和久田 佳代
聖隷クリストファー大学Physical Fitness Levels and Motor Abilities of
Kodomoen Children: 2013-2015 Test Results from
S Kodomoen
Kayo WAKUDA
Seirei Christopher Universityはじめに
1.子供の体力向上は幼児期が課題 文部科学省は施策「子供の体力向上」を掲げ、 その達成目標として、「子供のスポーツ機会の 充実を図り、その結果として 10 年以内(2022 年まで)に子供の体力が 1975 年頃の水準を上 回る」1)としている。そして、そのための活動 指標のひとつとして、小学校以上においては『全 国体力・運動能力等調査』を実施し、その結果 をふまえた体力向上に向けた取組を評価してい る。この調査の実技項目である新体力テスト合 計点の推移をみると「小学校低学年では横ばい、 高学年では緩やかな上昇傾向、中学生以降では 明らかな上昇傾向にある」2)と報告されている。 幼児の運動能力については、小学校以上のよ うな全国規模の調査は実施されていないが、森 らが 5 年から 10 年ごとに実施した調査の分析3) によれば、1986 年頃をピークに 1997 年にかけ て大きく低下し、その後は低下したまま横ばい 状態が続いていることが報告されている。 つまり、小・中学校における体力向上に向け た取り組みや部活動等によって、小学校高学年 や中学生の体力は向上傾向にあるが、幼児から 小学校低学年の体力は低下したままの状態であ り、1975 年頃の水準を上回るような「子供の 体力向上」を達成するには、幼児期までの体力・ 運動能力の向上が必要不可欠である。 学齢期は『全国体力・運動能力等調査』が実 施され、その結果が公表、活用されているが、 幼児に関しては全国規模で実施されたものはな く、森らの研究3-5)のように任意の園で実施さ れた研究報告6,7)の積み重ねが貴重なデータと なる。 2.認定こども園とは 2015 年4月から「子ども・子育て支援新制 度」のもと、改正認定こども園制度がスタート した。静岡県内の認定こども園は 2011 年の8 園から 2016 年 4 月には 147 園と増加し8)、今 後も増加していくことが予想される。認定こど も園の特徴のひとつは、1号認定(旧幼稚園)、 2 号認定(旧保育所)の在園時間の違う子供が ともに過ごすことであり、そのあり方が議論さ れている。以下、1号認定を1号(幼)、2号 認定を2号(保)とする。 3.研究の目的 筆者は 2013 年度から継続して S こども園の 体力・運動能力調査を実施してきた。S こども 園は 2011 年4月に開設された幼保連携型認定 こども園であり、3~5歳児は1号(幼)、2 号(保)という枠を超えて、同じクラスの中で、 同じカリキュラムに沿って活動している。 幼児を対象とした体力・運動能力調査は、幼 稚園、保育所を対象としたものやその比較を 行った研究3-7)はあるが、認定こども園の幼児 を対象とした研究はまだ報告されていない。 そこで本研究は、S こども園で実施された 2013 年度から 2015 年度の体格、体力・運動能 力調査の結果から S こども園の幼児の体力・運 動能力の実態を把握し、1号(幼)児と2号(保) 児の比較を通し、運動発達を促す運動あそびや 環境整備に活かしていくことを目的とした。方法
1.調査対象および測定方法 S こども園に在籍する5歳児(5、6歳)を 対象として、2013 年度、2014 年度、2015 年度 の3年間、毎年2月に体格、体力・運動能力を調査、測定した。対象の内訳を表1に示す。 体格については、2月初旬の身体測定におけ る身長、体重を用いた。体力・運動能力テスト は日本幼児体育学会9)による両手握力、とび 越しくぐり、25 m走、立ち幅とび、テニスボー ル投げを採用し、実施した。 測定にあたっては、こども園から保護者に測 定の趣旨および個人情報の保護についておたよ りを通し説明を行い、同意を得た保護者と子ど もに対して調査・測定を実施した。 2.統計処理 結果の統計処理には、SPSS ver24 を用い、 体格、体力・運動能力の結果について、男女別、 年度別に、分散分析を行った。さらに、男女別 に1号(幼)、2号(保)認定を因子とした分 散分析を行った。 体格については、カウプ指数を求めた。体力・ 運動能力の各項目については月齢の差の影響を 排除するため、すこやかキッズ研究会10)に蓄 積された男女別月齢データ(1997 年から 2008 年までの男児 927 名、女児 917 名)をもとに算 出された T スコアの提供をうけ、分析した。
結果と考察
1.体力・運動能力の実態 2013 年度から 2015 年度の年度別、男女別の 体格、体力・運動能力を表2、表3に示した。 年度を因子とした分散分析で有意差があったの は、2013 年度と 2015 年度の男児の立ち幅とび の実測値で 2013 年度が有意に高い値を示した 表1 体力・運動能力測定 対象人数 表2 体格、体力・運動能力測定結果(男児)のみであり、T スコアでは有意差がなかった。 2013 年度と 2015 年度の男児の比較では、立ち 幅とび以外の T スコアでは 2015 年度の方が高 い値であり、2015 年度の立ち幅とびの測定方 法に課題が残った。 男女別、年度別の体力・運動能力について、 T スコアを用いて比較し、図1、図2に示した。 立ち幅とびを除いた4種目では、T スコアが 男子は 46.4 ~ 53.1、女子は 45.8 ~ 53.2 の範囲 であり、全国平均値に近い値であった。 年度別、種目別の T スコア平均値が 50(全 国平均)を上回ったのは、男児ではとび越しく ぐり(2013、2014、2015 年度)、25m 走(2014、 2015 年度)、ボール投げ(2014、2015 年度)で あった。女児ではとび越しくぐり(2015 年度)、 ボール投げ(2014、2015 年度)であった。 2013 年度から 2015 年度への経年変化をみる と T スコア平均値が 50 を上回る種目数が増え た。統計的な有意差はないため明言はできない が、運動あそび、運動発達について研修を行い、 園内の運動あそびを促す環境を整えてきた効果 が多少なりともあらわれている可能性があると 考えられた。 表3 体格、体力・運動能力測定結果(女児) 図1 体力測定 T スコア 年度比較(男児) 図2 体力測定 T スコア 年度比較(女児)
2.測定種目による傾向 小学生の 2016 年度全国体力・運動能力調査 において 2008 年以降の種目別平均値を比較し た分析11)によれば、近年高い値を示している 種目は男女の上体起こし、長座体前屈、反復 横とび、20m シャトルラン、女子の 50m 走で あり、低い値を示したのは握力、立ち幅とび、 ソフトボール投げであった。 S こども園の結果においても、T スコアの3 年間の平均値をみると、両手握力が男児 48.6、 女児 48.8、立ち幅とびが男児 45.9、女児 43.3 であり、他の種目と比較して男女ともどの年度 でも低かった。一方、テニスボール投げについ ては、2013 年度に低い結果(男児 48.2、女児 46.2)であったため、園庭にバスケットゴール を設置したり、保育の中にボールを投げる遊び を取り入れたりしたところ、2014 年度、2015 年度においては、T スコアが 50 を上回る結果 となった。 以上から、握力、立ち幅跳びのように、筋力 を発揮する種目が低いのは全国的な傾向であ り、ボール投げのように経験を増やすことで動 作が習熟する種目の記録は、取組により伸ばす ことができると考えられた。 立ち幅とびについては、広島市の 2011 年度 から 2013 年度の体力・運動能力測定の結果で も「特に、立ち幅跳びで、すべての年齢の記録 が、先行研究に比べて、極めて低い傾向にあっ た」7)と報告されている。立ち幅とびのように 両足で踏み切って跳ぶという動作が必要とされ る場面や遊びが少ないこと、幼児には瞬間的な 筋パワーの発揮が難しいことなどが理由として 予想できた。今後は遊びの中で跳ぶこと、跳び 越えることが自然とできる環境を用意していく 必要がある。また、測定方法にも課題がある可 能性があった。先行研究ではマットの上で踏み 切っているもの6)、マットの外で踏み切りマッ トに着地しているもの10)、マットを使用して いないもの3)があり、立ち幅跳びについては、 測定方法を再検討していく必要があると考えら れた。 3.1 号(幼)、2 号(保)認定による体力・ 運動能力の比較 1号(幼)、2号(保)認定別の体力・運動 能力の比較を表4に、T スコアによる比較を図 3、図4に示した。1号(幼)、2号(保)別、 男女別の実測値、T スコアで比較したところ、 男児の両手握力で2号(保)児の方が1号(幼) 認定児より有意に優れていた。但し、2号(保) 児は1号(幼)児の半数以下と対象人数に大き な差があることを付記しておく。他の種目では 統計的な有意差はなかったが、男児では5種目 すべての種目の T スコアの平均値が、1号(幼) 児より2号(保)児の方が高かった。女児では 両手握力のみ同じで、残りの4種目で T スコ アの平均値が、1号(幼)児より2号(保)児 の方が高かった。 幼稚園と保育所の比較をした先行研究はいく つかあり、研究により結果が異なる。杉原ら (1987)は「幼稚園児より保育園児の方が運動 能力の発達が良好であると言えるがその差は大 きなものではない」12)としている。森ら(2008) は「男児、女児とも6種目合計点で幼稚園のほ うが有意に優れた結果を示した」3)とし、その 理由として「幼稚園に比べ保育所は園舎や園庭、 遊戯室が狭いところが多いという園の物理的環 境の影響が考えられる」 としている。このよう に、先行研究では、保育所の方が優れていたと するものと幼稚園の方が優れていたとするもの の両方があり、幼稚園、保育所の違いよりも園 の物理的環境の影響による差の方が大きいと考
表4 1 号(幼)、2 号(保)認定による体力・運動能力の比較
図3 体力測定 T スコア 1号(幼)、2号(保)による 比較(男児)
図4 体力測定 T スコア 1号(幼)、2号(保)による 比較(女児)
えられていた。 2013 年度から 2015 年度の S こども園におけ る体力・運動能力調査では、2号(保)児の方 が1号(幼)児よりも優れている傾向にあった。 同じ園環境、同じカリキュラムで過ごしている が、2号(保)児の方が1号(幼)児よりも長 い時間こども園で過ごし、午後のおやつ後は雨 天でない限り毎日必ず外遊びをしていること、 2号(保)児は3歳以前に入園し、1号(幼) 児は3歳以上で入園していることなどがその背 景として予想できる。今後も継続して調査して いくことで、この傾向の実態や背景を追及して いく必要があると考えられた。
おわりに
子供の体力向上には、幼児期からの取組こそ が必要であるが、幼児期の全国的な体力・運動 能力調査は実施されていない。認定こども園が 増えていく中で、認定こども園の幼児の体力・ 運動能力のデータが蓄積されていく必要があ る。 S こども園における体力・運動能力調査の結 果は、過去に蓄積された幼児の全国平均値に近 い値であった。1号(幼)、2号(保)認定に よる比較では、2号(保)児の方が高い値を示 した。 今後も体力・運動能力の調査を継続して実施 し、データを蓄積するとともに、測定結果の評 価・分析を運動あそび、環境整備や保護者との 連携につなげ、子どもの体力向上に活かしてい くことが必要である。 <引用・参考文献> 1)文部科学省(2015) 平成 27 年度実施施策に 関わる事後評価書(文部科学省 27-11-1) * スポーツ基本法策定時より 10 年、筆者が 西暦にした 2)子どものからだと心・連絡会議(2016)子 どものからだと心白書.ブックハウス HD 3)森司朗・杉原隆・吉田伊津美 他(2010) 幼児の運動能力における時代推移と発達促 進のための実践的介入 平成 20 ~ 22 年度 文部科学省研究費補助金(基盤研究 B)研 究成果報告書 4) 杉原隆・森司朗・吉田伊津美 (2004) 2002 年の全国調査からみた幼児の運動能 力.体育の科学,54(2):161-170. 5)森司朗・杉原隆・吉田伊津美 (2010) 2008 年の全国調査からみた幼児の運動能 力.体育の科学,60(1):56-66. 6) 長谷川大・前橋明 (2009) 保育園幼児の園 内生活時の歩数と体力・運動能力との関連. 幼少児健康教育研究,15(1):12-20. 7)金賢植・馬佳濛・松尾瑞穂 他(2014) 広 島市の保育園幼児の体格,体力・運動能力 − 2011 年~ 2013 年の実態−.幼児体育学 研究,6(1):53-60. 8)静岡県 静岡県の認定こども園一覧(平 成 28 年 4 月 1 日 現 在 )https://www. pref.shizuoka.jp/kousei/ko-130/kosodate/ kodomoen.html 9) 日本幼児体育学会編・前橋明 (2008) 幼児体 育 : 理論と実践[中級] : 日本幼児体育学会 認定幼児体育指導員養成テキスト.大学教 育出版,pp. 10)すこやかキッズ体力研究会 http://www.skitai. org/ 11)スポーツ庁(2016) 平成 28 年度全国体力・ 運動能力,運動習慣等調査報告書 12)杉原隆・松田岩男・近藤充夫 (1987)幼児 の運動能力 -3- 各種目の分布と幼稚園・保育所の比較.体育の科学,37(9):p698-701. 13)森司朗・杉原隆・吉田伊津美 (2004) 園環
境が幼児の運動能力発達に与える影響.体 育の科学,54(4):329-336.