教育政策評価における多産出モデルの検討
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 教育政策評価における多産出モデルの検討 橋 野 晶 寛 北海道教育大学旭川校教育学教室. An Examination of Multiple-Output Models in the Evaluation of Education Policy HASHINO Akihiro Department of Education, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 この論稿では,教育政策および教育行財政を対象とした実証分析・政策評価における,教育 成果の複数性の問題について検討する。学校や教育行政組織の生み出す教育成果が単一ではな く,複数存在するという事実は,実証分析や政策評価に対して,単に複数の次元の成果を測定 することだけでなく,各組織がその成果間で異なる優先順位を置き,意思決定を行っているこ とを前提としたモデル化を要請する。正準相関回帰モデル,線形計画法による集計的産出指標 を用いた回帰モデル,変形弾力性一定の集計関数を用いた多産出回帰モデルについて,モデル の仮定の検討と実データにおける適用を踏まえた上での比較を行い,政策分析・政策評価にお ける課題を明らかにする。. 1.課題設定 教育政策・行財政を対象とした実証研究において,教育生産関数に関する計量的実証分析は米欧において 膨大な蓄積があり,これまで様々な実証分析上の論点について検討が行われてきたが,教育成果の複数性の 問題は,その重要性に比して大きな注意が払われてきたとは言い難い。すなわち,個人および教育組織が成 果を生み出す過程において,単一の成果を最大化しているのではなく,複数の成果の間で陰に陽に優先順位 を決め,トレードオフの中で諸々の資源を割り当て,「結合生産」を行っているということは常識的な想定 であるが,実際の教育生産関数の実証分析でこの点はほとんど反映されていこなかった。既存研究では,単 一の成果変数――多くは学力テストのスコアとして測ることのできる認知的スキル(学力)――を想定する ことが少なくなく,複数の成果を検討したとしても個別に生産関数を推定するという場合がほとんどである。 近年,教育政策研究・教育経済学の実証分析では,多岐に渡る非認知的能力を対象とした研究が注目を集め ているが1,この結合生産という特質は回帰分析をベースとした実証分析では依然として看過されている。 成果の複数性の問題は知見の政策的含意という面で非常に重要である(Brown&Saks 1975)。とりわけ,. 29.
(3) 橋 野 晶 寛. 日本の初等中等教育段階の学校・教員は,教科指導のみならず生徒指導にも多くの注意と労力を割いている という現実がある。例えば,OECDによる国際教員指導環境調査(TALIS2013)によれば,日本の中学校教 員の1週あたりの勤務時間53.9時間のうち,授業に使った時間は平均17.7時間である。調査参加国における 平均勤務時間が38.3時間,授業に使った時間が19.3時間であることを考慮すると,日本の教員は勤務時間に 占める授業時間の割合自体が少ない。授業時間以外の時間には授業準備等教科指導関連業務の時間が含まれ るが,特に日本の場合,課外活動の指導が平均7.7時間(参加国平均2.1時間)となっており,単純に時間数 の上で教科指導外の業務も多いという実態がある。また,学級の規律的雰囲気について,他の国と比較して 良好であるという結果が得られており2,これらの事実は,恒常的に教員による生徒指導が行われているこ とを反映しているとも解釈できる3。こうした教育活動の現実をふまえるならば――それを日本的学校の美 点として肯定的にとらえるかはともかくとして――,教育成果の複数性および結合生産という側面は無視で きない。 同様の問題は初等中等教育段階の教育・行政組織のみならず,高等教育機関の組織評価についても該当す るであろう。すなわち,高等教育機関においても複数の異なるタイプの成果が社会的に「期待」されている のであり,本稿の議論は教育組織一般に敷衍できるのである。 以上をふまえて,本稿では,多産出の結合生産モデルを検討し,教育生産関数の実証分析における適用上 の課題を明らかにすることを試みる。まず,2節で既存の結合生産の回帰モデルを紹介・検討する。教育政 策関係の実証分析では,技術的効率性に関する実証分析・組織評価で複数の産出を扱う際に包絡分析法が広 く用いられているものの,回帰モデルに基づく手法では複数の産出を考慮したものは稀である。ここでは既 存の教育生産関数の実証分析で用いられた正準相関回帰モデルの他に,線形計画法を併用した回帰モデル, 変形弾力性一定の集計関数を用いた回帰モデルについて概観・検討する。3節でそれらのアプローチについ て,国際学力調査の日本のサンプルの実データでの適用を踏まえた上で比較を行う。そして4節では,2, 3節の議論をふまえて,今後の実証研究および政策評価における課題を指摘する。. 2.多産出生産関数 J種類の産出変数(y)とK種類の投入変数(x)からなる式⑴の生産関数を考える。 ⑴ 一般的にこうした複数産出を想定した生産関数に関する既存の実証分析の方法には,主なものとして1) 正準相関回帰モデル,2)線形計画法を用いた集計的産出の推計を併用した回帰モデル,3)変形弾力性一 定の集計関数を用いた回帰モデルがある。これらのうち現に教育政策分析に適用されているのは1)のみだ が,1)が適用できる条件においては2),3)も適用可能である4。 2. 1.正準相関回帰モデル 教育生産関数の実証分析の文脈で結合生産関数を用いた既存研究としては,Chizmar&Zak (1983, 1984), Chizmar&McCarneya (1984), Gyimah-Brempong&Gyapong (1991) がある。いずれも正準相関分析を回帰 モデルに発展させたVinod (1968) の正準相関回帰モデルに依拠している。より一般的な最尤法での推定を 示したEstrella (2007) に従えば,正準相関回帰モデルは式⑵のような線形結合の産出の回帰モデルとなる。. 30.
(4) 教育政策評価における多産出モデルの検討. ⑵. ただし,Yは平均0に基準化され,誤差項εは独立かつ同一の正規分布(平均=0,分散=σ2)に従うと 仮定する。パラメータ識別のためには集計的産出の分散を1とする制約を置く。この制約式を取り込んだ式 ⑶のラグランジュ関数を疑似対数尤度関数とし,これを最大化するパラメータを推定する。 ⑶ β,σ2の推定値は式⑷,⑸で与えられる。また,αの推定は式⑹の固有値問題に帰着し,最大固有値に対 応する固有ベクトルによって推定値が得られる。 ⑷ ⑸ ⑹. 2. 2.線形計画法による集計産出の決定 正準相関回帰モデルと同様に,線形結合の集計的産出関数を仮定するものとして,Collier et al. (2011)に よる方法がある。Collier et al. (2011)の方法では,まず式⑺の線形計画問題を解くことによって,集計的産 出変数y*=1/θを得る。. ⑺ この線形計画問題は,包絡分析法(産出指向のBCCモデル)から,投入変数に関する制約条件式を除い たものに一致する。包絡分析法の主問題は,各意思決定主体に対して,線形加重和による総産出/線形加重 和が最適になるようなウェイトを得ることにあり,式⑺も同様に各意思決定主体に最も有利な産出の加重和 を求める主問題と同値である。正準相関回帰モデルでは要素となる産出の荷重は意思決定主体間で一定で あったが,この方法では意思決定主体毎に荷重が異なっている。こうして得られた集計的産出変数を被説明 変数として通常の回帰分析を実行する。 2. 3.変形弾力性一定の集計産出関数 Fernández et al. (2000,2005),Koop (2002) は確率的フロンティアモデルによる実証分析において,式. 31.
(5) 橋 野 晶 寛. ⑻のCET(Constant Elasticity of Transformation)型の集計関数を用いている5。. ⑻ φは産出の代替関係に関わるパラメータであり,2産出間の限界変形率は式⑼で,変形弾力性は1/(1-φ) で表される。 ⑼ 図1および図2は例として2産出モデルy*={(α1y1) +(α2y2) }1/ における産出間の代替関係を示した φ. φ. φ. ものである。図中の曲線はそれぞれφ=1(太実線),φ=2(実線),φ=∞(破線),図1はα1=α2=0.5, 図2はα1=0.3,α2=0.7のケースである。. 図1 CET型集計産出関数(α1=α2=0.5). 図2 CET型集計産出関数(α1=0.3, α2=0.7). 図から明らかなように,φの値が1に近づくほど2つの産出間で代替性が強くなり,φが無限大の時(破 線) ,代替関係はなくなる。教育組織が現実に結合生産を行っているにも関わらず,実証分析の文脈におい て一部の産出のみに着目することは,代替関係を看過することになる。こうした点でφは非常に重要な意味 を持つパラメータである。また,先述の正準相関回帰モデルはφ=1とい強い代替関係を想定したモデルと して解することができる。 尚,Fernández et al. (2000,2005), Koop (2002)では回帰モデルにおける各パラメータについてマルコフ 連鎖モンテカルロ法を用いて推定している6。. 32.
(6) 教育政策評価における多産出モデルの検討. 3.データ分析 3. 1.データ 本稿の分析で用いるデータはTIMSS2003,2007の日本の小学校4年生のサンプルである。TIMSSのデー タは,同様の国際学力調査であるPISA(国際学習到達度調査)と比較して,教員・学校レベルの変数が実 際的な意味で使用可能であるという利点がある。PISAにもTIMSSと同様に調査対象校の校長が回答した学 校レベルのデータがあるが,日本の調査対象は高校入学直後の生徒であり,生徒個人のスコアを説明する変 数として学校レベル変数を使用するのは難がある。それに対し,TIMSSの対象学年は第4学年(小学4年) および第8学年(中学2年)であり,児童・生徒個人レベルのデータと教員・学校レベルのデータを組み合 わせた分析が可能であるという点で好都合である。TIMSSの教員調査票には学級規模の設問が含まれてお り,この学級規模を政策的な投入変数として用いて分析を行う。日本は1995年以降の5回のTIMSS調査全 てに参加しており,それぞれの調査の個票データが利用可能であるが,分析に関わる変数の設問項目が共通 しているTIMSS2003とTIMSS2007のデータを用いる。 本稿では回帰モデルの一種である確率的フロンティアモデルによって分析を行うが,分析の単位を学校に 設定し,学校レベルの産出として以下の6種類の成果変数を考える。 1)学力の水準 2)学習意欲・態度の水準 3)学力格差(の小ささ) 4)社会経済的背景に基づく学力格差(の小ささ) 5)児童・生徒間の人間関係 6)学校生活への意識 1) ,2) ,3) ,4)は算数のスコアを用い,学校レベルの集計的統計量を算出する。TIMSSは算数・数 学と理科において調査が実施されているが,算数・数学は学習内容がより規格化されており,比較可能性と いう点で利点がある。1)の学力水準に関しては,TIMSSのスコア自体は比例尺度ではないため,スコア 自体の学校平均ではなく,各児童・生徒のスコアをパーセンタイルに変換し,その学校平均値を100分の1 倍にしたものを指標として用いる。2)の意欲・態度については,児童・生徒票のデータから項目反応理論 によって指標を得た。得られた値が大きいほど児童・生徒の算数・数学への意欲・関心が高いことを意味し, 1)と同様にパーセンタイル変換したスコアの学校レベル平均を用いる7。3)の学力格差に関しては,サ ンプル全体のスコアの標準偏差と学校レベルでのスコアの標準偏差を求め,後者に対する前者の比を指標と する。当該学校の学力格差が小さい時,この指標の値は大きくなる。4)の社会経済的背景に基づく格差に ついては,サンプル全体と学校毎に,算数スコアに対する社会経済的背景8の回帰係数を求め,後者に対す る前者の比を指標とする。当該学校の社会経済的背景に基づく学力格差が小さい時,この指標の値は大きく なる。5)の児童・生徒間の人間関係については,学校内での人間関係上のトラブルの経験の有無に関する 5項目の設問について,全てに「いいえ」と回答した児童・生徒の割合を指標として用いる9。6)の学校 生活全般への意識については,児童・生徒票の「学校にいるのが好きだ」という項目に関して,肯定的に回 答した者の割合を学校単位で算出したものを用いる。 これらの教育成果を規定する要因として,学級規模およびその他の統制変数(児童・生徒の社会経済的背 景,日本語を母語とする児童・生徒の割合,所属学級の教員の経験年数,調査実施年)を考える。. 33.
(7) 橋 野 晶 寛. 3. 2.分析モデル 多産出生産関数の回帰モデルとして式⑽のモデルを考える。. ⑽ yiは学校iにおける6種類の産出変数のベクトル,CSiは学級規模,xiは統制変数である。産出の集計関数 f(yi) については,前節で見たCollier et al. (2011) の線形計画法を用いて集計的産出を算出するケース(モ デル1)とFernández et al. (2000) の変形弾力性一定の集計関数を仮定するケース(モデル2)を想定する。 また比較のために学力の水準のみの単一産出モデル(モデル0)についても推定を行う。 υは非効率性に関する正値の確率変数であり,exp(-υ) について1未満の正値となることから,この項 は効率性として解釈することができる。この効率性は産出指向の技術的効率性であり,所与の投入の下で達 成可能な産出(ベストプラクティス)に比較してどれだけの割合を現実に達成しているかを意味している。 そして,式⑽のモデルは非効率性に関する分散が学校毎に異なることを仮定している。υの期待値は非効率 性の標準偏差τiに比例するため,式⑾のようにτiについてモデル化する。 ⑾ zは非効率性の標準偏差に影響を及ぼす要因であり,本分析では学校規模と学校の所属自治体規模を考え る。実際にはそれぞれを規模に応じてダミー変数化している10。 式⑽,⑾におけるパラメータについて,β,σ-2,η=exp(-2γ) の事前分布として,式⑿のように,多 変量正規分布およびガンマ分布を設定し,マルコフ連鎖モンテカルロ法によって推定を行う。. ⑿ 事後分布から2万組のパラメータを発生させ,前半1万組をburn-inとし,後半1万組を事後分布統計量の 算出に用いる。 3. 3.多産出確率的フロンティアモデルによる分析結果 図3,4,5はそれぞれモデル0(単一産出モデル),モデル1(線形計画法による集計的産出変数を用 いた多産出モデル) ,モデル2(変形弾力性一定の集計関数を用いた多産出モデル)における学級規模効果 の関数g(CS)を示している。関数形においては単調性を満たすよう推定上の制約を課している。いずれも 学級規模が小さくなるほど教育成果が改善されるという関係を示している点で共通しているが,効果の大き さと関数形の点で重要な相違がある。 まず第1に,効果の大きさに相違がある。図では学級規模について10~40人のレンジを示しているが,単 一産出モデル(モデル0)では最大で0.5標準偏差ほどの変動であるのに対し,多産出モデル(モデル1,2) では1標準偏差ほどの変動が見られる。すなわち単一の産出よりも多産出を仮定したモデルでより大きな変 動が確認できる。 第2に,モデル0とモデル2では学級規模の効果の大部分は20人以下のレンジで現れ,現実的にとりうる. 34.
(8) 教育政策評価における多産出モデルの検討. 政策の値域においてはその効果は小さい。モデル2では35人から25人に学級規模が変動した時に改善される 産出は0.22標準偏差程度,30人から20人に変動した時に改善される産出は0.25標準偏差程度であり,この効 果の大きさはモデル0の学級規模の効果よりもやや大きい。それに対し,モデル1では10~20人のレンジで. y*. 0.4. 0.90. 0.95. 0.5. 1.00. 1.05. 0.6. y*. 1.10. 0.7. 1.15. 0.8. 1.20. の効果が大きいことに変わりはないが,20人以上の規模における効果の逓減の度合いは緩やかである。. 10. 15. 20. 25. 30. 35. 40. 学級規模. 10. 15. 20. 25. 30. 35. 40. 学級規模. 図4 推定されたフロンティア関数(モデル1). y*. 0.3. 0.4. 0.5. 0.6. 0.7. 図3 推定されたフロンティア関数(モデル0). 10. 15. 20. 25. 30. 35. 40. 学級規模. 図5 推定されたフロンティア関数(モデル2). 表1は,2つの多産出モデル(モデル1,2)および単一産出モデル(モデル0)のパラメータ推定値を 示している。統制変数に関するパラメータ(β)に関しては,教員経験年数に関するパラメータ以外はモデ ル間で異なる推定値となっている。一方で非効率性に関するパラメータについても同様にモデル間で相違が あるが,いずれにおいても学校規模および自治体規模は非効率性を左右していることがわかる。非効率性に 関して3モデル間で共通しているのは,学校規模については大規模校が,自治体規模については人口50万人 以上の大規模自治体では非効率性が小さい点である。ただし,それは単調な規模の優位を表しているわけで はない。学校規模に関しては,多産出モデルでは小規模校と大規模校の係数は負であり,「標準規模」の学. 35.
(9) 橋 野 晶 寛. 校が最も非効率性が大きい。特に小規模校の場合, 「標準規模」の学校に対して非効率性は0.76倍程度になる。 一方,自治体規模に関しては,モデル2に関しては係数が全て負の値であり,また係数の絶対値は大規模自 治体ほど大きくなっており,規模の優位を見出せるが11,モデル0とモデル1ではそのような順序関係には なっていない。 そして,モデル2の代替関係に関わるパラメータφについてみると,1に近い値を示しており,産出間に 強い代替関係があることがわかる。 表1 多産出確率的フロンティアモデルの推定結果 モデル0(単一産出モデル) パラメータ 変数. モデル1(線形計画法による集計産出) 標準誤差. Pr(θ>0│D). β1. 日本語常用使用者割合. 0.084. 0.142. 0.686. 0.151. 0.070. 0.993. β2. 社会経済的背景学校平均. 0.287. 0.031. 1.000. 0.007. 0.021. 0.634. β3. 教員経験年数. 0.000. 0.001. 0.320. 0.000. 0.001. 0.397. β4. 2007年. -0.040. 0.020. 0.019. -0.005. 0.013. 0.334. γ0. 定数項. -1.268. 0.103. 0.000. -1.564. 0.094. 0.293. γ1. 小規模校. 0.047. 0.139. 0.636. -0.237. 0.147. 0.044. γ2. 大規模校. -0.226. 0.142. 0.053. -0.134. 0.134. 0.901. γ3. 自治体規模(50,001~100,000人). -0.258. 0.169. 0.064. -0.412. 0.168. 0.944. γ4. 自治体規模(100,001~500,000人). -0.144. 0.124. 0.123. -0.196. 0.117. 0.216. γ5. 自治体規模(500,001人以上). -0.252. 0.139. 0.035. -0.407. 0.141. 0.513. 0.092. 0.010. 1.000. 0.061. 0.006. 0.865. σ. 事後平均. 標準誤差. Pr(θ>0│D). 事後平均. 観測数=289 モデル2(CET型産出関数) パラメータ 変数. 事後平均. 標準誤差. Pr(θ>0│D). α1. 学力水準. 0.175. 0.010. 1.000. α2. 意欲・態度. 0.414. 0.017. 1.000. α3. 学力格差. 0.063. 0.005. 1.000. α4. 社会経済的背景による格差. 0.012. 0.001. 1.000. α5. 人間関係. 0.226. 0.015. 1.000. α6. 学校生活態度. 0.109. 0.010. 1.000. β1. 日本語常用使用者割合. 0.174. 0.191. 0.819. β2. 社会経済的背景学校平均. 0.092. 0.039. 0.990. β3. 教員経験年数. 0.000. 0.001. 0.519. β4. 2007年. 0.079. 0.025. 1.000. γ0. 定数項. -1.282. 0.101. 0.000. γ1. 小規模校. -0.272. 0.199. 0.083. γ2. 大規模校. -0.153. 0.178. 0.191. γ3. 自治体規模(50,001~100,000人). -0.295. 0.189. 0.063. γ4. 自治体規模(100,001~500,000人). -0.386. 0.150. 0.004. γ5. 自治体規模(500,001人以上). -0.429. 0.170. 0.004. σ. 0.153. 0.011. 1.000. φ. 1.182. 0.041. 1.000. 観測数=289. 表2は各モデルの下での効率性exp(-υ)の記述統計量を示している。効率性の平均値については3つの モデル間でほぼ似通った値がされているが,ばらつきについては明確な相違がある。単一産出モデルに比較 して多産出モデルでは効率性のばらつきが小さく,特にモデル0とモデル1の相違において顕著である。具 体的には, モデル0とモデル1との間に標準偏差に関して1.4倍程度,最小値については1.5倍程度の差がある。 このことは学校組織が,複数の産出間の資源配分において,学力水準以外の産出に少なからぬ配慮をしてい. 36.
(10) 教育政策評価における多産出モデルの検討. ることを示唆している。 また,3つのモデル間での効率性の相関係数を算出すると,モデル0-モデル1間で0.262,モデル0-モ デル2間で0.613,モデル1-モデル2間で0.542であり,必ずしも高い相関とはなっておらず,産出の要素, 集計関数の想定が影響を与えていると言える。 表2 効率性の記述統計量 分位点 平均. 標準偏差. 最小値. 最大値. 10%. 25%. 50%. 75%. 90%. モデル0(単一産出). 0.843. 0.092. 0.410. 0.964. 0.719. 0.793. 0.863. 0.911. 0.932. モデル1(多産出:線形計画法). 0.891. 0.066. 0.618. 0.965. 0.803. 0.857. 0.906. 0.947. 0.956. モデル2(多産出:CET型関数). 0.853. 0.078. 0.539. 0.964. 0.734. 0.811. 0.870. 0.913. 0.934. こうした多産出モデルによる分析結果を単一産出モデルの分析結果と比較すると,以下の点が指摘できる。 まず第1に,学級規模の効果は学力水準以外の産出を考慮した場合にやや大きくなり,学級規模縮減の効果 は,小学校に関しては学力以外の面においてより寄与していることがわかる。第2に,効率性は,学力水準 以外の面を考慮した多産出モデルにおいて若干高くなり,ばらつきも小さくなる。このことは学校が複数の 目標を持ち,それぞれが異なる優先順位の下で資源配分していることを示唆している。第3に,学力水準以 外の産出を考慮した場合,組織経営規模としての学校規模と自治体規模の影響はより鮮明になる。特に自治 体規模関して,10万人以上の自治体における効率性の面での優位性は際立ったものとなっている。 これらの分析結果は,学力水準に焦点化した既存研究について再考の余地が大いにあることを意味してお り,特に,学習指導のみならず生徒指導をも学校・教員の役割として「期待」されている日本において示唆 的である。. 4.考 察 本稿では教育政策・行財政に関わる実証分析・政策評価において,これまで取り扱われることの少なかっ た複数産出による結合生産の問題を検討した。国際学力調査の実データを用いて,学校を意思決定単位と想 定して分析を試みた結果は,複数の産出間で強い代替関係があることを示唆するものであった。分析は試論 的な性格が強いものの,この知見は既存の教育生産関数研究などの実証分析の知見を批判的に捉え直す契機 を与えるものとなっている。教育(行政)組織の技術的効率性の推計を主眼とする包絡分析法に比較して, 生産関数推定を目的とする回帰モデルでは複数の産出を扱いにくいという難点を抱えるものの,回帰モデル の枠組みの中でその解決の可能性を探索することは今後も不可欠な作業となろう。 今後の課題について,教育政策・行財政という適用対象の範囲内で次の2点が指摘できよう。第1は,産 出変数の構成である。冒頭で述べたように,近年,学際的な潮流として教育活動の成果としての「非認知的 能力」に多大な関心が寄せられている。このことは,もはや「学力だけが教育の成果ではない」「学校・教 員は測れない成果を向上させている」といった類の言説が政策・行政評価を回避するレトリックにはなりえ 「非認知的能力」という語が指す内容は幅広く,政策的なターゲットとな ないことを意味する12。しかし, るのは何か,あるいは,ターゲットとすべきではないものは何か,という点について研究者間の合意はない。 現状では非認知的能力という名の下に,教科への態度のような広い意味で「学力」に含まれるものから,心 身の健康,運動能力,素行,そして誠実性や時間的選好など従来性格や「文化」に属すものとして理解され ていたものまで「能力」 「スキル」として分析の対象となっている。こうしたもの全てが近い将来に政策的. 37.
(11) 橋 野 晶 寛. 介入の対象となるかは不明だが,何が教育活動の成果として含まれるべきかという規範的議論は不可欠であ る。 関連して,第2は,教育活動の成果変数の尺度の問題である。教育成果指標の多くは比例尺度ではなく, 標準化された尺度で得られる。国際学力調査における学力のみならず,「非認知的能力」に属す心理学的指 標の多くは因子分析や項目反応理論によって推定された潜在変数であり,そのスケールには実質的意味がな い。一方で,経済学における生産関数の理論・実証モデルは産出変数が非負の比例尺度であることを想定し ており,そのままでは分析に使用することはできないという点でデータとモデルの間に齟齬がある。多くの 実証分析ではこの点は看過されているが,経済学的な理論に対応する分析モデルを使う際に考慮されるべき 問題である13。本稿では次善の策として一部の成果変数をパーセンタイル尺度に変換するという処理を行っ たが,より妥当な方法を求めて今後も十分な検討がなされなければならない。. 注 1 労働経済学・教育経済学における非認知的能力に関する研究のレビューとしてThiel&Thomsen (2013)など。 2 具体的には「授業を始める際,生徒が静かになるまで待たなければならない」という項目で「非常によく当てはまる」「当 てはまる」と回答した割合は,参加国平均が28.8%であったのに対し,日本は14.7%であった。また,「生徒が授業を妨害す るため,多くの時間が失われてしまう」に関しては,参加国平均が29.5%であったのに対し,日本は9.3%,「教室内はとて も騒々しい」については,参加国平均が25.6%であったのに対し,日本は13.3%であった(OECD 2014) 。 3 ただし,このことは,教員の主観的評価として生徒指導が首尾よく行われていることを意味しない。学級運営に関する自 己効力感に関する項目では,日本の教員は参加国平均よりも一貫して自己効力感が低い。 4 教育政策分野の実証分析において,複数産出を扱う手法として,従来,線形計画法を応用した包絡分析法が用いられてき た。 近 年 で は, 2 次 計 画 法 を 用 い て, 包 絡 分 析 法 と 回 帰 分 析 を 統 合 す る 研 究 も 登 場 し て い る(Kuosmanen 2006, Kuosmanen&Johnson 2010,Kuosmanen&Kortelainen 2012)。こうした2次計画法を用いたアプローチは非常に興味深い ものであり,本稿の議論とも密接に関連しているが, 推定における計算負荷が大きいため今回は比較・検討の対象としなかっ た。別稿において議論することとしたい。 5 変形弾力性一定の関数については,Powell&Gruen (1968) を参照。 6 推定の詳細はFernández et al. (2000) の補論を参照。 7 用いた具体的な質問項目は以下の通りであり,回答の選択肢は「強くそう思う」 「ややそう思う」 , 「あまりそう思わない」, , 「全くそう思わない」の4値である。 1)もっと算数・数学を学習したいと思う 2)算数・数学の学習は周囲の児童・生徒よりも大変だと感じる(反転項目) 3)算数・数学の学習は楽しい 4)算数・数学は退屈だ(TIMSS2007のみ,反転項目) 5)算数・数学が好きだ(TIMSS2007のみ) 8 児童・生徒の家庭背景変数については,データセットに総合的な変数が存在しないため,データセットに含まれる家庭に おける所有物に関する変数から尺度を作成する。具体的には以下の変数から項目反応理論によって平均0,標準偏差1の1 次元の潜在変数を得る。 ・家庭の蔵書数(「10冊未満」,「10~25冊」,「26~100冊」 , 「101~200冊」 , 「201冊以上」の5値変数) ・計算機の有無(2値変数) ・コンピュータの有無(2値変数) ・勉強机の有無(2値変数) ・辞書の有無(2値変数) ・インターネット接続の有無(2値変数) ・望遠鏡の有無(2値変数) ・地球儀の有無(2値変数) ・植物図鑑の有無(2値変数). 38.
(12) 教育政策評価における多産出モデルの検討. 9 TIMSS2003,TIMSS2007における設問文は,「先月,学校で以下のことを経験しましたか」であり,項目は以下の通りで ある。 a)ものを盗まれた b)暴力を振るわれた c)不快なことをさせられた d)からかわれた e)仲間外れにされた 10 学校規模は「標準規模校」を基準カテゴリーとして, 「小規模学校」 (学年の在学者が80人以下の時=1,それ以外=0), 「大規模校」(学年の在学者が121人以上の時=1,それ以外=0)の2つのダミー変数を設定する。自治体規模については TIMSSの原データでは, 「500,001人以上」, 「100,000~500,000人」 , 「50,001~100,000人」 「15,001~50,000人」 「3,001~15,000人」 「3000人以下」の6段階の変数となっている。該当する観測数の少ない50,000人以下のカテゴリーを併合した上で基準カテ ゴリーとして,「50,001~100,000人」,「100,000~500,000人」 「500,001人以上」の3つのダミー変数を設ける。 11 具体的に言えば,基準カテゴリーの5万人以下の小規模自治体に対し,5~10万人の自治体では非効率性が0.74倍程度に, 50万人以上の大規模自治体では0.65倍程度に縮減される。このことは効率性で言えば6%程度改善することを意味し,その 改善幅は,学級規模で言えば,40人学級から24人学級に縮小した時の効果に匹敵している。また,学校規模と自治体規模と いう組織経営規模に関して,効率性の面で最も不利な組み合わせ( 「標準規模」校,小規模自治体)と最も有利な組み合わ せ(小規模校,50万人以上の大規模自治体)で比較すると,前者では0.801,後者では0.896となり,非常に大きな差が生ま れる。 12 通俗的には,学力のような認知的能力は数値で測ることができ,非認知的能力はそうではないという区分が共有されてい るが,これは明確に誤りである。認知的能力であれ,非認知的能力であれ,単一の連続量の観測変数は存在しないのであり, 通常は,因子分析や項目反応理論などの手法によって複数の離散変数から個々人の能力・特性に関する潜在変数を推定して いるのである。 13 Cunha&Heckman (2008) は,認知的・非認知的スキル形成の実証分析において,認知的・非認知的スキルに関する潜在 変数に比例尺度としての意味を持たせるために,就業後の対数賃金に係留するという方法を採っている。こうした方法は長 期のパネルデータによって可能となる限定的な解決法であるが,実質的に意味のある他の変数に係留するというアイディア は有用である。. 文 献 Brown, Byron W. and Daniel H. Saks, 1975, “The Production and Distribution of Cognitive Skills within Schools,” Journal of Political Economy, 83⑶: 571-93. Callan, Scott J. and Rexford E. Santerre, 1990, “The Production of Characteristics of Local Public Education: A Multiple Product and Input Analysis,” Southern Economic Journal, 57⑵: 468-480. Chizmar, John F. and Thomas A. Zak, 1983, “Modeling Multiple Outputs in Educational Production Functions,” American Economic Review, 73⑵: 18-22. ―― and ――, 1984, “Canonical Estimation of Joint Education Production Functions,” Economics of Education Review, 3⑴: 37-43. ―― and Bernard J. McCarneya, 1984, “An Evaluation of a “Trade-Offs” Implementation Using Canonical Estimation of Joint Educational Production Functions,” Journal of Economic Education, 15⑴: 11-20. Collier, Trevor, Andrew L. Johnsonb and John Ruggiero, 2011, “Technical Efficiency Estimation with Multiple Inputs and Multiple Outputs Using Regression Analysis,” European Journal of Operational Research, 208⑵: 153-160. ―― and John Ruggiero, 2014, “Estimation of Multi-Output Production Functions in Commercial Fisheries,” Omega, 42: 157165. Cunha, Flavio and James J. Heckman, 2008, “Formulating, Identifying and Estimating the Technology of Cognitive and Noncognitive Skill Formation,” Journal of Human Resources, 43⑷: 738-782. Estrella, Arturo, 2007, “Generalized Canonical Regression,” Federal Reserve Bank of New York Staff Reports, No.288. Fernández, Carmen, Gary Koop and Mark F. J. Steel, 2000, “A Bayesian Analysis of Multiple-Output Production Frontiers,” Journal of Econometrics, 98⑴: 47-79. ――, ―― and ――, 2005, “Alternative Efficiency Measures for Multiple-Output Production,” Journal of Econometrics, 126. 39.
(13) 橋 野 晶 寛. ⑵: 411-444. Gyimah-Brempong, Kwabena and Anthony O. Gyapong, 1991, “Characteristics of Education Production Functions: An Application of Canonical Regression Analysis,” Economics of Education Review, 10⑴: 7-17. Koop, Gary, 2002, “Comparing the Performance of Baseball Players: A Multiple-Output Approach,” Journal of the American Statistical Association, 97(459): 710-720. Kuosmanen, Timo, 2006, “Stochastic Nonparametric Envelopment of Data: Combining Virtues of SFA and DEA in a Unified Framework,” MTT Discussion Paper, No. 3/2006. ―― and Andrew L. Johnson, 2010, “Data Envelopment Analysis as Nonparametric Least Squares Regression,” Operations Research, 58⑴: 149-160. ―― and Mika Kortelainen, 2012, “Stochastic Non-Smooth Envelopment of Data: Semi-Parametric Frontier Estimation Subject to Shape Constraints,” Journal of Productivity Analysis, 38⑴: 11-28. OECD, 2014, Talis 2013 Results: An International Perspective on Teaching and Learning, OECD Publishing. Powell, Alan A. and F. H, G. Gruen, 1968, “The Constant Elasticity of Transformation Production Frontier and Linear Supply System,” International Economic Review, 9⑶: 315-328. Thiel, Hendrik and Stephan L. Thomsen, 2013, “Noncognitive Skills in Economics: Models, Measurement, and Empirical Evidence,” Research in Economics, 67: 189-214. Vinod, Hirshikesh D., 1968, “Econometrics of Joint Production,” Econometrica, 36⑵: 322-326.. 〈付 記〉 本研究は文部科学省科研費26285180および15K17336の助成を受けたものです。 (旭川校准教授). 40.
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