• 検索結果がありません。

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 利用統計を見る"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケ

ティング上の意義

著者

徳江 順一郎

著者別名

Jun-ichiro TOKUE

雑誌名

現代社会研究

17

ページ

93-102

発行年

2020-03

URL

http://doi.org/10.34428/00011788

(2)

 わが国のホテルは、長いこと「シティホテル」と「ビジネスホテル」という2つのカテゴリーで 成長してきた。前者は相対的に高価格であり、多くの客室を備え、フランス料理や中華料理、和食 などのさまざまなレストランやバー、そして会議室から巨大な宴会場まで備えている。一方、後者 は相対的に低価格であり、客室のみか、簡単な食事のスペースのみを設けている施設である。  しかし、ここ数年、急速に増加しているのが、この両者とも異なる「ライフスタイル・ホテル」 というカテゴリーである。わが国でも上記の2段階ではなく、ラグジュアリー、アップスケール、ミッ ドプライス、エコノミー、バジェットといった5段階分類の価格帯が採用されるようになってきつ つあるが、「ライフスタイル・ホテル」の出現は、こうした市場細分化の深化ともとらえられる。  本研究では、このカテゴリーにおける現状を把握し、マーケティングの観点から考察する。     keywords:ライフスタイル・ホテル、シティホテル、ビジネスホテル、市場細分化、サイコグラフィッ      ク変数、 目   次 1.はじめに : 研究の背景と目的 2.ライフスタイル・ホテルとは 3.ライフスタイル・ホテル出現の背景 4.市場の定義と市場細分化からみるライフスタ   イル・ホテル 5.おわりに 1.はじめに : 研究の背景と目的 近年、「ライフスタイル・ホテル」と称されるカテゴリーのホテルが注目を集めるようになってきて いる。このカテゴリーに関する明確な定義は必ずしも共有されているとはいえないが、従前のホテル分 類とは異なる基準で分類されるものであると考えて差し支えない。 わが国では伝統的に、宿泊産業をまず和風の旅館と洋風のホテルとに分け、都市部に立地する相対的 に高価格帯の施設をシティホテル、相対的に低価格帯の施設をビジネスホテル、そして観光地やリゾー ト地に立地する施設をリゾートホテルと分類してきた。そのうえで、都市部に立地するホテルに関して は、シティホテルが宿泊、料飲サービス、宴会のいずれも取り揃えたフル・サービス型、ビジネスホテ ルが宿泊のみ、または簡単な料飲サービスを提供するリミテッドサービス型にほぼ分けることが可能で あった。つまり、サービスの幅と価格帯とが対応する形で分類がなされてきた。 海外ではもう少し細分化され、5段階分類が基本となっていた。最近は、さらに細かくした7段階分類 なども用いられることがある。そして、リゾート地にあるホテルは一般にリゾートホテルと呼ばれてい た。 このように、ホテル分類の軸は、国内でも海外でも立地や価格帯でのカテゴライズが基本であった。 これに対して近年急速に増加しつつあるのが、デザイン性にこだわったり、地域性を前面に出すなど、 必ずしも立地や価格帯で峻別できないカテゴリーである。このような施設を特集した複数の媒体で「ラ

『ライフスタイル・ホテル』の出現における

マーケティング上の意義

徳 江 順 一 郎

(3)

『現代社会研究』17号 イフスタイル・ホテル」という表現が用いられ、このカテゴリーを指す用語として一般化しつつある。 本研究は、このカテゴリーが出現してきた背景をマーケティング論の観点から概観し、ホテル市場に おける意義について検討することを目的とする。 2.ライフスタイル・ホテルとは 2.1ホテルの分類に関する先行研究 当該用語が用いられるようになったのはつい最近であるため、国内外を含め、先行研究といえるもの はほとんど存在しない。一方で、前項でも触れたように、ホテルの分類に関する研究はいくつかの蓄積 がある。また、市場細分化に関する研究は多くなされており、これについてはあとで検討する。 分類に関しては、注目すべき考察も存在する。本項では、まずその点を検討したい。 前述したように、わが国のホテルは2段階分類が主流となっていた。事実、業界団体も「日本ホテル 協会」と「全日本シティホテル連盟」、そして旅館の団体に分かれていた。大手ホテルチェーンも、高 価格帯には「ホテル」、低価格帯には「イン」といった名称を付与していたのである。しかし、1990年 代以降多様化が進み、従前の分類手法では齟齬が生じるようになってきた。その結果、近年では海外の 5段階分類に準じた分類をするようになってきつつある(飯嶋(2011), p.42)。 海外では、ラグジュアリーからバジェットに至る5段階分類が基本となっていた。例えば北村(2016)で は、世界各国のホテル格付けについて詳細な調査が実施されている。ここでは、ベトナム・ラオス・カ ンボジアにおける共同での格付け基準から、タイ、マレーシア、フィリピン、インド、韓国、中国、フ ランス、イギリス、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、ドイツまで、幅広い調査結果が報 告されている。そのうち、アメリカ以外の各国は、政府や行政機関が格付けに関与していることも同時 に言及している。事実、国連世界観光機関(UNWTO)とInternational Hotel & Restaurant Associationに よる世界108カ国の政府および団体を対象とした調査では、83カ国でホテルの格付けがなされており、 特に70カ国では政府や行政機関が関与しているという(北村(2016), pp.84-132)。 しかし、こうした研究では、価格帯以外の分類については言及されていない。そこで、学術研究以外 にも目を向けると興味深い報告を見つけることができた。 わが国のホテルにも大いに影響を及ぼしている総合不動産業であるジョーンズ・ラング・ラサール株 式会社(以下、「JLL」とする)では、「ライフスタイル・ホテル」という「新興勢力」が「注目を集め つつある」として、そこに内包されている要素を以下にまとめている。 ・ブティックホテルらしさ:ユニークさとスタイリッシュさ、居心地のよさが兼ね備えられている。 ・デザインホテルらしさ :意匠性を有している。 ・サードプレイスとしてのラウンジ機能 :自宅でも職場でもない場の提供。 JLLでは、「ライフスタイルホテルというコンセプトは90年代初頭に米国で生まれ」たとし、「供給過 剰が見込まれるようにな」ってきた状況で、「単なるグレード感だけではない、特定のテイストを持っ たホテルが開発」されるに至り、それが「既存ホテルとの差別化を図」ってなされていると判断してい る。言い換えると、ホテル市場が成長期を経て成熟期に入りつつある状況で、さらなる成長を模索して、 これまでにないホテルを開発した、ということになろう。すなわち、成熟期における新たなProductの 開発である。 JLLが指摘しているのは、ハイアット・ホテルズによるアンダーズ東京とハイアットセントリック銀 座、テイクアンドギヴ・ニーズによるTRUNK HOTEL、無印良品とUDSによるMUJIホテル、サンケ イビルによるインターゲートホテルズなどであり、いずれも上記の3つの要素を備えた特徴ある施設と なっている。また、世界に目を向けると、ACE Hotelのような新しいホテルチェーンや、メガ・チェー

(4)

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 ンでも同様の施設が着々と増えているという。いずれも、「既存ホテルとは一線を画したデザイン性、サー ドプレイス的コミュニティ機能を重視したコンセプトメイク」が特徴であるとしている(1) ライフスタイル・ホテルをずばり研究というレベルで考察しているものは、他にほとんど見られない。 そこで、次にこのカテゴリーの現状を把握する。 2.2 わが国におけるライフスタイル・ホテルの現状 学術書や論文などではまだほとんど話題には上らないが、建築系の専門誌や、趣味誌ではこのワード もよく見受けられる。

JLLでも言及されているハイアットセントリック銀座は、『GOOD DESIGN HOTEL』でも同様に掲 載されている(pp.22-27)。同書には、他にも複数の興味深い事例に関する報告がなされている。

例えば、THE SHARE HOTELSは、「ローカルに出会う旅」というコンセプトで、金沢に2軒、函館 と東京、そして京都に1軒ずつを株式会社リビタが経営している。同社はもともとシェアハウス事業を 展開していたが、共用部での活動が評価されたことから、より開かれた共用スペースの実現を図るべく、 ホテルとしての展開を進めることになった。第1号店となったHATCHi金沢(2016年3月開業)では、地 元の産品を活かしたイベントなどを開催しつつ、客室の構成を工夫することで収容を確保し、黒字を実 現している(『GOOD DESIGN HOTEL』, pp.6-9)。

また、カフェ・カンパニーによるWIRED HOTEL ASAKUSA(2017年4月開業、30室, pp.84-89)も 取り上げられている。これは『商店建築』(2018年1月号, pp.58-62)でも特集されている。同社は料飲サー ビスの経験はあるが、ホテル市場へは新規参入ということになる。

同書では、注目の新規参入企業として、他にもワコールによる京の温所(2018年4月開業、1室のみ)、 グローバルエージェンツによるThe Millennials Kyoto(2017年7月開業、152ポッド)、細尾による HOSOO RESIDENCE(2017年7月開業、1室のみ)、ひらまつによるTHE HIRAMATSU HOTELS & RESORTS(賢島、熱海、箱根仙石原、沖縄宜野座)、koeによるhotel koe(2018年2月開業、10室)といっ た異業種からの参入が紹介されている。異業種とはいえ、料飲サービス産業、繊維産業など隣接あるい は関連業種であり、各ホテルに対してそれぞれの得意分野を活かしたテーマ設定がなされており、コミュ ニティ創出に注力しているのが特徴である。まさに、JLLが主張する要素を押さえている。 さらに、『カーサブルータス』(2018年9月号)では、その名もずばり「ライフスタイルホテル」と称 した特集を組んでいる。海と田んぼに囲まれた香川県豊島のウミトタ(2018年4月開業、1室のみ, pp.26-33)や、JLLも取り上げた、テイクアンドギヴ・ニーズの創業者である野尻佳孝による、社会とのつな がりを示す「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げるTRUNK HOTEL(2017年5月開業、15室, pp.42-47)、本をテーマとした箱根本箱(2018年8月開業、18室, pp.52-55)など、いずれも従前には存在 しなかったスタイルである。 こうしたコンセプト重視型の施設は多方面に影響を及ぼし、ドミトリー・タイプやホステル・タイプ、 ゲストハウス、さらには民泊施設などにも同様の施設が誕生している。 重要なのは、特徴的なハード面のデザインのみならず、独特のコンセプトを付与している点がポイン トとなることである。そして、そのコンセプトに対して集う人々を意識したマーケティングが行われて いることも理解できる。 2.3 海外におけるライフスタイル・ホテルの現状 こうした方向性は、JLLも触れたように、世界的なメガ・チェーンでも見られる。 まず、2018年現在の「ヒルトン・ホテルズ」(以下、「ヒルトン」という)は、送客契約のみの関係を 含め、図表1のとおり14ブランドを傘下におさめている。

(5)

『現代社会研究』17号

ここに挙げた各ブランドのうち、まず、canopy by Hiltonは、「地域に密着した新しいホテル。自分 らしいご滞在をお楽しみいただけます」(以下、同社HPより)、Curio Collection by Hiltonは「地元な らではの魅力を求める旅行者のための個性的なホテルのコレクション」あるいは「好奇心をかき立てる、 その土地ならではの魅力」、tru by Hiltonは「シンプルで元気のある、革命的な新しいブランドです。 人生を思う存分愉しみ、人とのつながりを大切にするお客様に満足いただける価格をご提供します」と いうコンセプトを掲げており、ライフスタイル・ホテルの方向性が垣間見られる。ただし、Curioは独 立系のホテルに対する送客契約と思われる。 次に、「インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ」(以下、「インターコンチネンタル」という) は、2018年現在、地域ブランドも含め、図表2の14ブランドを持っている。 このうち、以下の3つのブランドは、ライフスタイル・ホテルに近いものであると考えられる。 Kimpton Hotels & Restaurantsは、「個性あふれるホテルステイを」とのコンセプトを掲げ、自社HP 内でも「全米初のブティックホテル」、「画期的なミーティングやイベント設備、大胆で遊び心を感じる デザイン」といった表現が見受けられる。Hotel Indigoは「訪れたことのない土地や新しい人々との出 会い、新たなアイデアにワクワクする人々の好奇心を満たす旅を応援」と銘打ち、「ホテルのエントラ ンスから広がるスタイリッシュで活気あふれるブティックホテル」あるいは「世界各地の多様な文化を 取り入れ、ひとつひとつのホテルに個性が光ります」といったアピールが目に付く。最後に、EVEN Hotelsは「ご旅行先でもさらに健康的で楽しい時間を求めるご旅行者のライフスタイルをサポート」と いったように、いずれも独自性の高いサービス提供を行なっている。 そして、2018年現在、世界最大級のチェーンであると考えられる「マリオット・インターナショナル」 (以下、「マリオット」という)は、図表3に見られるように29ものブランドを持っている。ライフスタ イル・ホテルに類すると思われるものも複数あるが、特筆すべきは2016年買収した「スターウッド・ホ テルズ&リゾーツ・ワールドワイド」(以下、「スターウッド」という)が開発したWの存在であろう。 Wは、1998年にスターウッドがウェスティン・ホテルズ&リゾーツとITTシェラトン・コーポレーショ ンを買収したのち、初の自社開発ブランドとしてニューヨークに開業させたものである。開業当初から デザイン性の高さや独特なコンセプトで話題となっていた。2018年現在では全世界に56軒を数えるに 至 っ て い る。 ま た、EDITION は Extraordinary Style & Exceptional Service、AUTOGRAPH CollectionはBoutique Hotels that are Unique in Design and Thoughtful in Spiritというスローガンを 掲げており、いずれもライフスタイル・ホテルの要素が色濃く感じられる。 なお、DESIGN HOTELSはもともと、コンソーシアムとしてスタートしており、スターウッドとは 提携関係となる。 称した特集を組んでいる。海と田んぼに囲まれた香川県豊島のウミトタ(2018 年 4 月開業、1 室のみ, pp.26-33)や、JLL も取り上げた、テイクアンドギヴ・ニーズの創業者である野尻佳孝による、社会と のつながりを示す「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げるTRUNK HOTEL(2017 年 5 月開業、 15 室, pp.42-47)、本をテーマとした箱根本箱(2018 年 8 月開業、18 室, pp.52-55)など、いずれも従 前には存在しなかったスタイルである。 こうしたコンセプト重視型の施設は多方面に影響を及ぼし、ドミトリー・タイプやホステル・タイプ、 ゲストハウス、さらには民泊施設などにも同様の施設が誕生している。 重要なのは、特徴的なハード面のデザインのみならず、独特のコンセプトを付与している点がポイン トとなることである。そして、そのコンセプトに対して集う人々を意識したマーケティングが行われて いることも理解できる。 2.3 海外におけるライフスタイル・ホテルの現状 こうした方向性は、JLL も触れたように、世界的なメガ・チェーンでも見られる。 まず、2018 年現在の「ヒルトン・ホテルズ」(以下、「ヒルトン」という)は、送客契約のみの関係を 含め、図表1 のとおり 14 ブランドを傘下におさめている。 ここに挙げた各ブランドのうち、まず、canopy by Hilton は、「地域に密着した新しいホテル。自分 らしいご滞在をお楽しみいただけます」(以下、同社HP より)、Curio Collection by Hilton は「地元な らではの魅力を求める旅行者のための個性的なホテルのコレクション」あるいは「好奇心をかき立てる、 その土地ならではの魅力」、tru by Hilton は「シンプルで元気のある、革命的な新しいブランドです。 人生を思う存分愉しみ、人とのつながりを大切にするお客様に満足いただける価格をご提供します」と いうコンセプトを掲げており、ライフスタイル・ホテルの方向性が垣間見られる。ただし、Curio は独 立系のホテルに対する送客契約と思われる。 次に、「インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ」(以下、「インターコンチネンタル」という) は、2018 年現在、地域ブランドも含め、図表 2 の 14 ブランドを持っている。 このうち、以下の3 つのブランドは、ライフスタイル・ホテルに近いものであると考えられる。 Kimpton Hotels & Restaurants は、「個性あふれるホテルステイを」とのコンセプトを掲げ、自社 HP 内でも「全米初のブティックホテル」、「画期的なミーティングやイベント設備、大胆で遊び心を感 じるデザイン」といった表現が見受けられる。Hotel Indigo は「訪れたことのない土地や新しい人々と の出会い、新たなアイデアにワクワクする人々の好奇心を満たす旅を応援」と銘打ち、「ホテルのエント ランスから広がるスタイリッシュで活気あふれるブティックホテル」あるいは「世界各地の多様な文化 図表1 ヒルトンのブランド一覧 出典:同社HP:https://jobs.hilton.com/our-brands/index.php?language=ja-JP(2019 年 11 月 1 日アクセス) 図表2 インターコンチネンタルのブランド一覧 出典:同社HP:https://www.anaihghotels.co.jp/intercontinental/(2018 年 10 月 31 日アクセス、以下も同様)

(6)

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 最後に「ハイアット・ホテルズ」(以下、「ハイアット」という)だが、ここでは関連して「プリツカー 賞」について言及しておく。建築の世界には、「プリツカー賞」という、「建築を通じて人類や環境に一 貫した意義深い貢献をしてきた存命の建築家」を対象として授与される賞がある。別名「建築界のノー ベル賞」ともいわれ、王立英国建築家協会が授与する「RIBAゴールドメダル」やアメリカ建築家協会 が授与する「AIAゴールドメダル」と並ぶ栄誉とされる。 この賞は、実はハイアットのオーナー、プリツカー一族が運営するハイアット財団(The Hyatt Foundation)によって1979年に創設されたものである。ハイアットというチェーンは、建築や内装に 対するこだわりによって世界的なホテルチェーンになったという側面がある。先発のヒルトンやシェラ トンといった各企業と比べると、後発のハイアットが成長するためには、なんらかの特徴がなければ難 しかった。それが、建築やデザインであり、こうしたこだわりが世界初の吹き抜けのアトリウムを備え たホテル、すなわち1967年に開業したHyatt Regency Atlantaにもつながっているといえる。

そうしたこともあり、ハイアットはデザイン面に対してもともと強いこだわりを持ってきたといえる だろう。事実、同社のブランド定義では、他のチェーンには見られない「ライフスタイル」という項目 を独自に設け、当該カテゴリー内にANdAZ、HYATT CENTRIC、UNBOUND Collection by HYATT を掲載している(図表4)。

ただし、ライフスタイル・ホテルは概して小規模なため、こうしたメガ・チェーンよりも、小規模な チェーンやそれを専門に展開するチェーンがむしろ牽引している。特に海外でその傾向がある。

海外の状況については『カーサブルータス』(2014年5月号)に詳しい。同書では、デザインにこだわっ ている施設としてエドゥアルド・ソウト・ド・モウラ(2011年プリツカー賞受賞)によるSanta Maria do Bouro、ピーター・ズントー(2009年同賞受賞)によるHotel Therme Vals、ジャン・ヌーヴェル(2008 年同賞受賞)によるLe Sant-Jamesといった独立系ホテルが数多く紹介されている。いずれも、建築家 がプリツカー賞を受賞していることに着目したい。

そして、ライフスタイル・ホテルの牽引役と目される人物にも焦点を当て、ショーン・マクファーソ ンによるニューヨークのThe Maritime Hotel(2003年開業、125室)、The Bowery Hotel(2007年開業、 135室)とThe Marlton Hotel(1900年開業・2013年改装オープン、107室)、アンドリュー・ターロウに

を取り入れ、ひとつひとつのホテルに個性が光ります」といったアピールが目に付く。最後に、EVEN Hotels は「ご旅行先でもさらに健康的で楽しい時間を求めるご旅行者のライフスタイルをサポート」と いったように、いずれも独自性の高いサービス提供を行なっている。 そして、2018 年現在、世界最大級のチェーンであると考えられる「マリオット・インターナショナル」 (以下、「マリオット」という)は、図表3 に見られるように 29 ものブランドを持っている。ライフス タイル・ホテルに類すると思われるものも複数あるが、特筆すべきは2016 年買収した「スターウッド・ ホテルズ&リゾーツ・ワールドワイド」(以下、「スターウッド」という)が開発したW の存在であろう。 W は、1998 年にスターウッドがウェスティン・ホテルズ&リゾーツと ITT シェラトン・コーポレー ションを買収したのち、初の自社開発ブランドとしてニューヨークに開業させたものである。開業当初 からデザイン性の高さや独特なコンセプトで話題となっていた。2018 年現在では全世界に 56 軒を数え るに至っている。また、EDITION は”Extraordinary Style & Exceptional Service、AUTOGRAPH Collection は Boutique Hotels that are Unique in Design and Thoughtful in Spirit” というスローガ ンを掲げており、いずれもライフスタイル・ホテルの要素が色濃く感じられる。 なお、DESIGN HOTELS はもともと、コンソーシアムとしてスタートしており、スターウッドとは 提携関係となる。 最後に「ハイアット・ホテルズ」(以下、「ハイアット」という)だが、ここでは関連して「プリツカ ー賞」について言及しておく。建築の世界には、「プリツカー賞」という、「建築を通じて人類や環境に 一貫した意義深い貢献をしてきた存命の建築家」を対象として授与される賞がある。別名「建築界のノ ーベル賞」ともいわれ、王立英国建築家協会が授与する「RIBA ゴールドメダル」やアメリカ建築家協 会が授与する「AIA ゴールドメダル」と並ぶ栄誉とされる。 この賞 は、 実はハ イア ットの オー ナー、 プリ ツカー 一族 が運営 する ハイア ット 財団(The Hyatt Foundation)によって 1979 年に創設されたものである。ハイアットというチェーンは、建築や内装に 対するこだわりによって世界的なホテルチェーンになったという側面がある。先発のヒルトンやシェラ トンといった各企業と比べると、後発のハイアットが成長するためには、なんらかの特徴がなければ難 しかった。それが、建築やデザインであり、こうしたこだわりが世界初の吹き抜けのアトリウムを備え 図表3 マリオットのブランド一覧 出典:同社HP:https://www.marriott.co.jp/marriott/ 図表4 ハイアットのブランド一覧 出典:同社HP: https://about.hyatt.com/ja.html

(7)

『現代社会研究』17号 よるやはりニューヨークのWythe Hotel(2012年開業、72室)なども取り上げている。 3.ライフスタイル・ホテル出現の背景 3.1 海外の都市部におけるホテルの状況 以上のように、ライフスタイル・ホテルは世界的な潮流として1990年代頃に出現し、2000年代に入る と急速に増加していったことが理解できるだろう。その背景にはどのような流れがあったのだろうか。 桐敷監修(1991)では、以下のような検討がなされている。 米国で、1960年代以降の「ポスト・モダン」の時代において、増加しかつ多元化した欲求を満たすた めに、都市部のホテルが巨大化していった。そして、その規模感を象徴するように、ハイアットが実現 した吹き抜けのアトリウムを備えるのが定番となっていた。前述の1967年に開業したHyatt Regency Atlantaが最初とされるが、1980年代に開業したホテルではこれが大流行している。同書では、大規模 でかつ都市を代表するホテルとしてGrand Hyatt New York(客室数1,407室)、Atlanta Marriott Marquis(客室数1,674室)、New York Marriott Marquis(客室数1,887室)などが挙げられる。

しかし、一方でこうした施設とは異なる方向性のホテルが1980年代後半以降に出現してきた。やや客 室数を絞りつつ、デザイン性を持たせたり、レストランに特徴を打ち出したりしたもので、同書では、 サンフランシスコのCampton Place(現在はTaj Hotels Resorts & Palaces系列のTaj Campton Place) とMandarin Oriental、ロサンゼルスのCheckers Hotel(現在はHilton Checkers Los Angeles)などが 触れられている。いずれも100~200室規模ながら存在感のあるホテルになっているという(以上、pp.2-3)。実際、一部が現在では大手のホテルチェーンに組み込まれていることがそれを証明していよう。

同書では、これらを含めて以下のホテルが取り上げられている。規模も参考に掲示した。 ■The Willard Inter-Continental(ワシントンDC:395室)

□Park Hyatt Washington, DC(同:225室)

□Vista International Hotel Washington, DC(同:398室) □J. W. Marriott Hotel(同:773室)

■Tha Palmer House & Towers (シカゴ:1,600室) □Marriott Suites Chicago O’hare(シカゴ:256室) ■The Drake(シカゴ:535室)

□Boston Marriott Copley Place(ボストン1,147室)

■The Waldorf=Astoria & Towers(ニューヨーク:1,525室) ■Hotel Inter-Continental New York(同:692室)

□Grand Hyatt New York(同:1,407室)

□Vista International Hotel New York(同:829室) □New York Marriott Marquis(ニューヨーク:1,887室) □Four Seasons Hotel Philadelphia(フィラデルフィア:377室) □Atlanta Marriott Marquis(アトランタ:1,674室)

□Hotel Meridien New Orleans(ニューオーリンズ:505室) ■Campton Place Hotel(サンフランシスコ:126室)

□Mandarin Oriental San Francisco(サンフランシスコ:160室) ■Checkers Hotel(ロサンザルス:190室)

□Hotel Meridien Newport Beach(ニューポート・ビーチ:440室)

(8)

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 ― 99 ― うち、■はいわゆる「グランドホテル」タイプのホテル、すなわち1900年代前半に開業した豪華絢爛な ホテルであり、□は1900年代後半に開業した近代的なホテルである。後者の多くは、著名なデザイナー を起用するなどして、それまでのホテルにはないデザインを採用している施設が多いのが興味深い。 このことから、1980年代頃の米国では、「大規模かつ高級」と「小規模かつ低価格」の2分類、あるい は単なる価格帯による5分類から脱却を模索する動きが生じていたことがうかがえる。 3.2 海外リゾートホテルの状況 米国外のものも含めたリゾートホテルについては、桐敷監修(1990)に掲載されている。ただし、ハワ イやフロリダのメガ・リゾート、あるいはゴールドコーストなどが主であり、特にデザイン性の高さや 特定のコンセプトなどは感じられない。

し か し、1990年 代 に は、 リ ゾ ー ト で もAman Resorts、Six Senses Resort & Spa、Banyan Tree Hotels & Resortsといった、いわゆる「スモール・ラグジュアリー」と呼ばれるリゾートが出現する。 いずれも、テーマ性にもこだわった施設を展開し、それまでとは大きく異なる事業展開をしていった。 このような、リゾートホテルのデザインに対する貢献という点では、スリランカの建築家・ジェフリー・ バワの影響も見逃せない。彼は、のちに世界的なリゾート・チェーンとなった上記のAman Resortsに も多大な影響を及ぼしたといわれる。山口(2013)によれば、周囲の風景と一体化する「インフィニティ・ プール」の考案と、Aman Resorsの設計者の多くがバワの系譜としてくくられるという(pp.33-34)。 バワの代表作としては、Lunuganga、No.11、The Blue Water(写真1:以下、いずれも筆者撮影)、 Heritance Kandalama(写真2)、Heritance Ahungalla(写真3)、Jetwing Lighthouse(写真4)などが 挙げられ、いずれもスリランカの自然との調和を意識したホテルとなっている。 3.3 わが国の状況 以上の、デザインやコンセプトにこだわる試みは、1990年代にはわが国でも見られるようになる。 まず、ホテル・イル・パラッツォの例を挙げる。アルド・ロッシを中心とする複数の建築家・デザイ ナーによって設計された同ホテルは、1989年に博多に開業した。周辺は春吉地区という、ホテルとして は必ずしも立地がいいとはいえない場所であったこともあり、複数のバーやイベントスペースを備えた □Boston Marriott Copley Place(ボストン 1,147 室) ■The Waldorf=Astoria & Towers(ニューヨーク:1,525 室) ■Hotel Inter-Continental New York(同:692 室)

Grand Hyatt New York(同:1,407 室)

Vista International Hotel New York(同:829 室) □New York Marriott Marquis(ニューヨーク:1,887 室) □Four Seasons Hotel Philadelphia(フィラデルフィア:377 室) □Atlanta Marriott Marquis(アトランタ:1,674 室)

Hotel Meridien New Orleans(ニューオーリンズ:505 室) Campton Place Hotel(サンフランシスコ:126 室)

Mandarin Oriental San Francisco(サンフランシスコ:160 室) ■Checkers Hotel(ロサンザルス:190 室)

□Hotel Meridien Newport Beach(ニューポート・ビーチ:440 室)

時代的に過渡期ということもあり、同書では従前の高級ホテルも取り上げられている。上に挙げたう ち、■はいわゆる「グランドホテル」タイプのホテル、すなわち 1900 年代前半に開業した豪華絢爛な ホテルであり、□は 1900 年代後半に開業した近代的なホテルである。後者の多くは、著名なデザイナ ーを起用するなどして、それまでのホテルにはないデザインを採用している施設が多いのが興味深い。 このことから、1980 年代頃の米国では、「大規模かつ高級」と「小規模かつ低価格」の 2 分類、ある いは単なる価格帯による5 分類から脱却を模索する動きが生じていたことがうかがえる。 3.2 海外リゾートホテルの状況 米国外のものも含めたリゾートホテルについては、桐敷監修(1990)に掲載されている。ただし、ハワ イやフロリダのメガ・リゾート、あるいはゴールドコーストなどが主であり、特にデザイン性の高さや 特定のコンセプトなどは感じられない。

しかし、1990 年代には、リゾートでも Aman Resorts、Six Senses Resort & Spa、Banyan Tree Hotels & Resorts といった、いわゆる「スモール・ラグジュアリー」と呼ばれるリゾートが出現する。いずれも、 テーマ性にもこだわった施設を展開し、それまでとは大きく異なる事業展開をしていった。 このような、リゾートホテルのデザインに対する貢献という点では、スリランカの建築家・ジェフリ ー・バワの影響も見逃せない。彼は、のちに世界的なリゾート・チェーンとなった上記のAman Resorts にも多大な影響を及ぼしたといわれる。山口(2013)によれば、周囲の風景と一体化する「インフィニテ ィ・プール」の考案と、Aman Resors の設計者の多くがバワの系譜としてくくられるという(pp.33-34)。 バワの代表作としては、Lunuganga、No.11、The Blue Water(写真 1:以下、いずれも筆者撮影)、 Heritance Kandalama(写真 2)、Heritance Ahungalla(写真 3)、Jetwing Lighthouse(写真 4)など が挙げられ、いずれもスリランカの自然との調和を意識したホテルとなっている。

写真1 The Blue Water 写真2 Heritance Kandalama

写真3 Heritance Ahungalla 写真4 Jetwing Lighthouse

3.3 わが国の状況 以上の、デザインやコンセプトにこだわる試みは、1990 年代にはわが国でも見られるようになる。 まず、ホテル・イル・パラッツォの例を挙げる。アルド・ロッシを中心とする複数の建築家・デザイ ナーによって設計された同ホテルは、1989 年に博多に開業した。周辺は春吉地区という、ホテルとして は必ずしも立地がいいとはいえない場所であったこともあり、複数のバーやイベントスペースを備えた 「エンターテインメントホテル」というテーマが設定されている(ジャスマック商業施設研究所(1995), pp.83-89)。同ホテルを経営・運営するジャスマックは、その後、銀行だった建物のリノベーションによ り小樽ホテルも開業するに至っている。 イル・パラッツォは現在もジャスマックが経営・運営をしているが、小樽ホテルの所有は飛島建設と いう建設業で、同社の破綻にともない、ジャスマックから切り離されることになった。 また、柴田監修(1993)では、堀池秀人都市・建築研究所による箱根ホテル(pp.138-145)や永田・北 野建築研究所によるホテル川久(pp.159-164)が取り上げられている。箱根ホテルは、有名な富士屋ホ テルが1923 年に開業したホテルであり、1992 年に建て替えて新築したものである。ホテル川久は、1949 年創業の旅館が 1991 年に建て替えられて開業したものである。いずれも、建築家の感性が前面に出て いるホテルであり、きわめてデザイン性が高い。 こうした流れの中で、特徴的な存在として、古くから存在したホテルをリノベーションして開業した CLASKA(2003 年改装して開業、20 室)が出現した。ここは、客室ごとに建築家やアーティストがテ ーマを設定して改装し、改装後はずっと好調な成績を維持している施設である。 チェーンでも、宿泊を中心としてサービスを絞り込んだ「宿泊特化型」あるいは「宿泊主体型」チェ ーンに対抗して、既存のチェーンが開発した新ブランドでは、デザイン性の高さやコンセプトの絞込み がなされている。阪急阪神第一ホテルズによるremm や、東急ホテルズによるホテル東急ビズフォート が該当する。また、三井不動産ホテルマネジメントによる三井ガーデンホテル上野では、東京藝術大学 を擁する上野という立地を活かし、館内に多くのアートを飾るなどしている。さらに同社はその後、セ レスティンのブランドで、同様のコンセプトを強化している。 国内外の事例を見ると、これまでのホテル分類の枠にとらわれない、デザインやコンセプトで差別化 を模索する動きが生じ、それがハード面のみならずソフト面にも波及して、ライフスタイル・ホテルと呼 ばれるものに展開していったことがうかがえる。 4.市場の定義と市場細分化からみるライフスタイル・ホテル ここで、少し視点を変えて、マーケティング論における市場細分化の観点から考察を進める。

(9)

『現代社会研究』17号 「エンターテインメントホテル」というテーマが設定されている(ジャスマック商業施設研究所(1995), pp.83-89)。同ホテルを経営・運営するジャスマックは、その後、銀行だった建物のリノベーションに より小樽ホテルも開業するに至っている。 イル・パラッツォは現在もジャスマックが経営・運営をしているが、小樽ホテルの所有は飛島建設と いう建設業で、同社の破綻にともない、ジャスマックから切り離されることになった。 また、柴田監修(1993)では、堀池秀人都市・建築研究所による箱根ホテル(pp.138-145)や永田・北 野建築研究所によるホテル川久(pp.159-164)が取り上げられている。箱根ホテルは、有名な富士屋ホ テルが1923年に開業したホテルであり、1992年に建て替えて新築したものである。ホテル川久は、1949 年創業の旅館が1991年に建て替えられて開業したものである。いずれも、建築家の感性が前面に出てい るホテルであり、きわめてデザイン性が高い。 こうした流れの中で、特徴的な存在として、古くから存在したホテルをリノベーションして開業した CLASKA(2003年改装して開業、20室)が出現した。ここは、客室ごとに建築家やアーティストがテー マを設定して改装し、改装後はずっと好調な成績を維持している施設である。 チェーンでも、宿泊を中心としてサービスを絞り込んだ「宿泊特化型」あるいは「宿泊主体型」チェー ンに対抗して、既存のチェーンが開発した新ブランドでは、デザイン性の高さやコンセプトの絞込みが なされている。阪急阪神第一ホテルズによるremmや、東急ホテルズによるホテル東急ビズフォートが 該当する。また、三井不動産ホテルマネジメントによる三井ガーデンホテル上野では、東京藝術大学を 擁する上野という立地を活かし、館内に多くのアートを飾るなどしている。さらに同社はその後、セレ スティンのブランドで、同様のコンセプトを強化している。 国内外の事例を見ると、これまでのホテル分類の枠にとらわれない、デザインやコンセプトで差別化 を模索する動きが生じ、それがハード面のみならずソフト面にも波及して、ライフスタイル・ホテルと 呼ばれるものに展開していったことがうかがえる。 4.市場の定義と市場細分化からみるライフスタイル・ホテル ここで、少し視点を変えて、マーケティング論における市場細分化の観点から考察を進める。 コトラーとケラーによれば、市場細分化における細分化変数は一般に、地理的変数、デモグラフィッ クス(人口動態・人口統計)変数、サイコグラフィックス変数、行動変数の4つでなされる。地理的変 数では、国、州、地域、郡、都市といった地理的単位に細分化する。デモグラフィックス変数では、年 齢、世帯規模、性別、所得、職業、教育水準、宗教、人種、世代、国籍などによって細分化する(以上、 恩蔵監修(2008), pp.305-315)。 ホスピタリティ産業においては、地理的変数はあまり用いられない。そもそも、宿泊のお客様は立地 する地域以外の人であることがほとんどなのに対して、料飲サービスのお客様は近隣であることが多く、 宴会のお客様は多様な地域から来訪するなど、地理的に切り分けにくいということがその背景にある。 むしろ、市場の定義としての製品戦略面にこそ、この立地が大きく響いてきた。 これまで主流であったのは、デモグラフィックス変数であり、特に所得とそこから導かれる「値ごろ 感」によって、市場を細分化することが多かった。実際、わが国のホテル市場は、長きにわたって2分 類で市場に対応してきたのは前述したとおりである。 そして、この分類は、成長期には都合が良かったといえる。消費者側は情報処理量の削減が可能であ り、事業者側は同様な施設展開により効率の良さを追求できたからである。しかし、成熟期を迎える頃 になると、消費者も消費経験を積んだことにより、従前の施設構成では不満を覚えるケースも多くなり、 事業者側もそれに応えるべく、さらなる細分化を模索することになる。

(10)

『ライフスタイル・ホテル』の出現におけるマーケティング上の意義 その場合に、同様の細分化変数を採用してより細かくすることもできるが、他の変数を採用すること も可能である。他の変数には、以下のものがある。 サイコグラフィックス変数による細分化は、心理学なども利用して、消費者を別のアプローチで理解 しようとする。心理面や性格、ライフスタイル、価値観などによって分類する(pp.315-317)。コトラー はここで、SRIコンサルティング・ビジネス・インテリジェンス(SRIC-BI)によるVALS(Values and Lifestyles:価値観とライフスタイル)の枠組みを紹介している。資源に恵まれた集団と、そうでない 集団に大きく分けたうえで、それぞれ4つのグループの特性を論じている(pp.315-317)。 行動変数による細分化は、製品に対する知識や態度、使用法、反応に基づいて分類する(pp.317-322)。 こうした観点からすれば、サイコグラフィックス変数による細分化における「ライフスタイル」ある いは「価値観」という細分化変数によって市場細分化を試みてきたのが、まさに「ライフスタイル・ホ テル」であるということになる。これまでは、VALSでいうところの革新者的な存在ばかりが新しいホ テルを採用していたかもしれないが、現在のライフスタイル・ホテルを眺めていると、必ずしもそうで はないことが理解できよう。それは、「資源に乏しい集団」を標的市場とした存在も出現してきている ことからも明らかである。 以上から、表面的に見ていくと、「きわめて新しいホテル」といった視点で語られることが多いライ フスタイル・ホテルであるが、マーケティング的に眺めると、むしろ単なる細分化変数の変更ないしは 付加であると結論づけることができる。そして、それこそが、ホテル市場におけるマーケティング上の 意義でもある。 5.おわりに 本研究では、「単なる変数の変更ないしは付加」と論じたが、その背景には、果敢に「変数の変更」 に挑戦した起業家たちの存在があることを忘れてはならない。 Aman Resortsの創業者であるエイドリアン・ゼッカ、Morgans、Loyalton、Paramountをオープン させたイアン・シュレーガー、一連のACE Hotelを開業させたアレックス・カルダーウッド、イル・パ ラッツォを手がけた葛和満博といった存在なくして、ライフスタイル・ホテルはここまで広がらなかっ たかもしれない。わが国ではあまり報道されなかったが、Ace Hotelは1999年にシアトル、2007年にポー トランド、2009年にパーム・スプリングスとニューヨーク、2013年にパナマとロンドン、2014年にロサ ンゼルスと立て続けに開業してきたが、2013年に創業者のアレックス・カルダーウッドは亡くなった。 その際に、多くの顧客から悲しみのメッセージがSNSに届けられている。ここでも、創業者にオマージュ をささげる人々による市場というライフスタイル変数が垣間見られる。 また、今回は取り上げなかったが、本来はコンソーシアムも同様に、ライフスタイルを前面に出して 顧客にアピールしてきた存在である。今後は、こうした要素も含めたさらなる考察をしていくことで、 より精緻な市場の分析が可能になるだろう。 数では、国、州、地域、郡、都市といった地理的単位に細分化する。デモグラフィックス変数では、年 齢、世帯規模、性別、所得、職業、教育水準、宗教、人種、世代、国籍などによって細分化する(以上、 恩蔵監修(2008), pp.305-315)。 ホスピタリティ産業においては、地理的変数はあまり用いられない。そもそも、宿泊のお客様は立地 する地域以外の人であることがほとんどなのに対して、料飲サービスのお客様は近隣であることが多く、 宴会のお客様は多様な地域から来訪するなど、地理的に切り分けにくいということがその背景にある。 むしろ、市場の定義としての製品戦略面にこそ、この立地が大きく響いてきた。 これまで主流であったのは、デモグラフィックス変数であり、特に所得とそこから導かれる「値ごろ 感」によって、市場を細分化することが多かった。実際、わが国のホテル市場は、長きにわたって2 分 類で市場に対応してきたのは前述したとおりである。 そして、この分類は、成長期には都合が良かったといえる。消費者側は情報処理量の削減が可能であ り、事業者側は同様な施設展開により効率の良さを追求できたからである。しかし、成熟期を迎える頃 になると、消費者も消費経験を積んだことにより、従前の施設構成では不満を覚えるケースも多くなり、 事業者側もそれに応えるべく、さらなる細分化を模索することになる。 その場合に、同様の細分化変数を採用してより細かくすることもできるが、他の変数を採用すること も可能である。他の変数には、以下のものがある。 サイコグラフィックス変数による細分化は、心理学なども利用して、消費者を別のアプローチで理解 しようとする。心理面や性格、ライフスタイル、価値観などによって分類する(pp.315-317)。コトラ ーはここで、SRI コンサルティング・ビジネス・インテリジェンス(SRIC-BI)による VALS(Values and Lifestyles:価値観とライフスタイル)の枠組みを紹介している。資源に恵まれた集団と、そうでない 集団に大きく分けたうえで、それぞれ4 つのグループの特性を論じている(pp.315-317)。 資源に 恵まれ た集団 1.革新者 成功していて教養があり、活動的で「人の上に立つ」タイプ、自尊心が高い。比較的高級でニッチ志向の製品やサービスを好む。 2.思索者 分別があり、満足していて内省的なタイプ、理想と価値秩序、知識、責任感により動機付け。製品の耐久性、機能性、価値を重視。 3.達成者 成功していて、目的達成志向タイプで、仕事と家庭を重視。自分が成功していると周囲にアピールできるような高価な製品を好む。 4.経験者 若く情熱的、かつ衝動的で、多様性と興奮を求める。収入の比較的大きな割合をファッション、娯楽、交際関係に支出。 資源に 乏しい 集団 1.信奉者 保守的、型にはまり伝統を重んじるタイプ。現実に即した信念を持つ。なじみの国産品を好み、昔からのブランドにロイヤルティ。 2.懸命者 時流に敏感、楽しむことが好きだが、経済的に制約のあるタイプ。裕福な人が持つものに劣らないスタイリッシュな製品を好む。 3.創作者 現実的で地に足がついており、満足し、自ら働くことを好むタイプ。実用的あるいは機能的な目的を持つ国産品を好む。 4.生存者 高齢で、受身で、変化を懸念するタイプ。お気に入りのブランドに対するロイヤルティが高い。 行動変数による細分化は、製品に対する知識や態度、使用法、反応に基づいて分類する(pp.317-322)。 こうした観点からすれば、サイコグラフィックス変数による細分化における「ライフスタイル」ある いは「価値観」という細分化変数によって市場細分化を試みてきたのが、まさに「ライフスタイル・ホ テル」であるということになる。これまでは、VALS でいうところの革新者的な存在ばかりが新しいホ テルを採用していたかもしれないが、現在のライフスタイル・ホテルを眺めていると、必ずしもそうで はないことが理解できよう。それは、「資源に乏しい集団」を標的市場とした存在も出現してきているこ とからも明らかである。 以上から、表面的に見ていくと、「きわめて新しいホテル」といった視点で語られることが多いライフ スタイル・ホテルであるが、マーケティング的に眺めると、むしろ単なる細分化変数の変更ないしは付 加であると結論づけることができる。そして、それこそが、ホテル市場におけるマーケティング上の意 義でもある。

(11)

『現代社会研究』17号 [注] (1) 以上のJLLに関する記述は、「JLLインサイト-Insight:3つの「らしさ」で既存ホテルと一線画す 国 内 で 出 店 続 く「 ラ イ フ ス タ イ ル ホ テ ル 」 増 加 の 理 由(2018.04.26)」:http://insights.jlljapan.jp/ post/173311639766/ より(2019年8月1日アクセス)。 ■主要参考文献

・Kotler, Philip, Kevin Lane Keller(2006), Marketing Management, Prentice-Hall.(恩蔵直人監修, 月谷  真紀訳(2008),『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント(第12版)』ピアソン・エデュケー  ション).

・飯嶋好彦(2011),『フル・サービス型ホテル企業における女性の人的資源管理』学文社.

・北村剛史(2016),『ホテル・ダイナミクス-個人消費時代に抑えておくべき新たなホテル力学』オータ  パブリケイションズ.

・桐敷真次郎監修・岸川惠俊(1990),『GREAT HOTELS OF THE WORLD: VOL.2, RESORT HOTEL』  河出書房新社.

・桐敷真次郎監修・岸川惠俊(1991),『GREAT HOTELS OF THE WORLD: VOL.3, URBAN HOTEL  IN USA』河出書房新社.

・柴田陽三監修・NEW HOTEL ARCHITECTURE編集プロジェクト(1993),『NEW HOTEL   ARCHITECTURE』オーク出版サービス.

・ジャスマック商業施設研究所(1995),『新業態ホテル 開発・運営マニュアル』ビジネス社. ・山口由美(2013),『アマン伝説―創業者エイドリアン・ゼッカとリゾート革命』文藝春秋. ・『GOOD DESIGN HOTEL』(商店建築2018年6月号増刊), 商店建築社.

・『カーサブルータス』2014年5月号, マガジンハウス. ・『カーサブルータス』2018年9月号, マガジンハウス.

・『ホテル旅館別冊 スタイリッシュホテル』柴田書店, 1991年3月. ・『商店建築』2018年1月号, 商店建築社.

参照

関連したドキュメント

ポケットの なかには ビスケットが ひとつ ポケットを たたくと ビスケットは ふたつ.

統制の意図がない 確信と十分に練られた計画によっ (逆に十分に統制の取れた犯 て性犯罪に至る 行をする)... 低リスク

9/21 FOMC 直近の雇用統計とCPIを踏まえて、利上げ幅が0.75%になるか見 極めたい。ドットチャートでは今後の利上げパスと到達点も注目

基本目標2 一 人 ひとり が いきいきと活 動するに ぎわいのあるま ち づくり1.

基本目標2 一 人 ひとり が いきいきと活 動するに ぎわいのあるま ち づくり.

目的3 県民一人ひとりが、健全な食生活を実践する力を身につける

SST を活用し、ひとり ひとりの個 性に合 わせた   

「海にまつわる思い出」「森と海にはどんな関係があるのか」を切り口に