経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察 : 主として企業の不祥事防止の観点から
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(2) 横浜国醤号諮…済法学第17…巻i第3号 (2009年3月). (corporate governance)という言葉の下で,会社経営の監督をいかに充実強化 するかということが盛んに議論されてきた。. そして,日本でも,現行の経営監視システムが有効に機能していないのでは. ないかということが問題とされt経営監視システムのあり方をめぐり錯綜した 議論が展開される中で、健全で活力のある日本企業の経営を促進するという目. 的から,平成13(2001)年と平成14(2002)年の二度にわたり企業統治に関 する商法の改正が行われた。前者は,これまでと同様の監査役制度の充実・強. 化を図るという方向での改正(以下「平成13年改正」という)であり,後者 は米国型の取締役会制度(委員会制度)を導入するという方向での改正(以下 「平成14年改正」という)であった。. また,平成17(2005)年には,会社法制の現代化とその制度全体について の大規模な改正が行われ(以下「会社法」という),翌年5月から施行された。 しかし,その後もカネボウ粉飾決算事件(2005年),日興コーディ’. Aルグルー. プ不正会計処理事件(2006年),不二家期限切れ原材料使用事件(2007年)と 企業の不祥事は後を絶たない%. 2.本稿の目的. ところで,平成14年改正は,従来型とは異なる米国型の経営監視システム にならった制度を新たに導入した改正であるがこの新型の経営監視システム には,これまでの会社法制にはなかった内部統制概念が盛り込まれた。. そして,平成17年の会社法では,新型の委員会設置会社にとどまらずに,. 従来型の監査役設置会社においても,この内部統制概念が法制化され,平成 18(2006)年度には,会社法の下で,内部統制に係る取締役会決定が求められ,. さらに平成19(2007)年度からは,その決定についての監査役の監査が求め られている。. また,平成18(2006)年6月に成立した金融商品取引法t)(以下「金ilSibj という)では,財務報告に係る内部統制の強化等に関する制度整備が行われた。.
(3) 経営監視機能の強化と内部統制に問する一考察. さらには,上記の企業不祥事続発に対応し,東京証券取引所は,2006年1 月上場会社に対し,「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の提出及び. 開示を義務づける旨の有価証券上場規程等の一部改正を公表し,同年3月から 施行されている。. そこで,本稿では,主として大企業における不祥事防止の観点から,こうし た経営監視システムに関する一連の改正(主として従来型の監査役の権限強化 あるいは新型の監査委員会の創設)によって,どの程度の監視機能が期待でき るのか。また,その監視機能の強化と内部統制との関係をどのようなものとし. て理解すべきであるのか。さらには,最近日本版SOX法あるいはJ−SOXな どと1呼ばれている金商法上の内部統制概念と会社法上の統制概念の法制化とを どのように関係付けて考えるべきなのかなどについて検討してみたい。. そして,不祥事防止の観点から一連の監視機能の強化と内部統制システムの. 整備・運用によってt企業の不祥事防止についてどの程度の実効性が期待でき るのかについても若干の論及を試みようとするものである。. 第2 コーポレート・ガバナンスと内部統制システム 前述した相次ぐ企業不祥事に対応し,その防止等への取り組みのため,経済. 産業省では,「企業行動の開示・評価に関する研究会」を立ち上げ同研究会 における中間報告として,「コー一ポレートガバナンス及びリスク管理・内部統 制に関する開示・評価の枠組みについて一構築及び開示のための指針一(案)」 ”). (以下「指針」という)を平成17(2005)年に公表している。そこでは,企業 不祥事防止等のための取組みとして,コーポレート・ガバナンスの確立と,リ スク管理・内部統制が重要であると指摘している。. そこで,ここでは,このコーポレート・ガバナンス及び内部統制とは何かに ついて,紙幅の関係もあるのでごく簡単に触れてみることにしたい。. 85.
(4) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 1.コーポレート・ガバナンスの問題 (1) 指針では,コーポレート・ガバナンスを「企業経営を規律するための 仕組み」と定義している。しかし,このコーポレート・ガバナンスという言葉 は,必ずしも明確に定義されているわけではないし,その意味するところにつ いても統一性がとれているわけでもない4)。そして,このコーポレート・ガバ. ナンスをめぐり,これまでさまざまな議論が展開されてきているが,菊澤研宗 教授は,基本的には以下の2つの観点から整理することができるとしている。. 第1にTコーポレート・ガバナンス問題を倫理にかかわる「価値問題」とみ なすのか,あるいは効率性にかかわる「事実問題」とみなすのかという観点が あるとする。そして,前者は,「企業は社会倫理に照らして正当な行動をして いるかどうか,もし,正当でないとすれば、誰がどのように企業を統治すべき か」という倫理問題としてとらえ,後者は,「企業は実際に効率的に行動して いるかどうか,もし効率的でないとすれば,誰がどのように企業を統治するの か」という事実問題として理解することになるとする。 一. また,第2は,「ガバナンスの問題を社会全体にかかわる問題」と広く考え るか,「株主や債権者などの投資家にかかわる問題」と狭く考えるかという観 点があるとする。そして,前者は,「企業は社会的利害と一致した行動をして いるかどうか,もし一致していないならば,誰がどのようにして企業を統治す るのか」という広範な問題として理解することになり,後者は,「企業は投資 家の利害と一致した行動をしているかどうか,もししていないとすれば,投資 家はどのように企業を統治するのか」という問題としてガバナンス問題を理解 することになるとする% (2) いうまでもないが,近代社会は,生身の肉体を持った自然人たる人間 を構成単位とする社会である。しかし,資本主義的経済システムをとる現在の 社会においては,そこでの経済活動の主要な担い手は生身の自然人ではない。 自然人によって組織されている企業という形態をとり,企業の中でも,資本の 集積・集中f’}の機構としてもつとも優れている株式会社という形態をとるのが 86.
(5) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. 一般的な現象である。そして,こうした株式会社制度は各国の特殊事情が反映 し,現実具体的にはさまざまな差異が認められるものの,基本的な構造・本質 的な部分においては極めて高い共適性を有している。 こうした株式会社制度は,歴史的には株主のために組織され,かつ株主によっ て運営され,そしてすべての利益は株主に分配されてきた7)。従って,近代的. な株式会社法においては,資本主義社会の私的所有制度との整合性を図り,会 社は,出資者である株主によって所有されるという論理構成がとられ,その結 果、所有者(株主)による経営のコントロールが自明の理とされてきた。 しかし,その規模が拡大するにつれて,論理必然的に所有と経営』の分化が進. み,経営陣の権限が強化されるとともに,出資者である株主の地位は相対的に 低下していったというのがこれまでの株式会社の歴史的な発展過程であるS}。. 特に.株式公開制度の下で大資本化した現代企業にあっては,その傾向は著し く,大方の株主は,その意識においても実態においても単なる分散化した資本 供給者となり,純粋かつ単純な投資家にすぎなくなっている。 このように,株式の分散所有が一般化するに従い,経営者支配が問題となり,. こうした組織内部における株主による経営者のコントロールをめぐる改善策が 先進資本主義経済各国での共通の課題となり論議されるようになった。. これが,前述の菊澤教授の指摘するところの株主(投資家)の観点からT効 率性あるいは倫理性(適法性)を確保するために,経営者(企業)をいかにし て統治(監視)するのかの問題である帥。. 他面,近時こうした株主以外の利害関係者(ステークホルダー),あるいは 社会的な視点から,企業に対する監視・監督システムが問題とされるようになっ. てきている。株主の場合は,株式の発行時に株式の代金を会社に払い込んだ時 点ですべての義務が果たされ,投資によって被る損害は,株式の購入代金に限 られる。また,公開会社の場合は,株式が自由に譲渡できることから,退出は 容易で,かつその損失もカバーしやすい。しかしながら,企業と取引をする債 権者の場合には,現実には株主よりも退出が容易でないであろうし,株主が限. 87.
(6) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 定された責任しか負わない(会社法104条)ために,経営者の行郵によっては,. その利益が害されるおそれが大きい。従業員や顧客といった他の利害関係者に おいても同様であるlo〕。. 従って,その報互の利害を調整する必要がありE’).こうLた観点からの監視・. 監督システムも問題とされるようになってきている。さらには,株式会社蝋 巨大発・複雑化するに伴い,上記のような多数の剥害欝鑑者に対してばかりで はなく,もっと広範囲にわたる飽の社会構成員に対しても大きな影響力を持つ ようになったe特に丁大規摸公開会社の場合は,財務規摸が.場合によって1ま 地書自治体を上廼るほど多額であil}.当該企業が存在する地域社会が経済fi“1こ. も社会醒にも当該企業に依存しあるいは穣互に童存し合う擁孫にあるなどその 地蟻社会と莚褒に翼ぽす影響寿が蓮大である。そして,大規婁藷すれぱするほ ど、生命・安全・失業・環境問題等,入々の生慕に大きな影響を与える喜在と. なgている砲。養って,こうした太規擾公顕会社の舞会に隷,その会養がい寮 に璽営され.蕊治されるべき毒・は,地域莚轟や轡裏にとっても.自i治鐘や雛こ. 廻三離する繧どの社会醒欝必事であるしtそうもた企業の苓蓑事が夢とたび惹き 起こさ託託1美これまでの套i義襲な蓬理議を誌轟とする責嚢嚢{姜蓼仁薄する纏 裂鱈かつ事後薩な損書養璽欝という責蓬違蔓で{ま繋底その轟蜜が擾簑できな挙麓 況毒董議てきている豊、らであるe. 苛うL麦ことから,金麹±義会e−一議議要藁で嘉るとか1童業1ま養会鍵一蓑. であるというよう登考え妻轟藝強議さ穀るよう仁豪琴.簸違Lた墓璽嚢糞夢 嚢藁す塾藁奉盤璽醤轟理鍾蓮蓬聾}{摯璽嚢妻ら.『禽藁1ま養会轟護婁と一蓑 して』轟責i塾をLて塾る塾もも・−i嚢Lτ塾嚢駐とす塾建,嚢妻ど簗よう記ξ≠ で嚢嚢を綾量す墨緩纏躍璽霧{欝とき蓑毒こと韓量る登 そこで顯…彗繋姦嚢篭童嚢霧嚢とξま嚢誓r}主曇1蒙壼嘉轟季ヱ撃多雛襲を駐妻紅. 妻璽轟繧4ξ垂‥尋葦貢べき妻と誤うこと簑豪る壼轟と書皇墓璽.こうL.た鐵 嚢穀鷺会に聾す塾嚢鍾i書塾毒違会蓑蓬糞霧菱嚢こ蒙聾桑豊こと璽でき轟妻妻毒薙. 嚢褻馨姦嚢轟藁轟譲璽穀一摯で璽墨とさ塾て駐萎甦こ謬主・き糞.ユー選峯一 慈.
(7) 経営監視機能の強化と内部統制に閏する一考察. ト・ガバナンスをめぐる議論においては,伝統的な株主所有者企業観から離れ,. 近代法的な経営監視システムのパラダイムそのものをT現代的に見直しするこ とも問題とされているといえるIs)o. (3) ところで、こうした企業(株式会社)行動の社会的コントu一ルある. いはその責任が問題とされるようになったのは,企業にもT自然人と同様に法 的な主体としての人格が与えられていることにある。この人格を与えられた企 業は,人と物よりなる一個独立の組織体として,企業意思を持ち,価値量の増 加(利潤)を目的とした経済活動を行っている。こうした経済活動は、一般論. で言えぱ個人が行うときは,人格的な規律づけ(倫理等)が機能するので. そこには限度と節度が自ずと認められる。しかし,企業の場合は,価値量を増 大化させるために不断に組織が増殖してゆくことからその限度がなく,その非. 人格性もあって節度もなくなりがちである。ところが法人である企業の社会 的行動が問題とされ,その責任が問われるとき,法人はあくまで法が擬制した フィクションに過ぎないため.その法人に法的責任を負わせ,直接法人を社会 的に規律づけるということは困難である。従って,その責任は組織の一員とし て当該行為を行った個々人にまず帰せしめられることになり,法人のトップが その為に直接罰せられるということがない。ましてや当該法人の所有者と観念 される株主には,その責任を求めることができないとするのが近代法の原則で ある。このように法人においては,当該法人の行為に関与した法人組織の構成 員が個々人としてその責任を負うだけであることから,結果的にはいわゆるト カゲの尻尾切りに終わり法人としての責任が見逃されてしまうか暖昧なものと されてしまうところに問題がある!e,}。従って,こうした法人の責任については・. 誰にどのような規準に従ってその責任を果たさせるべきか,あるいは果たさせ ることが法人に対する規律づけとして最も効果的であるのかということが・現 代の株式会社法制度における大きな課題となっている・. 89.
(8) 横浜国蹄経済法学第17巻第3号(2009年3月). 2、内部統制システムの意義 (1) 内部統澗システムは,当初米国において会計の不正・誤謬を防止する ための経営者の手段あるいは会計監査手続の範囲を決める手段として発展し, その後次第に,経営者による下部機閥の管理統制を含む広義な概念として理解 されるようになり17},現在では,経営者に対する統制をも含む,その意味では. コーポレー5・ガバナンスの問題を内包する意味合いをも強めてきているとい. われている1㌦要するに,初期の内部統制概念はt会計監査人にとっては近代 監査である試査の前提として捉えられ,経営者にとっては自らの経営に奉仕す る自主的システムとして理解されていた。しかし,経営者が提供する内部統制 への信頼を前提として試査を行い,合理的な範囲で財務諸表の信頼性を保障す れば足りる標準的監査では,簿外債務等の発見は到底困難であり,ましてや経 営者不正チェックの道具として内部統制を機能させることには限界があった。. そこで,米国では,1970年代.8G年代の大規模な粉飾に伴う企業不祥事の経 験を経て,企業の経営監視システムについての抜本的な改革が求められるよう になりID),その改革論議の中で内部統制システムについては,会計監査論の面. からだけではなく,法的視点からの問い直しもなされていった2% また,この内部統制概念に対する社会的関心が集まったのは,バブル経済崩. 紘の紐瀦羅醐題と剖,トレッドウェ橿員会組織委員会、(Co㎜i甘ee of Sponso虚コg Organ認a琶ons of the Treadway Co㎜issiGn一以下「COSO」とい. う〉が作成・公表した「内部統鑓の統合的枠組み」と題する報告書(以下「COSO. 報告書」という)が,従来の内部統制概念をコーポレート・ガバナンスに閨連 する概念としてとらえ直し,かつ具体的な規準を提示したことにあるとされて いる2㌔. このCO§O報告書では,内部統制とは,①業務の有効性と効率性,②財務 情報の信頼性.③墨連法規の遵守という3つの「目拍の達成に測して合理的な 握証を提供することを惑図した、事業体の取締役会,経営者及びその他の構成 葺によって遂行される一一つのプ9セスである」と定義している抽。 鶉.
(9) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. そして,同報告書では,この内部統制は相互に関連性のあるi統制環境,五 リスクの評価T菰統制活動,iv情報と伝達, v監視活動の5つの構成要素によっ. て構成されているとしT上記①から③までの統制目的がtその統制手段である iからvまでの構成要素を判断規準として,その判断基準すべてが満たされた 場合に,内部統制は「有効である」とみなすことができるとしている13)。なお,. 上記②及び③の統制目的についてはT取締役会及び経営者によって,その目的 が達成されているとの合理的な保証が提供されるべきであるが,①については,. 目的が達成されることを合理的に保証することはできないが組織全体を通じ ての首尾」貫した業務目的・目標がどの程度達成されているのかを取締役会及 び経営者が理解していることの保証が与えられるべきであるとする24}。. (2) 日本でも大企業においては,従来から会社全体の財務報告について,. 広い意昧での内部統制を実施し,内部監査室等を設け,自主的に経営管理ない し法令遵守・リスク管理等の組織体制を整備していた。 そして,従前の監査役監査基本要綱2「・)でも,監査役が「日常監査」として. 実施すべき基本的な監査手続として,「内部統制の実施状況調査=内部統制制 度の信頼性と整備状況等を調査する」ことが求められていた。. この内部統制概念が,日本の会社法制の中で正面から位置づけられたのは,. 平成14年改正での新型の委員会制度の導入によってであった。同改正では, 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商特法」という). 第21条の7で,取締役及び執行役の職務の執行を監督するために,「監査委員 会の職務の遂行のために必要なものとして法務省令で定める事項」(前同条2 号)を取締役会で決定しなければならないと規定し,以下の6項目を法務省令 で定めていた(旧商法施行規則193条)。. ①監査委員会の職務を補助すべき使用人に関する事項 ②前号の使用人の執行役からの独立性の確保に関する事項 ③執行役及び使用人が監査委員会に報告すべき事項その他の監査委員会に対 する報告に関する事項. 91.
(10) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2GO9年3月). ④執行役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する事項 ⑤損失の危険の管理に関する規程その他の体制に関する事項 ⑥執行役の職務の執行が法令及び定款に適合し,かつ、効率的に行われるこ. とを確保するための体制に関するその他の事項. そして,執行役は,この取締役会の決定に従い,’内部統制システムを構築し、. 取締役会がその義務の遂行を監督するという仕組みになっ.ていた2% さらに,監査委員会は,取締役会による内部統制システムに関する決定を監 査するという関係に立ち,また,その決定に基づく執行役の内部統制構築義務. の履行状況について監査する権限を有し(商特法21条の8第1号),その実効 性に問題があるときは取締役会に報告し,あるいは取締役会がなした決定の内 容について相当でないと認めるときは,その旨及び理由を監査報告書に記載し. なければならないとされていた(商特法21条の29第2項2号)。 このように,委員会等設置会社においては,内部統制システムを整備するこ とが取締役会の義務であることが法令上明確にされた。 もっとも,上記商特法上では,「監査委員会の職務の遂行のために必要なもの」. と定めるだけで,内部統制という言葉は用いられていない。しかし,「監査委 員会による監査の実効性を確保するために,取締役会が,内部統制システムな どと呼ばれる,業務執行が法令及び定款に適合し,かつ,効率的にされている ことを監視するための会社内部の体制を整備することとし,監査委員会がこの 会社内部の体制を利用して監査を行うこととした」と立法担当者による説明が なされていることと27),上記法務省令が,法令遵守体制とリスク管理体制とい. う内部統制システムの重要な要件に焦点を置いた規定となっていることから内 部統制システムについて定めたものであることは明らかである。. (3)一定規摸以上の会社においては,取締役会や監査役が業務執行の監査を すべて直接行うことはきわめて困難であり,現実的でない・業務執行が適正に. 行われることを一般的に確保するためには,リスク管理方法や法令遵守の体 92.
(11) 経営監視機能の強化と内部統制に閲する一考察. 制(内部統制システム)を構築し,これを維持することによって業務執行の監 視を確実なものとする必要がある。監査役会設置会社においても,明文の規定 はないが大阪地裁において大和銀行事件判決2且)が以下のとおり判示して以来,. 取締役には適切な内部統制システムを整備する義務のあることが,広く認識さ れるに至っていた。. 「健全な会社経営を行うためには,目的とする事業の種類,性質等に応じて. 生じる各種のリスク,例えば,信用リスク,市場リス久流勤性リスク,事務 リスクtシステムリスク等の状況を正確に把握し,適切に制御すること,すな わちリスク管理が欠かせず,会社が営む事業の規模、特性等に応じたリスク管 理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する。そして,重要. な業務執行については,取締役会が決定することを要するから(商法260条2 項),会社経営の根幹に係わるリスク管理体制の大綱については,取締役会で 決定することを要し,業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は, 大綱を踏まえ,担当する部門におけるリスク管理体制を具体的に決定するべき 職務を負う。この意味において,取締役は,取締役会の構成員として,また, 代表取締役又は業務担当取締役として,リスク管理体制を構築すべき義務を負 い,さらに,代表取締役及び業務担当(執行)取締役がリスク管理体制を構築 すべき義務を履行しているか否かを監視する義務を負うのであり,これもまた,. 取締役としての善管注意義務及び忠実義務の内容をなすものというべきである 」とし,監査役会設置会社にあっても.内部統制システムを構築する義務があ ることを肯定した上で,具体的には,その大綱について取締役会がこれを決定 し,代表取締役及び業務担当(執行)取締役は,その決定に基づいて内部統制 システムを構築する義務があること,そしてその構築義務を履行しているか否 かを取締役は取締役会の構成員としてさらに監視する義務があるとしている。. また,上記判例ぱ,続いて「監査役は、商法特例法22条工項の適用を受け る小会社を除き,業務監査の職責を担っているから,取締役がリスク管理体制 の整備を行っているか否かを監視すべき職務を負うのであり,これもまた,監. 93.
(12) 横浜国1祭経済法学第17巻第3号 (20D9年3月). 査役としての善管注意義務の内容をなすべきものと言うべきであるe」として,. 監査役についても,内部統制システムの整備に閲する監視義務があることを肯 定している。. もっとも,具体的な善管注意義務違反の有無については,上記判例は,「整 備すべきリスク管理体制の内容は,リスクが現実化して惹起する様々な事件事 故経験の蓄積とリスク管理に関する研究の進展により,充実していくものであ る。したがって,様々な金融不祥事を踏まえ,金融機関が,その業務の健全か つ適切な運営を確保するとの観点から,現時点で求められているリスク管理体 制の水準をもって,本件の判断基準とすることは相当ではないと言うべきであ る。また,どのような内容のリスク管理体制を整備すべきかは経営判断の問題 であり,会社経営の専門家である取締役に,広い裁量が与えられていることに 留意しなければならない」と判示している。. また,平成14年に行われた神戸製鋼所の株主代表訴訟での和解において、 神戸地裁は「神戸製鋼所のような大企業の場合,職務の分担が進んでいるため,. 他の取締役や従業員全員の動静を正確に把握することは事実上不可能であるか ら,取締役は,商法上固く禁じられている利益供与のごとき違法行為はもとよ り大会社における厳格な企業会計規則をないがしろにする裏金捻出行為等が社 内で行われないよう内部統制システムを構築すべき法律上の義務があるという べきである」と,取締役には内部統制システムを構築すべき義務があることを 肯定したうえで,「企業のトップの地位にありながら,内部統制システムの構 築を行わないで放置してきた代表取締役が,社内においてなされた違法行為に っいて,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れることが できるのは稲当でない」「利益供与及び裏金捻出に直接には関与しなかった取 締役であったとしても,違法行為を撞止する実効性ある内部統澗システムの構 築及びそれを通じての社内監視等を十分尽くしていなかったとして,関与取締 役や関与従講員に対する監視義務違反が認められる可能性がある」と,違法行 為そのものに濁与していなかったとしても,そうした違法行為を揮止するため 94.
(13) 経営監視機能の強化と内部統制に間する一考察. の効果的な内部統制システムの構築を怠っていた場合には,監視義務違反に問 われることになるという所見を述べている2−9・)。. そして,こうした判例の傾向を受けて,平成17(2005)年に成立した会社 法では,委員会設置会社(2条12号)に限らず,この内部統制システムの整 備がすべての大会社の取締役(取締役会)に対し、明文で義務づけられること. となった(会社法348条4項,同条3項4号,362条5項,同条4項6号,416条 2項,同条1項1号ロ・ホ)。. 第3 米国における経営監視システムとその機能の強化 1.米国型経営監視システムの特徴 米国でもかつて多くの会社法では,取締役会は業務執行機関とされ,積極的 な意思決定機能が求められていた1・)。それは意思決定を合議体で行うことで権. 力の集中を排除し,また,複数の構成員が有する経験・意見・専門知識を利用 した議論がなされることで問題の本質が把握できると期待されていたからであ る。しかし,最近は,その役割を分割し,取締役会は経営方針の決定と監督に あたり,業務執行は別の業務執行役員にやらせるようになっている31}。そし て,投資家保護の視点を重視する連邦証券取引委員会(Securities&Exchange. Commission一以下「SEC」という)と,アメリカ法律家協会(American Bar. Association一以下「ABA」という)及びアメリカ法律協会(American Law Institute一以下「ALI」という)等によって,監視・監督機能の強化という側面. から.経営者からいかに取締役の独立性を図るかがもっぱら関心の対象とされ てきた。. ALIの「Principles of CorPorate Governance: Analysi s and Recommendations」. (コーポレート・ガバナンスの原理1分析と勧告一以下「分析と勧告」という). では,取締役と業務執行役員との関係をかなり柔軟に定めることが可能とされ ているが3L),現状では,取締役と業務執行役員を兼ねてよいのは,取締役会長. 95.
(14) 横浜国際経満法学第17巻第3号(2009年3月). と社長の2人あるいは3人程度の少人数にとどめ,それ以外はすべて社外取締 役で取締役会を構成するというシステムを採用する傾向にある:町要するに, 米国型取締役会においては,意思決定の権限を大幅に上級執行役員に委譲し, 取締役会を同意機閤として位置付けるとともに取締役会の執行役員に対する監 督機能を強化い1),加えて取締役会が経営者に対し適切な監視・監督機能を果 たすためには,その前提として上級執行役員の支配力から取締役会が独立的で あることが必要であるとして,その独立性の強化に重点を置いてきているとい. うことである。中でも有力に主張されてきたのが経営者の影響から真に独立 した取締役が取締役会の少なくとも過半数を占める社外(独立)取締役制度を 導入し:15),さらに、その取締役会内の各委員会36)においても,その構成員の. 過半数を社外(独立)取締役とすることで,監視・監督機能が実効的に果たさ れる制度的な基盤を構築しようということであったu・)。このようにt米国では,. 次第に独立取締役主導による監視・監督機能を重視した取締役会改革論が主流 となり3H)、特に連邦レベルでは、監査委員会の監視機能を重視した施策となっ. ている。要するに,米国型経営監視システムにおいては,一元的な取締役会の 中に委員会制度という独立性のある機関を設け,かつその機関を構成するメン バーについても業務執行役員の影響を受けない人物を配置することで,委員会 を構成する取締役について二重の独立性を確保しようとしているところにその 特徴が認められる。. そして、エンロン・ワールドコムといった大規模公開会社の不祥事件を経て 2002年7月に制定された「The Sarbanes−Oxley Act of 2002」(サーベンス・オ. クスリー法一以下「SOX法」という)では,社外取締役の独立性はさらに強化 されている。. もっとも,米国でのこの社外取締役制度の意義をめぐる議論を概観すると, その監視機能の効果を背定する実証的研究も認められるが,消極的見解も多い ことに留意しなければならない:SCJ)。例えば,企業買収,ポイズン・ピルの採用,. 自社株式の買占めといった経営者と株主との問の潜在的な利益相反を含む行為 96.
(15) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. や自己取引など利益相反取引そして業績不振でのCEOの交替や経営者の報酬 といった経営者自身の利害に関する行為については,社外取締役がプラスに働 くことを肯定する論者は比較的多く見られる一t°)。これは,経営者から独立して. いる社外取締役によってなされることで,その公正さが担保されることにある ものと思われる。しかし,経営の効率性や適法性の確保ということになると, 積極的な効果を肯定する見解はほとんど見当たらない4%. 2.米国型監査委員会の監視機能について. (1)前記ALIの「分析と勧告」では,全ての大公開会社は,会社の財務資 料を作成する過程,その内部統制及び会社の外部会計監査人の独立性を定期的 に審査することで,取締役会の監督機能を補充かつ補助するため監査委員会を 持たなければならない(§3.05)梱とし,具体的な監査委員会の職務と権限に ついて以下のとおり定めている(§3A.03)−t3)。. ①任用されるべき外部監査人についての提案とその解任提案の審査。 ②外部監査人の報酬,提示された任用条件及びその独立性の提案。 ③上級内部監査役員を置く場合はその任命及び解任についての審査。. ④外部監査人と取締役との聞の意思疎通をはかるための活動及び上級内部監 査役員がいる場合には,その者と取締役会との問の意思疎通を図るための 活動。. ⑤外部監査の結果,監査報告書,関連する経営者の通知,監査との関係で外 部監査人によってなされた勧告に対する経営者の反応,全体として会社に とって重要な内部監査部門の報告書,これらの報告書に対する経営者の反 応についての審査。. ⑥会社の年次財務諸表,全ての証明書類,報告書,意見の審査,又はこれら の財務諸表との関係で外部監査人によってなされた監査の審査,及びこれ らの財務諸表の作成に関して経営者と外部監査人との問で生じた重要な意 見の対立についての審i査。. 97.
(16) 錨浜国際経済法学第17巻第3号(20G9年3月). ⑦外部会計監査人,及び上級内部監査役員がいる場合には,その者との協議 において,会社の内部統制の検討。. ⑧会社の財務諸表の作成に用いられるべき適正な監査及び会計の原則及び1貫 行についての重要な変更および選択についての重要な問題が外部監査人,. 主要上級執行役員又は他の者から提示された場合には,これらの問題の検 討。. なお,ABAの「会社取締役ガイドブック」(CorPorate 1)irector’s Guidebook). では,上記の他に以下の点が加えられている。. ①SECの規則に準拠した正確かつ完全な報告を行うために合理的な手続が 確保されるべく,四半期報告書を作成するための会社内手続の審査、及 びその報告を外部監査人から直接または議長を通じて迅速に受領するこ と“〕。. ②ALIの上記⑦に加えて、内部財務統制は,会社の帳簿記録が正確であるこ. と,記録に見合う資産が保持されていること,経営者が作成する財務諸. 表がGAAPに基づいて公正に表示されていることについての合理的な保 障を与えるような目的で検討されなければならない4i)e. ③監査委員会の責任と規制当局,主要証券市場の規制を満たす規約を定め, 毎年レビューすること一1f・),及び公開会社の場合,年次株主総会で株主に提. 供される監査委員会の年次報告書をレビューし,承認すること47}。. ④経営者と定期的に会合し,会社の主要な財務上のリスク・エクスポージャー を検討し,リスク受忍限度を審査することJts)。.. ⑤legal counsel(法務部長)及び他の経営者とともに法遵守と重要な会社の. 指針の策定に取り組むための手続や方針,そして現在及び将来の訴訟リ スクの軽減を定期的に検討することd9)。. このように米国の監査委員会は,①会社の財務諸表の信頼性t公正性,② 98.
(17) 経営監視機能の強化と内部統制に閲する一考察. 外部監査人の独立性,③内部統制部門と外部監査人の監督と監査職務の実効性,. ④会社のコンプライアンスとリスク管理への関与,を確保するための制度的な 保障にその主たる機能がある。. また,経営者が内部統制の整備構築を怠っている場合や経営者の不正を発見 した場合,経営者のみならず,監査委員会に報告させることで経営者に対する けん制機能を発揮させようとする工夫がなされている。. さらに,少人数の内部監査人が,組織を総動員しうる立場にある経営陣・現 場責任者から,直接の言動により,または表に出てこない非協力的対応により,. 監査活動に対する抵抗を受ける場合もおこりうるので,そうした場合には,経 営陣を監視する取締役会の一部である監査委員会をいわば後ろ盾にして,内部. 監査人の独立した活動と提言の実効性を保障できるような仕組みになってい る。. また,米国の監査委員会制度では,後述するSOX法の規制内容からも認め られるように財務情報の質の向上にかなりのエネルギーが注がれているといっ てよいと思われるEF・)。そうしたことから,米国型の経営監視システムに範を求. めるのであれば資本市場における情報開示の質の向上に貢献するという視点 なしに監査機能の強化を論じても,充分とはいえないということになるものと 思われる51). (2) 米国の監査委員会は,経営妥当性監査機能よりもむしろ会計監査人と 会社の内部監査部門の監督を主たる任務とし,両者の独立性の確保に重点があ り,会計情報の信頼性を含めた適法性監督機能を所管している。そして・妥当 性監督自体はボード自身が担当し5・・),監査委員会は,執行役の職務執行の監督. をすること,とりわけ効率的経営に積極的に関与することは期待されていない といわれている’Sl)。. しかし,米国の監査委員会においても,監査機能を介して得られた経営者に 対する業績評価がt結果的に経営者の効率的経営を高める役割を果たすことに なるので,そういう意味では,直接的ではないにしても間接的かつ積極的に効 99.
(18) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 率的な経営向上のために関与しているものといえる。. (3)米国の監査委員会は,上記のとおりもっぱら非常勤の社外取締役によっ. て構成され,委員会として会合するのは,平均して1年に4,5回であること 等から,監査委員会に監査人の役割を期待すべきではないといわれている「m。. 要するに,会社の各部署や子会社などに出かけて自ら能動的に監査や調査を行 うのではなく,経営執行部門,内部監査部門や外部監査人から報告を受けるこ とによりその役割を:果たすことになっている。また,米国では,監査委員会は,. 取締役会の補助的機閤としての位置付けであり,外部監査人の選任’解任議 案の審査権があるだけであったがs,「・),後述するとおりSOX法30ユ条によって,. 監査委員会が外部監査人の任命,報酬および監督について直接の責任を負うこ ととされた齪㌔. 3.監査委員会の監視機能の強化とSOX法 会社の監視・監督機関である監査委員会と外部監査人の監視機能を強化し,. そして市場の透明性を高めるために,2007年に米国ではSOX法が制定された。 なお,SOX法制定以前は,会社の監視・監督機構に関する実体法的規制は, 州法や証券取引所の規則に委ねられてきたことから,この規制は,連邦レベル で初めてのコーポレート・ガバナンスに関する実体法的規制に踏み込んだもの である評されている5%. 以下ここでは,SOX法の中で,監査委員会の機能強化に関連している部分 についてのみ,記述しておくことにする。. (1)監査委員会の機能強化と独立性の保障鋤. エンロン事件その他の金融スキャンダルを通して,監査委員会による監視が. 有効に機能していないことが明らかとなったことから,SOX法では,監査委 員会の経営陣に対する実効性のある監視・監督システムを構築させることを目 的として,SECに対し,規則で一定の期1‖]内に以下のような規定に違反する会. 社の上場を禁止するよう証券取引所及び証券業協会に指示することを義務付け ユ00.
(19) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. る規定を設けた醜 ③監査委員会鋤のメンバーの独立性 メンバー全員が「独立」の取締役でなければならないω。. 独立といえるためには,取締役としての報酬以外のいかなる報酬も発行会 社から得てはならず,また,発行会社及びその子会社の関係者(an affiliated person)であってはならないam。. ②監査委員会の権限の強化 監査委員会は,登録会計事務所(registered public accounting firm)である. 外部監査人の任命,報酬および監督について直接的な責任(経営者と外部監査 人との間の財務報告に関する意見の不一致を解決する責任も含まれる)を負う ものでなければならない。そして,外部監査人は,監査委員会に対して直接報 告を行わなければならないとされているes1。. これは,外部監査人の経営陣からの独立性の強化を図るためのものである。. ③アドバイザーの雇用権限と独自財源の付与 監査委員会は,その職務を遂行するために必要があると判断したときは,独 立のカウンセル(弁護士),その他の必要なアドバイザーを雇用する権限が認 められているa)。また,発行会社は,外部監査人,アドバイザーに対する報酬. の支払のための適当な財源を監査委員会に与えなければならないとされている aSlo. ④財務の専門性に関する情報開示. SOX法では, SECに対し,監査委員会のメンバーに一人以上の財務専門家 (financia1 expert)が含まれているか否か,そして含まれていない場合には,そ の理由を開示することを求める規則の制定を義務づけているCfi〕。. (2)外部監査人の独立性と監督の強化. ①非監査業務提供の禁止. sox法ではT外部監査人(SECが適切であると決定した範囲の当該会計事 101.
(20) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 務所の関係者を含む)がt監査業務を提供している発行会社に対して,同時に 一定の非監査業務の提供を行うことを禁止しているfi7)。. そして,その他の禁止されていない非監査業務についても監査委員会から事 前の承認を受けた場合のみ,提供することが許されるとしている(SS)。. またtすべての監査業務と上記の禁止されていない非監査業務については, 事前に監査委員会の承認を受けなければならないとしG9}t一その承認は定期的な 報告書:において投資家に開示されることになっている7°〕。. ②監査パートナーのローテーション制 監査に第一次的な責任を負う筆頭パートナー(1ead audit partner)または監. 査のレビューのために責任を負う監査パートナーを5年ごとに変更しなければ ならないとした71}。. ③監査委員会に対する報告義務 外部監査人は,用いられるべきすべての重要な会計方針・実務,経営陣との. 問で議論されたGAAPの範囲内での財務情報に関する代替的処理及びそうした 代替的な処理や情報開示を用いたことの結果並びに外部監査人がより良いとす る処理,外部監査人と経営者との聞で交わされたマネージメント・レターなど といった重要な通信文書類を監査委員会に対して,適時に報告しなければなら ない7;)o. ④CEO(最高執行役員)等と外部監査人と間の利益相反関係の禁止. 発行会社の最高執行役員(CEO),最高財務役員(CFO),最高会計担当役 員(CAO)あるいはそれらと同等の地位にある者が,監査開始前1年以内に登 録会計事務所に雇用され,当該会社の監査に参加していた場合は,当該会計事 務所は当該会社に対する監査業務を行うことができないT{)。. ⑤監査への不当な影響力行使の禁止. 役員及び取締役(それらの指示の下で行動する者)が,実質的な誤解を財務 諸表に与える目的で,当該会社の監査を行う独立の公認会計士または公的会計 士に対して不当に影響力を与える行為等を禁止した7S)。 102.
(21) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. ⑥公開会社会計監視委員会(Public Cornpany Accounting Oversight Board一. 以下「PCAOB」という)の創設 SOX法により,公開会社の会計監査を監視するPCAOBが設けられT:・},会. 計監査事務所が,発行会社のために監査報告書を作成し,またはそれに関与 するためには,登録会計事務所としてPCAOBに登録することが義務づけられ た76}。そして,PCAOBは,監査報告の作成や発行に際し,登録会計事務所に. 利用させるための(監査,クオリティ・コントロール及び倫理に関する)基 準を制定し,外部監査人の独立性に関する規則を定め”},登録会計事務所に. 対し,SOX法やSECの規則等の遵守の程度を評価するための定期的な検査 (inspec直on)を行うことができるとされている7㌔. また,PCAOBは,登録会計事務所の業務の遂行や法遵守について調査をし. 1違反が認められる場合は,一定の懲戒手続に従い,当該登録会計事務所とその 関係者に対して制裁を課すことができることになっている7.}。. そして,このPCAOBに対する包括的な監督と執行の権限は, SECが有して いるsc)。. 4.内部統制システムの強化とSOX法 米国ではT経営監視システムの機能を強化するためには,企業の財務諸表そ の他の財務情報をより正確にコントロールし,開示された財務情報の信輯性を 高めること,そのためには内部統制の整備維持の充実をはかることが重要であ. ると考えられている。この内部統制に関係するSOX法の規定は,302条と404 条そして906条の3ヵ条である。そこで,以下ではこの3力条と閤連する内部 告発手続の整備等について簡単に記述しておくことにする。 (1)財務報告書に対する経営者の認証. SOX法302条は, SECに対して,34年取引所法13条(a)項または15条(d). 項に基づきSECに提出される年次報告書および四半期報告書に関してCEO 及びCFOまたはそれらと同様の機能を果たす者が認証(certify)すべきこと 103.
(22) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). を要求する規則を同法施行後30日以内に制定することを義務づけSl), SECは. 2002年8月にこの新規則を制定している。. なお,SOX法302条で認証が求められている事項は,以下のとおりである 聞o. ①署名する役員(signing officer)が当該報告書のレビュー(精査)を行っ たこと。. ②知る限りにおいて重要な事実について虚偽の表示及び省略がないこと。. ③知る限りにおいて当該報告書に記載されて財務諸表その他の財務情報は財. 務状態経営の結果及びキャッシュ・フローをすべての重要な点で公正に 示していること。. ④署名する役員が開示統制・手続の確立・維持に責任を負っていること。. ⑤署名する役員が監査人及び監査委員会に対して財務…報告に関する内部統制 (internal contrels)の設計・運営の重大な欠陥などについて開示したこと。. ⑥署名する役員が内部統制または内部統制・に重大な影響を与えるその他の事 柄に重要な変化があったかどうかについて報告書で示したこと。. (2)内部統制報告書の開示と外部監査人の監査. SOX法404条は, SECに対して,年次報告書をもって経営者が内部統制報 告書を開示することを求める規則の制定を義務付けているS3)。. そして,その内部統制報告書には,①財務報告のための適切な内部統制の構. 造と手続を構築し,維持することについての経営者の責任を記述すること,② 直近の会計年度末における財務報告のための効果的な内部統制構造と手続につ いての評価を記載すること,が求められているss)。. また,当該発行会社の登録会計事務所は,経営者がなした評価について報告 し,それに対して認証しなければならないとしているthS)。. ユ04.
(23) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. (3)財務報告書に対する経営者の認証と責任. SOX法906条では,34年取引所法(13条(a)項または15条(d)項)に 基づきSECに定期的に提出される財務報告書(財務諸表を含む)に, CEO及 びCFO(またはそれらに相当する者)がその内容(その…報告書が、34年取引 所法が求める事柄を完全に遵守していること,その報告書に含まれる情報が, あらゆる重要な点で公正に表示されていること)を認証する旨の書面を添付す ることを義務づけている。また,虚偽と知りながら認証を行った者に対しては, 刑事罰が課されることになっているS6}。. (4)内部告発手続の整備及び内部告発者保誰制度(Whistle−blower Protection)の導入. SOX法では,経営陣ではなく,監査委員会が,会計,内部会計統制そして 監査に関する苦情について,その受領,維持および処理に関する手続や疑わ しい会計や監査事項についての従業員からの秘密かつ匿名の告発に関する手続 (内部告発手続)を制定しなければならないとしているST)。. また,34年証券取引所法12条に基づく登録会社およびその役員等は,適法 な情報の提供その他一定の不正行為の調査等に協力するための適法な行為を理 由として従業員を解雇したり,その他雇用条件に関して差別的に取り扱うこと. はできないとし,こうした違反に対する救済として,従業員は,労働省長官 (Secretary of Labor)あるいは労働省長官が180日以内に決定をしないときは 連邦地方裁判所に対し訴えを提起できるとしたSS)。. さらに,内部告発者に対する報復禁止違反に対しては,刑事罰が設けられて いるb−) 。. 105.
(24) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 第4 監査役・監査委員会の監視機能の強化と内部統制システム 1.監査役{会)とその監視機能 (1) 監査役D°1は,会社法上取締役と同様に株主総会の決議によって選任さ. れ(会社法329条),取締役の職務の執行を監査する(同381条)ことになっ ている91)。. そして,監査役は,それぞれが独立して会計監査と業務監査を行うことになっ. ているが,監査役会設置会社(同2条10号)の場合には,監査役の権限を強 化するため,監査役全員で監査役会を組織し,その監査役会に一定の権限が与 えられている(同390条)。監査役の職務は,取締役が日常作成する会計帳簿,. 毎決算期に作成する計算書類及び附属明細書について会計監査を行うことと, 取締役の業務一般についての業務監査を行うことであるyt)。業務監査とは,具. 体的には取締役会,代表取締役,業務執行担当取締役が行う職務執行に不正等 がないかを第三者の立場で監督し,必要に応じてその是正措置をとることであ る。もっとも,こうした違法でないかを監査することは当然のこととして認め られているが,社会常識や倫理に反する業務執行をチェックする妥当性監査に ついては,これを認めているのか,あるいは不当な場合にしかそれを認めない ことになるのか法文上からは明確でないE3}。取締役会の監督権限は,業務執行. の適法性だけではなく,その妥当性にも及ぶとされているのに対し,監査役の. 業務監査権限はtもっぱら適法性監査に限られ,取締役の職務執行が「著しく 不当」な場合だけは,妥当性の監査にも及ぶと狭く解されている9%しかし, 監査役の実際の監査行為からすれば、妥当性監査についても柔軟に認め,その 監査結果が取締役会に報告されるだけであったとしても事前監査機能として十 分に意味あることのように思われる≡’㌔. (2)会計監査は重要ではあるが,会計監査人がおかれている会社の場合は,. 会計監査は主とし会計監査人が行い,監査役はあくまで補足的なものにとどま るという実務上の権限の棲み分けができているようである…’% 106.
(25) 経営監視機能の強化と内部統制に関する一考察. また,会計監査は,企業の経営成績や財務状態の理解を誤らせるような,重 要な会計上の誤謬や不正を摘発し,その有無を報告することを目的とし,その 目的に必要な限度で実施されることから,監査役の監査とは異なり,不正の摘 発に直接に向けられたものではないtJ7)。しかし,会計監査人がその職務を行う. に際して取締役の職務遂行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な 事実を発見したときは,その旨を監査役会に報告することが義務付けられてい る(同397条1項・3項)。そして,監査役と会計監査人との連携を高めるために,. 監査役がその職務を行うために必要があるときは,会計監査人に対していつで. もその監査に関する報告を求めることができる(同397条2項)仕組みになっ ている。. (3) また,監査役には,その実効性を確保するために法律によって各種の. 調査権限等が与えられている(同381条,357条等)が,実際には監査役固有 のスタッフが不足している゜S;ために,組織的に情報活動を行い十分な情報収 集がなしえないことから,有効な監査ができないということと,実質的には経. 営者から独立した監査機構となっていないということがt問題として従来から 指摘されていた。. 前者の問題の解決策の一つとして,内部監査部門の活用の問題が論じられ, 現在は後述するとおり,内部統制システムの活用の問題として議論されている。. また,後者は平成13年・14年改正によってその独立性が格段に強化されたも のの,その独立性という判断基準については,なお厳密な検討が必要であろう と思われる。. 2.監査委員会とその監視機能 (1) 委員会設置会社(会社法2条12号)は,社外取締役を過半数とする三. 委員会(監査委員会,指名委員会t報酬委員会)と業務執行機閲としての執行 役を設置することを条件に,取締役会から執行役に対して業務上の意思決定に 関する大幅な権限委譲を認める平成14年改正で導入された新たな制度である。 107.
(26) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 要するに,この制度は,一定の監督機能の整備と引換えに,迅速かつ機敏な 経営意思決定・業務執行を可能にした制度であり,この制度を選択した会社は,. 取締役会決議事項の大半(会社法416条4項各号に列挙される事項を除く)の 意思決定を,執行役に委ねることができるという利点がある。. なお,この制度を選択できたのは,旧商法では,大会社またはみなし大会社. に限られていたが(商特法1条の2第3項)t会社法では,株式会社であれば, 会社の規模にかかわらず,この制度を選択できることになっている(会社法2 条12号)。. (2)監査委員会は,取締役の選任・解任に関しては,指名委員会を介し, 執行役の選任・解任については,その構成員でもある取締役会を通して行うこ とができることになっている鋤。また,監査委員は,取締役の一員として,会 社の基本的・戦略的意思決定に主体的に参加することから,経営についての情 報と理解が得られ,その情報と理解に基づいた監査ができ,委員の構成につい. ても,社外取締役の過半数が求められている(会社法400条3項)ことと,業 務執行者との兼任が禁止されている(同402条4項)ことから経営陣から独立 した立場での実効的な監査が期待できるといわれているω。しかし,他面で は執行役兼務取締役が認められている(同402条6項)ことから,本体の取締 役会の構成が執行役兼務取締役で占められた場合には,少数の社外取締役でそ うした多勢の執行役兼務取締役に対して果たして実際にどれだけの監視機能が 期待できるかという懸念も指摘されている1°1)e. (3) また,米国では,前述したとおり監査委員会は,取締役会の補助的機 関としての位置付けであり,外部監査人の選任・解任議案の審査権があるだけ であったが,日本の監査委員会の場合には,会計監査人の選任・解任・不再任. 議案の内容を決する権限までが与えられている(会社法404条2項2号)。こ れは取締役会の内部機関でありながら独立した機関としての権限が与えられた. ことによるものである。もっとも,米国でも,SOX法301条では,監査委員 会が外部監査人の任命,報酬および監督について直接の責任を負う旨規定する 108.
(27) 経営監視機能の強化と内部統制に凹する一一考察. に至っていることについては前述したとおりである。 (4)前述したとおり,監査役には妥当性監査権限はないと解されているが,. 監査委員会は,適法性監査の権限のみならず,妥当性監査の権限も有するも のと解される1°n)。従って,前述した監査役の監査が抱えている難題の一つは,. 監査委員会では解消されることになる。またその有する権限については,監査. 役とほとんど異ならないが(会社法405条∼408条,436条2項等),監査委員 会の場合は,常勤者を置くことが法律上強制されていない。そして,日常的な 監査が予定されておらず:°「s)t個々の業務執行の適法性や妥当性を個別具体的 にチェックすることは原則として求められていないと解されている1Ut)。. もっとも,監査委員会あるいは監査委員については,監査役とは異なり株主. 総会への違法行為等の報告義務(会社法384条)に相当する規定がない。これ は,監査委員会は,執行役等の違法行為を発見した場合にはt取締役会に報告 することで問題を解決する道を選ぶべきであり,取締役会を離れて,独自に株 主総会に意見を述べることは,監査委員が取締役会の一員であることに照らす と相当でないと考えられたためと説明されている1・5)。しかし,日本企業の不. 祥事の特徴として,情報開示についての監視機能が働いていないことが挙げら れていることと,取締役会の構成が社外取締役の過半数を要件としていないこ とから,外向きの株主総会から内向きの取締役会への報告に留めることで監視 機能を弱めることにならないかという懸念がある。. 3.監査役(会)・監査委員会と内部統制システム (1) 前述したとおり,会社法では,旧商法とは異なり委員会等設置会社に. 限定することなくすべての大会社及び委員会設置会社について,業務の適正を 確保するための体制(内部統制システム)の整備を明文で義務づけている(会. 社法348条4項,同条3項4号,362条5項,同条4項6号,416条2項,同条1 項1号ロ・ホ)ことから、監査役会設置会社で従来問題とされていた内部統制 システムの位置付けをめぐる疑義はすべて解消されたことになる1保㌔そして,. 109.
(28) 横浜固際経済法学第]7巻第3号(2009年3月). こうした決定・決議は,会社の基本方針にかかわる重要な変更であることか ら,取締役を2人以上有しているか又は取締役会を設置している会社について は,その決定を代表取締役等に委任することを認めないことにしている(会社 法348条3項,362条4項)。. 委員会設置会社についても同様である(416条3項)。そして、その決定の 内容を事業報告に記載させ(会社法施行規則118条2号),株主へ提供する(会. 社法437条,前同規則133条)ことと株主総会で報告する(会社法438条3項) こと等でその内容が開示される仕組みになっている1°7}。. また,監査役(会)あるいは監査委員会は,上記各事項についての事業報告 を監査し,同事項についての取締役(会)の決定又は決議の内容が相当でない と認めるときは,その旨及びその理由を内容とする監査報告を作成しなければ. ならないことになっている(前同規則129条1項5号,130条2項2号,131条 1項2号)e (2) 委員会設置会社以外の会社の場合,取締役(会)が決定しなければな らない業務の適正を確保するために必要な体制の整備として,会社法及び会社 法施行規則(以下「会社規」という)で求められている事項は以下のとおりで. ある(会社法348条3項4号,同362条4項6号,同416条1項1号ホ,会社 規98条1項,同100条1項)。 ①取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制 ②取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に対する体制 ③損失の危険の管理に関する規程その他の体制 ④取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制 ⑤使用人の職務の執行が法令及び定款にjYu合することを確保するための体制. ⑥当該株式会社並びにその親会社及び子会社から企業集団における業務の適 正を確保するための体制 また,監査役設置会社の場合は,上記①ないし⑥に加えて次の体制を含むも. のとしている(会社規98条4項,100条3項)。 110.
(29) 経営監視機能の強化と内部統制に閲する一考察. ⑦監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合の当該使用 人に関する事項 ⑧前号の使用人の取締役からの独立性に閤する事項 ⑨取締役及び使用人が監査役に報告するための体制その他の監査役への報告 に関する体制. ⑩その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制. そして,委員会設置会社の場合には,上記①から⑥及び⑦から⑩まで(但し, いずれも取締役を執行役,監査役を監査委員会と読み替える)を掲げているが,. ⑦については,「監査委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する事 項」と補助すべき使用人が置かれることを当然の前提とした規定の仕方となっ ている。また,⑧については,使用人に取締役を加えた規定となっている(会 社規112条2項,1項)。. ③ 上記会社法施行規則によれば,内部統制システムの構築と整備につい ては,前述した委員会等設置会社についての旧商法施行規則よりもかなり詳細. かつ具体的な規定の仕方となっている。例えば監査役が客観的に必要とされ ていたにもかかわらず補助すべき職員を置くことを取締役(会)に求めない場 合には.監査役の注意義務違反の問題とされることになるであろうし,監査役 が求めていたにもかかわらず取締役(会)がそうした体制や使用人の独立性に 関する事項を決定しない場合には取締役(会)の注意義務違反が問題とされる ことになるという意味で,会社法では内部統制システムの構築と整備について.. 旧商法よりもかなり踏み込んだ規定の仕方になっているということができる。 また,監査役設i置会社についても上記⑦ないし⑩の体{醐の構築が求められた. ことから,旧商法上の監査委員会と同様の体制が監査役(会)にも望めること となり,この点に関しての監査委員会制度と監査役制度との間での優位差はほ とんどなくなったといってよい。. 111.
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