<論文>
国際収支表から見た米国企業の
対メキシコ進出
日本貿易振興会内多允
米国の対メキシコ国際収支は91年には、前年に比べて改善された。90年代に経 済の回復基調を取り戻したメキシコとの取引きを拡大している米国企業の活動が、 米国の国際収支改善に貢献している。本稿では、米国の商品・サービスの貿易収 支や直接投資関連のデータから米国企業のメキシコへの進出をめぐる近年の動向 を取りまとめた。なお、これらのデータの出所は特記しない限り、米国商務省発 行のSurveyofCurrentBusiness(月刊)の各号を利用した。したがって、本稿 の国際収支の各項目の収支バランスに関する数字は米国側についての表現となっ ている。 (1)米国系多国籍企業の対メキシコ貿易 米国の対メキシコ経常収支は90年に35億ドルの赤字を記録したが、翌91年には 11億8,900万ドルの黒字に好転した(1)。さらに、92年の同収支の黒字幅は前年の 4.2倍の50億200万ドルに拡大した。経常収支の主要な構成項目である商品貿易、 サービス貿易および直接投資所得の各収支の改善については米国系多国籍企業の 取引き規模の拡大が反映している。 米国の対メキシコ商品貿易(以下、貿易と記す)収支は82年から90年にかけて 9年連続の入超を記録した。しかし、翌91年から93年にかけては、3年連続の出 超を記録した。貿易において米国系多国籍企業は、次のような地位を占めている。 なお、本稿では米国系多国籍企業の定義は、前記の米国商務省刊行物に基づいて いる。その定義によれば、米国系多国籍企業は、2種類に分類される。まず、米 国の非銀行部門が10%以上の株式か、これに相当する支配権を保持する非銀行部 門海外子会社を多国籍子会社(以下MNCと記す)と呼び、さらにこのなかで、 15-同50%以上の場合はMajoriW-OwnedForeignAffiliate(以下MOFAと記す) としている。 米国の対メキシコ貿易収支が黒字に転じた91年の輸出入の前年比伸び率を、多 国籍企業間貿易と総額を比較すると、前者が後者を上回った(表l)。同表によ れば、多国籍企業のなかでも、MOFA貿易が最高の伸び率を達成している。90 年の輸出入総額の収支は24億ドルの赤字であるが、MNCやMOFAによる同収 支は既に黒字を記録している。米国の貿易総額に占める米国系多国籍企業貿易の 比率は、90年から91年にかけて次のように上昇している。輸出については、MN Cが3q8%→32.7%、MOFA26.5%→29.1%に、輸入は同26.4%→30.2%、同 23.7%→27.6%にそれぞれ上昇した(表1の輸出入額より算出)。 米国の対中南米貿易総額のなかで、対メキシコ貿易のシェアは、91年には輸出 52.4%、輸入50.0%を占めている。これを、米国系多国籍企業間貿易に関して対 中南米合計額のなかの対メキシコ取引きの構成比率をみると、89年から91年にか けて次のように上昇している。まず、MNCについては輸出61.1%→68.3%、輸 入61.9%→68.9%に、また、MOFAは輸出59.9%→67.1%、輸入62.8%→67.8 %となった。 <表l>米国の対メキシコ貿易額(金額単位:100万ドル)(伸び率:%)
■T■、■ ̄■T■、■-W■■、
罵駕勇囲隅隅==男鰡
(注)MNCは総額の内数、MOFAはMNCの内数・伸び率は91年の対前年比。 (出所)米国商務省SCB(SurveyofCurrentBusiness)各月号。 米国の対メキシコ貿易の主要部門別収支(92年)は黒字と赤字が各々3部門に 分かれている。その黒字部門は「食料・飼料・飲料」(出超額6億6,100万ドル)、 「産業用原材料」(同27億3.000万ドル〉、「資本財」(同66億6,500万ドル、た だし自動車を除く)である。一方、赤字部門は「自動車・部品・エンジン」(入 超額27億9,300万ドル)、「消費財」(同22億9,000万ドル)、「その他」(同 16-1990年 輸出 輸入 収支 1991年 輸出 輸入 収支 伸び率 輸出 輸入 総額 28.109 30.509 △2.400 33.137 31.496 1.641 17.9 3.2 MNC 8.662 8.046 616 10.831 9.508 1.323 25.0 18.2 MOFA 7.462 7.217 245 9.651 8.704 947 29.3 20.69.200万ドル)となっている。このような収支を反映して、米国の対メキシコ貿 易特化係数(表2)の90年から92年の推移によれば、前記の黒字3部門は輸出特 化(つまり同係数がプラス値)を示し、赤字3部門は輸入特化(同係数がマイナ ス値)を示している。 く表2>米国の対メキシコ貿易特化係数 (注)同係数は全額ベースによる(輸出一輪人)÷(輸出十輸入) より算出。この数値が大きいほど輸出特化であることを示し、 その逆は輸入特化となる。 (出所)米国商務省統計より算出。 (2)自動車部門がリードする米国の直接投資 米国企業の直接投資がメキシコとの企業間貿易を拡大させた分野として、自動
車産業があげられる。前記の米国の自動車部門(部品とエンジンを含む)の対メ
キシコ貿易が入超を記録しているように、メキシコは米国自動車産業への重要な 供給国に成長している。米国の同部門の中南米からの輸入額のなかでのメキシコ のシェアは90年87.9%、91年9q4%、92年92.4%と上昇している。一方、米国か らの輸出の同シニアは、90年80.4%、91年77.7%、92年71.8%と輸入を下回って いる。 以上のような貿易構造の形成には、両国の貿易に関与している米国系多国籍企 業の対メキシコ直接投資の影響を受けている。米国の国際収支表によれば、米国 の対メキシコ直接投資からの所得額は90年18億4.400万ドル、91年22億8,300万ド ル、92年25億300万ドルと増加している(z)。 米国の対メキシコ直接投資額の各年末現在の残高(簿価ベース)は、89年82億 17- 1990年 1991年 1992年 食料・飼料・飲料 △0.1 △0.0 0.1 工業用原材料 △0.1 0.1 0.1 資本財(除、自動車) 0.2 0.3 0.3 自動車(含、部品、エンジン) △0.2 △0.2 △0.2 消費財 △0.2 △0.2 △0.2 その他 △0.1 △0.0 △0.06.400万ドルから92年には133億3,000万ドルに増加した。同残高の業種別内訳に よれば、製造業が92億8.100万ドルを占めた。この製造業のなかで同残高の首位 の業種は「輸送機器」の25億3.300万ドルで、これに次いで「化学・同関連品」 の19億4.900万ドル、「食品・同加工品」13億4.000万ドルと続いている。米国企 業のメキシコへの直接投資の拡大要因としてはメキシコ市場の消費水準の向上と 並んで米国より低い賃金水準が工場の拡大を促したことがあげられる。特に米国 の自動車産業界は、このようなメキシコの投資環境の特長を利用して同国での生 産を拡大するために直接投資を最も積極的に拡大した典型的な業種である(3)。 89年から92年にかけての各年の米国の対メキシコ直接投資についても、自動車 関連産業を含む輸送機器部門の拡大傾向がみられる(米国商務省の直接投資統計 では、自動車関連産業の業種は「輸送機器」となっている。投資の実状からこの 業種が自動車関連産業に読み換えても差し支えない)。 米国の対メキシコ直接投資残高の業種別内訳統計(表3)によれば、輸送機器 部門の同残高が最高額の業種となっている。また、同部門の投資収益も前記残高 と同様に89年から92年にかけては、業種別内訳では首位を占めている。輸送機器 部門のその収益率も、全業種や製造業全体に比べて、高い実績を上げている(表 4)。同部門の対メキシコ直接投資の収益性が良好なことは、毎年の投資傾向に も表れている。 <表3>米国の対メキシコ直接投資(残高と収益)(単位:100万ドル) 柔輸送機器総額製造業輸送機器 82646457115925 57491844148156 832674 79 (注)製造業は総額の内数・輸送機器は製造業の内数。輸送機器の実態は、 大部分が自動車関連産業である。直接投資残高は各年末における簿価 ベース(内数の関係は表4,5,6も同じ)。 18- 残高 総額 製造業 輸送機器 収益 総額 製造業 輸送機器 1989年 8.264 6.412 1.577 1.417 1.159 256 1990年 10.255 7.703 1.749 1.844 1.481 526 1991年 12.257 8.778 2.291 2.283 1.822 674 1992年 13.330 9.281 2.533 2.503 1.856 709
<表4>米国の対メキシコ直接投資のく表5>米国の年間対メキシコ直接役 収益率(単位:%)資額(単位:100万ドル) (注)収益率=収益/残高×100(%)、 (表3を利用)。 輸送機器部門の毎年の対メキシコ直接投資額(表5)の製造業部門に占める構 成比率は89年21.6%、90年19.5%から91年46.9%、92年46.4%に増加した。同部 門のこの投資額の内訳(米国商務省統計では、直接投資額の内訳として資本送金、 利益再投資、親子会社間勘定、価格調整の4勘定に分けている)の特色は利益再 投資が増加していることである。その額は89年の4.200万ドルから92年には5億 2,900万ドルに増加した。92年のこの利益再投資額は、製造業全体(11億9,700万 ドル)の44.2%、全業種合計(16億100万ドル)の32.9%を占めている。 さらに92年の親子会社間勘定については、輸送機器部門では米国にメキシコか ら2億300万ドルの流人を計上している。米国の同勘定総額は、91年の3億9,100 万ドルの対メキシコ流出超過から92年は4億2,700万ドルの米国側の流人超過に 転じた。前記の輸送機器部門の流人超過額は、食品・同加工品部門の2億5,100 万ドルに次ぐ規模となっている。以上のような投資収益や投資額の内容(利益再 投資、親子会社間勘定)から、米国の輸送機器部門の対メキシコ投資の規模拡大 と収益性が高まっていることがうかがえる。 90年代に入って、米国系MOFAはメキシコにおける資本支出(設備投資)を 増加させている。特に、米国の自動車メーカーがメキシコでの生産を拡大してい ることを反映して、輸送機器部門における米国系MOFAの資本支出が急増して いる(表6)。同支出は92年に前年比2.8倍増の6億2,200万ドルを記録、93年 (見通し額)も8億6.200万ドルで前年比38.9%増となっている。また、同支出 額の総額や製造業合計に占める輸送機器部門の比率は、92年から93年にかけて増 加している。米国系MOFAの中南米における資本支出のなかで、メキシコの占 19- 総額 製造業 輸送機器 1989年 17.1 18.1 16.2 1990年 18.0 19.2 30.1 1991年 18.6 20.8 29.4 1992年 18.8 20.0 28.0 総額 製造業 輸送機器 1989年 1.652 1.159 250 1990年 1.868 1.274 249 1991年 2.305 1.304 611 1992年 1.261 711 330
める構成比率は全般的に高くなってきており、85年の19.1%から93年には34.0% に上昇している。この期間における製造業のメキシコのシェアは、29.1%から 44.3%に上昇している。製造業のなかでも輸送機器が60.9%→71.2%、電気・電 子機器37.3%→60.3%と、他の業種よりも高いシェアを達成している。輸送機器 部門の同シェアは90年50.7%、91年51.5%となったが、92年には71.9%に上昇し た。90年代に入ってNAFTA(北米自由貿易協定)の94年発足が近づくにつれ て、米国の自動車業界を含む各産業界がメキシコにおける設備投資の拡大に積極 的になったことが反映している。 <表6>メキシコにおける米国系MOFAの資本支出(単位:100万ドル、%) )総額: 造業 (注)1993年についてはSurveyofCurrentBusinessl993年9月号に 発表された見通し。 <表7>米国の対メキシコ経常収支(単位:100万ドル) (注)経常収支には、a)~。)以外の項目の収支も含む。本稿 のSCBの統計はすべて米国の対メキシコ取引きである。 (出所)米国商務省、SBC1993年6月号。 (3)米国技術の優位を反映する特許権貿易 米国の対メキシコ二国間サービス貿易収支も、 90年の赤字から91年に黒字に好 -20- 資本支出額 A)総額 B)製造業 C)輸送機器 構成比率 C/A C/B 1991年 1.259 1.024 219 17.4 21.4 1992年 1.782 1.449 622 34.9 42.9 1993年 2.396 1.931 862 36.0 44.6 1990年 1991年 1992年 経常収支 △3.585 1.189 5.002 a)商品貿易収支 △2.400 1.641 1.500 b)サービス貿易収支 △41 405 798 c)a+b △2.441 2,046 5.683 。)投資所得収支 1.978 2.289 2,449
転した(表7)。米国の国際収支表の民間サービス貿易の内容は、旅行、旅客運 賃、その他運輸、特許権使用料、通信等の各種のサービス取引きが対象となって いる゜本稿ではこれらの内から米国企業のメキシコへの進出に関係の深い「特許 権使用料等」(RoyaltiesandLicenseFees〉と「その他の民間サービス」(共 に米国の対メキシコ収支の二国間ベース)を取り上げる。 92年における米国側の民間サービス貿易のメキシコからの受取り総額は89億 1`100万ドルで、そのなかで技術貿易である「特許権使用料等」が4億2.100万ド ル、「その他民間サービス」が16億6,100万ドルの構成となっている。 「特許権使用料等」の収支櫛造の特色は米国が受取り超過になっていること、 また企業内(MOFA間)取引きが非企業内取引きを上回っている(表8)。企 業内取引きの受取り額の内訳では、米国における親会社の額が系列企業の額を上 回っている。この受取り総額に占める米国側親会社の受取り額(表8の米国系企 業内の受取り額の内数)の比率と金額は、89年83.6%(’億5.800万ドル)、90 年82.6%(1億9.500万ドル)、91年82.3%(2億7,400万ドル)、92年82.7% (3億4,800万ドル)と高率で推移している。このように技術移転に関係する特 許権使用料の受取り額について米国企業がこのように高い比率を維持しているこ とは、米国からメキシコへの技術移転については米国企業が主導権を握っている ことを示している。 <表8>特許権使用料等の米国の対メキシコ収支(単位:100万ドル) (注)※は50万ドル以下、Dは個別企業の名前が判明することを 防ぐため公表されない。四捨五入のため、内訳の集計値と 合計が一致しないこともある。 (出所)米国商務省、SCB1993年9月号。 -21- 1989年 1990年 1991年 1992年 受取(a+b) 189 236 333 421 a)企業内取引 158 196 275 、 b)非企業内取引 31 40 58 、 支払(C+d) 1 16 10 3 c)企業内取引 ※ 3 9 1 。)非企業内取引 ※ 14 1 2
米国の特許権使用料等の中南米からの受取り額(92年は7億6,400万ドル)の なかのメキシコの比率は、89年~92年にかけて50%台(92年は55.1%)を占めて いる。このなかで92年の米国側親会社の受取り額は中南米からの総額5億4.400 万ドルの内、メキシコからは3億4,800万ドル(64.0%)を占めている。このよ うに、米国企業としてこれらの対中南米取引きにおいて、メキシコは重要な取引 き対象国になっている。 非企業内取引きの特許樋使用料等の収支も受取りが支払いを超過している(表 8)。これの受取り額の構成の特長は、次のようになっている(米国商務省の当 該統計では米国系企業内の取引きについては、米国側親会社と海外の系列会社の 間および米国側系列会社と海外の親会社の2種類の取引きに分類されている)。 この非企業内取引きによる特許梅使用料等の米国の受取り額(表9)の主要部 門は、工業生産技術とフランチャイズ料の2部門である。92年のこれらの受取り 額の89年に対する増加率は工業生産技術が77.8%増、フランチャイズ料が4倍増 となっている゜工業生産技術関係の受取りの増加は、米国企業のメキシコにおけ る生産活動の拡大に伴って特許権の使用料等のメキシコからの支払いが増加した ためである。フランチャイズ料の受取り増加も、米国系フランチャイズチェーン がメキシコに積極的に投資を拡大していることが影響している。メキシコの有力 なフランチャイズ68社のなかで、米国系企業が35社を占めている(4)。メキシコ・ フランチャイズ協会によれば、同国のフランチャイズ104組織の3分の2は米国 系である(5)。 <表9>特許権使用料等の非企業内取引の受取額(単位:100万ドル)
■、■■、■
 ̄■【■■ ̄■ロ■■
 ̄---
■■■■
(注)表8の非企業内取引の分野別内訳(米国側の受取額)。記号「、」 と「※」は表8を参照。 (出所)米国商務省、SCB1993年9月号。 -22- 1989年 1990年 1991年 1992年 総額 31 40 58 , 工業生産技術 18 23 31 32 フランチャイズ料 4 4 13 16 書籍・レコード・テープ 2 4 5 8 放送・実演記録 ※ 1 ※ 1 その他 7 8 9 ,(4)その他の民間サービス収支 「その他の民間サービス」の総額の収支は支払い超過(90年~92年)となって いる(表10)。92年の同収支の内訳によれば、企業内取引きは受取り超過となっ ているが非企業内取引きは支払い超過となっている。これらの取引き額は受取り と支払いの両方共、非企業内取引きが企業内取引きを上回っていることが、前記 の特許権使用料等と対照的である。非企業内取引きの内容は、教育、金融、保険 ・ビジネス・専門・技術サービス、電気通信等に細分されている(企業内取引き については、特許権使用料等と同様にこのような細分は行われていない)。 <表10>その他の民間サービス(単位:100万ドル) (注)Dについては表8参照。Dの後の()内は、米国側親会社と メキシコの系列会社の間の取引額のみの内数。 (出所)米国商務省、SCB1993年9月号。 その他の民間サービス収支の米国の対メキシコ取引き(表10)のなかで、受取 りと支払いのなかで、構成比率が高い項目が「ビジネス・専門・技術サービス」 (以下各種サービス)である。各種サービスは当該の統計ではさらに細分類され ているが、対メキシコ取引きの主な分野は(表11)の4分野である。各種サービ ス収支は総額および各分野においていずれも、米国の受取り超過となっている。 各種サービスのなかで、最大の金額を計上しているのが「機械設置・保守・修繕」 である。これの収支によれば、米国の支払い額も91年と92年には1億ドル台(1 億2.800万ドルと1億1,300万ドル)を計上しており、受取り超過幅が減少してい る。同超過額は89年の2億4,600万ドルから90年’億2,800万ドル、91年’億500 万ドル、92年7,100万ドルと減少傾向を示している。このことはメキシコ側の企 -23- 1989年 1990年 1991年 1992年 A)受取(a+b) , 1.217 1.588 1,661 a)企業内取引 、(150) 156 171 242 b)非企業内取引 1.043 1.061 L417 1.419 B)支払(c+d) 1.410 1.586 1.754 1.828 c)企業内取引 43 D(29) 31 41 。)非企業内取引 1.367 , 1.723 1.787
業にこの種のサービスの海外取引きの力がついてきたのではないかと考えられる。 他の3分野(表11参照)については、サービス貿易全体に占める比率は小さいと はいえ、91年から92年にかけての米国の受取り額が増加している。これらの92年 の受取り額の89年に対する増加状況は、「コンピュータデータ処理サービス」 3.5倍、「経営コンサルティング・公共関連サービス」20倍、「法律サービス」 4.3倍となっている。90年代に入って、メキシコで米国企業を含む外資系企業の 投資が活発になっていることが、これらの各種サービスの対米需要の増加要因に なっている。 <表11>「ビジネス・専門・技術サービス」収支(単位:100万ドル) (注)()内は支払い額。※は50万ドル以下、同収支は表10の内数。 (出所)米国商務省、SCB1993年9月号。 米国の「その他の民間サービス」についての対中南米取引きのなかで、メキシ コは受取り、支払いともに首位(92年)を占めている。これのメキシコの対中南 米合計に対する構成比率は、受取り24.5%、支払い37.2%である。また、このな かの「各種サービス」(92年)の同比率は、受取り25.3%、支払い61.5%である。 このように企業経営のソフトの分野において、メキシコは受取りと支払いの両方 にわたって米国の重要なサービス貿易分野の重要な取引き対象国になっている。 94年にNAFTA(北米自由貿易協定)が発足したことによって、これらの分野 への米国からメキシコへの進出が加速化されることも予想される。このような傾 向が今後も続くとすれば、これらサービス貿易分野へのメキシコへの技術移転の 可能性も大きくなり、メキシコが北米や中南米地域のなかで、同分野における主 -24- 1989年 1990年 1991年 1992年 受取(支払)総額 469(90) 419(103) 538(171) 445(198) 機器設置・保守・修繕 326(80) 219(91〉 233(128) 184(113) コンピュータデータ処理 サービス 12(※) 19(※) 28(※) 42(※) 経営コンサルティング. 公共関連サービス 2(※) 2(※) 38(4) 40(6) 法律サービス 4<※) 3(※) 13(10) 17(8)
要なサービス提供(輸出)国になることが期待される。 (5)積極的になったメキシコ企業の海外進出 メキシコの対外経済関係において米国は重要な地位を占めている。メキシコの 対外取引きで米国のシェアは92年においては、輸出総額の81.0%、輸入総額の 71.2%、外国直接投資受入残高(認証ベース、同年末)374億7.410万ドルの61.7 %(231億1,750万ドル)を占めた(6)。 メキシコの92年の輸出入額の企業順位表によれば、その貿易構造に次のような 特長がみられる(7)。輸出企業順位表は258社が対象になっているが、その内訳は 国営企業6社、民間企業252社で、後者の内訳は民族資本197社、外資系55社の構 成である。輸出額首位の企業は国営石油会社(PEMEX)で、その輸出額は83 億2.030万ドルである。これは同順位表252社の総輸出額(206億8.620万ドル)の 402%、メキシコの総輸出額(275億3,080万ドル)の30.2%を占めている。石油 に次ぐ輸出産業としては外資系企業が主要企業を形成している自動車産業が注目 される。92年の輸出額順位表の上位には、GM(2位)とクライスラー(3位) の米国系企業が進出して、既に記した米国自動車メーカーの積極的な対メキシコ 投資の実績を裏付けている(なお、91年の同順位表にはフォードが4位となって いるが、92年には掲載されていない).92年の輸出額順位表企業部門別輸出額に よれば、前記2社を含む自動車の輸出額は43億5,147万ドル(同表合計の21.0%)、 自動車部品は5億4.088万ドル(同2.6%)となっている。 一方、輸入企業の順位表(92年、362社)ではGMが1位、クライスラーが2 位を占めているように、同順位表企業の部門別輸入実績では自動車部門が最高額 を計上している。自動車の輸入額は39億705万ドルで同順位表の合計輸入額103億 6.698万ドルの37.7%を占めている。自動車部品も4億7.930万ドルを計上して、 同4.6%を占めた。これらを合わせた自動車産業部門で同表輸入合計額の42.3% を占めたことになる。 メキシコへの自動車関連企業の海外からの進出はNAFTA域内では相対的に 人件費が低い立地条件を期待して増加することが予想される。自動車分野のメキ シコへの進出については、米国メーカーに加えて日本や欧州のメーカーの間でも NAFTAの下での北米市場への進出拠点として注目されている。 米国とメキシコの企業間の貿易や投資の拡大を促している要因としては、伝統 的な両国の強いつながりに加えてメキシコで経済自由化政策が導入され、しかも -25-
NAFTAが発足すれば米国経済との関係がますます強化されることを見越して いる米国企業が積極的に投資を拡大したことがあげられる。また、メキシコの主 要企業が80年代後半から米国への企業進出のための投資を拡大していることも影 響している。メキシコの産業界全体から見ると部分的ではあるが、メキシコから も海外に進出する企業が育ってきた動きとして注目される。このような対米進出 の動機としては、次のようなメキシコ側の状況も影響している。 80年代のメキシコ国内の経済不振は企業の収益を悪化させたが、これが米国等 の海外市場に目を向けさせる動機となった。また、民間企業のなかには対外債務 の返済に必要な外貨を確保するために輸出を重視するようになったケースもある。 メキシコ企業の対米進出で代表的な具体例として、ピトロ(Vitro)社があげら れる。同社はメキシコの民族資本企業で、中南米地域ではガラスのトップメーカ ーである。89年から同社は本格的な米国進出に着手して、米国のコーニング社 (CorningInc.,世界最大のガラスメーカー)とは米国、メキシコ両国で合弁会 社を設立した。ピトロ社グループの輸出額(系列会社も含む)は91年2億6,530 万ドル、92年2億8,408万ドルを計上した。 ガラスと並んで米国市場で競争力を発揮しているのが、セメントメーカーであ る。メキシコ第一のセメントメーカーであるセメックス(CEMEX)社は米国 のテキサス、カリフォルニア、アリゾナ3社に持株比率100%の系列企業を経営 している。同社はスペインにも進出して、世界有数のセメントメーカーに成長し ている。 国営企業ではPEMEX(石油)がテキサス州のシェル・ディアパーク精油所 を92年に買収した。PEMEXは同繍油所に10億ドルを投じて改修、95年からは 曰量10万バレルの重質油(マヤ原油)を輸出して、曰騒4万5,000バレルの無鉛 ガソリンを輸入することにしている。PEMEXは米国における最初の同精油所 を系列におくことによって、原油の安定的な輸出先を確保するとともにメキシコ 国内の環境対策のために供給量拡大に迫られている無鉛ガソリンの供給が可能に なる。 メキシコ企業の対米進出は、民間テレビ放送局のテレピサ(TeIevisa)が米国 のテレビ放送局や出版社を買収(92年)のように、情報産業の分野にも及ぶよう になっている。これらの例にみられるように、メキシコ企業の米国への進出業種 も多様化している。 NAFTAは現在のカナダ、米国、メキシコの3カ国の経済統合からさらに中 -26-
南米・カリプ海地域との地域経済統合や相互の貿易自由化も具体化していること をふまえて、西半球圏域内の国際分業のための米国・メキシコ両国の企業提携が 進展することが予想される。 【注記】 (1)経常収支=商品貿易収支十サービス貿易収支十移転収支+投資所得収支。 なお、投資所得収支には直接投資とそれ以外の各種投資の両方を含む。 (2)米国の国際収支表によれば、サービス取引きの受取りの項目として「海外 における米国資産からの所得」として、a)直接投資、b)その他の民間受 取り、c)米国政府の受取りの3分野別に、金額を計上している。本文で引 用している数字は、前記a)に該当する。なお、これら3分野の米国から海 外への支払い額も計上されている。米国からメキシコに対する直接投資によ る所得の支払い額は、92年は6.600万ドルであった。メキシコに対する米国 の直接投資からの所得の収支は、毎年米国側の受取り超過を計上している (表7参照)。 (3)米国の自動車産業のメキシコへの進出については拙稿『自動車産業の米国 ・メキシコの関係』(湘北短期大学紀要No.1SPP53-60.1992年3月)参照。 (4)“FranquiciasLaPrimeraOla',,Expansionl993年5月号(メキシコ・ シティ)、P93. (5)“ElCronistaComercial”紙(ブエノスアイレス、アルゼンチン)、 1993年2月17日号。 (6)メキシコ中央銀行、“ ロ, TheMexicanEconomyl994 。 (7)以下の主要企業の輸出入については、メキシコの経済誌“EXPANSlON” 1992年9月30日号および1993年9月29日号の輸出入額の企業順位表の分析の 記事より引用した。 -27-