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シリコンのナノ粒子を塗布するだけで太陽電池変換効率の向上に成功
配布日時:平成 27 年 7 月 29 日 14 時 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 概要 1.国立研究開発法人物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の Mrinal Dutta 博士研究 員および深田直樹グループリーダーを中心とする研究グループは、直径5nm 以下のシリコンからなるナ ノ粒子を利用することで、シリコン系太陽電池の変換効率を向上させる簡便な方法を見出しました。 2.現在、太陽電池材料の主流はシリコンですが、さらなるコスト削減と変換効率の向上を目指して、シ リコンの使用量を格段に減らせるシリコンナノワイヤを用いた太陽電池が注目を集めています。シリコン ナノワイヤ単独では、光の吸収効率が低いですが、シリコンナノ粒子と併せて利用することで変換効率を 増大させることができると考えられています。しかし、シリコンナノ粒子の表面には、結合相手がなく反 応性が高いダングリングボンド型と呼ばれる欠陥が存在するため、太陽光の吸収により誘起された電子と 正孔が再結合する際に発生するエネルギーを有効に取り出すことが困難でした。 3.本研究グループは、特殊な材料および構造を使用することなく、表面がある種の分子で終端処理され た直径5nm 以下のシリコンナノ粒子を、シリコンナノワイヤ型の太陽電池表面に塗布することで、簡単 に変換効率を向上させる方法を開発しました。シリコンナノ粒子の表面に、分子を結合させて終端処理を 行うと、界面には欠陥が形成されず、効率よく光を吸収する材料として利用できるようになりました。こ のシリコンナノ粒子内部で発生した光誘起キャリアの再結合エネルギーが、下地のシリコン太陽電池に伝 達されることで、太陽電池のエネルギー変換効率が向上したと考えられます。今回の実験により、これま で10%程度であった変換効率を最大で 12.9%まで向上させることができました。 4.これまでにも、化合物の半導体ナノ粒子を利用した効率向上の可能性は報告されていましたが、毒性 のある物質が使用されているなど問題がありました。今回開発した技術は、シリコンを中心として環境に やさしい物質で実現可能であり、さらにシリコンナノワイヤ型だけでなく、現在使用されている一般的な シリコン系の太陽電池にも簡単に応用可能と考えられ、シリコン系太陽電池の変換効率を向上させる有用 な方法の1 つとして提案できます。今後は、シリコンナノ粒子のサイズおよび表面を終端する分子種の最 適化を行うことにより、変換効率向上の更なる効率化を目指します。 5.本研究は 、主に最先端・次世代研究開発支援(NEXT)プログラムにおける研究課題「機能性シリコ ンナノ複合材料を利用した次世代高効率太陽電池の開発」(研究代表者:深田 直樹)(平成 26 年 3 月 31 日終了)と NIMS 第 3 期中期開発プロジェクトの一環として行われました。 6.本研究成果は、ACS NANO 誌オンライン版にて 2015 年 7 月 18 日に掲載されました。 図1 分子終端シリコンナノ粒子を利用した 太陽電池構造の模式図.2 研究の背景 太陽電池は21 世紀のクリーンエネルギーの代表であり、シリコンが原料の安全性、資源の豊富性、製 造コストおよび変換効率の観点で太陽電池材料の主流となっています。しかしながら、変換効率が比較的 高いといっても、シリコン結晶を利用した太陽電池において理論的に導き出される最大変換効率は28.5% 程度であり、新しい技術・概念を利用した高効率化と更なるコスト削減が求められています。 そこで、シリコンの使用量を格段に減らせるシリコンナノ構造体として、1次元構造のシリコンナノワ イヤに注目が集まっています。本研究グループでは、シリコンナノワイヤ内部にpn 接合1)を有するナノ ワイヤ型の太陽電池の研究を行っています。一般的に太陽光のスペクトルは広い波長範囲にわたった分布 を持っており、1 種類の材料・構造だけではエネルギー変換効率を向上させることは困難です。シリコン ナノワイヤ単独では、光の吸収効率が低いですが、シリコンナノ粒子と併せて利用することで変換効率を 増大させることができます。しかし、シリコンナノ粒子の表面は通常であれば1~2 nm の酸化膜で覆われ、 その界面にはダングリングボンド型の欠陥(原子同士が結合していない未結合のボンド)が存在します。 ダングリングボンド型欠陥が界面或いは表面に存在すると、太陽光の吸収により誘起された光誘起キャリ アは、その欠陥が形成する深い準位により再結合し、キャリア(電気)を有効的に取り出すことが困難に なるという問題がありました。 研究内容と成果 Mrinal Dutta 博士研究員および深田直樹グループリーダーを中心とする研究グループは、特殊な材料およ び構造を使用することなく、アルコール系の溶媒中に分散した、表面が分子終端された直径5 nm 以下の シリコンからなるナノ結晶をシリコン太陽電池表面に塗布することで(前頁の図1)、簡単にシリコン系太 陽電池の変換効率を向上させる方法を開発しました。 今回の研究では、n 型シリコンナノワイヤ(図 2(a))を p 型シリコンマトリクス(図 2(b))に埋め込ん だナノワイヤ型の太陽電池に対して実験を行いました。シリコンナノ結晶(図2(c))に関しては、シリコ ン系の酸化物粒子であるシルセスキオキサンを酸化還元し、その後、表面を1-オクタデセンで分子終端す ることで、アルコールに分散した形態で作製しました。シリコンナノ粒子の表面を化学種で完全に終端で きた場合、酸化膜で覆われた場合と異なり界面には欠陥が形成されず、太陽光発電のための良好な吸収材 料として利用できるようになります。本研究では、シリコンナノ粒子表面を1-オクタデセンを利用した安 定なC-H 結合で終端することで、シリコンナノ粒子からシリコン太陽電池材料へのエネルギー移動を可能 にし、更にはナノワイヤ構造との複合化により高効率を実現できる新しいシリコン系の太陽電池を実現で きました(図3)。これまでに、化合物の半導体ナノ粒子を利用した研究成果は報告されていましたが、シ リコンナノ粒子を利用したものでは初めての成果となっています。今回の実験により、これまで10%程度 であった変換効率を最大で12.9%まで向上させることができました。本手法は、今回の実験で利用したシ リコンナノワイヤ型の太陽電池のみならず、現在使用されているシリコン系の太陽電池にも簡単に応用可 能であり、シリコン系太陽電池の変換効率を向上させる有用な方法の1 つとして提案できます。 図2. (a) 無電解エッチングにより形成したシリコン基板上のn型シリコンナノワイヤアレイの走 査型顕微鏡写真、(b) n 型シリコンナノワイヤアレイの表面に CVD により p 型シリコン層を形成 したもの、(c) 1-オクタデセンで終端されたシリコン粒子の(a) 高分解能透過電子顕微鏡写真.
3 今後の展開
今後は、シリコンナノ結晶のサイズおよび表面を終端する分子種の最適化を行うことにより、変換効率 向上の更なる効率化を目指します。
掲載論文
題目:High Efficiency Hybrid Solar Cells Using Nanocrystalline Si Quantum Dots and Si
Nanowires
著者:Mrinal Dutta,
Lavanya Thirugnanam, Pham Van Trinh and Naoki Fukata
雑誌:ACS NANO 掲載日時: 2015 年 7 月 18 日 用語解説 1) pn 接合 半導体中で p 型の領域と n 型の領域が接している接合のこと。シリコンを用いた場合、p 型の領域に はアクセプタ不純物の代表であるボロン(B)が、n 型の領域にはドナー不純物の代表であるリン(P) が通常良く用いられる。 本件に関するお問い合わせ先 (研究内容に関すること) 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点無機ナノ構造物質ユニット 半導体ナノ構造物質グループ グループリーダー 深田直樹(ふかたなおき) TEL: 029-860-4769 E-mail: [email protected] (報道・広報に関すること) 国立研究開発法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 TEL: 029-859-2026, FAX: 029-859-2017 E-mail: [email protected] 図3. 1-オクタデセンで終端されたシリコンナノ粒子の 有無による太陽電池特性(I-V 特性)の違い.