Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
消化器内科における研究と診療の最前線
Author(s)
西田, 次郎
Journal
歯科学報, 109(2): 106-107
URL
http://hdl.handle.net/10130/1854
東京歯科大学市川総合病院消化器内科は平成13年 11月に市川総合病院の16番目の診療科として新設さ れ,内科から独立した診療科として消化器疾患の外 来および病棟の診療,検査を担当している。 消化器内科が扱う疾患は,食道から胃,小腸,大 腸の消化管疾患と肝臓,膵臓,胆嚢の疾患と広範囲 にわたり,私どもの診療科では特に早期胃癌,大腸 癌に対する低侵襲な内視鏡治療,消化性潰瘍との関 連が強いピロリ菌の除菌療法,潰瘍性大腸炎,ク ローン病などの炎症性腸疾患の診断と治療,慢性肝 炎に対する抗ウイルス療法などに力をいれている。 診療について 消化器疾患の診断・治療を行っていく上で最も重 要な内視鏡検査・治療に関しては,昨年度(平成19 年4月∼平成20年3月)に当院で施行した検査件数 は上部消化管3947件,下部消化管1375件で,平成13 年の当科新設時との比較で約40%の増加となってい る。更に進歩の著しい内視鏡的な処置あるいは治療 の件数も飛躍的に増加しており,全内視鏡施行数の 約10%を占めている。主な内視鏡治療の年間件数を 挙げると,ポリープ摘除術,粘膜切除術(EMR)お よび粘膜下層剥離術(ESD)が293件,救急医療現場 において重要な消化管出血に対する止血術が85件, 更に嚥下不能あるいは困難な患者に適応となる経皮 的内視鏡的胃瘻増設術(PEG)が73件行われた。 内視鏡治療の中でも急速な進歩を遂げているのは 早期胃癌に対するものであり,特に内視鏡的粘膜下 層剥離術(ESD)の開発によりその適応範囲が拡大さ れ,当診療科としても現在精力的に取り組んでい る。ESD とは,特殊なナイフで胃癌の病変周囲の 粘膜切開を行い,引き続き粘膜下層を直接剥離する ことにより病変を切除する方法であり,粘膜内に留 まる分化型腺癌で潰瘍成分のない2cm 以下の病変 が胃癌治療ガイドラインでの適応であるが,年々そ の適応は拡大されてきている。 当科では平成17年より ESD を導入し,現在まで に100例以上を経験している。治療成績に関して は,病変の完全一括切除率はガイドライン内病変で 98%,適応拡大病変では92%であり,現時点では再 発はなく良好な結果が得られている。 早期消化管癌に対する内視鏡治療は,低侵襲,機 能温存,術後 QOL の向上といった面で,従来の外 科手術に比べ有益な治療法であり,高齢化社会を迎 えるにあたりその適応範囲はさらに広がり需要は高 まるものと思われる。当科においては,根治性を低 下させることなく,より安全,確実に ESD を実施 するために,術前診断の精度および手技の向上に努 めるとともに,術者育成のための効率的なトレーニ ングシステムを確立し,引き続き精力的に内視鏡治 療を進めていく計画である。 研究について 臨床研究は主に3つのテーマを中心に行ってい る。1)口 腔 が ん 患 者 に お け る 大 腸 腺 腫 の 検 討,2)血清,胃液中の亜硝酸塩濃度と胃の前癌状 態との関連,3)adrenomedullin と潰瘍性大腸炎 発症の病態についての検討である。以下,これらを 概説する。 1)歯科大学としての特殊性を生かし,当院の口 腔がんセンターとの共同研究を行っている。口腔が ん患者においては食道がんの頻度が高いことは既に 広く知られているが,大腸の腫瘍性病変との関連性 についての報告についてはほとんどない。当科では 口腔がんセンターを受診した口腔がん患者に下部消 化管内視鏡検査を施行し,大腸ポリープ,大腸癌の 有病率を検討中である。これまでの検討では約3人 に1人と極めて高い頻度で治療を必要とするポリー
消化器内科における研究と診療の最前線
西 田 次 郎
市川総合病院消化器内科 106 ― 4 ―プ(advanced adenoma:進行腺腫)を認めるとの驚 くべき結果を得ており症例数を増やすとともに両疾 患の関連性について検討を進めている。 2)当科では胃がんの前癌状態としての萎縮性胃 炎に注目して検討を進めている。胃がんにおいて胃 液中の亜硝酸塩濃度が高くなることが古くから知ら れているが,胃液中の亜硝酸塩濃度が血清中の亜硝 酸塩濃度と相関すること,血清中の亜硝酸塩濃度が 胃がんのリスクを低下させると考えられているピロ リ菌の除菌により有意に低下し,さらにこれまでに 前癌状態を反映すると報告されているペプシノーゲ ンと相関することなどの結果を得ており,血清,胃 液中の亜硝酸塩濃度が胃の前癌状態を予測する新た なマーカーとなりうる可能性を含めさらに検討を進 めている。 3)市川市において当科は潰瘍性大腸炎をはじめ とする炎症性疾患の最多の患者数を有する施設であ り,これまでに白血球除去や生物製剤の使用を含め 高度先進医療を行ってきた。この分野に関連する研 究として,これまでに消化管粘膜における代表的な 抗菌ペプチドとして知られる defensin が潰瘍性大 腸炎においてその発症に重要な働きを担っているこ と が 報 告 さ れ て い る。当 科 で は こ れ ま で に adrenomedullin に 関 す る 基 礎 的 研 究 を 継 続 し て 行 っ て き た が,次 の ス テ ッ プ と し て adrenome-dullin が defensin などと同様に原因不明の炎症性腸 疾患である潰瘍性大腸炎の粘膜にていかなる発現を 示し病態と関連しているかを検討中である。 当科での基礎的研究としては,小腸上皮細胞を用 いて小腸における粘膜防御機構の解明を主たる研究 テーマとして研究を行っている。アルコール中毒患 者においてしばしば認められる重篤な合併症である bacterial translocation(腸管から細菌,エンドトキ シンなどが血中に移行してしまう通常では生じない 病態)の原因が好中球の遊走や炎症性サイトカイン よりもむしろ小腸上皮細胞における物理的な障害で 透過性が亢進したためである可能性を示唆し(Alco-hol Clin Exp Res.29⑿:2116−2122,2005),さ らに血管拡張,抗菌作用など多彩な作用をもつペプ チドと し て 知 ら れ る aderenomedulin が LPS 投 与 に伴い小腸上皮細胞において極性をもって放出さ れ,また組織学的に腸管におけるこのペプチドの放 出の部位を in situ hybridization により正確に特定 し得たことを報告した(Peptides,in press)。今後 も消化吸収,抗原提示などの消化管内での多彩な活 動の場である小腸における粘膜防御機構の解明をさ らに進めていくこととしている。 早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 歯科学報 Vol.109,No.2(2009) 107 ― 5 ―