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ミツバチ・コロニーの微生物に対する総合的防御機構

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ミツパテ科学15(3):115- 118 HoneybeeScience(1994)

ミツバ チ ・コロニーの微生物 に対 す る

総合的防御機構

ミツバチの巣箱 内を観察す ると,育児圏 は 35℃の一定 に保 たれてお り湿度 も高 い. しか ち,蜂児,花粉や蜜のような高栄養物質が多量 に詰 まっている. これ らの条件 は,微生物が繁 殖す るのにきわめて好適なはずである.にもか かわ らず,巣箱内においては菌類の繁殖 は見 ら れない. ミツパテはどのよ うに巣箱内を清潔に 保 っているのだろうか.セイヨウミツパテは抗 菌活性のあるプロポ リスを利用 し,巣内を抗菌 的に保 っているという説 もある.だが, 日本在 来種のニホ ンミツバチはプロポ リスを集めない にもかかわ らず,セイヨウ ミツバチの巣内と同 様に通常,微生物の繁殖が見 られない. そこで私達 は, ミツバチがプロポ リスなどの 外来の抗菌性物質の利用の他 に, 自ら生合成 し た抗菌活性物質群を利用 し,それ らの物質群を 相乗作用 させ総合的に微生物の繁殖を妨 げてい るのではないかと考えた.

吉垣 茂

本文では巣箱内での総合的な抗菌環境作 りを 想定 し (図 1),それ らの実態の解明を試みるこ とに した . 昆 虫 の生体 防御 反応 生物 は外部か ら体内に入 り込んだ ウイルス, バ クテ リア, カビ,その他の異物, さらには有 害な自己由来成分を非 自己と認識 し, これを防 ぎ排除する機構を発達 させている. 生体防御機構 は,生物の系統発生的進化の過 程で獲得 した多 くの防御因子や機能発現の積み 重ねか ら成 り立 っている.脊椎動物,特 に両生 類以上 になると,生体防御機構の重要な部分を 担 うリンパ球を進化 させ, リンパ球による非 自 己抗原識別すなわち抗原抗体反応 (免疫系)を 獲得 した.生体防御機構 は動植物の両方 に存在 す るが,脊椎動物 など一部を除いて未解明の部 分が多 く,近年ようや くその重要性が認識 され 図1 ミツバチコロニーの微生物に対する総合的防御機構の模式図

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116 るとともに,活発な研究が途 についたところで ある. 昆虫類 は先口動物 の中で最 も進化 してお り, 100万種以上が地球上のあ らゆる場所で生息 し ている. この様 な繁栄を もた らした背景 には, 繁殖能力や環境適応能力などの強 さとともに, 生体防御機構の発達 も挙 げ ることがで きる.昆 虫の生体防御機構 は,皮膚,消化管,体腔 とい う三つの場所で行われている (Kushner and Harvey,1969;Ayuzawa,1969).一般的に, 外骨格 をっ くる外表皮 にはカプ リル酸 や ラウ リ ル酸 などの低級脂肪酸や フェノール性物質が含 まれてお り,糸状菌 の体内への侵入を妨 げてい る.消化管内では,消化液,病原微生物の増殖 を抑制す る抗菌性 フェノール化合物や抗 ウイル ス物質 などが働 いてお り, このため病気微生物 や ウイ ル スの感 染 を阻止 す る こ とが で き る (Wago,1984). 体腔内の防御 は体液によるも ので,先 に述べた二つのバ リヤーが破 られたと き, たとえば皮膚 に損傷が生 じた り環境変化や 餌不足 によ り健康が損なわれ,乳酸菌(Strept o-coccus faecalis), 緑 膿 菌 (Pseudomonas aerugionsa),霊菌 (Serratiamwcescens)など 昆虫 に感染を引 き起 こす菌類が体腔内に侵入 し た場合 に起 こり, その反応 は二 つ にわ け られ る.第1は細胞性防御反応 で,病原微生物や人 為的に注入 された異物 に対 し,頬粒細胞やプラ ズマ細胞 の働 きによる食作用, ノ ジュール形 成,包囲化作用 とい う三つの作用 によ って これ を排険す る.第2は液性防御反応である. これ は感染防御物質,細胞凝集性 レクチ ン, フェノ ール酸化酵素前駆体活性 系 な どの液性 因子群 が,細菌などの異物 に直接働 き,異物 を不活化 した り凝集 した りす るものである. 近年 まで,昆虫 には免疫系 は存在 しないとさ れて きた.確かに脊椎動物 に見 られ るような免 疫 グロブ リンによる細胞性免疫 は存在 しない. しか し,Boman ら (1981)によってセクロピ ア蚕(Hyalophoracec

r

opia)の休眠桶 に大腸菌 (Escherichia colt)を接種す ると体液中に抗菌 活性を示すペプチ ド系物質が誘導 され ることが 証明され,昆虫 における液性免疫の存在が認め ◎川 @ ◎D 'hll・HI EI.ml IJ.■ -ull HI E)IJr- N.A ・Npd .ll'' 図2 抗菌性活性物質アミノ酸配列の比較 (丑sapecln:センチニクバエ Sarcophagaperegrina ②phormicinA:クロバェPhoymiaterranovae ③royalicin,セイヨウミツバチ Apism

e

llifera ④apidaecinlb セイヨウミツパテ Apismellifera ⑤abaecin.セイヨウミソバチ Apismellijera ⑥diptericinA:クロバェ Phorm‡αlerranovae

アルファベットはアミノ酸を示す. (丑∼③ではアミノ酸配列の共通部分を枠で囲んだ. ④∼⑥ではプロリンおよび疎水性アミノ酸の部分を 囲み構造の頬似を示した. (卦のroyalicinのみ外分泌性 (ローヤルゼリー中) *(D∼③はFijiwara ら(1990)を,④∼⑥は Casteelsら(1990)を引用 して作図 られ るようになった. それ以降,昆虫の生体防 御,特 に液性免疫 の研究 は目覚 ま しく進展 し, カイコなどの鱗廼 目, ニ クバェなどの双廼 Ej, ゴキブ リ目などの幾っかの昆虫で誘導 されたペ プチ ド系抗菌物質 の単離および構造決定が行わ れている. ミツバ チの液 性 免 疫 に関 す る研 究 ミツパテの幼虫および成虫 については,原因 となる病原菌 や寄生虫 が あ る程度判 明 してお り, また,処置法や化学療法 も研究 されている (Bailey and Ball,1991).病原菌や寄生虫に 対す る ミツバチの生体防御機構 についてはほと んど知見がなか ったが, ごく最近 になって ミツ バ チ に お いて も体 液 中 に細 菌 を接 種 す る と .apidaecin,abaecin などのペプチ ド系抗菌物

質が誘導 され ることが報告 された(Casteelset alリ1989,1990,1993).これ らの物質 は,グラ ム陰性菌 に強 い活性 を示すが, グラム陽性菌 に はあまり効かない. これ も最近 になって, これ に似た構造 の活性物質が外分泌物であるローヤ ルゼ リー中に発見 され (図2) (Fujiwara et a1.,1990). この物質 は royalisin と名ずけ ら

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れ, グラム陽性菌に強い活性を示す ことが調べ られた. このことは ミツパテがペプチ ド系抗菌 物質を外分泌 し利用 していることを意味する. 私達 は Casteels らが行 った研究に注目 し,徳 等の実験の一部を再試す ると共 に,十分に検討 されていない生物学的な意味を調べてみた. ミツパテの成虫の体腔内に大腸菌を接種す る と, 菌接種約15時間後に体液中に抗菌活性が 誘導 され,3日程強い活性が維持 されることが 分か った. また幼虫や桶で も,成虫 と比べると 弱いが抗菌活性が誘導 され ることが確認でき, これより細菌類に対 して弱 いとされていた幼虫 や桶のステージで も,生体防御機構が機能 して いることが判明 した.働 き蜂を使用 して加齢に 伴 う抗菌活性の変化を調べたところ, 出房1 -7日目が最 も活性が高 く, 以後次第に低下する ことが分か った. 自然状態で ミツバチの体腔内に細菌が直接侵 入す ることは少な く (万一,外部にひどい損傷 を負 ったり病気 にかか った個体 は, ミツバチの 場合 コロニーの外 に捨て られ る), また実験操 作中に菌接種以外の刺激が加わることも考え ら れたので,外部か らいろいろな刺激を与えて体 液中に抗菌活性が誘導 され るか否か調べてみた (図 3). 腹部 に傷を付けた り脚を切断 した個体 では,そこか ら菌の侵入がない限 り抗菌活性の 誘導が見 られなか った.バ ッファー液や墨汁を 注入 した場合 も抗菌活性 は見 られなか った. ミ ツバチを菌液に浸 し外部か ら感染させたところ 抗菌活性がみ られるときもあった.30% ショ糖 液 に十分量 の大腸菌 を混合 し経 口投与 した場 合,体液中に抗菌活性 は誘導 されなか った. CO2麻酔の影響 も見 られなか った. ミツバチの体液中に誘導 された抗菌活性物質 はグラム陽性菌である枯草菌 (Bacillus sub -tilis)に対 して抗菌作用が低 いことが確認で き た. これは Casteels らの結果 と同様で, この ことは, ミツバチが腐姐病 (Bacillus属)に対 して抵抗性が低いことと関連があるか もしれな い. 食料保存方法 117 ミツバチの巣内に保存 されている食料 には実 際多 くの微生物たとえば酵母菌,子の う菌など が存在 している (Gilliam,Ⅰ979;Gilliam and Prest,1987;山崎 ら,1975). しか し, ミツバ チは食料を長期的に保存す るためにいくつかの 手段を取 っている. (1) ミツバチは花か ら集 めてきた花蜜 (主成 分 は ショ糖)を下咽頭腺起源の a-グルコシダ ーゼにより低分子のブ ドウ糖 と果糖に分解する ことで高浸透圧の-チ蜜に し,脱水作用によっ て微生物の繁殖を抑えている. また, グルコン 酸などの各種の水溶性有機酸類を生成 し,蜜の 低 pH化を図 っている (越後 ・竹中,1974). これはバ クテ リアなどにとくに有効である. グ ルコン酸 はブ ドウ糖 にやはり下咽頭腺起源のグ ルコースオキ シダーゼを作用 させて作 られる. さらにグルコン酸が生成す るときの副産物 とし て一時的に生成 される過酸化水素 も強い抗菌活 性を示す (越後, 1973).花粉 も巣内に保存 さ れる時,ハチ蜜が混ぜ られ ることか ら,-チ蜜 と同様な抗菌作用を もっているといえる. (2)ローヤルゼ リー中に特異的かつ多量 に入 って い る10-ヒ ドロキ シデセ ン酸 は,Micro -coccusや E coliなどの細菌類に抗菌活性を 示す (Blum,1959). この脂肪酸 はまた, 低 pH 下で花粉の発育を抑制す ることも知 られて いる(Iwanamieta1.,1979).この特異な脂肪 酸 は働 き蜂の大顎腺で合成 され, ローヤルゼ リ ーの栄養素 と防腐剤 としての二重の作用を して いると考え られている(KinoshitaandShuel, 毒Tt菌液 がつ い た場 合 のみ 図3 外部刺激による抗菌活性物質の誘導効果 (十は 誘導,-は無関係.±は条件次第で誘導,を示す)

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ulS 1974).類似 した物質を,南米のハキ リア リの 仲間が種子の貯蔵のため使用 している. この物 質は3-ヒドロキシデカ ン酸で myrmicacinと 呼ばれ,胞子の発芽を抑制する(Shildkenecht andKoob,1971).これ ら二つの物質 はともに 炭素数10の脂肪酸で, 化学構造 も似てお り同 様な活性を示す.類縁化合物の発芽阻害力 も調 べ られてお り,炭素数8- 10の飽和直鎖脂肪酸 (Caprylic acid, Pelargonic acid, Capric acid

,

A-2-Decenoic acid)に強い活性が見 ら れる (Iizukaeta1.,1978).同 じ系列のカプロ ン酸 はローヤルゼ リーの刺激臭を構成す る-成 分で揮発性が高 く,蒸気の形で巣内の抗菌環境 の実現に役立 っている可能性がある. (3) ミツバチが集めて くる植物由来のプロポ リス (蜂やに) は巣箱内の穴や透 き間の修理, 巣板の補強,侵入者の死体の遺棄に使われる. また,巣面 にプ ロポ リスを塗 り付 けた りす-る (増田,1992).プロポ リスには強い抗菌活性が あり, グラム陽性および陰性菌,放線菌,真菌 頬など多 くの菌類に抗菌性 を示す ことが報告 さ れている (Ghisalberti,1979).その主成分は フラボノイ ド化合物である. この ことか ら,プ ロポ リスは巣内の抗菌性 に関係 していると考え られている.

まとめ

私達 は "超個体" ともいえる ミツバチのコロ ニーが,図 1のようにプ ロポ リスなどの外来の 活性物質の利用 に加えて, 自ら生合成 した抗菌 物質群を体内外 に作用 させて,多面的,総合的 に自らの体や長期保存食料 を微生物か ら守 って いると考えている. ミツバチの生体防御機構の解明は, ミツバチ 特有の病気の予防や治療 に役立てることができ る.また夢物語 として,巣内に外分泌 されてい るか もしれない抗菌活性物質を防腐剤 として役 立てることも考え られ, もしそうなれば ミツバ チ生産物が一つ増えることになる.真社会性昆 虫である ミツバチの生体防御機構の解明により 昆虫の進化の過程の研究 に, これまでと違 った 角度か ら光を当て られる可能性 もある. (〒194 町田市玉川学園 6-ト1 玉川大学) 主 な 引 用 文 献

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Antibacterialpeptide,whichstructurei shO-mologous to those induced in hemolymph (Casteels,1989),hasbeen reported from royal jelly as an exosecreted bee milk (Fujiwara.

1990).

I confined that antibacterialactivities i n-duced in thehemolymph oflarvaLpupaland adulthoneybees.Theactivitywasnotinduced by oraladministrat10n OfE.coltbutitwas occasionallyinducedbyexternalapplication.

Onthebasisoftheirevidence,Ihypothesized thatinsidethehoneybeecolony,whichisoften called"superorganism",ishomologoustoinside thebodyofusualsolitaryinsects.

Honeybeeseemstoevolveveryintegratedde -fensivestrategyexploitingbothexoge nousma-terialssuch as propolisand endogenouss ub-stanceslikeantibacterialpeptides.

Itriedtoreview theideawhichIhavejust startedtostudy.

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