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働く市民の常識としての労働法(PDF:122KB)

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Academic year: 2021

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最近労働法教育のあり方が論じられることが多 くなってきた。 直接の原因は, 法科大学院制度の 確立によって大学における実務教育の必要性が高 まったからといえる。 つまり, 新司法試験対策と して, 教育スキルが重視されるようになったわけ である。 また, 労働紛争が増加するとともに身近 になり, さらに, 労働関係につき新立法や抜本的 な法改正が頻繁になされていることもその原因と いえる。 同時に, 組合の影響力の低下等によって, 個々の労働者がそれぞれ自分だけで権利を守るこ とが必要になっている。 まさに自己責任が正面か ら問われているわけである。 以上の他に, 紛争解決システムの整備にともな いその担い手 (斡旋員・労働審判員) に対する教 育の必要性が高まったことや, 裁判員制度の導入 等にともない法教育自体のニーズが高まったこと もあげられる。 さらに, 伝統的にはかなり整備さ れていた職業教育においてもワークルール的側面 からの見直しもなされ始めている。 では, 実際にどのように労働法教育がなされて いるか。 その一は, 学校教育レベルであり, 特に, 高校の公民においてなされている。 教科科目以外 では, 総合学習や進路指導でも取り上げられるこ とがある。 その二は, 職業教育レベルであり, 主 に職業高校・専門学校等において学校教育の一環 として学ばれている。 その三は, 就職した後の社 員教育・組合員教育レベルである。 その四は, 大 学教育レベルであり, 労働法の体系的教育がなさ れ, 専門基礎的な側面と働く市民向けという 2 つ の側面がある。 その五は, 専門家教育レベルであ り, 大学院教育が中心となる。 弁護士や労働法に 関連するパラリーガル, さらに研究者を養成する 教育である。 以上のうち働く市民を対象としては, 基盤とし ての学校教育をふまえて働く主体たる組合員・従 業員に対する教育さらに大学教育において一定の 法的ルールが教えられる。 しかし, 働く市民レベ ルの労働法教育のあり方については社会において もほとんど議論されず, 制度的にもきわめて不十 分である。 通常の市民が権利主張をする前提として, 権利 内容を的確に知っていることが必要であり, 労働 法上の権利についてもまったく同様である。 しか し, 実際には労働法の知識は驚くほど貧弱であり, これは労働相談や労働委員会における個別斡旋の 経験を通じて日常的に痛感している。 職場におい ても自己責任が強く要請されているにもかかわら ず, 自分 (達) を守るために労働法の知識を獲得 すべきであるという社会的要請もあまりない。 実 際にも学校教育や社会教育において, 十分な教育 はなされていないばかりか, そのような教育をす べきであるという問題関心にさえ欠ける。 最近で は, むしろ権利主張を行う人間を, 協調性がない として排除する危い傾向さえみられる。 一方, 若年者の失業率の上昇やフリーター化, さらにニートの出現に関しては社会的に大きな注 目を浴びている。 その対応策につき活発な論議が なされ, キャリア形成のために学校教育や雇用促 進施策につき多様な試みがなされている。 たしか に勤労意欲の涵養やキャリア形成の必要性は否定 しがたい。 しかし, 職場における権利やワークルー ルを全く無視して勤労意欲の側面だけが強調され ることはやはり異常である。 職場において権利が 守られるということは 「働くこと」 の前提であり, 営々と築き上げられてきた 「文化」 に他ならない からである。 生きる力は, 職業能力だけではなく, 権利主張をする知識と気構えをも含むものと思わ れる。 このような権利教育は, 民主主義の担い手 を養成するという市民教育でもある。 (どうこう・てつなり 北海道大学法科大学院教授) 1

働く市民の常識としての労働法

道幸 哲也

参照

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