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他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり : 子どもたちが自分の良さを知り,そして生かすための実践

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Academic year: 2021

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(1)Title. 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる 授業づくり : 子どもたちが自分の良さを知り,そして生かすための実践. Author(s). 白府, 士孝; 伊東, 実; 丸山, 美晴; 藤村, 敦; 山名田, 薫; 根山, 智 美; 細谷, 一博. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 135-148. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8005. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり ~子どもたちが自分の良さを知り,そして生かすための実践~. 白府 士孝*・伊東 実*・丸山 美晴*・藤村 敦* 山名田 薫*・根山 智美*・細谷 一博** *. 北海道教育大学附属特別支援学校 **. 北海道教育大学函館校. Lesson planning for proactively and to play an active part while taking advantage of their own goodness in involvement with others ~ Children to know their own goodness, and practice in order to take advantage of their own goodness ~. SHIRAFU Noritaka*, ITO Minoru*, MARUYAMA Miharu*, FUJIMURA Tsutomu*, YAMANATA Kaoru*, NEYAMA Tomomi* and HOSOYA Kazuhiro** *. Special Needs School, Hokkaido University of Education. **. Department of Special Education, Hakodate Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本研究は,北海道教育大学附属特別支援学校小学部の児童を対象とし,自立活動の時間にお ける指導と領域・教科を合わせた指導において他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生か し,主体的に活躍できる授業の在り方について検討することを目的とした。具体的には,自己 選択・自己決定する場面と自己評価する場面を設定することで自己調整力や自己教育力を高め て自己理解を促す支援を行った。その結果,自己選択・自己決定や自己評価の行動に顕著な変 容が見られた。そして,自分の良さを知り,他者とのかかわり合う中で意欲的に活動する場面 が多く見られるようになった。今後の課題としては,他者理解と自己理解の相乗効果を図りな がら“社会とかかわる力”を育む支援システムを構築すること,またその支援システムに対応 した学習評価プログラムを作成すること,さらには日常生活における多様な場面で実践を重ね ていくことの3点が考えられる。. 135.

(3) 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. Ⅰ はじめに. に意欲的な児童の姿を見ることができた。 そして,平成22年度には,共同注意と情動の共. 1.問題と目的. 有を促す支援の在り方とその評価について明らか. 平成20年度の学習指導要領の改訂によって,自. にするために自立活動の時間における指導の中で. 立活動では従来の項目に「人間関係の形成」を加. 実践研究に取り組んだ。その結果,共同注意の視. え, 新たに6つの区分26項目に分類・整理された。. 点から支援を行うことが,人とのかかわりを生起. このことから,特別支援学校や特別支援学級にお. したり,さらには広げたりするきっかけとなった. いて,人間関係の形成における効果的な授業の在. りするなど,人間関係の形成における重要な役割. り方について明らかにすることが緊要な課題と. を果たしていることを立証した。また,情動の共. なっている。. 有の視点から支援を行うことにおいても,人とか. そこで,本研究では,他者理解と自己理解の相. かわることの良さを経験したり,そのかかわりを. 互的なアプローチに着目し, “自らの良さを生か. 広げたりするなど,人間関係の形成における重要. し,主体的に活躍できる授業づくり”を研究の主. な役割を果たしていることを立証した。そして,. 眼として人間関係の形成を促す授業の在り方につ. 人間関係の形成に関する評価については,日常生. いて明らかにしていくことを目的とした。具体的. 活におけるコミュニケーションや行動の様子か. には, 「人とのかかわり合いの中で,楽しかった. ら,共同注意と情動の共有に関するターゲット行. ことやできたことを振り返り,自分の好きな活動. 動を決定し,その表出と変容を基に評価すること. を自己選択・自己決定するような授業を設定する. が重要であることを明確にした。. ことで,児童は教師や仲間の中で意欲的に活動で. さらに,平成23年度には,これまでの2年間の. きるであろう」という研究仮説を設定し, 「他者. 研究成果を基にしながら,共同注意と情動の共有. とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主. の支援について,自立活動の時間における指導か. 体的に活躍できる授業の在り方」について検討す. ら他の教育活動への応用を試みた。具体的には,. ることを目的とした。. 領域・教科を合わせた指導において,どのような. なお,本研究は,実践校である北海道教育大学. 授業が可能であり,どのような具体的な支援が有. 附属特別支援学校(以下本校)小学部で平成21年. 効であるかを検証した。その結果,本校小学部で. 度から3年間に亘って取り組まれてきた他者理解. 日常行われている「音楽活動」「体つくり」「制作. の研究の成果を受けて実施された。. 活動」「調理活動」などの領域・教科を合わせた 指導においても,共同注意と情動の共有の支援が. 2.これまでの実践研究. 有効であり,人とのかかわりを生起させ,そのか. ⑴ これまでの研究成果. かわりを広げることが可能であることが示された。. 本校では,平成21年度より初期の社会性発達に. ⑵ これからの研究課題. 着目し「人とかかわることの楽しさを味わえる授. 4年間の研究によって,児童は仲間や教師と共. 業づくり」を研究の主眼として,三項関係を人と. 同注意を図れる場面が増え,一緒に驚いたり,楽. のかかわりの基本として捉え, “児童と他者”と“児. しんだりすることができるようになってきた。し. 童と教材”の視点から人間関係の形成の具体的な. かし,仲間との活動の中で自分なりの考えをもっ. 授業について検証した。その結果,他者とのかか. て選択したり決定したりすることや,自分の活動. わり合いの中で児童と教材の関係を深める授業を. について良かった所を正しく振り返ったりするこ. 設定することによって,他者との共同注意が促進. となど,他者とのかかわり合いの中で自己を意識. され,さらに情動の共有が円滑に図られ,「また. して活動する機会は少なかった。つまり,他者理. 一緒にやってみたい。 」という人とかかわること. 解だけへの一方向的なアプローチではなく,他者. 136.

(4) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. とのかかわり合いの中での自己理解と他者理解に. 解と自己理解を相互的に育むこと,特に児童の他. ついて双方向的にアプローチしていくことが,今. 者とのかかわり合いの中における自己の位置付け. 後の“社会とかかわる力”をより効果的に育むた. を図ることが必要となる。言い換えれば,他者と. めの課題として考えられる。. のかかわり合いの中で自分がどんな主体的な活動. 菊池(2009)は,対人関係の発達とは自己理解. 経験をしてどんな思いだったのか,そしてその活. の発達であると言い換えることができると述べて. 動を通して自分の良かった所はどんな所だったの. いる。その理由として,他者を理解することとい. かを意識できるための情動的なやりとりのある場. うことは,自己と比較することで可能となり,そ. 面を設定し,他者との活動とその時の自分の感情. して自己を理解していくことは,他者と比較する. や思いを整理させながら自己理解を促す必要があ. ことで成立するからであると説明している。さら. る。さらに,田中(2011)が指摘するように,そ. に,自己理解とは,単なる認知能力や内省力の高. うした他者とのかかわり合いの中で他者との共通. まりといった個人内の発達的変化によって成立す. 性や差異性を整理し,多面的に自分を捉えながら. るものではなく,それらの子どもの能力が他者と. 自己の多様性への気付きを促し,自己肯定感を育. の密接な関係性の中で用いられることによって培. むことも必要である。. われた,発達的コンピテンスの総体であると述べ ている。また,別府(2010)は,高機能自閉症児 の自己理解について,他者の心を推測できるよう. Ⅱ 方 法. になることと関連してその発達は促進されると述. 1.指導について. べている。以上のように,発達障害のある児童の. 実践事例①については,自立活動の時間におけ. 自己理解と他者理解は相互的な関係にあり,自己. る指導である「課題別グループ学習」の時間に全. 理解は様々な経験や他者との比較を通じて形成さ. 6回実施した。実践事例②は,領域・教科を合わ. れることが示されている。. せた指導である「きりのめ音楽」の時間に全6回. 次に,今後の研究で取り上げる発達障害のある. 実施した。. 児童の自己理解について,どのような特徴がある. 実践事例①は,自己選択・自己決定する場面と. のかを明確にしていく必要がある。菊池(2009). 自己評価する場面を設定することで,自己理解を. は,自閉症児における自己理解について,自己鏡. 促す力を高めることを目的とした。また,実践事. 映像に接しても自己意識的な情動が表出しないこ. 例②では,自己選択・自己決定する場面と自己評. とに着目し,認知能力や内省力は獲得されていて. 価する場面を設定することで,自己理解を促す力. も対人的な関係性の中で自己を位置付けることが. を高めると共に,領域・教科を合わせた指導のね. できない所に自閉症の大きな特徴があると述べて. らいを達成することを目的とした。. いる。また,滝吉・田中(2011)は,自閉症スペ. また,こうした試みをPDCAサイクルとして捉. クトラム障がい者の自己理解について,想起的自. えることで,自己理解を促す力を高めて他者理解. 己と概念的自己の脆弱性に注目し,過去の体験や. と自己理解の相乗効果を図るとともに,領域・教. 出来事を振り返り,そこに意味付けるための心的. 科を合わせた指導のねらいに効率的に迫ることが. 作業を援助し,促進することが重要であると述べ. 可能になるのではないかと考える(Fig.1)。. ている。さらに,森田(2005)は肯定的な自己理 解よりも否定的な自己理解が多いことを指摘して. 2.自己について. いる。. これまで,多くの先行研究において「自己」に. 以上のことから今後の研究において“社会とか. ついて多岐多様な解釈がされている。そこで本研. かわる力”をより効果的に育むためには,他者理. 究では,これまでの研究の成果や課題を受けて,. 137.

(5) い者の自己. わせた指導のねらいに効率的に迫ることが可能にな. の脆弱性に. るのではないかと考える(Fig.1)。 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. ,そこに意. することが. (2005)は肯. 自己調整力. と深く関係すると考えられる。しかし,特別な支. が多いこと. 援を必要とする児童にとっては,後者の自己抑制. 社会とかか. 多く,それによる教育効果は低いと考えられる。. 者理解と自. そこで,本研究では,自己選択・自己決定の場面. 他者とのか. を意図的に設定し,その中で比較的得意な自己主. を図ること. かかわり合. 的側面から自己調整力を育むことは比較的困難が. 自己教育力 Fig.1 PDCA サイクル Fig.1 自らをコーディネートする力を高める 自らをコーディネートする力を高めるPDCA. サイクル. をしてどん. して自分の. 張的側面から自己調整力を育んでいくことで,自 己抑制的側面を補足していくこととした。 そして,自己選択・自己決定については,我が 国においては,2000年以降の措置型福祉から契約. 自己を「自らの意思で活動を決定し,自分らしく. 型福祉への転換が行われた社会福祉基礎構造改革. 主体的に行動すること」と定義した。また,この. によって自己選択・自己決定がこれまで以上に注. ような自己を育むために必要とされる力について. 目されるようになった。そして,学校現場におい. は, 自分の良さを生かして主体的に行動する力(自. てはそのような背景から,実態に応じて学齢期か. 己教育力)と,人とのかかわり合いの中でより良. らあらゆる場面で自己選択・自己決定していくこ. い行動に調整する力(自己調整力)が必要である. とが求められるようになってきた。しかし,平田. と考えた。. (2002)が,自己選択・自己決定の重要性が認識 される一方で,その具体的な支援として何が必要. 3.自己調整力と自己選択・自己決定場面の設定. であるかは明瞭ではないと指摘するように,福祉. Zimmerman(1986, 1989)は自己調整力を学習. や学校現場においては,具体的な自己選択・自己. する上でメタ認知,動機づけ,行動において自分. 決定の支援や環境づくりについて今後検討してい. 自身の学習に能動的に関与していることが重要で. く必要がある。また,特別な支援を必要とする人. あると示唆している。つまり,自分の思いや他者. の 自 己 決 定 が な さ れ な い 背 景 と し て, 與 那 嶺. とのかかわり合いにおける行動を主体的に調整で. (2009)は,国内外の教育,福祉,医療における. きる場面を意図的に設定すること,またその時に. 文献を中心にレビューを行った結果から以下の4. どのような調整を行っていたかを俯瞰して見るこ. 点を挙げている。①自己決定の主体として捉えら. とができるような場を設定すること,さらに自分. れていないこと,②自己決定までの過程に多くの. の調整する様子を振り返り自分なりの考えや意思. 支援が必要とするため形骸化されていること,③. で修正する場面を設定することなどの学習環境の. 自己決定できるレベルの把握が十分でないこと,. 工夫が大切である。. ④自己決定において常に正しい結果と自己責任が. また,柏木(1988)は,自己調整機能を自己主. 求められることの4点である。. 張的側面と自己抑制的側面の2側面から捉え,以. このように,特別な支援を必要とする人の自己. 下のように定義している。自己主張的側面につい. 選択・自己決定が実現しづらい要因として,障が. ては, “自分の要求や意思を明確に持ち,これを. いの程度やそれに関連する能力などの個人要因と. 他人や集団の前で表現し主張すること”と定義し,. 支援者の対応やその支援の程度などの環境要因の. 自己抑制的側面については, “集団場面で自分の. 双方が大きく影響することが示唆されている。そ. 欲求や行動を制御・制止しなければならないと. して,與那嶺(2009)はこの個人要因にのみに焦. き,それを制御すること”と定義している。そし. 点を当てた支援では,重度の知的障がいのある人. て,丸山(2009)が指摘するように,この両面を. の自己決定を高めることは難しいとしている。さ. バランスよく発揮することが他者や環境への適応. らに,Abery and Stancliffe(2003)は,重度の. 138.

(6) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. 知的障がいのある人であっても環境要因として自. を行うことはとても重要である。室田・菊地・八. 己決定に対する適切な支援環境があれば,比較的. 島・郷右・野口・平野(2005)は,対人関係に困. 高いレベルの自己決定に到達できることを指摘し. 難を示す自閉症児における困難の様相について分. ている。. 析した結果,自己モニタリングの問題と,帰属の. つまり,自己選択・自己決定を取り入れた授業. 問題,自己の振る舞いの再生の問題が関連してい. を構成するにあたってはこれらの要因に配慮し,. ることを示唆している。つまり,自閉症児は自分. 一人一人の児童が主体的に自己選択・自己決定で. の行動が他者にどのような影響を与えるかを推測. きるような支援環境を整える必要がある。具体的. することが難しく,また他者の行動が自分の行動. には,①興味関心の把握や意思の表出の方法など. に起因していることに気付くことが難しく,さら. 自己選択・自己決定における適切な実態把握をす. には,そうした因果関係を理解して正確に自分の. ることである。そして②言葉・絵カード・具体物. 行動を振り返るのが難しいことが示唆されてい. のどれで選択するのか,またその結果がどうであ. る。また,Millward, Powell, Messer and Jordan. るかが理解できるように一人一人の児童が認識で. (2000)も,自閉症児は,他者の振る舞いを再生. きる選択肢を提供すること,さらに③自己選択・. することに困難を示さないが,自己の振る舞いを. 自己決定した児童と他者が互いに称賛し合えるよ. 再生することに特徴的に困難を示すと報告してい. うに自己選択・自己決定した結果を共感的に受容. る。. することの3点である。以上のように,一人一人. このように,自閉症児の自己評価を行うにあ. のニーズに応じた自己選択・自己決定ができるよ. たっては,①自己の行動を正確に再生できること,. うに学習環境を整え,他者や環境との適応を可能. ②その行動について適切にモニタリングできるこ. にする自己調整力を育んでいきたい。. と,③その因果関係を理解できることが重要であ り,今後の授業づくりにおいて配慮する必要があ. 4.自己教育力と自己評価場面の設定. る。これまでの授業における自己評価は,主に教. 自己教育力については,小学部では人とのかか. 師と児童の共同想起によってその日の自分の活動. わり合いの中で,楽しかったことやできたことを. を振り返り,評価を行ったりする活動が主流であ. 振り返り,他者とのかかわりの中で自分がどんな. り,前述したように自閉症の多くに自己の振る舞. 経験をして,どんな感情だったのか,そしてその. いを再生し,自己モニタリングして因果関係を理. 活動を通して自分の良かった所はどんな所だった. 解することが苦手であることを考慮すると,従来. のかを意識させるための情動的なやりとりのある. の共同想起を拠り所にした振り返りが十分な自己. 場面を意図的に授業に組み込み,セルフモニタリ. 評価であるとは言えない。実際に,渡邊・前川. ングの手法を用いて根拠のある自己評価をする場. (2009)に代表されるように,自閉症児において. 面を設定する。. は事実とは無関係に自己をポジティブに評価する. これまでの日本の特殊教育及び特別支援教育に. ポジティブイリュージョンの傾向があると報告さ. おいて自己教育力というキーワードは,それほど. れている。また,一方で森田(2005)が指摘する. 多く取り扱われてこなかった。自己教育力に近似. ように,自閉症のある人において肯定的な自己理. したキーワードとしては,「主体的」「自信」「自. 解よりも否定的な自己理解が多いことも報告され. 己肯定感」 「自己実現」「自己評価」といったよう. ている。このように,自己評価については,正確. な自己教育力の一部として学校研究で取り扱われ. に自分の行動を振り返り,自分を見つめ直す評価. ているケースが多い。つまり,今後の特別支援教. 基準を共有して,修正あるいは強化していく手立. 育の発展に向けて,自らを育てる力として自己教. てが不十分であることが伺える。つまり,学齢期. 育力を部分的ではなく総合的に捉えて授業づくり. の初期である小学部の実践では,一人一人が根拠. 139.

(7) 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. をもって自分の活動を振り返り,他者とのかかわ. 子どもたちにとって活動の終わりが明確であり,. り合いの中で自分の活動がどうであったのか,ま. 操作がしやすいという利点がある。また,“でか. たその時の気持ちがどうであったのか,そしてそ. でかパズル”は,絵柄を変えることで様々なパター. の活動を通して自分の良かった所はどんな所だっ. ンのパズルを提供することができる。. たのかを丁寧に意識させるための具体的な手立て. このことから,児童の興味・関心に合わせて設. を考える必要がある。. 定することが可能になり,他の題材よりも自己選. そこで, 本実践では静止画や動画を根拠として,. 択・自己決定しやすくなると考えた。また,パズ. 一人一人の実態に応じて具体的に振り返られるよ. ルを大きくすることや児童の好きなキャラクター. うな自己評価を促していきたいと考える。霜田. を用いること,一緒に組み立てる機会を設定する. (2003)は,正確な自己評価を促すためには,明. ことで,学習への興味・関心を高め,みんなで活. 確な評価基準,自己評価の手続きの簡易さ,行動. 動する楽しみを経験しながら,他者とかかわるこ. の所産としての「目に見える結果」が有効である. との楽しさを味わうことができると考えた。さら. と述べている。これらの3点を踏まえて,本実践. には,試行錯誤するパズルを用いることで,自分. では自己教育力を育むための根拠のある自己評価. の良かった点や頑張った点などを見つけやすい題. の在り方を明確にしながら実践していきたい。. 材となりうると考えた。. Ⅲ 実践事例①「でかでかパズル」. 2.手続き ⑴ 対象児. 1.授業について. 対象児は,小学部1~4年の4名の自閉症児。. ⑴ 授業のねらい. 4名の児童は,人とかかわり合う遊びの経験に差. 本実践では,友達や教師とパズルを組み立てる. が見られるが,それぞれ小集団の中で意欲的に学. 活動を通して,一緒に作る楽しさを味わったり,. 習する姿が多く見られる。かかわり合う様子につ. 自分の好きなキャラクターを自分で選択したり,. いては,教師に要求したり,援助を依頼したりす. 活動を振り返り,自分が楽しかったことや上手に. る児童がいる一方で,自分から友達や教師に遊び. できたことを知ったりすることをねらいとした。. を提案して楽しむ児童もいる。. ⑵ 題材について. 自己選択・自己決定については,概ね一人でで. 本実践では, 大きな立体パズルを組み立てる“で. きる児童と,教師の支援があることでできる児童. かでかパズル”を行った(Photo 1)。パズルは,. がいる。また,自己評価については,行事などの 写真を見て楽しかったことや頑張ったことを自分 から振り返ることができる児童がいるが,教師の 支援があることで振り返ることができる児童もい る(Table 1)。 ⑵ 指導期間 2013年5月~6月 ⑶ 指導場面 自立活動の時間における指導週(2回) ⑷ 自己選択・自己決定場面の設定 自己選択・自己決定の場面では,児童の好きな 絵柄を数種類用意し,黒板に提示した。一人ずつ. Photo 1 でかでかパズル. 140. 名前カードを貼り,好きな絵柄を選択できるよう.

(8) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. Table 1 本事例における児童の実態 児童名. 個別の実態. A 小1年. ・教師の言葉がけによって,数種類の中から自分の好きな絵柄を選択できるようになってきた。 ・友達が欲しいパズルを教師と一緒に渡すことができる。パズルの絵柄を合わせて正確に組み立てることができるよう になってきた。教師の促しによって友達とハイタッチする様子が見られる。 ・教師の指さしや言葉がけによって動画に注目できるようになってきた。. B 小2年. ・数種類の中から自分の好きな絵柄を選択する様子が見られる。 ・パズルの絵柄を合わせて正確に組み立てることができる。パズルが完成した時,ニコニコしたり,教師とハイタッチ をしたりする様子が見られる。 ・教師の指さしや言葉がけによって画面に注目し,自分が映っている様子を動画で見ることができる。. C 小4年. ・数種類の中から自分の好きな絵柄を選択する様子が見られる。 ・活動が成功したときに,支援を受けながら教師や友達とハイタッチをして喜びを表すことがある。 ・教師の指さしや言葉がけによって画面に注目し,自分の頑張っている様子を動画で見ることができる。. D 小4年. ・前時の活動から,自分の好みに合わせて,好きな絵柄を選ぶことができる。 ・活動が成功したときに,自分から友達とハイタッチをして喜びを表すことがある。 ・「俺,○○できた。」など,自分の頑張っている様子を動画で確認することができる。. にした。児童の好きな絵柄を用意することで,活. を入れながら確認できるよう工夫した。動画を用. 動への意欲も高まると考えられた。また,提示す. いることでより共同注意を促しやすく,そのとき. る絵柄の大きさを工夫することで誰かが先に選択. の活動や気持ちを具体的に振り返ることができる. しても同じものを選択できると予想できるように. と考えた。このような場面設定をすることで,自. した。自己選択・自己決定を児童の実態に応じて. 己教育力を育むことができると考えた(Fig.2)。. 行うための支援として,①教師と一緒に自己選 択・自己決定するように促す,②教師のアドバイ. 3.結 果. スを受けて,自分で自己選択・自己決定するよう. ⑴ 自己選択・自己決定場面における経過と変容. に促す,③自分から自己選択・自己決定するよう. 自己選択・自己決定の設定場面では,教師が児. に促すなど,児童の実態に合わせて支援を工夫し. 童の好きなキャラクターを把握し,そのキャラク. た。さらに,自分から自己選択・自己決定できる. ターをパズルの絵柄にすることで,児童が意欲的. ようになった児童には,好きな絵柄を2種類以上. に自己選択・自己決定することに繋がった。Aは,. 提示し,どちらを選択するかというように葛藤す. 促されなくても自分でやってみたい絵柄を選択す. る場面を設定した。自己選択・自己決定するのに. るようになった。BとCは,好きなキャラクター. 時間がかかっても自ら決定できるよう見守りなが. があることで意欲が高まり,速く選択する場面が. ら取り組んだ。 このような場面設定をすることで,. 増えた。Dには,好きなキャラクターを2種類用. 自己調整力を育むことができると考えた(Fig.2)。. 意し,どちらを選択するのか葛藤させる場面を設. ⑸ 自己評価場面の設定. 定した。迷いながらも1つの絵柄を選択すること. 自己評価の場面では,実際に作ったパズルを見. ができた(Table 2)。. せて選択した絵柄について振り返ったり,動画を. ⑵ 自己評価場面における経過と変容. 見ながら一人ずつ頑張った所や良かった所を確認. 自己評価の場面では,前時の活動の振り返りや,. したりした。自己評価を児童の実態に応じて行う. 実際に作ったパズルを見ながら振り返ったり,動. ための支援として,①教師と一緒に自分の良かっ. 画を用いて活動場面を振り返ったりすることにし. た点を確認するように促す,②教師のコメントを. た。動画での振り返りでは,初めは指さしや言葉. 受けて,自分から自分の良かった点を確認できる. がけによって動画に注目させていたが,回を重ね. よう促す,③自分で自分の良かった点を確認でき. るにつれてA,Bは促しが減ってきたり,C,D. るように促すなど児童の実態に合わせてコメント. は,自ら注目するようになってきたりした。上手. 141.

(9) (5)自己評価場面の設定. 選択するのか葛藤させる場面を設定した。迷いなが. 自己評価の場面では,実際に作ったパズルを見. らも 1 つの絵柄を選択することができた (Table 2) 。. 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. 自己選択・自己決定. 自己調整力 再確認・修正. A. P. 得意なパターンの絵柄 や自分の好きなキャラ クターの絵柄を選ぶ。. 次の活動に向けて自分 なりの思いを確認す る。. 自己教育力. グループ活動. D. 友達とかかわり合いな がら、でかでかパズル を組み立てる。. C. ビデオを見ながら自分の 楽しかった様子や上手に できた様子を確認する。 自己評価. Fig.2 「でかでかパズル」における自己理解を促す PDCA サイクル Fig.2 「でかでかパズル」における自己理解を促すPDCAサイクル Table 2 児童の変容 場面. 自己評価や自己選択・自己決定させる場面の工夫. 児童の変容. □ 前時の様子を振り返る。 【自己評価】. ①動画を見ながら,自分の好き なキャラクターを振り返るよ う促す。. ①動画を用いることで,Dは前回選んだ絵柄を自ら確認できる ようになった。A・B・Cは,回を重ねるごとに,促されな くても自分からモニターを見て確認するようになった。. □ でかでかパズルの絵柄を 選ぶ。 【自己選択・自己決定】. ②ボードに児童の好きな絵柄を 用意し,名前カードを貼り付 けられるよう設定する。. ②児童の好きな絵柄を用意することで,Aは促されなくても自 分でやってみたい絵柄を選択するようになった。B・Cは, 自己選択・自己決定する時間が短くなり早く選択するように なった。Dは,意欲的に選択する様子も見られた。好きな絵 柄が2種類あってもどちらか一つを選択することができるよ うになった。. □ 本時の様子を振り返る。 ・作 っ た パ ズ ル を 見 な が ら,自分が選択した絵柄 を振り返る。 【自己評価】. ③作ったパズルを見せて,選択 した絵柄について振り返るよ う促す。. ③A・B・Cは,実際に完成したパズルを見ながら,自分が選 択した絵柄について確認することができた。また,Dは,自 分の絵柄を確認し,さらに友達がどんな絵柄を選択したのか を確認するようになってきた。. ・動画を見ながら,本時の 活動の様子や良かった所 を振り返る。 【自己評価】. ④モニターを提示して,児童一 人一人の良かった点を確認す るよう促す。. ④動画を用いることで,A・Bは,教師の促しがなくても動画 を見る場面が増えた。C・Dは,自ら動画に注目するように なり,教師と一緒に良かった所や頑張った所を確認すること ができた。Dは,「そっと置いて上手だったね。」などの教師 のコメントを受けて,自分でも「そっと置いたよ。」などと 動画を見て,自分から頑張った所を伝えるようになってきた。. にできた所や組み立てているときの良かった所な. を具体的に振り返ることができる姿も見られるよ. どを伝えることで児童も確認することができ,次. うになった。. も頑張ってやってみようという意欲につなげるこ. そして,完成した時は,ハイタッチをして情動. とができた。パズルを早く完成させたいという気. の共有ができるようにした。初めは,教師と児童. 持ちが強く, うまく積み重ならない時もあったが,. でハイタッチをしたり,児童同士のハイタッチを. 動画での確認の時に「静かに置くと上手に積み重. 促したりしていたが,回を重ねるにつれて児童同. なるね。 」というコメントを聞き,次の活動で自. 士でハイタッチをして喜ぶ姿が見られるように. ら調整してパズルを置く姿も見られた。また,始. なった。さらに,組み立てている時に違うパーツ. めは「俺だ!俺だ!」と自分が映っていることに. を持って行った友達に対して,「違うよ。こっち. 対しての発言が多かったが,回を重ねるごとに. だよ。」と教えてあげる姿も見られるようになっ. 「そっと置いてできたよ。 」と自分の行動の様子. た(Table 2)。. 142.

(10) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. 4.まとめ 本事例では,パズルの絵柄の中に自分の好きな キャラクターがあることで,絵柄を選択する行動 が速くなったり,自信をもって自己選択・自己決 定することができるようになったりした。さらに, 2つの好きなものの中で1つのものに決めるとい うように葛藤する場面を設定することで,自己調 整できるようになった児童も見られた。また,好 きなパズルを完成させる様子を動画で振り返るこ とで,自分の良かった所や頑張った所は,どんな. Photo 2 楽器の様子. 所だったのかを具体的に確認し合うことができた。 以上のことから,本事例において,自己選択・ 自己決定,自己評価場面を意図的に設けていくこ. ことに対して自己評価がしやすい。また,自己評. とで,自己調整力や自己教育力が高まる様子が見. 価の際に,友達が自分とは違う楽器を演奏してい. られ,他者とのかかわり合いの中で自らの良さを. るのを見ることで,様々な楽器にも興味が広がっ. 生かし,主体的に活躍できる授業の具現化を図る. ていくのではないかと考えた。. ことができたと考える。 2.手続き. Ⅳ 実践事例②「いっしょにあわせよう!き りのめ音楽隊」. ⑴ 対象児 対象児は,小学部4~6年の7名の自閉症児。 本事例における児童の実態に差はあるが,音楽の. 1.授業について. 活動を意欲的に行う様子が見られ,繰り返し練習. ⑴ 授業のねらい. することで楽しみながら演奏をすることができ. 本実践では,友達が楽器を演奏する様子を意識. る。自己選択・自己決定については,教師の言葉. しながら,タイミングを合わせて演奏することの. がけを受けたり,友達の様子を見たりすることで. 楽しさを味わうこと,また自分や友達の合奏の様. 自己選択できる児童が多い。また,自己評価につ. 子を見ることで,友達とタイミングを合わせて演. いては個人差が大きく,動画を部分的に見ること. 奏することや,楽器の音のおもしろさに気付いて. ができるようになった児童から,教師の言葉がけ. いくことをねらいとしている。. で自分の良さを感じることができるようになって. ⑵ 題材について. きた児童まで実態は様々である。また,児童同士. 本実践では, 比較的児童が楽器を鳴らしやすく,. のかかわりについては,自分から他者にかかわり. 楽器を自ら操作する楽しさを感じやすい大太鼓,. を求めながら活動しようとする児童もいれば,自. コンガなどの数種類の楽器を用意した(Photo 2)。. 分の活動に没頭する児童もいる(Table 3)。. そうすることで,児童は意欲的に活動をするこ. ⑵ 指導期間. とができると考えた。また,児童の実態に合わせ,. 2014年5月~6月. 曲の一部分を2人で合奏する活動を設定した。2. ⑶ 指導場面. 人でタイミングを合わせて合奏することで,友達. 音楽活動(6時間). とのかかわりが生まれやすいのではないかと考え. ⑷ 自己選択・自己決定場面の設定. た。さらに,このタイミングを合わせるという活. 自己選択・自己決定の場面では,コンガ,大太. 動は,後から振り返る際にもタイミングが合った. 鼓,トライアングル,ウッドブロックの楽器を選. 143.

(11) (2)指導期間. が同時にカメラに収まり,また互いの演奏が意識し. 2014 年 5 月~6 月. やすいよう 2 人で 1 つの楽器を使用した。動画を見. (3)指導場面. る際には,児童の実態に合わせて,タイミングが合. 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. 音楽活動 (6 時間). っていたかが評価できるよう言葉がけを工夫したり,. (4)自己選択・自己決定場面の設定. Table 3 本事例における児童の実態. 場合によってはこちらから児童の演奏の良さを積極. 児童名. 自己選択・自己決定の場面では,コンガ,大太鼓,. 個別の実態 的に伝えたりした。また,自分の演奏以外にも友達. ・自分の経験を基に,好きな楽器を選ぶことができる。. E の演奏にも目を向けるよう促し,違う楽器の良さも トライアングル,ウッドブロックの楽器を選択でき ・繰り返し練習することで,部分的に曲に合わせて楽器を演奏することができる。 小4年. ・部分的に動画に注目することができ,教師の称賛に笑顔を見せることもある。 知らせ,次回やってみたい楽器を考える時間を設定 るようにした。4種類の楽器をそれぞれ,たぬき, ・教師と一緒にいろいろな楽器を鳴らして楽しむことができる。 した。このように,自分と友達の演奏を意識しやす ゴリラ,小鳥,子リスと対応させ,楽器の音や演奏 F 小4年. ・曲を聴きながら部分的に口ずさんだり,楽器を鳴らしたりすることができる。. ・教師の促しを受け,動画に部分的に注目することができる。 いようにしたり,自分の演奏した楽器とは異なる楽 の仕方をイメージできるようにした。単元の冒頭で ・友達の演奏している様子を見ながら,教師と話をすることで,やってみたい楽器を選ぶことができる。 器にも興味が広がるように工夫したりした。こうす は全員が全ての楽器を経験することができるような G. ・教師が友達と一緒に音を出すタイミングを伝えることで,友達とタイミングを合わせて楽器を演奏することができる。. 小4年 ることで,自己教育力が高まり,自分の良さ,友達 配慮を行い,単元中盤以降は,自分の得意な楽器や ・動画を見て,教師の言葉がけを受け,自分の演奏の良さを感じることができる。 ・自分の経験を基に,好きな楽器を選ぶことができる。 の良さを実感しながら,合奏の良さも実感していく やってみたい楽器を考えることができるようにした。 H ・曲に合わせて歌を口ずさんだり,楽器を鳴らしたりすることができる。. 小5年 選択する場面では,児童の実態に合わせて前回の活 ・部分的に動画に注目することができる。. ことができると考えた (Fig.3) 。. 3.結果 動の様子や振り返りの様子を伝えたり,友達が選択 ・友達の演奏している様子を見て,やってみたい楽器を選ぶことができる。 I. ・教師が部分的に手をとりながらタイミングを伝えることで,曲に合わせて楽器を演奏することができる。. 小5年 (1)自己選択・自己決定場面における経過と変容 している楽器を伝えたり,楽器を持っている動物カ ・動画に注目することができ,教師の称賛に対して喜びの表現を見せる。. ードを用意して自分の名前カードを貼らせたりする ・自分の経験を基に,好きな楽器を選ぶことができる。楽器を選択する(自己選択・自己決定)場面では, J. ・教師が部分的に手を取りながらタイミングを伝えることで,曲に合わせて楽器を演奏することができる。 楽器を持っている動物のカードを掲示し,自分の演 ・部分的に動画に注目することができる。. など,児童の実態に合わせて,本人なりの理由をも 小6年. 奏したい楽器に自分の名前カードを貼るようにした。 って自己選択・自己決定ができるようにした。こう ・友達の演奏している様子を見ながら,教師と話をすることで,やってみたい楽器を選ぶことができる。 K. ・教師が友達と一緒に音を出すタイミングを伝えることで,タイミングを合わせて楽器を演奏することができる。 そして,児童の実態に合わせて,前回の活動を振り することで, 自己調整力を高めながら活動への意欲 小6年 ・動画を見て,教師の言葉がけを受け,自分の演奏の良さを感じることができる。. を高めることができると考えた (Fig.3) 。. 返るように促した。そして回を重ねるにつれ,選ん 自己選択・自己決定. 自己調整力 再確認・修正. A. P. 自分が演奏してみたい 楽器を選ぶ。. 次にやってみたい楽器 やその理由を考える。. 自己教育力. グループ活動. D. 友達と2人組になって タイミングに合わせて 楽器を演奏する。. 動画を見て,2人でタ イミングよく合奏でき たかについて確認す る。. C 自己評価. Fig.3 「いっしょにあわせよう!きりのめ音楽隊」における自己理解を促すPDCAサイクル Fig.3 「 いっしょにあわせよう!きりのめ音楽隊」における自己理解を促す PDCA サイクル. 択できるようにした。4種類の楽器をそれぞれ,. 子を伝えたり,友達が選択している楽器を伝えた. たぬき,ゴリラ,小鳥,子リスと対応させ,楽器. り,楽器を持っている動物カードを用意して自分. の音や演奏の仕方をイメージできるようにした。. の名前カードを貼らせたりするなど,児童の実態. 単元の冒頭では全員が全ての楽器を経験すること. に合わせて,本人なりの理由をもって自己選択・. ができるような配慮を行い,単元中盤以降は,自. 自己決定ができるようにした。こうすることで,. 分の得意な楽器ややってみたい楽器を考えること. 自己調整力を高めながら活動への意欲を高めるこ. ができるようにした。選択する場面では,児童の. とができると考えた(Fig.3)。. 実態に合わせて前回の活動の様子や振り返りの様. 144.

(12) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. ⑸ 自己評価場面の設定. の活動を振り返るように促した。そして回を重ね. 自己評価の場面では,2人で楽器を演奏してい. るにつれ,選んだ理由を言いながら楽器を選択す. る様子を動画で視聴し,タイミングを合わせて演. る児童が増えたり,積極的に楽器を選択する児童. 奏することができたかについて振り返りを行っ. が増えたりした。また, 「〇〇の楽器が好き」, 「〇. た。振り返りがしやすいよう,動画を撮る際には. 〇の楽器を演奏してみたい」という理由の他に,. 2人の手元が同時にカメラに収まり,また互いの. 「〇〇さんと一緒に演奏してみたい」という理由. 演奏が意識しやすいよう2人で1つの楽器を使用. も聞かれるようになった。. した。動画を見る際には,児童の実態に合わせて,. 友達とかかわり合う場面では,相手を意識でき. タイミングが合っていたかが評価できるよう言葉. るよう楽器を共用したり,たたくタイミングが分. がけを工夫したり,場合によってはこちらから児. かりやすいよう言葉がけを工夫したりした。タイ. 童の演奏の良さを積極的に伝えたりした。また,. ミングよく演奏できた際には,タイミングが合っ. 自分の演奏以外にも友達の演奏にも目を向けるよ. た喜びを共感できるように,「(タイミング)ぴっ. う促し,違う楽器の良さも知らせ,次回やってみ. たり!」などと言葉がけを行った。そして,授業. たい楽器を考える時間を設定した。このように,. の回数を重ねるにつれ,教師の支援がなくても自. 自分と友達の演奏を意識しやすいようにしたり,. 分からタイミングよく楽器を演奏することができ. 自分の演奏した楽器とは異なる楽器にも興味が広. るようになったり,友達の演奏を意識しながらタ. がるように工夫したりした。こうすることで,自. イミングを合わせて演奏することができるように. 己教育力が高まり,自分の良さ,友達の良さを実. なったりした。また,演奏の最後にタイミングよ. 感しながら,合奏の良さも実感していくことがで. くできたと発言する児童も増えてきた(Table 4)。. きると考えた(Fig.3)。. ⑵ 自己評価場面における経過と変容 動画を用いた振り返り(自己評価)の場面では,. 3.結 果. 全体的に自分や友達の動画を注目する時間が増え. ⑴ 自己選択・自己決定場面における経過と変容. た。また,回を重ねるにつれて,自分の活動に興. 楽器を選択する(自己選択・自己決定)場面で. 味をもって動画を見る児童や,タイミングが合っ. は,楽器を持っている動物のカードを掲示し,自. たことを自覚する児童,友達の良い所に気付く児. 分の演奏したい楽器に自分の名前カードを貼るよ. 童,次回にやってみたい楽器について発言する児. うにした。そして,児童の実態に合わせて,前回. 童の数が増えた(Table 4)。. Table 4 児童の変容 場面. 自己評価や自己選択・自己決定させる場面の工夫. 児童の変容. □ 自分が演奏したい楽器を 決める。 【自己選択・自己決定】. ①楽器を持っている動物カード を掲示し,自分が演奏したい 楽器を決めるように促した。 ②前回の活動の様子を伝えた り,友達が選択した楽器を伝 えたりして,楽器を決める理 由を考えられるようにした。. ○G・Kは促されなくても,前回の活動を振り返り,理由も言 いながらやりたい楽器を選ぶことができるようになった。 E・H・I・Jは,促されなくてもその都度やりたい楽器を 選ぶことができた。Fは,自分が好きな楽器を毎回選ぶこと ができるようになった。また,一緒に活動する友達も意識す るようになった。. □ 動画を見ながら,本時の 活動の様子や良かった所 を振り返る。 【自己評価】. ①楽しかったことや上手にでき たことを,動画を基に振り返 ることができるようにした。. ○G・Kは,動画を見ながら友達とタイミングを合わせること ができたことについて確認することができた。Iは教師の称 賛を基に,タイミングを合わせることができたことについて 確認することができた。E・F・H・Jは,支援がなくても, 自分や友達の動画に注目する時間が増えた。 ○G・I・Kは,振り返ったことを基にして,次の時間に演奏 してみたい楽器を考え,発表することができた。. 145.

(13) 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. 4.まとめ. 思を決定する様子が見られるようになっていっ. 本実践では,それぞれの児童が比較的鳴らしや. た。二つ目は,自分の意思を明確に示すようになっ. すく,そして操作する楽しさを感じやすい楽器を. たことにより,自己抑制的側面の成長がみられる. 自己選択・自己決定できるように場面を設定し. ようになった。具体的には,「Yもいいけど,こ. た。また,自己選択・自己決定した理由を明確に. れまでたくさんやったから今日はYを我慢す. もてるような支援を行うことで,自己調整力が高. る。」,「Xがよかったけど,友達と一緒がいいか. まるだけではなく,意欲的に活動できるように. らXを我慢してZにする。」というように自分の. なったり,活動の目的を自覚できるようになった. 意思が明確になることで,我慢するという行動が. り,自分の好きなこと,得意なことを実感できる. 見られるようになった。. ようになったりした。. 実践事例②「いっしょにあわせよう!きりのめ. 自己評価の場面を設け,自分や友達の演奏につ. 音楽隊」では,児童の興味・関心の実態から演奏. いて振り返る支援などを行うことで,自己教育力. しやすく,楽しさを感じやすい楽器を設定し,葛. が高まり,自分のできることを実感できるように. 藤しながら自己選択・自己決定することで,自己. なったり,やってみたいことを見出したりできる. 調整力を高めるように促した。その結果,好きな. ようになったりした。. 楽器を自己選択・自己決定する様子に変容が見ら. 以上のように,本事例において自己選択・自己. れた。一つ目は,「コンガが好きだから,コンガ. 決定や自己評価場面を意図的に設けていくこと. をやりたい。」,「友達がウッドブロックだから,. で,自己調整力や自己教育力が高まる様子が見ら. 僕もウッドブロックをやりたい。」というように. れ,さらに音楽活動の目標を効果的に達成するこ. 自分なりの理由をもって意思を決定する様子が見. とができた。そのことから,他者とのかかわり合. られるようになっていった。二つ目は,自分の意. いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍でき. 思を明確に示すようになったことにより,「大太. る授業の具現化を図ることができたと考える。. 鼓がよかったけど,友達と一緒がいいから今日は 我慢してトライアングルにする。」というように. Ⅴ 考 察 1.主体的な自己選択・自己決定を設定した授業 について. 葛藤する行動が見られるようになった。また,そ うした行動の変容と合わせて,「次はあの楽器で 一緒に合わせてやってみたい。」,「あの楽器も楽 しそう。」というように音楽活動に対する意欲や. 実践事例①「でかでかパズル」では,児童の興. 関心に関するねらいを効果的に達成する様子も見. 味・関心の実態から自己選択・自己決定の対象と. られるようになった。. して人気の複数のキャラクターの絵柄を設定し,. このように,授業回数を重ねるごとに各児童の. 葛藤しながら選択することで,自己調整力を高め. 自己選択・自己決定の行動に顕著な変容が見られ. るように促した。その結果,好きなキャラクター. るとともに,その質の向上も見られた。つまり,. を自己選択・自己決定する様子に変容が見られ. 自立活動の時間における指導と領域・教科を合わ. た。一つ目は,好きなキャラクターのどちらを選. せた指導のどちらにおいても,自己選択・自己決. ぶかという葛藤が生じるような自己選択・自己決. 定する場面を設定することで児童は自分の意思を. 定の場面を設定することで,自分の意思を明確に. 明確にするようになり,それによって自己調整力. 示すようになった。具体的には, 「Xが得意だから,. が高まる様子が見られた。また,同時に自己調整. Xをやりたい。 」「昨日はXをやったから,今日は. 力が高まることで領域・教科を合わせた指導にお. Yをやりたい。 」「友達がYだから,僕もYをやり. いては,そのねらいにも効果的に迫ることができ. たい。 」というように自分なりの理由をもって意. た。. 146.

(14) 他者とのかかわり合いの中で自らの良さを生かし,主体的に活躍できる授業づくり. 2.根拠のある自己評価を設定した授業について. このように,自立活動の時間における指導と領. 実践事例①では,でかでかパズルを友達と協力. 域・教科を合わせた指導のどちらにおいても自己. して作り上げる姿を動画で振り返ることで自己評. 評価の場面を設定することで,児童は自分の上手. 価を促した。その結果,授業の回数を重ねるごと. な所や好きな所を知るようなり,それによって各. に“自分の姿を見ている”状態が“自分の行動の. 実践において確実に自己教育力の高まりが見られ. 様子を見る”状態へ, “自分の行動の様子を見る”. た。. 状態から“自分の良さに気付く”状態へ,また“自 分の良さに気付く”状態から“他者と比較して自. 3.総合考察. 分について知る”状態へとそれぞれの状況に応じ. 自己選択・自己決定する場面を設定することに. て変容が見られた。具体的には,自分のパズルを. よって自己調整力が,自己評価する場面を設定す. 作る様子を見ていただけの児童が,回を重ねるご. ることによって自己教育力が育まれることが示さ. とに「ゆっくり,ゆっくり…できた!」と動画の. れた。さらに,上手にできた場面や楽しくできた. 中の自分の様子を伝える児童も見られた。また,. 場面など自分の良さを動画で確認することで,次. 「俺は,Xが好き!」 「次!Xやる!」というよ. 時の活動で意思を明確にして自己選択・自己決定. うに自分の好みを明確にして次時の活動に生かす. するなどの変容も見られたように,自己調整力と. 児童も見られた。さらには,「あっ!○○くんの. 自己教育力が相互に高まることも確認された。ま. だ!次は俺のだ!」と他者と比較して自分の様子. た自己調整力や自己教育力が育まれることによっ. を見る場面も部分的ではあるが見られた。. て,他者とのかかわり合いにおいても,友達の様. 実践事例②では,児童が二人で一緒に演奏して. 子を見たり,積極的にかかわったりする様子が見. いる姿を動画で振り返ることで自己評価を促し. られるなど望ましい変容が見られた。. た。その結果,授業の回数を重ねるごとに実践事. 以上のことから,人とのかかわり合いの中で,. 例①と同様に“自分の姿を見ている”状態が“自. 楽しかったことやできたことを振り返り,自分の. 分の行動の様子を見る”状態へ, “自分の行動の. 好きな活動を自己選択・自己決定するような授業. 様子を見る”状態から“自分の良さに気付く”状. を設定することで,児童は教師や仲間の中で意欲. 態へ,また“自分の良さに気付く”状態から“他. 的に活動できるようになってきたと考える。さら. 者と比較して自分について知る”状態へとそれぞ. に領域・教科を合わせた指導においては,自立活. れの状況に応じて変容が見られた。具体的には,. 動のねらいに加えて授業のねらいにも効果的に迫. 自分の演奏する様子を見ていただけの児童が,回. ることができたと考える。. を重ねるごとに「上手!」と動画の中の自分の様 子を伝えられるようになる様子も見られた。また, 「私は,コンガが好き!」「次も絶対コンガをや. Ⅵ 今後の課題. るの!」というように自分の好みを明確にして次. 本研究は,本校の教育実践の一部であり,今後. 時の活動に生かす児童も見られた。さらには,. はさらなる実践の積み重ねと検証が必要である。. 「あっ!○○くんだ!次は俺だ!」と他者と比較. 今後の課題は,他者理解と自己理解の相乗効果. して自分の様子を見る場面も部分的ではあるが見. を図りながら“社会とかかわる力”を育む支援シ. られた。そして,そうした行動の変容と合わせて,. ステムを構築すること,またその支援システムに. 「今日は上手に合わせて演奏することができた。」,. 対応した学習評価プログラムを作成すること,さ. 「次は,もっと大太鼓で大きく演奏したい。」と. らには日常生活における多様な場面で実践を重ね. いうように音楽活動の技能や表現のねらいを効果. ていくことの3点が考えられる。. 的に達成する様子も見られるようになった。. 147.

(15) 白府 士孝・伊東 実・丸山 美晴・藤村 敦・山名田 薫・根山 智美・細谷 一博. Ⅶ 謝 辞 本研究を進めるにあたって,尽力してくださっ た元本校職員の金丸紀子先生,秋場いづみ先生,. セルフモニタリング-自己評価と他者評価の違いから の検討-,日本教育心理学会総会発表論文集(52), 439. 與那嶺司(2009):知的障害のある人の自己決定とその関 連要因に関する文献的研究-支援環境要因も含めた自. 加賀ちなみ先生,そして時間講師としてご協力く. 己決定モデルを活用した実証的研究の提案-,生活科. ださった八木恭子先生,黒田史子先生,大谷奈穂. 学研究誌Vol.8,171-188.. 子先生に心から感謝いたします。. Zimmerman(1986) :Becoming a self-regulated learner; Which are the key sub processes, Contemporary Educational Psychology, 11, 307-313.. Ⅷ 引用文献 Abery and Stancliffe (2003):An ecological theory of self-determination. Wehmeyer・Abery・Mithaugu・ Stancliffe, Theory in Self-Determination. Charles C Thomas Pub Ltd. 別府哲(2010):高機能自閉症児の自己の発達と教育・支. (白府 士孝 北海道教育大学附属特別支援学校 教諭) (伊東 実 北海道教育大学附属特別支援学校 教諭) (丸山 美晴 北海道教育大学附属特別支援学校. 援.田中道治・都築学・別府哲・小島道生,発達障害. 教諭). のある子どもの自己を育てる内面世界の成長を支える. (藤村 敦 北海道教育大学附属特別支援学校. 教育・支援.ナカニシヤ出版,76-77. 平田厚(2002):増補 知的障害者の自己決定権,エンパ ワメント研究所,9. 柏木惠子(1988):幼児期における「自己」の発達,東京 大学出版会,91-109. 菊池哲平(2009):自閉症児における自己と他者,そして 情動-対人関係性の視点から探る-,ナカニシヤ出版. 丸山愛子(2009) :自己調整能力の発達に関する大学生の 自己認知,広島大学大学院教育学研究科紀要,第1部 第58号,73-80. Millward, Powell, Messer, and Jordan(2000):children’s memory for events experienced by themselves and their peer, Journal of Autism and Deveropmental. 森田理香(2005) :高機能自閉症における自己理解-評価 的側面に注目して,日本心理臨床学会第24回大会発表 論文集,280. 室田義久・菊地紀彦・八島猛・郷右近歩・野口和人・平 野幹雄(2005):自己認知や自己参照の問題が他者のか かわりに及ぼす影響についての検討,保健福祉学研究, 4,103-111. 霜田浩信(2003) :発達障害児における正確な自己評価ス キル形成-デジタルカメラ画像を利用して-,日本行 動分析学会第21回大会発表論文集,49. 滝吉美知香・田中真理(2011):自閉症スペクトラム障害 者の自己に関する研究動向と課題,東北大学大学院教 育学研究科研究年報第60集第1号,497-521. 田中真理(2011) :心理臨床現場での支援の実際.別府 哲・小島道生, 「自尊心」を大切にした高機能自閉症の 理解と支援,有斐閣,253. 渡邊はるか・前川久男(2009):児童の学業適応に対する. 148. 教諭) (山名田 薫 北海道教育大学附属特別支援学校 教諭) (根山 智美 北海道教育大学附属特別支援学校 教諭) (細谷 一博 北海道教育大学函館校 准教授).

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 学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配

 学部生の頃、教育実習で当時東京で唯一手話を幼児期から用いていたろう学校に配