• 検索結果がありません。

MSI検査によるユニバーサルスクリーニングが有用であったリンチ症候群の1例

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "MSI検査によるユニバーサルスクリーニングが有用であったリンチ症候群の1例"

Copied!
5
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

I. はじめに

リンチ症候群は,ミスマッチ修復(mismatch repair,以 下 MMR)遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色 体優性遺伝疾患で,患者及びその家系内に大腸癌,子宮内 膜癌をはじめ,様々な悪性腫瘍が発生する.その頻度は,大 腸癌全体の 2-5%1–4)と報告されているが,散在性大腸癌と の鑑別が困難であることや,日常診療での認知度が低いた めに,多くの症例が見逃されていると思われる. 当院では,原発性大腸癌患者のうち同意を得られた症例 に対して,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability,以下 MSI)検査をユニバーサルスクリーニング として行っている.今回われわれは,ユニバーサルスクリー ニングを契機に確定診断された,リンチ症候群症例を経験 したので報告する. なお,大腸癌に関する記載は大腸癌取扱い規約第 8 版5) に従った.

II. 症例

患者:56 歳,男性. 主訴:便潜血陽性 既往歴:特記事項なし. 家族歴:患者は 2 男 1 女の長男であった.父親は 40 歳代 で事故死しており,父方の血縁者の情報は全く得られなか った.母親,兄弟 2 名は健在で,母方の血縁者に,癌罹患 者はなく(Fig.1),アムステルダム基準Ⅱ6)と改訂ベセスダ ガイドライン7)を満たす家族歴は認められなかった. 現病歴:検診で便潜血陽性を指摘され,近医を受診した.下 部内視鏡検査にて横行結腸に亜全周性の 2 型腫瘍を認め, 生検結果は腺癌であった.当院での治療を希望され,紹介受 診した. 外来初診時現症:腹部は平坦・軟で,腫瘤は触知しなかっ た. 血液生化学検査所見:特記すべき所見なし.腫瘍マーカー (CEA,CA19-9)は基準範囲内であった. 胸腹部 PET-CT 検査所見:横行結腸右側に,原発巣と考 えられる FDG の集積(SUVmax=15.3)を伴う壁肥厚を認 めた.有意なリンパ節腫大や,明らかな遠隔転移は認めなか った. 以上より,横行結腸癌,cT3N0M0 cStageⅡの診断で,結 腸右半切除術を施行した. 摘出標本所見(Fig.2):横行結腸に 5.6×2.7cm の 2 型腫 瘍を認めた. 病理組織学的検査所見(Fig.3):一部に髄様増殖を示す低 分化腺癌を認めたものの,腫瘍の大部分は中分化管状腺癌 が占めていた(tub2>por1).pT2pN0cM0, int, INFb, ly0,

■症例報告

MSI 検査によるユニバーサルスクリーニングが

有用であったリンチ症候群の1 例

小 林 成 行

*1, 2

落 合 亮 二

*1

小 畠 誉 也

*1

金 子 景 香

*2

松 山 裕 美

*2

岡 村 弥 妃

*2

堀  伸一郎

*2, 3

寺 本 典 弘

*4

関 根 茂 樹

*5

菅 野 康 吉

*6

大 住 省 三

*2, 7 MSI(microsatellite instability)検査によるユニバーサルスクリーニングを契機に発見された,リンチ症候群の 1 例を経験したので報告する.患者は 56 歳,男性.便潜血陽性のため施行された下部内視鏡検査で横行結腸癌と診断 された.家族歴は,父親が 40 歳代で事故死しており,父方の情報が全く得られなかった.母方の血縁者に癌罹患者 は認められなかった.結腸右半切除術を施行し,病理学的検査結果は中分化管状腺癌,pT2pN0cM0 pStageⅠであ った.ユニバーサルスクリーニングとして行った MSI 検査の結果は,MSI-H(MSI-High)であった.遺伝学的検査で MSH6 に病的変異を認め,リンチ症候群と診断された.術後 5 年経過し,無再発生存中である.本症例は,アムステ ルダム基準Ⅱと改訂ベセスダガイドラインを明確に満たさなかったが,MSI 検査から確定診断につなげることができ た.ユニバーサルスクリーニングは,両基準非該当症例におけるリンチ症候群の拾い上げに有用と考えられた. キーワード:リンチ症候群,ユニバーサルスクリーニング,MSI *1 国立病院機構 四国がんセンター 消化器外科 *2 国立病院機構 四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 *3 国立病院機構 四国がんセンター 消化器内科 *4 国立病院機構 四国がんセンター 病理科 *5 国立がん研究センター中央病院 病理科 *6 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防 研究室 *7 国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科 連絡先:小林成行 〒791–0280 愛媛県松山市南梅本町甲 160 四国がんセンター消化器外科 TEL: 089–999–1111 FAX: 089–999–1121 E-mail: kobayashi,[email protected] 2018 年 8 月 1 日受付 2020 年 1 月 27 日受理 家族性腫瘍 第 19 巻 第 2 号(2019 年)p.72–76

(2)

50s

50s

50s

40௦

80s

20s

20s

Unknown Unknown Unknown Unknown

Unknown d.40s accident no cancer no cancer

1

1

1

1

2

2

2

2

3

3

3

4

4

5

Fig. 1. Family history

The patient (Ⅲ-1) had no defined family information because his farther (Ⅱ-2) died from an accident in his 40s.

Fig. 2. Resected specimen of the colon Type2 tumor was seen in the transverse colon.

a

b

Fig. 3. Histopathological findings

a. Most part of the tumor represented moderately differentiated tubular adenocarcinoma(tub2). b. The tumor partly represented poorly differentiated adenocarcinoma (por1) with medullary growth pattern.

(3)

v0, 簇出 Grade2, PN0, pStageⅠであった.

MSI 検査所見:Bethesda panel で推奨される 5 つのマー カーのうち,D2S123 を除く 4 マーカーが陽性であり, MSI-H と判定された(Fig.4). 遺伝学的検査所見:遺伝カウンセリングを行い,患者の希 望で遺伝学的検査を行った.MMR 遺伝子 4 つのダイレク ト ・シ ー ク エ ン ス 法 に て ,NM_000179.2(MSH6) :c.3516_3517delAG(p.Arg1172Serfs)のみが検出され た.このバリアントは ClinVar に登録されており,過去に 病的バリアントとして報告されているものであった. (Fig.5).免疫組織学的検査でも MSH6 タンパク質の発現 は認められず(Fig.6),リンチ症候群と確定診断された.血 縁者に対する遺伝カウンセリングは希望されなかった. StageⅠのため術後補助化学療法は行わなかった.術後 5 年経過し,無再発生存中である.

III. 考察

遺伝性大腸癌診療ガイドライン8)によれば,①アムステ ルダム基準Ⅱまたは改訂ベセスダガイドラインを満たす症

Fig.4

Fig. 4. MSI test

MSI at the loci D5S346, D17S250, BAT25, and BAT26. N:Normal tissue, T:Tumor.

Fig.5

Tumor

Normal tissue

Normal allele delAG

Normal alleles

Fig. 5. Findings of Direct sequence method

(4)

例に対して,MSI 検査または免疫組織学的検査を行う,② MSI-H または MMR タンパク質の発現がみられない症例 に対して,遺伝学的検査を行うことが推奨されている.一方 で近年欧米では,全ての大腸癌に対して,MSI 検査や免疫 組織学的検査をユニバーサルスクリーニングとして行うこ とが推奨されている9, 10)これらの取り組みにより多くのリ ンチ症候群を拾い上げることは,患者のみならず血縁者に 対しても遺伝カウンセリング,遺伝学的検査の機会を提供 することができる点で,大変意義深いと思われる. 自験例では,特記すべき家族歴が認められなかった.病理 学的には,腫瘍の一部に髄様増殖を示す低分化腺癌を認め たものの,腫瘍の大半は中分化腺癌が占めており,改訂ベ セスダガイドラインを満たすかどうかは不明確であった. ユニバーサルスクリーニングとして行った MSI 検査の結 果から,リンチ症候群の診断につなげることができたが,通 常のスクリーニングでは,父方の血縁者の家族歴が全く得 られていないことから,腫瘍の一部に髄様増殖を示す低分 化腺癌が含まれていることに着目しない限りは,見逃され ていたと思われる.ユニバーサルスクリーニングは,自験例 のようなアムステルダム基準Ⅱと改訂ベセスダガイドライ ンのいずれも明確に満たさない症例における,リンチ症候 群の拾い上げに有用と考えられた. MSI-H を示す大腸癌については,StageⅡ/Ⅲの散発性 大腸癌症例で 5-FU(5-fluorouracil)単剤による術後補助 化学療法が無効である11, 12)一方で,進行・再発症例に お い て 免 疫 チ ェ ッ ク ポ イ ン ト 阻 害 薬 で あ る 抗 PD-1 (Programmed cell death 1)抗体が有効である13–15)ことが

明らかになっている.現在では大腸癌の個別化治療におい て,MSI 検査は必須の検査と考えられるようになった. 本邦における MSI 検査によるユニバーサルスクリーニ ングの問題点は,同検査の保険適応がリンチ症候群を疑う 場合あるいは免疫チェックポイント阻害薬使用を検討する ためのコンパニオン診断に限られていることである.我々 はリンチ症候群の見逃しを防ぐ目的で,アムステルダム基 準Ⅱと改訂ベセスダガイドラインに該当しない症例に対し ても,同意が得られた場合は MSI 検査を施行している.費 用対効果の側面からは議論の余地があるが,大腸癌の個別 化治療における MSI 検査の重要性も鑑みるに,近い将来に は対象症例の制限が無くなることが期待される.

IV. 結論

MSI 検査によるユニバーサルスクリーニングが有用であ った,リンチ症候群の 1 例を経験した.ユニバーサルスクリ ーニングは,アムステルダム基準Ⅱと改訂ベセスダガイド ラインを明確に満たさない症例における,リンチ症候群の 拾い上げに有用と考えられた.

g.6

MLH1

MSH2

MSH6

PMS2

HE

Fig. 6. Findings of immunohistochemistry

(5)

文 献

1)Lynch HT, de la Chapelle A: Genetic susceptibility to non-polyposis colorectal cancer. J Med Genet 1999; 36: 801–818

2)De la Chapella A: The incidence of Lynch syndrome. Fam Cancer 2005; 4: 233–237

3)Vasen HF, Blanco I, Aktan-Collan K, et al.: Revised guidelines for the clinical management of Lynch syndrome (HNPCC): recommendations by a group of European experts. Gut 2013; 62: 812– 823

4)Hampel H, Frankel WL, Martin E, et al.: Screening for the Lynch syndrome (Hereditary Nonpolyposis Colorectal Cancer). N Engl J Med 2005; 352: 1851–1860

5)大腸癌研究会:大腸癌取扱い規約第 8 版.東京:金原

出版,2013

6)Vasen HF: Clinical diagnosis and management of hereditary colorectal cancer syndromes. J Clin Oncol 2000; 18: 81S–92S

7)Umar A, Boland CR, Terdiman JP, et al: Revised Bethesda Guidelines for hereditary nonpolyposis colorectal cancer (Lynch Syndrome) and microsatellite instability. J Natl Cancer Inst 2004; 96: 261–268

8)大腸癌研究会:遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2016 年版.東京:金原出版,2016

9)Canard G, Lefevre JH, Colas C, et al.: Screening for Lynch syndrome in colorectal cancer: Are we doing enough? Ann Surg Oncol 2012; 19: 809–816 10)NCCN-National Comprehensive Cancer Network.

NCCN clinical practice guidelines in oncology (NCCN guidelines). 2017. Genetic/familial high-risk assessment: colorectal. Version 3. https:// www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/ge netics_colon.pdf (2018.4.21)

11)Ribic CM, Sargent DJ, Moore MJ, et al: Tumor microsatellite-instability status as a predictor of benefit from fluorouracil-based adjuvant chemotherapy for colon cancer. N Engl J Med 2003; 349: 247–257

12)Sargent DJ, Marsoni S, Monges G, et al: Defective mismatch repair as a predictive marker for lack of efficacy of fluorouracil-based adjuvant therapy in colon cancer. J Clin Oncol; 2010: 3219–3226

13)Brahmer JR, Drake CG, Wollner I, et al: Phase I study of single-agent anti-programmed death-1 (MDX-1106) in refractory solid tumors: safety, clinical activity, pharmacodynamics, and

immunologic correlates. J Clin Oncol 2010; 28: 3167–3175

14)Lipson EJ, Sharfman WH, Drake CG, et al: Durable cancer regression off-treatment and effective re-induction therapy with an anti-PD-1 antibody. Clin cancer Res. 2013; 19: 462–468 15)Le DT, Uram JN, Wang H, et al: PD-1 blockade in

tumors with mismatch-repair deficiency. N Engl J Med. 2015; 25: 2509–2520

A case of Lynch syndrome diagnosed by microsatellite instability test performed as universal screening Naruyuki Kobayashi*1, 2, Ryoji Ochiai*1,

Takaya Kobatake*1, Keika Kaneko*2,

Yumi Matsuyama*2, Miki Okamura*2,

Shinichiro Hori*2, 3, Norihiro Teramoto*4,

Shigeki Sekine*5, Kokichi Sugano*6,

Shozo Ohsumi*2, 7 *1

Department of Gastroenterological Surgery, National Hospital Organization, Shikoku Cancer Center *2

Department of familial Cancer, National Hospital Organization, Shikoku Cancer Center

*3

Department of Gastroenterology, National Hospital Organization, Shikoku Cancer Center

*4

Department of Pathology, National Hospital Organization, Shikoku Cancer Center *5

Department of Genetic Medicine and Service, National Cancer Center Hospital

*6

Oncogene Research Unit/ Cancer Prevention Unit, Tochigi Cancer Center Research Institute

*7

Department of Breast Oncology, National Hospital Organization, Shikoku Cancer Center

A 56-year-old male was admitted for surgery for transverse colon cancer. The patient had no paternal family history because his father died in an accident in his 40s. The patient underwent right hemi-colectomy. The histological diagnosis was moderately differentiated tubular adenocarcinoma (tub2>por1), pT2pN0cM0 pStage I (Japanese Classification of Colorectal Carcinoma, 8th edition). Microsatellite

instability (MSI) test demonstrated the tumor to be MSI-High. Genetic testing revealed a pathogenic mutation in MSH6 and Lynch syndrome was diagnosed. Although the patient did not meet the Amsterdam Criteria II or the revised Bethesda guidelines, universal screening by MSI test led to the diagnosis of Lynch syndrome. Universal screening is useful to identify potential Lynch syndrome patients.

Key words : Lynch syndrome, universal screening, microsatellite instability

Fig. 2. Resected specimen of the colon Type2 tumor was seen in the transverse colon.
Fig. 4. MSI test
Fig. 6. Findings of immunohistochemistry

参照

関連したドキュメント

Hypotonic duodenography revealed a barium-filled pear-shaped sac surrounded by thin radiolucent line in the second part of duodenum.. The findings are most suggestive of

週に 1 回、1 時間程度の使用頻度の場合、2 年に一度を目安に点検をお勧め

1外観検査は、全 〔外観検査〕 1「品質管理報告 1推進管10本を1 数について行う。 1日本下水道協会「認定標章」の表示が

および皮膚性状の変化がみられる患者においては,コ.. 動性クリーゼ補助診断に利用できると述べている。本 症 例 に お け る ChE/Alb 比 は 入 院 時 に 2.4 と 低 値

平成 28 年 3 月 31 日現在のご利用者は 28 名となり、新規 2 名と転居による廃 止が 1 件ありました。年間を通し、 20 名定員で 1

るものの、およそ 1:1 の関係が得られた。冬季には TEOM の値はやや小さくなる傾 向にあった。これは SHARP

前掲 11‑1 表に候補者への言及行数の全言及行数に対する割合 ( 1 0 0 分 率)が掲載されている。

1) 特に力を入れている 2) 十分である 3) 課題が残されている. ] 1) 行っている <選択肢> 2) 行っていない