistics/victoria-imprisonment-rates(最終アクセス 2018 年 5 月 1 日)。  近時のオーストラリアの刑事政策について、前田忠弘 「オーストラリアにおける新しい刑事司法政策のアプ ローチ Justice Reinvestment Approach」刑事立法 研究会編『「司法と福祉の連携」の展開と課題』(現代人 文社、2018 年)326 頁以下。 Table 1. 関与にあたっての考え方の相違 犯罪を中心とした考え方 本人を中心とした考え方 中心となる関心事 社会:再犯防止による防衛 本人:支援による福利の追求・権利擁護 問題の捉え方の基準 事案主義=犯罪への対応 当事者中心主義=生活上の困難への援助 関与にあたっての方法 制裁・コントロール ニーズの充足 期限設定の仕方 有期限 無期限 行動の原理 他律的な強制 自律的な自己決定 着目する点 リスク管理への着目 長所・つよみへの着目 (筆者作成)

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への支援について新規の相談を受理した経験が あると回答したのは全体の約23%にとどまり、 新規相談に対応したことがある事業所のうち約 7割までが対応件数は1件に留まっていた(22) また、支援機関は犯罪行為者に関わることに戸 惑いを感じており、必ずしも積極的に支援しよ うとするとは限らない。先行研究によれば、支 援者は再犯の危険性を支援上の困難として強く 意識しており(23)、サービス提供にあたっての 課題として、再犯等の不安があると認識してい ることが示されている(24) このように実際に犯罪行為者に関わる機会が 少ないにもかかわらず、支援機関が再犯を強く 意識し、支援に積極的ではない場合があること の一因として、罪名によるラベリングが生じさ せる負の効果があるだろう。刑事司法機関が公 式に関与すれば、罪名が付与される。いったん 罪名が付けられると、「窃盗をした人」「放火を した人」というように罪名がその人の全部であ るかのように誤解されてしまいやすい。そうす ると犯罪行為者としての負のイメージ、危険性 が前面に押し出され、犯罪をするに至った個々 の事情のみならず、その人がそれまでどのよう な生活を送り、何を大切にして生きてきたのか といった個別性が失われ、再発の可能性の有無 に注目が集まってしまう。 第3に支援機関の権力性の問題がある。支援 対象者の多くは社会的に孤立した状態にあり、 家族や友人などの本人の権利を代弁する者がい ない。また、社会的に非難されるような行動歴 があり、一方でリスクを回避したいという支援 機関からの要求がある。これらの要因は、支援 が住居、行動や活動の制限に偏る危険性を生じ させる。支援にはそもそもパターナリズムが内 在しているという点を考えると、支援機関と支 援者には、自らの権力性を自覚し、支援という 名の下での権利侵害をいかにして回避するかを 問い続けることが求められている(25) 第4に利用可能な社会資源について、以下の 2つの問題がある。まず、①対応困難だと考え られ、従来の支援の対象外、あるいはごく限定 的にしか取り扱われてこなかった事象に対応す るための社会資源の不足である。これらに対応 する資源は徐々に出現し、広がり始めていると はいえ、数が少なく、一部地域に偏在している など、まだまだ十分と言えない。性加害行為や 放火といった重大な対人被害を生じさせるよう な行為、依存症、粗暴行為の繰り返しなどに対 して、現行の福祉や医療が何をどの程度まで行 うことが適切であり、また、可能なのかについ て更に検討する必要がある。 それに加えて、②対応の困難度はそれほどで もないが、現行の福祉制度では想定されていな いニーズに対応するための資源も不足している。 例えば、身体介護を特に必要としない元気な高 齢者が社会的に脆弱な関係性しか持ち得なかっ たとき、いったいどのような関わりが可能なの かについて、多くの定着支援センターが苦慮し ている(26)。後者の問題は、そもそも公的な仕 組みの整備というよりは、市民同士のつながり をどう作っていくのかという視点から考えるべ きではないかという議論にもつながる。  支援と権力性の問題、特にその発生の機序について、木 下大生「司法と福祉の連携による福祉の司法化のリスク ファクターとその影響に関する検討」刑事立法研究会編 『「司法と福祉の連携」の展開と課題』(現代人文社、 2018 年)115 頁以下を参照。  森久ほか・前掲注⑵ 448 頁。  大村美保・木下大生・志賀利一・相馬大祐「矯正施設を 退所した障害者の地域生活支援─相談支援事業所に対す る実態調査及び事例調査から─」国立重度知的障害者総 合施設のぞみの園紀要 6 号(2013 年)25-37 頁。  小野隆一・木下大生・水藤昌彦「福祉の支援を必要とす る矯正施設等を退所した知的障害者等の地域生活移行を 支援する職員のための研修プログラム開発に関する調査 研究(その 1)」国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 紀要 4 号(2011 年)1-14 頁。  木下大生・水藤昌彦・小野隆一・五味洋一「矯正施設を 退所した知的障害者を先駆的に受け入れた障害者支援施 設に関する実態調査⑵」国立重度知的障害者総合施設の ぞみの園紀要 5 号(2012 年)28-34 頁。

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おわりに

以上、近年の日本における犯罪行為者に対す る司法と支援の連携による対応状況を確認した うえで、オーストラリアにおける連携の現状と の比較、地域における回復支援に関わる支援機 関の課題について述べた。シンポジウムでは、 時間の関係から「治療的司法・正義の実践が、 専門職支配による新たな社会統制の仕組みとな らないためには何が求められるのか」という点 のみを提起した。これは前述した、回復支援の 目的整理、支援機関による犯罪行為者への支援 経験の少なさと罪名によるラベリング、支援機 関の権力性という問題に特に密接に関係した問 いである。この点以外にも、日本における「治 療的司法・正義」に関わる実践については、多 岐にわたる課題が存在しているのは本稿で述べ た通りである。今後、刑事司法機関による社会 安全のための統制や監視の手段として支援機関 が利用されることなく、支援者としての役割を 適切に果たしながら連携を推進していくために は、ここに挙げた事項を含めた、広範な課題に ついて更なる議論を重ねていくことが必要であ る。

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