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視点の指導効果ー第二言語習得における認知プロセスの〈気づき〉を重視する指導法を用いてー

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(1)視点の指導効果 ─第二言語習得における認知プロセスの〈気づき〉を重視する指導法を用いて─. LE Cam Nhung 視点の表し方において、日本語母語話者と日本語学習者との間に差があることは、多く の先行研究で明確にされている。この視点の表し方の相違は、日本語と学習者の母語では 事態把握の仕方が大きく異なっているからだと思われる。本研究では、日本語母語話者と ベトナム人日本語学習者の視点の表し方の相違を気づかせることで、学習者の視点の表し 方が母語話者に近づいていくかどうかを検討するために、気づき重視の指導の実験を行っ た。その結果、視点の表し方において気づき重視の指導法の効果があることがわかった。 ただ、気づきだけでは不十分であり、気づかせた後に説明を加えるとより効果があること も明らかになった。 【キーワード】. 視点. 指導法. 第二言語習得. 気づき. 1.はじめに 視点とは、話者が出来事を描写する場所のことを言い、この視点の一貫性は日本語の特 徴であると言われている(久野 1978、池上 1983)。しかし、視点を一貫させるのは、中上 級外国人日本語学習者でさえ難しく、この視点の表し方に問題が生じている。外国人学習 者は、日本語を習得するために語彙・文法のような言語形式のみを一生懸命学ぶ。それだ けでは日本語の特徴でもある、視点の一貫性は身につかない。学習段階で日本語母語話者 の事態把握の仕方に関わる視点についてもっと意識させることが必要ではないだろうか。 学習者にどのように意識させれば、視点の表し方が日本語母語話者に近づくかという効果 的な指導方法は、まだ研究されていない。そこで本研究では、第二言語習得への認知的ア プローチに基づきながら、学習者の認知プロセスを促すための「気づき重視」の指導法を ベトナム人日本語学習者に試みることにした。指導項目として、①視座1の表し方、②注視 点2の表し方、③視点表現3の用い方の 3 点を中心に取り上げた。実際に指導を受けた学習 者と受けない学習者及び日本語母語話者の視点の表し方を比較することにより、 「気づき重 視」の指導の効果を考察していきたい。. 2.先行研究 2.1 1 2 3. 日本語母語話者と日本語学習者の事態把握及び視点の表し方. 視座:話者が物事を見る場所(話者の立場) 注視点:話者が見る対象 視点表現:視座を判定するための言語形式(受身表現、授受表現等). 37. - 37 -.

(2) 視点の表し方は、事態把握の仕方を反映するものである。従来の認知言語学研究では、 事態把握は、〈主観的把握〉と〈客観的把握〉の二つのタイプに分かれている。〈主観的把 握〉は、言語主体〈話者〉が事態の中に入ってその中から事態を把握し、 〈客観的把握〉は、 言語主体〈話者〉が事態の外から自らが参与者とはなっていない事態を把握する (Langacker1985,1990;池上 2006) 。 日本語教育の実証的研究では、談話における物語描写において、日本語母語話者は視点 を一貫させる傾向が強いのに対し、中国語・韓国語・ベトナム語などの外国人学習者の産 出日本語には視点の一貫性が見られないなど、母語話者と学習者との間に視点の表し方の 相違があると報告している(田代 1995、金 2001、武村 2010、レ 2012 など)。視点の表し 方の相違を更に事態把握の仕方に結びつけて論じているのが奥川(2007)、Le(2014)などで ある。奥川(2007)は、談話展開において、事態の中に臨場し、主人公の立場から物事を 捉えて表現する日本語話者の視点の表し方は、主観的把握の表れであり、主人公と自らの 身を分離し、その姿を外から離れて見る客観的把握をする日本語学習者とは異なると述べ ている。 レ(2012)は、ベトナム人日本語学習者を対象に視座と注視点について調べた結果、ベ トナム人学習者はレベルに関係なく日本語母語話者より視座の一貫性が弱く、特に新登場 人物を導入する際に、日本語話者が物語の主人公に視座を固定させる傾向が強いのに対し、 ベトナム人学習者が新登場人物に移動させる傾向が強いという視点の相違を明らかにして いる。注視点については、日本語母語話者も学習者も移動させる傾向があると示している。 また Le (2014)は、ベトナム語で視点がどう表されているかを探るために、日本語の小説 とそのベトナム語訳版を比較した。その結果、ベトナム語は日本語とは異なり、視点(視 座と注視点)の一貫性が弱く、主観的把握をするのではないと述べている。 先行研究の結果から、日本語母語話者と日本語学習者の視点の表し方の相違は事態把握 の仕方の相違に起因し、主観的把握をする話者は視座を一貫させる傾向があるのに対し、 客観的把握をする話者は視座を移動させる傾向があると考えられる。 2.2. 視点の指導法. 魏(2010a,b)は、視点の問題を学習者に意識させると、学習者の視点の表し方(視座 と視点表現の用い方)が日本語母語話者に近づいていくことを報告している。しかし、魏 (2010a,b)における「意識させる方法」とは、単に「登場人物になったつもりで書く」、 つまり、書き手に「一人称で物語を語るように」と指示するだけで、視点ということを理 解させてから応用させるものではない。 また渡辺(2012)は、授受表現など視点を表す表現を説明する際に、「主人公の視点で 書くように」と指示を出し、学習者と日本語母語話者に文章を書かせている。その結果、 学習者の視点表現の用い方、特に授受表現の用い方及び主語(注視点)の表し方が、日本 語母語話者の文章に似ていたことから、指導の効果があったと述べている。 魏も渡辺も、 「登場人物の視点で書くように」と指示を出し、学習者に意識はさせてはい るが、これは両者ともその場面でのみ一時的に意識をさせるような指導である。この意識 が長期的に効果があるのかについてはまだ明確にされていない。 38. - 38 -.

(3) 2.3. 第二言語習得における「認知プロセス」と「気づき」. 第二言語習得における「気づき」の研究の多くは Schmidt が提唱する「気づき仮説」 ( Noticing Hypothesis ) に 基 づ い て 書 か れ て い る 。 Schmidt (1990) は 「 意 識 」 (consciousness)の問題を取り上げ、第二言語習得における意識の役割について「〈意識 的なプロセス〉は言語学習のある過程において必要な条件であり、他の学習面においても 促進効果がある」 と論じている。 Schmidt は、 「意識」の意味を①気づきとしての意識、 ②意思としての意識、③知識としての意識の 3 つに分けている。言語教育で使われている 「気づき」は、①の「気づきとしての意識」 (consciousness as awareness)である。さら に、Schmidt はインプットの一部に学習者の注意が向けられた場合、そのインプットは「気 づかれたインプット」(noticed input)になると述べている。 認知的第二言語習得研究では、インプットの気づき、理解、内在化、統合などの認知プ ロセスが連続することにより、アウトプットが可能になるという情報処理型モデルが主に 使われている(村野井 2006) 。第二言語習得の最初のプロセスが、学習者が自分の耳や目 を通して入ってくる言語項目に気づくことである(Schmidt 1990)。だが「気づき」につい て村野井(2006)は、次のようなことを述べている。 「まったく理解できないインプットを大 量に聞いたとしても気づきは起こらない。インプット全体の意味はだいたい分かるが、分 からないことも少しある。そのようなインプットが言語習得を促進する気づきを引き起こ すと言えよう」。そこで本研究では、ある程度日本語を学習した中上級学習者を対象に実験 を行った。. 3.研究目的と研究課題 日本語を学習する上で、視点の表し方について問題が生じているベトナム人学習者のよ うな外国人日本語学習者に対してどのように指導を行えば日本語母語話者に近づいていく かという指導法を探るのは必要であろう。本研究では、視点の表し方の指導法として「気 づき重視」の指導を取り入れ、その効果を探ることにした。気づき重視の指導法の効果を 探るためには、 「気づき有り」と「気づき無し」の違いだけでなく、指導者が新しい内容を 学習者に指導する際に一般的に行う「説明」との違いも明確にする必要があると考え、 「気 づき」と「説明」の効果に関する実験を行うことにした。実験の結果を基に次の 2 点を明 らかにしたい。 (1)「気づき有り」と「気づき無し」の実験群に見られる効果の違い (2)「気づき有無」の実験群と「説明有無」の実験群の効果の関係. 4.調査の概要 4.1. 対象者. 本研究は、日本語母語話者(22 名) 、中上級ベトナム人日本語学習者4(123 名)を対象 に調査を行った。母語話者は日本国内の大学に在学する学生、学習者はベトナム国内の大 学に在学し、来日歴のない日本語を専攻する 3 年生である。指導を受けない統制群と、指 4. 中級を終了し日本語能力試験 N2 合格を目指して学んでいる学生。文法の授業で『テーマ別 語』改訂版(Kenkyusha)を主教科書として使っている。. 39. - 39 -. 上級で学ぶ日本.

(4) 導を受けた実験群の二つに分け、データを取った。実験群は、指導の方法により実験群1 (気づきのみ)、実験群 2(説明のみ)、実験群 3(気づきと説明の結合)の 3 つのグルー プに分けた。全調査対象者の内訳は、表 1 の通りである。 表1 対象者群 実験群(学習者) 実験群 1. 気づきのみ. 実験群 2 実験群 3. 調査対象者の内訳と実験の所要時間 所要時間. 人数. 気づき. 25 名. ○. 説明のみ. 26 名. ×. 結合. 28 名. ○. 統制群(学習者). 44 名. ×. 日本語母語話者. 22 名. ×. 4.2. 30 分 30 分. 説明 ×. アウトプット ○. 30 分. ○. 20 分. ○. 30 分. ○. 20 分. ○. 30 分. ×. ○. 30 分. ×. ○. 30 分. 調査資料. 今回の指導実験では、気づかせるための資料(資料①)、説明のための資料(資料②) 、 アウトプットのための資料(資料③)の3種類の資料を用いた。 資料①には、同じ漫画を見て書いた日本語母語話者の文章(A)とベトナム人日本語学 習者の文章(B)が載せてあり、この二つの文章を比較する質問が書かれている。 資料②には、日本語の視点の問題の特徴についての説明と、それに関係する例文が取り 上げられている。 資料③には、漫画とそれを描写するための指示文が書かれている。 4.3. 指導の手順. 「気づきのみ」のグループに対しては、まず資料①を配布し、5分間読んでもらい、そ の後学習者一人ずつに気づいたことを書いてもらった。次に5人ずつのグループを作り、 再度資料①を 1 グループに1枚配布し、グループディスカッションを行い、そこで気づい たことを記入してもらった。その次に、ディスカッションで気づいたことを発表し合い、 さらにディスカッションで気づいたことの他に、何か気づきはないか、指導者(調査者本 人)が質問し、確認した。全ての活動が終わった後、資料③を配布し、アウトプットをさ せた。 「説明のみ」のグループに対しては、資料②を配布し、指導者が日本語の視点の概念を 説明し、例文を学生と一緒に分析した。その後、資料③を配布し、アウトプットをさせた。 「結合」のグループに対しては、「気づきのみ」のグループと同じことを実施した後、 説明を行った。それが終わった後に、資料③を配布し、アウトプットをさせた。 4.4. 分析の枠組み. 学習者のアウトプットした文章は、レ(2012)と Le (2014)に従って視座、注視点、視点表 現の分析を行った。具体的には、視座(話者の見る立場)は、視点表現により判定した。 40. - 40 -.

(5) また視座は、固定視座、移動視座、中立視座5の 3 つのタイプに分け、分析した。視座判定 のための視点表現は、受身表現、授受表現、使役表現、移動表現、主観表現、感情表現の 6 つを分析の対象とした。以下は視座判定の例である。 1. a). 例. 二人が喧嘩したとき先生が来た。 ゲーム機を修理してくれました。 (視座が「二人」に固定されているため「固定視座」とする). b) 先生が二人のところに来た。ゲーム機を直してあげた。 (視座が「二人」から「先生」に移動しているため「移動視座」とする) c) 先生が二人のところに行った。そして、ゲーム機を直した。 (視座が「先生」と「二人」のどちらかはっきりと判定できないため「中立視座」 とする) 注視点は、主語により判定し、「一貫性」と「明示・非明示の傾向」の二つの側面で検 討した。また、注視点を固定するパターン(主語が二つ以上の単文に固定する場合や複文 で主語が固定している場合)が多い文章は「固定の傾向」とし、それ以外を「移動の傾向」 として分析した。注視点が全文・全節に明示されている場合は「明示の傾向」とし、文に 一回も明示されていない場合と複文に一回のみ明示されている場合は「非明示の傾向」と して分析した。以下は注視点判定の例である。 例. 2. a) その時、メガネをかけているおじさんは来て、AさんにBさんの頭を打った 理由を聞いて、携帯電話を修理することにした。 (注視点:おじさん→(おじさん)→(おじさん)6 注視点は複文に一回のみ明示されているため、「非明示の傾向」とする) b) そのとき、おじさんは来た。おじさんは A さんに B さんの頭を打った理由を 聞いた。それから、おじさんはゲーム機を修理することにした。 (注視点:おじさん→おじさん→おじさん 注視点はすべての文に明示されているため、「明示の傾向」とする). 5.分析の結果 5.1. 視座の表し方. 視座の表し方の結果を表 2 にまとめた。表 2 でわかるように、「気づきのみ」では、固 定視座の割合が低く、移動視座の割合が高い、中立視座も多いことが見られた。これは、 指導を受けていない「統制群」と同様な傾向、母語話者とは反対の傾向にある。つまり、 「気づき」だけの指導を受けてもあまり効果がないことがわかる。 「説明のみ」では、 「固定視座」の割合が高く、 「移動視座」の割合が低い、中立視座は 1 5. 6. レ(2012)によると 固定視座は、描写文章の最初から最後まで視座を一人の登場人物に固定することをいう。 移動視座は、視座が二人以上の人物に移動することをいう。中立視座は視点表現が使われず視座の判定ができ ないことをいう。 ( )は、非明示の注視点である。. 41. - 41 -.

(6) 例だけであった。これは、指導を受けていない「統制群」と反対の傾向、母語話者とは同 様な傾向にある。つまり、「説明」だけでも効果があることがわかる。 「結合」では、 「固定視座」の割合が高く、 「移動視座」の割合が低いという結果が見られ た。中立視座は 0%であった。これは、指導を受けていない「統制群」と反対の傾向、母 語話者とは同様な傾向にある。つまり、指導の効果があることがわかる。 以上の結果から、視座については「気づき」よりも説明のほうが効果があると言えそう だ。 表2. 視座の表し方の比較. 固定視座. 移動視座. 中立視座. Total. 実験群 1(気づきのみ). 7 (28.0). 14 (56.0). 4 (16.0). 25 (100). 実験群 2(説明のみ). 21 (80.8). 4 (15.4). 1 (3.8). 26 (100). 実験群 3(結合). 21 (75.0). 7 (25.0). 0 (0.0). 28 (100). 統制群. 14(31.8). 26 (59.1). 4(9.1). 44 (100). 日本語母語話者. 19 (84.6). 3 (13.6). 0 (0.0). 22 (100). 対象者群. ( 5.2. )は%. 注視点の表し方. 注視点の表し方を分析するために、まず対象者が単文で物語を語るか複文で語るかによ って文章を 3 つのタイプに分けた。その結果を表 3 に示した。全体の文章を見ると、「気 づきのみ」と「結合」は、単文より複文で物語を語る場合が多い。多くの場合は、物語の 一つ或いは二つの場面を複文で語るという点で母語話者と同様な傾向が見られた。 表3. 物語を語る文章のタイプ S. S+F. F. Total. 2 (8.0). 5 (20.0). 18 (72.0). 25 (100). 実験群 2(説明のみ). 12 (46.2). 5 (19.2). 9 (34.6). 26 (100). 実験群 3(結合). 3 (10.7). 2 (7.1). 23 (82.2). 28 (100). 統制群. 25 (56.8). 11 (25.0). 8 (18.2). 44 (100). 2 (9.1). 1 (4.5). 19 (86.4). 22 (100). 対象者群 実験群1(気づきのみ). 日本語母語話者. S:殆ど単文で語る文章 S+F:単文と複文で語る文章 F:殆ど複文で語る文章 ( )は%. 注視点の一貫性の結果を表 4 にまとめた。全対象者において注視点は移動することがわ かった。さらに、「移動注視点」の中を〈固定の傾向〉(固定パターンが多い文章)と〈移 動の傾向〉(固定パターンが少ない/ない文章)に分けて比較すると、表 4 に示したよう に、 「気づきのみ」と「結合」は、「説明のみ」より固定傾向の文章が多いという母語話者 と同様な傾向が見られた。. 42. - 42 -.

(7) 表4 対象者群. 注視点の一貫性の比較. 文章全体の注視点が移動. 文章全体の注 視点が固定. Total. 移動の傾向. 固定の傾向. 実験群 1(気づきのみ). 9 (36.0). 16 (64.0). 0 (0.0). 25 (100). 実験群 2(説明のみ). 20 (76.9). 6 (23.1). 0 (0.0). 26 (100). 実験群 3(結合). 3 (10.7). 25 (89.3). 0 (0.0). 28 (100). 統制群. 35 (79.5). 9 (20.5). 0 (0.0). 44 (100). 0 (0.0). 22 (100). 0 (0.0). 日本語母語話者. 22 (100) (. )は%. 注視点の固定・移動傾向の例は、表 5 と表 6 の通りである。 表 5〈移動の傾向〉の例 実験群 2-9 A さんはサッカーをしている間、Bさんはゲームをしています。その時、AさんはB さんにボールをけり込んでしまいました。Bさんはゲーム機をこわされたからBさんは とても驚いて、怒っていました。Bさんはどうするんだよと言っていました。Bさんは Aさんを殴打しました。それから、おじさんが来た。おじさんはゲームを直してあげた。 2 人はとても楽しかったです。BさんはAさんに「すみません」と言っていました。… 〈中略〉 →殆ど単文で物語を語る。主語をよく変える。全文に主語を明示する。 表 6〈固定の傾向〉の例 実験群 1-8 校庭に、Aさんはゲームをした。突然、ゲーム機にボールを飛び出された。とても怒 って、Bさんに弁償させた。そして、Bさんの頭を叩いた。その時、先生が来て、Aさ んのゲーム機を修理した。…〈中略〉 →複文で物語を語る。主語が変わらない限り一回のみ明示する。). 次の表 7 は、注視点の明示・非明示の結果を示している。 「移動の傾向」については、 実験群と統制群共に注視点の明示が見られた。特に「説明のみ」と「統制群」はその割合 が高かった(それぞれ 76.9%と 79.5%) 。また、 「固定の傾向」については、 「気づきのみ」 と「結合」で「一回のみ明示」の割合が高く母語話者に近い傾向があることがわかった。 これらの結果から、学習者に気づかせると、注視点の表し方が母語話者に近づいていく ことがわかった。つまり、注視点の表し方においては、説明より気づきのほうが効果があ ると考えられる。. 43. - 43 -.

(8) 表7. 注視点の明示・非明示の比較. 移動の傾向. 対象者群. 明示. 全文・全節に明示. 一回のみ明示. Total. 9 (36.0). 0 (0.0). 1 (4.0). 15 (60.0). 25 (100). 0 (0.0). 2 (7.7). 4 (16.4). 26 (100). 3 (10.7). 0 (0.0). 2 (7.2). 23 (82.1). 28 (100). 35 (79.5). 0 (0.0). 7 (15.9). 2 (4.6). 44 (100). 0 (0.0). 0 (0.0). 0 (0.0). 22 (100). 22 (100). 実験群 3(結合) 統制群. 非明示. 20 (76.9). 実験群1(気づきのみ) 実験群 2(説明のみ). 固定の傾向. 日本語母語話者. ( )は% 5.3. 視点表現の用い方 表8. 視点表現の用い方の比較. 対象者群 実験群 1(気づきのみ) N=25. 受身 15 (13.8). 授受 32 (29.4). 使役 1 (0.9). 移動 14 (12.8). 主観 26 (23.8). 感情 21 (19.3). Total 109 (100). 実験群 2 (説明のみ) N=26. 16 (12.3). 19 (14.6). 2 (1.5). 23 (17.7). 24 (18.5). 46 (35.4). 130 (100). 実験群 3 (結合) N=28 統制群 N=44. 36 (29.5) 10 (7.0). 28 (23.0) 19 (13.3). 2 (1.6) 13 (9.0). 13 (10.7) 22 (15.4). 13 (10.7) 10 (7.0). 30 (24.5) 69 (48.3). 122 (100) 143 (100). 日本語母語話者. 9 (12.9). 33 (47.1). 0 (0.0). 10 (14.3). 5 (7.1). 13 (18.6). 70 (100). N=22. ( )は%. 図1. 対象者群別の視点表現の用い方の比較. 44. - 44 -.

(9) 視点表現の結果を表 8 と図 1 にまとめた。「気づきのみ」の場合は、感情表現が少なく 授受表現と受身表現が多いという統制群と反対の傾向、母語話者に近い傾向が見られた。 この結果から、 「気づきのみ」の指導は、学習者の授受表現、受身表現、感情表現の用い方 に効果があると考えられる。 「説明のみ」の場合は、感情表現が最も多く、授受表現が少ない点は、統制群と同様な 傾向、母語話者とは反対の傾向が見られた。一方、受身表現は、日本語母語話者と似た傾 向が見られた。この結果から、 「説明のみ」の指導は、授受表現、感情表現の用い方にあま り効果がないことがわかる。 「結合」の場合は、授受表現と感情表現の使用がほぼ日本語母語話者に近い傾向が見ら れた。 これらの結果から、視点表現において説明だけの指導では効果がないが、日本語母語話 者と学習者の視点の表し方の違いを気づかせると、効果があることがわかった。このこと から、視点表現の使用において、説明よりも気づきの方が指導の効果があるのではないか と考えられる。 ただし、今回の実験で実験群に主観表現と受身表現が多く見られ、指導を受けない統制 群のほうが日本語母語話者に近い傾向が見られた。特に受身表現は、実験群 3(結合)に 最も多く見られた。この主観表現や受身表現の過剰使用傾向の原因については、今後検討 していきたいと思う。 5.4. 結果のまとめ. 上記の結果より以下のことが明らかになった。 〈気づき有り〉と〈気づき無し〉の実験群に見られる効果の違い」について 課題1の「 は、 「気づき」があると視点表現の用い方と注視点の表し方に効果があるが、視座の表し 方には効果がない。 〈気づき有無〉の実験群と〈説明有無〉の実験群の効果の関係」については、 課題 2 の「 「説明」があると視座の表し方には効果があるが、説明があっても気づきがないと、視 点表現の用い方と注視点の表し方に効果がない。 視点の指導効果結果を表 9 にまとめた。 表9. 視点の指導効果のまとめ. 実験群. 視座の表し方. 実験群 1(気づきのみ). △. 注視点の表し方 ○. ○. 実験群 2(説明のみ). ○. △. △. 実験群 3(結合). ○. ○. ○. ○効果有り. 視点表現の用い方. △あまり効果なし. 6.考察 学習者は、視点表現の用い方の違いや注視点の一貫性、明示・非明示の傾向といった視 覚的に把握できるものは、気づくことができた。具体的には、受身・移動などの表現が、 日本語母語話者の文章に多いということ、学習者の文章には主語がすべての文章に明示さ 45. - 45 -.

(10) れているのに対し、母語話者の文章には主語が変わらない限り主語が一回しか明示されて いないといったことなどである。しかし、話者がどこから物語を見て描写しているかとい う視覚的に把握が難しい視座の表し方については、気づくことはできなかった。 図 2 に示しているように、学習者が気づいたこと(視点表現の用い方、注視点の一貫性 や明示・非明示等)は、アウトプットにも反映された。このことから、学習者の気づきは、 アウトプットに影響を与えると考えられる。気づくことができない「視座」については、 説明を加えるとアウトプットが可能になるということが本実験の結果から明らかになった。 視点の指導においては、気づかせることと同時に説明を行うのが必要であると言えよう。. 図2. 視点の表し方における気づきとアウトプットとの関係. 7.まとめ 本研究は、中上級ベトナム人日本語学習者を対象に「気づき重視」の指導法の実験を行 った。その結果、視点の表し方における「気づき重視」の指導法は、効果があるというこ とがわかった。ただ、「気づき」だけでは効果が不十分であり、「気づき」と「説明」の両 方を行うことで、より効果があることが明らかになった。この結果から、視点の指導にあ たっては、気づきと説明の両方をうまく取り入れていくことが大切ではないかと思う。今 後は、この指導法が長期的に効果があるかどうかを明らかにしていきたい。. 46. - 46 -.

(11) 資料 資料① 資料①. 資料② 資料②. 2014 年 3 月. 日本語の「視点」の表し方. グループ:____________________名前:. ________________________. 日本人の文章とベトナム人の文章の違いの一つに、視点の問. 以下の 2 つの文章を読んでください。 A. 題がある。日本人は、物語描写の文章を書くときに、視点を一. B. 貫する傾向がある。この視点は、〈視座〉と〈注視点〉(主語). 太郎は、学校から家に帰ってきた。冷. 太郎は、学校から家に帰った。太郎は. 蔵庫を開けて、アイスを探したが、なか. 冷蔵庫を開けて、アイスを探したが、ア. を意味している。〈視座〉とは、書き手(話者)はだれの立場. った。おもちゃで遊んでいる妹に食べら. イスがなかった。太郎はおもちゃで遊ん. から描いているか、のことである。注視点とは、書き手(話者). れたと思って、妹を怒った。お母さんが. でいる妹が食べたと思って、妹を怒っ. は何(誰)を描いているのか、のことである。書き手の視座は、. 買い物から帰ってきて、子供たちが喧嘩. た。その時、お母さんは家に帰った。お. 授受表現、主観表現、移動表現、感情表現などの用い方でわか. しているのを見た。理由を聞いたお母さ. 母さんは子供たちが喧嘩しているのを. る。注視点は主語の用い方でわかる。. んは「私が食べたのよ」と言って、買っ. 見て、理由を聞いた。お母さんは「お母. 以下は、ベトナム人と日本人の文章の違いの具体例である。. てきたばかりのアイスをあげた。太郎. さんが食べたよ」と言った。それから、. ★VN:花子は学校帰りにお財布を拾った。花子は財布を交. は、妹に謝って、本を読んであげること. お母さんは買ったばかりのアイスを 2. にした。. 人にあげた。太郎は、妹に「ごめんなさ い」と言って、妹に本を読んだ。. ほ. 番に届けて、お巡りさんは花子を褒めた。 ★JP:花子は学校帰りにお財布を拾った。(花子は)お財 布を交番に届けた。 (花子は)お巡りさんに褒められた。 分析:視座の一貫性と主語の明示・非明示との関係. 1.. A と B のどちらが良い文章だと思いますか。その理由も書いてください。. VN の文章:. …….がいいと思います。その理由は、. 視座:花子→花子→お巡りさん. …………………………………………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………………….. 2.. A と B の文章の違いは何ですか。以下に書いてください。. 主語:花子→【花子→お巡りさん】 JP の文章: 視座:花子→花子→花子. …………………………………………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………………………………………………………. 主語:花子→(花子)→(花子). ……………………………………………………………………………………………………………………………. →花子は学校帰りにお財布を拾ったので、交番に届けた。お巡. ……………………………………………………………………………………………………………………………. りさんに褒められた。. 資料③. 資料③. 11. 47. - 47 -.

(12) 参考文献 池上嘉彦(1983) 「テクストとテクストの構造」国立国語研究所『談話の研究と教育 I』大 蔵省印刷局. 池上嘉彦(2006) 「〈主観的把握〉とは何か-日本語話者における〈好まれる言い回し〉」 『言 語』35、20-27、大修館書店. 奥川育子(2007)「語りの談話における視点と実態把握」『筑波応用言語学研究』14 号、 31-43. 金慶珠(2001)「談話構成における母語話者と学習者の視点-日韓両言語における主語と 動詞 の用い方を中心に-」 『日本語教育』109 号、60-90. 魏志珍(2010a) 「事態描写における台湾人日本語学習者と日本語母語話者の視点の比較- 視座の置き方に注目して-」名古屋大学大学院国際言語文化研究科『言葉と文化』 11 号、255-270. 魏志珍(2010b) 「台湾人日本語学習者の事態描写における視点の表し方-日本語の熟達度 との関連性-」『日本語教育』144 号、133-144. 久野暲(1978) 『談話の文法』大修館書店. 武村美和(2010)「日本語母語話者と中国人日本語学習者の談話に見られる視座-パーソ ナル・ナラティヴと漫画描写の比較-」『広島大学大学院教育研究科紀要』第ニ 部. 第 59 号、289-298.. 田代ひとみ(1995)「中上級日本語学習者の文章表現の問題点-不自然さ・わかりにくさ の原因をさぐる-」『日本語教育』85 号、25-37. 村野井仁 (2006)『第二言語習得研究から見る効果的な英語学習法・指導法』大修館書店. レ. カム. ニュン(2012)『ベトナム人日本語学習者の文章に見られる視点の表し方-日 本語母語話者との比較-』昭和女子大学修士論文.. 渡辺文生 (2012)「日本語の語りの文章における視点の表現とその指導について」『山形大 学大学院社会文化システム研究科紀要』9、 51-58. Le, Nhung C.(2014) 「ベトナム語と日本語の〈事態把握〉-小説からの考察-」 『昭和女 子大学大学院言語教育・コミュニケーション研究』第 9 集、65-76. Schmidt, R. (1990) “The role of consciousness in second language learning”, Applied. Linguistics 11, 129-158.. Langacker,Ronald W. (1985) “Observation and Speculations on subjectivity “ In J.Haiman(Ed), Iconicity in Syntax. Amsterdam: John Benjamins, 190-150.. Langacker, Ronald W. (1990)“Subjectification”, Cognitive Linguistics 1, 5-38.. 48. - 48 -.

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表 4  注視点の一貫性の比較  対象者群 文章全体の注視点が移動 文章全体の注 視点が固定 Total  移動の傾向 固定の傾向 実験群 1 (気づきのみ) 9 (36.0)  16 (64.0)  0 (0.0)  25 (100)  実験群 2 (説明のみ) 20 (76.9)  6 (23.1)  0 (0.0)  26 (100)  実験群 3 (結合) 3 (10.7)  25 (89.3)  0 (0.0)  28 (100)  統制群 35 (79.5)  9 (20.5)  0 (0.0)
表 7  注視点の明示・非明示の比較  対象者群 移動の傾向 固定の傾向 Total  明示  非明示  全文・全節に明示 一回のみ明示  実験群1(気づきのみ) 9 (36.0)  0 (0.0)  1 (4.0)  15 (60.0)  25 (100)  実験群 2(説明のみ)  20 (76.9)  0 (0.0)  2 (7.7)  4 (16.4)  26 (100)  実験群 3(結合)  3 (10.7)  0 (0.0)  2 (7.2)  23 (82.1)  28 (100)  統制群

参照

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