〈自由研究〉 少人数指導加配教員の機能性に影響を与える要素について -学力向上推進リーダー等への質問調査から- 原 田 敦 史 1.課題意識と調査の背景 1998(平成 10)年にとりまとめられた中央教育審議会答申「今後の地方教育行政の在り 方について」により、教育行政の地方分権化と学校の自律性の確立をもって、児童生徒等 の実態や地域の実情に応じた特色ある学校づくりを展開することが、教育水準の向上につ ながるという考え方が示された。以降、全国各地で地方自治体単位による学校現場の諸課 題に対応した独自の教育施策が打ち出されるようになった。 一方で多くの都道府県では人口減少や少子高齢化などの影響により、教育予算や教育に 携わる人材などの資源は大幅に縮減されつつある。そのような中にあって、学校が一定の 教育水準を保ちながら、特色ある学校づくりを進めていくためには、地方自治体の教育行 政による多面的な支援が欠かせない。その意味で、県費負担教職員の任命権等を有する都 道府県教育委員会と、学校管理権等を有する市町村教育委員会には、双方が相互に連携し、 適材適所の人事行政と学校の独自性や主体性を尊重する指導行政等を執り行うとともに、 学校現場のニーズにあった教育施策を立案、実施することが求められる。 そこで、本研究ではそのような都道府県教育委員会と市町村教育委員会の連携の在り方、 特にその双方が協働して立案、実施する教育施策の在り方に着目する。なかでもA県の学 力向上施策である「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた学習指導の充実」施策(以 下、「学習指導の充実」施策)のなかに位置づけられる「学力向上推進リーダー等の効果的 な活用による校内研修の促進」の取組を取り上げる。それはこの取組が「学力向上」を所 管する指導行政部局と、学力向上推進リーダー(以下、推進リーダー)の配置等を行う人 事行政部局、市町村教育委員会の三者が施策に関与するとともに、学校現場に直接的に働 きかける取組であるためである。このような取組が実際にどのように実施されているのか について調査を試みることで、都道府県や市町村の教育行政が、限られた資源を有効に活 用しながら成果を生み出していくためには、どのような組織間の連携が求められるのかに ついて検討したいと考えた。 2.対象とした施策の概要 A県教育委員会(以下、県教委)の「学習指導の充実」施策は、九つの主な取組で構成 されている。その一つ目が「『組織力』『授業力』『連携力』による確かな学力の定着と向上」 であり、さらに「学校の組織力の充実」「教員の授業力の向上」「学校・家庭・地域の連携 力の強化」等がある。これらの取組は実施主体がすべて「県・市町・学校」となっている。 そのなかにあって人員、予算などの資源が投入されていることが比較的とらえやすいもの に、2019(平成 31)年度新規の「社会に開かれた教育課程推進リーダーの配置」事業や、 「全国・学力学習状況調査と学力定着状況確認問題を活用した全校体制での年間2回の検 証改善サイクルの推進」、「少人数学級化や少人数指導加配教員等の活用による個に応じた
きめ細かな指導体制の充実」、「学力向上推進リーダー等の効果的な活用による校内研修の 促進」等が上げられる。 【図1】は、調査のなかった 2011(平成 23)年を除く 2007(平成 19)年から 2016(平 成 28)年までの全国学力・学習状況調査(以下、学力調査)における、A県の各教科平均 正答率から全国の平均正答率を減じた差を年次でグラフに示したものである。このグラフ のとおり、この学力調査が開始された当時の本県の正答率は全国より大きく下回っており、 そこからA県は「学力向上」をそれまで以上の重点取組事項に位置づけて多様な学力向上 施策を講じている。 「学習指導の充実」施策の「教員の授業力の向上」は、若手教職員が増えつつあるA県 にとっても重要な施策となっている。そのなかの「学力向上推進リーダー等の効果的な活 用による校内研修の促進」は、各市町に配置された学力向上推進リーダー(以下、推進リ ーダー)、学力向上推進教員、英語教育推進教員ら(以下、「推進リーダー等」)が、市町内 の複数の学校を兼務ないし訪問し、授業を参観して指導助言を行う取組である(【図2】参 照)。 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 H 1 9 H 2 0 H 2 1 H 2 2 H 2 3 H 2 4 H 2 5 H 2 6 H 2 7 H 2 8 小国A 小算A 中国A 中数A -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 H 1 9 H 2 0 H 2 1 H 2 2 H 2 3 H 2 4 H 2 5 H 2 6 H 2 7 H 2 8 小国B 小算B 中国B 中数B 【図1】全国・学力学習状況調査におけるA県と全国の平均正答率の差の経年変化(筆者作成) 【図2】学力向上推進リーダーの活動イメージ
【図3】は、2009(平成 21)年度に最初の学 力向上推進教員 2 名が配置されて以降に配置さ れた推進リーダー等の各年度の人数をグラフに したものである。このグラフから分かるように、 ピークとなった 2017(平成 29)年度には 83 名 が配置されている。なお、「学習指導の充実」施 策で一定の成果を上げたことや、学校が直面す る教育課題が変化しつつある状況を鑑み、今後 の運用の在り方が検討されている。 推進リーダー等を配置する取組の成果指標は、これが「学習指導の充実」施策の1取組 であることから「主な推進指標」に示された「学力調査の平均正答率の向上」にある。し かし、A県の学力向上施策は総合的に進められており、この人員配置による成果だけを切 り出してとらえることは難しい。そこで、この取組の成果がより高い成果を上げるために は、どのような教育行政組織からの働きかけが必要なのか、そして、どのような内部要因、 外部要因等が推進リーダー等の機能に影響を与えているのか、そこに県教委、市町教委、 学校等の連携がどのように影響しているのか、などを仮説生成的に調査することとした。 3.調査の概要 推進リーダー等の機能性を高める県教委や市町教委の連携の在り方に関して調査を行う にあたり、まず、推進リーダー等の機能について、「2019 年度 学力向上推進リーダー配置 要綱」の「実施内容」と 2011(平成 23)年度にこの取組の評価項目として用いられていた 6項目から【表1】のように想定した。 H23 事業の評価項目 想定した推進リーダーの機能(筆者作成) ① 配置による地域への影響 ② 教務等との連携 ③ 研修活性化の効果 ④ 教員への影響力 ⑤ 市町教委との連携 ⑥ 通信等の発行 ・ネットワーク構築機能 ・授業力評価機能 ・学力等分析機能 ・研修コンサルティング機能 ・指導助言機能 ・広報機能 調査は、令和元年 8 月から 10 月にかけて、筆者がA県で実施した教育行政専門職イン ターンシップ(以降、インターンシップ)中に実施した。その調査においては、対象を推 進リーダー等のうちの、推進リーダーに限定し、彼らが児童生徒の「学力向上」や「教員 の授業力の向上」に効果的に機能するためには、どのような教育行政等との連携が行われ ており、どのように自身の役割等を感じ取りながらその役割を果たそうとしているのかな どを把握し、そこから、教育行政機関等の連携の在り方を検討したいと考えた。調査は内 容が探索的、仮説生成的なものであるため、質的調査(インタビュー調査)を行うことと したが、可能な限り一般的な知見が得られるよう、条件の異なる複数の推進リーダー等を 対象とすることとした。 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 【図3】学力向上推進リーダーの人数の変化 【表1】学力向上推進リーダーの人数の変化
具体的には、校種、経験年数、行政経験の有無等から選出した 10 名の推進リーダーへの インタビューを計画し、結果的に【表2】の 8 名を対象に実施することができた。 インタビューにおける質問項目は以下のとおりである。 1.ご自身に関すること(職歴等) 2.学力向上推進リーダーとしての取組に関すること ⑴ 現在のお立場において、使命として最も強く感じ、行われていることは何か。 ⑵ 学校を訪問する際に留意されている点はどのようなものか。 ⑶ 授業を参観する際に、最も注視される点はどのようなものか。 ⑷ 現在の配置校、訪問されている学校の授業の課題は何か。 3.取組を進める上で感じておられること ⑴ 現在の役割を遂行する上で困られた点、悩まれている点はあるか。どのようなもの か。 ⑵ 現在のお立場で最も自己有用感・効力感を感じるのはどのような時か。 ⑶ 現在のお立場で無力感を感じることがあるとすればどのような時か。 ⑷ この役割を遂行する上で、身についたと感じられる力、職能にはどのようなものが あるか。 4.市町教育委員会との連携について ⑴ 市町教育委員会から独自の任務を与えられたことがあるか。 ⑵ 学校からの相談事等を市町教育委員会に伝えることなどがあったか。 ⑶ 市町の教育行政に関わっていたという実感があったか。 ⑷ 市町教育委員会への要望があるか。 5.この取組自体について ⑴ この事業は継続していくべきだと思うか、それとも、別の少人数事業に切り替えて いくべきだと思うか。 ⑵ 県の学力向上施策について、何かアイデアがあるか。 また、この取組の実施主体であるA県教育庁義務教育課関係者や、A県教育センター関 係者のほか、【表3】にある推進リーダーの配置された市町教委等への質問調査も併せて実 頭 諭 小 中 継 新 A市 ○ 中 ● 数 L中 L中 教頭職から推進リーダー。 9/30 B町 ○ 小 ○ O小 O小 2年連続。 9/10 C市 ○ 中 ● 数 P中 P中 教頭職から推進リーダー。 9/17 D市 ○ 中 ● 数 Q中 X中 他市(現場)から。 10/17 E市 ○ 小 ● R小 A市教委 他市(市教委)から。 9/17 F市 ○ 小 ○ S小 Y小 現場から現場。2年連続。 9/12 G市 ○ 中 ● 国 T中 Z中 他市(現場〈F市〉)から。 9/11 H市 ○ 中 ● 数 U中 県教委 県教委指導班から。 9/19 計 8 3 5 2 6 総計 24 13 11 5 19 配置校 前職 選出の理由 実施 市町 職種 校種 継続 教 科 【表2】調査対象の学力向上推進リーダー一覧
施した。 4.調査結果の分析 インタビューデータの検討には、録音記録とインタビュー時に作成したメモを用い、第 一段階として表計算ソフトで一覧表に整理した。そこから、コードとなるキーワードを見 出し、そのコードごとにデータを整理しなおすとともに、推進リーダーが関わる対象ごと に情報を再整理した。 インタビューデータを一覧にしてまず目立ったのは、「申し訳ない」「役に立てているか どうか」といった自己肯定感の低い言葉である。そこで、それらの発言に着目し、どの対 象に「申し訳ない」と感じているかを拾い上げ、その要因を「無力感を感じたとき」、「職 務遂行上の困りごと・悩み」などから整理し、あわせて、その対象等から得られた「リー ダーとしての職能成長」、「自己有用感・効力感」を並べて【表4】のように整理した。 【表4】キーワードの分類(対象別) 対象 「無力感」に関すること 「困りごと・悩み」 に関すること 「職能成長」に関すること 「自己有用感・効力感」に 関すること 要因中項目 要因小項目 訪 問 校 研修の対 象の教員 ・指導的役割の経 験の不足 ・指導方法等に関する 知識の不足 ・教科の専門性の不足 (中学校) ・アドバイス力の不足 ・学習時間の制限 ・研修時間の確保 の難しさ ・授業改善に関する 意欲・関心の不足 ・指導技術等の学習 ・各教員の指導力・課題 に関する情報 ・(授業について)相談さ れること ・変容の様子 ・成長目標等の共有 教職員 ・研修講師等とし ての経験の不 足 ・研修内容・方法に関す る知識の不足 ・研修に用いる素材等 の不足 ・準備時間の制限 ・各校の研修体制と状況 ・(校内研修について)相 談されること ・校内研修の活性化 ・変容の様子 管理職 ・指導的役割の経 験の不足 ・指導方法等に関する 知識の不足 ・研修内容・方法に関す る知識の不足 ・権能の範囲の不 明瞭さ ・課題意識・関心の ずれ ・各校長の経営理念・課 題意識等 ・各校の状況に関する情報 ・各校の取組事例 ・発生中の事案に関する 情報等 ・評価・承認 ・方向性の共有 配 置 校 管理職 ・教頭職としての 貢献度の低さ ・教頭に対する所掌事 務の少なさ ・実務に関する知識の 不足 ・滞在時間の制限 ・配置校の経営理念・課 題意識等 ・教頭職の業務内容・手 続き等 ・役割に対する理解/慰 労 ・評価・承認 教職員 ・配置校に関する知識 の不足 ・教頭職としての知識 の不足 ・滞在時間の制限 ・研修機会の確保 の難しさ ・指導技術等の学習 ・各教員の指導力・課題 ・変容の様子 ・校内研修の活性化 保護者 ・滞在時間の制限 A市 学力向上推進連絡協議会傍聴 C市 授業研究会参加(研究授業参観) I市 合同研修会傍聴 D市 Ⓚ指導主事 学力向上担当指導主事インタビュー調査/情報交換会傍聴/合同研修会傍聴 10/11 E市 推進教員等連絡会傍聴/合同研修会傍聴 J市 授業づくりセミナー傍聴 K市 Ⓛ課⻑ 学力向上担当課⻑インタビュー調査 9/12 F市 Ⓜ副課⻑ 学力向上担当副課⻑等インタビュー調査 9/12 G市 Ⓞ指導主事 学力向上担当指導主事インタビュー調査 9/11 H市 Ⓟ課⻑補佐 学力向上担当課⻑補佐インタビュー調査/情報交換会傍聴 9/19 計 5 Ⓝ指導主事 市町 担当者名 調査活動内容 実施 【表3】インタビュー調査を実施した市町教育委員会と職員
児童生徒 教師としての貢 献度の限界 ・配置校に関する知識 の不足 ・教頭職としての知識 の不足 ・変容の様子 教 委 市町内推 進LT 指導業務の経験 の不足 ・推進LT制度に関す る知識の不足 ・指導方法等に関する 知識の不足 ・研修内容・方法に関す る知識の不足 協議時間の制限 ・推進LT制度に関する 知識 ・指導方法等に関する知 識 ・研修内容・方法に関す る知識 ・推進教員の育成 ・研修に必要な情報の共 有 市町教委 (学力向 上担当) 施策への貢献度 の低さ ・市町の学力向上施策 の理解不足 ・推進LT制度に関す る知識の不足 ・権能の範囲の不 明瞭さ ・訪問対象外の学校の様 子 ・市町の教育行政に関す る情報 ・評価・承認 ・施策の理解/ビジョン・ 方向性の共有 (県教委) ・制度上の制約 (コマ数/発着地) ・アドバイス力アップ研 修等 【表4】から、推進リーダーが関係する対象を、【図4】のように整理して関係を把握し やすくし、推進リーダーの機能に作用すると考えられる図中の矢印にあたる要素を【表5】 の五つに整理した。 許容度 配置校・訪問校等が「推進リーダー」施策を受け入れている度合 い。また、推進リーダー本人を同僚として受け入れている度合い。 需要度 配置校・訪問校の管理職や教職員が推進リーダーを必要としてい る度合い。 理解度 教職員の授業力の課題や、配置校や訪問校の学力に関する課題、 市町の教育施策と課題を把握し、その解決に向けて推進リーダー 本人の具体的な役割を見出せている度合い。 共有度 推進リーダーとしての任用の理由、教頭としての役割分担、配置 校・訪問校、市町の学力に関する課題や市町の教育施策を共有で きている度合い。 自由度 推進リーダーの制度上の制約の緩やかさ、弾力性の度合い。 「許容度」は、A県がこの取組を開始 して 10 年が経過していることもあり、か なり高いようであり、実際にそのことは 複数の推進リーダーのインタビューへの 回答にも表れていた。これは、県教委や 市町教委が継続的に各学校への働きかけ を行なってきた成果ととらえられる。 「需要度」は、各学校や教職員の研修 意欲等が影響する可能性が高く、各校の 管理職のマネジメント力や研修主任等の 意識の高さなどが影響する可能性も高 い。なお、インタビューの内容から、若手が増えつつある学校現場の需要が、「学力向上」 よりも「学級づくり」や「生徒管理」などへ移行していることを考えると、今後は研修主 【表5】推進リーダーの機能性に影響を与える要素 推進L 訪問校 配置校 市町教委 県教委 推進リーダー等 連絡会 【図4】学力向上推進リーダーの機能に作用する対象
任のみだけでなく、人材育成担当の意識の高さなども影響する可能性がある。 「理解度」は、推進リーダーが自分自身にどのような取組や働きかけができるのかを把 握している必要があることから、推進リーダー自身の職歴や経験が大きく影響する可能性 がある。また、推進リーダーになってからの研修量なども大きく影響すると予想される。 さらに学力調査の出題の意図や、A県の「学習指導の充実」施策等について理解している ことも推進リーダーの機能性に影響するであろう。それらに作用するものとしては、推進 リーダー等の連絡会や市町教委開催の研修会、A県で行われる研修会などが考えられる。 加えて、学校が研究指定を受けている、中学校区内での「小中連携」が命題である、コミ ュニティ・スクールの「学力向上プロジェクト」等の取組内容が明確である、といった方 向性の明確さも影響する可能性がある。 「共有度」には、任命した県教委からの働きかけや、市町の指導行政を執り行う市教委 担当者からの働きかけが強く影響すると考えられる。推進リーダーがその職務を遂行し始 める年度当初は、教育委員会だけでなく配置校も訪問校も多忙を極めており、「共有度」を 高めることは時間的に難しいが、推進リーダーの機能をより発揮できるようにするために は、限られた情報共有の機会を活用し、この度合いを高められるようにしておく必要があ る。 「自由度」は、それが高まることによって、校内研修の助言や、学校間をまたぐ研修な ど、推進リーダーの自主性が発揮できるようになる可能性があるものである。現在、要綱 等により規定されている年間で入らなければならない授業数や、兼務校等への移動は配置 校から発着が原則となっているなどの制約が影響していることは、8 人中 5 人の推進リー ダーの「困りごと・悩み」に関する回答から把握できる。推進リーダーとなってからはア ウトプットを求められることが多く、これまでに蓄積のない推進リーダーにとっては、イ ンプットの時間がないという状況もある。 これまでにあげた要素は、それぞれ独立したものではなく、相互に関係するものもある。 例えば、学力や授業力の課題を自覚している学校のように「需要度」が高ければ、自ずと 「許容度」も高まることがインタビュー内容から見て取れる。逆に、「自由度」が高まり権 能の幅が広がると、新任の推進リーダーの「理解度」が追いつかなくなる可能性なども考 えられる。つまり、どれか一つが高まれば機能性が高まるのではなく、総合的に高まるこ とが、推進リーダーの機能性を高めることにつながると考えられる。 4.調査から得られた知見 本調査の対象とした推進リーダーは 8 名であり、平成 31 年度の推進リーダー24 名の 1/3、 この取組が開始されてから平成 31 年度までの推進リーダーの延べ人数は 196 名であるた め、この8名の回答の分析をもってA県の取組の分析として一般化することはできないが、 市町教委ないし、県教委が推進リーダーを配置する際、あるいはその進行管理を行う上で、 どの要素にどのように働きかければよいのかの一つの目安となるものと考えられる。 また、このインタビュー調査で得られた情報と、市町教委の学力向上担当者へのインタ ビュー調査で得られた情報から、以下のような点も窺い知ることができた。
⑴ 市町の施策が及ぼす推進リーダーの機能への作用 インタビュー調査を行った 8 市町の学力の概略を把握するため、2007(平成 19)年度、 2013(平成 25)年度、2018(平成 30)年度の国語、算数/数学のAB区分(4 区分×3 ヶ年 =12 区分)において、各市町の平均正答率から全国の平均正答率を引いてプラスになった 数の割合を出して比較した。40%を下回った市町は市として予算化して学力向上に取り組 んでおり、結果として上述の「理解度」や「共有度」が高く、推進リーダーの充実感にも つながっている可能性が考えられた。反面で、割合が 80%近い市町では、特に予算化され た学力向上施策は講じられておらず、なかでも伝統的に学校の研修風土が確立している学 校の多い市町においては、推進リーダーへの「需要度」や施策等への「理解度」、「共有度」 が低く、推進リーダーの無力感等にもつながる可能性が考えられた。 別の見方をすれば、推進リーダーにとって把握しやすい命題があることが「理解度」に 作用する可能性があるということともとらえることができる。例えばC市P中学校の推進 リーダーは指導力や教科の専門性の不足に無力感を感じながらも、推進リーダーとしての 役割と、小中高連携による算数・数学の基礎学力の定着を図る研究指定等とが連動して行 えていることで、自身の役割もそこに焦点化し、それに注力することで自己有用感を見出 している。 また、市町教委において、推進リーダー等のとりまとめ役となる学力向上担当指導主事 の役職、経験年数、この業務に投入できる時間なども「理解度」や「共有度」に作用して いる可能性が高いことも調査から把握することができた。 ⑵ 国・県と市町の教育行政が与える作用 総じて推進リーダーは、配属された市町の学力向上施策を重視し、その趣旨を解釈して 担当する学校への浸透を図ろうとする。また、その市町固有の「授業スタンダード」等を 尊重し、市町の実態を踏まえながら「連絡会」等で改善を加え、継承している。そのよう な取組と、県教委が毎年の学力調査の結果などをもとに授業改善等の方針を示す施策の間 で若干のずれが生じることがあり、そのようなずれも上述の「理解度」や「共有度」に作 用する可能性があることが把握できた。 なお、推進リーダーのネットワークに関する回答に注目してみると、比較的、同時代の 推進リーダー同士のつながりは強くないことが分かった。そのことからも、配置された市 町への帰属意識が自ずと強くなるものと考えられる。それを踏まえると、過去にその市町 に推進リーダー等として勤務した教員等と、現在の推進リーダー等とのネットワークを構 築したり、過去の推進リーダーの取組の様子等について、市町教委の担当者から伝えたり することで、「理解度」や「共有度」を高めることは可能であると考えられる。 ⑶ 学校現場の需要の変化が与える作用 今回のインタビュー調査で、複数年連続して推進リーダーを務めている 2 名から、「学校 現場の需要は変わりつつある」との回答があった。「学力向上」を支える教員の授業力より も、若手の学級経営の力や、人間関係を構築する力の育成が喫緊の課題となっているとい う話である。この課題意識は、別途行ったA県教育センターの研究指導主事へのインタビ ューの回答のなかにも含まれており、それが「需要度」に影響するのであれば、A県が行
う少人数加配枠の活用の仕方も現場のニーズに応じたものとなるよう検討が必要であると 考えられる。 ⑷ 学力向上推進教員の機能性とその作用 今回の調査では、推進リーダーのみに対象を絞ったが、教諭職である学力向上推進教員 の機能を同様の要素で見てみると、推進リーダーに比べ、その力量が経歴や役職で一定程 度担保されていることが少ないため、「許容度」や「需要度」は場合によって低くなる可能 性が考えられた。さらに各校の校長や市町教委等から提供される情報も役職が作用して制 限される場合が多く、「理解度」や「共有度」にも作用する。もちろん推進教員本人のコミ ュニケーション力などにも左右されるが、推進リーダー以上に、厳しい立場であることが 想像される。その点について、「教室の敷居が高かった」とされるG市などでは、ベテラン 層を推進教員に任命し、全ての学校を訪問させることで、「許容度」を高めてきた経緯があ ることが担当者へのインタビューから把握できた。しかし、推進教員が次世代の教育行政 職員候補を育成するポストの一つ、あるいは人材育成の一環ととらえるならば、ベテラン 層ばかりを任用することにも課題があるとも考えられる。 この推進リーダー等の取組については、A県義務教育課関係者への聞き取りの中で、「(推 進リーダー等の取組は、)ある程度は成果を出しているが、完成ではない。(中略)必要な カンフル剤だったと思う。小学校の教員が授業を人に開き、意見をもらおうという姿勢が でき、授業を見られることへの抵抗は減った。中学校では教科の壁も低くなった。授業を 地域に開くこともできた。ただ授業を変えるところまではいけていない。根本治癒はこれ から」と回答している。これまでの成果を認めつつも、本来の目的に向けて、この取組が 継続されることの必要性が含まれている。一方で別の職員からは、学力向上施策全体につ いて、「(施策の)効果検証の必要はあると思う。確かに観光事業のように、きれいな数値 に表れるものではないが、制作企画からも『指標がない』では許されないと成果を求めら れているのも事実。」という回答もあった。その意味においても、県教委、市町教委がこの 事業の検証改善とともに、どの要素にどのように働きかけ、それぞれの推進リーダーの機 能を高めていくかといった方針を改めて検討する必要があるとも考えられる。 6.まとめと考察 今回見出したような要素により、例えば都道府県教委、市町村教委がA県の推進リーダ ーのような人員配置を行う際や、取組の進行管理を行う際にどのような働きかけをするこ とで機能性を高められるかというイメージの一例には近づけたのではないかと考える。現 在、学校が直面する教育課題の解決に向けて、都道府県教育委員会の工夫により、様々な 人員配置がなされている。上述のような要素を意識した働きかけの在り方を見直すことで、 それらの人材の機能を引き出し、より成果に結びつけることができるようになると考えら れる。 また、これからの学校現場を考えると、教職員の働き方改革の視点からも非常勤講師等 に限らず、外部人材の活用は必須であり、その雇用の仕方なども多様化する可能性が高い。 そのような常勤の教職員以外の人材の機能を高めるためには、上述の要素などを意識した 働きかけの在り方を事前に検討しておくことは重要である。
さらに、学校だけでなく、関係する教育行政機関の間で、課題意識や施策立案時の理念 などを共有しておくことも重要である。本調査で着目したA県の取組などのように、10 年 継続的に行われているような取組については、実施している事業評価を長いスパンで見直 し、必要な改善を加えながら、改めて関係機関で理念を共有するなどの取組が求められる。 その理念のもと、学校、関係する教育行政機関それぞれが主体となって取組を展開するこ とで、限られた資源を有効に活用し、成果に結びつけていくことが可能になると考える。 なお、本研究における調査を振り返ると、本調査の対象とした推進リーダーは 8 名と限 られていたことから、本調査で得られた要素やそのもとになったコード等を活用して量的 調査を行うなどすることで、さらに一般性のある知見が得られる可能性は残されている。 今後もこのような特別な目的をもった人員配置、教育行政機関間の連携と働きかけの在り 方等を注視していきたい。 最後に、多忙な中、本調査にご協力いただいたA県の県教育委員会、市町教育委員会、 学校長ならびに学力向上推進リーダーに心から謝意を述べたい。 【引用文献・参考文献】 ・『学校組織調査法』(2010 年)藤原文雄・露口健司・武井敦史編著(学事出版) ・『改訂版 教育行政と学校経営』(2016 年)小川正人・勝野正章(放送大学教育振興会) ・『教育行政 分かち合う共同体をめざして』(2014 年)磯田文雄著(ミネルヴァ書房) ・『教職員のための学校組織マネジメント実践【三訂版】』浅野良一 ・『シリーズ教育の間 10/教育委員会と学校の間-学校改善を支える地域教育経営-』(1991 年) 下村哲夫ほか(ぎょうせい) ・『多機関連携の行政学-事例研究によるアプローチ』(2019 年)伊藤正次 編(有斐閣) ・『地方分権と教育委員会 2 教育委員会の組織と機能の実際』(2001 年)堀内孜 編集代表 (ぎょうせい) ・[研究論文]「学校管理職による情報交換と相談-校長・教頭のネットワークに着目して-」 (2005 年)川上泰彦 ・「学校基本調査」(2019(令和元)年 5 月 1 日) ・「学校現場における業務改善のためのガイドライン」(2015 年 8 月) ・「今後の学校の管理運営の在り方について(答申)」2004(平成 16)年 ・「今後の地方教育行政の在り方について」1998(平成 10)年 中央教育審議会答申 ※ その他、A県の各種資料、ウェブ・ページ等を参照した。