牛とIT/ICT:3.問われる生産価値,酪農経営と情報活用
4
0
0
全文
(2) 小特集. Special Feature. このように多岐にわたる要素が複雑に関連してい. 牛群検定システム,繁殖支援システム,搾乳管理シ. るため,個別の領域に分けて技術改良がなされてお. ステムなどなど,非常に多岐にわたる情報がシステ. り,牧草の生産性向上,サイレージの品質向上,繁. ム化され管理されています.. 殖率の向上など細分化された研究が行われています.. しかし,この情報化の流れも個別要素ごとに行わ. 個々の要素技術の改良により全体の効率が高くな. れており,それぞれの情報はそれぞれの管理団体や. り,生産性は向上していますが,たとえば最良の牧. システムが保有し,横串を通した一元的なデータ活. 草作りにどの程度コストをかけた場合に生乳生産の. 用を行えないのが現状です.. 利益率が最大になるか,という個別領域を飛び越え. この縦割り管理された情報を一元化し,統合的な. た事案については,個々の酪農家の経験に基づく判. マネジメントをサポートするシステムを構築するこ. 断を行う必要があります.. とにより,酪農経営の全体最適化を平易に行えるよ. 小規模の酪農経営の場合,草地面積や飼養頭数も. うにすることが,今後の酪農発展のポイントになっ. 小さく,すべての要素を感覚的に把握した上で判断. てくると考えています.. を下せますが,大規模化が進んで行く中で適切な管 理を行うのはとても難しい状況になってきました.. 酪農情報システム. また,その判断を行えるようになるためには長い 酪農経験が必要であり,十分な経験を積む時間のな. 現在,代表的な酪農管理システムとして,アメ. い経営継承や新規就農の際にマネジメントを感覚に. リ カ VAS 社 が 開 発 し た 牛 群 管 理 ソ フ ト「Dairy. 頼るというのは,経営上の大きなリスクとなってし. Comp 305」や,(株)ファームノートが開発したク. まいます.. ラウド型牛群管理システム「Farmnote」などがあ. そこで,酪農全般における状況を把握し,適切な. ります.. 判断を下すための補助として各種情報のデータベー. これらのシステムは酪農情報を広範囲にわたり一. ス化および支援システムの構築が積極的に行われて. 元的に扱うことで牧場全体の状況をデータとして把. います.. 握し,詳細に分析することによりマネジメントのサ. 草地の状況を把握するための GIS(地理情報シス. ポートを行う仕組みです.. テム) ,乳牛の個体情報システム,生乳検査システム,. 近年のミルキングパーラー(搾乳設備)の高度化. 牧草の栽培(畑作). 飼料の生産(加工). 搾乳(畜産と繁殖). 各種管理 経営管理. 安全管理. 労務管理. 食品衛生. 品質検査. 疾病状況. 繁殖状況. 搾乳情報. 個体情報. 出荷情報. 製造履歴. 飼料設計. サイレージ成分. 外部飼料. 発酵状況. サイロ情報. 生 産 量. 収穫作業. 青草成分. 生育状況. 施肥履歴. 草種状況. 土壌診断. 地形情報. 圃場情報. 酪農作業. 酪農情報の横断的活用によるマネジメントの最適化. 牧草の収量増加, サイレージの品質向上など個別最適化が行われている 縦割り管理の情報を一元化し統合的なマネジメントにより全体最適化 ■図 -1 酪農情報. 1010. 情報処理 Vol.59 No.11 Nov. 2018 小特集 牛と IT/ICT.
(3) やロボット搾乳の普及により,搾乳データとの連動. 平成 28 年度の農林水産省の補正予算を受け,平. が行いやすくなり,これらのシステムの利活用も促. 成 29 年度に畜産・酪農生産力強化対策事業として. 進されてきています.. 新たなシステムの開発と実証を行いました(図 -2).. また,スマートフォンやタブレットなど,携帯可能. 既存システムの課題点である,データ入力・管理の. な通信型ディジタルデバイスの発展と普及により,酪. 手間を要せず情報の一元管理を行い,マネジメントの. 農家が日常の作業の一環として情報システムを利用し. サポートまでをシステムの運用として実施することに. やすい環境となったことで,これらシステムを利用す. より,地域の生産力のボトムアップを行うというコン. ることによる効果は非常に大きくなっています.. セプトのシステム開発および運用モデルです.. しかし,システムの利用には,自動で取り込めな. この地域システムと呼ばれる仕組みの 3 つのポイ. い情報の入力やデータ管理,利用しやすくするため. ントを下記にまとめます.. のカスタマイズなど,ある程度の ICT スキルを伴う 作業が必要になることが導入の障壁となっています.. (1)各種既存システムとのデータ連動 酪農家がシステムを日常業務として利用する際. さらに,農家ごとに利用するこれらのシステムは,. の最大の障壁となっているデータ管理を簡素化す. 個々の牧場の詳細分析をするための仕組みであり,. るため,各種団体やシステムなどが保有している. その結果,牧場の状態が適正なのかどうか,マネジ. データと連動しデータベースを作り上げる仕組み. メントにどう役立てるべきなのか,という部分につ. としました.. いては酪農家の判断に依存されます.. 飼料データや個体情報,繁殖情報,乳検情報な. もちろん,そこが酪農家の腕の見せ所でもあり面. ど,各所に散在するデータと連動するための共通. 白いところでもあるのですが,ある程度,個人の資. のインタフェースを開発し,自動もしくはきわめ. 質によらず平準化された手法でマネジメントまでを. て簡素なバッチ処理でデータを集約できるように. サポートする仕組みを作れないか,というコンセプ. しました.. トで新たな酪農情報システムの開発に着手しました. (2)酪農経営ベンチマークの設定. 各種生産関連情報の一元的利活用による生産性の向上 生産者追加作業なし・ベンチマークの利活用・飼養管理改善サイクル・外部専門家との連携. ベンチマーク. 生産関連情報 飼料データ. 乳量 乳飼比. 地域システム. 根室生産連. 個体データ 授精データ 乳検データ. 気象庁. 気象データ. 月報. 酪農家 + 外部専門家 専門家:獣医師・人工授精師・営農指導員など. ベンチマークの内容を検討 飼養管理改善内容の検討. 支援. 発情発見率 事故率 分娩間隔. 地域システム実証研修. 北海道酪農検定検査協会. 共済組合. 外部専門家. 旬 報. TMRセンターウエストベース. 診療データ 疾病データ. 酪農家. 年 報. 売上高利益率 損益分岐点 自己資本比率. 飼養管理改善計画立案. 改善に向けたアクション. 飼養管理改善アクションの結果がベンチマークに反映され次の計画を立てるという改善サイクルを繰り返す. ■図 -2 地域システムの概要. 3. 問われる生産価値,酪農経営と情報活用 情報処理 Vol.59 No.11 Nov. 2018. 1011.
(4) 小特集. Special Feature. システムの利用形態を個人ではなくて地域(今. 今回は 20 戸弱の酪農家のデータを一元的にデー. 回の事業ではモデル的に 20 戸弱)とすることで,. タベース化しましたが,それだけでもこれまで見え. 個々の詳細分析だけではなく,比較分析を行うこ. てこなかった関連性や新たな視点でのベンチマーク. とが可能となりました.. の設定など,さまざまな発見がありました.. これにより,自らの牧場の状態がほかと比較し. これらを地域全体,北海道全体,日本全国と範囲. てどのような状態にあるのか,という分析が可能. を広げビッグデータ化することにより,これまで行. となったため,重要な業績評価をベンチマークと. えなかった,酪農全体を俯瞰したさまざまな改良が. して出力することにより,きわめて簡易に,しか. 行えるのではないかと考えています.. もひと目で経営状況の把握を行うことができるよ. 近年,稲作や小麦などを中心とした農業分野での. うになりました.. ディープラーニングを用いた研究などが盛んにされ. (3)外部専門家との連携. ていますが,年に 1 回のデータ更新頻度の畑作に比. 牧場には,獣医師や人工授精師,営農指導員な. べて,酪農は毎日搾乳という形でアウトプットがあ. ど,日常的にさまざまな分野の専門家が出入りし. ります.アクションに対するリアクションが 1 年に. ています.. 365 回あるのです.. 地域システムは,それぞれの役割に応じたイン. そういう意味でも,酪農と機械学習の相性は良く,. タフェースを持たせており,システムから出力さ. 今後ビッグデータを活用した総合的な研究と開発が. れるベンチマークをどのように業務に反映すべき. 望まれます.. か,外部専門家にアドバイスをもらいやすいよう. 農林水産省も畜産クラウドによるビッグデータの. にしています.. 整備に着手するなど取り組みが進められていますの. また,地域システムの実証として,酪農家と. で,データを利活用するユーザ側の立場から,積極. 外部専門家,システム開発ベンダを含めた研修. 的に事業を推進していきます.. 会を実施しており,地域システムをどのように. 今後は,ドローンの画像を用いた草地状態の把握. 運用し牧場経営に活かしていくべきか,システ. と飼料品質と作業効率に最適化された栽培を行うた. ムのバージョンアップ内容をどうするか,など. めのシステム開発や,IoT 技術を活用した牛・モノ・. の検討を行っています.. 人のセンシングによるデータの集積と分析などに取. この地域システムの運用により,繁殖間隔の 1%. り組んでいく予定です.. 短縮という事業が定める達成目標を大幅に上回る. また,蓄積された酪農情報は視点を変えると,生. 5% の短縮を実現しました.. 乳生産の内容を担保する情報としても用いることが. この効果は短期間の実証で得られたものであり,. 可能であり,今後の乳製品市場の国際化を踏まえ,. さらに運用ノウハウも継続的に蓄積していることか. グローバル GAP や J-GAP など生産認証取得への. ら,今後さらに大きな成果に結びついてくるものと. 取り組みとしても活用していきます. (2018 年 8 月 8 日受付). 期待しています.. これからの酪農情報システム 地域システムの実証に伴い実感したのは,酪農情 報のビッグデータ化による可能性の大きさです. 1012. 情報処理 Vol.59 No.11 Nov. 2018 小特集 牛と IT/ICT. 宮坂隆男 [email protected] 東京都出身,TMR センターウエストベース代表.北海道東部,別 海町で酪農にたずさわり 50 年.農業は価値創造にかかわれる仕事と 夢を持ち来道.農村生産現場に触れ,理想と農業者の経営者意識の差 に触れ,解決対応策を模索してきた..
(5)
関連したドキュメント
テキストマイニング は,大量の構 造化されていないテキスト情報を様々な観点から
した標準値を表示しておりますが、食材・調理状況より誤差が生じる場合が
の知的財産権について、本書により、明示、黙示、禁反言、またはその他によるかを問わず、いかな るライセンスも付与されないものとします。Samsung は、当該製品に関する
題が検出されると、トラブルシューティングを開始するために必要なシステム状態の情報が Dell に送 信されます。SupportAssist は、 Windows
■はじめに
父親が入会されることも多くなっています。月に 1 回の頻度で、交流会を SEED テラスに
キャンパスの軸線とな るよう設計した。時計台 は永きにわたり図書館 として使 用され、学 生 の勉学の場となってい たが、9 7 年の新 大
しかしながら、世の中には相当情報がはんらんしておりまして、中には怪しいような情 報もあります。先ほど芳住先生からお話があったのは