Title
伊平屋島に於ける動物相についての調査報告(主として多
足類、陸産貝、その昆虫類分布資料)
Author(s)
大嶺, 哲雄
Citation
沖大論叢 = OKIDAI RONSO, 3(2): 86-103
Issue Date
1963-03-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/10743
伊平屋島に於ける動物相についての翻査報告
〈主として多足類、陸産員、その昆虫類分布資料〉大 嶺 哲 雄
A
伊平屋島概観1
、調査位置 沖縄の最北端に位置する小離島で今日では日本本土の最南端にあたる 与論島とほぼ同緯度にある。島は伊平屋本島と北面側にある野甫島のニつの島 からなり、東径18
2
05
8
'
、北緯27
00
2
'
の地点にある。 沖縄本島国頭の北方約26
k
m
、周囲約32
k
m
で南北に細長く、面積19
.
km
2で人口約58
9
5
人となっている。1
9
6
2
年9月12
日から18
日までの一週間主として祭者は多足類の分布を 中心とし、その他陸産の軟体動物腹足類や節足動物、昆虫類の分布概況を報告 する。2
、採集範囲 嘉陽岳(
2
0
7
m
)、腰岳
(
2
2
1
m
)、我喜匡部落、
田名部落 一帯、野甫島(野甫岳〉一得。3
、気候 伊平屋島の気象状況は観測施設がないため伊是名島及び近距離 の伊江島、本島辺土名、那覇に於ける気象観測データーを琉球気象台の統計資 料から参考にした。 次にその参考資料を掲げて本調査地域の気候条件を推察したい。 第1表により伊是名島の5
ヶ年聞の平均気温は2
2
.
5
0c
であることから 恐らく2
2
0c
前後と恩われるが調査時期に於ける気温は伊是名に於ても2
8
.
4
0c
を 示しているので調査期間中2
8
0c
内外であったと思う。(月旬別平均値を上廻る暑 さである)。表第2表参照第3表、第4表により目降水量lmm以上の日数は那覇 辺土名で13
9
.
8
目、1
4
2
.
8
日となっておりかなりの地域差があると考えられるが 伊是名に於ては年平均(
1
9
5
6
-
-
1
9
6
0
年) が12
5
.
8
日で降雨量は年平均19
3
7
.
S
m
mとなって那覇地域の2
1
4
2
.
5
m
m
より少ない。 部月 別 平 均 気 温
(
9
時)【c。】 (第1表) 伊是名に於ける各月に於ける句平均気温(
9
時測定J
'CO (第2表) 1958 1980 t98t t982 平 均 降 水 量 (mmJ (第4
表) 1 8I
7T
8I
9I
101
1
1
12・│平均 年 度:ょ:::諜諜盟問腕時
与 翁 島 94.8m
伊平屋では伊是名と距離的にみて最も接近しているので殆んど同値と みなして年平均
1
9
0
0
.
.
.
.
.
.
.
2
0
0
0
m
m
と考えられる。6
2
年の統計資料からみると特にT
月上旬、中旬、8
月の台風を除くと1
0
月までは雨が少ない時期となっており、干ばつ期となることガ予想される。こ の地域で最も雨量の多い時期は5
月、6
月で本島と差はないガ降雨量は2
3
0
m
m
"
"
270mm
き示す。6
2
年の降雨曇は1
9
0
7
.
8
m
m
で年平均より少ないが本調査期における年 平均雨量は伊是名で2
1
l
.8mm
となってやるが6
2
年9
月では1
2
1
.
5
m
m
で伊平屋で も年平均以下であったと推定される。又第1
表と第4
表よりこの地域の乾燥指数 を算出すると年平均は6
4
.
2
2
となっているが6
2
年は5
8
.
6
6
でしかも調査期聞が当 地における年開通して最も乾燥する時期であった事は今回採集調査をするに大 きく影きょうし、期待した資料が十分に得られなかった一因ともなったと考え られる。B
採 集 概 況 我喜屋部落内にある茂みや石垣のあいだにはイヘヤウラジロマイマイC
Ca
nsel1a)、コベマイ7 イ属、写真P1ateX皿 a,
b,
c参照。イヘヤカサマイマィ。パンダナマイマイ。マキスジコミミガイ。文アフ 1)カマイマイや、オキナ ワウスカワマイマイ等はいたる所でみられた。 田名部落の田圃附近では最近移殖したと云う俗称食用ガエJレ(ウ
ν
ガ エル?)が繁殖しているとの事だが昼間はなかなか姿をみせず、時閣の都合で 採集出来なかったが特に田名池2
5
h
a
もある広々とした池で淡水養漁池として最 適であろうふ 我喜屋部落、田名部落の田圃や水溝にはツチガエJレの幼生に対しウν
ガエルの幼生が圧倒的に優勢であることから食用ガエルは相当繁殖しているこ とが推察されるが、これに対する天敵や農作物に対する関係等は十分に調査の 必要があると思う。附近の沼池、小川にはモノアラガイ、ヌマエピ、テナガエ ピ、タプミノ、メタカ、カワニナ、カニ、ザリガニ等が分布しているので吸虫 類の侵入も考えられるので食用ガエJレとの食物連鎖の関係等興味ある問題を残 しているが今回の調査テーマや期聞が限られているので後日にゆづった。 伊平屋島北端悶名部落より東方2
6
0
0
m
の所にあるクマ屋の調穴は相当 な広さをもっているが奥行きは途中で遮断されているため、そう深くない。ク マ屋洞穴内での洞穴性動物は石穴や石うらより2-3
匹のネジアν
ヤ ス デ 類 の 回死骸をみつけただけで他に採集出来なかった。 る。 殆んど洞穴性動物が録集出来なかった理由として次のことが考えられ (1) 洞穴内は思ったより乾燥していたこと。
(
2
)
神事でヒトの出入が多いためか、ハプ等の危害を防ぐ為にたき 火や硫黄を燃した跡からして死滅したのではないかと思われる 嘉腸岳、腰岳においては主として倍足網パパヤスデ科、脅足網として アカムカデ科、ナガヅジムカデ科。注目a
t
e
X.
I
X
a
,
b.c
参照、 イツスンムカ デ科に属するものを採集したが量的には僅少(各々20
匹-30匹〉で採集不良好 であった。 野甫島は地質や地形は本島とは異っているがほとんど伊平屋と似てい る。その種類は途かに少ない織に思われる。 今回の調査では全体的には特記すべき種類を得ることができなかった が興味あるものとして嘉腸岳より後述するオキナワヤスデ属の一種と野甫島よ りパラオギポウシヤスデを得たことである。 伊平屋に関する植生については今回調査の範囲外であるが幸に19
5
7
年1
2
月-1
9
5
8
年12
月の2回に亘って調査にあたった琉球大学生物教室の新納、 新 城両氏の伊平匡、伊是名諸島の植物調査報告が大学紀要に掲載されているりで 参考にしたい。 以下次表の通り 羊歯植物3
2
属4
7
種 裸子植物4"
4"
双子植物2
8
5
" 3
8
7
"
単子植物95"
1
6
6
"
上記の報告書によると伊平屋島の値生協附近のどの小島よりも植物相 が豊であると報じている。これに従って動物相も多種にまたがっていると考え られた。 C、今調査中興味ある倍足類2
種について 筆者がこれまで採集調査をしたうち沖縄産倍足類としてギズウシヤス デ科のものは記載されてないが今回の採集でパラオギボシヤスデを野甫部落の 中央に位置する野甫岳のアダン群落中より採集できたことは幸であった。89
高桑氏によれば「本科は
2
属を有し、旧日本のみに1
属のみ」とあり分 布は印度、 濠州区、Ce
ylon. Birma,
南米となっている。 SiphonophoraBRANDT
(ギボシヤスデ〉は南洋からポナペギボシヤスデ、 パラオギボシヤ スデの2
種が記載されているが今回の種は後者に属するものと筆者は考える。 もう一つの収穫はオキナワヤスデ属のものであるが、その特徴はタカ クワヤスデ属のものに酷似するもので嘉陽岳で採集した。 シダ群落の少し湿りけがありうすぐらくなった腐植植土に半分うづく まったオキナワヤスデ属のものはその標徴がクロオキナワヤスデとタカクワヤ スデの両方に似る種で以下その特徴を掲げて検討したい。 第一図R
i
ukiaia VERHOEFF オキナワヤスデ属 伊平屋産クロオキナワヤスデ0
ィヘヤ産クロオキナワヤ スデの外形的特徴、 体長は3
5
m
t
p
-
4
0
mm
第2
環節6mm
、第1
0
環節からその側 庇は最大となり7
.
5mm
に達し、体節は1
9
節からなり、前環節は灰黄青色で側 鹿反び後環節後縁はうすぐらい山林中 でも明瞭に認めらる程のきれいな樫紅 色をしている。腹面と歩肢は黄色であ るが歩肢には僅かに色素粒が部分的にみられる。尚調査時期に於て得た個体を 解剖した結果体内より卵を有しているのがあった事と多数の線維個体を得たこ とよりこの時期には交尾期に入るのではないかと疑われる。 標本アルコール潰では脅褐色となり側庇及び後環節の燈紅色は黄色に 変色する。(前縁は青黒色の帯があり背板中央凸部で少しくびれるようになり ∞型となる。) 顎板は大きく中央凸部には大きな青黒色の斑紋が左右にある。 第3
背 板までは1mm
ぐらいの巾で並ぶが、次第に広くなり第1
0
節背板程では最大とな ク、 又側庇は第6
背板から次第に広く厚くなり後両角は鋭角状に後方にとがる これは第1
7
節、1
8
節において尚著しい。ω
第二図
1
.
前 頭2
.
触角3
.
V
字 状 の 凹 み4
.
上 唇5
.
舌 葉6
.
頚 唇7
.
第1
歩肢基部の突起8
.
第1
歩 肢(第2
胴節の肢)9
.
第2
歩 肢1
0
.
第8
歩肢1
1
.
第2
歩肢の基部 にみられる先の丸い突起。 臭孔は本科のものの特徴 をそのま h備えど変ることはない 後環節には毛は無く、尾は円錐形E
門鱗の後縁部は僅か鈍角状に3
葉分岐しているのが認められる。 峰雄とも前腿節の端部裏面に一個の聴を有する。 雄の生殊肢は第5
肢 の前肢が相同器管になっているが胸板中央部に楠円型の凹みがあり、こEから 第5
図第6
図の様な生殖肢が出ている。生殖肢の基節は大きく太い楕円型の凹み 第三図 伊平屋産クロオキナワヤスデ頭部前面 み ↑ し み 込 央 凹 れ 中 の 切 部 状 頂 頭 字 頭 中V
4・
A o y u n ヨ u4
.
上唇、5
.
第1
歩肢、6
.
第2
歩肢、7
.
第2
歩肢基部突起8
.
第S
歩肢基部突起9
1
の中に半分は埋っている。前腿節は葉状の突起があり半回転する。長さは前腿 節部よりや』短く広い。前腿節端部ほ釘抜形となり、ニ葉に分岐する。 以上の形態はR. folcifera
VERHUEFF
に酷似するが前腿節突起の形 状はタカクワヤスデ属によく似る。 以下クロオキナワヤスデ、タカクワヤスデ、イヘヤ産との主な特徴を 表によって対比すると次の通り。 第五園 生殖肢基部・の楕円筒 (第5
肢胸板中央部(雄〉 第四図 伊平屋産クロオキナワヤスデ体末腹面 尾都 921
.
尾状突起2
.
紅門3
.
紅門扉4
.
環状片5
.
紅門節の紅門鱗属 デ 四 デ ス m v 一川恥柑 チ ヮ 伽 ク ク
a
カ カ 宮 タ タ 問 ﹄凪 h M m 頃a
E
T
V
オキナワヤスデ属i
伊平屋産オキナワ クロオキナワヤスデ :ヤスデR
.
f
a
l
C
i
f
e
r
a
VER.
;
1
.体長
50mm
、 体長i
1
.
体長40mm
、体内6mm:
10mm
、 :2
.
体色灰黄青色、側鹿及2
.
体色灰黄青色、側庇は:2
.
体色、 灰黒色を帯び:ぴ後環節後縁一帯樟紅色 紅色、腹面と歩肢は黄色jた褐色、皮ふ内には黒い:腹面と歩肢は黄色。 ;色素をふくむ。後環節のi
3
.
中欄に酷似す。3
.
歩肢の基節に歯はなく?後緑に近く濃褐色の横帯:4
.
中欄に酷似す。 第T歩肢の前腿節に小計:を有する。i
5~額には両触角の問、即 の突起があり、 第8節ょ:3.峰雄とも前腿節の端:ち正中線に沿った残い縦
り 小 椋 を 有 す 。 に 於 て 裏 面 に ー 箱 の 練 を ; の 溝 が み ら れ 、2
.
.
.
.
.
a
の毛4
.
第3
及び第5
歩肢節の胸:有するが、それは第3
歩!を有す。側板同様の青黒 板に2
個の低い溜起があ;肢から始まり、 第T
節歩j
色の円形の斑紋がみられ り、ー第4歩肢の胸板に2コ:肢まではそれより後方の:るが、中央部は淡〈左右 の高い端の丸い癒起があ:歩肢のものより小さい。:に区分される。斑紋中の る 雄 の 第2歩肢の基節に:4
.雄の第2
歩肢の基節の j左右に点状の小さい凹みT
は広い先の丸い突起が:内方の端には端の丸い突;があり、更に上唇より少 ある。第a
-
第T
歩肢の基:起1
対を有し、第3
歩肢間;し上方にもこのような凹 節は下面に密毛を生じる:の胸板上に2
簡の短い粛:み、左右一対が認められ5
.
頚板の側方に著しい線i
起 が あ る 。 : る 。V
字状の凹みがある 潜 は な い 。 :5
.
頚板側の縁取りは後方j
のは中欄に同じ。6
.
生殖肢の基節はほとん:へ典っていなし、。額には:6
.
生殖肢の基節突起は大 ど棟で基節の角状突起の:両触角の聞に績の凹みが:きく練状に尖り半円状に 近くに1
つの著しい凹みi
あり、その後にV
字状の:曲る。又基節は太く楕円 がある。前腿節には長い:凹みがある。歩肢には色:状凹みの中に半分埋って 突起があり、その先端は:素なし。〔図第3図参考J
:前腿節は葉状の突起とな2-3
に小裂し、端部とほ:1
.
生殖肢の基節突起は:IJ~ 端部の縁は3-4/J、裂 とんど同長或は少し長く大き〈練皮に尖り、端部jし、前腿節の端部は釘抜 伸 び て い る 。 : は 太 く 大 き く 端 の 方 は 基j
型になる。(第8
図参照〉7
.
尾は殆んど直ぐ、後へi
節突起と相対して釘抜形:7
.
尾部はほとんど真菌ぐ 伸び庇門鱗は後方僅かに:となり両者が1つのや~ :後方へ伸び円錐形となり 1.体長25
'
m
r
n
句3
裂する。泊分布は東京:半円環の形をなす。 :毛を有す。E
門鱗は僅かけ
こ
S
葉に分かれるが両側 :には2
つの癌起があり、 附近となっている。i
その尖端には毛があるe 第6
図 タ カ ク ワ ヤ ス デ 生 殖 肢 〔日;本産倍足類〕総説より1
.
基 部2
.
前腿節3
.
同上突起4
.
端肢5
.
騒鮒節の形跡物3
1
第T図 クロオキナワヤスデ生殖肢 キ (日本産倍足競認説より模写す)1
.
基 部2
.
前腿節3
.
前腿突起4
.
端部 6 包 --4 第8図 伊平屋産クロオキナワヤスデ1
.
端都2
.
前腿節3
.
前腿部基鶴4
,基節の角状突起5
.
基部6
.
前 腿節突起9
4
以上高桑の検索表から比較検討して本種イへヤ産はオキナワヤスデ属 クロオキナワヤスデの形態特徴を多くの点、で備えているにも拘らずタカクワヤ スデ属の特徴もみられる。しかし筆者は前記の比較からー応クロオキナワヤス デに属するものではないかと考える。 高桑氏は「日本産倍足類総説」の中で「オキナワヤスデ属、タカクワ ヤスデ属は別属とする価値の少ないものと見なければならない。