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〈論説〉刑事手続における取引(3・完)--ドイツにおける判決合意手続

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Academic year: 2021

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(1)刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 刑 事 手 続 に お け る取 引(3・. 完). 完). ドイ ツ に お け る 判 決 合 意 手 続. 本. 典. 辻. 央. は じあ に 二Abspracheの. 概観. 1.Abspracheの. 意義. 2.判. 例実務. 3.立. 法 の動 向. 4.小. 括(以 上57巻2号). 三Abspracheに. 関 す る法 的 問題 点. 1.比. 較法的考察. 2.判. 決 合 意 手 続 の許 容 性. 3.判. 決 合 意 手 続 の法 的 性 質. 4.自. 白 の取 扱. 5.量. 刑 問題(刑. 6.合. 意 中絶 の効 果. 7.合. 意 の事 後 的 是 正(上 訴 問題). 8.合. 意 の適 格 性(適 用 範 囲). 9.小. 括(以 上58巻1号). 四. の責 任 相 応 性). 我が国の刑事訴訟 にお ける取引的要素 1.一. 般 的許 容 性. 2.現. 行 法 と の適 合 可 能 性. 3.改. 革 の必 要 と展 望. 五. 合意手続の導入可能性. 四. お わ りに(以 上 本 号). 我が国の刑事訴訟における取引的要素一合意手続 の導入 可能性. 前 章 ま で に お い て,2009年. に 新 た に 立 法 さ れ た ドイ ツ の 刑 事 司 法 取 引,. 1.

(2) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 特 に判 決 合 意 手 続("Absprache"oder"Verstandigung")の. 歴 史的経緯. と立 法 過 程 を 紹 介 し,そ の 理 論 的 問題 点 を 概 観 した(1)。これ を踏 まえ て, 本 章 で は,我 が 国 の 刑 事 司 法 に お け る取 引 的 手 法 ・判 決 合 意 手 続(以 下, 合 意 型 手 続)の 導 入 可能 性 とそ の 規律 に関 して検 討 す る。 そ の 際,第 一 に, 我 が 国 の 刑 事 司 法 に この よ うな 合 意 型 手 続 を 取 り入 れ る こ と は原 理 的 に可 能 で あ るか,す な わ ち,合 意 型 手 続 の 導 入 は憲 法 の 基 本 原 則 及 び刑 事 司 法 の 基 本 原 理 に反 す る もの で はな いか と い う問 題 が,解 明 され な けれ ばな ら な い。 そ して 第 二 に,合 意 型 手 続 の 導 入 に は如 何 な る制 度 的 条 件 が 必 要 で あ るか が,問 わ れ な けれ ばな らな い。 そ こで は,合 意 型 手 続 の 導 入 は現 行 法 上 可 能 で あ るか,つ. ま り既 に現 行 刑 訴 法 に お いて 合 意 型 手 続 の 使 用 が 許. 容 され う る もの で あ るの か,或. い は,合 意 型 手 続 が 現 行 法 に適 合 しな い も. の とす るな らば,そ の 導 入 に あ た って 如 何 な る制 度 的 整 備 が 必 要 で あ るか と い う考 察 が 求 め られ る。 我 が 国 の 刑 事 法 学 説 に お いて,特. に最 近,刑 事 司 法 の 導 入 可 能 性 を め ぐ. る議 論 が活 発 に 行 わ れ て い る(2)。 本 稿 で は,こ れ ら先 行 業 績 に お け る議 論 も参 照 しつ つ,ド. イ ツ法 学 説 に お け る議 論 と比 較 しな が ら,各 問 題 を 検 討. す る。. (1)辻 本 典 央 「刑 事 手 続 に お け る取 引. ドイ ツ に お け る判 決 合 意 手 続(1)(2)」近 法. 57巻2号(2009),58巻1号(2010)。 (2)特. に代 表 的 な も の と して,日 本 刑 法 学 会 第88回 大 会 第 二 分 科会 に お け る 「司. 法 取 引 の 理 論 的 課 題 」(田 口守 一 「司 法 取 引 の 理 論 的 課 題 に関 す る研 究 の 意 義 」, 川 出 敏 裕 「司 法 取 引 と刑 事 訴 訟 法 の 諸 原 則 」,宇 藤 崇 「司 法 取 引 と量 刑 的 考 慮 に つ い て 」,宇 川 春 彦 「 米 国 に お け る 司法 取 引」,河 合 幹 雄 「司 法 取 引 と 日本 社 会 ・ 文 化 と の相 性 」,以 上 刑 雑50巻3号1頁. 以 下(2011))及. び刑 事 法 ジ ャー ナ ル 特. 集 「刑 事 裁 判 と合 意 手 続 」(加 藤 克 佳 「日本 の刑 事 裁 判 と合意 手 続 」,田 中 利 彦 「英 米 の 刑 事 裁 判 と合 意 手 続 ・司法 取 引」,池 田公 博 「ドイ ツ の刑 事 裁 判 と合 意 手 続 」,松 田 岳 士 「イ タ リア の 刑 事 裁 判 と合 意 手 続 」,以 上 同 誌22号2頁 (2010))o. 2. 以下.

(3) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 1.一. 般的許容性. O憲. 法上の論点. 完). 我 が 国 の 憲 法 は,刑 事 手 続 に関 して,比 較 的 詳 細 な 規 定 を 定 めて い る。 す な わ ち,一 般 条 項 と して の 適 正 手 続 保 障 を 頂 点 とす る各 種 の 手 続 ル ー ル (憲法31条 乃 至40条)が,憲. 法 上 明 確 に,刑 事 手 続 の在 り方 を規 律 して い る。. ま た,刑 事 手 続 は,国 家 と国 民 との 間 で 様 々な 葛 藤 を 生 じさせ る作 用 で あ るか ら,人 格 的 生 存 を 保 障 す る人 権 条 項(憲 法13条 以 下)と の 関 係 も問 わ れ な けれ ばな らな い。 ま た,検 察 官 ・裁 判 所 が 刑 事 手 続 にお け るそ の 活 動 に お いて 取 引 的 行 為 を 行 う こ と は,憲 法 上 各 機 関 に与 え られ た 権 限 の 範 囲 内 に あ るか も問 題 で あ る。 我 が 国 の 最 高 裁 は,ロ 集49巻2号1頁)に. ッキー ド事 件 大 法 廷 判 決(最 大 判 平7・2・22刑. お いて,ア. メ リカの 刑 事 免 責 制 度 を 利 用 して 得 られ た. 証 人 供 述 の 証 拠 能 力 を 判 断 す る に あ た り,「我 が 国 の憲 法 が,そ の 刑 事 手 続 等 に関 す る諸 規 定 に照 ら し,こ の よ うな 制 度 の 導 入 を 否 定 して い る もの と まで は解 され な い」 と判 示 して い る。 も っ と も,同 判 決 で は,特 定 の 証 人 に免 責 を 与 え て 被 告 人 の 罪 状 立 証 に供 す る よ うな 取 引 的 手 法 の 採 用 が,如 何 な る憲 法 規 定 と の 関 係 で,如 何 な る 問 題 を生 じさ せ る も の で あ る か ま で,詳 細 に検 討 ・判 示 され て は いな い(3)。 こ こで は,上 記 最 高 裁 判 例 の 意 義 を 考 え る意 味 も含 めて,合 意 型 手 続 と 憲 法 規 定 との 関 係 を 検 討 す る。. (1)刑 事 手 続 に関 す る規 定 との 関 係 憲 法31条 は,刑 事 手 続 の 法 定 に加 え て,適 正 手 続 を 保 障 す る もの で あ る こ と に異 論 は な い④。 そ れ ゆ え,合 意 型 手 続 に よ る事 件 の処 理 が そ れ 自体 (3)多[H辰 @)佐. 也 ・刑 訴 法 判 例 百 選 第9版151,152頁(2011)。. 藤幸治. 「憲 法 ・第3版. 」587頁(1995)。. 3.

(4) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 不 公 正 な もの と して,こ の 適 正 手 続 条 項 に違 反 して はな らな い こ と は,当 然 で あ る。 その 上 で,合 意 型 手 続 が 個 別 の 法 規 定 を 必 要 とす る こ と まで, 本 規 定 か ら要 請 され るか は,さ. らな る検 討 が 必 要 で あ る。 この 点 は,既 に. 法 定 され た手 続 で あ る刑 訴 法 の 範 囲 内で 合 意 型 手 続 を 採 る こ とが で き るか と い う問 題 に解 消 され る こ とか ら,後 述 で 詳 論 す る。 合 意 型 手 続 を 用 い る際 に,憲 法 上 特 に問 題 とな るの が,自 権 又 は黙 秘 権 との 関 係 で あ る。 憲 法38条1項. 己負 罪 拒 否 特. は,「何 人 も,自 己 に不 利 益 な. 供 述 を強 要 され な い」 と規 定 し,無 実 者 はな おの こ と,仮 に事 件 の 真 犯 人 で あ って も,自 身 の 刑 事 手 続 に お いて 不 利 とな る供 述 を 国 家 機 関 よ り強 制 され て はな らな い こ と,つ ま り,供 述 を 行 う に あ た って の 意 思 決 定 と それ に基 づ く供 述 行 動 の 任 意 性 が 確 保 され るべ き こ とを 保 障 して い る。 仮 に, その よ うな 不 利 益 供 述 が 強 要 され た場 合 に は,こ れ に よ って 得 られ た供 述 を 「証 拠 とす る こ とが で きな い」(憲 法38条2項)。. 合 意 型 手 続 は,国 家 機. 関 が 被 疑 者 ・被 告 人 に一 定 の 条 件 と引 換 え に不 利 益 供 述(自. 白)の 提 供 を. 要 求 す る と い う手 法 が 典 型 で あ る こ とか ら,憲 法 上 の 問 題 が 生 じる。 も ち ろん,憲 法 は,被 疑 者 ・被 告 人 が 不 利 益 供 述 を 行 う こ とを 一 切 否 定 して い るわ けで はな く,任 意 の 自 白 は 当然 な が ら証 拠 と して 許 容 され る。 それ ゆ え,合 意 型 手 続 に お いて,被 疑 者 ・被 告 人 が 事 案 解 明 へ の 協 力(つ. ま り自. 白)を 強 制 され る こ と は許 され な いが,供 述 の 任 意 性 が 確 保 され る限 り, その よ うな 手 法 は憲 法 上 否 定 され るべ き もの で はな い。 も っ と も,我 が 国 の 憲 法 は,さ. らに,自 白の み で 有 罪 とす る こ とを 許 さず,他 の 証 拠 に よ る. 自 白の 補 強 を 要 求 して い る こ とか ら(憲 法38条3項),合. 意 型 手 続 に よ る事. 件 処 理 に際 して も,そ こで 得 られ た 自 白の 証 明 力 に関 して 一 定 の 制 限 が 課 され て い る こ と に留 意 しな けれ ばな らな い。 そ して,こ の よ うな 供 述 の 任 意 性 を 確 保 し,さ らに 自 白を 補 強 す る証 拠 に よ る有 罪 認 定 と い う憲 法 上 の 条 件 が 十 分 機 能 す る た め に は,被 疑 者 ・被 4.

(5) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 告 人 自身 が よ り主 体 的 ・能 動 的 に手 続 へ 関 与 す る こ とが 必 要 とな る。 そ の 際 に は,憲 法37条 に規 定 され た各 種 手 続 的 権 利 の 保 障 が 重 要 とな る。 具 体 的 に は,合 意 に基 づ いて 被 疑 者 ・被 告 人 が 自 白 し,主 と して そ れ を 証 拠 と して 有 罪 認 定 され る場 合 で も,裁 判 手 続 は公 開 か つ 対 審 の 条 件 にお いて 実 施 さ れ(憲 法37条1項),不 2項),そ. 利 益 証 拠 に 関 す る弾 劾 の 機 会 を与 え られ(同. して 弁 護 人 に よ る援 助 を受 け る権 利 が保 障 され て い な け れ ば な. らな い(同3項)。. こ れ らの点 は,現 行 刑 訴 法 との 関 係 にお いて 詳 細 に検 討. され るべ き もの で あ る こ とか ら,後 述 で 再 論 す る。. (2)一 般 的 人 権 条 項 との 関 係 憲 法11条 以 下 に よ り,す べ て の 国 民 は,「 す べ て の基 本 的 人 権 の享 有 」 を 保 障 され,「 個 人 と して尊 重 され る」。 す な わ ち,無 実 者 はな お の こ と, 真 犯 人 も,刑 事 手 続 の 過 程 に お いて,人 格 的 生 存 に不 可 欠 の 権 利 が 不 当 に 侵 害 され て はな らず,1個. の 人 格 と して その 尊 厳 を 尊 重 され な けれ ばな ら. な い。 例 え ば,被 告 人 が 刑 事 手 続 に お いて 国 家 に よ る審 問 の 単 な る客 体 と して の 地 位 に おか れ る場 合,そ の 者 は,主 体 的 地 位 が 否 定 され,人 間 の 尊 厳 を侵 され る こ と に な る。 刑 事 手 続 に お い て合 意 型 手 続 が 採 られ る場 合 も,被 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 地 位 が 保 障 され るた め に は,一 方 的 に合 意 を 強 要 され るの で はな く,あ くまで,被 疑 者 ・被 告 人 にお いて 主 体 的 ・能 動 的 な 関 与 の機 会 が保 障 さ れ な け れ ば な らな い。 そ の 前 提 と して は,被 疑 者 ・被 告 人 に は,合 意 に応 じ る か否 か の 自 由 が与 え られ な け れ ば な らな いo ま た,憲 法14条 に よ り,国 民 は,同 一 の 条 件 にお いて は,基 本 的 に 同一・ の 扱 いを う けな けれ ばな らず,合 理 的 理 由が な い限 り,差 別 的 な 扱 いを 受 けな い こ とが 保 障 され て い る。 検 察 官 ・裁 判 所 の 側 か ら合 意 が 提 案 され た 場 合,被 疑 者 ・被 告 人 が これ に応 じるか 否 か を め ぐって,不 当 に差 別 的 な 5.

(6) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 扱 い を 受 け る こ と に な っ て は な らな い 。 検 察 官 ・裁 判 所 は,合 採 用 に 関 して,恣. 意型手続の. 意 的 ・差 別 的 な 運 用 を 行 っ て は な らな い 。. こ れ 以 外 に,例 え ば,思 想 良 心 の 自 由(憲 法19条),信 表 現 の 自 由(同21条)な. ど,精. 教 の 自 由(同20条),. 神 的 自 由 権 と の 関 係 に お い て も,合. 意が強. 要 さ れ て は な らな い 。. (3)権 力 分 配 原 理 との 関 係 憲 法 は,人 権 保 障 規 定 に加 え て,各 国 家 機 関 の 権 限 分 配 に関 す る規 定 も 詳 細 に定 めて い る。 この う ち,刑 事 事 件 に関 して は,特 に司 法 機 関 の 権 限 との 関 係 が 問 題 とな る。 す な わ ち,刑 事 事 件 の 適 切 な 処 理 と犯 罪 者 の 適 正 か つ 迅 速 な 処 罰 は,お よ そ司 法 権 に属 す る権 限 で あ るが,こ の 権 限 を 行 使 す る裁 判 所(及. び検 察 官)が 被 疑 者 ・被 告 人 との 合 意 に よ って 事 件 を 処 理. す る こ とが この 司 法 権 の 範 囲 内 に あ る行 為 で あ るか が 問 わ れ な けれ ばな ら な い。 司 法 権 と は,基 本 的 に は,法 律 上 の 争 訟 につ いて,当 事 者 の 意 思 に関 わ らず 事 実 を 認 定 し,そ れ に法 律 を あて は めて 法 的 効 果 を 導 き,こ れ を 宣 告 す る こ とで解 決 を 図 る作 用 で あ る(5)。 そ れ ゆ え,司 法 権 の概 念 を純 粋 に適 用 す るな らば,当 事 者 と裁 判 所,あ. る い は 当事 者 間 で 合 意 に向 け た交 渉 の. 過 程 で 事 実 関 係 が 確 定 され,解 決 が 図 られ る こ と は,司 法 権 の 範 囲 を 超 え る もの とな りそ うで あ る。 も っ と も,司 法 権 は,刑 事 事 件 だ けで な く,民 事 事 件 も含 む 概 念 で あ る。 そ こで は,形 式 的 真 実 主 義 の 下,事 実 の 確 定 に あ た って,当 事 者 間 で 争 いの な い事 実 につ いて は,基 本 的 に裁 判 の 基 礎 と され る(「 弁 論 主 義 」(6))。 例 え ば,貸 金 返 還 訴 訟 に お い て,実 体 的 に は借 主. (5)佐. 藤(前. (6)新. 堂幸司. 掲 注(4))293頁,最. 大 判 昭27・10・8民. 『新 民 事 訴 訟 法 ・第4版. 』409頁(2008)。. 6. 集6巻9号783頁. 。.

(7) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). の 返 済 が な か っ た と して も,当 事 者 間 で 返 済 の 事 実 が あ った もの と合 意 さ れ れ ば,裁 判 所 は それ を 前 提 に判 決 を 下 す こ と にな る。 そ れ ゆえ,合 意 に 基 づ く事 実 認 定 が お よ そ司 法 権 の 範 囲 外 に あ る と い う こ と はで きな い。 も っ と も,民 事 訴 訟 の 理 論 が ただ ち に刑 事 訴 訟 にす べ て 適 合 す るわ けで もな い。 刑 事 事 件 は,私 的 利 益 を 離 れ た公 的 利 益 の 実 現 を 図 る こ とを 目的 と し(7),当事 者 間 の 合 意 の み に そ の処 理 を委 ね る こ とが 常 に許 され るわ け で はな い。 但 し,こ の 問 題 は,司 法 権 の 権 限 行 使 の 範 囲 内 にお いて,そ の 事 実 認 定 が 如 何 な る程 度 に お いて 実 体 に適 合 した もの で あ るべ きか と い う 問 題 で あ る。 それ ゆえ,こ. こで は,合 意 型 手 続 の 採 用 が,司 法 権 との か か. わ りに お いて お よ そ許 され な い もの と は いえ な い と確 認 され る こ とで 足 り る。 この 確 認 を 前 提 と した事 実 認 定 の 在 り方 如 何 の 問 題 は,次 の 刑 事 訴 訟 の 基 本 原 理(特. ⇔. に実 体 的 真 実 主 義)と の か か わ りで 詳 述 す る。. 刑 事 訴 訟 の 基 本 原 理 に関 す る論 点. 刑 事 手 続 に合 意 型 手 続 を 採 用 す る場 合,実 体 的 真 実 発 見 の 原 則,責 任 主 義(具 体 的犯 罪 に適 合 した 科 刑),刑. 事 司 法 の機 能 性 な ど,刑 事 訴 訟(刑. 事 法)上 の 基 本 原 理 との 関 係 が 問 題 とな る(8)。. (1)実 体 的 真 実 発 見 の 原 則 刑 訴 法1条. は,刑 事 事 件 の 処 理 ・解 決 に あ た り,「事 案 の 真 相 を 明 らか. に」 す る こ とを 要 請 す る。 す な わ ち,刑 事 訴 訟 で は,実 体 的 真 実 発 見 の 要. (7)最. 判 平17・4・21裁. (8)ヘ. ニ ン グ ・ ロ ー ゼ ナ ウ(田. 判 集 民216号579頁. 。. 口 守 一 訳)「. ドイ ツ 刑 事 手 続 に お け る 合 意 」 刑 事 法. ジ ャ ー ナ ル24号41,55頁(2010),HenningRosenau「DieAbsprachenim deutschenStrafverfahren」inHenningRosenau,SangyunKim (Hrsg.)「StraftheorieundStrafgerechtigkeit:Deutsch-Japanischer Strafrechtsdialog=ド. イ ツ. ・日 本. 刑 法 に 関 す る 対 話 」45頁. 7. 以 下(2010)。.

(8) 近畿大学法学. 請,つ. 第59巻 第1号. ま り 「実 体 的 真 実 主 義 」 が 妥 当 して い る(9)。 前 述 の通 り,民 事 訴 訟. で は,一 般 に,形 式 的 真 実 主 義 が 妥 当す るが,刑 事 訴 訟 は,私 的 利 益 の 実 現 で はな く,国 家 刑 罰 権 の 適 正 な 実 現 と い う公 的 利 益 を 追 求 す る もの で あ る た め,あ. くまで 真 実 の 解 明 が 要 請 され る。 従 って,刑 事 手 続 に お いて,. 検 察 官 ・裁 判 所 と被 疑 者 ・被 告 人 側 との 合 意 に よ り,実 際 に生 じた事 実 と 異 な る事 実 を 基 礎 と して 裁 判 が 下 され る場 合,こ の 実 体 的 真 実 主 義 との 関 係 が 問 題 とな る。 この 問 題 に関 連 して,そ. も そ も刑 事 訴 訟 で 探 求 され るべ き 「真 実 」 と は. 何 か,そ の 概 念 を 如 何 に理 解 す べ きか と い う点 も問 題 とな りう る。 第 一 の 見 解 は,刑 事 訴 訟 は実 際 に生 じた 事 実 を 確 認 す る もの で あ る との 理 解 か ら,い わ ば 絶 対 的真 実 を意 味 す る もの と理 解 す る。 も っ と も,こ の見 解 は, 人 的 能 力 の 制 限 を 前 提 に,訴 訟 に お け る事 実 の 存 在 は 「高 度 の 蓋 然 性 」 を も っ て満 足 す べ き とす る⑩。 こ れ に 対 して,第 二 の 見 解 は,第 一 の 見 解 に よ る絶 対 的 真 実 の 存 在 を 前 提 と し,訴 訟 上 の 事 実 解 明 に お け る人 的 能 力 の 制 限 か ら くる齪 齪},つ ま り絶 対 的 真 実 と訴 訟 的 真 実 の 二 項 対 立 関 係 の 存 在 を否 定 し,訴 訟 に お け る ツー ル の 制 限 を 前 提 と して,事 実 概 念 を 規 範 的 ・ 構 成 的観 点 か ら把 握 す る(ID。 両 見 解 の 対 立 か ら,刑 事 訴 訟 に お け る合 意 型 手 続 の 導 入 可 能 性 を 検 討 す るな らば,確 か に,第 二 の 見 解 に よ る限 りで, 合 意 に至 る手 続 が 規 範 的 に公 正 な もの で あ る こ とを 条 件 に,合 意 型 手 続 も 真 実 に至 る一 つ の プ ロセ ス と して 承 認 され る よ う に思 わ れ る。 これ に対 し て,第 一 の見 解 の よ うに絶 対 的 真 実 の 追 求 を 要 請 す るな らば,「 真 実 」 と 異 な る事 実(多. くは その よ うな 妥 協 的 な 解 決)に 至 る合 意 型 手 続 は,否 定. され るべ き こ と にな りそ うで あ る。. (9)鈴 ⑩ (ID豊. 木茂嗣. 『刑 事 訴 訟 法 ・改 訂 版 」16頁(1990)。. 最 判 昭23・8・5刑 崎七絵. 集2巻9号1123頁,最. 『刑 事 訴 訟 に お け る 事 実 観 」210頁. 8. 判 昭48・12・13判 以 下(2006年)。. 時725号104頁. 。.

(9) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). も っ と も,仮 に,第 一 の 見 解 の よ う に絶 対 的 真 実 の 探 求 を 要 請 す る と し て も,刑 事 訴 訟 の 目的 如 何 との 関 係 に お いて,そ の よ うな 真 実 探 求 の 要 請 は,必 ず しも絶 対 的 な もの で はな く,他 の 利 益 との 調 整 か ら妥 協 の 余 地 は 残 さ れ て い る よ う に思 わ れ る⑫。 す な わ ち,絶 対 的 真 実 の探 求 が刑 事 訴 訟 に お け る究 極 の 目標 で あ る とす るな らば,そ こ に はお よそ 妥 協 に よ る解 決 は許 され な い こ と とな るが,し か し,刑 事 訴 訟 の 目的 を この よ うな 絶 対 的 真 実 の 探 求 ・解 明 に尽 き る と理 解 す る こ と はで きず,ま た,こ れ まで そ の よ うな 理 解 が 一 般 的 で あ っ た と も思 わ れ な い。 す な わ ち,後 述 す る通 り, 我 が 国 の 刑 訴 法 は,刑 事 訴 追 に お け る検 察 官 の 広 範 な 裁 量 を 認 めて い る。 具 体 的 に は,起 訴 便 宜 主 義(刑 訴 法248条)に. よ る裁 量 的 な手 続 打 切 りや,. 訴 因制 度 の 採 用 に よ り裁 判 所 の審 判 権 限 が 制 限 を 受 け る(刑 訴 法256条) と い っ た規 定 が あ る。 この こ と は,実 際 に生 起 した 犯 罪 事 実 を 完 全 に解 明 し,真 実 に100%適 合 した処 罰 を科 す る こ と が,必 ず しも至 上 命 題 と され て い るわ けで はな い こ とを 示 して い る。 す な わ ち,訴 訟 資 源 や,刑 事 政 策 的 考 慮 に よ る他 の 利 益 の た め に,一 定 程 度 真 実 の 解 明 が 劣 後 す る こ と は,我 が 国 の 刑 事 司 法 に 内在 した理 解 で あ る。 そ して,こ の よ うな 利 益 衡 量 に よ る真 実 解 明 の 制 限 に一 定 の 合 理 性 が 認 め られ る とす るな らば,実 体 的 真 実 解 明 が 刑 事 訴 訟 の 最 上 の 目的 で はな い こ とを 示 して い る。 す な わ ち,刑 事 訴 訟 は,犯 罪 に よ って 混 乱 に疑 め られ た法 的 平 穏(平 和)の 回 復 に資 す るべ き法 制 度 で あ り,通 常 は(原 則 と し て は),実 際 に発 生 した事 実 に適 合 した刑 罰 を科 す る こ と に よ り,法 秩 序 が 回 復 され,ひ. いて は,法 的 平 穏 が 回 復 され る こ と にな る。 しか し,そ の た. めの 資 源 に は限 界 が あ り,ま た,真 実 解 明 の た め いた ず ら に訴 訟 が 長 期 化 す る こ と にな れ ば,逆 に,法 的 平 穏 の 回 復 が 妨 げ られ る こ と に もな る。 す q2)KorinnaWeichbrodt「Das sprachen」75頁. KonsensprinzipstrafprozessualerAb一 以 下(2006)。. 9.

(10) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. な わ ち,実 体 的 真 実 解 明 は,法 的 平 穏 を 回 復 す る た めの 一 つ の 手 段 にす ぎ ず,通 常 そ れ は 重 要 な もの で あ るか ら,む や み に柾 げ られ て は な らな い が, 他 の や は り法 的 平 穏 を 回 復 す る た め の 利 益 と の 関係 で,100%の. 真実 解明. よ りも優 先 す べ き利 益 が 存 す る場 合,一 定 の 妥 協 も許 され るの で あ る⑱。 この よ う に理 解 す るな らば,実 体 的 真 実 主 義 を 前 提 に して も,合 意 型 手 続 に よ る事 件 解 決 が お よ そ否 定 され る もの と は いえ な い。. (2)責 任 主 義 刑 罰 は,質 的 に も,量 的 に も,犯 人 の 責 任 に相 応 した もの と され な けれ ばな らな い。 刑 訴 法1条. は,「刑 罰 法 令 を適 正 … … に適 用 実 現 す る こ と」を. 要 請 して い る。 責 任 主 義 は,実 体 法 上 の 基 本 原 則 で あ るが,訴 訟 上 も その 実 現 が 要 請 され て い る。 犯 罪 者 の 責 任 に関 して,通 説 的 見 解 に よ る と,犯 罪 の 性 質 ・程 度 に応 じ た一 定 の 幅 を 前 提 に,そ の 範 囲 内で 一 般 予 防 や 特 別 予 防 の 観 点 を 考 慮 して 具 体 的 に決 定 され るべ き と され て い る(「幅 の 理 論 」⑭)。 ドイ ツの 判 例 に よ る と,具 体 的 宣 告 刑 が,行 為 者 に お け る責 任 の 上 限 を 超 え て はな らな いだ けで な く,下 限 を 下 回 る こ と も許 され な い⑮。 例 え ば,合 意 型 手 続 に よ り 具 体 的 宣 告 刑 が 交 渉 され る と き,責 任 の 上 限 を 超 え て はな らな いだ けで な く,責 任 の 下 限 と い う観 点 か らの 制 限 も考 慮 しな けれ ばな らな い。 も ち ろん,量 刑 が 責 任 の 上 限 を 超 え て はな らな いだ けで な く,下 限 を 下 回 って もな らな い との 要 請 が,そ. も そ も責 任 主 義 か ら直 ち に導 か れ る もの. で あ るか は,検 討 の 余 地 が あ る。 しか し,仮 に その よ うな 要 請 が 責 任 主 義. q3)Wichbrodt(前 (14)井. 田良. 論 」)と ⑮BGH刑. 掲 注q2))38頁. 以 下 。 本 稿 三2(1)参. 「講 義 刑 法 学 ・総 論 」560頁(2008)。. し て,松. 宮孝明. 『刑 法 総 論 講 義 ・第4版. 事 第 二 部1965年8月4日. 照。. こ れ に 反 対 す る 見 解(「 点 の 理 」348頁(2009)。. 判 決(BGHSt20,264)。. 10. 本 稿 三5(1)参. 照。.

(11) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). と は切 り離 され る と して も,下 限 か らの 逸 脱 が 過 剰 な もの とな る と き,そ の よ うな 量 刑 は,刑 事 訴 訟 に お け る法 的 平 穏 の 回 復 と い う観 点 か ら否 定 さ れ るべ き こ と にな る。 それ ゆえ,責 任 主 義 は,行 為 者 に お け る責 任 の 幅 を 前 提 に,具 体 的 科 刑 に関 す る交 渉 に一 定 の 余 地 を 残 す もの で は あ るが,責 任 の 範 囲 を 逸 脱 して はな らな い と い う意 味 に お いて,合 意 型 手 続 の 導 入 に あた りそ の 限 界 を 画 す る要 素 とな る。. (3)刑 事 司 法 の 機 能 との 関 係 さ らに,刑 事 司 法 の 役 割 ・機 能 との 関 係 で,そ. もそ も検 察 官 ・裁 判 所 と. 犯 罪 者(と 前 提 され る被 疑 者 ・被 告 人)と の 間 で,罪 責 又 は科 刑 に関 して 交 渉 ・取 引 が 行 わ れ る こ との 当否 が 問 題 とな る。 す な わ ち,刑 事 司 法 は, あ くまで 公 権 的 な 立 場 か ら,刑 事 訴 追 機 関 が 事 案 の 解 明 に向 けて 活 動 し, 裁 判 機 関 が 訴 追 側 か ら提 出 され る主 張 と証 拠 を 吟 味 して 真 実 の 発 見 に 努 め,そ れ に よ って 認 定 され た犯 罪 事 実 に適 した刑 罰 を 科 す る と い う構 造 を 本 質 的 とす る こ とか ら,そ こ に,一 般 市 民 で あ る被 疑 者 ・被 告 人 との 交 渉 ・取 引 は介 在 す る余 地 が な いの で はな いか,と. い う問 題 で あ る。. も っ と も,こ の 点 は,旧 来 の よ うな 検 察 官 ・裁 判 所 側 の 一 方 的 か つ 片 面 的 な 構 成 で の,事 案 解 明 に向 け た職 権 主 義 的 訴 訟 構 造 を 採 る場 合 は と もか く⑯,現 行 刑 訴 法 は,周 知 の ご と く,被 疑 者 ・被 告 人 に主 体 的地 位 を認 め, 手 続 へ の能 動 的 な 関 与 を そ の基 本 原 理 の 一 つ と して い る⑰。 ま た,通 常 の 公 判 を 行 う よ りも簡 易 迅 速 な 処 理 を 可 能 とす る略 式 手 続 及 び即 決 裁 判 手 続 q6)も. っ と も,職 権 主 義 型 の訴 訟 構 造 を採 る こ とが直 ち に 合意 型 手 続 の 導 入 を 妨. げ るわ けで は な い。 ロ ー ゼ ナ ウ(前 掲 注(8))55,61頁. は,審 理 の 運 営 に責 任 を. 負 う ドイ ツ型 職 権 主 義 の方 が,合 意 の適 正 を確 保 す る こ とに 資 す る と述 べ て い る。 ⑰. 鈴 木(前 掲 注(9))19,44頁. 。. 11.

(12) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. は被 疑 者 の 同意 を条 件 と し(刑 訴 法350条 の2第2項,461条. の2),手. 続. 進 行 に お いて も,書 面 に関 す る被 告 人 の 同意 に よ る証 拠 能 力 付 与 規 定(刑 訴 法326条)な. ど,一 定 の 場 合 に お い て,検 察 官 ・裁 判 所 と被 疑 者 ・被 告. 人 との 協 働 に よ る訴 訟 遂 行 が 予 定 され て い る。 これ らの 手 続 を 行 う た め に は,通 常,主 体 間 で の 話 し合 いが 先 行 して い る こ とが 条 件 とな る。 その 際 に は,訴 訟 の具 体 的状 況 に応 じて,双 方 よ り一 定 の譲 歩(例 え ば,被 疑 者 ・ 被 告 人 の 自 白 と引 換 え に,減 軽 され た科 刑 の 約 束)が 行 わ れ る こ と も否 定 で きな い。 この よ うな 規 定 は,よ. り重 大 な,又. は真 に争 いの あ る事 件 に刑. 事 司 法 の 資 源 を 集 中 させ る こ と に資 す る。 この こ と は,刑 事 司 法 の 運 営 に あ た り,そ の 責 任 は国 家 の 側 に あ る と して も,被 疑 者 ・被 告 人 側 の 協 働 を す べ て 排 除 す る もの で はな い こ とを 示 して い る⑱。 以 上 の 考 慮 か ら,刑 事 司 法 の 役 割 ・機 能 との 関 係 に お いて も,検 察 官 ・ 裁 判 所 と被 疑 者 ・被 告 人 側 との 交 渉 を 含 め た共 同的 な 訴 訟 運 営 は,そ こ に 一 定 の 合 理 性 が 認 め られ る限 り,一 切 否 定 され るべ き もの と は いえ な い。. 2.現. 行 法 との 適 合 可 能 性. 合 意 型 手 続 の 使 用 は,現 行 法 に適 合 す る もの で あ るか 。 既 に現 行 法 下 に お いて も,一 定 の 合 意 型 手 続 を 採 用 す る こ とが 可 能 で あ るか が,問 題 とな る。 こ こで は,特 に各 手 続 段 階 に お け る刑 訴 法 上 の 重 要 規 定 ・原 則 との 関 係 を検 討 す る。. (■)起 訴 前 段 階 (1)捜 査 法 の 諸 原 則 との 関 係 警 察 又 は検 察 官 の 取 調 に際 して, 一 定 の 利 益 と引 換 え に供 述 を 求 め る場. ㈹. 加 藤(前. 掲 注(1))8頁. 。. 12.

(13) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 合,そ の よ うな 捜 査 手 法 が 現 行 法 の 諸 規 定 に適 合 す るか が 問 題 とな る。 こ こで は,特 に捜 査 の 諸 原 則 で あ る比 例 性 原 則,強 制 捜 査 固 有 の 諸 原 則 との 関 係 如 何 につ いて 検 討 す る。 まず,こ. の よ うな取 引 を 用 い た捜 査 手 法 が 強 制 処 分 に該 当 す る場 合 ⑲,. 強 制 処 分 法 定 主 義 及 び令 状 主 義 の 観 点 か ら,個 別 詳 細 な 手 続 を 定 め る立 法 が 必 要 とな る。 例 え ば,ア メ リカ合 衆 国 等 に お け る刑 事 免 責 制 度(不 訴 追 又 は証 拠 排 除 等 の 利 益 付 与 と引 換 え に,供 述 者 の 自己 負 罪 拒 否 特 権 を 失 わ せ る方 式)は,供. 述 者 の 同意 如 何 に関 わ らず 捜 査 ・司 法 機 関 側 の 片 面 的 な. 意 思 決 定 に よ り行 わ れ う る もの で あ り,供 述 を 強 制 す る効 果 を 持 つ 手 法 で あ る こ とか ら⑳,強 制 処 分 で あ る。 それ ゆえ,現 行 法 上,合 意 型 手 続 に よ り 供 述 を 求 め る場 合 に お いて も,あ. くまで 供 述 者 が 任 意 に応 じる限 りで の み. 許 容 され るの で あ り,一 方 的 に免 責 を 付 与 しこれ と引 換 え に供 述 を 強 制 す る と い っ た手 法 は許 され な い。 ま た,形 式 的 に は供 述 者 が 任 意 に取 引 に応 じたか に見 え る場 合 で も,供 述 と引 換 え に提 供 され る利 益 の 内容 が,そ の 性 質 ・程 度 に お いて 取 引 を 拒 否 した場 合 に比 較 して 著 しい格 差 が あ り,実 質 的 に は も はや 供 述 者 の 側 に選 択 の 余 地 が な い とみ られ る場 合 も,強 制 処 分 と して 現 行 法 上 は禁 止 され る もの と解 され る。 も ち ろん,新 た な 立 法 に よ り,こ の よ うな 手 法 を 導 入 す る こ とが で き るか は,別 問 題 で あ る⑫1)。 ま た,前 述 の 意 味 で 強 制 処 分 性 が 否 定 され る と して も,な お,捜 査 一 般 に妥 当す る比 例 性 原 則 が 考 慮 され な けれ ばな らな い。 す な わ ち,当 該 取 引 手 法 を 用 い る こ との 必 要 性 ・相 当性 如 何 が 問 題 とな る。 この 点,特. (19)強. 制 処 分 該 当 性 に 関 し て,辻. 本典央. 「刑 訴 法 上 の. て(1)(2)未 完 」 近 法56巻3号(2008),57巻1号(2009)参 ⑳. 小早 川 義 則 (1995),榎. 「訴 追 免 除 」 松 尾 ・井 上 編. 本雅 記. ⑳. 最 大 判 平7・2・22刑. 『強 制 の 処 分 」 概 念 に つ い 照。. 「刑 事 訴 訟 法 の 争 点 ・新 版 」112頁. 「刑 事 免 責 に 基 づ く 証 言 強 制 制 度(1)∼(4)」. (2005),55巻2号(2005),55巻4号(2006),56巻2号(2006)。 集49巻2号1頁. 。. 13. に近 時. 名 城54巻3号.

(14) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. の 取 調 可 視 化 に関 す る議 論 に お いて,自. 白が 得 られ が た くな る こ との 手 当. て と して,合 意 型 手 続 導 入 の 必 要 性 が主 張 され て い る⑳。 この見 解 に よ る な らば,取 調 の 可 視 化 が 進 め られ,全 て の 事 件 につ いて 全 過 程 の 録 音 ・録 画 が 行 わ れ る とす る と,こ れ と引 換 え に,全 て の 取 調 に際 して 合 意 型 手 続 を用 い る こ と は,少 な くと も必 要 性 要 件 を 満 たす こ と にな りそ うで あ る。 も っ と も,こ の よ うな 帰 結 を 導 くた めの 前 提 と して,そ. も そ も,取 調 の 可. 視 化 が 果 た して 自 白 等 の 供 述 を 得 る こ と を 困 難 に さ せ る もの で あ る との テ ー ゼ が 合 理 的 か つ 妥 当 な も の で あ る か が 問 わ れ な け れ ば な らな い。 仮 に,従 前 の 密 室 に お け る取 調 で 不 当 に(特 に虚 偽 の)供 述 を 強 制 され て い た こ とが む しろ病 理 的 現 象 で あ り,こ れ を 予 防 す る た め に可 視 化 が 図 られ るの で あ る とす るな らば,可 視 化 に よ り一 定 程 度 自 白獲 得 の 割 合 が 減 少 す る と して も,そ れ はむ しろ生 理 的 現 象 と い うべ き変 化 で あ り,さ らに それ を是 正 す る た め に合 意 型 手 続 を 導 入 す る こ との 必 要 性 はな い と いわ な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,必 要性 要件 を考 え る場 合 には,自 白獲 得 の便 宜(仮 に これ が 必 要 性 の 一 要 素 で あ る と して も)に 加 え て,何 か 別 の 利 益 が 探 求 され な けれ ばな らな い。 その 際 に は,刑 事 司 法 の 効 率 的 な 運 営 と い う,よ り大 局 的 な 視 点 か らの 考 察 が 可 能 で あ る と思 わ れ る。 す な わ ち,合 意 型 手 続 の 採 用 は,諸 外 国 の 議 論 で も見 られ る通 り,刑 事 司 法 の 負 担 軽 減 と,そ れ に伴 う重 大 ・重 要 な 事 件 へ の 資 源 集 中 と い う点 に,そ の 中心 的 な 目的 が 認 め られ る㈱。 そ れ ゆ え,取 調 の過 程 で合 意 型 手 続 を用 い る こ と は,軽 微 な 事 件 にの み 認 め られ,重 大 ・重 要 事 件 で は必 要 性 が 否 定 され る こ と にな る よ う に思 わ れ る。 も っ と も,ど の よ うな 事 件 が 重 大 ・重 要 で あ り,逆 に. ⑳. 警 察 庁 ・捜 査 手 法,取 調 べ の高 度 化 を 図 る た め の研 究 会 「捜 査 手 法,取 調 べ の 高 度 化 を 図 る た め の研 究 会 に お け る検 討 に 関 す る中 間 報 告 」36,39頁(2011 年4月 公 表)。. ㈱. 本 稿 三1,2(1)参. 照。. 14.

(15) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 軽 微 で あ るか は,判 断 者 に よ って 流 動 的 で あ り,明 確 な 基 準 が な けれ ば恣 意 的 に 運 用 され る 恐 れ もあ る。 実 際 の 運 用 に 当 た って は,一 定 の 明確 な ル ー ル 付 けが 必 要 で あ る と思 わ れ る。 その 際 に は,捜 査 機 関 側 か ら不 当 な 運 用 が な され な い よ う,手 段 の 相 当性 を 確 保 す るた めの ル ー ル も要 求 され る。. (2)検 察 官 の 訴 追 裁 量 との 関 係 我 が 国 の 刑 訴 法 は,検 察 官 を 訴 追 機 関 と して,公 訴 提 起 の 権 限 を 独 占 さ せ,そ. の権 限 行 使 に 際 して 広 範 か つ 強 力 な裁 量 権 を 与 え て い る。 す な わ. ち,検 察 官 起 訴 独 占主 義 及 び起 訴 裁 量 主 義 を 採 用 して い る(刑 訴 法247・ 248条)。 これ に よ って,法 的 ・刑 事 政 策 的 専 門 家 で あ る検 察 官 が,一 定 の 基 準 を 維 持 しつ つ,個 別 具 体 的 事 件 に際 して,事 件 の 性 質 や 犯 人 の 改 善 更 生 な ど様 々 な 要 素 を考 慮 に い れ て 刑 事 訴 追 の 当 否 を 決 定 す る こ と が で き る。 そ れ ゆ え,検 察 官 の 公 訴 提 起 に 当 た って の権 限 独 占及 び裁 量 権 行 使 は,そ の 積 極 的 な 効 果 を 踏 まえ て,我 が 国 の 刑 訴 法 の 基 本 原 理 と して 妥 当 して い る⑫ の 。 も っ と も,こ の よ う な強 力 な権 限 が 濫 用 され て は な らな いの も,当 然 で あ る。 検 察 官 が,法 的 に付 与 され た権 限 を逸 脱 ・濫 用 す る とき, 刑 事 手 続 の 公 正 な 運 営 が 阻 害 され て しま う。 それ ゆえ,か か る検 察 官 の 起 訴 権 限 行 使 に際 して,不. 当不 起 訴 に対 して は,検 察 審 査 会 や 付 審 判 請 求 手. 続 と い っ た法 的 制 度 が,ま. た不 当起 訴 に対 して は,公 訴 権 濫 用 論 を は じめ. とす る解 釈 ・運 用 上 の コ ン トロー ル が 予 定 され て い る。 検 察 官 が,起 訴 に あ た り,被 疑 者 側 に取 引 を も ちか け,一 定 条 件 の 下 で 特 定 の 被 疑 事 実 につ いて 起 訴 を 見 送 る,又 は略 式 手 続 や 即 決 裁 判 手 続 を 申 し立 て る(そ れ に よ り,通 常 公 判 よ りも軽 い刑 に よ って 終 局 的 に処 理 され. ⑳. 鈴 木(前 掲 注(9))98頁 。. 15.

(16) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. る よ う約 束 す る)と い った訴 訟 活動 を行 う こ とが想 定 され る。 前 述 の通 り, 略 式 手 続 や 即 決 裁 判 手 続 は被 疑 者 ・被 告 人 の 同意 を 条 件 と して お り,そ こ に は一 定 の 取 引 的 要 素 が 介 在 す る こ と は,法 律 上 予 定 され て い る。 ま た, 訴 因 制 度 の 採 用 に よ り,こ れ が 起 訴 裁 量 主 義 と組 み 合 わ され る こ とで,検 察 官 が 事 件 の 全 体 的 事 情 を 考 慮 して,特 定 の 訴 因 につ いて 全 部 又 は一 部 の 起 訴 を見 送 る こ と も,基 本 的 に許 され て よ い㈱。 も っ と も,例 え ば,共 犯 事 件 や,組 織 的 犯 罪 事 件 に お いて,特 定 の 行 為 者 につ いて 免 責 を 与 え,そ れ を他 の 者 の罪 状 認 定 の た め の 証 拠 と して 使 用 す る とい っ た場 合 を考 え る と,か か る取 引 的 訴 訟 活 動 を その 訴 追 裁 量 に基 づ き全 面 的 に検 察 官 の 判 断 に委 ね るわ け に は いか な い。 この こ と は,単 独 犯 の 事 例 に お いて も 同様 で あ る。 そ こ に は,刑 事 手 続,刑 罰 の公 平 性,ひ い て は,刑 罰 の 感 銘 力 と い っ た,刑 事 司 法 全 体 の 理 念 との 関 係 で,一 定 の 限 界 が あ る と いわ な けれ ばな らな い。 それ ゆえ,現 行 法 上,検 察 官 の 訴 追 裁 量 に基 づ き,基 本 的 に,起 訴 権 限 を背 景 とす る合 意 型 手 続 の 導 入 は許 され て よ いが,濫 用 ・逸 脱 を 防 止 す る た め に,そ の よ うな 訴 追 活 動 を 行 う た めの 明 確 な 基 準 が 予 め設 定 さ れ る こ とが 望 ま しい。. (⇒ 起 訴 後 段 階 (1)公 判 手 続 の 諸 原 則 との 関 係 公 判 手 続 に関 して,特. に 「公 開 主 義 」,「口頭 主 義 」,「迅 速 裁 判 の 要 請 」,. 「法 定 裁 判 管 轄 」 の諸 原 則 との 関係 が 問題 とな る。 まず,憲 法37条1項. ・82条1項 に よ る と,公 判 手 続 は公 開 の 下 で 行 わ れ. な けれ ばな らな い。 これ は,主 と して,事 実 認 定 が 行 わ れ る手 続 を 公 開 の 下 で実 施 さ れ る こ とで,被 告 人 に と って 不 当 な 扱 い が 防 止 さ れ る と と も ㈲. 最 決 昭59・1・27刑. 集38巻1号136頁,最. 頁。. 16. 大 判 平15・4・23刑. 集57巻4号467.

(17) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). に,一 般 市 民 に と って も裁 判 へ の信 頼 を確 立 す る こ と を 目的 とす る㈱。 一 定 の 事 情 か ら公 序 良 俗 に反 す る場 合,公 判 手 続(「 対 審 」)を 非 公 開 とす る こ と もで き るが,判 決 は常 に公 開 され な けれ ばな らな い(憲 法82条2項)。 刑 事 手 続 に お いて 合 意 型 手 続 が 用 い られ,そ の 交 渉 及 び締 結 が 法 廷 外 の 非 公 開 の場 で行 わ れ る こ と に な れ ば,公 開主 義 との 関 係 が 問題 とな る⑳。 こ の 問 題 に関 して,ド. イ ツ法 の 議 論 を み る と,次 の よ う に理 解 され て い る。. まず,各 訴 訟 主 体 は従 来 か らも法 廷 外 で 一 定 の 打 合 せ を 行 う こ と まで 否 定 され て い るわ けで はな く,取 引 に よ る合 意 が 行 わ れ る場 合 で も,事 前 の 話 合 いが 一 切 許 され な い と い うわ けで はな い。 これ を 前 提 に,合 意 の 形 成 が 最 終 的 に公 開 公 判 の 場 で 行 わ れ,事 前 の 打 合 せ と合 意 の 手 続 ・内容 が 公 判 調 書 に記 載 され る限 り,公 開 主 義 に違 反 す る もの で は な い㈱。 この よ うな 理 解 に基 づ いて,ド. イ ツの 新 法 は,必 要 と され る手 続 を 規 定 し,合 意 が 公. 開 主 義 に違 反 す る もの で は な い こ とを 明 示 して い る(StPO257b条 条1a項)。. ・273. 我 が 国 で 合 意 型 手 続 が用 い られ る場 合 で も,同 様 に考 え る こ. とが で き る。 す な わ ち,合 意 に至 る交 渉 が 起 訴 後 に行 わ れ る場 合 はな お の こ と,捜 査 段 階 で 交 渉 が 行 わ れ た場 合 で も,そ の こ と 自体 が 否 定 され るわ けで はな い。 但 し,そ の 際 に は,ド イ ツの 新 法 に見 る通 り,公 開 主 義 の 趣 旨か ら,合 意 の 内容 が 公 開 公 判 の 場 で 公 表 され,事 前 交 渉 も含 めた 合 意 形 成 の 過 程 が 公 判 調 書 等 に お いて 明 示 され る こ とが 必 要 で あ る。 次 に,公 開 主 義 と関 連 して,公 開 公 判 の 場 で 各 訴 訟 主 体 よ り口頭 で 述 べ られ た こ とだ けが 事 実 認 定 の 基 礎 とな りう る と い う,口 頭 主 義 が 要 請 され る。 裁 判 を 公 開 して も,も っぱ ら書 面 の み の や り取 りで 裁 判 が 進 め られ, 裁 判 所 が その 書 面 を 読 む だ けで 事 実 認 定 を 行 う と い う場 合,事 実 認 定 の 過. ⑳. 田 口守 一. ⑳. 本 稿 三2(2)(111)参 照 。. 「刑 事 訴 訟 法 ・第5版. ㈱. ロ ー ゼ ナ ウ(前. 掲 注(8))58頁. 」233頁(2009)。. 。. 17.

(18) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 程 を公 衆 の 面 前 で 行 う こ と に よ りチ ェ ックす る と い う,公 開 主 義 の 趣 旨が 没 却 され る。 それ ゆえ,口 頭 主 義 は公 開 主 義 との 関 連 に お いて,裁 判 の 基 本 原 則 とな る⑳。 取 引 に よ る合 意 に基 づ い て 一 定 の 事 実 又 は量 刑 が 決 定 さ れ る場 合,口 頭 主 義 との 関 係 が 問 題 とな る。 も っ と も,こ の 問 題 に関 して も,公 開 主 義 の 問 題 と 同様,事 実 認 定 の 重 要 部 分 につ いて 公 開 性 が 確 保 さ れ,公 開 公 判 の 場 で 合 意 の 手 続 ・内容 に関 して 弾 劾 の 機 会 が 確 保 され て い る限 りで,な. お 口頭 主 義 の 要 請 に反 す る もの と は いえ な い と思 わ れ る。. 第 三 に,刑 事 裁 判 は,迅 速 性 が 要 求 され(憲 法37条1項),継. 続 的かつ. 集 中 的 な審 理 が 行 わ れ な け れ ば な らな い(刑 訴 法281条 の6)G①。 これ に よ り,刑 罰 法 令 の 迅 速 な 適 用(刑. 訴 法1条)が. 実 現 さ れ る と と もに,被 疑. 者 ・被 告 人 に と って も負 担 の 大 き い 手 続 の 長 期 化 を 避 け る こ と が で き る㊤1)。 取 引 に よ る合 意 に基 づ い て事 件 が 解 決 され,判 決 が下 され る場 合, 一 般 的 に は,公 判 が 開 か れ る場 合 に比 べ て 手 続 が 迅 速 に行 わ れ る こ とか ら,裁 判 の 迅 速 性 に と って 合 意 型 手 続 の 採 用 は好 ま しい もの と いえ よ う。 も っ と も,交 渉 に際 して よ り有 利 な カー ドを 手 に入 れ るべ く,例 え ば捜 査 手 続 が い たず らに長 期 化 す る よ うな 場 合,必 ず しも裁 判 の 迅 速 性 に資 す る と は限 らな い。 ま た,通 常 な らば起 訴 便 宜 主 義 的 理 由 に よ り起 訴 猶 予 とな る よ うな 事 案 や,略 式 手 続 で 処 理 され る よ うな 事 案 が,他 の 重 大 事 件 との ⑳. 鈴 木(前. ⑳2010年. 掲 注(9))136頁. 。. ベ ル リ ン で 開 催 さ れ た 第68回. ドイ ツ 法 曹 大 会 刑 事 法 部 会 で は,「 手 続. 迅 速 の 要 請 は 刑 事 手 続 の 再 構 築 を 必 要 と す る か 」 と い う 問 題 を テ ー マ に,刑 事 手 続 に お け る 合 意,証. 拠 調 請 求 の 期 限,手. 続 保 障 の主 張 制 限 とい った 個 別 問. 題 が 議 論 さ れ た(HansKudlich(Gutachten)「ErfordertdasBschleunigungsgeboteineUmgestaltungdesStrafverfahrens?Verst註ndigung-FristsetzungfUrBeweisantr註ge-Beschr註nkungderGeltendmachungvonVerfahrensgarantien」in「Verhandlungendes68.DeutschenJuristentages,Berlin2010」)。 ⑳. 近 時 の 文 献 と し てHerbertLandau「DieAmbivalenzdesBeschleunigungsgebots」inFS-Hasemmer(2010)。. 18.

(19) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 関 係 で 交 渉 材 料 と して 持 ち 出 され る場 合,裁 判 の 迅 速 性 に反 す る効 果 を 持 つ こ と も考 え られ る働。 それ ゆ え,個 別 の事 情 に よ っ て は,裁 判 の迅 速 性 の 要 請 か ら,一 定 の 取 引 交 渉 が 禁 止 され う る と いわ な けれ ばな らな い。 最 後 に,刑 事 裁 判 に は 各 事 件 ご との 事 情 か ら,土 地 管 轄 ・事 物 管 轄 と い っ た規 定 に基 づ いて,法 律 上 その 事 件 を 裁 く裁 判 体 が,原 則 と して あ ら か じめ法 律 上 決 定 され て い る。 この 法 定 裁 判 管 轄 は,恣 意 的 な 裁 判 選 択 を 防 止 し,公 平 な裁 判 所 を 確 保 す る た め重 要 な 制 度 で あ る㈹。 この原 則 との 関 係 で,例 え ば,裁 判 員 裁 判 対 象 事 件 につ いて,取 引 交 渉 に基 づ き,裁 判 員 を 除 外 す る よ うな 事 態 が 生 じた と き,一 定 の 問 題 が 生 じ る。 具 体 的 に は,取 引交 渉 に基 づ き,あ え て 裁 判 員 裁 判 の 対 象 外 とな る事 件 に 「格 下 げ」 して 起 訴 す る場 合,あ. る い は,裁 判 員 裁 判 で 行 わ れ るべ き事 件 審 理 が,実. 質 的 に は法 廷 外 の 交 渉 に よ り裁 判 員 を 除 外 して その 結 論 が 先 取 りされ る場 合 に,恣 意 的 な 裁 判 選 択 の 問 題 が 浮 か び上 が る。 も っ と も,前 者 の 問 題 に つ いて は,既 に訴 因 制 度 の 採 用 に よ る審 判 権 限 の 拘 束 と い う現 行 法 の 前 提 か らは,検 察 官 の 訴 追 裁 量 と して な お許 容 範 囲 に と ど ま る限 りで,裁 判 員 裁 判 を 除 外 した起 訴 もな お許 容 され て よ い。 これ に対 して,後 者 の 問 題 に 関 して は,ド イ ツ で も盛 ん に議 論 され て きたGの 。 前 述 の通 り,参 審 員 を 除 外 す る事 前 交 渉 は,こ の 法 定 裁 判 管 轄 の 原 則 に違 反 す るの で はな いか が 問 わ れ て き たの で あ る。 も っ と も,こ の 問 題 に関 して も,最 終 的 に新 法 は, 公 開 主 義 と 同様,合 意 自体 が 参 審 員 の 参 加 す る公 判 の 場 で 行 わ れ,交 渉 の 経 過 及 び 内 容 が 公 判 で報 告 され る こ とで 足 り る と した(StpO257b条 257c条3項)。 舩. ・. 事 件 に関 す る交 渉 は微 妙 な 実 務 感 覚 と知 識 が要 求 され,刑. ドイ ツ新 法 の 理 由書 で は,秩 序 違 反 手 続 は本 来 的 に簡 易迅 速 な事 件 処 理 が な され るべ く形 成 され て い る こ とか ら,合 意 手 続 の 適 格 性(StpO257c条1項) が 欠 け る と説 明 され て い る(本 稿 三8(3)参 照)。. ㈹. 鈴 木(前 掲 注(9))34頁 。. 鱒. 本 稿 三2(2)(1)参 照 。. 19.

(20) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 事 裁 判 の 素 人 で あ る参 審 員 が 関 与 す る こ と は,必 ず しも よ い結 論 を 導 くわ けで はな く,公 開 公 判 の 場 で 参 審 員 が その 付 与 され た権 限 に基 づ いて 合 意 の 手 続 ・内容 を 吟 味 す る機 会 を 残 して い る限 りで,法 定 管 轄 の 要 請 は果 た され る とい うの で あ る㈲。 こ の議 論 は,我 が 国 の 裁 判 員 裁 判 に も,同 様 に あて は ま る。 従 って,ド. イ ツ と 同様 の 手 続 が 採 られ る こ とで,裁 判 員 裁 判. の 役 割 が 果 た され た と いえ る。 も っ と も,そ れ は,実 質 的 に一 般 市 民 の 代 表 で あ る裁 判 員 に吟 味 ・弾 劾 の 機 会 が 確 保 され て い る こ とを 前 提 と し,ド イ ツ法 で そ の 批 判 者 が 従 来 か ら主 張 して い た よ う に㈱,裁 判 官 と参 審 員 の 関 係 上 参 審 員 に は弾 劾 の 機 会 が 事 実 上 確 保 され て いな い と い う こ と にな れ ば,そ れ は,裁 判 員 制 度 の 意 味 を 損 な う もの とな る。 この よ うな 場 合,合 意 に基 づ く手 続 形 成 は,裁 判 員 を 含 め た合 議 体 に よ り実 質 的 に審 理 を 受 け る と い う裁 判 員 制 度 の 趣 旨 に反 し,そ の 結 果,恣 意 的 な 裁 判 体 選 択 の 批 判 を受 け る こ と にな るで あ ろ う。. (2)証 拠 法 則 との 関 係 取 引 に よ る合 意 に基 づ く事 実 認 定 は,「自 由心 証 主 義 」,「無 罪 推 定 原 則 」, 「自白法 則(自. 白 の任 意 性)」,「補 強 法 則 」 と い う,証 拠 法 上 の 諸 原 則 との. 関 係 か ら問 題 を 生 じさせ る。 裁 判 官 は,公 判 に お け る証 拠 調 を 経 て,証 拠 の 証 明 力 は その 裁 量 に よ っ て 判 断 す る こ とが で き る(「 自 由心 証 主 義」=刑. 訴 法318条)。 もち ろん,. 自 由心 証 主 義 は,裁 判 官 の 恣 意 的 判 断 を 許 す もの で はな く,合 理 的 な 心 証 形 成 を要 求 し㊨ の,ま た,被 告 人 を有 罪 とす る に は,合 理 的 疑 いを 超 え た証 明. ㈹. 本 稿 二2(3)参. 照 。. ㊨⑤BerndSchUnemann「WetterzeicheneineruntergehendenStrafprozeBkultur?」StV1993,657。 ⑳. 鈴 木(前. 掲 注(9))197頁. 。. 20.

(21) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). が 果 た され た こ との 心 証 形 成 が 条 件 とな る鮒。 と は いえ,自 由心 証 主 義 は, 法 定 証 拠 主 義 を 排 除 し,直 接 主 義 の 下 で 自 ら証 拠 に触 れ た 裁 判 官 の 判 断 を 尊 重 す る もの で あ り,基 本 的 に維 持 され な けれ ばな らな い。 例 え ば,一 定 の 取 引 に よ り合 意 が 形 成 され,そ れ が 裁 判 の 基 礎 と(裁 判 官 の 心 証 形 成 が 合 意 に拘 束)さ れ る場 合,自. 由心 証 主 義 との 関 係 につ いて 問 題 が 生 じる。. この 問 題 に関 して,罪 責 問 題 一 般 に取 引 に基 づ く合 意 型 手 続 を 使 用 し,裁 判 官 の 心 証 形 成 が 合 意 に完 全 に拘 束 され る と い う場 合,自 す る違 反 が 認 め られ る。 それ ゆえ,ド. 由心 証 主 義 に対. イ ツの 新 法 に具 体 化 され て い る よ う. に,罪 責 問 題 に関 す る合 意 は排 除 され,量 刑 問 題 に関 す る合 意 の み が 許 容 さ れ る とす る こ と で,自 由 心 証 主 義 との 対 立 を 避 け る 方 法 が 考 え られ る (StPO257c条2項)。 実 審 理(特. また,合 意 が 形 成 され た 場 合 で も,公 判 にお け る事. に 自 白の 信 用 性 に関 して)が 留 保 され,一 定 の 記 録 や 資 料 か ら. 合 意 と は異 な る事 実 が 真 実 で あ る可 能 性 が 生 じた場 合,裁 判 所 は,合 意 か ら離 脱 して,真 実 を 追 求 す る と い う方 法 も要 請 され る(StpO257c条4 項)。 も っ と も,我 が 国 の 刑 訴 法 は,当 事 者 主 義 を前 提 に 訴 因 制 度 を採 用 し,裁 判 所 の審 判 権 限 は 検 察 官 の設 定 した 訴 因 の 範 囲 に 限定 され る㈱。 例 え ば検 察 官 が 被 疑 者 ・被 告 人 との 合 意 に よ り実 体 と は異 な る(縮 小 さ れ た) 訴 因 を設 定 した場 合,裁 判 所 は,訴 因 変 更 命 令(刑 訴 法312条2項)を. 通. じた一 定 の 介 入 権 限 が 認 め られ て い る と は いえ,そ の 形 成 力 が 否 定 され る との 支 配 的 見 解 ㈹ を前 提 にす る と,訴 因 を 超 え て 事 実 審 理 を 行 う権 限 を 持 たな い。 そ うす る と,我 が 国 の 刑 訴 法 上,自. 由心 証 主 義 が 妥 当 す るの は あ. くまで 訴 因 の 範 囲 内で あ り,裁 判 所 が 訴 因 を 超 え た 心 証 を 仮 に形 成 しえ た ㈱. 最 判 昭48・12・13裁 頁,最. ㈲. 判 平22・4・27刑. 集64巻3号233頁. 平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法(法 集57巻4号467頁,最. ω. 判 集 刑190号781頁,最. 最 大 判 昭40・4・28刑. 決 平19・10・16刑. 律 学 全 集)』137頁(1958),最. 判 平15・10・7刑. 集57巻9号1002頁. 集19巻3号270頁. 21. 集61巻7号677. 。. 。. 大 判 平15・4・23刑 。.

(22) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. と して も,そ れ は訴 訟 対 象 の 範 囲 外 に お け る事 実 上 の 心 証 形 成 可 能 性 にす ぎず,裁 判 所 の 事 実 判 断 が 訴 因 との 関 係 で 制 限 を 受 け る と して も,刑 訴 法 の 意 味 で の 自 由心 証 主 義 に反 す る もの で はな い。 この 点 で,我 が 国 の 訴 訟 構 造 は,罪 責 問 題 に関 して も裁 判 所 の 心 証 形 成 が 検 察 官 の 設 定 す る訴 因 に 拘 束 を受 け る と い う意 味 で,裁 判 所 の 職 権 解 明 を 原 則 とす る ドイ ツの 法 制 (StPO244条2項. ・257c条1項)よ. りも合 意 型 手 続 にな じみ や す い と いえ. よ う。 次 に,被 疑 者 ・被 告 人 は,有 罪 認 定 が な され る まで は無 罪 で あ る こ との 推 定 を前 提 に,そ の 訴 訟 上 の 地 位 が保 障 され な けれ ば な らな いω。 この 無 罪 推 定 原 則 は,訴 訟 一 般 に妥 当す る基 本 原 理 で あ るが,そ れ は事 実 認 定 の 場 に お い て本 質 的 役 割 を 担 う こ とは 明 白で あ る幽。 合 意 に基 づ き被 疑 者 ・ 被 告 人 に 自 白を 要 求 す る場 合,被 疑 者 ・被 告 人 は有 罪 で あ る との 推 定 を 前 提 に す る もの で あ り,無 罪 推 定 原 則 に 反 す る もの で は な い か が 問 題 とな る㈲。 こ の点,具 体 的証 拠 状 況 に お い て,被 告 人 が 有 罪 で あ る こ とが 明 白 で あ る よ うな 場 合 は,そ れ を 示 した上 で,な. お被 告 人 に訴 訟 の 負 担 軽 減 に. 向 け た協 力 を 求 め る,つ ま りそれ に応 じるか 否 か の 選 択 を 求 め る に過 ぎな い と考 え るな らば,必 ず しも無 罪 推 定 の 原 則 に反 す る もの と は いえ な い よ う に思 わ れ る。 他 方,訴 訟 の 帰 趨 が い まだ 不 明 の 状 態 で,決 定 的 証 拠 と し て の 自 白を 得 る た め に,し か も被 告 人 に前 述 の よ うな 意 味 で の 選 択 権 を 認 めな い ほ ど強 制 的 な 態 様 で 取 引 が 申 し出 られ る場 合,そ れ は,被 告 人 を 有 罪 で あ る との 前 提 で 扱 う もの で あ って,無 罪 推 定 原 則 に反 す る もの と いえ よ う。 一 定 の 訴 訟 状 況 に限 定 して,被 告 人 に任 意 の 選 択 権 を 保 障 す る限 り で,無 罪 推 定 原 則 に反 す る もの で はな い との 帰 結 が 導 か れ る。 ql)鈴. 木(前. 掲 注(9))44頁. q2)鈴. 木(前. 掲 注(9))198頁. ㈹Weichbrodt(前. 。 。. 掲 注 ⑫)231頁,AriadneIoakimidis『DirRechtsnatur. derAbspracheimStrafverfahren』92頁(2001)。. 22.

(23) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 第 三 に,自. 白法 則(憲 法38条2項,刑. 訴 法319条1項)と. 完). の 関係 は,証. 拠 法 則 の 範 囲 で 最 も困 難 な 問 題 を 提 起 す る。 この 問 題 に関 して,我 が 国 の 最 高 裁 は,い わ ゆ る 「約 束 に よ る 自 白」 の 証 拠 能 力 を 否 定 す る との 立 場 を 採 っ て い る㈹。 学 説 も,そ の 理 論 的根 拠 に 関 して 争 い は あ るが,約 束 自 白 の 証 拠 能 力 を 否 定 す る と い う結 論 に つ い て は,概 ね 異 論 は な い よ うで あ る。 も っ と も,そ の よ う に約 束 に基 づ く自 白の 証 拠 能 力 を 否 定 す る と い う 結 論 が 絶 対 的 で あ る とす る と,合 意 型 手 続 を 導 入 す る こ と は,少 な くと も 自 白法 則 を 定 め る現 行 法 上(さ. らに は憲 法 上)お. よそ 許 され な い もの とな. る。 これ に対 して,一 部 の 論 者 に お いて,特 定 内容 の 自 白で はな く,お よ そ抽 象 的 に 「知 る限 りの 真 実 」 を 述 べ る よ う求 め る と い う限 りで,そ れ が 一 定 の 利 益 と引 換 え に行 わ れ る もの で あ っ た と して も,任 意 性 は否 定 され な い とす る見 解 が 主 張 され て い る㈲。 しか し,こ の よ う な 限定 が果 た して 合 理 的 で あ るか は疑 問 で あ る。 な ぜ な ら,刑 事 裁 判 にお いて 訴 追 側 と被 疑 者 ・被 告 人 側 との 取 引 が 行 わ れ る場 面 で は,特 定 の 被 疑 事 実 につ いて 承 認 (自 白)す. るか 否 か が そ の 中心 的 な 関 心 事 で あ り,抽 象 的 に 「知 る 限 りの. 真 実 」 の 供 述 を 要 求 す る と い うの は,そ も そ も問 題 と して ず れ て い る よ う に思 わ れ るか らで あ る(も ち ろん,そ. うで あ るか ら特 定 内容 の 自 白提 供 を. 求 め る合 意 型 手 続 の 導 入 は否 定 され るべ き と い うの で あれ ば,論 旨 は一 貫 す る)。 私 見 は,既 に別 稿 ㈹ で 詳 細 に検 討 した よ う に,約 束 自 白の 証 拠 能 力 は,お よ そ一 律 に否 定 され る もの で はな く,自 白法 則 の 趣 旨 に遡 って 検 討 され るべ きで あ る と考 え て い る。 す な わ ち,自 白の 証 拠 能 力 が 否 定 され る べ きで あ るの は,あ. くまで その 供 述 に対 す る 自 己決 定 権 が 侵 害 され た か ら. ω. 最 判 昭41・7・1刑. ㈹. 加 藤 克 佳 ・刑 訴 法 百 選 第9版156,157頁. 集20巻6号537頁. 。 は,弁 護 人 選 任 等 の 手 続 保 障 に 加 え. て,「特 定 の供 述 で は な く知 る 限 りの真 実 を述 べ る 旨 を約 束 内容 とす る」場 合 に は,司 法 取 引 に基 づ く自 白の 証 拠 能 力 を 認 め る こ と も可 能 で あ る とす る。 ㈹. 辻 本 典 央 「約 束 に よ る 自 白の 証 拠 能 力 」 近 法57巻4号(2010)。. 23.

(24) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. で あ り,約 束 に応 じるか 否 か の 自 由が 保 障 され て い る限 り,そ れ に基 づ く 自 白の 任 意 性 が 否 定 され る と は いえ な い。 も ち ろん,約 束 自体 の 違 法 性 を 問 題 と して 証 拠 排 除 され るべ き場 合 は あ るが,刑 事 司 法 全 体 の 趣 旨 に反 し な い もの で あれ ば,約 束 自 白の 証 拠 能 力 を 認 め る こ と に障 害 はな い よ う に 思 わ れ る㈲。 最 後 に,我 が 国 の 憲 法 ・刑 訴 法 は,自 白の み で 有 罪 とす る こ とを 禁 止 す る(補 強 法 則=憲 法38条3項,刑. 訴 法319条2項)。. それ ゆえ,合 意 型 手 続. に基 づ き 自 白が 行 わ れ,そ れ を 有 罪 認 定 の 基 礎 とす る場 合 で も,一 定 の 補 強 証 拠 が な け れ ば な らな い。 い わ ゆ る ア レイ ン メ ン ト制 度 は 認 め られ な い。 この 補 強 法 則 の 趣 旨 ・適 用 範 囲 の 理 解 如 何 に よ って は,具 体 的 証 拠 状 況 に応 じて 有 罪 判 決 の 可 否 が 異 な る。 す な わ ち,罪 体 説 に よ る と,自 白 と は独 立 して 客 観 的 構 成 要 件 の 少 な くと も重 要 部 分 を 証 明 す る証 拠 が 要 求 さ れ る の に対 して㈹,実 質 説 に よ る と,自 白 の 信 用 性 を 補 強 す る よ うな 証 拠 が あ れ ば足 り る㈹。 も っ と も,被 疑 者 ・被 告 人 が 合 意 に基 づ い て 自 白す る 場 合,そ の 自 白 内容 が 真 実 に適 合 して い る と い う意 味 で の 信 用 性 は,一 般 的 ・抽 象 的 に減 殺 され る もの と思 わ れ る。 それ ゆえ,罪 体 説 に よ る と き は な おの こ と,実 質 説 に よ る と して も,自 白 自体 の 詳 細 さ ・客 観 的 証 拠 との 適 合 性 とい った 意 味 で の 信 用 性 の調 査 は不 可 欠 で あ り励,そ の意 味 で,補 強 法 則 の 趣 旨が 損 な わ れ な い よ うな 運 用 が 要 求 され る。. ⇔. 小. 括. 以 上 か ら,刑 事 司法 にお い て 合意 型手 続 を採 用 す る こ とは,現 行 法 上 も,. ⑳. 辻 本(前. ㈹. 高 田卓 爾. 掲 注 ㈲)55頁,本. ㈲. 最 判 昭24・7・19刑. ⑳. 本 稿 三4(2)参. 稿 三4(1)参. 『刑 事 訴 訟 法 ・2訂. 照。. 版 」260頁(1984)。. 集3巻8号1348頁. 。. 照。. 24.

(25) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 一 定 の 条 件 に お いて 可 能 で あ る こ とが 分 か っ た。 も っ と も,そ の 運 用 次 第 で 違 法 と評 価 され る場 合 も あ る こ とか ら,適 用 条 件 ・範 囲 が 明 確 に され る こ とが 要 求 され る。 その 性 質 及 び広 範 さを 考 え る と,個 別 具 体 的 事 例 ご と の 判 断 で はな く,立 法 に よ る包 括 的 な統 制 が妥 当 で あ る よ うに思 わ れ る6D。 そ こで,項 を 改 め,今 後 の 展 開 を 想 定 して,前 述 の 問 題 点 を ク リアす るべ く,制 度 設 計 を 示 して お き た い。. 3.改. 革 の 必 要 と展 望. O被. 疑 者 ・被 告 人 の 主 体 的 関 与. 合 意 型 手 続 を 用 い る に あ た り,被 疑 者 ・被 告 人 の 取 引 に対 す る任 意 性 が 確 保 され る こ と,つ ま り,取 引 が 強 制 的 とな らな い こ とが 要 求 され る。 被 疑 者 ・被 告 人 が 国 家 機 関 の 取 引 提 案 に強 制 的 に応 じな けれ ばな らな い こ と にな れ ば,刑 事 手 続 に お け る彼 らの 主 体 的 地 位 を 確 保 しよ う と した 現 行 憲 法 ・刑 訴 法 の 理 念 が 損 な わ れ,ひ. いて は,取 引 の 結 果 と して 自 白が 強 制 さ. れ る こ と に もな る。 それ ゆえ,取 引 が 強 制 され る こ と にな らな い よ う に, 一 定 の 制 度 的 担 保 が 要 求 され る。. (1)取 引 の 任 意 性 検 察 官 ・裁 判 所 側 の 取 引 提 案 に は法 的 拘 束 力 が な い こ とを 前 提 に,実 質 的 に も,被 疑 者 ・被 告 人 側 に提 案 に応 じるか 否 か の 自 由,つ ま り通 常 手 続 と合 意 型 手 続 との 間 で の 選 択 機 会 が 確 保 され て いな けれ ばな らな い。 と り わ け,ド イ ツの 議 論 に も見 られ る通 り,提 供 され る利 益 が 極 端 な もの で あ り,取 引 に応 じな か っ た場 合 との 格 差 が 過 剰 な もの で あ る場 合 に は,も は や 被 疑 者 ・被 告 人 側 に選 択 の 余 地 が な い と い う結 果 に つ な が る励。 そ こ ⑳BGH大 働. 刑 事 部2005年3月3日. 本 稿 三4(1)参. 決 定(BGHSt50,40),本. 照。. 25. 稿 二2(4)(1v)参 照 。.

(26) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. で,取 引 提 案 に際 して 検 察 官 ・裁 判 所 側 か らその 提 供 を 約 束 す る こ とが 可 能 な 利 益 につ いて,質 的 ・量 的 に限 定 され る必 要 が あ る。 と りわ け,刑 事 手 続 上 の 利 益 は,被 疑 者 ・被 告 人 に お け る 中心 的 な 関 心 事 で あ る こ とか ら,提 供 利 益 の 内容 次 第 に よ って は,取 引 自体 の 任 意 性,さ. らに合 意 に基. づ く自 白の 任 意 性 に疑 いを 生 じさせ る こ と にな る。 具 体 的 に は,特 に,被 疑 者 ・被 告 人 が 取 引 に応 じて 自 白す る こ とを 条 件 に 当該 被 疑 ・被 告 事 件 に つ いて 通 常 予 想 され る刑 の 範 囲 よ りも減 軽 す る こ と,又 は他 罪 を 訴 追 しな い こ との 利 益 提 供 を 約 束 す る こ とが 想 定 され る。 例 え ば,通 常 は実 刑 が 予 想 され るべ き犯 罪 につ いて 執 行 猶 予 の 付 与 が 約 束 され る場 合(例 え ば,被 害 額 多 寡 の 窃 盗 罪 につ い て 即 決 裁 判 手 続 を 申 し立 て るな どの 方 法 で),被 疑 者 ・被 告 人 は,強. く取 引 へ と誘 引 され る。 ま た,他 罪 不 訴 追 の 約 束 に関. して,起 訴 犯 罪 と不 起 訴 犯 罪 との 間 に著 しい不 均 衡 が あ る(例 え ば,10件 の 強 盗 罪 を 不 起 訴 とす る代 わ りに,1件. の 窃 盗 罪 を 起 訴 す る)場 合 に も,. 同様 の 恐 れ が あ る。 も ち ろん,合 意 型 手 続 の 導 入 は,刑 事 司 法 の 負 担 軽 減 が その 中心 的 目的 で あ る こ とか ら,提 供 利 益 が 被 疑 者 ・被 告 人 に と って さ ほ ど魅 力 的 と はな らな い もの で あれ ば,そ も そ も その 効 果 が 疑 わ しい もの とな る。 それ ゆえ,如 何 な る範 囲 で 「割 引 」 を 認 め るか は,刑 事 司 法 の 実 践 的 状 況 を 見 据 え た緻 密 な 衡 量 が 要 求 され る。 その よ うな 刑 事 政 策 的 観 点 か らの 利 益 衡 量 に基 づ き,許 容 され るべ き利 益 の 範 囲 ・性 質 が 事 前 に法 定 され て い る こ とが 要 請 され る㈲。 ま た,刑 事 手 続 以 外 の 利 益,い わ ゆ る世 俗 的 利 益 につ いて は,取 引 の 任 意 性 に疑 いを 生 じさせ る よ うな 極 端 な 利 益 供 与 が 禁 止 され るだ けで な く, 手 続 の 適 法 性 の 観 点 か らも,一 定 の 制 限 が 必 要 で あ ろ う。 例 え ば,自 白す れ ば 食 事 や 睡 眠 を 与 え る と い った 約 束 は,本 来 的 に,被 拘 禁 状 態 の被 疑 鮒JudithHauer『Ges懐ndnisundAbsprache」262頁. 以 下(2007),本. 4(1)参 照 。. 26. 稿三.

(27) 刑 事 手 続 にお け る取 引(3・. 完). 者 ・被 告 人 に お け る基 本 的 に保 障 され るべ き利 益 で あ る こ とか ら(刑 訴 法 81条 但 書 参 照),そ れ を 取 引 の 内 容 と して はな らな い。 また,逆 に,そ の 供 与 自体 が 違 法 とな る もの,例 え ば 自 白す れ ば覚 せ い剤 等 の 禁 止 薬 物 を 与 え る と い っ た約 束 も,当 然 に許 され な い。. (2)必 要 的 弁 護 さ らに,被 疑 者 ・被 告 人 が,検 察 官 ・裁 判 所 側 との 取 引 に主 体 的 に関 与 す る こ とが で き る た め に は,刑 事 手 続 の 全 体 的 理 解 と,個 別 具 体 的 事 件 に お いて 自身 が おか れ て い る状 況 を 正 確 に把 握 す る能 力 が 必 要 で あ る。 取 引 に基 づ く合 意 の 内容 が ただ ち に手 続 の 結 果 へ 結 実 す る こ とを 考 え る と,個 別 具 体 的 事 件 に お け る状 況 把 握 と対 応 能 力 は,従 来 の 通 常 型 手 続 よ りも, 高 度 の もの が 要 求 され る。 その た め に は,彼. らを 援 助 す べ き弁 護 人 の 存 在. が 不 可 欠 とな る。 それ ゆえ,合 意 型 手 続 に は弁 護 人 の 関 与 が 必 要 的 と され るべ きで あ る。 検 察 官 ・裁 判 所 側 は,合 意 型 手 続 に よ る と き に は,取 引 提 案 を 弁 護 人 を 通 じて 行 う こ と と され な けれ ばな らな い。 また,取 引 に応 じ るか 否 か を 判 断 させ る た め に,弁 護 人 の 選 任 後,一 定 の 熟 慮 期 間 を 設 け る こ と も必 要 で あ る。 さ らに,弁 護 人 に的 確 な 判 断 を 求 め るた め に は,具 体 的 事 件 に関 す る証 拠 状 況 の 把 握 が 不 可 欠 とな る。 そ の た め に は,弁 護 人 の 要 求 に応 じて,当 該 手 続 段 階 で 検 察 官 ・裁 判 所 側 に所 在 す る証 拠 は,全 て 開 示 され な けれ ばな らな い。. ⇔. 手 続 の 公 正 ・適 正 性 確 保. (1)合 意 型 手 続 を 用 い る こ との 必 要 性 合 意 型 手 続 は,主 と して,軽 微 事 件 に対 す る司 法 コ ス トを 削 減 し,重 大 事 件 に集 中 させ る こ とを 目的 とす る。 それ ゆえ,対 象 犯 罪 を 限 定 す る こ と が,当 該 手 続 の 必 要 性 の 観 点 か ら要 請 され る。 す な わ ち,重 大 事 件 は,真 27.

(28) 近畿大学法学. 第59巻 第1号. 実 解 明 の 要 請 が 簡 易 迅 速 な 手 続 処 理 の 要 請 よ りも優 先 す る と考 え られ る た め,あ. らか じめ,合 意 型 手 続 に よ る事 件 処 理 の 対 象 か ら除 外 され な けれ ば. な らな い。 他 方,軽 微 事 件 の 処 理 に際 して 既 に既 存 の 手 続 の 方 が よ り簡 易 迅 速 な 処 理 が 可 能 に な る と い う場 合,あ. え て 合 意 型 手 続 を 使 用 す る必 要 性 に 乏 し. い。 例 え ば,現 行 犯 逮 捕 事 件 な ど被 告 人 の 犯 人 性 が 明 白で あ り,被 告 人 自 身 も既 に 自 白 して い る と い う場 合,あ え て(そ の た めの 正 式 な 手 続 を 踏 ん で)合 意 型 手 続 を 用 い る必 要 はな い。 従 って,合 意 型 手 続 の 導 入 に際 して は,そ の 必 要 性 の 観 点 か ら,対 象 事 件 の 限 定 が 必 要 とな る。. (2)検 察 官 の 訴 追 権 限(起 訴 猶 予 権 限)の. コ ン トロー ル. 合 意 型 手 続 に際 して,検 察 官 が 一 定 の 被 疑 事 実 に関 す る不 訴 追 の 約 束 を 行 う と き,そ の 訴 追 裁 量 権 との 関 係 が 問 題 とな る。 我 が 国 の 刑 訴 法 は,起 訴 裁 量 主 義 に基 づ き検 察 官 に広 範 な 裁 量 権 を 与 え て い るが,そ の 逸 脱 ・濫 用 に対 して は,一 定 の コ ン トロー ル が 求 め られ る。 そ こで,一 定 程 度 の 事 件 に関 して は,特 に 同種 事 件 ご との 公 平 性 と い う 観 点 か ら,起 訴 事 件 と不 起 訴 事 件 との 関 係 につ いて,あ. らか じめ許 容 され. るべ き範 囲 を 決 定 して お くこ とが 必 要 で あ る。. (3)公 開 性 ・対 審 性 の 確 保(弾 劾 機 会 の 保 障) 公 開 主 義 との 関 係 に お いて,ド. イ ツの 新 法 は,非 公 開 の 場 で の 事 前 交 渉. は否 定 さ れ な い と しつ つ,事 前 交 渉 の 内容 ・過 程 を 公 開 公 判 の 場 で報 告 し,合 意 自体 は公 開 公 判 の 場 で行 う こ と とす る こ と に よ っ て 解 決 を 図 っ た。 これ に よ り,公 開 主 義 の 趣 旨 は十 分 保 障 され る と い うわ けで あ る。 この 理 解 は,我 が 国 に導 入 す る に あ た って も,基 本 的 に妥 当す る と考 え 28.

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