山梨大学教育学部紀要 第 31 号 2020 年度抜刷
糸魚川―静岡構造線活断層系沿いで発生する地震の特性
Characteristics of earthquakes generated along the Itoigawa-Shizuoka Tectonic Line
Active Fault System
福 地 龍 郎 FUKUCHI Tatsuro
糸魚川―静岡構造線活断層系沿いで発生する地震の特性
Characteristics of earthquakes generated along the Itoigawa-Shizuoka Tectonic Line
Active Fault System
福 地 龍 郎* FUKUCHI Tatsuro キーワード:日本アルプス,糸魚川-静岡構造線活断層系,地震空白域,2011 年東北地 方太平洋沖地震,牛伏寺断層,地震メカニズム解 要旨:日本で最も活動的な変動地帯である日本アルプスの縁に位置している糸魚川-静 岡構造線(糸静線)活断層系沿いで発生している地震の詳細な震源分布図(平面図及び 断面図)を作成し,2011 年東北地方太平洋沖地震(M9.0)後の地震活動性を評価した。 その結果,諏訪湖の北西方地域の糸静線活断層系沿いにおける地震活動は現在でも活発 であり,2つの地震空白域が依然として存在することが判明した。また,糸静線活断層 系沿いで発生する地震から求められる発震機構(メカニズム解)は,西北西-東南東方 向の圧縮軸を持つ横ずれ断層型の地震が諏訪湖周辺で起こっていることを示しており, 糸静線活断層系の中で最も活動的な牛伏寺断層が活動した場合,牛伏寺断層と同じく, 西北西-東南東方向~東西方向の圧縮軸を持つ横ずれ断層である釜無山断層群が連動し て活動する可能性が高いことが判明した。一方,2020 年4月以来,長野・岐阜県境付近 で発生している一連の地震活動については,2020 年8月末現在,糸線活断層系沿いの地 震活動には全く変化が見られないことから,これら一連の地震活動が糸静線活断層系に 与える影響はほとんどないと考えられる。 Ⅰ.はじめに 2011 年3月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震(M9.0)から9年が経過したが,牡鹿半島では, 最近1年間(2019 年2月~2020 年2月)でも最大約5cm の隆起が続いている(国土地理院,2020)。 一方,北アルプス,中央アルプス,南アルプスの3アルプス(日本アルプス)がそびえ立つ中部山岳 地帯では,2011 年の地震発生直後には北アルプスは沈降を,中央アルプスと南アルプスは顕著な隆起 を示していたが,最近1年間では3アルプスとも沈降を示している(国土地理院,2020)。2011 年の 地震発生前から中部山岳地帯は極めて活動的な変動地帯であり,国土地理院による過去 100 年間にお ける水準測量の観測結果では,南アルプスで最大隆起量が年に約4mmに達し,中央アルプスでは年 約1~2mmの隆起量を示していた(壇原,1971;国見・他,2001;鷺谷・井上,2003;国土地理院, 2020)。また,GNSS連続観測の結果では,北アルプスで地震発生前に年約5mmの隆起量を示してい たことが判明している(西村・他,2013)。中部山岳地帯における最近1年間の沈降傾向はいつまで 継続するのか,またこの地帯で発生する地震活動にどのような影響を及ぼすのか,今後も注意深く監 視して行く必要がある。 3アルプス(日本アルプス)の縁辺には,2014 年長野県北部地震(M6.7)を発生させた神城断層の 他,松本盆地東縁断層群,牛伏寺断層,諏訪断層群,諏訪湖南岸断層群,釜無山断層群,白州断層, * 山梨大学大学院総合研究部教育学域
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 図1 日本アルプス及び周辺地域に分布する活断層及び活火山(福地(2020)山梨大学教育学部紀要No.30 図1 を一部加筆修正)赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。赤色 の三角(▲)は活火山を示す。活火山ではない穂高岳は,活火山以外の第四紀火山として白色の三角(△) で示す。活断層データは中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,
ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャパン社製)を使用して分布図を作成した。主な第四紀火山は,産業技術総 合研究所発行(2013)『日本の火山(第3版)』を参照した。
下円井断層,市之瀬断層群などの糸魚川-静岡構造線(糸静線)活断層系が位置している(図1)。 特に糸静線活断層系の中央部に位置する牛伏寺断層は,2011 年東北地方太平洋沖地震の発生後に地 震発生確率が高くなっていることが指摘されている(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2015)。 牛伏寺断層とその延長部が連動した場合,発生する地震の規模はM7.7~8.1 に達すると見積もられて おり,甲府盆地でも甚大な被害が発生することが予想される。 山梨県内で将来発生することがほぼ確実である巨大地震の前兆現象を捉えるために,山梨大学大学 院総合研究部教育学域地学分野福地研究室では,2013 年度から山梨県内の南アルプス周辺に分布する 活断層の現地調査を開始し,活断層分布と地震活動の関連性についての検討を継続して行っている。 これまでの検討の結果,諏訪湖以南では震源分布は糸静線活断層系とは一致せず,北北西―南南東方 向の牛伏寺断層の走向線の延長部にある南アルプス内で地震が発生しており,南アルプス内には未知 の活断層が存在する可能性があること,諏訪湖以北の糸静線活断層系上には少なくとも3つの地震空 白域が存在すること,甲府盆地は巨大な地震空白域であることが判明した(福地・他,2016;福地, 2017;福地・早川,2018ab;福地,2020)。これらの結果を踏まえ,今回,糸静線活断層系沿いで発 生している地震の特性について詳細な検討を行った。また,長野・岐阜県境付近において,2020 年4 月から継続している一連の地震活動が糸静線活断層系沿いで発生している地震活動に与える影響につ いても検討を行った。なお,本研究で用いた震源データは,防災科学技術研究所によって公開されて いる気象庁一元化処理震源リストを使用した。また,地震のメカニズム解については,気象庁地震月 報で公表されている初動発震機構解データを石川・中村(1997)及び中村・石川(2005)による解析 ソフト(SEIS-PC for Windows)を使用して表示した。
Ⅱ.震源分布図及び断面図 2011 年3月 11 日東北地方太平洋沖地震(M9.0)発生前後8年6カ月間に,日本アルプス及び周辺 地域で発生した全てのマグニチュードの地震の震源分布図を図2及び3に示す。2014 年長野県北部地 震(M6.7)を引き起こした神城断層沿いと,神城断層の南方延長部に位置する松本盆地東縁断層群の 一部区間と牛伏寺断層沿いで,2011 年の地震発生後に地震発生の規模と回数が増大しているのは以前 の報告(福地・早川,2018a)の通りである。2011 年の地震発生前後の震源分布図とも観測期間が以 前の報告より2年間長くなっているが,地震発生前の震源分布には特に違いは認められない(図2)。 これに対して,地震発生後の震源分布では,糸静線活断層系沿いで認められた3つの地震空白域(福 地・早川,2018b)の内,松本盆地東縁断層群沿いの地震空白域B では 2017 年9月~2019 年9月の間 にマグニチュード2以上の地震が幾つか発生している。松本盆地東縁断層群沿いの地震空白域Aと牛 伏寺断層の南方延長部に位置する諏訪断層群及び諏訪湖南岸断層群の北端部に存在する地震空白域C では,地震があまり発生しない状態が継続している(図3)。さらに,西縁と南縁を活断層で囲まれ ている甲府盆地では,地震がほとんど発生しない状態が継続しており,依然として地震空白域の状態 にある(福地,2020)。 今回,糸静線活断層系と地震活動の関連性を調べるために,糸静線活断層系沿いで発生している地 震について詳しい解析を行った。図4及び5には,糸静線活断層系に沿って幅44km,長さ120kmの区 域内で,2011 年の地震発生前後に発生した地震の震源分布図を示す。また,2011 年の地震発生前後に 発生した全てのマグニチュードの地震の糸静線活断層系に平行なA-A’断面図及び糸静線活断層系に直 交するB-B’断面図を図6及び7に示す。なお,原点(0km)は諏訪湖(北緯36.018度,東経138.083 度)を基準とし,距離の計算には世界測地系 1984(WGS84)楕円体(赤道半径6,378.137km,扁平率 1/298.257223563)を用いて,緯度1度長を 90.1632924km,経度1度長を110.9590097kmとした。 A-A’ 断面図を 2011 年の地震発生前後で比較すると,諏訪湖の北側では,2011 年の地震発生前から
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2020年度 第 31 号
図2 2011 年東北地方太平洋沖地震前の日本アルプス及び周辺地域の震源分布図(観測期間:2002年9月11日~
2011年3月10日) 震源データは,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用し,
赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。活断層データは,中田・ 今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャ パン社製)を使用して分布図を作成した。
図3 2011 年東北地方太平洋沖地震後の日本アルプス及び周辺地域の震源分布図(観測期間:2011年3月11日~
2019年9月10日) 震源データは,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用し,
赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。活断層データは,中田・ 今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャ パン社製)を使用して分布図を作成した。
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 図4 2011 年東北地方太平洋沖地震前の糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの震源分布図(観測期間:2002 年9 月11日~2011年3月10日) 震源データは,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リス トを使用し,赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。活断層 データは,中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャパン社製)を使用して分布図を作成した。
図5 2011 年東北地方太平洋沖地震後の糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの震源分布図(観測期間:2011年3月
11日~2019年9月10日) 震源データは,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを
使用し,赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。活断層データは, 中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャパン社製)を使用して分布図を作成した。
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 図6 2011 年東北地方太平洋沖地震前後の糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの震源断面図(A-A’ 断面)A)観 測 期 間 2002年9月11日~2011年3月10日,B) 観 測 期間2011年3月11日~2019年9月10日。 震 源 デ ー タ は,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用した。原点(0km)は諏訪湖 (北緯 36.018 度,東経 138.083 度)を基準とし,距離の計算には世界測地系 1984(WGS84)楕円体(赤 道 半 径 6,378.137km,扁平率 1/298.257223563)を用いて,緯度1度長を 90.1632924km,経度1度長を 110.9590097kmとした。
図7 2011 年東北地方太平洋沖地震前後の糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの震源断面図(B-B’ 断面)A)観測 期間 2002年9月11日~2011年3月10日,B)観測期間2011年3月11日~2019年9月10日。震源データは,防 災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用した。原点(0km)は諏訪湖(北 緯 36.018 度,東経 138.083 度)を基準とし,距離の計算には世界測地系 1984(WGS84)楕円体(赤道 半 径 6,378.137km, 扁 平 率 1/298.257223563) を 用 い て, 緯 度 1 度 長 を 90.1632924km, 経 度 1 度 長 を 110.9590097km とした。
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 2014 年長野県北部地震(M6.7)を引き起こした神城断層沿いや牛伏寺断層沿いで,震源の深さが5 kmあるいは10km以浅の地震が頻繁に発生しているが,2011年の地震発生後は全体的に発生頻度が増 大している。 震源の深さ分布自体には 2011 年の地震発生前後でほとんど変化がないことが分かる。これに対し て,諏訪湖の南側では,2011年の地震発生前から諏訪湖近傍で深さ10km付近の地震が頻発しているが, 諏訪湖南方の南アルプス内に入ると震源の深さは徐々に深くなる傾向を示す。2011年の地震発生後は, 諏訪湖の北側と同様,諏訪湖の南側でも地震の発生頻度が高くなるが,震源の深さ分布に大きな変化 は見られない。図4及び5で認められる糸静線活断層系沿いの地震空白域A及びCは,A-A’断面図の 距離(length)-50km付近(地震空白域A)と距離-5km付近(地震空白域C)でそれぞれ確認できる のに対し,地震空白域Bについては,2011年の地震発生前には距離-30km付近で確認できるものが, 2011 年の地震発生後には不明瞭になっている。また,南アルプス内の震源の深さ分布を見ると,距離 30km付近に地震がほとんど発生していない領域が存在しており,地震空白域である可能性がある。南 アルプス内の未認定活断層沿いに地震空白域が存在する可能性については,震源分布図(平面図)を 基に福地・早川(2018b)が既に指摘しているが,今回,震源断面図でも裏付けられたと言える。こ れらの地震空白域については,今後も注意深く監視して行く必要がある。 糸静線活断層系に直交するB-B’ 断面図を見ると,2011 年の地震発生後に地震の発生頻度は極めて 高くなっているが,震源の深さ分布自体には 2011 年の地震発生前後で特に変化は認められない。B-B’ 断面図については,長さ 120kmの範囲で発生した地震全てが重なっている状態であり,詳しい検討が 困難であるので,長さ 120km を4つのブロック(①~④)に4等分して各々について検討を行った (図8)。4ブロックに分割すると1ブロックにおける震源のデータ数が少なくなるので,図8では, 2002 年9月 11 日~ 2019 年9月 10 日までの 17 年間に発生した全ての地震を対象とした。図9には,各 ブロック①~④から得られる震源断面図(A-A’断面図)を示す。図9は,図6の2011年の地震発生前 後のA-A’断面図を重ね合わせたものと同じものであり,震源の深さ分布については図6と同じ傾向が 読み取れる。また,図6において距離-50km付近(地震空白域A)と距離-5km付近(地震空白域C), 距離 30km 付近に認められた地震空白域もそれぞれ確認できる他,距離 -10~12km 付近にも地震がほ とんど発生していない領域が認められる(ブロック②及び③)。また,距離 75~90kmの地下には,深 さ 30~40km 付近に西側に傾く震発面と思われる領域が存在する(ブロック④)が,これは駿河トラ フから沈み込んでいるフィリピン海プレートを表していると考えられる。 一方,各ブロックの糸静線活断層系に直交するB-B’断面図を見ると,ブロック毎に地震発生の特徴 があることが分かる(図 10)。ブロック①では,糸静線活断層系を挟んで少なくとも2系統の地震が 発生している。一つは,距離8~16km付近で発生している震源の深さが10km以下の地震であり,こ れは糸静線活断層系の神城断層が引き起こした一連の地震に相当する。もう一つは,距離-22~-14km 付近で発生している震源の深さが5km以下の非常に浅い地震であるが,神城断層の地震とは全く別系 統のものである。なお,距離0~2km付近に深さ15~20kmで発生している地震の塊が認められるが, これも神城断層沿いで発生している地震の一つである。しかし,震源の深さが距離8~16km付近のも のよりも深いことから,両者は別系統の地震である可能性もあり,今後も監視を続ける必要がある。 ブロック②では,主に松本盆地東縁断層群とその南方延長にある牛伏寺断層沿いで地震が発生してお り,両活断層沿いで発生する地震はいずれも深さ5~10km 付近に集中していることから,同じ系統 の地震と考えられる。諏訪湖の南側に相当するブロック③では,糸静線活断層系から外れて南アルプ ス内で地震が発生している。ブロック③で発生する地震は,ブロック②よりも震源の深さが広範囲に 渡り,深さ0~ 20km 付近までほぼ一様に分布している。ブロック④では,明らかに他のブロックと は震源の深さが異なり,深さ 15~20km付近に地震の集中域が見られる。この深さ15~20km付近で集
図8 2011 年東北地方太平洋沖地震前後 17 年間における糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの各ブロック①~④
の震源分布図(観測期間:2002年9月11日~2019年9月10日) 震源データは,防災科学技術研究所が公開し
ている気象庁一元化処理震源リストを使用し,赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定
活断層をそれぞれ示す。活断層データは,中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファ
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 図9 2011 年東北地方太平洋沖地震前後 17 年間における糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの各ブロック①~④ の震源断面図(A-A’ 断面,観測期間2002年9月11日~2019年9月10日) 震源データは,防災科学技術研究 所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用した。距離の計算には WGS84 楕円体を用いて,緯度1 度長を 90.1632924km,経度1度長を 110.9590097km とした。 図10 2011 年東北地方太平洋沖地震前後 17 年間における糸魚川-静岡構造線活断層系沿いの各ブロック①~④ の震源断面図(B-B’ 断面,観測期間2002年9月11日~2019年9月10日) 震源データは,防災科学技術研究 所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用した。距離の計算には WGS84 楕円体を用いて,緯度1 度長を 90.1632924km,経度1度長を 110.9590097km とした。
中的に発生する地震は活断層による内陸地震であると考えられる。これとは別に,深さ 25km以深に, 西側に傾く地震の領域が存在し,上述したように,駿河トラフで沈み込んでいるフィリピン海プレー トを表していると考えられる。 Ⅲ.地震のメカニズム解とすべり方向 糸静線活断層系沿いで発生する地震の特性を明らかにするために,糸静線活断層系を含む日本アル プス及び周辺地域で発生する地震のメカニズム解とすべり方向を図 11 及び 12 に示す。地震のメカニ ズム解及びすべり方向の解析及びグラフ表示については,気象庁地震月報で公表されている初動発震 図11 日本アルプス及び周辺地域で発生した地震のメカニズム解(初動発震機構解) A)地震観測期間1926年1 月1日~2011年3月10日,B)地震観測期間2011年3月11日~2017年12月31日。 図12 日本アルプス及び周辺地域で発生した地震のすべり方向 A)地震観測期間1926年1月1日~2011年3月 10日,B)地震観測期間2011年3月11日~2017年12月31日。
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機構解データ及び地震解析ソフトSEIS-PC for Windows(石川・中村,1997;中村・石川,2005)を用 いて行った。図 11 及び 12 に示されている地域は,上述した図1~3で示した地域と全く同じである が,気象庁地震月報で公表されているメカニズム解はそれ程多くはなく,糸静線活断層系沿いではメ カニズム解のデータ数は非常に限定される。図 11 を見ると,諏訪湖の北側の糸静線活断層系沿いで発 生する地震の内,図8のブロック①で発生する多くの地震の発震機構は,西北西-東南東方向に圧縮 軸を持つタイプである。2014 年 11 月 22 日に神城断層沿いで発生した長野県北部の地震でも同様の発 震機構を示し,震源断層は南北方向に延びる東傾斜の逆断層型であることが判明しており,神城断層 の断層面の方向と一致している(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2014)。 ブロック②及び③の諏訪湖周辺の糸静線活断層系沿いで発生する地震の発震機構は,図 11 でも明ら かなように,西北西-東南東方向の圧縮軸を持つ横ずれ断層型であり,糸静線活断層系の北部に位置 する神城断層とは明らかに断層のタイプが異なっている。諏訪湖の北西延長部に位置する牛伏寺断層 や諏訪湖の南東延長部に位置する釜無山断層群は,いずれも西北西-東南東方向~東西方向の圧縮軸 を持つ横ずれ断層であることが判明しているので,諏訪湖周辺で発生する地震とは整合的である(地 震調査研究推進本部地震調査委員会,2015)。また,図 12 に示すように,地震のすべり方向について も,ブロック②と③で発生する地震の多くは,南東方向あるいは北西方向の横ずれを示している。こ のことは,現在の地殻応力場においては,ブロック②とブロック③に属する横ずれ断層である牛伏寺 断層と釜無山断層群が連動して活動する可能性が高いことを示している。なお,諏訪湖の湖岸に分布 する諏訪断層群と諏訪湖南岸断層群はいずれも正断層であり,隣接する活断層とは活動の形態が異 なっていることが判明しており,これらの活断層群の形成過程については不明な点が多い(地震調査 研究推進本部地震調査委員会,2015)。一方,ブロック③に属する縦ずれ運動をする逆断層である白 州断層や下円井断層,市之瀬断層群は,ブロック②の横ずれ断層と連動して活動する可能性は低いと 考えられる。 ブロック④のエリアで発生する地震の発震機構は,多くが北北西-南南東方向に圧縮軸を持つタイ プである(図 11)。これは,駿河湾で沈み込むフィリピン海プレートの運動が影響していると考えら れる。また,地震のすべり方向についても,縦ずれ運動を示すものが多く見られる(図 12)。ブロッ ク③に属する活断層とブロック④に属する活断層は,エリア内の応力場が異なっているので,両者が 連動して活動する可能性は低いと考えられる。 Ⅳ.長野・岐阜県境付近の地震活動の影響 長野・岐阜県境付近において,2020 年4月 22 日から震源の深さが3~5km と浅く,マグニチュー ド(M)3.0 を超える地震が多発し,4月 23 日に M5.5,5月 19 日に M5.4,5月 29 日に M5.3 の地震 が発生するなど,活発な地震活動が続いている。7月に入っても活動は継続しており,7月5日には M4.8の地震が発生した。4月22日から7月31日までに最大震度1以上を観測する地震は,225回発生 している。この地域で発生している地震の発震機構は,北西-南東方向~北北西-南南東方向に圧縮 軸を持つ横ずれ断層型である(地震調査研究推進本部地震調査委員会,2020abcd)。以下では,これら 一連の地震活動が糸静線活断層系沿いの地震活動に与える影響について検討を行う。 図 13 には,2019 年 12 月1日~8月 31 日までに日本アルプス及び周辺地域で発生した全ての地震の 震源分布を月別に示す。図中で白色の四角で囲った部分が,長野・岐阜県境付近で発生した一連の地 震活動の頻発区域である。2019 年 12 月~2020 年3月に掛けては,特に顕著な地震活動は観測されな いが,2020 年4月になると活発な地震活動が見られるようになる。地震活動の頻発区域には,活火山 である焼岳や乗鞍岳,第四紀火山の穂高岳が位置している(図1)。2020 年5月も引き続き地震活動 が活発であったが,6月になると活動が一時的に沈静化し,その後,7月には再び活発になり,8月
図13 日本アルプス及び周辺地域における震源分布の月毎の変化 観測期間A)2019年12月1日~31日,B) 2020年1月1日~31日,C)2月1日~29日,D)3月1日~31日,E)4月1日~30日,F)5月1日~31
日,G)6月1日~30日,H)7月1日~31日,I)8月1日~31日。白色の四角で囲った部分が地震活動の
頻発区域を表す。震源データは,防災科学技術研究所が公開している気象庁一元化処理震源リストを使用し, 赤色の実線は認定されている活断層を,薄黄色の破線は推定活断層をそれぞれ示す。活断層データは,中田・ 今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』のシェープファイルを用い,ArcGIS 10.2 for Desktop(esri ジャ パン社製)を使用して分布図を作成した。
山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要 2020年度 第 31 号 に入って再び沈静化の様子を示している。地震活動の頻発区域のすぐ東側には,糸静線活断層系の松 本盆地東縁断層群や牛伏寺断層が位置しているが,2019 年 12 月~2020 年8月までの期間に両活断層 沿いの地震活動が特に活発になった様子は見られない。2020 年 8 月末の時点で,糸静線活断層系沿い の地震活動には全く変化が見られないことから,一連の地震活動が糸静線活断層系に影響を与える可 能性はほとんどないと考えられる。また,上述したように,地震活動の頻発区域内には活火山である 焼岳や乗鞍岳,第四紀火山である穂高岳が分布しているが,一連の地震活動の最も活発な地域(M≧ 4.0の地域)はこれらの火山の直下に位置している訳ではなく,また,震源の深さも3~5kmと浅い ことから,これらの火山のマグマ活動との関連性は低いと考えられる。しかし,一連の地震活動によ り断層破砕が進行し,活火山である焼岳のマグマ溜りに断層破砕が到達して,破砕帯を通った地下水 とマグマが反応することにより水蒸気爆発を引き起こす可能性はゼロではないので,今後も注意深く 監視して行く必要がある。 Ⅴ.まとめ 日本で最も活動的な変動地帯である日本アルプスの縁に位置している糸魚川-静岡構造線(糸静 線)活断層系沿いで発生している地震の詳細な震源分布図(平面図及び断面図)を作成し,2011 年東 北地方太平洋沖地震(M9.0)後の糸静線活断層系沿いにおける地震活動性を評価した。諏訪湖の北西 地域の糸静線活断層系沿いには,2018 年までは3つの地震空白域が存在していたが,この内の2つの 空白域は依然として存在しており,この地域の糸静線活断層系沿いの地震活動は依然活発であること が判明した。また,糸静線活断層系沿いで発生する地震から求められる発震機構(メカニズム解)を 調べて見ると,西北西-東南東方向の圧縮軸を持つ横ずれ断層型の地震が諏訪湖周辺で起こっている ことが判明した。これらの結果は,糸静線活断層系の内,最も活動的である牛伏寺断層が活動した場 合,牛伏寺断層と同じく,西北西-東南東方向~東西方向の圧縮軸を持つ横ずれ断層である釜無山断 層群が連動して活動する可能性が高いことを示している。さらに,2020 年4月以来,長野・岐阜県境 付近で発生している一連の地震活動については,2020 年8月末現在,糸線活断層系沿いの地震活動に は全く変化が見られないことから,これら一連の地震活動が糸静線活断層系に与える影響はほとんど ないと考えられる。 謝辞 本研究を実施するに当たり,日本学術振興会科学研究費基盤研究 (c)一般(課題番号17K01326)の 一部を使用した。本研究で用いた震源データは,防災科学技術研究所がホームページ上で公開してい る気象庁一元化処理震源リストを使用した。記して,感謝の意を表する。また,地震のメカニズム解
及びすべり方向の解析に使用した地震解析ソフト(SEIS-PC for Windows)を一般公開している石川有
三氏並びに中村浩二氏に感謝する。 引用文献 壇原毅(1971)日本おける最近 70 年間の総括的上下変動.測地学会誌,第 17 巻,第3号,p.100 - 108. 福地龍郎(2017)南アルプス及び周辺地域の活断層分布と地震活動変化その2.山梨大学教育学部紀 要 , 第 25 号, p.175-182. 福地龍郎(2020)甲府盆地の形成過程に関する一考察.山梨大学教育学部紀要,第 30 号,p.103-119. 福地龍郎・早川綾子(2018a)日本アルプス及び周辺地域の活断層分布と地震活動変化.山梨大学教 育学部紀要,第 26 号, p.133-145.
福地龍郎・早川綾子(2018b)糸魚川-静岡構造線活断層系に分布する地震空白域について.山梨大 学教育学部紀要,第 27 号, p.75-87.
福地龍郎・稲村勇人・田口大志・広瀬拓也(2016)南アルプス及び周辺地域の活断層分布と地震活動 変化.山梨大学教育人間科学部紀要, 第 17 巻 , p.219-226.
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山 梨 大 学 教 育 学 部 紀 要
2020年度 第 31 号
Characteristics of earthquakes generated along the Itoigawa-Shizuoka
Tectonic Line Active Fault System
Tatsuro FUKUCHI
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