Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Influence of peroxide treatment on bovine enamel
surface : Cross-sectional analysis
Author(s)
牛込, 利彰
Journal
歯科学報, 109(6): 626-627
URL
http://hdl.handle.net/10130/1878
Right
論 文 内 容 の 要 旨 1.研 究 目 的 生活歯漂白の主製剤には,過酸化物である過酸化尿素や過酸化水素が用いられている。本研究は過酸化物に よる変色歯改善のメカニズムを明らかにするために,濃度の異なる過酸化尿素と過酸化水素で牛歯エナメル質 を30分間および180分間処理し,その断面形態および断面における超微小硬さに及ぼす影響を調べた。 2.研 究 方 法 牛歯歯冠唇側表面の付着物質を除去し,3×5mm のマスキングテープを貼付した後に,全面をネイルバ ニッシュで被覆した。次に歯冠表面のマスキングテープを除去し,過酸化物溶液10ml の中に,30分間および 180分間浸漬することによって,エナメル質露出面のみを処理した。過酸化物溶液は,過酸化尿素溶液(CP)お よび過酸化水素溶液(HP)とし,それぞれの濃度は10%と30%とした。 処理後の試料はエポキシ樹脂に包埋し,歯軸に直角に切断して過酸化物で処理したエナメル質断面を露出さ せた。断面を最終的に0.05μm のアルミナを用いて研磨し,測定用試料とした。エナメル質断面の硬さは,超 微小硬さ試験機(ENT-1100a,ELIONIX)を用い,負荷荷重200mgf,負荷および除荷速度0.02mgf/ms,保持 時間1000ms で測定した。エナメル質表面から深部方向に過酸化物溶液と接触した部位と接触しない部位での 断面の硬さの差(△H:過酸化物が接触した部位の硬さ−過酸化物が接触していない部位の硬さ)を算出し,そ れぞれ平均値と標準偏差を求めた(n=5)。 また,過酸化物で処理されたエナメル質断面の形態観察は,走査電子顕微鏡(SEM;ERA-8900FE,Eli-onix)を用いて行った。 3.研究成績および考察 超微小硬さを測定した結果,表面下2μm での10%CP,30%CP,10%HP および30%HP で180分間処理し た△H値はそれぞれ−1.71±1.70,−3.10±1.30,−1.65±1.34および−1.59±0.04GPa を示した。また表 面下50μm での10%CP,30%CP,10%HP および30%HP で処理した△H値はそれぞれ−0.34±0.44,−0.14 ±0.39,0.05±0.56および−0.23±0.23GPa,であった。過酸化物で処理したエナメル質は,エナメル質表面 下20μm 付近までの超微小硬さの低下が認められたものの,50μm では過酸化物の種類,濃度および処理時間 によらず超微小硬さの低下はみられなかった。 氏 名(本 籍) うし ごめ とし あき
牛
込
利
彰
(東京都) 学 位 の 種 類 博 士(歯 学) 学 位 記 番 号 第 1755 号(甲第1030号) 学 位 授 与 の 日 付 平成20年3月31日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Influence of peroxide treatment on bovine enamel surface ― Cross-sectional analysis ―
掲 載 雑 誌 名 Dental Materials Journal 第28巻 3号 315∼323頁 2009年
論 文 審 査 委 員 (主査) 小田 豊教授 (副査) 栁澤 孝彰教授 平井 義人教授 櫻井 薫教授 歯科学報 Vol.109,No.6(2009) 626 ― 72 ―
SEM による断面形態観察では,過酸化物の濃度が高い方が,エナメル質深部まで粗糙になっていた。過酸 化尿素はエナメル質を全体的に溶解した像を示したのに対し,過酸化水素はエナメル質のエナメル小柱鞘を部 分的に溶解したと考えられる像を示した。180分間の浸漬で最もエナメル質深部まで影響していたが,過酸化 尿素でも過酸化水素でもエナメル質表層から約5μm に限局されていた。 以上の結果より,種類,濃度および処理時間によらず過酸化物溶液の影響が表層のみであることから,変色 歯改善のメカニズムはエナメル質表層を粗糙にすることによる光の散乱,つまりエナメル質の透明度の低下が 要因の1つと考えられた。 4.結 論 過酸化物溶液と接触したエナメル質は表面から浸食され,過酸化物の濃度と共に粗糙化が及ぶものの,種 類,濃度および処理時間によらず断面の超微小硬さの低下および形態変化は,エナメル質表層の50μm 以下に 限局されていることが明らかとなった。 論 文 審 査 の 要 旨 生活歯漂白は非切削により変色歯の改善を行う方法であり,近年,臨床で広く普及してきている。また,歯 科医院で行うオフィスブリーチングでは高濃度の過酸化物が用いられており,その是非と共に歯質への影響に ついて数多くの研究が行われてきた。しかし,歯質漂白のメカニズムについては,1)漂白剤がエナメル質表 層のみに作用して内部の色調を目立たなくするとされるマスキング説,2)エナメル質表層で過酸化物の分解 により生成するラジカルが象牙質まで浸透・拡散して着色物を分解し,漂白効果を発現するとされる浸透 説,3)漂白剤が歯質表面から浸透して歯質を微視的に脆弱にするとされる副作用説,があるなど,その原理 や副作用に関しては未だに不明な点も多い。そこで,本研究ではそのメカニズム解明の一助として,過酸化物 で処理した牛エナメル質断面の形態変化と機械的性質を調べたものである。その結果,過酸化物溶液と接触し たエナメル質は表面から浸食され,過酸化物の濃度と共に粗糙化が及ぶものの,種類,濃度および処理時間に 拘らず,断面の超微小硬さの低下および形態変化は,エナメル質表層の50μm 以下に限局されていることを明 らかとすると同時に,変色歯改善要因の1つとしてエナメル質表層を粗糙にすることによる光の散乱,つまり エナメル質の透明度の低下効果を報告したものである。 本審査委員会においては,⑴ ヒトの歯と牛歯エナメル質の構造の違い,および牛歯を用いた理由,⑵ 濃度 の異なる過酸化尿素と過酸化水素の比較の必要性,⑶ 30分間および180分間の処理時間とオフィスブリーチン グの関係,⑷ 超微小硬さの測定原理とデータの信頼性,⑸ 過酸化尿素中へのカルシウムの溶出が多い理由, などについて質問がなされたが,おおむね妥当な解答が得られた。 本論文の目的,方法ならびに結果は明解で,本研究で得られた成果は,歯学の進歩発展に寄与するところ大 きく学位授与に値するものであると判定された。 歯科学報 Vol.109,No.6(2009) 627 ― 73 ―