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〈論文紹介〉 市村太郎「副詞「ほんに」をめぐって-「ほん」とその周辺-」『日本語の研究』10(2): 1-16. (2014)

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国立国語研究所学術情報リポジトリ

〈論文紹介〉 市村太郎「副詞「ほんに」をめぐっ

て-「ほん」とその周辺-」『日本語の研究』10(2):

1-16. (2014)

著者

市村 太郎

雑誌名

国語研プロジェクトレビュー

6

1

ページ

31-32

発行年

2015-06

URL

http://doi.org/10.15084/00000803

(2)

31

国語研プロジェクトレビュー Vol.6 No.1 2015 NINJAL Project Review Vol.6 No.1 pp.31―32(June 2015)

国語研プロジェクトレビュー  〈論文紹介〉 本稿は,「ほんにおまえさんは困ったお人だよ」のように,現代東京語では時折時代劇な どで耳にするような副詞「ほんに」について,中世期におけるその成立状況と,近世語での 使用状況,また現代用いられる「本当に」などとの関わりについて論じた。 本稿で取りあげた「ほんに」と「ほんとうに」は,いずれも「ほん」「ほんとう」という, 事実であることを表す名詞を基に意味が抽象化したものと考えられ,語形も類似している。 また現代東京語では「ほんに」は用いられず「ほんとうに」のみが残存していることから, その盛衰状況には関連が予想され,両者がどのように成立し,関わっているのかという点は 興味深いテーマであった。 中世∼近世初頭において,「ほんに」は,名詞・形容動詞の延長上で述語動詞に前接して 連用修飾していたが,近世前期には文意や事柄に対する実感的・発見的強調を表す副詞に転 じた用例がみられ,談話標識のような機能を持つに至り,名詞・形容動詞的用法と共に多様 な形式で用いられた。 たとえば,狂言や抄物では,次のように「実際に」を意味するものや,「○○をほんにする」 の形式で用いられるなど,事柄の強調等に用いられていたわけではなく,「実際に」である とか「∼に重点を置く」「ちゃんと∼する」のような意味で用いられている。 (1) 言語道断の事じや、わかひ衆がなぶつておこされた、それがしもほんにおしへては、 のちまでのわらひぐさがなひ、(『虎明本狂言集』:大塚光信編『大蔵虎明能狂言集 翻 刻註解』2006 清文堂出版) (2) 今諸生―今ヲハ本ニハセイテ古ヲ學トテ(『史記抄』:岡見正雄・大塚光信編『抄物資 料集成 1』1971 清文堂出版) 時代が下り,近世になると,次のように後続する事柄を強調する程度副詞に近いような例 や,さらに文頭で前文脈を受けて後続の事態を実感的に強調する例がみられる。 (3) 後はふたりながら涙をこぼし不埒なりしに、又雨のあがり神鳴あらけなくひゞきしに、 「是は本にこはや」と吉三郎にしがみ付ける(『好色五人女』:暉峻康隆・東明雅編『井 原西鶴集①』新編日本古典文学全集 1996 小学館)

市村 太郎

市村太郎 「副詞「ほんに」をめぐって―「ほん」とその周辺―」 『日本語の研究』10(2):1─16.(2014)

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市村 太郎

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国語研プロジェクトレビュー Vol.6 No.1 2015 (4) 後イヽヱ爰へ下さりまし三沢さんのお 酌 にはこりました三ホンニ此ぢうはよくのみ なんしたの(『甲駅新話』:洒落本大成編集委員会編『洒落本大成 6』1979 中央公論社) その後,副詞として近世を通じて幅広く用いられたが,近世末の滑稽本や人情本には,次 のように肯定的な応答詞的用法の例が多くみられるようになる。近世後期には次第に抽象 化・固定化が進み,近代初期に衰退傾向に転じたとみられる。 (5) 「此おばさんは馬鹿なことばつかりいふは。ホンニ 〳 〵、いつも若い元氣だ(『浮世風 呂』:中村通夫校注『浮世風呂』日本古典文学大系 1957 岩波書店) その一方で,特に江戸語・東京語においては近世末から近代初期にかけて「ほんに」に代 わり「ほんとうに」の使用・用法が拡大した。 (6) 米「マア丹さん、ともかくも今度のことは 私 がわるいヨ。ふつとした言がゝりで、 おまへにも腹をたゝして実ほん正とうにわるかつたヨ。(『春色辰巳園』:中村幸彦校注『春色 梅兒誉美』日本古典文学大系 1962 岩波書店 ) この過程で,「ほん」の連体修飾形である「ほんの」に目を移すと,その多くが,(近松等 でみられた「ほんの母様」のようなものではなく)連体詞化していた。 (7) 私 どものうたふは本ほんの真似方ばかり。(『浮世床』:神保五彌校注『洒落本滑稽本人 情本』日本古典文学全集 1971 小学館) つまり,特に江戸・東京語における「ほんに」衰退の背景には〔述語用法の喪失→連用修 飾「ほんに」と連体修飾「ほんの」との併存→それぞれの固定化・抽象化→一部を残して衰 退傾向〕という「ほん」全体での変遷過程があり,単に副詞としてのみの衰退ではなかった。 「ほんとう」類はそれに連動し,名詞・形容動詞用法から徐々に,「ほんに」が辿ったのと同 じような過程で拡大したと考えられる。

市村 太郎

(いちむら・たろう) 国立国語研究所コーパス開発センター プロジェクト非常勤研究員。修士(文学)(早稲田大学)。2013 年 4 月より現職。 主な著書・論文:「雑誌『太陽』『明六雑誌』における程度副詞類の使用状況と文体的傾向」(『日本語の研究』11(2), 2015),「近世口語資料のコーパス化―狂言・洒落本のコーパス化の過程と課題」(『日本語学臨時増刊号・特集「日本語 史研究と歴史コーパス」』33(14),2014).

参照

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