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『MMT 現代貨幣理論入門』L・ランダル・レイ(著)/ 中野 剛(解説),松尾 匡(解説),島倉 原(監修,翻訳),鈴木正徳(翻訳),東洋経済新報社

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Academic year: 2021

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−75− 岡山大学経済学会雑誌 52(3),2021,75 ∼ 76

《書 評》

『MMT 現代貨幣理論入門』

L・ランダル・レイ(著)/ 中野 剛(解説),松尾 匡(解説),

島倉 原(監修,翻訳),鈴木正徳(翻訳),東洋経済新報社

酒  本  隆  太

 本書は現在一般のメディアでも取り上げられている「現代貨幣理論」(Modern Money Theory: MMT)に ついての入門書である。著者のランダル・レイによればMMTの最も大きな貢献は,国庫と中央銀行のオ ペレーションの協調に関する研究にある。その中での主要なポイントは,国家は支出のために自らの通貨 を借りる必要がないという点である。現状,その点が強調されすぎて,国家の財政赤字に対しては警戒不 要であるという単純な結論だけが,一般のメディアで伝えられる状況となっている。しかし本書を読むと MMTは著者の主張とは逆に,主流派の経済学と異なることを言っているわけではないという印象を受け る。例えば1章ではマクロ会計の基礎が説明されており,国内民間収支,政府支出,国際収支を合計する とゼロになることが示されている。したがって1つの部門が黒字ならば,他の1つ以上の部門が赤字にな る必要がある。これは標準的なマクロ経済学で用いられている考え方である。  読者の多くが興味を持つと想定される財政赤字の持続可能性についての議論は,2章で行われている。 ここでは政府の支払う金利がGDP成長率を上回り続ける場合に,政府債務の持続性が危ぶまれるという標 準的な見方を取る。しかし著者によれば持続性が危ぶまれる状況では,インフレーションによる債務の減 少,民間部門の消費行動の変化,政府による公共投資による成長率上昇,政策金利の引き下げなどの選択 肢が考えられるため,政府債務の持続しない状況に陥る可能性は低いという見方をする。  為替制度については6章で議論されている。ここでの議論も標準的なものである。たとえば為替制度に は変動相場制,管理された変動相場制,固定相場性があり,政策的な自由度が最も高いのは,変動相場制 であると述べられている。ただし変動相場制でも問題が起こる例をいくつか紹介しており,最も代表的な 例としてユーロに焦点が当てられる。著者はユーロの問題は主権通貨ではない点であるとする。そのため 他の先進国で不況のさいに採用される財政政策と金融政策の連携を取ることが現状では困難である。また 2012年のハンガリーの経済危機のケースも紹介されている。ハンガリーは変動相場性を採用し,自国通貨 (フォリント)を発行できたが,政府債務の半分は外貨建てであったため問題の解決が困難になったこと が指摘されている。主権通貨を持つ変動相場制の国における財政赤字について楽観的な見方をするMMT であるが,これは政府債務が自国通貨建てである場合のみであることが述べられている。  物価の安定については8章で議論されている。この章では物価の安定と完全雇用を同時に実現するため に,MMTは就業保障プログラムを政策として提案する。このプログラムは一般に不況時の政策として提 案される政府の公共事業と類似のものである。不況時に仕事を失い働く意思のある労働者を政府は就業プ ログラムで雇用する。ここでは就業プログラムの賃金が最低賃金として機能する。収益性の高いプロジェ クトを持っている民間企業は,プログラムに参加している労働者を最低賃金よりも高い賃金で雇用するこ とが可能なため,政府は民間企業と資源の奪い合いになることはないとされている。  9章ではインフレとMMTについての関係を述べている。この章ではハイパーインフレーションの代表 例であるワイマール共和国とジンバブエが分析対象となっている。著者は政府支出の削減や増税によって 高インフレを抑え込めることには同意する。ただし政府が貨幣を印刷することが高インフレに結び付くと

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206 −76− 酒 本 隆 太 いった考え方を否定する。ワイマール共和国では戦争の影響により生産設備が棄損していた。政府支出の 増加が,国内の民間需要と競合し,物価が上昇した。国内生産に必要な輸入品の購入のため,外貨での借 り入れを行い,自国通貨の下落をもたらした。これらの複数の要因が関係しているため,紙幣の印刷によ りハイパーインフレーションが生じたというのは単純すぎると述べる。ジンバブエの場合は,農地改革に より食糧生産が激減し,食糧輸入とIMFからの借り入れを拡大した。食糧不足と供給力の不足が物価を押 し上げたのである。以上の例からハイパーインフレーションは社会的・政治的な混乱,生産能力の崩壊, 外貨や金による対外債務などの複数の要因が関係するため,貨幣を刷ることのみによるハイパーインフレ の可能性は低いと結論づけている。  以上のようにMMTでの議論は,現在の主流派経済学で行われているものと一般のメディアで言われて いるほど大きな相違点はない。この点は巻末の解説を書かれている松尾匡氏も述べている。松尾氏が指摘 するようにMMTを支持する研究者たちが,主流派経済学とは異なったアプローチであることを強調しす ぎる印象を評者も受けた。  最後に今後の研究の方向性として,政府債務の持続性に関する更に深い分析を期待したい。ハイパーイ ンフレーションが多くの条件の重なりあったときにしか起こらないという著者の考えに評者も賛成であ る。しかし財政赤字の持続可能性については,さらに深い議論が期待される。本書の執筆の時点からいく つかの新たな論点が出てきていると考える。たとえば現状世界的に政策金利がゼロに近くなっている中で, 以前よりも各国とも政策の自由度が低下している点はどう考えるのか?あるいは先進国の中では金利が上 昇しやすく最も経済規模の大きな米国の金利が上昇したときに,財政赤字の国は金利を低いまま保つこと が可能なのかなどの論点が考えられる。

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